TS聖女見習いがダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:大丈夫、問題ない
「二人共、ヘファイストス・ファミリアなんて高級ブランドは、雲の上の存在だって思ってるでしょ?」
色々と寄り道はあったものの、最終的にエイナさんに連れられてやって来た場所は、俺とベルが毎日のように訪れるいつもの場所、バベルの塔だった。
数多くの一級冒険者達が闊歩する廊下の中を萎縮しながら歩いていた俺は、そんなエイナさんの声に頷いた。ヘファイストス・ファミリアとは鍛冶ファミリアの最大手として名高い生産型ファミリアでもトップに位置するファミリアの一つだ。
今日俺とベルは、一人15000ヴァリス用意してきたが、街に出されているヘファイストス・ファミリアの店の武器は最低でもソレの10倍以上。最高だと10の何乗かしないと届かないレベルだ。
「でも、実はそうじゃないんだなぁ。ヘファイストス・ファミリアの凄い所は、新人の鍛冶師にもちゃんとした売り場を用意してる点に有るんだよ?新人冒険者は縁がないと思っていたヘファイストスブランドの武具を買えて、新人鍛冶師はその評価や冒険者との出会いがこれからの糧になる。そうして、新人達がプロと呼ばれるくらいにまで成長したら、お得意様と腕の立つ鍛冶師が両方生まれることになる…そうしたいいとこ取りみたいなピラミッドが、ここでは形成されてるの」
「へ~…」
エスカレーターの中。落ち着かない様子で上昇していく足場に視線をやっていたベルが、エイナさんの話の内容に惹かれたらしい。当然俺も聞きながら、ふんふんと頷いている。
「というわけで、はい、到着!」
「…うわぁ~…」
扉が開いた先。そこは、武具倉庫とでも言うべき場所だった。この世のありとあらゆる形状の武器、防具が所狭しと置かれていて、必要最低限の照明に照らされた薄暗い店内をどこまでも彩っていた。
俺は思わず外に出て周囲を見渡して、感嘆の声を上げていた。この光景を見て興奮しないゲーマーは恐らく存在しない。そんなロマンの塊みたいな風景がそこにはあった。
一つ防具を見てみると、たしかにエイナさんの言う通り値段は初心者でも手が届きそうな値段設定になっていた。俺は振り返ると声を上げる。
「ベル、エイナさん!まずはどこから回りましょう!?」
「テレサ落ち着いて!まずはそう…剣を見に行こう!」
「剣見たいです!」
「はい、二人共ちょおっと待った」
ベルと二人で駆け出そうとしたところを、エイナさんに捕まえられた。反射神経によるものではなく、予め俺たちがどう動くか予想しての機敏な動きだった。
「もう…今日は防具を見に来たんでしょ?」
「あ…そ、そうでした…」
「…えへ…」
上を見上げると、呆れ顔のエイナさんと目が合う。完全にテンションが振り切っていたのを自覚して思わず頬を染めつつ、エイナさんに離してもらって落ち着きを取り戻す。
「ふう…それじゃあ、一旦ここで別れましょうか。ベルと俺とじゃジャンルが違いますし」
「それもそうだね…じゃあ、私はまずテレサちゃんと一緒に行こうかな。女の子一人放り出すのは不安だし」
「分かりました!じゃあ、僕向こうから見てきますね!」
目を輝かせながら駆け出したベルを見送って、俺とエイナさんは二人で歩き出した。
「エイナさん、何かおすすめとかありますか?」
店の商品を見回りながら、何を買えばいいか決めかねてエイナさんにそう尋ねてみる。
「んー…人によって変わっては来るんだけど、テレサちゃんは魔法職だから、やっぱりローブや魔道具系がおすすめかな」
「鎧とかは買わなくても良いんでしょうか」
「そうだねぇ。魔法職の人たちは、あまり金属は身につけたがらない傾向にあるかな。なんでも、金属は魔力を通すから、無駄な金属を身に着けていたら効率が下がる…らしいよ?ごめんね、私も詳しいことは分からないんだ」
「いえ、参考になりました。だったら、鎧系は選択肢から外したほうが良いですね…」
そう言いながら、俺はとりあえず魔法職用の装備が飾ってあるコーナーで足を止めた。そして一つずつ見て回って、とある疑問を口にする。
「…なんか、全部可愛いんですよね…」
「そうだね。あ、これなんか人気らしいよ?似合うんじゃないかな!」
「み、ミニスカートはちょっと…」
魔法少女みたいなものからちょっと妖艶な魔女っぽいものまで、様々有るが…何故全部コスプレみたいな感じなのだろう。
