IF.皇帝の幻の遠征計画と半人半バのお嬢様   作:なすび。

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ローテは折角なので国内は史実の83年から85年の当時のものとしました。
そのためアプリ版とローテが違います
悩みましたがキングジョージの間のアーリントンミリオン(当時バ〇ワ〇ザーミリオン)は回避。

作中のバ場設定は後書きで解説してます。
※史実と違っていたりする部分もあります※

トレーナー室の間取り

【挿絵表示】


トレーナー君視点。ジュニア期前の大体2月頭くらい
それでは……どうぞ――


第1章ー地固めージュニア期 in日本
『六憶詩』照準は"偉大なる女王陛下の庭"へ


"――この学園には謎が多い――"

 

 時々緑色に光るウマ娘やトレーナーを見かけるのは何故だろう?

 

 特にアグネスタキオンというウマ娘のトレーナーが、よく光っている気がする。発光するサイクル的には、3日に1回光っているような?

 あと学園周囲の河原の草地に、左巻きのミステリーサークルのようなものを時折見かける。あれは一体何なんだろう……?

 

 そして、駿川たづな理事長秘書は――何故『駿』川なんだ?

 四つ点の『馬』なのは何故だろう?

 

 本能とでも言うものだろうか、たづな秘書の(まと)う気配はどこかひっかかる。私の"同類"である"半人半バ(セントウル)"でも、人間の気配ともつかない。

 

 ”彼女”(たづな)は一体何者なんだろう?

 

"――もしかして……――"

 思考の海のなか、あるいくつかの可能性を見い出しかけたけれども。

 

"――やめておこう。碌な事にならなさそう――"

 

 そんな風にプレハブ作りのトレーナー室内で、ルービックキューブを組み立てるよう、くるくると思考を回していく。

 外からはまどろみを誘う小鳥の声が響いている。

 

 私はソファの上で仰向(あおむ)けの体勢(たいせい)で横になって、窓から入る木漏(こも)れ日をブランケット代わりに被って(くつろ)ぎながらルドルフを待っている。

 今日は初ミーティングの日。希望ローテーションを提出してもらい、それについてお互いの意見交換を予定していた。

 

"――生徒会で遅れているのかな……?――"

 

 壁にかけてある、どこにでもありそうなシルバーの時計を確認する。約束していた午後2時はとうに過ぎ、もう4時頃に差し掛かっている。

 私はルドルフの意思を優先してこのミーティングを提案した。けれど、それが生徒会長である、ルドルフの負担になってはいないか、いまさら心配になってきた。万一があるかもと思って、いくつプランを作ってはいるが……。

 

 私物で持ち込んだ昼寝用ソファーの上から、左向きに身体と顔を寝相を変える。その視線の先にはふたり掛けのソファーが対面になっている。その真ん中の低めのテーブルに、ミーティング資料をセットしたのは今から3時間前。

 寝転んで待っていると、今度は私が寝てしまいそうな気がした。ソファーから起き上がり、両腕をまっすぐ上にあげ私は背を伸ばす。

 

"――とりあえずハーブティでいっか――"

 

 疲れているであろうルドルフのために、彼女が来たらすぐ()れておこう。そう思い、ハーブティーを淹れるための道具や、ガラスカップを用意しはじめた。

 

   ◆   ◇   ◇

 

 それから10分ほど経過した頃だ。

 トレーナー室をノックすると同時に、ルドルフが息を切らせながら勢いよく入ってきた。

 

「すまない! 待たせた!」

「問題ないですよ。お疲れ様です」

「希望ローテーションはこれに入っている。テーブルの上に置いておくよ」

「忙しい中ありがとう。ハーブティとニンジンケーキを用意しているのだけれど――召し上がりますか?」

「頼みたい。今日はトラブル続きでね、結局昼食も落ち着いて食事する事すら(まま)ならなかったから助かる」

「――この後の予定はありますか?ないなら私も予定が無いので先にゆっくりおやつにしましょう」

 

 食事をしながら仕事するのは大変だろう。この後の予定がなければ、ゆっくり食べてもらったほうがいいと思い、私はそう声をかけた。

 

