IF.皇帝の幻の遠征計画と半人半バのお嬢様   作:なすび。

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 大変おまたせしました。
 爆死を防ぐため重要な設定変更が近況報告にございます。
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 まことに勝手ながら申し訳ございません。
 平たくまとめるとケイローンやサジタリウスがそう言った名前のウマ娘だったケースに備え、半人半バ(セントウル)という名称は、とりあえずウマ娘の身体能力に近い存在が何故かそう言われているに変更させていただきました。

 スタートはトレーナー視点で
 場面切り替わりからルドルフ視点です
 それではどうぞ


【幕間】旅立ち前、時計うさぎのお茶会

――20××年+1 5月29日 午前5時――

――トレセン学園 総合トレーナー室――

 

"――なんかもう、申し訳なさすぎる――"

 

 はっきり言って今の気分は多摩川にダイブしたくなるくらい大分落ち込んでいる。

 気分はどん底ぶち抜いて、地殻越えてコアに末脚なしで行ける状態だ。こんな脳内を見られたら第3者からは、まだアホなこと言えるくらい余裕あるから大丈夫だろ? って言われそうだけど、メンタルの状態を視覚化するならば、猫にズタボロにされた障子といい勝負だった。

 

 昨日からずっと仕事を追い込んでいて今は仮眠室を借りて少し寝て起きたあとだ。

 そして総合トレーナー室内には朝早すぎて私以外誰も居らず、机の上にリポピタソΔの空き瓶が2つほど隅っこに並んでいた。元居た世界の常識で判断するなら半分ウマなのにカフェイン大丈夫なのと突っ込みたくもなるが、この世界のウマ娘たちは全く問題がないようだった――強い、人間に匹敵する解毒能力とか生物として圧倒的強者すぎる。

 

 こんな気分に沈んでいるのはダービーを快勝して迎えた翌日のルドルフのフルメディカルチェックの結果が芳しくなかったからだった。しかも今回のレースで使用した勝負シューズを分析にかけたら、その消耗具合から推測される脚への負担は当初の予想を大幅に上回っているという結果が出た。

 しかしこれは想定以上にルドルフの身体能力が成長していて喜ばしい事でもあり、幸いなことに今回は故障の予兆くらいで済んだしアスコット自体には間に合うだろう。

 

 だが勝負シューズに使われたものは転生前にいた世界の知識を頼りつつも、物質工学を大学で学び直して完成させた超衝撃吸収素材だ。ルドルフと出会う前に完成していた試作品は諸事情あり使えず、ダウングレードしたものを使っているのだがその状態ですらウマ娘のシューズに使うにはオーバースペックな代物だった。そしてこれはアスコットの堅良バ場用シューズにも使われていた。

 

 それが今回のレースでジャパンモデルの良バ場用シューズが一発退場。このままではルドルフの脚をヨーロッパのバ場から守り切れない。そして今年のキングジョージのバ場は長期予報的に良か良以上の確率が非常に高い――。

 

『ルドルフ君はストライドが大きく瞬発力も高い。そして天性の心肺能力と柔軟性でそのままでもF1カーのようなウマ娘だった。そこに我が姪っ子ちゃんのトレーニングと再生医療が加わったことで、彼女を米国製戦闘機に組み替えちゃったのか』

 

 セカンドオピニオンとしてデータを見ていた叔父はそんな風にお道化ていた。茶化している場合ではないのだが、叔父のこの余裕の態度には理由があった。

 

 諸事情こと、ライバル企業の妨害によってWorld horse-girl Racing (世界ウマ娘レース協会)Association((WHRA))から使用許可が取り消されていた、ダウングレード無し版超衝撃吸収素材の使用許可が降りたのだ。

 例え衝撃吸収素材だとしてもレース中にかかる脚への負荷が減ることで、競争成績があからさまに伸びるならば『技術ドーピング』扱いされてしまう。ライバル企業はそこに目をつけて抗議して使用許可保留という事実上の禁止になってしまったのだが、『ここは大人に任せなさい』といって引き受けてくれたお養父様と叔父様たちにより歳月を経て昨日やっと撤回された。

 

