ライカの姉の結婚式から数日、朝食後にアズサが何も言わずに外出をした。まさかこれは…アズサに男の影が!?

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アズサに恋人が!?

 アズサ・アイザワはいわゆるみんな大好き転生者という奴だ。

 日本人として生きていた時代はOLとして仕事一筋の生活を送っていたが、無理がたたって過労によりその短い生涯を終えたのだ。

 だが何の因果か女神に目を付けてもらい異世界でもう一度人生をやり直す機会を貰った。しかも初手不老不死という生物の繁栄の枠組みから逸脱する力を授かって転生するという至れり尽くせりのニューゲームなわけだ。

 フラタ村という場所に定住してからというもの毎日スライムを狩り倒して生活を送っていた。

彼女はスライムに何かしらの恨みを持っているわけでは無い、不老不死とはいえ最低限の生活費は必要で、スライムをコツコツ倒してそれを換金して生活費の足しにしていた。

 スローライフが軌道に乗って、魔女として薬草や医療の類で儲けられるようになっても続けていたのはぶっちゃけ暇つぶしだとか、運動の延長だとか、ルーティーン化しただけだとか。

 そんなこんなで三百年の月日が経っていた。

 

 

 ライカの姉の結婚式での騒動が終わってから数日たったある日。

 

「……?アズサ様は?」

 

 高原の魔女の家に住む家族たちが朝食を取り終えて後片付けを行う中、ふとテーブル周りを見ていたライカは自分の師として尊敬している女性のアズサがいない事に気が付いてそんな問いかけをする。

 彼女は元々強い人間がいるといううわさを聞いて、レッドドラゴンとして高い実力を持ち、そして自分を更に高めるために戦いを挑んだのだがあっけなく敗北。そしてその強さを求めて弟子入りという形でこの家に飛び込んだ。

 彼女のその問いかけに反応をしたのはこの家に居候しているバラエティー豊かなメンバーである彼女を除いた三名。

 

「うーん…知らなーい」

「シャルシャも姉さんと同じ」

「そう言えば朝食後から姿が見えませんね…」

 

 ファルファは素直に、シャルシャは少しだけ申し訳なさそうに、ハルカラは明確に答えられなくて困ったなといった感じ。

 問いに対して三者三様のリアクションを見せるが、その共通項はアズサの居場所は分かっていないという事だ。

 

「ママって当番じゃない日はいつも朝食後にのんびりコップ片手にソファーに座ってるはず」

 

 頬に指をあてて思い出すようなしぐさをしつつ答えたのはファルファ。

 彼女は精霊、それもアズサに倒されたスライムの魂によって構成された存在で、生まれるきっかけになったアズサを母親だと慕っている。

 ちなみに見た目十歳ほどであるのだ。実は生まれてから既に五十歳を超えていて高い教養を持っている割には、口調や態度もまた見た目相応であるため猫を被っている疑惑がかかっている。

 

「うん、この家に住んでから長くないけど。姉さんの言う通り、母さんは食事の後ものんびりしている。これは見たことの無いパターン」

 

 ファルファの妹であるスライムの精霊であるシャルシャは冷静に分析…と言うほどでもなく普通に思った事を言っているだけ。

 文学関係が得意で歴史や神学に明るい女の子(スライムに性別はあるのか)。

 因みに実際は生まれたタイミングはほぼ同じで、姉と妹というのは自分たちで勝手に設定として決めたものらしい。

 

「う~ん、お師匠さまって街で勤めているわけじゃありませんよね?」

 

