IF.皇帝の幻の遠征計画と半人半バのお嬢様   作:なすび。

26 / 46
長さが凄まじい事になったので分けました。

ルドルフの視点からはじまり
拠点帰宅からトレーナー君視点です
うっかり視点記載を間違えました


『LR××C』Beware the Jabberwock【後編】

――20××年 7月28日 ほぼ同時刻――

――前半1千m通過地点=残り1千400m ターフ上――

 

 先程追い抜いたすぐ後ろの2名は上り坂で無理に出てきてもほぼ仕留めたと言っても過言ではないだろう。

 そして前3人の位置は最内がラビットのイーアエーレで先頭、距離は5バ身以内。マークのファシオは1バ身後ろの外で2番手。3番手に先頭2名の間をブロックするようにサニープリンセスがファシオから半バ身後ろを走っている。

 

"――72秒! 早い!――"

 

 トレーナーの靴が無ければどうなっていただろうか? きっとここまで走れなかっただろう。しかし、作戦は成功したがいつも以上に余裕がない! そうこうしている内にマーク先のファシオはついにラビットを追い抜きハナを取った! そしてなんとなくラビットが少し下がった気がして内を1人通れるよう開けておくとやはり垂れてきた。

 

 間一髪垂れウマを回避して前を見ると恐らく残り1000m手前! ファシオがラビットをかわし最内の1番手を取った為外に出たサニープリンセスが白い衣装を翻してほぼ並んだ。

 

"――判断が難しいがいつも通りに!――"

 

 そのままピタリと前に並ぶ2名の間を狙い私は最終コーナーに突入した!

 曲がりながら坂を上がればきっと膨らむ――その読み通りファシオと並ぶ外のサニープリンセスが1名分の隙間を作る!

 

 そこを目掛けメイクデビュー時のように私は突っ込んでいった!

 そして残り200mを通過したその時!

 

"――見えた!!――"

 

 世界の先が見えた。誰も居ないただひとりの景色が!

 

 だがここにきて脚が悲鳴を上げかけた! 走りにくい芝の奥から搔き引き裂き、喰らいつく魔物でもいるかのように一気に重くなる! そしてなんとほぼ逃げの位置にいたファシオが視界の右から前に飛び込み、さらに左からは同じクラシック級のリチャードウェルズも上がってきた!

 

 希望が絶望に変わる。

 脳が何とかしようと思考回路をフルスロットルに回すため、走馬灯のように色々な物事が流れ時間の間隔がスローに狂っていく!

 

 ――1/4バ身

 

   ――半バ身!

 

 ファシオに離されていく様は、

   あの奇妙な夢と同じ展開――

 

『――にはさせない! 同じには!』

 

 丹田にひと呼吸置き、自身に雷を落とすが如く喝を入れなおし私は必死で食らいついた!

 そして何とか差し返したのが残り100手前!

 だがファシオもまた差し返してくる!

 

 思考も何もかも全てをかなぐり捨て

    音を立て歯を食いしばり――

 

 

 

 

     そして前だけを見てゴール板を切った――!

 

 

 

 目の前の景色が揺れかすみ、激突を避けるため、外に向かっていた脚は、やがて思考から解放されて勝手に動いている。

 

"―  ― 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ルドルフ!!」

 

 聞き慣れた声と見知った優しい花の香りがした――。

 それと同時に身体をしっかりと支えてくれる感覚は、意識という大河の遥か先にある向こう岸からくるような距離感でやってくる。

 

 思考の霞が少し晴れ、おぼろげな景色の中、最初に見えたのは酷く心配そうな表情をしたトレーナー君だった。私の前に座って両肩に手を置いて顔を覗き込んで意識を確認している。

 

「大丈夫だ――」

 

 少し落ち着いた私は彼女が救護を呼ぼうとしているのを止めた。

 再び酸素を取り込めたことで白い空間とかした視界に光と色が戻ってくる。

 

「学園の者たちがきっと見ている――。だから、肩を貸してくれ」

「――わかりました」

 

 彼女は静かにそう答えて私の左に回って肩を貸してくれた。

 

