第8話になります。
日曜日。
この日は、暁山さんと約束をした日だ。
(来てるといいんだけど)
なんとなく暁山さんは自由人のような感じがするので、もしかしたら来ていないという可能性だってある。
俺はそう思いながら待ち合わせ場所に向かう。
「おーい! こっちだよ!」
するとそこには既に来て待っていた暁山さんが、大きく手を振っていた。
「ごめんね。待たせちゃったかな?」
「ううん。ボクも今来たところだから」
暁山さんに時間を確認すると、まだ待ち合わせの時間まで10分程あった。
暁山さんの服装は白を基調とした(ゴスロリ風というのだろうか?)フリルが付いた可愛らしいワンピースだった。
「今日はよろしく頼むよ」
「こちらこそ! それじゃあ早速行こうか」
暁山さんに促される形で、俺達は歩き出す。
「ところで、コーデの方はどんな風にしたいとか希望はある? 要望があれば聞くけど……」
「……実は、感じとしては今の暁山さんみたいな感じなんだ」
「……え?」
コーデの要望を告げた僕に、暁山さんはキョトンとした表情を浮かべていた。
(まぁ、それはそうだよな……)
こんな事いきなり言われても困っちゃうか。
「ん~……ボクのことをからかってはないよね?」
暁山さんは僕の顔をジッと見つめて確認するかのように聞いてきた。
僕はその問いに対してしっかりと首を縦に振る。
「もちろん。からかっているつもりなんてないよ。自分にはそういった類いの才なんて無いしから、絶対にしないような暁山さんみたいな感じにしておきたいだけだから」
「そっか……。ならいいんだ」
暁山さんは安心したように息をつく。
実際、暁山さんをからかう意味で言ってはいない。
僕がやろうとしていることは、変装は変装でも”女装”にあたる物だった。
理由は単純で、そうすれば僕とイコールにはならないというものだった。
とはいえ、ただでさえ普通のコーデさえできない(そもそもファッションセンス皆無)の僕が女装用のコーデなどできるはずもなく、そう言った理由で暁山さんに白羽の矢が立ったような感じなのだ。
「それで、できそう?」
「任せておいてよ! ボクがバッチリ仕上げてあげるからさっ!」
「ありがとう。頼んだよ」
「まっかせなさい! このボクに任せれば大丈夫だからさ!」
それから少し歩くと目的の店に着いた。
そこはあきらかに女性向けの洋服が多く置いてある店で、店内には可愛い系の服が多いのか、所々にフリルをあしらったデザインの服が目立つ。
男の僕には、正直かなり入りづらい雰囲気のお店だが、仕方がない。
(頑張れ……僕ッ!)
僕は自分を奮い立たせると、意を決して店の中に入って行く。
そして、服選びが始まったわけだが……。
「うーん……」
暁山さんは数々の服を前に腕を組みながら悩んでいるようだった。
「やっぱり難しい?」
「ちょっとね……。イメージ通りにならないっていうか」
「そうなんだ」
確かに僕のイメージ通りの服を着せることは、暁山さんにとっては至難の業だろう。
「あっ! これなんかどう?」
暁山さんはそう言うと手に持っていた服を差し出してきた。
差し出されたのは白と水色を基調としたワンピースだ。
「試着してみるよ」
僕は差し出されたワンピースを受け取ると、試着室へと向かう。
視線は……うん、気にしないようにしよう。
カーテンを閉め、着替えを始める。
(よし。頑張れ)
僕は自分にエールを送りながらワンピースを着て鏡を見る。
(うん。似合ってるんじゃないかな?)