 そう言ったのはエルフのハルカラ。

 今この家に住んでいるメンバーの中では一番の新参者。豊満な体系が一番目を引く容姿をしていて、一日二回のペースで発育が良いといわれる。

 アズサのルーティーンや生活リズム全てを理解できているわけでは無いのだがそれでも街で仕事に従事しているわけでは無い事は何となくだが理解できている。

 かつて生まれ育ったエルフの村で栄養酒と呼ばれたいわゆる栄養剤と同じく持つ滋養強壮効果のある飲み物を発明して売りさばいて一山当てた女だ。

 発明によって生まれたその名声は村を飛び出し、そして多くの街や国へと広まっていった。それは魔族の住む国にまで広まり国の大臣の一人ベルゼブブにまで届いた。

 だがベルゼブブがそれを呑んで暫くが経った後、体調を崩してハルカラを探し始めた。それを報復ととらえた彼女はアズサに助けを求めて今に至る。

 ちなみに栄養酒が魔族に悪影響を与えるわけでは無く、飲み過ぎの働きすぎで体調を崩しただけだったそうな。栄養酒の生産が途絶えたのを見て探していただけだったというオチ。ちょっとおっちょこちょいなのだ、ハルカラは。

 あとでその事を知ったアズサにブチギレられたのはいい思い出。

 

「……そうですね…アズサ様は魔物を倒したりしてギルドでお金を貰う事はありますが、街の中にある店で就労しているわけではありません」

 

 ハルカラの疑問に少し思案した後ライカは答える。

 アズサは基本的に自宅かその周辺で時間に拘束されることなくダラダラするのが好きで、定時制の仕事には就いていない。気まぐれでアルバイトのようなことをする場合もあるがそこまで長続きはしていない。

 基本的な収入源は魔女らしく薬を作って売ったりする事か魔物(スライムが多い)退治をして魔石をギルドで換金するかの基本二択だ。

 

「…ママが何も言わずに姿をくらませる…?」

「母さんは何か秘密を抱えている…?」

 

 スライム姉妹はうーんと考え込みながらアズサに何があったのか考え始める。

 秘密など誰だって抱えているし、むしろ何もないオープンな人なんていやしないだろう。

 

「むむむ…これはっ…恋の匂い!」

 

 恋愛脳のエルフは家の家主不在のこの状況をそう結び付けた。

 つい最近知り合いの姉がうん十年の恋を実らせたのを見て、彼女の中にある恋したいメーターがマックスを超えちゃいそうなのだ。一瞬たりとも恋を匂わせたら彼女は逃しはしないのだ。

 

「母さんに恋人が」

「あ、アズサ様にっ!」

 

 シャルシャは意外そうな感じ。長年高原の魔女を研究してきた彼女にとって、ここ五十年は男の影すら感じさせなかったのだ。

 ライカはほんのりとショックを感じながらも顔を真っ赤にして照れている、自分の事ではないというのに。

 彼女は自分の姉が結婚してからというもの自由に会えなくなったため、アズサに姉の背中を重ねて頼っている節がある。

 

「ぜひ知りたいです!探しましょう!お師匠様の逢瀬の相手を!!なーんだあの時は無いとか言ってたのに嘘だったんですね!!」

 

 ハルカラは場の流れがアズサの恋人がいるのかにシフトチェンジしたのを察して大声で提案をする。

 しかし優等生であるライカはそれに対して弱々しい声でありながらも否定意見を述べる。

 

「し、しかし勝手にプライバシーに踏み入るのは」

 

 だがここでの勢いはハルカラにあった。

 

「でも気になりませんか?お師匠様の心を射止めた相手ですよ?」

「それは……」

「気になりますよね?」

「…………」

 

 うん、すっげー気になる。正直な話ライカはそう思った。

 人間でありながらもレッドドラゴンとして強大な力を持つ自分を圧倒しただけでなく、ブルードラゴンの群れも傷つくことなくひねりつぶして見せたあの実力。しかもそれを成してなお自慢する事も無ければ誇る事も一切しないあの気高さ。

 力だけでなくありとあらゆる魔法を扱い、そして発明できる高い技術と頭脳を持っている。そしてありとあらゆる病を治せるだけの薬草の知識も持っている。

 それだけのものを兼ね備えながらも、それらを自慢する事も驕る事も無く質実剛健に暮らす謙虚さを兼ね備えている。

 ライカはその生き様を憧憬の一つとして定めている。

 だが残念ながらアズサの本心は目立ってスローライフを邪魔されたくないだけなのだが、それはライカが知らなくてもいい事だろう。

 