「……結果は?」

「判定中です。残り50mでファシオと貴女が並んでそのままゴールだったので」

「そうか――」

 

 少しだけ肩の荷は下りて余裕が出た。

 そして辺りを見回しているとファシオも完全に座り込み、あるものは空に腹を向けて大の字、あるものは地面にうつ伏せになって倒れている。

 

 大分楽になったので自分ひとりで立とうとトレーナー君に意志を伝え、いったん離れてもらうと同時に場内に判定結果を伝えるアナウンスが流れた。

 どよめきが止み静まり返るスタンドとターフ、私も息をするのも忘れて耳に全神経を集中させ――。

 

 

『Winner Symboli Rudolf!! She is a winner of the race!!』

 

 勝った。あまりの嬉しさとランナーズハイの余韻の多幸感で一杯になった。

 掲示板は同タイムでハナ差の勝ち。いつものパフォーマンスはどうしようか? 悩んでいると目の前のトレーナー君が大変優雅な所作で私に向かって日本式のお辞儀をした。

 

「おめでとうございます」

「ありがとう。――私たちの勝利だね」

 

 私もトレーナー君にお辞儀を返すと、スタンド方面から音の塊がこれでもかと両耳に降ってくる。

 そして彼女の手を取り共に表彰式の会場へと向かった――。

 

    ◆  ◇  ◇

 

――20××年+1 7月 30日 午後18時――

――ニューマーケットの借家――

 

 コンロの火を止めて木製の取っ手のついた白いホーロー片手鍋の蓋を開けると白い湯気が立ち昇る。その水面は少しだけ鍋に残った余熱で出来る気泡でまだ揺れている。シンク内に置いたステンレス製のザルに鍋の中身をこぼすと、ほくほくに茹で上がったまん丸なジャガイモが10個がザルの上にごろりと転がった。その表面は空気に触れて薄く入れた表面の切り込みが軽くめくれている。

 

「火傷には気を付けて」

「ええ」

 

 ルドルフは少し離れた位置にあるレンガ造りのオーブンの前に立ち、そろそろ焼きあがるであろうパイを取り出すタイミングをタイマー片手に待っている。

 

 キッチンの中央にあるテーブルの隅っこには先ほどまで飲んでいたコーヒーと紅茶が入っていたマグカップがひとつずつ。そしてその傍には英字新聞が数部程重ねておいてある。そしてそれら紙面の1面は1番上に載っている記事とほぼすべて同じ内容だった。

 

 ルドルフの勝利は東洋から来たウマ娘がヨーロッパで勝ち星を上げただけでなく、レース内容がまるで『The Race of the Century』のようだだとこの国や世界に衝撃を与えていた。

 『The Race of the Century』(世紀のレース)――その言葉が意味するものはこの国の『唯一無二の伝説』を示している。伝説の内容は今回挑んだあのレースの最終直線で、2名のウマ娘達が差して差し返しの応酬を繰り返し、激しい一騎打ちでゴールにもつれ込みそして未だ破られぬレコード勝ちとなったというレース内容だ。

 

 それと比較しても今回のレースはそれに匹敵する見ごたえだったと、辛口な記事を書くことが多い英国では十分褒めちぎった内容で讃えられているのだ。

 

 手を洗って布巾で水気を拭きとり、少し冷めたジャガイモの皮を火傷しないように剥いていく。

 

「今思えば全く余裕のないギリギリの戦いだったね。形振り構わなくなったのは今回が初めてだった」

「まあ持久戦という意味ではキツイレース場ですし。ペースが早かった所為でルドルフ含めて燦燦たる光景で噂には聞いていたけど実際に見たらドッキリしてしまいます。あの凄惨なレース後の様子は流石EUのレースって感じですね」

「ああ、タフネスとパワーの殴り合いというに相応しい。出国前にお話を聞かせてもらったマルゼンスキーの知り合いの『The Race of the Century』を担った彼女が言っていた通り、最後はダービー同様負けない気持ちが大切だったと改めて思う」

 