 それを受けてトレーナーとしてのレース後処理、ルドルフの靴の修正指示、新作シューズの再設計とそれにまつわる指示を同時並行し今はボロボロのクタクタ。その疲労感は『もう疲れたよ』って教会で犬抱っこしてるうちに天使数体に導かれて昇天しそうなくらいの重苦しさだ――。

 

"――ルドルフの気分転換もさせたいし、ここはがんばらなきゃ!――"

 

 仕事を一気に片付けてダービーで頑張ったルドルフを連れてってあげたい保養施設がある。

 きっと彼女は寮に缶詰だと退屈してるだろうし、大分素直に気持ちを伝えてくれるようになったものの、『暇だ』とか言いだせるほどあの子は器用じゃない。

 

 生徒会の2人にも外出させることを昨日夕方に相談したら、『会長の休み明けまでという事だし問題ない』と快諾してくれた。あとは私が気合入れて仕事の山を終わらせるだけ。

 

 両手のひらで頬をぱちぱちと軽く叩き、3本目の栄養ドリンクに手を伸ばすも――。

 

「飲み過ぎはダメですよ?」

 

 そのセリフを発したと思われる人物は、私の視界外から手を伸ばして栄養ドリンクを1本奪っていった。

 いきなり声をかけられて心臓が飛び上がりそうになったが、それ以上にガチギレしたときのルドルフのような、圧倒的強者のプレッシャーが背後から掛かってて、震えあがってしまって碌に声も出せないし動けない。

 ゴールドシップと追いかけっこしてエアグルーヴに叱られた時の恐怖感にもにた雰囲気に包まれたまま、油の切れた機械仕掛けの人形のように後ろを振り返ると……。

 

「おはようございます、トレーナーさん。1晩で栄養ドリンク3本は飲み過ぎですよ」

「オッ、オハヨウゴザイマス……!」

 

 声の主はたづなさんだった。彼女の口元は弧を描き一見すると笑っているようだが、夏の新緑のような緑の瞳の奥は物凄く怒っている。

 もしも彼女にウマ耳があるなら完全に後ろ見向きに伏せてるだろう。強めの怒り表現の『激おこぷんぷん丸』超えてインフェルノ手前の『ムカ着火ファイヤー』状態だ――ヤバイ!

 

「カフェインの取り過ぎです。よってこちらは預からせていただきますね? その代わり」

 

 プレッシャーに当てられて緊張状態だったため気付かなかったが、ふと美味しそうな魚介だしの香りが鼻先を掠めていった。

 配膳用の木製ワゴンの上からたづなさんが持ち上げたお盆には、お腹に優しそうなとろろたっぷりに海苔とネギ、卵黄の乗った月見うどんと、栄養補助食品のニンジンゼリーが添えられている。

 

「トレーナーさん、貴女もまだ育ち盛りなんです。身体を壊さない為にもきちんと食事を摂ってください」

「すいません、お気遣いさせてしまって。ありがとうございます」

 

 素直に謝るとたづなさんは『お気持ちはわかりますが、無理なさらないでくださいね? 食べ終わったら部屋の端っこのワゴンに置いておいてください。回収に来ますので』といって部屋を去っていった。その心遣いにありがたいと思いつつ、手を合わせて割りばしを割り温かい食事に手を付けた。

 

  ◆  ◇  ◇

――20××年+1 5月29日 午後13時――

――美浦寮――

 

"――……何もしないというのは退屈なものだな――"

 

 寮で食事をとった後壁にもたれてベッドに座った私はそんな気分に浸りながらボーっと過ごしている。私の傍らには既に読み終えた本がいくつか乱雑に積まれていた。

 

 レースに出ると4日ほど体調を整えるため振替休日が与えられる。

 以前の生徒会システムや学園運営のやり方を組みなおしたおかげで、私の不在中に問題が勃発するという事が去年末から劇的に減った。

 そして余暇を十分に過ごせるようになったのだが――あと3日間ひとりでいるのは鬱屈した気分にじわりじわりと押し潰されそうになりそうだ。

 

 さらに先日フルメディカルチェックを受けた際に、バ場からの反動が思った以上に大きいためしっかり休む様にトレーナー君から注意を受けていた。そして軽い運動も制限されていて本当に何もやることが無い。休暇を満足に過ごせるのは良い事なのだけれども……。