「ママの恋人さんかーじゃあ私達のパパって事?」

「うん母さんと婚姻関係になったら私達は連れ子」

 

 どうやらファルファとシャルシャもまだ見ぬ相手に妄想を膨らませているようだった。

 ハルカラは他のメンバーも気になっているの感じて口火を切る事にする。

 

「行きましょう!きっとフラタ村のどこかにいるはずです!!」

 

 

「おーアズサさんだ」「あ、高原の魔女様だ」「おーいアズサ様~」

 

 街中に入るとアズサを迎え入れたのは朝の仕事の仕込みなどをしている住人の出迎える声だった。

 アズサは朗らかな表情で手を振って応える。

 もう三百年も生きてこの街に薬草の開発などで貢献し、そしてその歴史を蓄積する生き字引となっている彼女は当然この村一の有名人だった。有名人というよりも神格化されすぎている節も若干だがある。

 彼女はそれも致し方ない事だと思っている。もし自分が普通の人間でうん百年も過ごしている相手を前にしたらどうも気後れしてしまうだろう。

 村の人達はいい人ばかりで穏やかな時間を共有できる素晴らしい人たちばかりなのだが、腹の内までさらけ出せるかと言われたらそれはノーだ。転生云々を抜きにしても。

 表面上は上手い事付き合えている、無理をしているわけでも仲が悪いわけでは決してない。だが今この村には親友と呼べるほど親密な友人はいない。

 

「…………」

 

 彼女が足を止めたのは花屋だった。

 人が花屋に入る目的には様々ある。自分のお店に彩を求める者。自宅に華やかさを求める人。好きな人や愛おしい人にプレゼントする人。

 そして花に特別な意味を持たせて贈るため。店の中を見ると目的の種類の花を彼女は見つけた。

 

「すみません」

「あっ、いらっしゃいませ」

 

 アズサはまだ店の準備の全てが全て終わっていないのは何となく分かっていたが失礼を承知で声をかける。

 店の店主かもしくはその店員と思われる女性が準備の手を止めて慌てて客前まで出てくる。

 申し訳ないと思いながらもアズサは店員に要望を言う。

 

「ごめんなさい…その…良かったら花を何束か買わせて欲しいんですが…」

「まだ店の準備が全て整っていないので満足な物は用意できないかもしれませんが…」

 

 欲しい目的のそれに指を差す。

 

「いえ…欲しい花は置いてあるのでそれを貰えれば」

 

 

「お師匠様いませんねー」

「ええ、アズサ様は朝早く出て行ったのですぐには見つけるのは困難かと」

 

 ハルカラのボヤキに対してライカは思った事を口にする。

 話し合ってからドラゴンの姿になったライカに乗ってフラタ村に着いてから捜索を始めたものの、アズサが普段使いしている帽子やローブは見つからなかった。

 

「街の人達に聞いてみる?」

「聞き込み開始」

 

 スライム姉妹は警察よろしく聞き込みをすることにしたようだ。

 

 

『アズサさん?なら朝にこの店の前を通ってたよ。え?おかしなところ?特にねーな』

『魔女様なら声をかけたら笑顔で手を振り返してくれたわ』

『魔女さんなら花束をいくつか持って歩いていたな。いや行先は分からないな』

 

 

 ハルカラは聞き込みの結果を総括してぅぬぬと唸る。

 

「お師匠様は特に挙動不審というわけではなさそうですね……」

「もし悟られたくない何かがあるならもっと多くの人に挙動不審に映るはず」

「うん、そもそも見られたくないなら人目に映らないように細道を使ったり視線に気を遣うよね」

 

 シャルシャとファルファも同じような考察をする。

 やましい何かがあるというのならもっと怪しい印象を醸し出すはずだし、姿を見られたくないなら手を振り返すなどあり得ないだろう。

 