俺が今装備している『見習い聖女の服』も同じ感じではあるけどさ…当然、だったら次も同じようなものを装備しよう、とはならない。中身はあくまで男なのだ。まあ、そろそろ男だっていう自覚も薄れてき始めてはいるけど。
最近ヘスティア様と一緒に寝ても特になんとも思わなくなってきたのは、性別関係なく、ただの慣れだと信じたい。
「せめて、もう少し露出の少ないものが良いです…」
「それじゃあ、エルフ用の装備とかはどうかな?あ、これとか!」
そう言ってエイナさんが取り出したのは、黒を基調としたワンピースタイプのローブだった。普通に可愛いが、他のものと比べると確かに露出は少なく、派手さも抑えられている。
「こ、これなら…」
「あ、でもこれ14000ヴァリスだって…」
「ほぼ全財産!」
「うーん…耐衝撃、耐刃特性有り。西の砂漠地帯で採れる鋼みたいに丈夫な『黒綿』を生地に25%使用。うん、値段の割にはかなり良さそう」
「くぅ…買います…」
物凄い葛藤に苛まれたのも一瞬。俺はエイナさんの読み上げた商品説明にどうしても惹かれ、それを購入することに決めたのだった。
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「うーん…どれにしようかな…」
僕…ベル・クラネルは鎧売り場の一角で、鎧を見て回っては首を傾げ、別の鎧を見ては眉を下げ、を繰り返していた。
ここに来る途中、エイナさんは言った。武具選びとは、出会いだと。冒険の相棒となる武器、防具との出会い、そしてひいてはそれらを作る良き鍛冶師との出会い。それが肝要なのだと。
だから僕はその言葉に倣い、自分の感覚に従い僕なりに防具を見定めようとしているのだが…強いて言うのなら、どれも僕の心を惹かない。
当然、僕なんかにはもったいない程良さそうな作品ばかりだ。目を奪われる防具だってたくさんある。装飾品に凝った豪華なプレートメイルや、重厚さを突き詰めたようなヘヴィアーマー、どんな使い方をしても腐らないであろう、軽いレザーアーマー等々…手に取った瞬間、心が弾んで…でも、どうしてもこれを身に着けた僕、というイメージがどうもしっくりこなくて売り場に戻す…なんてことを続けている。
やっぱり、エイナさんが言うような出会いなど、一朝一夕に出会えるものではないのだろう。そんな諦めが出てきたのは、そんな行為を十数分間も繰り返した後の事だった。
そろそろ向こうも決めた頃だろうし、僕ももう決めてしまおう。そう思って、少し悩んだけどレザーアーマーを手に取った。軽いし丈夫そうだし、この中では一番僕の戦い方に合っている気がする。手に取ってみればなんてことはない、さっきまで悩んでいた時間は何だったのだと言いたいくらいに、僕はすっとこのレザーアーマーを受け入れていた。
「なあ、頼む!」
最終的に良い買い物が出来そうだと、少しの満足感を感じながら僕はレザーアーマー一式を手に取ってレジの方へと向かう。すると、なんだかレジの方が騒がしい。見てみると、そこには鍛冶師…?の人と店員さんがいた。
「今度こそは、もう少しマシな所においてくれ!あんな隅っこじゃなくて!分かるだろ?俺だって、これに命かけてんだ!」
「あ、ああ、どうぞお客さん。ご購入ですね?」
「え?えっと、はい…これお願いします」
レジの店員さんが溜まらないといった様子で僕に話しかけてきた。僕はそれに頷きつつ、カウンターに鎧を置く。
真横に来たことで、思わずさっきまで話していた鍛冶師の人の方を見ると、そこにはむっつりと不満そうに口をへの字に結んだ青年がいた。髪が燃えるように赤い。目はそこら辺の鎧なんか比べ物にならなそうなほど硬そうな意志が宿っていそうだった。
僕はなんと言ったらいいか分からないけど、なんとも『らしい』人だな、とその人を一目見て思った。
そして、だからこそ僕はそんな人がどんな作品を持ってきたのか気になって、彼が持ってきたのであろうカウンターに置かれた箱を覗いた。
「お客さん、代金は全部で――――」
「…あの、ちょっとそれ見せてもらってもいいですか?」
「…あ?」
僕は思わずそう呟いていた。そして、答えを聞く前に箱の中に入っていた―――ライトアーマーを手に取って、目を輝かせた。
「…いい。これ、いいですね!あ、貴方が作ったんですか!?」
「え?あ、ああ…そうだが」
―――これだ!これしかない!
