咲方Projet‐Sakihou Project‐ ~幻想郷が咲の世界入り~ 作:みんせい
今回は幕間話は風越女子です。()がないので三人称目線の文章になります。
メインは当オリジナルキャラの小和田さんです。
あと話を読むにあたっての事前情報です。知っておくと混乱しないと思われます。
〇話はメイン作品の『2年生 夏(宮永照)』から半年後です。
〇久保コーチは風越女子の先生で、顧問です
〇この作品では福路は池田とかと同じ学年です。原作より1歳若いです。
〇花田煌は風越女子の寮生活をしているので福岡に行っていません。
〇片岡優希は中学3年で長野選抜に選ばれ、一番手になっています。
以上のことをおさえておくと、話がスムーズになるような気がします。
風にのって、その先を越えていく
信州長野は2つのアルプスをはじめとする多くの山、山脈に囲まれている立地もあって冬はコンコンと雪が降ることが多い。山に上では10月には降っているところも珍しくないという。その雪がコンコンと降ってる今日、12月のとある日。風越女子の麻雀部元エースで元キャプテン小和田は受験勉強の合間をぬって部室にお邪魔していた。
部室はまだ活動前ということもあって生徒もまばら。彼女のことに気づいた生徒から彼女に挨拶をする。近年では風越の中でレジェンドと言っても差し支えない実力と実績を残した彼女に対して他の部員(後輩)からすれば憧れの存在に声をかけられるだけでもありがたいことなのだろう。そういうやり取りをしながら部室にある椅子に腰掛けて待っていると彼女の前に顧問の久保がやってきて軽く挨拶を交わす。
「すまないな、もうすぐ大学受験だというのに」
「いえ、こうやってどこかで息抜きも必要ですから。それに希望する大学は概ね問題ありませんので」
「そうか、そういってもらえるとありがたいな」
久保が机に何枚かの書類を広げる。小和田がそれに目を通すと内容が現場の部員の戦績と来年度の入学候補者の戦績が記載されていた。
「いいんですか、私はまだ在校生ですよ。来年の生徒まで知っちゃって」
「これはあくまでうちに来てくれるかもの連中だ。入学が確定したわけじゃない」
「ですけどねー」
「私が2年間、お前と一緒にこの部活をやってきた信頼の証みたいなもんだ。そう取ってくれて構わない」
「そこは純粋に嬉しいですよ・・・さて、今年の中3は実力はまだしも、人材不足ですね」
「あぁ、この戦績も選抜候補合宿でのものだが・・・目ぼしいのが3人とはな」
「高遠原の片岡さん、伊那箕輪の上埜さん、そして飯山の南浦さんが秀でてますね」
「あぁ、現状の実力と安定度、そして身内にプロがいる南浦が一番欲しいところだが、住んでいるところがそこでは手が出せない」
「寮の提案はしないんですか?」
「それも断られた。もしかしたら他県の誘いもあるのかもしれん」
「となると片岡さんと上埜さんですか?」
「あぁ、片岡はすでにうちの花田を通じてコンタクトしている。ポテンシャルとハマった時の爆発力は中部、いや全国級になるかもしれないからな。一方で上埜の方は芳しくないな。もう進路を決めているのかもしれん。しかしどこにいくのかが・・・」
「あれ。先生、この上埜さん。どっかで見たことないですか」
「んー・・・なんかあるのか?」
「この二つ縛りをなくして、眼鏡もない状態で考えてみてください」
小和田の問いかけに若干眉を顰めつつ、久保が考え込む。然りとて考え込んだとして答えがわからない。
「悪い、どうなるんだ」
「この子、清澄の竹井さんの妹さんですよ、きっと。だってそっくりさんじゃないですか」
「・・・確かに言われればそっくりだな。そうか、家庭に何かしらあったのか」
「余計な詮索は私もできませんが、こういう理由なら上埜さん・・・彼女がうちに来ない理由もわかりますよ」
「姉と同じところか。清澄には新人の個人戦でメタメタにやられたからな」
「おかげであちらは個人1位と3位と7位。こちらは福路の4位だけ。見事に差が広がりました」
「清澄の3人に熱を入れたのがお前だという話もあるが?」
