IF.皇帝の幻の遠征計画と半人半バのお嬢様   作:なすび。

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 大変お待たせしました。
 13日夜投稿出来たらよかったんですが、14日深夜にズレました。
 (待ってた方ごめんなさい)

 ダービーと同じ府中なんでコースは省略。出走表はこちらとなります。

【挿絵表示】


トレーナー君視点からはじまり、
◆◇◇から◇◇◆までルドルフ視点
◇◇◆以降がトレーナー君視点です

それではどうぞ


『20XX-4』JAPANCAP【前編】

――11月23日 午後12時30分――

――トレセン学園 カフェテリア――

 

 

 本日のルドルフは有マに関する打合せで昨日から外出中。

 

 こちらの段取りは全て終わった。

 やる事も無いのに私が出勤しているのは、メディア担当課からの情報をまとめていたから。あとはルドルフにスケジュール打診するだけ。

 

 恐らく前にいた世界で『馬』にあたるウマ娘達。彼女たちはレースという競技だけでなく、ライブや人気稼ぎもしなければならない。

 つまるところ、アスリートと芸能界が融合したような業界にいる。これがスポーツだけだったら、今よりもルドルフや私の負荷は軽かっただろうなと思う。

 

 カフェテリアへ近づくにつれいい匂いが漂ってくる。そして、その途中売店の前を通過すると――。

 

 売店内とその周囲には――ウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマ。

 

 菓子パンを求めるウマ娘だらけ。目当ての品を目掛けて突撃するウマ娘達と、それを上手く誘導して販売する熟練店員。ぼーっとしようものならば、圧倒的フィジカルの差で吹き飛ばされる危険がある。

 

『よっしゃあああああ! 焼きそばパンゲットおおおお』

『あーもう! わかったから耳の近くで騒がないでよ!』 

 

 ゴールドシップは目当ての特大焼きそばパンをゲットして上機嫌で大はしゃぎ。しかし、その声が一緒に来ていたトーセンジョーダンの耳には響いたらしく、彼女から文句を言われている。

 

 昼休みのここはいつもこんな感じだ。そんな戦場と化した売店内外を横目にぼちぼち歩いていく。

 

 次のレースは中1週ジャパンカップ。

 ルドルフが勝ちたがっているレースのひとつで、彼女が私を見初めた切っ掛けのレースだった。今の所健康上の問題もなく、昨日のメディカルチェックの結果もいい方。

 

"――ファシオからタイムオブスリープはG1クラスだから気を付けてねと釘を刺されたし、クラウンプリンスは今年だけで米国G1を3勝。未だにピークを過ぎていない――"

 

 海外勢ならこの2人が面倒そうだ。

 そして私がいない間、学園の様子を見てもらっている護衛の子達に意見を伺った。彼女たちは競技にこそ出ないけれどウマ娘。それも私について回った事で、アメリカの一戦級のウマ娘を見ていて目が肥えている。

 そんな護衛たちからは『国内の出走者を気にするべき』と意見を貰った。意見として挙がったのは『ミスターシービー』と『タカオハリエース』この2人。シービーは菊花賞も勝って今年の秋天をレコード勝ち。タカオハリエースはそのレコードタイムの秋天5着だったが、何やら動きがある気配がするという。

 

 ――タカオハリエースと彼女のトレーナーは何か考えているのかもしれない。

 

 秋天は5着だがローテーションも丁度いい。話を聞いてグランドを眺めて敵状視察もしたが、どうも調子が良さそうだった。前目のレース展開中心、中距離の成績は悪くないので要警戒だ。

 

 考えている内に今度こそカフェテリアが見えてきた。

 

"――今日のおすすめは……牛すじとキノコのデミオムライスか――"

 

 黒板を2枚合わせたような小さな看板には、今日のおすすめメニューが書かれていた。

 今日はデミグラスで煮込んだ牛すじとキノコソースが掛かったオムライスらしい。秋にはピッタリのメニューだ。無料の発券機で定食メニューの食券を注文し――。

 

「おすすめ定食下さい」

 