僕はただひたすらにその鎧に心惹かれていた。さっきのレザーアーマーも良かったけど、こっちの方が何倍も良く感じられた。大きさも僕の身体にぴったりだし、何より僕はこの鎧に一目ぼれしていた。エイナさんの言葉を、僕は聞いたそばから実感することになった。
「すみません、僕、こっち買います!」
「ほ、本当か!?」
赤髪の鍛冶師が目を丸くして驚いて、そしてすぐに笑顔を浮かべた。
「あ、ああ、是非買ってくれ!どうだ、こういうのもあるぞ!」
「ちょ、ちょちょちょっと待った!お、お客さん、本当によろしいので?」
店主が訝し気にそう言ってきた。それに反応したのは視線を向けられていた僕ではなく、鍛冶師の方だった。
「おい待てよ…ソレはどういう意味だ…!」
「お、お客さん…だってそれは、ヴェルフ・『クロッゾ』の作品ですよ?よしんば作ってもらうにしても、他にあるんじゃないですかい?」
「なっ、てめえ…!?」
凄まれて気圧され気味な店主だったが、それでも僕に対してそんなことを言ってくる。何故か彼の名前…クロッゾの言葉を強調しながらそう言ったのだ。店主は勝ち誇った目でクロッゾさんを見る。それに対して、彼…クロッゾさんは苦虫を噛みつぶしたような顔を浮かべて、そして気まずげな表情でこっちを見てきた。
ヴェルフ・クロッゾ。それが彼の名前なんだ。僕が一目ぼれしたこの鎧を作った鍛冶師の名前!
「いや、僕、ヴェルフ・クロッゾさんの鎧を買います!これが良いんです!」
僕の言葉に、さっきまで険悪だった筈の店主とクロッゾさんは目をぱちくりとさせ、そして顔を見合わせたのだった。
次の瞬間、鍛冶師の快活とした笑い声がその売り場に響いた。
「ありがとよ、冒険者。お陰であのいけすかねえ店主の鼻を明かすことができたぜ」
その後、店の前のベンチで、僕とクロッゾさんは隣り合って座っていた。僕は手に新品の鎧の入った箱を持って、それを膝の上に置いて大事に持っている。クロッゾさんは今でも思い出し笑いをしながら僕に対してそんなことを言ってきた。
「い、いえ、僕は何も…それよりも、割引までしてもらって…」
「なに、ちょっとした礼だ!それに、俺みたいな木っ端鍛冶師にとっちゃ、自分の作品をあそこまで欲しがってくれる冒険者ってのは手に入れようと思っても中々手に入るものじゃない良縁だ。お前さえよければ、これからもよろしくってな。ま、挨拶みたいなもんだよ」
「そ、そんな!こっちこそお願いしたいくらいです!あの、クロッゾさん、よろしくお願いします!」
僕がそう言うと、クロッゾさんは苦虫を噛みつぶしたような不味い顔をして、どこか言いにくそうに口を開いた。
「…なんだ。俺の事はヴェルフで良い。そっちで呼ばれるのは嫌いなんだ」
「じゃあ、ヴェルフさんで!よろしくお願いします!」
僕が間髪入れずにそう言うと、ヴェルフさんはどこか呆れたような笑顔を浮かべて頷いた。
「ああ!こっちこそよろしくな、ベル!」
それから、僕はエイナさんやテレサが来るまで、ヴェルフさんと話をした。鎧や剣の簡単なお手入れの方法や、良い剣の見極め方なんかも軽く教えてもらった。それから、僕もこれまでの冒険や自分の経験してきた事を話した。
「半月でもう5階層か…凄い奴だったんだな、ベルは」
感心したようにそう呟くヴェルフさんに、僕は首をかしげる。
「…どうしたんですか、ヴェルフさん?」