「大丈夫だと言いたいところだが、今日は流石に甘えさせてもらうよ」

「決まりですね。では準備します――楽に座っていてください」

「――ありがとう」

 

 ルドルフはため息が漏れ出そうなほど疲れ切った声で、そう返事をした。そして彼女はソファーの左端に座り、アームレストに左肘をかけ、ゆったりともたれかかった。

 その後ろ姿に相当な疲れが見える。先に食事にするにあたり、書類を片付けながら顔色を窺うと、やはり悪い。何かと自分は(はん)を示さねばならない、そう自負しているがゆえに、ルドルフは無理をしやすいのだろう。

 

"――随分と気分まで落ち込んじゃって……どのハーブティにしましょうか……――"

 

 トレーナー室に私物で持ち込んだ冷蔵庫の中には、複数の乾燥したハーブが入っている。その中で気になったのは――。

 

"――やっぱりこれかな……――"

 

 右奥にオレンジの皮を干して作る、オレンジピールが入った瓶が目に入った。それを冷蔵庫から取り出した。

 

"――ちょっと手抜きだけど、お腹空かせているのに待たせるのもアレだから許してね?――"

 

 水を最初から沸かす手間よりその時間が惜しい。おそらく温度的には大丈夫だろうと踏んで、透明なガラスポットの中にオレンジピールを入れる。そしてトレーナー室内に備え付けられた、給湯設備のサイドスペースの上に置かれた、白い電気ポットからお湯を注ぐ。

 

 しばらくすると――スッキリした気分になれる柑橘類(かんきつるい)の爽やかな香りが、疲労感(ただ)うこの空間を塗り替える。気分の上昇気流を促すかのように、その香りを含んだ蒸気がふわりと舞い立ちこんだ。

 そして冷蔵庫の中から"ニンジンパウンドケーキ"を取り出す。前もってすぐ出せるようカットして皿に乗せ、ラップをかけて用意していた。後はトッピングだ。

 

 オレンジピールの匂いに気付いたのだろうか? ルドルフがちらっと、こちらを向いて様子をうかがっていたのが、作業中視界の(すみ)に映った。

 けどプライドの高い彼女は、そんな子供らしい一面を私に気取られたくないと思うだろう。あえて気付かないふりをして、切っておいたケーキに粉砂糖を振りかける。ケーキを乗せた皿の隅に、チューブ入りの植物性ホイップクリームを軽く絞り出す。そしてタッパーに入れておいた処理済みのミントも添える。

 

 時計はハーブティをカップに注ぐ頃合いになった。透明なガラスのカップを用意。ポッド内にはフィルターがついていた。なので茶こしを使わず、そのまま蒸らし終えたハーブティーを入れる。

 

 それらを全て一緒にプレートにのせ、ルドルフの待っているミーティングスペースに戻る。

 

 すると……いつの間に座り直したルドルフがそこには居た。あまりだらしない姿を見られたくないタイプなんだろう。そして、先程まではそれを(さら)すほどに、彼女が疲れていたのだろうという事を察した。

 

 そしてケーキとハーブティを互いの席に向かい合うようにセットし終わった私も、ルドルフの正面に座った――。

 

「このケーキは君の手作りかい?」

 

 私が着席したくらいのタイミングで、ルドルフは尋ねてきた。

 

「ミーティングにと思って作ってみました――召し上がってください」

「ありがとう。頂かせてもらうよ」

 

 彼女は私に余裕を見せた後、ゆっくりと食べ始める。私も対面に座り、あまり気にしないようにしながらハーブティを味わう。

 

 彼女が今食べているのは、ケンタッキーのルイビル学園でも評判だったものだった。

 ドライニンジンとドライリンゴを蜂蜜(はちみつ)で戻し、刻んでニンジンを混ぜこんだ生地に()り込む。そしてしっとりと焼き仕上げた自慢のパウンドケーキだ。

 

 生地の砂糖を控えめにし、そこに蜂蜜(はちみつ)のニンジンやリンゴを混ぜ込む。味の方(かたよ)りを作っているため、ただ甘いケーキよりも美味しく感じられる。味に飽きたら生クリームやミントと一緒に口にしたり、いろいろな角度で楽しめる自信作だ。

 