「私は夏に彼女たちを倒しただけです。憶測は良くないですよ」
小和田の涼しげな回答の仕方に久保は相変わらず不機嫌そうな表情をしているが、これ以上の追求は何もないし、彼女に通じないと思ったのか、話を逸らすように別の書類をピックアップしてきた。
「新入生は確定してから考える。それよりも現状のメンバーだ。お前が鍛えてくれたこともあって1年はモノになりそうな感じだ」
「私も風越に何か残せるようで安心しました。もう1年、遅ければ私も楽しめたんですけどねー」
「そればっかりは仕方ないさ」
「分かってます。今だに見苦しいなって」
「それも学生の特権だ・・・さて、福路以外も今後どうするか」
「池田さんはこのままでいいですよ。彼女は福路の良きライバルで理解者になります」
「お前がそういうなら、見守るか。あいつも長野選抜で準エースだったからな。そこからの関係を見れば安心か」
「はい、この前のOG戦も大学生・社会人の方々に連勝してました。それできるのもここ近年だと私だけでしたよ?」
「お前のようなのが2人もいると考えれば、恵まれているか」
「それに続くように吉留さんと花田さんもメキメキ上達してます。次鋒と中堅あたりならお任せしてもいいのでは?」
「そうだな。それでいけるならいいんだが」
小和田の言葉に久保の返答がいまいち歯切れが悪い。それを汲み取れないほど小和田は鈍感ではない。すぐさま久保に問いただす。
「その言いよう、何かあるんですか?現状だと困ること」
「やれやれ、お前には隠し事がほんとにできないな。これはまだ決定じゃないから周りに公言したりしないな」
「もちろん。この書類含めて数年は話さない自信あります」
小和田の言葉、目の強さに久保は敵わんな・・・といったような雰囲気をとったのか、肩を一度上下に動かして、一呼吸とってしゃべる。
「正式決定ではないが、高雀連は昨今の高校生麻雀人口の拡大と人材発掘をするために団体枠を広げると決めたんだ」
「それは〜・・・代表校が増えるってことですか?」
「それもあるかもしれんが、本質は違う。団体戦の仕組みそのものの変更だ」
「それは一大事ですね。で、どう変わるんです?」
「3人1組を2チーム作り、前半と後半を決めたのち、それぞれが半荘で勝負する。というのになるそうだ」
「それは確定ですか?」
「確定したわけじゃないが、藤田プロもそうだし、高雀連長野支部のお偉い先生方がしきりに噂しているからほぼ間違い無いだろう。ただ県大会は初戦からではなく、決勝だけにするらしいが」
「決勝はもちろん、中部、全国を狙ううちにしたら直結する問題ですね」
「だろう。福路、池田はさっきの通り分けても問題ない。次点が吉留と花田になると」
「強豪に凌ぐだけならまだしも、勝負はできないですね」
「厳しいよな・・・」
「ですね。あの2人が完成するのは3年の夏だと思いますよ」
「例えそうだとしても、あと2人足らない。しかも中部大会以上の戦いとなれば現状の吉留や花田以上がいないと話にならねぇからな」
「さっき挙げた片岡さんでしたっけ?彼女の加入は絶対ですね」
「あぁ、とりあえず花田の報告待ちだな」
それから90分ほど経っただろうか。小和田と久保が意見を言い出しあってまとまりかけてきたところで部室のドアが開く。2人の部屋は部室と壁一枚隔てた隣の部屋だが声から花田が戻ってきたことを察した。それに伴って久保は花田をこちらの部屋へ呼ぶ。
「帰ってきて早々に悪いな。どうだった?」
「それが先生、まったくすばらじゃないんですよ」
「片岡の返事が悪いってことか」
「いえ、入学自体は前向きなんです。ですが彼女自身が風越でやっていけるのかってところに疑問を持っていまして。そこで難航しているすばらじゃない状況です」
「なるほどな。だとするとどうするか」
「優希はそう言った考えに固執しやすい子なんです。一回拗れると持ち直すのに苦労するんですよー」
煌の言葉に久保はむむ・・・と悩み始める。ここで優希が来なければ計画が頓挫してしまうのは目に見えているからだ。そこに黙っていた小和田が口を挟んだ。