「いやなに。ベルと仲良くなりたい理由が一つ増えたってだけの話だ。それよりも、ベル。お前さえよかったら何だが…武器や防具を買いたくなったら、直接俺の所に来てくれ。ここで出すよりも安く売ってやるし、材料を揃えて持ってきてくれたら格安で武器を打ってやる!」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。まあ直接契約の練習みたいなもんだ。お前の武器、俺が打ってやるよ」
「うわぁ…じゃ、じゃあ、たくさん材料持ってきますね!」
「お、やる気だな。だったらもし手に入れたらで良いんだがな、欲しい素材がいくつか…」
しばらくそうしていると、悪い、もう時間だ、と言ってヴェルフさんは必ずまた会う約束をして、満足した顔で行ってしまった。僕は少し名残惜しかったけど、奥からテレサとエイナさんがやってきたのを見てベンチから立ち上がったのだった。
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「ふーん…それでその鎧にしたんだ」
「かっこいい…」
ベルの話を聞いて、俺は思わず胸が熱くなっていた。何せ冒険者と鍛冶師の出会いと言ったら、ファンタジーものの作品では定番も定番の展開だからだ。
ベルの持っていた鎧は、確かに他のものと趣が違うように見えた。多くある鎧の中でも特に目を引く白金のライトアーマー。造りも丁寧でしっかりしている。なるほどベルが惚れるのも分かる、格好の良い装備だ。
「どんな方だったんですか?」
「うん。何ていうんだろう…ザ・鍛冶師!って感じの人だった。剣や鎧に対して、凄く真摯っていうか、信念持ってるっていうか!あ、後髪が鍛冶の炉みたいに赤い人だったなぁ」
「へえー…それって、なんだか物語に出てくる鍛冶師みたいな人ですね」
「あ、それが一番合ってるかも」
以前ベルに聞かされたこの世界での英雄物語。その中の『アルゴノゥト』に出てくる鍛冶師が確かそのような感じだった筈だ。
ちなみにこの世界での英雄物語は、地球のソレとは違い本当にあった出来事なのだ。ベルは本当に多くの物語を知っていて、さらになにも見ずに諳んじる程そう言った物語が好きらしい。そんなベルに頼んで、今や俺も歴とした英雄譚マニアだ。剣と魔法がある世界の本物の英雄譚に、燃えない男の子はいないはずだ。まあ、今は女の子だが。
お返しと言っては何だが、俺も俺で地球の物語とかをベルに聞かせている。俺の知っている古典からアニメ、漫画などのサブカルチャーまで色々だ。当然この世界に合うように改変しないといけないが。
特にベルが気に入ったのはfateだった。俺の素人語りでも目を輝かせて、「かっこいいなぁ~!」と物語に出てくる英雄の真似をしていたほどだ。まあ、中二病の男の子は皆fate好きだから仕方ないよね。
そんな感じで二人で鍛冶師から英雄物語に話が移行して会話が続いていると、ふとエイナさんが考え事に耽っているのに気が付いた。
「…どうしたんですか?」
「うん…ベル君。さっき言ってた鍛冶師…ヴェルフ・クロッゾさん、だっけ?その人は多分…」
「ヴェルフさんがどうしたんですか?」
「…ううん、やっぱりなんでもない。それよりも!二人に渡したいものがあるんだ!」
エイナさんは言葉を濁し、そして首を小さく振った。その後すぐに笑顔を浮かべてそう言った。
渡したいもの?そう言えば、俺の買い物が終わった後、ふらっとどこかに行ってたけど…まさかそのために?