 リンゴが入れてあるのは、ルドルフがリンゴが好きだということを、日本へ向かう機内で聞いていたから。彼女の様子を見る限り、どうやら大成功のようだ。心なしか顔色も少し良くなっている。

 

"――よく見ると所作(しょさ)が綺麗――"

 

 彼女がカップをテーブルから持ち上げた。その動作ひとつひとつが洗練されており、気品に(あふ)れ優雅な印象を受ける。

 

「また作ってほしいと思うくらい美味しかった。こうやって歳の近い誰かにもてなされるのも久しぶりでね。君の心遣いが大変嬉しく思うよ」

 

 テーブルマナーが出来ているなら、教える手間も大分省ける。なんて漠然と考えていたら、ルドルフは特製ケーキを食べ終わったようだ。

 

「そうでしたか、もしかしたらと思って準備しておいてよかったです」

 

"――確かにルドルフは近寄りがたい。なんていうか、時々物凄いオーラが出ている。ザ・皇帝って雰囲気のいかにもなオーラが――"

 

 それに加え、ルドルフが話す言葉と話題は、同じ年頃のウマ娘にとって難しい内容だ。ルドルフは私の歳が自分に近いと思っているが、私の中身は転生により現在××(ピー)歳の大人である。

 

"――だから話題についていけているのだけれど――"

 

 それに甘えさせていたら、ルドルフの将来はどうなるだろう? 自分で考えられるタイプだけど、同じ年頃に限定すると人間関係に関しやや不器用な印象を受ける。もし手助けするとしたら、どういう事が出来るだろうかと頭をひねる。

 そして皿の上に残る、ひと口サイズのニンジンケーキを口の中に収め、オレンジピールティーを味わう。

 

"――やっぱり同じ年頃のお友達を作る手伝いをしたほうがいいのかなぁ――"

 

 マルゼンスキーとは交流が既にある。ルドルフの英会話能力は完璧だったけど、さらなる熟達を目指すって目的を付けて、タイキシャトルを引き合わせてみるのがベスト?

 

 それとも――ビワハヤヒデ? どちらも?

 

 そのうちタイキシャトルとは元々アメリカで既に交流があった。そして先にこちら(日本)に来ていた彼女は、また友人として仲良くしてくれている。

 フレンドリーな性格のタイキシャトルと知り合えば、ルドルフの対人対バ関係は確実に広がりそうだ。

 

 ビワハヤヒデとは日本トレセン学園での勤務初日に知り合った。私をカフェテリアで捕まえた彼女は、知識欲から"問答"をいきなり仕掛けてきた。彼女は性格的にルドルフと仲良くやれるだろう……話も合いそうだし?

 

"――さてと、確認確認――"

 

 気軽に接してくれるお友達ができない問題に関しては、ルドルフの覇道に響くため追々(おいおい)対処しよう。

 

   ◇  ◆  ◇

 

 中断していた希望ローテーションの確認を進めるため、薄茶色の封筒から紙を取り出した。

 

"――ジュニア期はデビュー、10月後半の旧いちょう特別こと、サウジアラビアRC――"

 

 視線を下の方に滑らせ確認してゆく中、引っ掛かりを見つけて視線を止めた。

 

"――……あれ? ジュニアG1は出ない?――"

 

 その理由は何となくわかる。ファン数のために最低限レースには出るが、ジュニア期のG1は目標にしない。

 

 理屈としては、成長期の身体を長い目標で仕上げるつもりなのだろう。

 トレーニングに関する理論は様々だ。しかし、何の考えなしにやるのは禁物である。

 

 例えば成長途上のウマ娘に、ジュニアG1や、クラシック前半のダービーだけを目標として、過度なトレーニングを課してしまうとする。

 すると『発育』が十分じゃない身体に、強い負荷をかけ続けることになる。

 

 結果、ウマ娘の将来を潰してしまう。そしてこれは真に残念ながら、よくある事だった……。

 (まれ)に『天性の肉体を以て耐え抜く例外中の例外』もいるが――それはまず『ない』とみるのが無難だ。

 

 鍛えるべき筋肉の種類、骨や靭帯(じんたい)との兼ね合いも考えず設計し、短期的な視点で勝利だけを重視。そんな風にトレーニングを組むのは悪手。親御さんの教育が良かったのか、ルドルフはそれをよくわかっているのかもしれない。