「ならその不安を取り除けばいいんですよ」
「小和田先輩、言うは易しです。大変なんですよ」
「私が直接話に行く。彼女も私のことぐらい、知っているでしょ」
「わわ!それはすばら、すばらですよ!実は優希も先輩のファンなんです!」
「なら決まり。煌、悪いけど明日にでも会えるようにできる?」
「しておきます!」
「小和田、本当に悪いな」
「いえ、なんだかんだ好きでやってることですから」
翌日、小和田は煌と一緒に高遠原中学校にお邪魔する。煌もあこがれの先輩を自分のパーソナルエリアを案内できるとあってかテンションがそこそこ高い。というかいつも高いからあまりわかりづらいが少なくとも目のきらめきが違う。名前に負けないぐらい輝いているのだ。その煌が校舎を案内しながらひとつの部屋を指さした。そこが麻雀部の部室なんだろう。煌がドアを開けるとジャラジャラと音が聞こえる。部員がそれぞれ気づいて追うように挨拶をする。煌はそれを制している。
「ふーん、さすがに礼儀もそうだけど勝負に対しても行き届いているね。煌や片岡さんを輩出するだけの学校はあるなぁ」
「いえいえ。私達の時は実績もないし、形だけの部活でしたよ。そこまで言ってもらえるようにしたのは私ではなく、優希やここにいるすばらな後輩たちのおかげです。と、あそこにいました、優希です」
煌が優希を見つけたようで彼女に声をかける。優希はこっちに振り向いてとことこと近寄ってきた。
「煌先輩、どうしたんだじぇ。昨日の今日でまた勧誘ですか~」
「そうですよ。といっても今日は一人では心細かったので、とてもすばらな助っ人を連れての訪問です」
「へー、いったい誰だじぇ・・・って小和田選手じゃないか!」
「やあ、君が片岡さん?初めまして、風越女子の小和田です。片岡さんのことは煌から聞いてるよ。今日は話がしたくて来たんだ。ちょっといいかな」
「もちろんだじょ!!」
優希の反応は予想通りのハイテンションで、これがある意味彼女本来のものであるのかもしれない。それをわかっているのかどうかはさておいて、場所を移して小和田が彼女に話し始めた。
「さて、まずは長野選抜とその中で1番。おめでとうだね、すごいね」
「いや~・・・私もどうしてそうなったのかよくわからないじぇ。実力や戦い方なら数絵ちゃんや悠ちゃんの方がずっと上だじょ。でもその決定戦で私が東場で爆発したからたまたま勝てただけだじぇ」
「そのたまたまが大事な時に来た。ということはそこで発揮できる努力と力があったってことだよ。奇跡は起きるまで待つんじゃなくて、起きるまで精一杯やりきって最後に神様がそのひとさじをくれるんだって」
「先輩、それはなんですか?」
「私を1つ、前に進ませてくれた人達と話してた時に聞かせてもらった言葉だよ。事実、その通りだなって思ってるし」
「その意味はよくわからんけど、私の努力と結果を小和田さんのような人にそういってもらえると私も嬉しいじぇ」
「うん・・・で、風越に来るのをためらっているんだって」
「風越に行くこと自体は別に構わないじぇ。清澄の学食にタコスがあることが気になってるけど、煌先輩の誘いの方がよっぽど魅力的だし」
「なんと・・・優希、あなた。ついにタコスより私を選んでくれるように・・・すばらです!」
「煌、ちょっと感動してないで」
「あぁ、すいません。つい」
「さて、でも麻雀部に関してはまだ考えているっていうのは?」
「さっきの話の延長線上だじぇ。私がいきなりいって風越のためになるのかって。煌先輩からは即戦力って言われているけど、私にはその自信がない。福路選手や池田選手の戦いは去年から見ているけど、あの人たちと同じって思われたら厳しいじぇ」
「そうだね。確かにあの2人は努力してあそこまで積み上げている。入学してすぐにそこは厳しいね」
「ちょっと優希。私はそこまで言ってないですよ」
「でもそういうことだって思われるじぇ。実際、選抜の中にはそういった話だってあるじょ」