 

"――こうしてるのもなんだか釈然としない――"

 

 スマートフォンを弄ってウマッターを開くと、今朝のネットニュースに発表されていたトレーナー君が開発に関わっているシューズ素材の解禁がまだ騒がれていた。

 レース後何も無い時はトレーナー君の所にある蔵書目当てや話し相手欲しさに、彼女の元に滞在も多いのだが昨日急ピッチで靴を作り直すといっていたので、今頃忙しくしている事は容易に予想出来る。

 そんな彼女の邪魔をしてはいけないなと思いながら画面の電源を落とすと――。

 

 ――うまぴょい♪

 

 通信アプリLEADに着信があり手に取ると、送信元はどうやらトレーナー君のようだった。

 開いてみてみると内容は仕事は片付けたという事、療養兼ねて気分転換にいかないか? という事だった。

 

"――レース後の業務量は軽減されているとはいえもう終えたのか。流石というか何と言うか――"

 

 お出かけの誘いが嬉しくて耳もピンとなったが、また無茶したんじゃないかと思うと素直に喜べなくて耳もシュンとしてしまう。

 

『お疲れ様。業務量から考えて早すぎると思うんだが、まさか無茶してないかい?』

 

 そう返事を打ち込むとLEADスタンプで『ギクリ』という文字が付いた、視線を泳がせるウサギのスタンプが押された。

 

『ソンナ事ナイナイ、ナイデスヨ』

 

"――……嘘だな――"

 

 あからさまな嘘の匂いを察知して、私はまず『焚火の絵文字+うさぎの絵文字=焼き肉の絵文字』を打ち込み、そしてステーキを前にお行儀よくナイフとフォークを構え、エプロンを首にかけたライオンのスタンプを押し返す。

 すると土下座したウサギのスタンプと『ウソツキマシタ! 全面降伏! タベナイデクダサイ!』とメッセージが表示され思わず鼻で笑ってしまった。まあ大方私の事を気にして誘うために頑張ってくれたのだろう。

 

 『許す』とメッセージが書かれたライオンのスタンプを押し、『何を持って行けばいい?』と打ち込むと、『2日分の着替えと、あとスマホとか宿題とか?』と返ってきた。滞在先は次の行に書いてあり――。

 

  ◇  ◆  ◇

――20××年+1 5月30日 午後14時50分ごろ――

――オルドゥーズ財閥所有 相模湖付近のホテル――

――離れの屋敷――

 

 窓際のソファーに腰かけ、部屋着でのんびりしながら眺め降ろすと見事な庭園が眼下に広がり、室内の内装は明治や大正時代を思わせる落ち着いた雰囲気だがひと目で品質がよいとわかるものばかりだった。

 

 府中からほど近い相模湖のリゾートスパには自然のままに近い庭園と温水プール、サウナや大浴場にラグジュアリーな内装の中エステやネイルサービスを受けられ、レストランで出される食材は全て産地直送。我々のウマ耳にも騒がしくないように配慮されたここは大変な人気を博している施設だった。

 

 このホテルの一角を家代わりに与えられている何とも幸せなそのお嬢様はというと、上質そうなベッドの上で寝落ちして寝息を立てている。

 昨日の夕方からこちらに泊まり今日の午前中はマッサージやエステ、ネイルケアなどされ目の前のトレーナー君も私もベストコンディション。そんな状態なのに彼女の体勢はうつ伏せで顔がこちらを向いており、美味しいものを食べているのかかなり幸せそうな顔をしながら時々寝言を言っている。そんな間の抜けた表情に対し笑いを必死にかみ殺して起こさないように離れた所から見ていると――。

 

 彼女はゆっくりと瞼が開いてむくりと起き上がった。そして目をこすったのち背伸びをしてあくびをした。そして寝ぼけ眼全開で此方を向き――。

 

「……おはよう」

「おはようトレーナー君。まだ寝ててもいいんだよ?」

「オヤツを食べ損なってしまうので起きます」

 

