「ふぅ、間に合った」
僕は教室に入ると一息つく。
あの落とし物関連の出来事で、余裕があったはずの時間が無くなったのには驚いた。
やはり遠回りはしない物だなと思いつつ、僕は自分の席に着く。
「なんだ涼介、徹夜でもしたのか?」
「残念ながら寝坊の方。まあ、早く家を出たんだけどね……」
腰掛けた頃を見計らったように声を掛けてきた彰人に、僕はそう相槌を打つ。
「出たにしてはギリギリじゃねえか」
「落とし物を拾って渡したら命の恩人って崇められた」
「……は?」
僕の言葉に、しばらく無言だった彰人が、何を言ってるんだといわんばかりの目で声を上げる。
「いやだから、落とし物を拾ったんだよ。そしたらそれがその人の大切なものだったみたいでさ」
「あー、そういうことか。お前らしいな」
「僕らしい……?」
そんなに僕らしさ全開だっただろうか?
僕の考えに反して、彰人は何故か納得しているようだった。
「ん、そうだな……お前って昔から人助けっつーか、困ってる奴を放っておけないだろ?」
「まあ……否定はしないけど」
「だろ? お前は結構お人好しだからな」
「……そうでもないよ」
僕は苦笑いを浮かべながら答える。
困っている人を放っておくのも何だか申し訳なくなるし、見て見ぬふりなんか出来ない性分なだけだし、お人好しというのは彰人達にも当てはまるような気がするけど。
「っと、チャイムだ」
話している間に、朝のHR開始を告げる鐘の音が鳴った。
そろそろ担任が来るだろうと思ったところで、丁度担任教師が入ってきた。
いつも通りの挨拶から始まったHRで、僕の1日の学校生活が始まるのであった。
「今日も一日お疲れ様っと」
時間が経つのもなんとやら。
授業が全て終わり、周りが部活に行ったり、友達と雑談を始めたりしている中、僕もカバンに教科書を詰め込み帰ろうとした。
「涼介。今日、イベントがあるんだが見に来るか?」
帰り支度をする僕に、彰人が声を掛けてきた。
彰人はもう一人と『BAD DOGS』と言うチームを結成している。
目標はもちろん、伝説の夜と呼ばれた『RAD WEEKEND』超えること。
そんな二人が出るイベントに誘われたのだ。
答えはもちろん
「ああ。ぜひ」
”行く”の一択だった。
「んじゃ、一緒に行くか」
ということで、僕は彰人と一緒にイベント会場に向かうことにした。
「彰人、それに涼介」
「おう、待たせたな冬弥」
廊下に出ると、ちょうど教室から出てきた青髪の青年……冬弥と合流した。
彼も同じく『BAD DOGS』というチームで活動しているメンバーだ。
家が有名なクラシックの名家らしく、音楽のセンスは高く歌っている所を見たが、僕も舌を巻くほどのレベルだ。
「それじゃ、行くか」
「ああ」
彰人の言葉に、冬弥と僕はそれぞれ返事をする。
そして僕達はイベント会場に向かうため歩き出したのだった。
僕はとあるライブハウスの前で彰人達と別れると、中に足を踏み入れる。
そこはもう既にかなりの人がいた。
その中には、今日出場するグループ目当てに来ている人もいれば、単純に音楽が好きでどんなグループが出てくるのかと待っている人もいた。
(やっぱりこういう空気は好きだな)
ライブハウス内の空気感に、僕は少しわくわくしていた。
(こういう場所で歌えば、気持ち良いだろうな)
この雰囲気の中で、自分も歌いたいと思ったが、それは叶わないことだ。
何故なら……。
(お、始まった。)
そこまで考えたところで、ステージ上に光が灯り、今日のイベントが始まった。
まずは最初のグループ、次に2組目、3組目……と続いていく。
(このグループのパフォーマンス、なかなかのレベルだな)
観客たちの歓声を聞きながら、僕はステージに上がるグループのパフォーマンスを見ていた。
どのグループも、スキル的には悪くない。
(さて、次は4組目……BAD DOGSか)
僕は期待しながら、次のグループの登場を待つ。
そしてついにその時が来た。