自分ではよく分からないけど、少なくとも不自然ではないと思う。
鏡に写った自分の姿は、白と水色を基調としたワンピースを着たものだった。
(うん。滅茶苦茶、変)
それまで女装なんてしたことなかったし、何より女物の服なんて初めてだからよくわからないのだから仕方がない。
(うーん……。これは暁山さんに見てもらう方が良いか……)
そう考えた僕は、カーテンを開けると同時に感想を求める。
すると、そこには目を丸くしながら口をポカンと開けている暁山さんの姿があった。
「あ、暁山さん?……どうかな」
何も反応を示さない暁山さんの様子が気になり再度声をかけると、暁山さんはハッと我に返った様子を見せた。
「ごめんごめん。あまりに想像以上だったからビックリしちゃって」
「そんなにかな?」
一体どっちの意味なのかが凄く気になるところだけど、あえて聞かないでおいたのは真実を知るのが怖かったからだ。
「そうだよ。なんというか、予想以上に似合っているから驚いたんだよ」
「そ、そう?」
暁山さんは僕の顔を見ながらコクりと首を動かす。
「うーん……。でも、これだと髪のほうが浮いて目立っちゃうかなぁ」
「あぁ、確かに……」
言われてみれば、確かに暁山さんの言うとおりだった。
僕の髪は黒髪の短髪だ。
それだと、この服装は合わないかもしれない。
つまり僕が女装するとしたら、髪型はロングストレートが妥当だろう。
「どうしたものか……」
「そうだねぇ……それじゃあさ」
僕の呟きを聞いたのか、暁山さんが何か閃いたように手を打つ。
「いっそのこと髪型も変えてみない?」
「え? どういう事?」
「つまりさ、ボクみたいに髪を伸ばせばいいんだよ」
「……まあ、そうだよな」
俺もその結論に達していたこともあり、暁山さんの意見に納得した僕は、早速その提案を受け入れることにした。
「わかった。だとしても、伸ばすにも時間がかからないか?」
「それなら、ウィッグを使えば問題ないよ」
僕の疑問に答える暁山さんの表情は、どこか自信に満ち溢れていた。
「ウィッグって、髪の毛が少ない人とかが使うものだよね?」
「確かに一般的だとそうなるけど。でも、世の中には変装用の物もあるんだよ」
「へぇ~。そういうのがあるんだ」
世の中には知らないことがたくさんあるんだなと、僕は改めて実感する。
「それがかわいいもの探しの醍醐味でもあるんだけどね」
暁山さんはそう言いながら、楽しげに笑っている。
(それにしても、まさかこんなところで女性用の服を買うことになるとは、夢にも思わなかったな)
そもそも僕は男なのだから当たり前のことなのだけど、こうして実際に女物の服を見ていると不思議な気分になってくる。
そんなこんなで、僕は暁山さんのアドバイスの下、黒とピンク色のロングヘアのウィッグを買い、先ほど試着した服を含めて何着か購入した僕たちは、お店を後にした。
「ふぅ……。これで準備はOKかな?」
「お疲れ様。いや~、それにしても乾君の女装は似合っていたね!」
「あはは……。そう言ってもらえると助かるよ」
(なんだかいろいろと複雑だけど)
暁山さんの言葉に、俺は苦笑いを浮かべる事しかできなかった。
「今日はありがとう。このお礼はいつか必ずするよ」
「別に気にしなくていいのに。でも、期待して待っておくよ」
「うん。楽しみにしておいて」
暁山さんと軽く言葉を交わして、僕はその場で別れるのであった。
それから数日ほど経った日曜日。
僕は自室でこの間購入した変装用の服を身に纏っていた。
(うん。バッチリだ)
鏡に写った自分を見て、僕は満足げに微笑む。
今の僕の姿は、白と水色を基調としたワンピースを着ている状態だ。
その姿はどう見ても暁山さんの姉妹に見られてもおかしくない感じだった。
(まあ、仕方がないか)
コーデのモデルが暁山さんだから仕方がない。
そう割り切ることにしよう。
僕はそう自分に言い聞かせながら自室を後にする。
「母さん」
「あら、涼介……って、そんな格好してどうしたの?」
俺は、リビングに入ると、キッチンの方で洗い物をしている母さんに声をかけた。
普通に考えれば子供が突然女装していたら何事かと思うだろうけど、予め変装用の服を買ってきたことは伝えていたので、そこまで驚いた様子では無かった。
……と思いたい。
「ちょっと出かけてくるよ」