 

 そして過度なトレーニングやハードローテにより、肉体に蓄積(ちくせき)した疲労による故障は怖い。特に靭帯(じんたい)や関節を故障しまうと癖になる。

 骨折も同様だ。骨折部が太くなるからといって、損傷部分強化されるというのは『誤解』である。

 

 アメリカの最新設備で行った、フルメデカルチェックのデータ解析の結果――ルドルフは大変素晴らしい肉体をもっていた。反面虚弱ではないが、パワーがある分ダメージの蓄積(ちくせき)に留意する必要がある。緻密(ちみつ)なバランス調整が必要になるだろう。

 

 そして私には、国際資格により関節や靭帯(じんたい)を評価するために『携帯超音波診断装置』や、『医療レベルのケア用機器』をどこの国でも使える。なので状態を細かいスパンで把握し、場合によりその場である程度ケアできる。

 

"――成長曲線は普通。遺伝子情報は理想的。突発的なアクシデントがなければ大丈夫かな? で、クラシックは弥生、皐月、ダービー……はい?――"

 

 クラシックのローテープランを追っていた私の目は、ゴマ粒サイズの点となった。そこにはなんと――。

 


07月後半 【英国:アスコット】

キングジョージ6世&

クイーンエリザベスダイヤモンドステークス

 

09月後半 【日本:中山】

セイクライト記念(G3)

 

10月前半 【仏国:ロンシャン】

凱旋門

 

11月前半 【日本:京都】

菊花賞

 

11月後半 【日本:東京】

ジャパンカップ

 

12月後半 【日本:中山】

有マ記念


 

"――……うっそ……クラシックで行く気!? まあ、やってやれなくはない。けれど……――"

 

 内容的にハードローテーションである。大切な事なので2回見て確認したけれど、ハードローテーションである。

 

「ルドルフ」

「なんだいトレーナー君?」

 

 この鬼ローテを希望したルドルフに、その真意を尋ねるべく声をかけた。

 

「――本当にこのローテで行くんですか? クラシック戦線のローテが過密気味だし、シニア期を考えるとどうかと思います。それにキングジョージ(女王陛下の庭)や凱旋門はシニア級との格上戦。バ場とコースが日本の中央以上にタフです。あちらの管理や気象条件を考えるとほぼ稍重から重バ場。洋芝はソフトではありますが、整備状況などのリスクもあります。……流石にこれは盛り過ぎではありませんか?」

 

 するとルドルフの顔つきがかなり真剣……。

 というより威圧感のあるものとなった――!

 

 あまりの変わりように、私は息をするのを止め身体が硬直した――!

 

「だから私はわざわざフリーエージェントを使ってまで、君という『航海士』を私の手元に連れてきたんだ。できるだろう? 君なら――私を突破させることができるはずだ。」

 

 わざとゆっくり言葉を並べるその様は……

 

 一歩、

    また一歩、

 

 狙った獲物をじわじわと

      低い姿勢で追い詰めるような気配を感じる。

 

 私を見るルドルフの雰囲気は、まるでそう。"目当ての獲物を射程圏内にいれた"獅子"だ。

 背筋に何かいやな汗が流れ、ウサギが駆け抜けて草を騒がせるように、産毛が逆立つような感覚が走っていく。

 

「!」

 

 自らに迫る危機や異変を察知した小型草食獣のように、私はビクリと身体を震わせた。明らかに威圧されている――思わず短く息を飲み怯んでしまいそうになる。

 

 ――だけれど!

