あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~   作:白紅葉 九

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第八話 対峙

 大海原を進む五つの影。

 そう、私たち第二艦隊の艦娘である。

 

 第二艦隊にいる艦娘を改めて紹介すると、旗艦の戦艦金剛さん。軽空母の龍驤さん。軽巡の川内さん。駆逐の暁さん。

 そして私、空母の赤城。

 

 東提督が着任してから一週間。そして、前任提督が逮捕されてから一か月。

 ついに、この五人の初出撃である。

 

 

 しばらくの間、この鎮守府が軽く放置されていたのもあって、敵がわんさかと現れる。

 金剛さん、および東提督の指示のもとで海域を少しずつ制覇していく。

 

 流石に鎮守府近海にはそれほど強い敵もおらず、順調に進んでいく。

 一回目の出撃というのもあり、リハビリてきな意味合いもあるだろうからそれでいいのだろう。

 多少懸念していた川内さんも問題なく戦闘できている。

 

 戦闘の合間には艦娘同士で会話したりして、前までは考えられない光景が広がっている。

 今は、ここ一か月で食べたなかで一番美味しかった料理について話している。

 

 艦娘は最悪、食事をしなくても生きていけるというのはここ一年間で身をもって体験した訳だが……。

 元人間である建造艦にとって食事は、ストレスを和らげるのに効果的な行為だ。

 

 ドロップ艦も食事については気に入っているようだ。

 そのため、現在の横須賀第十三鎮守府ではみんなが毎日三食の食事をとっている。

 

 ……研究バカで食事や睡眠を忘れがちな明石さん以外は。

 

『やっぱり私はオムライスが一番だと思うわ!

 卵がふわふわで、おかわりしちゃったもの!』

 

『オムライスも美味しかったけど一番はハンバーグデース!

 肉汁があふれ出して、ベリーホットでとっても美味しかったネー!』

 

『ちっちっちっ……わかってへんなぁ!

 一番は毎週金曜日のカレーやろ!

 当たり前だと思ってることにこそ価値があるんや!』

 

『『『川内はどう思う(デース)(んや)!?!?』』』

 

『ふぇっ!?』

 

まさか振られると思っていなかったのか、そんな声を上げ驚く川内さん。

 そして、何度か私の方向を見た後、小さく呟くような声で答える。

 

『……肉じゃが』

 

これはまた、美味しかったもので上げるには珍しいものを。

 

 別に、川内さんは和食が特別好きというわけではなかったと思うけど……。

 ああいや、たしかそうだった。

 

『そういえば一緒に食べましたね、肉じゃが』

 

『うん……!』

 

川内さんと一緒に食べた最初の料理が肉じゃがだった。

 そのため、川内さんにとっては思い出の料理になっているのかもしれない。

 

『なんや、惚気かい!』

 

『川内は赤城のことが好きデスネー』

 

『うん!』

 

いや、『うん!』じゃないんだけど。この子、私のこと好きすぎじゃない?

 カウンセラーっていうのは、こんなにも好かれるものなのかな? 初めてだからわからないんだけど。

 

 人からここまで好意を向けられることはあまりないから、嬉しさより戸惑いの方が大きい。

 いったい、私のどこに好意を持てる要素があったのか。

 

【先生は優しいよ!】

【金平糖たくさんくれたし!】

 

ありがとう、火力科長。

 対空科長は……まぁ、そういう子だ。

 

 しかし本当に、私はいい人たちに囲まれているなぁ……。

 

【11、6500~】

 

『十一時の方向、六千五百メートル先敵艦隊発見!』

 

一瞬で全員の気が引き締まる。

 和気藹々とした中でも忘れてはいけないのが、ここが戦場だということ。

 

 六千五百メートル先と言われると遠いように感じるかもしれないが、海上なら数分で会敵できる距離だ。

 そもそも、遮蔽物がない場合、人は四キロ先、つまり四千メートル先まで見れる。

 