 ルドルフが言うマルゼンスキーの知り合いと知り合ったのは出国の5日前。

 レースを引退した『The Race of the Century』と称えられるレースで激闘を繰り広げたふたりのウマ娘の内、そのひとりが引退後日本に引っ越してきていたのだった。

 

 そしてその方がマルゼンスキーと知り合いで、折角だから話を聞いておこうという事になった。そのウマ娘はかつて私たちと同じあのレースに挑み、そして最後の最後で差し返して勝利した。

 

 そのウマ娘はルドルフに負けない気持ちが大切だと強く伝えており、勝利したウイニングライブ後に私のスマホにその方のメッセージが入っていた。お互いに都合がついたので通話を繋ぎ、『The Race of the Century』を繰り広げた偉大なウマ娘から届いた祝福の想いを私たちは受け取った。

 

 ジャガイモを剥き終わり潰す器具を探そうと私は手を洗ってから布巾で拭いて、しゃがんで戸棚を開き――中を漁りながらジャガイモをマッシュするための道具を探し、目当てのポテトスマッシャーを見つける。そしてルドルフに先ほどの続きを返した。

 

「まあぐでんぐでんだったとしても、ハナ差でもぎ取って勝ちは勝ちです。激戦を制したことを誇りましょう」

「そうだな。諦めない気持ちを以て、ハナ差でねじ込み勝利する機会を手ハナさなかっただけ良しとしよう!」

「ギャグの調子もよさそうですね。いい出来だと思います」

 

 今回のギャグはいい出来なので調子は絶好調なのだろう。自然な流れで良い感じだと思い褒めるとルドルフは得意げな表情をした。

 

 ルドルフの今の健康状態はというと、ライブ後のフルメディカルチェック結果は良好だった。

 私が素材を作り、設計した靴は無事彼女の脚を石灰質の堅いバ場から守り抜き、気持ちだけ長めに休養を取って回復させられるレベルで収まっている。

 その結果を聞いた開発現場担当者の部下は大喜びしており、今日は仕事はしてもよし、切り上げてもよしとして美味しい物を食べて来れるようボーナスを出しておいた。

 警護を担当した者たちにも任務完了後に追加ボーナスがお養父様から支給されるらしく、家族に何をプレゼントしよう? 欲しかったアレを買おうと言いあい、大変微笑ましい様子だった。

 

 四苦八苦(しくはっく)したが結果的に何もかもうまくいって、何事もなく今は心底ほっとしている。

 

 

「今回の総評としてはルドルフが無事に走り抜けられて本当に良かったと思います」

「確かに。衝撃吸収素材の靴が無かったら選手生命的に危ない戦いだった。そして君によって助けられたのはそれだけじゃない。他にもうある」

 

 靴以外に私は何かルドルフにしたのだろうか? そう思って記憶の引き出しを漁りながら私はルドルフに会話のラリーを繋ぐためにとりあえず打ち返す。

 

「といいますと?」 

「君が柵を越えて駆け寄り支えてくれたお陰で恥をかかずに済んだ。――脚は大丈夫かい? 酷い痣になっていたが……」

 

 ルドルフが言う痣というのは派手に転んで出来たものだった。彼女がふらついた事に焦った私はそのまま柵を乗り越え駆けつけようとした際に着地に失敗したのが転んだ原因だ。

 ズボンのお陰で擦り傷などはないが、その時はルドルフのピンチでそれどころじゃない。すぐ立ち上がって万一の為に蹄鉄を打ち付けていたローヒールで走り寄り、ルドルフを倒れないように支えて誘導。

 コースの外側の安全地帯に座らせるのを優先していたため、気付いたのはライブが終わって帰宅してからとなった。そして処置が遅れたその大きな青痣はものの見事に変色していた。

 

「問題ないですよ。見た目ほど痛くないですし、それよりルドルフが倒れて怪我しなくてよかった」

「そうかい? それならいいが……君には本当に頭が上がらないね」

「それを言うなら私は貴女の戦果で食べさせてもらっています。そこはお互い様ではありませんか?」

 

