あかんこれ~ブラック鎮守府に艦娘として着任したので、艦娘たちを守ろうと思う~ 作:白紅葉 九
──大淀side──
東提督が来てから本日で六日目。
明日から、艦隊の出撃など、鎮守府運営が再開される。
ここ六日間は、新たに提督が所属したことで増えた書類の整理や、ここ一か月で変わった外部の鎮守府の情報などを確認する作業で忙しかった。
しかし、正直なところ、思っていたより数倍は簡単だった。
というのも、なぜか大部分の書類が既に片付いていたり、本来着任してから決めるはずの東提督と私の処理する書類が決まっていたりしていたのだ。
そのため、スムーズに書類整理を済ますことができた。
最初は東提督が何かしたのだろうかと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。
大本営と定期的に連絡を取っていたら、書類整理を匿名の艦娘がやっていてくれたということがわかった。
その瞬間、私はその艦娘が赤城さんであると悟った。
約一か月前。
ここ、横須賀第十三鎮守府で前任の提督だった男が逮捕された。
私は過去に一度だけ、前任から性的に襲われたことがある。
もちろん心は拒否していたが、“工廠に設置された爆弾の起爆スイッチ”などを見せられれば、断るという選択肢はなくなってしまった。
行為が終わった後、前任はたった一言だけ言った。
「お前の顔、好みじゃねーんだよなぁ」
その台詞に、いろいろと言いたいことはあった。
それならどうして襲ったのかとか、どうしてそれをいま言うのかとか。
ただ、はっきりしているのは……。
――私は、その日から一切笑わなくなった。
そして、ただただ言われた仕事をこなすだけになった。
そんな私が次に笑ったのは、ほんの些細なことだった。
前任が捕まり、一時的に住んでいた場所で。
明石の受け狙いでも何でもない言葉で、私は小さく笑みを零した。
その瞬間、目から涙が溢れてきて、止まらなくなった。
その時、気付いた。
──私は、こんな日常が欲しかったのだと。
そして今、私は気づいた。
それが、赤城さんにより
思えば、怪しい点は多くあった。
事務に関する艦で、真っ先に思い付くのは事務処理のため全鎮守府に配属されている
しかし、提督が逮捕されてから三週間、私は一切書類に触れることはなかった。
本来なら、鎮守府が一か月の運営停止をするうえで、たくさんの書類を書く必要があるのに。
大本営の人に聞いても、書類関係の話はなぜか教えてもらえず。
結局、私は一切の仕事をしないまま、鎮守府に戻るまでの三週間を過ごした。
私はてっきり大本営の人がそこら辺のことを処理してくれていたのだと思っていたが、それは違った。
なぜなら、鎮守府に所属している者でなければ処理できないような書類もすべて処理されていたからだ。
他にも、赤城さんは大本営の人とよく話していたり、明石も私に書類の話を一切振らなかったり……。
いま思えば、怪しい点はたくさんあった。
きっと、明石は赤城さんから書類の話をしないように言われていたのだろう。
赤城さんは、私が仕事をして何も考えないようにしていたことに、そう多く話したわけでもないのに気付いていたのだ。
私の心の中で、赤城さんに対する尊敬の念があがっていくのを感じた。
その時、きっと私の気は緩んでいたのだろう。
「そうですね、近いうちに……」
執務室から聞こえた提督の言葉に対して。
「──解体しようと思います」
ただ、殺意だけで行動してしまったのだから。
艤装を展開し、思いっきり扉を開く。
そして、電話を持っている提督へ向けて照準を合わせる。
しかし、砲撃をする前に、わずかに残っていた理性がこう言った。
──私が人を殺したら、明石が悲しむ。
そのわずかな思考が攻撃の遅延を呼び、気づいたら私は提督に腕を掴まれ、それを背中に回された状態で壁に押さえつけられていた。
そういえば、提督は艦娘と接するうえで護身術を習うらしいということを、前任提督が優男の皮を被っていた時に言っていた。
その刹那、執務室の扉が開き誰かが入ってくる音が聞こえた。
その人物は声を荒げて提督のことを呼んだ。
その声の正体は、提督とともに新しく鎮守府に着任した吹雪さんであった。
提督は吹雪さんに対して一言大丈夫だと言うと、私に話しかけてきた。
「大淀さん、いったん落ち着いて話を聞いてほしい」
「落ち着けって……!
今の台詞、どういうことですかッ!?」
落ち着けと言われても落ち着くことはできなかった。
こいつも前任と同じなのだという絶望が、思考を埋め尽くしていった。
やっと、この鎮守府は救われるって。
やっと、前任から解放されるって。
やっと。
やっと、普通の日常が送れると思ったのに。
私たち、艦娘には……普通に生きることさえ、許されないの……?