スポットライトに照らされたのは、BAD DOGSの二人だ。
そして、曲が始まる。
二人の歌声が、会場内に響き渡る。
彰人達の歌声を聴いていると、自然と頬が緩むのを感じた。
彼らの実力はかなり高い。
(流石だな……)
二人の実力ならば、この程度のことは朝飯前だろう。
観客達も二人のパフォーマンスに魅了されているようで、盛り上がっている様子がわかる。
その後も二人は次々と曲を繰り出し、観客達を魅了していき、二人の出番は終わった。
あっという間の時間だったが、とても良かったと思う。
ライブハウスにいた観客達が、二人に惜しみない拍手を送り、僕もそれに加わった。
そして二人はステージの上から姿を消していくと、また次のグループのメンバーがステージに上がるのであった。
イベントが終わり、スタッフの人にお願いをしてバックステージに入れてもらった。
そこには、さっきまでステージで歌い上げていた二人がいた。
「二人とも、お疲れ様」
「……涼介か」
僕が声を掛けると、二人とも返事をしてくれた。
「はい、差し入れ」
「いつもすまない」
僕は笑顔で二人に差し入れ(彰人にはプチパンケーキ、冬弥には甘さ控えめの和菓子)をすると、冬弥が表情を崩さずに相槌を打つ。
表情こそ変わらないものの、嬉しそうな雰囲気が感じ取れて安心する。
「で、今日はどうだった?」
「相変わらず……と言ったところかな」
彰人の問いかけに、僕は答えた。
正直言うと、今回のは前よりも良くなったとも悪くなったとも言えなかった。
ただ、強いて言うのであれば
「でも、今回はセトリに足を掬われた感が強いかな……最初のと次の曲の順番は入れ替えても良かったような気がする」
「なるほど、そこは俺達も悩んではいたが……やっぱり変えない方が良かったか」
「そうか……次はもう少し工夫してみる」
僕の感想一つで、二人は真剣な表情になり改善策を口にする。
本気で伝説を超えることを目指しているからこそ、努力を怠らないし、常に改善策を模索している。
その姿は尊敬できるものだ。
「よう、彰人、冬弥、それに涼介もお疲れさん」
二人が次のイベントのセトリについて話しているところに、一人の男がやってきた。
「洸太郎さんも、お疲れ様」
やってきた人物(確か名前は洸太郎さんだったはず)に、僕はそう返した。
赤色のシャツに紫色っぽいパーカーを着込んでいる彼も、ミュージシャンでこのイベントに出場していたりする。
少し前にライブハウスで会ってからの知り合いだ。
「おう。涼介は今日も見に来たのか。もはやファンだな」
「まあ、ファンというのはあながち間違いじゃ無いかな」
洸太郎さんの言葉に、僕は苦笑しながら肯定する。
実際問題、二人が出るイベントはほぼ全て見に行っているのだから、ファンと言っても差し支えないと思う。
「ま、気持ちは分からなくもないけどな。にしても、二人とも最近毎週イベントに出てるじゃねえか。すげえやる気じゃん」
「まあな。謙さんは俺達と同じくらいの年でこれくらいのことはやってたんだからな」
「ああ。『RAD WEEKEND』を超えるためには、俺達も頑張らないとな」
彰人の言葉に、冬弥が険しい表情のまま続く。
確かに、謙さん達は僕と同じ年の頃、学校が終わったらライブハウスで歌っていたらしい。
しかも、それだけではなく週末には徹夜してまでライブをしていたとか。
それを父さんから聞いた時、本当に凄い人達だと思ったと同時に、この人達を超えるのは難しいなと感じたのは、記憶に新しい。
「お前ら、前からずっとそればっか言ってるよな。だがそれはさすがに無謀だと思うぜ」
「無謀じゃねえ。それに無謀だとしても超えるって決めてるんだ」
洸太郎さんの呆れた様な声に、彰人は真剣な眼差しで反論した。
「まあ落ち着けよ。彰人が本気なのは知ってるさ。それに、お前達はかなりできる方だ。だが、それでもあの夜にはまだ及ばない。彰人は実際に生で見てたから分かるだろ?」
