「……軍曹、一体なんのつもりですか?」
第一、二班が着々と任務を遂行していた裏で。脱出の要、プラットホームの防備についていたレース軍曹率いる第三班は、その長である軍曹を発端に、何やら不穏な空気が漂っていた。
突如現れたクオレンを背に庇い、まるで脱出の手助けをするようにトルーパーの前に立ち塞がる。
この状況に至るまでには、時間を少し遡る必要がある。
グリーヴァスに発見されたことを受け、212突撃大隊の精鋭メンバーは、一刻も早く敵施設からの脱出に駆られた。
しかしドロイドの大群がその邪魔をする。
グリーヴァス到着までの時間稼ぎと、ワラワラとまるで羽虫のような鬱陶しさでプラットホームまでの道を埋め尽くしているのだ。
ハンガー、コントロールルームからだけではグリーヴァスに追いつかれてしまうかもしれない。よって、重要地点であるプラットホームからもクローンを進出させ、早急に合流できるようにとケノービ将軍は第三班に命令を下した。
早速とレース軍曹が班分けを行ったが、その分け方が少々不可解だった。
重要であるはずのプラットホーム防衛組をわずかに二人と残し、残りのメンバーを別働隊として組織。
一応レース軍曹が防衛組と共に残ると言い放つが、この中で二番目の実力者であったキックは、おかしいのではないかと抗議の声を上げた。いくらなんでも、プラットホームの防備が薄すぎるのではないか? と。
「ドロイドの最大の利点は数の暴力だ。将軍達を足止めしつつ、プラットホームを確保なんて中途半端なことをすれば数での優位を殺すハメになる。第一、クオレンの行方がまだわかっちゃいない。ならせめて、一番負担が少ない俺達が本格的な別働隊を出すべきなんだ」
「……わかりました。軍曹がそこまでいうのなら、我々はその命令に従います。何かあれば連絡してください、ドロイドの気が変わってプラットホームになだれ込んでくるかもしれません。その時駆けつけられるのは我々ですから」
「あぁ、その時は将軍とコマンダーもお連れしろよ?」
「ベストを尽くします軍曹」
レースは第三班が率いるほとんどの兵力を引き連れ、プラットホームに背を向け歩き出した。何か引っ掛かりを覚えるような、まとわりつくような違和感には目をつぶって……。この時、プラットホーム潜む影に気付かなかったのだ。コントロールルーム・ハンガー・プラットホームと重要地点にかの姿はなく、敵対する勢力のしかもジェダイに出会いたくないとくれば彼らの行動は限られる。戦闘のどさくさに紛れ、脱出する機会を物陰から伺うクオレン達の存在に、レース軍曹だけが気が付いていた。
「……なあ、戦争が終わった後、一体俺達には何が残るんだろうな」
シャトルの準備・倒したドロイドの清掃・負傷者を運び込んだりと黙々と作業を続けていたその時、唐突にレース軍曹は作業の手を止め口を開いた。
居残り組の部下二人は首をかしげ、突然の重そうな話題に顔を見合わせ閉口する。さっきから様子のおかしいレース軍曹に若干の不信感をにじませ、真意の程を知りたいと沈黙した。
「もちろんクローン兵とジェダイのコンビが敗れるとは到底思えない。今は戦力が拮抗しているが、いずれ分離主義勢力にボロが出始めてこの戦争は共和国の勝利に終わるだろう。……だが、その後には何が待っている? 戦時国債で辛勝を喫した共和国は、残された俺達クローンを養ってくれるのか? いや、そもそもの存在理由である戦争を取り上げられて、俺達は何を宿木にして生きていけばいいんだ?」
「……戦いに次ぐ戦いで疲れているんですよ軍曹。ここは我々に任せて、シャトルで休んでいて下さい」
「……違う、違うんだ。俺が言いたいのはそうじゃない」
「軍曹、ストレスチェックの結果はいかがでしたか? この任務の終わった後、医療ドロイドの診察を受けることをお勧めします」
「俺はどこもおかしくないぞ」
「そろそろケノービ将軍が戻ってくる頃ではないですか? この議論は時間のある日にでもゆっくり話し合いましょう」
「お前らは未来に不安はないのか?」
「……何をおっしゃりたいのかさっぱりわかりません軍曹。今は任務中ですよ? 上官としての態度を示していただきたい」
「そこにクオレンがいる」
「「!!」」
低い声色で放たれた言葉に、驚きと共にその指先に視線を動かす。
見ると、確かに惑星モン・カラ出身の知覚生物、イカ頭のクオレンが顔を覗かせてこちらを伺っていた。指摘を受けたクオレン達は、もはやこれまでと手を上げながら投降する意志を示す。
だが本当に恐ろしいのは、一体どのタイミングで軍曹はクオレンの存在に気がついていたのかということだ。
もしも偽りの命令を下していたとなれば、共和国への虚偽申告、最悪の場合分離主義者の送り込んだスパイという可能性も否定できない。
事実、共和国に忠誠を誓うクローンの中には、分離主義勢力に靡いてしまった裏切り者の存在が確認されている。
まさかとは思いたくはないが、もしそうならば銃を向けなければならないことになると、二人は転がしていたブラスターを手に取った。
「戦争は……終わらせちゃいけないんだ。なにより、俺たち兄弟のためにも……」
「ケノービ将軍の指令をお忘れですか軍曹。共和国に任命された将軍の命令に歯向かうということは、そのまま共和国への反逆行為とみなされ、処罰の対象となるでしょう」
「レース軍曹、一旦落ち着きましょうよ。私達の間には誤解が生まれているかもしれません。冷静に、冷静に……」
「……クオレンを逃す、異論は認めない」
誰にも理解されない悲しみは決意へと変化し、レース軍曹はクローン兵として踏み出してはいけない一線を踏み越えてしまうのであった。