優希は話を進めていく中で表情が暗くなったり、何かを悟ったようなものになったり、その歳にして相応の憂いた表情だった。それを見て煌は黙って何も言わず、ただ心配そうにしている。その両者を見て、小和田が言葉を紡ぐ。
「確かにそうだろうね。長野選抜で個人1位って見られるんだから。だけどそれがどうかした?」
「どうって・・・小和田さんみたいな強い人にはわからないんだじぇ」
「私だって最初から強かったわけじゃない。それにそういったやっかみは私の方がもっと受けてきた。間近でね。でも君のはまだ想像の域でしょ。それは逃げているんじゃないかな」
「・・・私は常に明るく、強い女の子じゃないじぇ」
「誰もがそうだよ。私だって愚痴を吐きたいときはいくつもあった。というか、今だって言ってる」
「そうなのかー?」
「そうだよ。私は常に他の人がうらやましいって思ってる。清澄の後輩3人にも言ったし、煌にも言ったよね。そして今は君にも言っている。ホント、見苦しい人でしょ」
「先輩、やっぱり私達に言ってたことって冗談じゃ」
「冗談じゃないよ。あと1年、生まれてくる歳が遅かったらもっと私は強くなったし、麻雀が好きになっていただろうし、もっと違う未来だったって思う。けど私はもうその機会がない。けど片岡さん、君には私が味わうことがなかった世界を味わってほしいんだ」
「私に・・・その資格はあるんか?」
「ある。この私が言うんだから」
小和田の強い声、強い眼差しに優希はどんどん魅かれていることは明白だった。きっと優希の心のボルテージはどんどん高まっているのだろう。
「あらためてどうかな。私はいなくなるけど、風越には君を助けてくれる先生や先輩がいっぱいいる。ここにいる煌だってその1人だし」
「な、当り前じゃないですか。こんなすばらな後輩を放っておくほど薄情ではありません!」
「ね。こんな人ばかりだから。だから安心してほしい」
「最後に聞きたいじぇ」
「なんだい?」
「私は・・・強くなれるかな」
「強くなれる。私がこうやってきたのもきっと風が吹いて流れ着いたのかもしれない。そして君がその風に乗って、自分が思っていることを越えることができたら・・・私なんかよりすごいものが見れるんじゃないかな」
「わかったじぇ。私は風越に行くじょ。そして煌先輩も他の先輩も超えて、一番になるじぇ!そしてその時、小和田さんにドヤ顔してやるじょ!」
宣言をした優希は誰よりも強い意志を持っていた。その勢いに煌も安心してられない、先輩として負けていられないと思ったのか、彼女からも強い何かを感じ取れる。その2つを感じ取ったのか、小和田は羨ましそうにお互いを見て、ある意味安心した。
「すまない、お前のおかげで助かった。これで来年はなんとかなる」
「いえいえ。私ができるのもここまでです。あとはお願いしますよ、先生」
「わかっているさ。おそらくこれからの数年が風越の勝負の年だ。ここで朽ち果てるわけにはいなかいよ」
「久保先生の力量なら安心できます」
「もう行くのか?」
「ええ、あの子たちの熱量感じたら私もこれから先、頑張ろうって思えましたので。先に行って待っているのも1つ、オツかなって」
「それが先に生きるものの特権だな」
「今の言葉、先生らしいですね」
「おいおい、私は先生だ」
久保が若干不服そうにしているのを見て、小和田はふふっと笑う。風越の新しい時代が来るのはもう間もない事だろう。それを傍にいられないことは残念だが小和田はその先にいることだろう。それが先輩の役目なのかもしれない。
『それはそうと、なんであんな恥ずかしいこと言ってんだろ。実は風越の名前にかけてるところあったんだけど、あの2人に気づかれてないよね。気づかれてたらはずい・・・』
以上が優希の清澄ではなく、風越を選んだ話です。
作品内で取り上げていた大会のルール変更に関してはメイン話の次回にも取り入れようとしていますので、そこでも読んでもらえればと思っています。
風越にアリスがやってきてからの話は、今度ですかね。
また時間と機会があれば幕間話を作成していきますので、よろしくお願いします。