これは呪術廻戦の二次創作です。本編とは全く関係の無い、また違う世界線の話と思って頂ければ嬉しいです。
気楽に読んで頂ければ幸いです。
※pixivでも同じものを投稿しております※
「お久し振りです、
午前11時半。
僕はとある、駅近くにあるビルの前で待ち合わせをしていた。
「待ちましたか」
「ううん、待ってないよ。それよりも急に誘っちゃってごめんね。でも会えて嬉しいよ」
相手は
海外にしばらく行っていた僕は、こうして帰って来た今、仲の良い人を誘って暇な時に出かけている。
僕が一年生の時の担任だった
「えっと、ここのビルの最上階にレストラン街があってね、その中にオススメの和食屋さんがあるから、行こう。僕が奢るからさ」
すると彼は首を横にブンブンと振って、
「そんな申し訳ないです。自分の分は自分で出します」
「律儀だなぁ伏黒君は。良いんだよ。僕が誘ったんだし、それに特級術師は給料が良いからね」
少し悪い笑顔を見せる。すると彼は一つ溜息をつき、「ありがとうございます」と丁寧に礼をする。
「良いよ全然。さ、行こ行こ!」
久し振りにゆっくり話が出来ると思うと楽しみで、僕は思わず彼の手を引いてビルの中へと入った。
✕ ✕ ✕
最上階にあるレストラン街。そこまで流石に階段で登るのは辛いので迷わずエレベーターの上がるボタンを押す。
「……伏黒君、どうしたの?」
しかし彼はどこか落ち着かない様子。
「いえ、何でもありません」
触れない方が良いのかなと思い、僕はそっとしておいたのだが。
エレベーターに乗っている間、彼はさっきに増してどこかそわそわしていた。何かに
何度か声をかけたが返ってくる返事は全て、「何でもない」の一点張り。まあ何でもないと言うなら良いかと思い、最上階にある和食店を目指した。
✕ ✕ ✕
「美味しかったでしょ? ここの店の豚肉の生姜焼きは美味しいって評判なんだよ」
「美味しかったです。あんな美味い生姜焼き……初めてかもです。ご馳走様でした」
「伏黒君は生姜好きだもんね」
そんな風に雑談を交わしながら、エレベーターに乗り、1階のボタンを押す。
──と、その時。
ガタンッ!
そんな衝撃音と共に、エレベーターが突然、止まった。
「故障……? ここ人いっぱい来るはずなのに……」
「止まって……るんですか?」
「うん、そうみたい……。──伏黒君?」
ふと隣の後輩を見ると、身体の震えを隠しているように見えた。
明らかにおかしかった。
顔は青ざめ、呼吸は浅く、冷や汗をかいている。
彼の手首の脈を、付けていた腕時計の秒針を見ながら測る。──15秒間に46回……。
「脈拍184……? ねぇ伏黒君、どうしたの? 脈早いし呼吸も浅くて……うわっ!?」
立っているのも辛かったのだろうか、彼は僕の方へ倒れ込む。
「大丈夫!? しっかり!」
呼びかけるが、目は虚ろで反応も曖昧だ。
「……パニック発作……?」
この状況を見て浮かんだ言葉がそれだった。
すると伏黒君が掠れた声で言う。
「俺……閉所……恐怖症で……すみません」
「そんな! 謝らないでよ! 取り敢えず、ゆっくり深呼吸しよう。ほら、僕が手握っててあげる。体重、預けて良いよ」
僕は微かに震える彼の手を握り、「吸ってー、吐いてー」と何度も言い続けた。それに合わせて呼吸をしていくうちに、彼の過呼吸も徐々に落ち着いてきた。
しかし未だエレベーターが動かない。確か閉所恐怖症の人はエレベーターとかバスの中みたいな逃げ場のない狭いところが怖いはず……。
ここで僕は思い出した。
店に入る前、エレベーターで最上階に行く時、伏黒君はどこか落ち着かない様子だった。何かに怯えているような、そんな感じ。──それが閉所恐怖症の所為だとは思ってなかった。
「……伏黒君。ここは大きなビルだし、じきに動くよ。今君はとっても不安で怖いと思うけど、僕がいるから。大丈夫だよ。脈も少しずつ落ち着いてきてるし、復旧するまでどれくらいか分からないけど……。怖いね。大丈夫、怖いことは何もないよ」
「せ……せんぱ……ぁい……」