 壁にかけられた時計を見ると、時間は15時前を示しており丁度間食を取るにはいい時間だった。目覚まし時計もかけていないのに起きるとは、随分正確な腹時計を持っているなと感心している間に、トレーナー君は若干寝起きの気配を漂わせながら洗面台のある隣の部屋に向かっていった。

 

 蛇口から水を出して洗顔をしている音がする中、私は再び本に視線を落としているとトレーナー君のスマートフォンが鳴った。若干前髪が濡れた彼女が帰って来てそれを拾い上げて確認した。

 

「オヤツできたから隣の部屋に用意してくれるってさ。流行りのアフタヌーンティーで作ってくれたみたい」

「ふむ? アフタヌーンティーが今のブームなのか?」

「ええ、背伸びしてお小遣いを貯め、ホテルやレストランでお茶会を楽しむ学生がこの所多いみたい」

「それは良い事を聞いた。社交ダンスとテーブルマナー講座を既にやっているが、今年はアフタヌーンティーのマナーを取り扱うのもいいだろう」

 

 同じソファーの片側に座ったトレーナー君は、私のその発言を聞いて目を輝かせた。

 

「いいですね。お姫様体験は女の子の夢ですし。それと、我がオルドゥーズ財閥にご依頼頂ければ予算内で必要なものをご用意致します」

「君はそういう所に抜け目ないな」

「ええ、商売人の娘ですから」

 

 商機が見えたのかすかさず営業をかけてくる。そんなトレーナー君のチャッカリした所に思わず笑いが込み上げてしまう。以前も利用したが、彼女の会社は大きい分いい仕入れ先を紹介してくれるので頼みやすい。実践マナー講座を行うならばきっとまた依頼を出すことになるだろう。

 あれこれ計画を考えている内に隣の部屋で準備が出来たらしく、使用人の方がノックしてドア越しにそれを伝えて退出していった。

 

 隣の部屋に入ると庭を一望できる大きな窓に白くて無地の薄いカーテンが引かれ、その手前に2人ぶんのアフタヌーンティーセットが用意されていた。機嫌よくそれに近づいたトレーナー君は椅子を引いてどうぞと促してくれるのでお礼を言って座る。

 

 テーブルの上に添えられたシンプルなメニュー表を見ると……。

 


 【上段 デザート】

  季節のフルーツ入りエルダーフラワーゼリー

  ふじリンゴのムース

  いちごのマカロン

 

 【中段 温料理】

  タラのフィッシュアンドチップス

   ビネガーソース&烏骨鶏卵のタルタルソース添え

  ダチョウ肉のミートパイ

  ほうれん草と時鮭のキッシュ

 

 【下段 サンドイッチ】

  ニンジンたっぷり春キャベツと若鳥サンド

  玉子とコールスローサンド

  トマトパンのエビ&ツナ&アボカドサンド

 

 【アミューズ】

  新ジャガイモのポタージュ

  旬の太キュウリのピクルス

 

 【スコーン】

  プレーンスコーン

   コーンウォール地方のクロテッドクリーム

   甘夏ジャム

 

 【ドリンク】

  春摘ダージリンティー


 

 旬を大幅に外していない素材の構成で、私の好みやバランスを考えて作られていた。

 お茶を自分でカップに注ごうとしたところ、トレーナー君が先にティーポットに手を伸ばすと。

 

「貴女の保養目的だからゆっくりしてて」

「そうかい。ではお言葉に甘えて、ありがとう」

 

 今は客人の立場なのでトレーナー君に任せると、慣れた感じで彼女は紅茶を注いでいき、それを私が受け取りアフタヌーンティーを開始。

 ゆっくり少しずつ食べながらとても幸せそうな表情をしている彼女は、カップの上げ下げひとつとっても完璧で、食事風景は常に優雅で他者の手本となるだろう。

 

"――今まで予定が合わずに誘えなかったが、担当トレーナーも生徒会の講座にパートナーとして参加できるし、ここまでしっかり出来ているならば手本として招くのもいいかもしれない――"

 

 そんなことを考えていると、目を丸くした彼女が眉を軽くひそめ不思議そうにしていた。

 