「アズサ様に恋人などいるわけが…いえあの方は魅力的な方…そんなはずは…あれ…」

 

 ライカは「アズサ恋人との逢瀬説」を否定しようとしたが、それを押したらまるで自分の師に魅力が無いみたいではないかと思い至ってすぐさま発言をキャンセル。結局何を言いたいのか分からなくなってしまう。

 

「いえ……これは罠です!」

 

 ハルカラは諦めるつもりは無いようだ。

 ライカは相手の発言に耳を傾ける。

 

「罠…ですか?」

「そうですよ!恋人がいるのを悟らせない為に普段通りに振舞っているんです!」

 

 シャルシャはハルカラのその考察に同意を示す。

 

「なるほど、つまり母さんは浮かれているのを抑え込んで」

「……それって他の人に知られたくないんだよね?ならこれ以上は止めた方がいいよね」

 

 ファルファはこれ以上の捜索は相手の嫌がらせにしかならないのではないのかと真っ当な意見を口にする。

 ハルカラもそのストレートな物言いを聞いて「うっ」と怯む。

 当然の事だがプライベートに踏み込まれていい思いをする人は殆どいないだろう。

 

「ううぅ……でも騙されているかもしれないじゃないですか!」

 

 ハルカラは苦し紛れに叫び出す。街のど真ん中で突如叫ぶもんだから視線を集めてしまう。

 

「ちょっ!落ち着いてくださいハルカラさん!」

 

 ライカは無用な視線を集めているのを感じて慌てて口に手を当てて黙らせる。

 しかしハルカラの興奮は収まる事を知らない。

 

「ふぁいてがわふいひほはっはらほーふるんでふか!」

「何が言いたいんですか!?」

「ライカさん!手!手!」

 

 ライカは意味不明な事を言う相手に少し荒っぽい感じて答えてしまう。

 興奮して自分で話しづらくさせている事に気が付いていないライカに慌ててファルファが指摘をする。

 

「あ、ごめんなさい」

「ぷはっ!酷いですよ!」

 

 冷静さを取り戻したライカは素直に謝罪をする。

 ハルカラもまた多少であるが血の巡りは正常に戻ったようだ。先ほど話せなかった事を再度口にする。

 

「えっとですね、もしお師匠様のお相手が悪い男だったどうしますか?」

「悪い男…ですか……」

 

 ハルカラのその指摘にライカの脳内にはある光景が。

 

 

『おいアズサ酒持って来い!』

『もう家にはそんなお金なんて……』

『うっせえ!いいから体でも売って金工面して買ってこい!』

『きゃあっ!?』

 

 

「…………」

 

 そんなドラマでも臭すぎると判断されてしまう展開を想像してしまうライカ。

 

「悪い男ってなーに?」

「働かない亭主」

 

 ファルファの疑問にシャルシャは合っているような合っていないような曖昧な回答をしてしまう。

 

「許せません……」

『?』

 

 腹の奥底から出たようなドスの聞いた声をだすライカに不審そうな視線を送る三名。

 

「アズサ様の安全は我が守ります!あの方に着く虫は確実に排除します!!」

 

 ライカの脳内には既にアズサに恋人がいて、それもダメな男になっている。

 

 

『私アズサと言います。高原の一軒家に引っ越してきました』

『ああ、あそこにですか。私はナタリーです。さて、フラタ村のことから話しましょうか』

 

 親切なギルド職員の女性が確かにこの街にいた。

 

 

「すみません……」

 

 謝罪するライカ。一時の感情に身を任せて勝手に熱くなってしまった事を恥じている。

 四名は現在街の中にあるベンチで一休みしていた。

 既にアズサ捜索から一時間以上は経過していたが、目撃情報こそ見つかったが何を目的としているのか見当はついていない。

 ファルファはアズサの行動から目的を推測しようと頭を働かせる。

 

