第4話です。
「おい、涼介」
時刻は昼休み。
僕は昼食を摂るべく席を立ったところで、突然彰人が声を掛けてくる。
「ん? どうかした?」
「お前、最近色々な奴に話しかけてるだろ」
「あー……ちょっと調べてることがあってね」
彰人の言っていることが、最近僕が聞き取り調査をしていることだと知った僕は、あれかと思いながら彰人に答える。
「何調べてる知らねえけど、あんまり首ツッコんで厄介ごとに巻き込まれるなよ。お前、ただでさえそう言うのに巻き込まれやすいんだから」
「同じ巻き込まれ属性の彰人に言われたくないなー」
僕もそうだが、彰人は明らかに地雷があるとわかっている場所に特攻していく所がある。
それで何事もなく今まで過ごしているのはある意味奇跡なのかもしれない。
「お前、さりげなくひでえな」
「あはは冗談冗談。でも、心配してくれてありがとう。そうならないように気を付けるよ」
ジト目でこちらを見てくる彰人に苦笑しながら謝りつつも、僕は彰人を安心させるように言うと、僕はそそくさと教室を後にした。
(早くしないとめぼしいの無くなっちゃうしね)
ここ神山高校では、お弁当を持参している者と、購買部で販売されている食べ物を購入して食べる者の二つのタイプが存在する。
ちなみに、購買部がある学校でよくあるような争奪戦という修羅場は起こらないが、あまり遅く行くと人気の食べ物が完売してしまうので、急いで行くことに越したことはないのだ。
いつもはお弁当を持参するのだが、この日は運悪くお弁当がなしになってしまったため、僕は購買部で食べ物を買いに行くことになったのだ。
(あ、なんとか残ってた)
購買部にたどり着いた僕は、目当ての商品が残っていることにほっと胸をなで下ろすと、それを手に会計を済ませるのであった。
「よし、昼食も食べ終わったことだし、今日も調べ物でもしますか」
昼食を取り終えた僕は、今日も今日とて調べ物をすることにした。
その内容はここに伝わる噂だ。
(とはいえ、そろそろ次の段階に移ってもいいんだけどね)
ここ数日ほどで彰人の言っているとおり、たくさんの人に聞き込んだ事で、噂話についてのデータは完璧と言ってもいいほどに集まっていた。
まず、僕の聞いた噂話だが、その通りの内容で伝わっているみたいなので、伝言ゲームのように途中で変異していると言うことはなさそうだ。
そして一番肝心な、この噂話が”誰”のことを指しているのかだが、これはまだ不確定ではあるものの、一人の生徒に絞り込まれている。
名前は、“暁山 瑞希”。
一年A組の生徒のようだが、詳しいことは不明だ。
聞き込んだ人たちの8割が、この生徒のことだと口をそろえて言っているので、ほぼ間違いないだろう。
ちなみに、そのうち7割が伝聞形式なのが若干不安だが、詳しく調べてみるに越したことはないだろう。
(本当は、この人について聞き込んでいくべきだろうけど、時間がね……)
取材まで残す所あと9日。
さすがに今週末までにはこの暁山という人物とコンタクトを取っておかないとまずい状態だ。
そんなわけで、この日僕は本人に直接会いに行くことにしたのだ。
「一年A組は……あった」
同じ学年と言うこともあり、教室は割とすぐに見つかった。
「あ、すみません。暁山さんはいますか?」
ちょうど教室から出てきたA組の生徒を呼び止めた僕は、目的の人物を呼び出してもらうことにした。
「暁山? あー、今日は来てないみたいだけど」
「そうですか。いきなり失礼しました」
呼び止めた男子生徒に軽く謝ると、そのまま去って行くが、その表情は怪訝なものだった。
(暁山という名前を出した途端のあの反応……何か気になる)
不良とかではないとは思いたいが、あまりいい人物ではない可能性が高い。
主に、奇人変人の類的な。
「あれ、涼介?」
「え?」
今更ながらどうしようかと考えにふけっていたところに、聴き馴染みのある声で呼ばれた僕は、声のしたほうに顔を向けると、そこには不思議そうな表情でこちらを見ている杏さんの姿があった。
「なんでここに杏さんが?」
そんな彼女に、僕は思わずそう聞いていた。
「いや、ここ私のクラスだし」
「あ、そういえばA組だったっけ」
学校では、直接杏さんのいる教室に行かなくても会えるのでクラスがどこなのかを失念していた。