「どうしたんですか? 穴が開きそうな程私を見てましたけど」

「優雅な食事風景だったので今度のマナー講座に招こうかなと考えていたところだよ」

「そうですか。行くのは構わないですけど、緊張してうっかりやらかしちゃうかもしれませんよ? 私めっちゃ雑なとこありますし」

「ふふ、君のマナーが雑と言われたら世の中はどうなるんだい? きっと大丈夫さ。期待しているよ」

「おー? そうやってプレッシャーかけちゃうんですか? これは行くなら予習復習を頑張らないといけませんね」

 

 アミューズを食べ終えてトレーナー君は軽口を叩きながら赤いトマト生地のサンドイッチを皿に盛り、私もニンジンサンドイッチを取り、ナイフとフォークで切ってひと口含む。

 千切りのニンジンの程よいシャキシャキ感とコールスローにされた春キャベツの甘さ、そして香りづけされた柔らかくて塩加減の良いチキンの肉汁がじわりと口の中に広がる。

 

「どれもいい味付けだね。そういえばイギリス行きの準備はどこまで進んでいるんだい?」

 

 気になってレースの話題を振ると、トレーナー君はその手に持っていたサンドイッチの最後のひと口を飲み込んでからこう答え始めた。

 

「出走申し込みは受け付けてもらえたよ。毎年10名くらいで今年も殺到してるって情報はないからほぼ間違いなく通るでしょう。忙しい時に来てくれる家事手伝いさんも手配したし後は行くだけ」

「靴の方は昨日修正を入れると言っていたが、それも間に合いそうかい?」

「ええ。設計図送ったので今週末には届くはずです。ルドルフの回復をまって履き馴らしつつ試走したいところですね。今週は今日打った栄養点滴、あとショックウェーブ装置とか使って全身の回復を促しますが、そこから仕上げに入ってもレースへの総仕上げには十分間に合います」

「順調そのものでよかった。宿泊先の手配までありがとう。そういえば私の英語の発音の方は問題なかったかい?」

 

 その点に不安があり尋ねると、トレーナー君は少し首を傾げて考えるそぶりをした後に回答しはじめた。

 

「全く問題ないです。堅苦し過ぎず程よい感じがするので相当腕の良い言語教師がついていたんですね。容認英語の発音をベースに河口域英語はわざと混ぜてるんですか?」

「ああ、堅苦し過ぎると思うからアレンジで混ぜている」

「なら大丈夫そうですね。前にルドルフの英語を聞いた時のままなら、丁寧だけど気取った感じが無いイメージを与えられるはずなので、発音はそのままでお願いします」

「君にそう言って貰えるならば安心だね大変参考になったよ。ありがとう」

 

 学園に時々届く海外からのメールの翻訳や、会見で通訳を依頼されれば完璧に務めるトレーナー君に大丈夫だと言ってもらえるなら安心だ。そう胸をなでおろしながらおかわりの紅茶と薄めるためのお湯を足してかき混ぜ、ソーサーを持ち上げて口に含もうとしたところ――。

 

「それと飛行機はチケット取ろうとしたら、お養父様が自家用機出してくれたんでそれで行くことになりました。ダービー勝利のお祝いだそうで」

 

 自家用機と聞いて思わず手が止まり、心地よい環境で横向きだった耳がピンと前に向くほど面食らってしまう。コースを作ってプレゼントしたり今までトレーナー君のセレブっぷりには驚かされているが、ここにきてそんな代物まで持ち出してきた。

 

"――もしかして……トレーナー君の規格外のプレゼント癖は養父譲りなのか?――"

 

 血は遠い親戚レベルの2人だがやる事、成す事がそっくりでそんな所から親子なんだなぁと微笑ましいが、予算のほうは大丈夫なのだろうかと不安に思った。

 

「それはありがたいがそんなに出してもらって大丈夫なのか?」

「全く問題ないです。最近大きな成功収入も入っていますし」

「それは僥倖だね。何か事業に成功したのかい?」

 

 このセリフが出るくらいだからトレーナー君はまた大きく儲けたのだろう。

 その内容が気になった私がそう尋ねると彼女はすっきりした笑顔を浮かべた。

 