「ママはお花を買ってたんだよね?何をする気なんだろう?」

「花…プレゼント……」

 

 シャルシャは花の基本的な使い道は一帯を彩る目的以外に他者に送る事にあると考えた。

 

「……まさかっ」

 

 ハルカラはまたもよからぬ思考を巡らせる。

 その呟きを聞き逃さなかったライカは問いかける。

 

「何ですかハルカラさん」

 

 相手は興奮した様子で答える。

 

「プロポーズ…逆プロポーズですよ!」

「プロポーズッ!」

 

 ライカにとってそれは覚えのある単語だった。

 つい先日彼女の姉は結婚した。初心なライカはどちらが先に好きになったのかとか、どちらが結婚を切り出したのかなど聞けなかったのだが、どちらかが話を切り出して相手がそれを了承したという事は彼女も想像できた。

 男性からプロポーズするのが当たり前と思われるし、実際に男性が切り出すケースの方が多数を占めているが、別に女性から結婚を切り出したとしても問題は無い。

 

「わーおめでとう!」

「うん、とても幸福な事」

 

 スライム姉妹は笑顔でお互いを見やりながらそう言う。

 二人はアズサに春が来ることを肯定的に捉えている。まだ結婚が確定したわけでも無いのに既にお祝いムードになっている。

 

「あ、アズサ様が結婚…?」

 

 だが一方でライカは祝福したい気持ちと同時に、寂しくそして相手を嫌悪する気持ちも生まれてしまった。

 彼女は無自覚だったが、姉が結婚して気軽に会えなくなる関係性になったため、姉としての依存したい気持ちを無意識にアズサへと向けてしまっていた。

 もしアズサに伴侶が現れるのであれば自分に構ってくれる時間は今よりも格段に減るだろう。

それはライカの一存で決められる事では無いし、我儘を言って困らせてはいけない。

 

 

『すみません、私アズサって言います。そのこの街の郊外に住むことにしたのですが……』

『旅のお方ですかな?』

『えーっとそうです。いい街だなって思って住もうかなって…』

『見る目がありますね、取りあえず衣食住に必要なお店を書いた地図をどうぞ』

 

 この世界の事をまるで知らない無知なアズサを受け入れてくれる優しい村の役人がいた。

 

 

 既に捜索から三時間以上経っており太陽も南中しかけている。

 そろそろ昼休みだったり昼食を取り始める時間帯だ。

 

「ママ見つからない~」

 

 ファルファは少し疲れているようで集中力が散漫になっている。

 ライカはここである予想にたどり着いた。

 

「…もしかしたらアズサ様は街中にいないのかもしれません」

「母さんがいない?」

「はい」

 

 ライカの発言に一番早く反応したのはシャルシャだった。

 ハルカラはその発言の意図に気が付いたようだ。

 

「あ、そうですね。お花だけ買って街の外に出たかもしれませんね」

「はい、アズサ様はそのお相手と隣町で会っているのかもしれません」

 

 ライカはハルカラの発言に肯定の意を示す。

 浮気や不倫を上手くやれる人間はバレないようにするために恋人A用の店、恋人B用の店など店員に変な詮索をされないように相手と会うテリトリーを細かく分けているものなのだ。

 秘密は黙ってくれと周りに頼んでも結局は何処かで漏れてしまうものなため、生活圏を上手く区切るものだ。

 まあアズサに恋人がいたとしてもそれは浮気でも不倫でもないため特に問題は無いが。

 とにかくアズサが周りにバレたくないと思っているのならフラタ村の中で会うような真似はしないだろう。実際ライカ達が聞き込み調査をした結果、多くの人達はアズサの行動をぺらぺらと話している。

 秘密は守りたいならただ懇願するのではなく、自ら行動を起こさなければいけないというわけだ。

 

「だとしたらお師匠様を見つけるのは難しいですねー…」

 