 そう言っておススメ定食券を渡して半券を貰い、サラダなどをお盆に乗せていく。

 温かい麦茶のコップをお盆に乗せたあたりでオムライスは完成していた。それを受け取ってカフェテリア内を見回す。

 

 空いているのは窓際にある対面式のテーブルの端っこ。そこに決めて外が見える様に着席する。

 

「いただきます」

 

 ひとりだけど食事前にきちんと一言入れ、皿の上に目を落とす。そこにあるのは人間の女性が食べる量の5倍くらいはありそうな、ラグビーボールとほぼ同じサイズのオムライス。

 

 その上に細く切ったタマネギ、マッシュルームやシメジなどが入った、茶色いデミグラスソースが全体にかかっている。そしてアクセントで白い生クリームが筋を描き、刻まれたパセリが散らされていた。

 サラダはポテトサラダと海藻サラダ、そしてトマトを丼ぶりくらいのサイズのボールに1杯。

 

 レース前は食欲をなくすことが多いのだけれど、今回はまだリラックスできているらしい。きちんと食べられそうだった。

 

 大き目のスプーンで端っこから切り取り、中のケチャップライスごと掬う。あまり乗せ過ぎると口の周りが汚れるので、一口サイズに収めて口に運ぶ。ケチャップライスのコンソメの旨味とアクセントのレモンの酸味、デミグラスとタマネギのコクの後にキノコの触感と玉子の甘み。

 そしてまろやかな生クリームを感じた所で、パセリの香りがそれを引き締める。噛むたびに程よく煮られた牛筋の旨味がいっぱいに広がる。

 

"――日本に来て一番いいと思ったのはやっぱりこれだなぁ、ご飯――"

 

 前に居た世界は環境的な問題とか諸々重なると、食卓の上がサプリメントとエナジーバーになる事もあった。それが1ヶ月続くのだから栄養が満たされても心が荒む。

 実際問題あの子が食べている草が美味しそうに見えて、かじる位には病んだことがある。その所為か食べ物を粗末にしている光景を見ると妙に腹立たしくなる。

 

 私は食い意地が張ってる訳ではない。食べ物が大好きなだけだと自分に言い聞かせ、また食事に没頭する。

 

 この世界は本当に素晴らしい。そして、こんなに沢山食べても太りにくいのだから、本当に便利な身体だ。

 

 自身が今人生で最も恵まれている事に感謝しながら、9割くらい食べた所で、何の気もなしに外をみる。窓から見える噴水のある中庭には、芝の上にシートを敷いて食べているウマ娘達が沢山いた。

 

 その中にはヒシアマゾンとブライアンが、珍しく一緒に食事をしているのも見受けられる。

 ブライアンはヒシアマゾンに野菜を勧められて、ちょっと嫌そうにしつつもそれを食べていた。そして肉が大量に挟まっている、大きなサンドイッチにかぶりついている。なんだか微笑ましい光景だ。

 

「空いているかい?」

「どうぞ」

 

 窓から視線を戻す前に反射的に言葉を返してしまった。まあ、誰が居るのか想像に難くない――少し低いこの声は多分ハヤヒデだ。

 

「外に珍しい物でもあったのか?」

「そうですね。野菜を食べさせたいヒシアマゾンVSお肉しか食べんぞナリタブライアンの偏食攻防戦が見えました」

 

 私の対面にメガ盛りニンジンハンバーグのお盆を置いて、ゆったりと座ったハヤヒデは振り返って窓を見やる。――そして呆れたようにため息をついた。

 

「また好き嫌いをしているのか……」

「なんというかお肉命ですよね……」

 

 ビワハヤヒデの妹、生徒会副会長――ナリタブライアンはお肉が大好きだ。

 そして野菜が苦手。ブライアンの健康面を心配するハヤヒデは、工夫して野菜を摂取させようとしているようだ。

 

「――正直お手上げの状態だ。そこでだ。もし可能ならば、君に頼みたいことがあるのだが?」

「何でしょうか?」

「ブライアンの野菜嫌いを治すいいアイデアを考えてくれないか?」

「断固拒否って感じですし、何をやっても無理だと思います……」

「そこを何とか」

「えー……」

 

 そう言ってハヤヒデの方に視線を合わせたその時だった!