エイナさんは持っていた紙袋から、二つの輪っかを取り出した。
「じゃーん!お守りだよ」
「ええ!?」
エイナさんはベルにまず渡し、そして俺にもそれを渡してきた。青と緑の上品な手触りの紐を交差させ、真ん中にくすんだ色の石が埋め込まれている。宝石には見えないが、手触りは普通の石とは違う。
「い、良いんですか?いただいても…」
「うん、貰ってほしいな。それ、実はマジックアイテムなんだよ?擦り切れて紐が切れた時に、何か良い事が起きるんだって」
「ええ!?そ、そんなの、高かったんじゃ…」
「あはは、そんなことはないよ?マジックアイテム職人の新人が練習で作ったアイテムみたいだし…だから遠慮なく貰って?」
「で、でも、どうして…」
目を白黒させているベルがそう尋ねる。すると、エイナさんは照れた様に笑った。
「知ってる?冒険者は名を上げると、ファンが付くの。中にはとっても高いアイテムやポーションをプレゼントまでする人もいるんだよ?どうか、次の冒険でもいなくなりませんように、って願いを込めて」
「は、はあ…」
「だから、私が第一号!ベル君とテレサちゃんっていう冒険者のファンの!」
「えええ!?」
エイナさんは驚くベルと、それから俺にも微笑みかけた。
「だから、どうか無事に帰ってきて、いつも見たいな笑顔を見せてほしいな。5階層から先は、本当に危ないから。朝に笑顔で挨拶しに来てくれた冒険者が、それを最後にいなくなっちゃったことも、沢山あったから…」
実は、ダンジョンの中で最も危険だと言われる場所は上層だ。もちろん下層もまた危険で満ち溢れているが、レベルを上げ鍛えぬいた冒険者は、どれだけ強いモンスターと出会おうがそう死ぬことはない。
逆に、レベル1の新米の冒険者が大勢集う上層は、アクシデントが起きやすく死亡率が非常に高い。そうした場所に送り出した、あるいは勢い勇んで飛び込んでしまった若い冒険者たちが、永遠に帰らぬ人になってしまった光景を、エイナさんは多く見てきた事だろう。
「エイナさん…」
俺は思わず涙ぐんだ。エイナさんがまさかここまで俺達の事を思ってくれているなんて思わなかったからだ。そんな俺をエイナさんは撫でてくれた。
そして感動したのは俺だけではなかったらしい。ベルもまた感極まった表情で腕の裾で目を擦り、
「ぐすっ、エイナさん…!大好きぃぃ…!」
「うぇ!?」
と絞り出すような声でそう言って、エイナさんの顔を即座に赤く染めたり、周囲で聞いていた男冒険者たちのヘイトを買ったりしてひと騒動起こしたのだった。
――――――――――――――――――――
「という訳で、安全第一で行きましょう!」
「うん!」
俺の言葉にベルは力強くうなずいた。
ダンジョン第5階層、その入り口。今まで狭い通路に、広くて20m程度のルームが点在していた4階層までと比べて、5階層から先はルームが広くなり、全体のマップが複雑化していく。
確かに入り口から先は広大なルームに繋がっているらしく、壁の色も変わっている。モンスターの出現頻度もまた上がるのだ。
ヘスティア様からも「絶対に危険なことはしない様に!」と主神命令を貰っている。俺たちを思ってくれる人が二人もいるのだ。絶対に死ぬようなことはあってはならない。
そして、いざとなった時に働かなければならないのは俺だ。このパーティーの回復職として、俺は最も危険な時にこそ全力を尽くさなければならない。今まではゴブリンやコボルト相手にベルが無双していたのでそんな意識も低かったが、ここから先はそうはいかない。
プレッシャーがかかるが…それでも、ベルだけは死なせてはならないという思いの方が強い。しっかりとベルを支えてやる。それが俺がここでしなければならない全てだ。
覚悟を決めてベルを見ると、どうやらベルは俺を待ってくれていたらしい。俺と目があいほほ笑んでくる。それに対して俺も頷いた。
「それじゃあ…」
「うん。いこう!」
新しい冒険が幕を開ける。
この時、俺もベルも、きっと思っていなかっただろう。最初の一歩が、まさか死地への一歩になる事など。
ダンジョンは何が起こるか分からない。その言葉の意味を真の意味で理解することになったのだ。
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