 ハルカラはどっと疲れが出たのか気の抜けたトーンで口を開く。

 ナンテール州にはいくつかの村や街があるが、一日で全ての場所を調べ上げるのは困難だ。

 流石に何も言わずにどこかで一泊するとは考えにくいため夜までには家に帰ってくると思われるのだが、それでは真相は闇の中だ。

 

「いったん休憩にしますか?取りあえずお腹ペコペコです」

『!』

 

 ハルカラは既にお昼なのでそう提案する。

 ファルファとシャルシャはぱあっと目を輝かせてその話に食いつく。二人もすっかり疲れていたようだ。

 ライカもまた首を縦に振って肯定を示す。ここに来て無駄足だったかもという情報によってどこか皆からモチベーションが落ちていた。

 

 

『いらっしゃいませー』

『えっと…おひとりさまです』

『えっと、はい!おひとりさまですね!』

 

 街中のレストランの店員はちょっこり見当違いな発言をするアズサにも笑顔で返す。

 これが優しい店員と初めての邂逅だった。

 

 

「…………」

 

 アズサが向かっていた場所そこは墓地だった。

 墓地そして墓標。それは人が生まれてから生き抜いてその先にある場所。死ねば皆同じ結末を迎える。

 だが例外はある。それは不老不死だ。

 アズサは死ぬことはない、生まれた変わったその時から彼女は人として他者と同じ足並みで歩むことを許されない存在だった。

 

 

『ナタリー!しっかり!』

 

 アズサはギルドの受付嬢として出会った女性に声をかけていた。その彼女もしわくちゃのおばあちゃんになっており布団に横たわっている。

 あの日の出会いから四十年ほどが経っている。相手の年齢は六十歳近くになっており天寿を全うするには十分な時間が過ぎた。

 ナタリーは結婚をした後ギルド職員を引退したがアズサとの関係性は継続していた。良き友人として過ごしていたのだが、ある日途方もない違和感を感じた。

 

『アズサって不老不死だからしわや染みが出なくて羨ましい』

 

 ナタリーのその発言は特に意味があったわけでは無い。

 そこで何故ありとあらゆる創作物でも不老不死が禁忌的な存在として書かれているのか気が付いた。

 その時アズサは軽い気持ちで不老不死などを要求したが、それは生き物としての進化に叛逆する行為だ。まともに生きられるはずもない。

 

 

 そもそも何故生き物に寿命という概念が存在するのか、元々細菌だった生物には寿命は存在しなかった。そもそも細菌は寿命で死ぬことは無い、死ぬときは周りの環境の激変によってか栄養不足による死滅が主だった死ぬ際の理由だ。

 一方で最近は分裂して生殖するため一体が死ぬ環境激変に見舞われた際は連鎖的に全滅してしまう脆弱性を持っていた。

 そこで生まれたの交配という増加方法だった。異なる要素を掛け合わせる事でより多様的な環境でも生存が見込めるようになったため安定した生存を可能とした。

 寿命というのはもし仮に、交配の先に致命的な欠陥を抱えた遺伝子が生まれた際に死ぬことで後世に欠陥的な遺伝子を残さないためだ。

 

 不老不死はそれを無視して生き続ける。

 人と人との繋がりなどなくてもそれだけでも完璧な存在であり続けるのだ。そう、完璧であるがゆえに他者を必要としない。

 

 ナタリーは子供や孫に囲まれながら安らかに眠った。

 

 

 アズサはそんな事を思い出しながら墓標の前に花を供える。そして膝を追って手を合わせて黙とうをする。

 それは日本式のマナーなのかもしれない、この世界では西洋のような世界観を持っているため和風形式のやり方はそぐわないと考えられる。

 だがアズサは自分の知る日本のやり方が一番自分の心を伝えられると感じたから長年継続をしている。

 

「……こっちは楽しくやれてる。そっちには行けないけど家族と騒がしくって、それに楽しくやってます」

 

 アズサは墓標の前で一人呟いていた。

 今日一日で多くの人の墓標に足を運んで挨拶をしていた。それだけで午前を丸々使ってしまった。

 