恐怖症が余程重症なのか、まだ手の震えが治まらず、怖さの余りか、泣き出してしまった伏黒君。
「伏黒君、どこか痛い所は? 変な所はない?」
「……息が……苦しい……あと……手が……痺れる」
僕はエレベーターが動くまでの間、彼の両手を握りながら、もう片方の手で彼の背中をさすり、何とか落ち着けるように努力した……が、僕は専門的な医療の知識がある訳じゃないので、正直どうしたら良いのか分からない。ただ少しでも恐怖感が和らぐようにと、大丈夫だよ、と言い続け、背中を撫で、手を握り続けた。
──そして10分程経った頃だろうか。
エレベーターがようやく動き出した。
しかし「閉鎖された空間」そのものに恐怖を感じる(と勝手に解釈した)伏黒君はまだぐったりとしている。
1階に着くと、僕は彼をおぶって、近くのベンチまで連れて行き、横にあった自販機でお茶を買った。
「お茶、飲める?」
ペットボトルのキャップを取り外し、彼に渡す。涙目の彼はそれを二口ほど飲み、ありがとうございます、と僕に返した。
「ちょっとは落ち着いた?」
「……もう大丈夫です。ご迷惑おかけしました」
「迷惑なんかじゃないよ! そりゃ、びっくりはしたけど……迷惑だなんて思わないよ!」
僕がそう答えると、彼はおもむろに口を開き、自分のことを話し始めた。
「俺がまだガキだった時、出来心で押し入れの中に入ったんです。その時、俺が遊びに行っているのであろうと勘違いした姉貴が押し入れの前に何か大きな荷物を置いて……。そのまま5時間くらい1人で」
「5時間!? ……そっか、それがトラウマで……」
「はい。だからなるべくエレベーターは乗らないようにしてたんです。……でも乙骨先輩優しいから、きっと俺の体力とか気遣ってエレベーター呼んだんだろうなって。──本当にエレベーター止まった時は死ぬかと思いました」
「……パニック発作って、死がちらつくって言うもんね。……伏黒君、君は自分のこと話さなすぎだよ。もし僕を信頼してくれてるなら、そんな重度の発作起こすくらいの恐怖症とか、過去のトラウマとか、話さなきゃ。言葉にしないと分からないよ」
優しく諭すと、「ほんとその通りですよね」と自嘲気味に言う伏黒君。
「
「それは違うよ」
覆い被さるようにはっきりと言う僕。少し驚いたように彼は僕を見る。
「多分虎杖君達も同じこと思ってると思うけど、心配かけたくないなら話して? 今日みたいに、何も知らないでいて急に体調悪くなった方がびっくりするし、心配。それに伏黒君は何でもかんでも1人で抱え込みすぎだよ。虎杖君の宿儺の指の件も、伏黒君は『自分を守る為だった』『自分が非力だったから』って思ってるんじゃない? でもさ、虎杖君は絶対そうは思ってないよ。だって虎杖君にとって伏黒君は、元々いた学校の先輩を呪霊から守ってくれた訳だし、宿儺の指の危険性を教えてくれた。その上で、虎杖君は
「先輩……」
「だから。これからはもっと打ち明けてね。信頼出来る人だけでも良いから、不安に思うこと、怖いこと、構わず言うんだよ」
僕達はそこで指切りげんまんを交わした。
「何か……久しぶりです。こんなに他人に優しくしてもらえたの。温かい」
「僕は当然の優しさを与えただけだよ」
僕の見間違いかも知れないが、この時の伏黒君はどこか心に縛りついたものが取れたような、吹っ切れたような、そんな笑顔をしていたような気がする。
君が救われるなら、僕はいつでも手を差し伸べるし、話も聞く。
──だって君は、僕の大切な後輩だからね。
最近の呪術廻戦の展開が悲し過ぎたのと、呪術廻戦のまた違う、オリ主の長編小説を書いている傍ら、書いてみました。
エレベーターや不思議な部屋に閉じ込められるというシチュエーションはよく二次創作でありますが、そこで起こる事件が実は閉所恐怖症だった人が発作を起こしちゃって……っていうのが余りないなと思ったので、思いついたまま書きました。
駄文でしたが、読んでくださりありがとうございました。
またどこかでお会いしましょう。