「どこに行くの?」
(あ、そういえば言ってなかったっけ)
母さんの問いかけに、僕は何も伝えていなかったことを今さらではあるが思い出した。
「ちょっと取材だよ」
「え? 取材? 一体誰の?」
僕の答えに、母さんは目を丸くしながら首を傾げる。
「なんかの音楽雑誌みたい」
「へぇ~。そうなの。だからそんな格好なのね」
「まぁ、そんなところ。じゃあ行ってきます」
僕の答えでようやくすべての合点がいったようで、どこか納得した様子で相槌を打っている母さんにそう受け答えをすると、玄関に向かう。
「気を付けて行ってらっしゃい」
「はーい」
僕はそう返事をして、家を出た。
外に出た僕は、周囲を警戒しながら道を歩いていく。
(こんな姿彰人や絵名さんに見られたらヤバイ)
そう言う趣味趣向は僕にはないので、あると思われるのは避けたかった。
だったら違う場所でやればよかったのではと思いながら、僕は待ち合わせの場所に向かうのであった。
喫茶店に入った僕は、ウエイトレスに案内された席に着くと、コーヒーを注文した。
数分後、僕の前にコーヒーが運ばれてきたタイミングで、一人のスーツを着た女性が姿を現した。
「失礼ですが、クレアさんですか?」
「はい。そうです」
僕は女性の質問に対して、笑顔で肯定をする。
「申し遅れました。私はこういうものです」
女性はどこからともなく名刺入れを取り出すと一枚名刺を取り出して、それを僕に差し出してきた。
「今回はよろしくお願いします」
「こちらこそ、お世話になります」
僕は差し出された名刺を受け取ると、軽く会釈をした。
「それで早速なのですが、まず初めにクレアさんが曲を作ろうと思ったきっかけはなんでしょうか?」
「きっかけ、ですか?」
女性の記者からの問い掛けに、僕は少し考える仕草を見せた。
(う~ん……。そうだな……)
ある意味ベタな質問の内容ではあったが、僕は頭の中で言葉を纏める。
そして、ある程度まとまったところで、僕は女性記者の目を見ながら口を開いた。
「実は前にあるライブに足を運んだんです。そこで演奏された曲を聴いたときにビビッときまして」
「なるほど。その時に何かを感じたということですね?」
僕の言葉を聞いた女性記者は、手帳にペンを走らせていく。
「はい。そうですね」
「わかりました。それでは、次は作曲をする時に心掛けていることを教えてください」
質問の内容は、やはり作曲に関してに集中していた。
「曲を作る時は、とにかく相手の事を考えることですかね? 」
「……ふむふむ」
僕の回答を聞いた女性記者は、再びメモを取る。
作曲をする時は、歌う人物のことを第一に考えているというのが、僕が今までやってきたことだ。
その人の歌い方、癖などを把握して、その人が歌った時のイメージを思い浮かべながら曲を作り上げていくのが僕のやり方である。
「ありがとうございます。では最後に、クレアさんの夢について教えてもらえますか?」
(夢……か)
それからしばらくいくつかの質問の受け答えをしていた僕だったが、最後として出された質問に僕は考えを巡らせる。
インタビューで聞かれる可能性があることは、予測してその回答を考えていたのだが、まさか夢について聞かれるとは予想もしていなかった。
夢なんて、父さんの様な作曲家になる事しか考えていなかった僕は、いざ聞かれると言葉が出てこなかった。
(さてと……どうしようか)
僕は少しだけ考えを巡らせた結果、自分の思いを伝えることにした。
「そうですね……私はーーー」
そして僕は自分の夢を答えるのであった。
インタビューを受けてから数日が経った。
僕のインタビュー記事が掲載された音楽雑誌が発売されると、たちまち話題になり瞬く間に完売したとかしてないとか。
事務所から教えてもらった話なので、その真偽は定かではないけど、僕としては嬉しい限りだ。
(今度機会があったらちゃんとお礼をしないとな)
僕は、暁山さんへのお礼で何が良いのかを考えようと、心の中で決意するのだった。
これにて、本章は完結となります。
次の章では数話ほどでユニットのメインストーリーの話に入っていく予定です。
いつ投稿できるかは分かりませんが、楽しみにしていただけると幸いです。
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