 そうなれば、会敵まですぐだ。

 

 ちなみに、危険な海域の場合はちゃんと偵察機を使って周囲の安全を確かめる。

 だけど、今日はそこまで深いところまでは行く予定はないため、燃料の関係もあり彩雲は使用していない。

 

 

 そして、約六分後、敵と接敵した。

 

 重巡を主力とした部隊だが、金剛さんの火力ですぐに吹っ飛んでいく。

 もう全部、金剛さん一人でいいんじゃないかな。

 

 そう思うほど、金剛さんはばったばったと深海棲艦をなぎ倒していった。

 そして、数分も経たずに深海棲艦は全員粒子となった。

 

 流石、改二丙は違うな。

 

【先生も改二戊ですよ】

 

おっと、これはうっかり。

 

【絶対わざとだ……!】

 

さて、どうだろうね。

 

 妖精さんとそんな漫才みたいな会話を繰り広げていると、無線で東提督が帰還を告げた。

 初出撃は損傷なしで終了した。

 

 

 

 

 

 鎮守府へ帰り、第二艦隊のみんなで昼食を取った。

 

 そして、私はここしばらく来ていなかった空母第十三修練室に来ていた。

 二、三か月前から明石さんの工廠に入り浸っていることが多く、あまり来ていなかったのだ。

 

 あの後に聞いた話だと、やはり真面目に修練室で訓練をしていたものはいなかったらしい。

 しかし、提督に鉢合わせる可能性を考えて、修練室からは出られなかったようだ。

 

 

 提督が鎮守府に来るまでの一週間に鎮守府の大掃除があって、ここも誰かに掃除された。

 私は掃除の指示や問題解決に動いていたのであまり掃除に関われなかったが、この修練室も見たことがないくらい綺麗になっている。

 

 前までは埃が被っていても気にせず訓練という名の遊びをしていたのだが。

 

 架空の剣を使って仮想敵と戦うのは楽しかった。

 妖精さんたちとふざけた名前を考えたり、必殺技の練習をしたり、思い出の深い場所でもある。

 

 ──ゆっくりと、私は目を閉じた……。

 

 

 

 

 

 私はずっと、同じ仮想敵と戦っている。

 しかし、一度も勝てたことがなければ、負けたこともなかった。

 

 彼女は、茶色がかった長髪を揺らし、感情を覗かせない瞳でこちらを見ている。

 その服は、とても近距離戦闘には向かなそうな弓道着だ。

 

 その手には、両手で握る必要のあるほど長く重い剣を持っており、私と彼女の正面に構えている。

 

 その剣は、とても見覚えがあるものだった。

 何故なら、一年間その武器と戦ってきて、一年間その武器を使ってきたからだ。

 

 私は自身の左腰を見た。

 そこには、一本の軍刀があった。

 

 音を立てないように慎重に軍刀を取り出す。

 そして、私はその軍刀を横に構えた。

 

「──」

 

スタートの合図はなかった。

 

 彼女は、私の軍刀を殺すように縦に剣を振るう。

 ギリギリと嫌な音を立て私の軍刀が軋んだ。

 

 その時、彼女は初めて笑った。

 自身の勝利を確信したのだ。

 

 そして、そのまま力を込め──

 

「慢心はいけませんよ」

 

――たところで、私は刀身を下げ攻撃を受け流す。

 

 体重を前身にかけていた彼女は体勢を崩し、重力に従って前のめりに倒れていく。

 一瞬のはずのそれがとても長い時間に思えた。

 

 そして、驚いた表情の彼女へ、私は刀を振り下ろし──

 

 

 

 

 

 ──……ゆっくりと、私は目を開けた。

 

 最初に見えたのは自分の腕だった。

 

 両方の手が視界の正面の中心に集まり、軍刀の持ち手部分を握っている。

 初めて握ったはずなのに、それは妙に手になじむ。流石明石さんの作った軍刀である。

 