「──大淀、話を聞きなさい」
「ッ……!」
提督の冷たい声が聞こえた。
まるで全てのことに対して排他的で、無関心のような錯覚を覚えるほど……氷のように冷たい声だった。
ほんの一瞬、立つことすら忘れそうになるほど、その声に引き付けられていた。
私はその声に、その短い文章で支配されていたのだ。
「まず、初めに謝らせてください。
艦娘が在中するこの場所で、解体という誤解を与えてしまう発言をしました。
すみませんでした」
「ぇ……誤解……?」
「はい。
解体というのは、潜水艦寮の解体工事の話です」
「……ぁ……」
前任時代、潜水艦は一番酷使されていた艦種だ。
そのため、潜水艦寮の壁には『しにたい』や『ああああああ』などの落書きがたくさんされていた。
他の寮でもそういうことはあったのだが、それは多少の工事で直せる程度のものだった。
しかし、潜水艦寮はその数が多く、直すより立て直す方が早いと提督と一緒に結論付けていたのだ。
私はすぐに早とちりしてしまったことに気づき、早とちりで“提督”を殺そうとしてしまったことに気が付いた。
私が艤装を解除すると、“提督”は手を離した。
私は“提督”に向き直った。なんだか、“提督”の顔がよく見えないが、口が動いたのだけはわかった。
『おい。こういう時、どうすればいいかわかるよなぁ?』
「ッ!! 大変、申し訳ございませんでした!!
艦娘の分際で、提督に危害を加えそうになったこと、謝罪します!!」
私は地面に頭を付けて叫ぶように言った。
そう、土下座である。
これをすると、“提督”は自分が上にいるという征服欲が満たされるのか、気分をよくする。
そして、罰を軽くしてくれることがあった。
だから、どうか。
腹いせで艦娘のことを解体したり、性奴隷のように扱ったりするのはやめてください。
お願いします。
私のことは、どうなってもいいから。
「大淀……」『それで許されると思ってんの? あー、イライラしてきた』
「私の失敗です……どんな罰を下さっても構いません……。
だから、お願いします……他の子には何もしないでくださいっ……お願いします……!!」
私はひたすら頭を地面にこすりつける。
これが何回目の土下座だったか、もう忘れてしまった。
私がその状態で“提督”の言葉を待っていると、肩に手が置かれる感触がした。
思わず顔を上げると、そこには、“提督”がいた。
目の前にいる“提督”の顔を、今度ははっきりと見ることができた。
「──私は艦娘を傷付けることは絶対にしない!!
嫌なことを強要することなんてしない!」
その言葉は、ずっと私が“提督”から望んでいた言葉だ。
ずっと望んで。
ずっと、ずっと、希望を捨てられなくて、最後の最後までもらえなかった言葉。
でも、そんな言葉を。
「ッ今更、信じられるわけないじゃないですか!!?
いったい何度、期待を裏切られればいいんですか!?
いったい何度、仲間を失えばいいんですか!!?
何度ッ……──あと何回、日常を奪われなきゃいけないんですか……っ?」
“提督”は、私の目を見て答えた。
「──0だよ!
絶対に艦娘を裏切らない!
絶対に艦娘を解体したり、轟沈させたりしない!
絶対に……みんなを、“艦娘として”輝かせる!!」
“艦娘として”……輝かせる……?
「……し……じ、て……──信じても、いいんですか……?
……望んでも、いいんですか?
私は……希望を、抱いても……いいんですか……?」
私のその問いに、“提督”は大きくうなずいて答えた。
「──当たり前だよ!」
その時、私はやっと、“提督”の呪縛から解放されたのを感じた。
私は土下座を止め、立ち上がる。
そして、提督に対して深くお辞儀をした。
「これからも、よろしくお願いします、提督!」
「よろしくね、大淀」
この提督なら、この鎮守府のみんなを救ってくれるかもしれない。
私はそんな期待を抱いたのだった。
そして、もしかしたら。
『 き“ か あ
を え せ ん せ
! て け す た 』
赤城さんのことを、助けられるかもしれない。
「あっ、大淀とか、馴れ馴れしくてごめんね!」
「構いません、提督」
けど、先に片付けないといけない問題がたくさんある。
──私は今朝見つけた、執務机の上に置かれていた“解体願い”の紙を見ながら、そう思った。
作者から
感想にて「本作の小説が『人類が衰退しました』の妖精さんっぽいね」との指摘を受けましたので、ここで本作の妖精さんの設定を軽く説明したいと思います。
野良妖精さん
・提督適性のある者のみが見える妖精さん
・空を飛べるが、物理干渉ができない
・人と会話ができる
・特殊なスキルを持っている
付喪妖精さん
・艦娘適性のある者のみが見える妖精さん
・空を飛べないが、物理干渉ができる
・人と会話ができない(妖精さん同士だと会話できる)
・艦娘の艤装の操作などをしてくれる
妖精さんの詳しい説明は、以降出てこないと思ったので、ここで書かせていただきました。
感想ありがとうございました!!!!