「どーせ、涼介のことだから覚えてなくてもいいか、的な風に考えてたんでしょ?」
「う゛」
そんな僕の考えなどお見通しとばかりに呆れたようにジト目でこちらを見ながら言ってくる杏さんに、僕は言葉を詰まらせる。
「はぁ……で、どうしたの?」
「実は、ここのクラスの生徒を呼んでもらおうとしたんだけど、その人今日は休んでるみたいなんだよね」
そんな僕の様子に、あきらめたのか、それとも呆れたのか深いため息を漏らした杏さんは僕がここにいる理由を聞いてきたので、僕はその理由を説明した。
「そうなんだ、でも休んでるのって……もしかしてその生徒って、瑞希……暁山 瑞希っていう名前?」
「うん、そうだけど……知り合い?」
言い直しはしたが、最初下の名前で呼んだので、もしかしたらと思い聞いてみる。
杏さんは知り合いでなければ下の名前で呼んだりはしない。
それこそ、ただの顔見知りレベルではなおさらだ。
「うん、まあね」
「そうだったんだ。ちなみに、暁山さんってどんな人?」
どうやら僕の読みは正しかったようで、僕はせっかくなので彼女の人となりを聞いてみることにした。
「一言で説明するのは難しいけど、悪い奴じゃないかな。まあ、不登校気味ではあるけど」
(不登校……どおりで姿を見ないわけだ)
噂にある”どっちかわからない姿”の生徒も噂を辿りながら探してはいたが、見つかることがなかった理由がようやくわかった。
(杏さんは、ああ言っているけど、どうしようか)
杏さんのの人を見る目がいいのは自分がよく知っているので、間違いはないが、関わり合いになって本当にいいのだろうかという不安が頭をよぎる。
(とはいえ、頼めそうな人いないしな……)
こういったことを頼めるのは女性ぐらいしかいないが、その女性との知り合いが僕の場合は限りなく0に近い。
唯一の知り合いが杏さんだけなのだが、杏さんはそういったことには疎そうなので、頼りになるかと言えば微妙だ。
「……良かったら瑞希に連絡を取ってみようか?」
「え?」
考えを巡らせている僕に、掛けられた思いがけない提案に、僕は思わず素っ頓狂な声で返してしまった。
「瑞希に用があるんでしょ? このままだと、いつ会えるか分からないよ」
まあ、どうでも良い用事だったら別に良いけど”と最後に付け加えた杏さんの言葉に僕は先ほどの躊躇が揺らぐ。
(時間もあんまりない。事情を説明して、その後のことを考えるなら……)
「ごめん。お願い」
「オーケー。じゃあ、ちょっと待ってて」
杏さんはそう言うと、僕から少しだけ離れてスマホを取り出して画面を操作するとそれを耳に当てる。
おそらく暁山さんに連絡を取っているのか、話をしている杏さんの電話が終わるのを、僕はただ待つことにした。
やがて電話が終わったのかスマホを耳元から話すと、笑みを浮かべながらこちらの方に戻ってくる。
それだけで、結果が手に取るようにわかった。
「オッケーだって。明日の放課後、昇降口で待っててだって」
「ありがとう」
さすが杏さんと言った所か、約束を取り付けてくれた杏さんに、僕はお礼の言葉を伝える。
「お礼なんて良いよ。でも、そうだね……私に相棒が見つかったら、イベントで歌う曲を一曲作って欲しいな」
「そんなことなら、お安いご用だよ」
むしろ、それで良いのであれば安い物だろう。
彰人の場合は、パンケーキを対価に求めてきたりする。
別に高級でもないし、嫌な気分はしないが、忘れた頃に言ってくることがあるのが少しだけ悩みどころだったりする。
「っと、チャイムなっちゃったから、早く教室に戻ったほうがいいよ」
「うん。そうする……杏さん」
学校中に鳴り響く予鈴に、戻るように促してくる杏さんの言葉に頷いてその場を立ち去ろうとした僕は、伝えなければいけないことがあったのでその足を止めて杏さんの方に振り返る。
「何?」
「ありがとう」
一度言ったお礼の言葉を、僕はもう一度杏さんに言った。
少しでも僕の感謝の気持ちが彼女に伝わってくれることを祈りながら。
そんな僕のお礼の言葉に、杏さんは少しだけ驚いたように目を瞬かせると、
「どういたしまして」
満面の笑みを浮かべながら、そう返すのであった。
ということで、次回か次々回での人が登場します。
ついでに、タグのほうも追加させていただく予定です。
次回の投稿がいつになるかわかりませんが、楽しみにしていただけると幸いです。