 次に見えたのは振り下ろさんとしている自身の軍刀、その刃であった。

 その白い刀身は、私の目線ほどの高さで止まっている。

 

 最後に見えたのは、私の正面で腰を抜かしている女性であった。

 手を後ろにつき、もし私が振り下ろすのを止めていなかったら、その体は真二つに裂けていただろう。

 

 

 私は彼女から距離を取るように数歩下がり、ゆっくりと刀を鞘に仕舞った。

 

 その途中で瞬きをするように一瞬目を閉じた。

 しかし、そこに一年の間戦ってきた彼女の姿はなく、ただ暗黒が広がるだけであった。

 

 刀身を仕舞い、改めてその女性の姿を確認する。

 白い帽子を被り、白い服を着た女性など、この鎮守府には一人しかいなかった。

 

「……東提督、修練室は艦娘が訓練に使用しているため危険ですので、最低限ノックをするようにしてください」

 

「うん……身を持って体感したよ……。

 これからは気を付けます……」

 

座っている東提督に手を差し出すと、彼女は感謝を言ってからそれを握り立ち上がった。

 しかし、軍刀が振り下ろされそうになる恐怖体験で腰を抜かしたのか、あまり力が入っていない。

 

 仕方がないので椅子を用意すると、東提督は二度目の感謝を口にしながら座った。

 よっぽど立っているのが負担だったのだろう。

 

「なにからなにまでごめんなさい……」

 

「いえ、気になさらないでください」

 

心底申し訳なさそうな顔でそういう東提督。

 こちらとしても、いくら集中していたとは言え、入室してきた東提督の足音に気づかなかったので多少申し訳ない気持ちになる。

 危うく、それで人を一人殺めかけたわけだし。

 

 それを伝えると、東提督は勝手に入室したこちらが一方的に悪いと言い張り、あわや謝罪合戦になりかけた。

 

 その時、ノックも無しに修練室の扉が大きく開いた。

 

 そこから怒気迫る勢いで、東提督の秘書艦である吹雪さんと初めて見る一匹の妖精さんが入ってきた。

 その勢いに何も言えずにいると、吹雪さんはすばやく私と東提督の間に立つ。

 

 おっと、これはもしや、警戒されている……?

 

 そんな疑問の答えは、睨みつけるような視線を私に向けている吹雪さんを見て、聞くまでもなく一瞬でわかった。

 

「提督から離れろ……ッ!!」

 

そう言って吹雪さんは、両手で構えた刀の白い部分をこちらに向ける。

 もしかして、いま艦娘の中では刀ブームでも到来しているのだろうか。

 

 ひとまず吹雪さんの指示通り、東提督から離れるように後退する。

 そんな私の様子を見てやっと我に返ったのか、東提督が声を上げる。

 

「吹雪、待って! 違うの!」

 

「何が違うんですか!?

 また、殺されそうになって……!」

 

『また』? どういうことだ?

 すでに東提督に対して、殺そうとしたものがいたということか?

 

 私はしっかりと全員に、女性提督でいいか確認を取った上で着任をさせた。

 

 なのに、なぜ?

 

 艦娘たちの間で、ひとまず一か月は様子を見ようと結論を付けたはず。

 

 

 いや、付けたからこそ。

 簡単に約束を違える者を見過ごすほど、私の洞察力は低くない。

 それほどいい加減に艦娘を見てはいない。

 

 ならば、約束を違えるほど、約束があっても殺意を止められなかったほど、酷いことをされた可能性がある。

 情報が来ていないのは、約束を破ってしまった罪悪感や、単純に会えなかっただけの可能性もある。

 それは、ひとまず置いておいていいだろう。

 

 問題は、なぜその子が東提督を殺そうとしたのか。

 是非ともじっくりと……お聞きしたいところだ。

 

「だから、私は元ブラック鎮守府なんて危険だって言ったんです!