 

 ――!?

 

 食べ終わって芝の上にゴロンと寝転んでいたブライアンは起き上がっていた。しかも、両耳と顔がこちらを向いた状態で眼力を飛ばしている。私が庭の様子を眺めていたように、姉の姿を見かけた彼女はこちらを気にしていたのだろう。

 

 

 姉の頼みごとを絶対引き受けるな! わかってるな! ――そんな感じで私に物凄いオーラを放っている。

 

"――ちょっ!? これ引き受けたら絶対詰むパターンじゃないですか!――"

 

 肉食獣に睨まれたウサギのように私はブルリと震えた。

 嫌な汗がダラダラと背筋を伝って流れる。私は以前ブライアンに『姉とアマさんから野菜を押し付けられない方法』をブライアンから打診されており、そう言うのは姉妹とか友達間の問題だから難しいとした。

 

 代わりに『最低限の野菜を食べ、肉類からそれ以外の必要栄養素を補うプラン』で妥協してもらった経緯がある。

 

 これはどうしたものかと悩んでいると――。

 

 ――うまうみゃ!

 

 通信アプリLEADの通知が鳴った。ハヤヒデに断りを入れてスマホを開くと――。

 

「――!?」

「どうかしたのか?」

「え、ああ――ごめんなさい。ルドルフに呼ばれました。ご相談はまた後日でもよろしいですか?」

「構わない。君たちが描く明後日のレース、期待しているぞ」

 

 ルドルフから届いたメッセージ内容は、何度も見たあの悪夢とはパターンを変えて同じ結果を招いていた。夢の内容では疲労からくる体調不良だったはず。

 

 だからその芽を確実に摘むため、夏からずっと彼女の体調を気に掛けていた。

 

 足早にカフェテリアを後にして、護衛に行先の連絡を入れ待機している運転手に連絡を入れた。

 

"――あの内容は定められた運命とでもいうの! そんなの理不尽でしょ!!――"

 

 胸中は思いっきり泣いて叫んでしまいたかった。どうしてこうもタイミングが悪いんだと! あまりの理不尽さに怒鳴り散らしたくなる。

 

 どうして、どうして! 夢ですら何度も違う方法を試しても、同じ結末がやってくるのよ!

 万全だと思っていた。けれども避けきれない最後の罠が私たちに襲い掛かってきた。悔しさで歯を鳴らしつつ、私はローターリーでリムジンへ乗り込みルドルフの居る場所へと向かう――。

 

 

  ◆  ◇  ◇

――11月23日 午後13時30分――

――都内某病院 個室――

 

 今日はURA側と打ち合わせを行って、その帰りに外食をして学園に帰って軽めの調整を入れる予定だった。

 しかし、運悪く立ち寄った所で食べたものに当たってしまった。原因は責める気にもなれない些細なミスだった。他のお客さんにも重大な被害はなかったようで、私からお店の方には再発防止に努める事を約束してもらい帰ってもらった。

 

 トレーナー君はというと、連絡を入れてすっ飛んできて、先程から私の手を握って項垂(うなだ)れている。

 

「防ぎきれなくて、貴女を守れなくてごめんなさい――」

「君が謝る事じゃない――。これは偶然が重なっただけで、誰も悪くない」

 

 気怠い身体をベッドの操作ボタンで起こし、トレーナー君を見やる。

 

「――明後日のレースですが」

「それについてはそのまま出る」

「いいえ。だめです!」

 

 ぱっと顔を上げて濡れたエメラルドの双眸を見開いたトレーナー君は、何を考えているんだと言わんばかりに私を止める。

 

 ――これは当たり前の反応だろう。彼女は絶好調とは言えない状況の私をレースに送り出すような鬼畜ではない。何かあってからでは手遅れだからという判断だろう。

 

「君の意見は最もだ。気を使ってくれてありがとう。でも、――私は行かなければならない」

「しかし!」

「――私は挑戦者から逃げるわけにはいかないんだ――頼む! これは私にとっての誇りの問題なんだ。私との戦いを見にくる観客だって待ってる。絶対に無事帰ると約束するから。お願いだ」