「本国での農業事業と肥料の改良に大成功しました。これで食糧危機までの時間稼ぎになるはずだしそれに……」

「それに?」

「みんなも幸せ我が社も幸せ! 食糧生産押さえて100年内にウチが天下を取れたらいいなぁ! なんて、そんな淡い希望を抱いています」

 

 飛び出た言葉に思わず口に含んだ紅茶を吹き出してしまいかけた。

 トレーナー君が『大丈夫?!』と声をかけて席を立ってナプキンを差し出してくれた。お礼を言って受け取り私は口元を拭く。

 穏やかで平和的な方かと思いきや、トレーナー君もやはりオルドゥーズ財閥総帥の娘こと『ラスボスノムスメ』。ストレートに言うなら『食糧事情握ってやる』という内容をさらっと言ってのける所に、既に世界で覇権を握ろうとしている魔王候補のひとりというより、最早次期魔王染みたものを感じてしまう。

 

「それは夢というより野望なのでは……? 君の実家は世界征服をする気なのかい?」

「ついて来てくれる社員を守り、結果より多くの方々のお腹を満たせるならばやるかもしれません」

 

 茶目っ気たっぷりにウインクしてる目の前の彼女が自分の味方でよかったと心底思う。まあ、あの会社のトップや彼女は殆ど正攻法で稼いでいるし、非道な事を好まなさそうだからきっと大丈夫だろう。

 

「超長距離仕様なので羽田からノンストップでいけるから、きっと快適な空の旅になるでしょう。ご飯もお好みがあったら前日までに教えてください。用意してもらいます」

「ありがとう。もし食べたいものがあったらそれまでに連絡するよ。しかし君たち親子はどうしてそこまで私に協力してくれるんだい?」

 

 日頃疑問に思っていたのでこの機会にと思い尋ねると、トレーナー君はためらいもなく答え始めた。

 

「まず商売が第1の理由です。ルドルフが海外で勝利をあげてくれれば、日本国民からのウチへの印象よくなりますしあとは……ロマンですね」

「ふむ、ロマンというと?」

「かつてイギリスに追いつき勝利をもぎ取ったフランスのウマ娘たちの様に、日本の子達が西側に追い付いてくれたら凄く面白い。それでお養父様はトレセンに出資していて、そして偶然ルドルフは私に声をかけた。で、私は貴女なら凱旋門もいけるとおもった。全力で協力するに決まってるじゃないですか」

 

 圧倒的強者故に純粋な気持ちで居られるのだろうか。そんなトレーナー君はとても綺麗な笑顔を浮かべ、そして言葉を続けた。

 

「貴女はきっと夢を現実にするでしょう。そのために札束で各方面を引っ叩きまくるのは惜しみません」

「君の場合札束ではなく金塊で殴りつけそうな勢いだけど、その信任に必ず応えるよ」

「あらやだ。そんな痛そうなもので殴らないですよ」

 

 ふふふとお互い笑い合い、先程入れた紅茶は飲み終えたため、またお茶を足して今度はミルクで割ることでミルクティを作りった。

 そして3段式のケーキスタンドの最上段のデザートを取り分け始める――。

 

「そういえば夕飯のメインディッシュは厚切りローストビーフだって。楽しみですね」

 

 今食べているのにもう夕飯の話をしている。私に怪我の予兆という診断が出た時は死んだ魚のような目をして私に謝っていたから、また食が細るのではないかと心配していた。しかし靴の素材許可が降りた関係で落ち着いたのだろう。

 そんな元気な様子を見て安心して、こちらも思わず微笑み冗談を返した。

 

「食べてる最中にもう夕食の話かい? 君はそんなに食いしん坊さんだったかな?」

「ええ。この前ルドルフによって、おみかん達を拉致されたことを覚えてるくらいには食い意地が張ってます」

 

 まだ覚えているのかと感心したが、表情から察するに本気で怒っていないしふざけているんだろう。そんなジャブを放ってくるトレーナー君に私もおどけて返事を返す。

 

「それは怖い。君から食べ物の恨みを買わないように気を付けないと」

 

 そういってお互い微笑み合い、そしてトレーナー君が頑張って用意してくれたこの和やかな時間は過ぎ去っていった――。

 

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