 提督だってわかれば、平然と人を──」

 

「──吹雪、落ち着きなさい」

 

「ッ……!」

 

東提督の冷たい声が響いた。

 多少暴走気味だった吹雪さんも、その声を聞いて黙る。

 

 その間、私は吹雪さんの言った『提督だってわかれば、平然と人を』の部分について考えていた。

 

 この鎮守府の艦娘は、男性提督ならまだしも、提督だからという理由だけで人を殺そうとする者はいないはずだ。

 というか、いたら女性提督を所属させたりせず、代理提督として艦娘の誰かを提督にするくらいはできた。

 

 それをしなかったのは、艦娘たちに提督という存在に慣れて欲しかったからだ。

 

 もしかしたら、吹雪さんの発言はこの鎮守府とは関係がない艦娘の話かもしれない。

 過去に元ブラック鎮守府に所属しようとして、殺されかけた経験が。

 

 

 ──いや、違う。

 

 その発言に関しては、この鎮守府で起こったことで間違いない。

 考察の材料はちゃんと揃っている。

 

 私が誤って東提督を斬りそうになった後、すぐさま吹雪さんは東提督のもとに駆け付けてきた。

 吹雪さんの傍に一人の野良妖精さんがいたのを見るに、元から決まった伝達手段があったのだろう。

 

 たぶん、東提督の身になにかあれば、野良妖精さんが吹雪さんの付喪妖精さんに伝える。

 そして、その付喪妖精さんから吹雪さんに伝わる……みたいな。

 

 それに関してはいい。

 元ブラック鎮守府に身を置くことになった以上、必要な事前対策だ。

 

 問題は、東提督の元に駆け付ける速さがあまりにも早かったこと。

 

 付喪妖精さんは話すことができない。

 なので、野良妖精さんから道を聞いて、それを吹雪さんに指差しなどで教えていたのだろう。

 となれば、相当の時間がかかるはずだ。

 

 その上、この鎮守府は空母第十三修練室があるくらい、多くの部屋がある。

 特に、修練室などは鎮守府の端っこにあるため、執務室や食堂からは距離がある。

 

 しかし、東提督に軍刀を振り下ろしそうになってから吹雪さんが来るまで、おそらく一分も経っていない。

 

 海上では爆速の私たちでも、陸上じゃ普通の女性、特に駆逐艦なんて女子中学生ぐらいの速さになるだろう。

 東提督の場所を探りながらで一分以内となると、元から東提督からある程度の距離以内の場所にいた可能性が高い。

 

 元ブラック鎮守府は、提督という存在に対して敵意を向けている者が多い。

 しかし、もう東提督がこの鎮守府に所属してから一週間も経っているのだ。

 ならば、多少警戒を解いてもいい所を、吹雪さんは東提督の近くにいた。

 

 

 考察の材料はまだある。

 

 吹雪さんが修練室に入った時、腰を抜かした東提督はどうしていたか。

 そう、椅子に座っていた。

 

 いくら妖精さんから東提督に危機が迫っていると聞いたからとは言え、現場を見て安全だとわかったら、普通は警戒を解くんじゃないだろうか。

 だというのに、吹雪さんは私を東提督から遠ざけてなお、私を敵視していた。

 

 東提督に刀を振り下ろそうとしていた瞬間ならまだしも。

 東提督が後ろに手をつき、床で腰を抜かしていたならまだしも。

 

 椅子に座っていた東提督と、刀を鞘に仕舞っていた私を見たうえで。

 彼女は、少しでも動いたら殺すと言わんばかりの殺意を向けてきた。

 

 その発言のすぐ後にあった『また』発言。

 それは、吹雪さん自身が“ここの鎮守府の艦娘”に警戒していると証明したようなものだろう。

 

「だからね、吹雪。

 赤城さんは悪くないの」

 

「……提督がそういうならば、信じます。

 赤城さん、早とちりをしてしまいすみませんでした」

 