 

 そういって片手を握っていた彼女の手にもう片方の手を添えてまっすぐ見つめる。彼女は息を飲んだように目をさらに見開いて、ため息をはいた。

 そして、少し目を伏せた後、ゆっくりと(まぶた)を開き――。

 

「……わかりました。何が起きても私がすべての責任を取ります。――気にせず戦ってきてください」

「ありがとう――こんな辛い決断をさせてすまない」

 

 握った手や声からは彼女の恐れが伝わってくる。

 今にも泣きだしそうなトレーナー君の頭を、握られていないほうの手でポンポンと撫でて落ち着かせる。

 

「メディアへの発表は問題なしとしてくれ。恥をさらしたくない」

「わかりました。――できるだけ伝わらない様にこちらで手配します」

 

 英国で見たあの夢に出てきたウマ娘のように、今の私は同じ立場になってしまった。

 不便な移動での疲労困憊、慣れない異国での生活から身体を崩した彼女も――こんな不安な気持ちの中で戦っていたのだろうか――。

 

  ◇  ◆  ◇

――11月25日 午後15時10分――

――東京レース場 ゲート前――

 

『東京レース場第10Rは芝、左回り2400m。快晴に恵まれバ場は良となりました。今年は日仏英米伊独加新8カ国からの参加者が集い、14名の選手の中から勝利を手にするのは誰だ! スタンド前には新設の大型ターフビジョンも備えられ場内の熱気も最高潮です!』

 

 いつも通り精神統一を済ませた直後だった。

 飄々とした軽快な男性アナウンサーによる実況が場内に流れ、歓声が一層大きくなる。

 

 日本からの参加者はシービーと私の3冠ウマ娘が2名、桜花賞ウマ娘ディアナソロン、宝塚グランプリウマ娘タカオハリエース。

 

 海外バはアメリカのクラウンプリンス、イギリスのタイムオブスリープの2名を要警戒。

 国内はタカオハリエースの陣営は、何か考えがあるかもしれないから警戒せよ。様子が違うとトレーナー君からは助言を受けており。その情報が当たっているのか、耳に覆いがしてあるなど集中しやすい工夫が施されている。そして何より、タカオハリエースの表情は今までにない余裕がにじみ出ていた。

 

 勝利予想投票の人気順位は私が4位。

 どこからか不調の噂が流れそれが響いたのだろう。それでも私が勝つと信じてくれたファンのために、この状況でも勝ちに行きたい。

 

 ――出るからには勝つ!

 

 先にゲート入りして人気上位3名を待つ。

 

『3番人気はアメリカのクラウンプリンス。年内3冠の絶好調! 通算6冠目達成を狙っていく!』

『2番人気はイギリスのタイムオブスリープ 実力は英国G1級との噂だがどうなる?』

『1番人気は前年度日本クラシック3冠ミスターシービー! 今日もド派手に決めてくれるか!?』

 

 私の横には凱旋門賞で一緒だったフラウラロードが同じ7枠にゲートインしている。彼女とちらりと目が合ったが、お互いレース前なのでそのまま前を向きスタート体勢を取る。

 

 

『各ウマ娘揃ったところで――スタートです!』

 

 茶色いターフ蹴りスタートを切る。まず真っ先に出てきたのは、フラウラのさらに内に居た"タカオハリエース"だった。

 

『1コーナー手前、先陣を切ったのは10番タカオハリエース1番手! その1バ身後ろ6番アメリカのヴィクトリー2番手、その内差がなくフランスの2番ノースハート3番手!』

 

 スタンド正面残り2200m(テンの200m)のタイムは13秒。全員様子見して進んでいる。

 

『ヴィクトリーの外半バ身後ろ、14番オーストラリアのプレシドゥーホーク4番手で続きます! さらにその半バ身後ろの外を回って12番シンボリルドルフ5番手で追走! その内に11番オーストラリアのフラウラロード6番手!』

 

 凱旋門賞でも共に戦ったノースハートとフラウラ、そして私も前目のレース運びをし、バ群は1コーナーへ。

 

