プロローグ
―――ただ、音楽が好きだった。
小さい頃から僕は音楽に囲まれて生きていたからとても身近な存在になっていた。
でも、一番印象に残っていたのは中学時代に見に行った、あのライブイベントだと思う。
それは、ライブハウスで開かれたイベント『RED WEEKEND』を母さんと一緒に見に行ったときのこと。
周りの人たちのオーラに威圧されて最初は怖いと感じていたのが、ひとたび演奏が始まった瞬間にはきれいさっぱり消え去っていた。
『KEN、今日もすげえ燃えてるなっ!』
『マジでどのバンドも最高―だっ!』
ステージの上で歌う人たちの熱が、周りの観客の熱気がこのライブハウスを包み込んでいた。
ありきたりな言葉で言うのであれば、僕はその熱に飲み込まれていた。
「すごいっ! すごいすごいすごいっ!」
気が付くと、僕は周りの人たちと一緒に手を振って声を……感性を上げていた。
(こんなにすごい曲、お父さんが作ったんだ……)
『このバンドの曲はね、お父さんが作っているのよ』
このライブが始まる前に、母さんから教えられたその言葉は、最初は信じられなかったけど、それでも聞いてみればそれが本当のことだってわかった。
言葉にするのは難しいけど、”感覚”のようなもので、僕は父さんが作ったんだと信じた。
(僕……)
そして、そのライブを見ていた僕は、一つの”夢”を抱くのであった。
――父さんのようなすごい作曲家になるんだ――
という夢を
矛盾の作曲者 プロローグ『始まり』
「………ふぅ」
僕は、椅子の背もたれに腰かけながら静かに息を吐きだす。
僕の名前は
どこにでも(……かは分からないが)いる高校生だ。
僕が今いるのは、薄暗い一室だ。
広さは4(もしくは5?)畳ほどで、左右の壁際には本棚があり、そこにあるのは音楽に関連した内容の雑誌ばかりだ。
その奥……僕が座っているデスク周りには、先ほど僕が外したヘッドホンやら様々な機材が所狭しと置かれている。
そんな部屋を照らす明かりは、目の前にあるPCモニターぐらいだろう。
(うん。どこにでもいるもんじゃないな)
部屋の明かりをつけることをしない時点で、普通ではないなと思いつつも、僕は再び姿勢を正してモニターと向かい合う。
そして僕はモニターを見つめながら文字を入力していく。
モニターには先ほど立ち上げていたメールソフトの新規メールの作成画面が表示されており、すでに宛名と件名を入力し終えていたので後は本文を入力するだけだった。
『朝早くに失礼します。ご依頼されましたものですが、先ほど完成しましたのでお送りいたします。つきましては
データのご確認と修正等が必要な場合は、お手数ですがご連絡をお願いします』
「送信っと……もうこんな時間か」
立ち上げていたメールソフトを閉じてモニターに表示された時刻を確認した僕は、急いでパソコンの電源を切るとその部屋を後にした。
「おはようっ」
「おはよう、涼介。またやってたの?」
慌ててリビングに入ってきた僕に、テーブルにお皿を置いていた女性……母さんが挨拶を返しながらもどこか呆れた様子で聞いてくる。
「うん。今日中に仕上げておきたいのがあったから」
「まったく……気持ちは分かるけど、体には気を付けるのよ」
「うん、そうするよ」
僕に何を言っても無駄であるのは母さんもわかっているのか、僕のしていることを強く止めることはなかった。
(一度気になると睡眠が浅くなるのは治さないとな)
そうは思っても、結局は治らないのがオチなのだが。
「ほら、早く座りなさい。遅れるわよ」
「うん。それじゃ……いただきます」
母さんにせかされるまま、僕は椅子に腰かけると両手を合わせてそう言ってから料理に手を付ける。
「父さんは今日も仕事?」
「ええ、今日も忙しいそうよ」
この場にいない父さんのことを尋ねると、予想通りの答えが返ってくる。
「涼介、今日は早く帰ってこれそう?」
「うーん……WEEKEND GARAGEによってから帰るから、もしかしたら遅くなるかも」
食事の途中で、今日の放課後のことを聞いてくる母さんに、僕は今日の予定を思い出しながら答える。
「そう。じゃあ、用意して待ってるけどあまり遅くならないようにね」
「はーい」
母さんの念を圧すような物言いに、僕は思わず投げやりな答えをしてしまう。
(別に長居したくてするわけじゃないんだけどな)
そんなことは口が裂けても言えない僕であった。
東京は渋谷に存在する高校『神山高校』
進学校で、自由な校風が特徴のそこが、僕が通っている学校だ。
そしてここには全日制と、定時制の二種類があり、比較的通いやすい仕組みが出来ていたりする。
ちなみに僕は全日制だ。
「おーっす」
自分のクラスである1-Cの教室に入ると、オレンジ色の短髪の男子生徒がこちらを見るやいなや気の抜けた挨拶をしてくる。
「おはよう、彰人」
彼は、東雲彰人。
ある事情があって昔からよく遊んだりしている関係で、親しい仲であったりもする。
「お前、クマできてんぞ。……またやってたのかよ」
「え?! あちゃぁ……」
開口一番にされた指摘に、僕は手を額に当てながら相槌を打つ。
「ったく、ほどほどにしとけよな。居眠りとかすると俺まで目をつけられんだから」
「あはは……気をつけるよ」
注意する理由が何だか彼らしいなと苦笑交じりに答えながら隣の席に腰掛ける。
「で、今度はどんくらい出来たんだ?」
彰人は僕のしていることを知っている数少ない人物の一人なので、聞かれることは当然の内容だった。
「うーん、依頼された数曲と後は思い浮かんだフレーズの曲を仕上げたから多分十曲くらい、かな?」
「相変わらず、あっさりと簡単っぽく言うな」
昨日の作業の結果を思い出しながら言う僕に、彰人はどこかあきれた様子で口を開くのを、僕はただ苦笑するしかなかった。
「そんなにおかしいかな?」
「いや、おかしいだろ。普通は頼まれた分の曲だけ仕上げればいいだろ」
彰人の指摘もごもっともだ。
「でも、思いついちゃったフレーズは形にしておきたいんだ。そうじゃないと二度と出てこなくなるかもしれないから」
「気持ちは分からなくはねえけどよ……と、もう時間か」
僕の言いたいことが分かるだけに、複雑そうな表情を浮かべる彰人の言葉を遮るように鳴り響く予鈴で、先ほどまでいたクラスメイト達が席に着いていく中、僕もまた席に着く。
こうして、僕のいつもの一日が始まろうとしていた。
改めまして、今回は本作を読んでいただきありがとうございます。
元々ストーリーを読んでいて、よかったので書き始めることになりました。
完全に見切り発車ですので、至らぬ点はあると思いますが、よろしくお願いします。
今回は、主人公についての説明はさわり程度になっておりますが、次回あたりで足りない分を触れていく予定です。
ちなみに、ヒロインは決まっていなかったりします(汗)
不定期投稿ですので、気長にお待ちいただけると幸いです。
なお、感想などを頂けると飛び跳ねるほどに喜びます。
それでは、また次回お会いしましょう。