「…同居人かな…私ってば他の人と一緒に暮らしてるんだ……ドラゴンのライカでしょ、スライムの精霊のファルファとシャルシャでしょ、それにうっかり者エルフのハルカラでしょ…それに一緒に住んでないけど魔族のベルゼブブもいる」

 

 彼女は指を折りながら家族を紹介していく。

 トラウマというほどでは無くても知り合いが寿命で死んでいく姿を見る事しか出来ないと気が付いてから、他者に冷たいとは言わなくて浅く表面上の付き合いに留まっていた。

 彼女自身、自分でもライカを受け入れた事に驚いていた。思っていた以上に他者のぬくもりに飢えていたのかと。

 

「また来るね…私ってば不老不死だからさ…どうせまた次もあるから……」

 

 そう言って街の郊外にある墓地から出て行った。

 

 

「あれー?みんなこんな所で何してんの?」

「え…アズサ様?」

 

 昼食に行こうかと話し合っていた四人の前に現れたのはアズサだった。

 最初の驚いた声を出したのはライカ。

 

「ママだー!」

「母さん」

 

 ファルファとシャルシャはアズサのもとへと走って行って抱き着いた。

 ハルカラはいち早く冷静…を取り戻してはいなかった。

 

「お師匠様!どこに行ってたんですか!?」

「はぁ…?どーしたの突然…」

「恋人との逢瀬は…どうなったんですかあああ!!!!」

「恋人ぉ!?」

 

 あまりにも予想外な切り出しに素っ頓狂な叫び声をあげてしまう。

 相手は過程をすっ飛ばしてストレートな問いかけにまともな反応を返す事が出来ない。

 

「えっとですねアズサ様…」

 

 ライカは事情が掴めていないアズサに四人が何故街中をぶらついていたのかの説明をする。

 話を聞くたびにアズサは頭痛を感じて頭を抱える。まさかここまで勝手にストーリーを組み立てられているとは思わなかった。

 立ち直った彼女はとにかく自分が口にするべき事を決める。

 

「えっと…まず黙って外出してごめんなさい…」

 

 最初は謝罪だ。知られたくなかった事とはいえ自分が黙って外に出たからこそ無用な不安を抱かせてしまったのだ。

 いまだ興奮状態を維持するハルカラは畳みかける勢いで問いただす。

 

「それで恋人は!恋バナは!?」

「無い」

「嘘はいけませんよ!?」

「無いものは無い」

「そんなぁ…」

 

 アズサが嘘をついていないと分かるや分かりやすくしょんぼりしてしまう。

 ライカは恋人がいないと分かるやホッとした表情を作る。だが同時に疑念も生まれたため問いかける。

 

「では何をしていたのですか?」

「へ?」

 

 その一言にアズサは驚いた声をあげる。

 恋人がいないのなら何をしていたのか気になるのは当然の流れだった。

 四人の視線がじーっ…っとアズサのもとへと集中する。それを受けて彼女は「うっ」っと怯んでしまう。

 

「え、あ、うーんっと…あ!そう言えばお腹すいちゃったな!レストランにでも行こうかっ!」

 

 アズサは露骨な話題逸らしを図る。

 

「さんせーい!」

「シャルシャお腹空いた」

 

 精霊組はアズサの秘密よりもまず、自分が瀕している生理現象を優先した。

 ライカは知られたくない事だったのかと気が付いてそれ以上の追及はしなかった。

 

「ちょっちょっとぉ!それは無いですぅ!その露骨な話題の逸らし方!本当は恋バナがあったんじゃないんですか!?」

「それは無い」

 

 ハルカラの苦しい追及も恋人の部分だけはキッチリ否定する。

 

 いまだに人との繋がりに対して全て乗り越えたわけでは無い。

 それでも今傍にいてくれる大切な家族と定めた人たちと少しでも長く楽しい時間を過ごせたらいいなとアズサはそう思うのだ。


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