 

「……どうして海外大舞台のシニア戦線行くのがクラシック期なんですか? リスクを負うだけの何か強い理由があるのでしょうか?」

 

 私も『プロ』だから、簡単に引き下がり言いなりにはなれない。

 即時硬直状態の自分に喝をいれ、ルドルフの中に潜んでいた荒々しい一面と対峙する。じっとルドルフを見据え、揺さぶりをかけてきた目的を知るため、こちらも探りかける。

 

「――ふむ。何かしら動揺すれば押しきれると思ったが、簡単には動じないか。流石だね、トレーナー君」

 

 ルドルフはいたずらっぽい悪い笑顔を浮かべた。その表情からして私を『わざと』試したようだ。なんだか弄ばれた気分になり、ちょっとだけ腹が立つ。

 

"――貴方の皇帝オーラも相まって、実際に私が受けたのは動揺というより威圧。もといそのプレッシャーは肉食獣に狙われ、食われかけた系の類だったんですが!――"

 

 こんなことを毎回されてはたまらない。私は頬を膨らませて『怒っているぞ』という態度を見せる。すると、いたずらに失敗してばれた子供のように苦笑をうかべ、彼女の自信満々の眉毛はハの字の困り眉となった。

 

「動揺させても私は『はいわかりました』なんてぜーったい! 言いませんからね? 全く」

「ふふ。すまない、少し試してみたくなった。しかしそれは戯れが過ぎたようだ――許してくれ」

「今回だけですよ? 一応私は1歳目上で、貴方のトレーナーですから真面目な話し合いでそういうのはダメですよ? 」

 

"――いたずらにすら全力を出すのがこの子の怖い所だわ――"

 

 困ったものだとため息を吐きたい気分になる。今みたいにルドルフは相手を試す癖がある上に、かなり賢い。

 

 彼女の賢さを測るため、私はケンタッキーからのフライトの間、ルドルフにチェスを持ちかけた。しかし、彼女に勝てても一度試した戦法なら、時間を置いてから試すと全く通用しなくなる。セオリー外含め何パターンも挟んでも、"覚えてやり返してきた"。

 

 戦法の取り方から察するに、彼女の思考ロジックは最初に目標地点を決めている。そして、そこに進めるための何通りも道筋を用意している。AルートがダメならB。次はC、D。こんな具合に小手先の戦術ではなく、戦略的な思考をしている。

 そして思いやりがあるためエゴイストでは無いものの、かなり我の強い。そう私は彼女の性格を読んでいる。そして意志を貫くためならば、強引な手段も取ってくるタイプだろう。

 

 彼女の意志は尊重したいが、無茶なことに関して止めなくてはならない。私がいるからといって、無理無茶無謀が通ると学習されてしまっては困る。

 そんなことを考えている私とは裏腹に、目の前のルドルフは私の態度に満足げだった。彼女はハーブティーを優雅な動作で一口飲んだ後――。

 

「話を戻すと、理由は君が絶対に納得しないだろうなというものだ……どうしてもなんだ。沸き上がる渇望からくるもので理屈じゃない」

 

 どうしてもプライド上言いづらいのだろうが、声色は私がどう反対意見を意見具申しても、最終手段として自らの矜持に障るがごねてでも通したい。そんな雰囲気が読み取れるようなものだった。

 

"――チャレンジしたい、冒険したいって熱意なら仕方ないか……――"

 

 厳しいが完全に無理なわけでもない。そう思って私はこう切り出した――。

 

「――そこまでしていきたいのなら、私は使える手段全て使って全力を尽くします。それでも避けられない何かがあっても、いま決めたことに対して後悔はしませんか?」

 

 ルドルフの顔がまるで鳩が豆鉄砲を食らったような表情になった。

 私が"非論理的なこと"(無茶なローテ)を聞き入れようとしたからだろうか? 大方かなり反対することを予想していたのだろうか。

 

「ルドルフは皆のために頑張っている。だからルドルフがやりたいと言う事は叶えたい。聞けるお願いなら私はそれを聞きたい。それで後悔しないのなら――私はその覇道(みち)に付き合います。引き返せなくなるかもしれない、最悪があるかもしれない。……それでも選びますか?」

 

 私は真っ直ぐと彼女の瞳を見つめて力強く返す――。

 

「――トレーナー君。どんな結末になっても私は自分で決めた事を後悔はしない。君が心配な気持ちは最もだが――すまないが頼まれてくれ。」

 

 どうやら彼女の決意は相当に堅いようだ。

 

「……わかりました。でも、本当にダメそうなら、引き返せる範囲の段階で止めますからね?」

「それで構わない。そしてだ」

 

 そしてルドルフは皇帝としての表情から、リラックスした柔らかい。おそらく素の一面であろうそんな表情を浮かべる。

 