「いえ、“そのことに関しては”気にしていませんよ。

 誰だって勘違いをすることはありますから。

 だから、私も……もし、東提督のことを勘違いしているのなら、申し訳ないと思います」

 

「……赤城さん?」

 

――ええ、本当に。

 これが何かの勘違いなら、申し訳ない話です。

 

 だから、是非とも……本当のことをお聞かせ願いたいものです。

 

「先程、本来ならあり得ない単語が聞こえました。

 『また、殺されそうになって』」

 

「「!!」」

 

「思わず耳を疑いました。

 ですので……誤解のないように、真実をお話しいただけますか?」

 

私が多少の威圧感を込めてそういうと、二人の顔が固まりました。

 東提督は、先程の恐怖体験を思い出したのか顔面が青ざめています。

 しかし、その腰に力を入れて立ち上がりました。真面目な話だと受け取られたようです。

 

 そして東提督は、斬られることも覚悟のうちといった表情で言いました。

 

 

「──申し訳ないけど、それはできない……!」

 

 

私は東提督に対して睨みを利かせました。

 

 横にいる吹雪さんは腰に手を当て、いつでも刀を抜けるようにしています。

 怯えた様子の東提督は、それでも屈さず話を続けます。

 

「私が……とある艦娘に銃口を向けられたことは、真実だ。

 私の発言で誤解を生んでしまい起こった。

 ──しかし、その艦娘のためを思い、詳細を話すことはできない……ッ!」

 

東提督は、足を震えさせながらそう言い放ちました。

 そう、“敬語を使っている”私に向かって。

 

 初めてかもしれません。

 この状態の私に屈さなかった人物は。

 

 東提督の言葉は、私が考察した以上の情報はありませんでした。

 その考察が真だと丸を付けられただけです。

 

 ──しかし、もし私が東提督の立場だったら、同じようなことをしていただろう。

 

「「ッ……!」」

 

目が金色から茶色に戻った私を見て、二人は小さく驚く。

 その身に降りかかっていた威圧感も今は消えているはず。

 

 東提督は下半身から力が抜けたように、椅子へ腰を下ろした。

 吹雪さんも、腰の刀に当てていた手を離し、東提督のことを心配そうに見ている。

 

 私はそんな二人から視線を外し、開け放たれた修練室の入り口に立っていた彼女を見た。

 

「──大淀さん、教えていただけますか?」

 

「……はい」

 

彼女は多少申し訳なさそうな表情を瞳に映し、頷いた。

 おそらく、ここまで大淀さんの表情を読み取れるのは、私と明石さんくらいのものじゃないだろうか。

 

 東提督と吹雪さんは、大淀さんを見て驚いている。

 東提督は再び立ち上がろうとしたが、腰に力が入らなかったようでそれは失敗に終わっていた。

 

 

 先程私は言った。

 考察の材料は揃っている、と。

 

 そもそも、提督が来てまだ一週間。

 私がそうだったように、着任式以外で東提督と関わった艦娘は多くないだろう。

 

 それなのに、提督の発言を誤解して殺傷事件になるほどその艦娘と話したとなれば、それは一人に絞られる。

 

 事務処理艦として、艦隊に所属せず鎮守府に常駐し、基本的に執務室で提督の傍で執務をこなしている艦娘。

 それが彼女、大淀さんである。

 

 彼女は前任時代も、同じように執務室で事務処理をしていた。

 前任に成果報告をするときに毎回見ていたので、前任時代一番“解体”や“轟沈”という言葉を聞いたのが彼女だろう。

 

 そのため、本人は隠しているようだが、案の定というかその二つの単語を聞くとトラウマが想起される。

 

 前任時代は言っちゃ悪いが結構な頻度で聞いただろうその言葉。

 きっと、前任時代は心に傷を負っても、表面上に出ることがなかっただろう。

 

 しかし、それとは無縁の生活を一か月間続けたことで、本人も知らぬ前に爆弾となっていたのだ。

 思わず、提督を殺したくなるほどの爆弾に。

 