(GOAL↑)

 

内|タカオハリエース

 |

 |

 |ヴィクトリー

 |

 | ノースハート

 |  私

 |タイムオブスリープ

 |クラウンプリンス

 |フラウラロード

 

  タカオハリエースが単独で飛ばし2番手に3バ身ほどつけている。

 2番手は内にヴィクトリー1バ身後ろ外にノースハート。そして私の斜め後ろ内側にはタイムオブスリープが見切れている。

 

 ――マーク先は私だろう。

 

 先頭のタカオハリエースは逃げ戦法のようだ。――あまり離され過ぎると追いつけなくなる。かといって仕掛け所が難しい。

 

 残り1800m(テンの3ハロン600m)、1コーナーを入ってすぐ。向正面まで続く緩やかな下りカーブのはじまり辺り。その1ハロンごとの通過タイムは12~13秒刻み。

 

 ここからわかるのはタカオハリエースがゴールから逆算し、計画的に逃げているという事だ。

 

"――どちらをマークにするべきか――"

 

 先頭のタカオハリエースは2コーナーに突入し、2番手を5バ身、6バ身とどんどん差をつけている。この様子を見てタイムオブスリープが内ラチ沿いに上がっていく。

 

『6番手クラウンプリンス! 外を回って半バ身後ろ7番手フラウラロード冷静に前を伺っている。その内半バ身ほど下がりウェルネライトが8番手。その外をまわってプレシドゥーホーク。内にバルバロッサ、その外アクティニディア団子状態!』

 

 残り1400m(テンの1000m)の向正面のペースを見てからでも遅くはないだろう。

 内側のタイムオブスリープを先に行かせ、先頭が16と書かれたハロン棒を通過――残り1800m(テンの600m)から残り1600m(テンの800m)のハロン間通過は12秒。

 

『団子の大外からアドバンスドが一気に前を狙っていき。3バ身程離れディアナソロン13番手。そこから3バ身後ろ殿(シンガリ)にミスターシービーが眠れる獅子のようにじっと構えている』

 

 そして2コーナーを抜け向正面へ。先頭から2番手まではおおよそ10バ身以上。先行集団から中団までが、後ろを警戒していてハイペースに見えているだけだ。レースプランを描きながら距離を保って進む目の前のバ群は縦長だった。

 

『テンの1000m61から62秒といったところ。先陣をゆくのはタカオハリエース、リードは6バ身!』

 

 スローだ。ここから息を入れて脚を残し、最終直線になだれ込むつもりだろう。スローならば瞬発力勝負が有利だが、相手は今年の宝塚ウマ娘。宝塚記念ではアガリ1000mを平均12秒台で走る先頭にピタリとスタートから2番手の位置で張り付いていた。その状態でゴール前で加速して優勝している。

 その時もスローだった。距離延長はあるとはいえ前残る実力はあるはず!

 

『2番手ヴィクトリー! その2バ身後ろ3番手ノースハートが好位追走!』

 

 外回りでスタミナのロスが気になるが、これだけ縦長なら何とかなる! そう思いたい!

 下りが終わり足元からは急な上り坂に変わる。向正面の真ん中を通過し残り1200m(12のハロン棒)のタイムは1分13秒。まだ12秒刻みで走り続けている!

 

『その1バ身後ろ4番手アドバンスドがまき直してアガッてきた! ほぼ差がなく内にタイムオブスリープ、大外にシンボリルドルフ激しい競り合い!』

 

 ターフを鋭く切り開く様に逃げコーナーを決めて進むタカオハリエースが、3コーナーに突っ込んでいく。

 そして残り1000m(10のハロン棒)を通過は1分26秒!

 

"――差は13秒コーナー手前でひと息入れたな!――"

 

 8ハロン棒(残り800m)を通過。体感で12秒、タカオハリエースは突き放しにかかっている!

 3コーナーを抜け4コーナーまでまではほぼ直線!

 

"――動かなければ!――"

 

 数えるのをやめて抜け出す準備をはじめると――!