「私の『無茶なワガママ』を聞いてくれてありがとう。――トレーナー君のその心遣いが素直に嬉しいよ」

 

 それはとても美しい綺麗な笑顔だった。心から湧き出てくる感情の表れのような、幸せが、そして嬉しさが溢れていた。

 

 ――ああ、こんな顔も出来るんだな。

 

 そう思った後私は口元に軽く笑みを浮かべ。

 

「どういたしまして」

 

 そう返した。かなりの賭けになるが、無事に切り抜けてみせるか。そんなルドルフの笑顔だった。少しは心の距離というか、素を見せてくれるのだから多少は素を見せてくれるほど気を許してくれているのだろうか? それを置いておいてもう一度ローテーションの書類に目を落とす。

 

"――取りあえず長期目標はキングジョージ突破かな……秘密兵器の仕上げも急がないとね――"

 

 疲労困憊(ひろうこんぱい)といった感じの雰囲気はルドルフからすっかり失せた。そして人をからかって遊ぶほどに回復している。そのことにとても安堵した。

 

 全部が全部聞いてあげられるわけじゃない。けど聞けるワガママだけは聞いてあげたい。

 見た目の歳が近いから安心して頼み事したり、ふざけたりできるんだろう。本当はもっと私の方が年上だけど、そんな居場所を望むなら、そういった思い出を作ってあげるのもいいかもしれない。

 

「ところでルドルフ」

「なんだいトレーナー君?」

「ケーキまだ沢山あるけど――おかわりはいかが?」

 

 まだ冷蔵庫には残りのケーキがあった。ルドルフはまだお腹を空かしているかもしれない。そう思った私は彼女に尋ねてみる――。

 

「ああ、君の邪魔じゃないなら――もう少しこのお茶会の続きを楽しみたい」

 

 彼女は嬉しそうな顔を浮かべ、元気が出たのか張りがある声でそう返した。

 

 柑橘(かんきつ)のさわやかな香りに包まれて、私たちのお茶会は続いた――。

 

   ◇  ◇  ◆

 

 希望ローテーションも通って、あの後残りのケーキも食べ切り満足したルドルフがこの場を去ったその後――。

 

 私は鍵付きの引き出しを開き、手にしたのは秋川理事長からの"宿題"だった。

 

"――学園スタッフにおける『フリーエージェント』に関する私側からの『意見』ねぇ――"

 

 学園改革は私のすべきことじゃない。しかし、これは放置して良い物ではないと感じはじめている。

 

"――文字起こしの議事録をみる限りまだ何かありそう。養父が学園にさらに投資し、施設の改修を済ませたけど、まだ足りないのかな?それとも――"

 

 座り心地の良い、革製のデスクチェアーに深く腰かける。そしてもう一度、書類を見直しながら状況と照らし合わせていく。

 

"――……判断材料も足りないか――"

 

 色々と考えてみたものの、全体の俯瞰図(ふかんず)が見えず決定打に欠ける。私は書類を引き出しに戻し鍵をかけ、立ち上がって簡単に身だしなみが乱れていないかチェックした。

 

"――少し歩いて情報を探しておこう、『学園内に詳しい情報屋』を押さえておかなきゃ――"

 

 根回しも人脈も何もかもがまだ足りない。そして放置しておけばルドルフに火の粉がかかる可能性がある。それだけは阻止したい。

 

 私は行動を開始した――。




【バ場の背景と作中設定】――読み飛ばし可

 エクイターフやエアレーション技術がある設定で行くと、史実内容やタイムが大幅に変わる気がしました。

◇なので連載中のバ場設定ルール◇
 ・エクイターフではなく芝は80年代にあった野芝や当時の芝状況に置き換え。
 ・路盤は資料が手に入れば当時の情報で描写。
 ・時代は2000年代でありますが、モデルが83年からひっぱります。
 ・1989年に札幌競バ場はまだない。なのでない競技場は書かない。
 ・コースの資料が入手出来たら当時の状況で描写。。
 ・現代のようなエアレーション作業は83年から85年まだ未登場。なのでなし
 ・水はけに関わるコース下の暗渠管はなしで。

 史実に寄せた謎時空という感じでいきます。

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