 事前に大淀さん本人にもその傾向があるから気を付けてと伝えてはいた。

 だけど、不意打ちだったのか、もしくは直前で嫌な記憶を思い出す出来事があったのかで、それが爆発したのだろう。

 

「大淀、無理に言わなくてもいいんだよ……!」

 

東提督から見たら、私は大淀さんに言うことを強要しているように見えるのだろう。

 焦ったように、東提督は大淀さんにそう伝えている。

 

 というより、東提督は私に怯えているのかな。

 先程、軍刀で斬りそうになった事件や、目が光った時の、明石さんによれば殺気にも感じるほどの威圧感。

 

 そして、普通の赤城とは違い常時無表情。

 ブラック鎮守府を告発したということも、胡散臭さや未知への恐怖に拍車をかけているのかもしれない。

 

 東提督が大淀さんのことを心配そうな目で見ているので、その疑惑を晴らすために私は大淀さんへ話しかけた。

 

「大淀さん、言うのが(はばか)られるようでしたら、無理にお聞きすることはしませんよ」

 

「いえ、すぐにお伝えしようとは思っていたのですが、あいにく時間が合わず……!

 本来ならすぐに伝えるべきだったのですが、連絡が遅くなりました。申し訳ありません」

 

「久しぶりの書類整理ですから仕方がありませんよ。

 気にしていないので顔を上げてください」

 

お辞儀をしてまで謝罪する大淀さん。

 そこまでされるほどのことではないので、顔をあげさせる。

 

 東提督と吹雪さんは、そんな私たちの会話を唖然とした表情で見ている。

 別に、私は艦娘に嫌なことを強要させたりはしない。そんなの、前任がやっていたことと同じだ。

 

 顔を上げた大淀さんは、笑顔を作り提督へ話しかける。

 少し前までは明石さんの前でしか見せなかったその笑顔を提督に向けていることに、私は驚いた。

 

 そういえば、先程東提督は大淀さんのことを呼び捨てで呼んでいた。

 大淀さんはそれほど許すほど、東提督に対して心を許しているのだろうか。

 

「大淀、どういうこと……?」

 

「まず初めに、提督の誤解を解かせていただきますね。

 赤城さん、構いませんか?」

 

大淀さんの問いに私は頷く。

 それは、艦娘たちの間で約束された提督に対するとある対応に関することだろう。

 

 私たち艦娘は、東提督が着任する前に三つの取り決めをした。

 もちろん、全員が納得できる内容で、もし破ってしまっても決して咎めないという緩いルールだ。

 

 一つ目。

 一ヶ月間、提督に対して物理的な攻撃や武力を用いた脅迫をしないこと。

 

 二つ目。

 提督から嫌なことをされそうになった場合は、一人で戦わず、近くにいる戦艦や空母の元へ避難すること。

 

 三つ目。

 提督関係のトラブルが起こった場合は、赤城()へ速やかに伝達すること。

 

 

 ここ一週間は私も大淀さんも忙しくしていたし、連絡が遅くなっても仕方ない。

 

 三つ目の内容はあくまで伝達なので、別の艦娘に伝えてそれを私に伝える方法でも構わなかったけど……。

 まだ提督が着任して一週間ということで、変にみんなを怯えさせないためにもその方法を取らなかったのかな。

 

 だとしても、大淀さんのことだから、トラブルから三日以内には伝えるだろう。

 となれば、本当に最近起こったことなんだろうな。

 

 それを咎めることはない。

 元から咎めないことを前提で作ったルールだ。

 

 大淀さんがそのルールを東提督と吹雪さんに説明し終わったのを見て、私は話す。

 

「大淀さんが、我々艦娘が取り決めたルールを簡単に破るとは思っていません。

 なにか、理由があるのでしょう?」

 

「……はい」

 

そうして、大淀さんは昨日起きたという東提督との出来事を語ってくれた。




作者から

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追記
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