 

『先頭まで20バ身以上ミスターシービー間に合うか! おっとここでイギリスのタイムオブスリープ動いた! シンボリルドルフも続いて動いたどうなる!』

 

 すぐ前を走っていたタイムオブスリープが先に動いた! 前へ前へと詰める中、4コーナーの入り口でやや外目にモタレたヴィクトリーの内の隙間。そこをタイムオブスリープは突いて上がった! ノースハートも最内を通りまだ食い下がっていこうとする。

 同じように最短を内でついていけばスタンド正面を向いた時に面倒だ。ヴィクトリーのすぐ外をまわって追い始める!

 

 内にノースハート、ヴィクトリーを抜き、タイムオブスリープの半バ身後ろを追走。

 

『残り600! 先頭は依然タカオハリエース! まさかこのまま逃げ切ってしまうのか!』

 

 そのまま正面入り口の曲率のキツイカーブへと向かう!

 2番手の内側につけたタイムオブスリープはインに切り込み、私は少し外をまわる!

 ふたりと真っ向勝負に出た!

 

(GOAL↑)

 

内| タカオハリ

 |

 |タイム   私

 |        ヴィクト

 |

 |アドバンスド

 |

 

 コーナーで差を詰めやっと背中が間近に見えた!

 タカオハリまであと半バ身――!

 

  ◇  ◇  ◆

――11月25日 午後15時22分前後――

――東京レース場 スタンド――

 

「頑張って! ルドルフ頑張れ! あと少し!!!」 

 

 心配ではあるがルドルフを信じて私は声を張り上げた!

 担当になってから今一番必死に応援していると思う。凱旋門賞の時よりも、キングジョージの時よりもずっとずっと必死に声を上げた。

 

 のどの痛みが走るも、産まれた時のあの時よりも。どうか彼女の望みが叶うように私は音を目いっぱいこの世界へと叩きつける。

 

 坂を上がってもタカオハリを頂点に内にタイムオブスリープ、外にルドルフとほぼ横並びでデットヒート。

 そして外からはアメリカのクラウンプリンスが物凄い末脚で上がってくる!

 

『残り200を切った! 先頭はタカオハリ! タカオハリエース先頭! タイムオブスリープ、シンボリルドルフ両者ほぼ横並びでここに喰らい付く! 3者3つ巴どうなるこれは!』

 

 首からかけていた双眼鏡を手放し柵に両手をついて身を乗り出し、目を見開く――。

 レース場の喧騒がフェードアウトし、心音だけがうるさく響くが、掴んで投げすて追い出す様に頭から無理やりその思考を投げ出した!

 

 残り100――。

 

 

  タカオハリエースは振り払うように頭を振った後、突き放しにかかり――

 

  ――1/4

 

   ――2/3

 

     半バ身――――。

 

 どんどん引き離されていく――!

 

 しかし、ルドルフの目が一瞬ギラりと強く輝き、タイムオブスリープも魂を燃やし尽くすような様相へと変わった――!

 差し返したふたりとカツラギエースは

 

GOAL|タイムオブ タカオハリ ルドルフ

  |             クラウン

  |    

  |アクティ ヴィクトリー フラウラ      

  |

  |

 

 3者横並びでゴールイン!

 

「ちょっとどっちよ!! 誰が1位よ!」

『シンボリルドルフさんが1位だよね! ねぇ!!』

『気持ちはわかるけどテイオーちゃん、落ち着いて!』

 

 関係者席の柵越しに隣同士で見ていたトウカイテイオーが悲鳴のような声をあげた。保護者としてついてきた彼女の母親がたしなめる様な声を上げるも、視線は掲示板に釘付けだ。

 

 5着争いも団子状態――掲示板にはタイムとバ場状態だけ。やっと灯ったと思ったら今度は『写真』の表示。場内は混迷を極めている。

 

「――見えたか?」

 

 ブライアンは掲示板を見据えたまま結論を尋ねてきた。私は否を示して首を振る。

「さっぱり……エアグルーヴは?」

「わからん。タカオハリ先輩なのか会長なのか、それとも――」

 

 タイムオブスリープ――イギリスのウマ娘なのか――

 

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