 そうほほ笑むと『そういう事にしておこうか』と、ルドルフはオーブンの横の壁に背をもたれて立ちながら、目を細めた優しく温かな光が灯る瞳で微笑み返してくれた。

 そしてルドルフの手元にあったタイマーが電子音を鳴らした。彼女はタイマーをキッチン中央のテーブルに置き、ミトンを付けた手で窯の扉を開いて覗いている。

 

 そしてこんがりとパイの焼ける香りがこのキッチンに広がり私の鼻先を踊るように掠めていった。

 

「それに、私は――、―――――」

 

 私は彼女と出会って変わった事に関する思いをそっと小さな声でつぶやいた。

 その全てをルドルフに伝える事が出来ないから、ウマ娘でも聞こえない大きさでささやきで紡ぐ。

 

 偽りのベールを少しだけ外した、本当の私からの真っさらな気持ちを。

 貴女のお陰で勇気を学び、そして救われているのだという感謝の言葉だ――。

 

 まだ焼き加減が足りなかったのだろうか? パイを取り出さずに戸を丁度閉じたルドルフは、耳がパタンと大きく動いて振り返った。これはうっかり聞かれたか!? とこちらが目を見開くと『今何か言ったかい?』と聞き返されただけだった。

 

「貴女と出会って色々私も変わって得るものがあり、それに関するちょっとした感謝の言葉ですよ」

「それなら聞きたいな、もう一度聞かせてくれないか?」

 

 直接言わず大体あってることを言って誤魔化した。

 しかし興味深げに表情を輝かせてねだるルドルフは、椅子に腰かけ脚を組みこちらをじっと見つめている。

 

「恥ずかしいのでナイショデス」

「そこまで明かして逃げはずるいだろう?」

「私は逃げ脚質ですからこのまま逃げさせていただきます」

 

 ルドルフに左目でウインクを投げてから、私は冷蔵庫から牛乳を取り出して鍋に注いでバターとコンソメを入れて弱火にかける。洗ったポテトスマッシャーでじゃがいもを潰してそれを追加すれば、あとはじゃいもを茹でてる間に切ったパセリを乗せて完成だ。鍋からは口の中にそのトロリとしたスープの味が想像できるようなジャガイモポタージュの立ち昇り始める。

 

 今日の夕飯はふたりで別々の料理を担当して作っており、私はポタージュスープと前菜に昼間から冷蔵庫で固めているニンジンメインの野菜テリーヌ、そしてもうすでにできている肉料理のローストビーフが担当だ。

 ルドルフにはメインディッシュの魚料理とデザートを作ってもらっているのだが、彼女は何を作ったんだろう? 自分の作業に集中していてルドルフが何を作っているか把握しておらず、気になった私はこげない様に木べらで鍋をかき混ぜつつそれとなく尋ねてみることにした。

 

「ルドルフ。そういえばそれは何のパイなんですか?」

「コーンウォールの郷土料理さ。『スターゲイジー・パイ』という祝いの料理らしい」

 

 それを聞いた瞬間ワレモノにヒビが入るような幻聴が頭に響き、思考回路が固まった!

 


【スターゲイジー・パイ】

 丁寧に作れば美味しいが調理技術が未熟なものが作ると地獄を見る。

 そのためネットではマズイと噂されてしまっている。

 そんな感じのイギリスコーンウォール地方の伝統料理。

 

 このパイを作るための具材はポテト、玉子など家庭により様々。

 共通するのは全て魚がぶち込まれている事。

 

 そして大体魚の頭がパイから飛び出てる。

 この強烈な見た目によるインパクトの所為で

 何かと話題を呼んでしまっているとかいないとか……?


 

「どうしてその料理にしたんですか?」

「そうだね。この料理に纏わる逸話が素晴らしいと思ったからだよ。飢えに苦しむ冬の漁村のために、嵐の海に乗り出して豊漁を勝ち取る。うむ、不撓不屈の心で乗り切り雲外に蒼天を見た我々には星を見上げるパイはピッタリだろう?」

「なるほど、そういう理由で選出したのね!」

 

"――う、うーん。美味しいっていう説も聞いたことがあるけど……――"

 

 もし半人半バで人間寄りの味覚や嗅覚の私が美味しく食べられたとしても、ウマ娘であるルドルフは耐えられるだろうか?