「っち、わかってるよ。だからこうして場数を踏んでるんだろうが」
洸太郎さんの正論に、彰人は舌打ちをしながら苦々しく呟く。
どうやら図星だったようだ。
あの夜……『RAD WEEKEND』を実際に見た僕から見ても、二人のレベルはまだ遠く及ばないと思う。
あのライブは何もかもが凄かった。
オーディエンスの熱狂具合や盛り上がりなど、目標にしたくなるのも無理はないかもしれない。
だけど、まだ諦めてしまうには早すぎるとも思う。
「二人なら、まだやれるはずだよ」
僕は心からそう思う。
なぜなら、僕はこの二人の歌を聞いて心を震わせられた、ファン1号(自称)なのだから。
今はまだ遠く及ばなくても、彼らならきっとあの夜を越えるイベントを開けると信じている。
「それに、二人は“本物”……だからね」
(僕とは違って……ね)
思い出すのは過去の……数年前のライブ。
僕たちはそのライブに出て、そして失敗した。
ただの失敗では無い。
ライブハウスや、一緒にステージに立った人、その日のイベントに参加した出演者の人達の顔に泥を塗るという、許されない失敗だ。
あれ以降、よほどのことが無い限り自主的にステージに上がって歌うのを止めた僕とは違い、彰人は歌うのを止めずこうしてステージで歌い続けている。
それが彰人が本物であるという証明でもあるのだ。
そして、彼と一緒に歌う冬弥もまた”本物”であると僕は確信している。
理由は勘のような物だけど。
そんな二人が出るイベントに、僕はせめてもの償いとして行ける日という制約はあるが、彰人達が出るイベントには必ず見に行こうと決めたのだ。
「涼介、それはプレッシャーにしかなってないぞ……」
僕の言葉に、洸太郎さんがどこか呆れた様子で突っ込んできた。
「あ、ごめん……」
「謝る必要は無い……むしろ、そう言ってくれるとありがたい」
洸太郎さんの言葉に、申し訳なさを感じて謝った僕に、冬弥がフォローしてくれる。
「なんつーか……涼介も相当だよな」
彰人がそんな僕を見て苦笑を浮かべる。
「ったく、涼介は相変わらずの彰人贔屓だな」
「あはは……否定はしないよ」
洸太郎さんの呆れたような口調に、僕は笑いながら同意する。
自覚はあるし、それに何より事実だからだ。
「はぁ……そういえば、謙さんの娘も『RAD WEEKEND』を超えたいってずっと言ってたな。何ならお前ら組んでみたらどうだ?」
「杏さん? 確かに言ってたね」
洸太郎さんの口から出てきた彼女の名前に、僕も頷く。
彼女もまた、あのイベントを見て、いつか超えたいと言っていたのを思い出す。
だが、彼女にはまだ相棒がいなかったはずだ。
相棒を探しているのだが、中々お眼鏡にかなう相手が見つからないらしい。
「白石か。確かにあいつはできる。覚悟と実力があるのなら、俺は大歓迎さ。覚悟と実力があるのなら、な」
彰人が、意味深なことを言う。
”覚悟と実力があるなら”
その言葉がやけに耳に残る。
彰人の言葉の意味が分かる僕にとっては特に。
「ところで、二人はこの後どうするんだ?」
「俺達は謙さんの店に行くつもりだ」
洸太郎さんの問いに、彰人がそう答えた。
イベントが終わった後や練習の後などは謙さんが経営するカフェ『WEEKEND GARAGE』に行くのが定番になっている。
「そっか。じゃあな」
「ああ、またな」
彰人の言葉に、洸太郎さんはそう言って去って行く。
「さて、俺達も行こう」
「ああ」
こうして僕は彰人達と共にイベント会場を出て『WEEKEND GARAGE』へと向かうのであった。
Vivid Bad SQUADのメインストーリーに入っていますが、多分話の途中でこの章は終了すると思います。
また、アンケートを実施しておりますので、よろしければ投票をお願いします。
それでは、また次回お会いしましょう。
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