 感覚の違いでがっかりしなければいいが、目の前のルドルフはキラキラと瞳を輝かせている。その土地のモノが好きで愉快犯なところがあるとブライアンから教えてもらったことがあるけれど、まさかここで発揮されるとは思わなかった。

 

"――もしルドルフが食べきれなかったら、最後まで私が食べきろう――"

 

 私は腹を括った。

 こんなに楽しそうにしている彼女のノリに最後までついていこう。それがトレーナーとしてあの子にできることだ。それにルドルフの料理の腕はすべてが茶色くなるがかなり上手い。きっと大丈夫だろうと私は自分自身に言い聞かせる。

 

「ふむ。こちらはもう少しで焼きあがるからテーブルを準備しようか。どうせなら焼き立てを食べよう」

 

 そういってルドルフは新聞紙をリビング方へ持って行き、ポタージュスープも完成。

 30分ほど前から常温に戻したローストビーフをスライスして、葉物のルッコラやクレソンの緑を乗せた皿の上にスライスしたお肉を軽く折り曲げ、おしゃれに見えるよう重ねて沢山載せていく。

 最後にソースをお肉の端に弧を描くようにかけて肉料理は完成。

 

 ポタージュをスープ皿に盛り、次に上から赤のニンジン、白のカリフラワー、緑のほうれん草の三重層が綺麗にできた自信作のテリーヌを3センチ厚にスライスしてジャガイモの花や実、葉が描かれた楕円形の皿に少しずつずらしながら並べ、その周りに薄く輪切りにしたラディッシュとフリルレタスで飾り付けをしてテーブルにそれらを運ぶ。

 

 私がそんなことをしている間にテーブルの上はルドルフによってしっかり整えられていた。

 今の季節に合った若葉色のランチマットが敷かれ、その上にナイフとフォークといったカラトリー、取り皿などがキッチリ並べられていた。そしてその傍らに配置されたグラスにニンジンジュースと、お口直しのミネラルウォーターが注がれている。

 デザートにはリンゴのシャーベットを作ったようで、こちらは溶けてしまうため食後に出すという。

 

 先に準備を殆ど終えたルドルフに手伝われてパイ以外の配膳を完了し、窯の前に戻る彼女に先に座っているように言われて神妙な面持ちで席に着いて待つことに。

 

「こんな感じでどうかな? 実際のモノとは違うがこれはこれで可愛いだろう?」

 

 キッチンミトンを両手につけたルドルフが持ってきたのは、顔と同じサイズに近い楕円形で陶器製のパイ皿には想像したモノとは全く違う光景が広がていた。

 

 香ばしいきつね色に焼けたそのパイ生地のキャンバスの土台には、波を模して編み込まれた格子状の生地が配され、その合間からパイ生地製でサイズは親指くらいの可愛い魚の顔がちょこんと顔をのぞかせており、中央には簡単な帆船の形に切られたパイ生地がデコレーションされていた。

 その額縁を彩るのは生地を編んでロープに見せかけて囲ったもので、左下の端で碇の形に切り抜かれたパイ生地がそれを止めている。

 

 

 ルドルフはやはり出来る子だった! センスの塊だった!

 

「考えましたね! いいアイデアですね」

「だろう? 我ながらいい出来だと思う」

「せっかくですしこのお料理を投稿しませんか? きっとご家族は褒めてくれると思いますよ」

「そうだな。兄や姉、妹たちも私たちの様子は気にしているようだし、1枚とっておいて後でアップしてみるよ」

 

 最後までハラハラさせられたイギリス遠征はこうして幕を下ろした。

 

 翌朝私のHorsebookのコメント欄を見ると彼女の姉妹とお兄さんが飯テロを食らった反応を残していた。それを朝のコーヒータイム中のルドルフに報告すると、彼女の方にもそういった反応があったそうだ。

 

 

 そしてルドルフによってアップされたこれらの料理の影響なのか、日本全国でローストビーフやシャーベットが品切れになるという事件にまで発展していた事を知るのは、私たちが帰国してからの話であった――。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。