ルドルフ視点から始まり
◆◇◇から◇◆◇の間だけトレーナー君
◇◆◇以降ルドルフ視点です
大雑把に内容をプロットしたのが、この妄想シリーズを書き始めたころくらいなんですが、まさか競馬における昨今の時事を彷彿させるものになるとは……。
あくまで妄想なので実在団体への批判とかメッセージ性があるものではないです。と念押させてください。(偉そうなこと言えません!)
出走者表はこちら
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わーお……。
では始まります。
――20××年+2 3月30日 20時頃――
――美浦寮 自室――
今日はひとりしかいない自室。私はレースに必要なものをスポーツバッグに詰め、邪魔にならない所に置く。ベッドに腰かけて髪にブラシをかけ寝る準備を始めた後、落ちた髪の毛を拾ってごみ箱に捨てる。
ブラシをベッドサイドボードの引き出しに戻す時、ふとその上にある折り畳み式のシンプルなフォトフレームに目が行った。
そっと手に取る。そこにはトレーナー君と私が映った写真が2面飾ってあった。
この写真を撮った時期は帯広に向かう少し前になる。
今年の1月半ばに行われたURA賞の授賞発表パーティーでのもの。私は紫のロングドレスで、トレーナー君は彼女にとっての勝負服――いつものスーツ姿。そんな私達は笑いあって写っている。
パーティーでは私は最優秀クラッシック級ウマ娘賞を受賞し、年度代表ウマ娘に選出される資格を得た。シニア級の受賞者も含まれるため投票結果は荒れるだろうな。
と思いきや、大変光栄なことに私が年度代表ウマ娘へ選ばれた。
壇上から正面を見たとき、案の定うれし泣きしそうなトレーナー君の姿が目に入った。
片手の親指をぐっと立てて満天の笑みを浮かべた。きっと嬉しかったのだろう。思わず私も熱いものが込み上げそうになるも引っ込め、同じように返す。その瞬間大きくシャッター音が鳴り響いた。
そして次はウマ娘達を担当したトレーナーの表彰となったのだが、私のトレーナーは担当選手がひとりだけ。そのため最優秀新人トレーナー賞も、最優秀トレーナー賞も選ばれない。
それが残念だった――。
共に世界を制したのだから、同じように誰かに彼女の頑張りを讃えられて欲しかった。思わず頭上の耳も垂れてしまう。何だか寂しい気持ちがしたから。
すべての表彰が終わった時――ここで急遽URA機関紙の代表と秋川理事長と共に『特別トレーナー賞』が発表された。呼ばれたのは自身のトレーナーだった。
秋川理事長は『感動ッ! 成し遂げた戦績もさることながら、キングジョージと凱旋門での君たちの互いを思いやる絆に心を打たれた者は多かったッ! よって×××トレーナーにも特別賞を贈らせてもらうッ! これからも励み給えッ!』と、トレーナー君に特別賞の盾を差し出した。
ステージの背景にはトレーナー君がキングジョージのレース直後、転びながらも私に駆け寄った時の映像。凱旋門ではレース後にぶっ倒れたトレーナー君に私が駆け寄ってた映像が並べて表示されていた。
トレーナー君は映像に気付いてはっとしたように目を見開き、秋川理事長に振り返りなおして、言葉を失ったように震えた。彼女は両手で口を押えて本格的にこれは泣きそうだった。彼女の涙が零れ落ちる前に――クラッチバッグからレースの白いハンカチを取り出す。
いくら喜怒哀楽が激しくて泣きやすいから水に強いメイクをしているとはいっても、崩れて恥ずかしい思いをするのは可哀想だ。バッグを自分の席に置いて壇上のトレーナー君にそっと近づき『また泣いてしまってるよ』とハンカチを渡した。
そしてその瞬間、取材班のカメラのフラッシュが一斉に切られる。雷雨のように降り注ぐフラッシュと、トレーナー君の瞳から溢れる歓喜の雫。それは彼女と私の歓喜からくる高揚感のように激しい物であった。
結局トレーナー君は泣き上戸のウイニングチケットよりも、何を言っているかわからないような状態に。そのため彼女が得たその勝利の盾は私と一緒に受け取った。
これも我々らしいかな? と、ステージから降り切った時――ふいにトレーナー君へ"ルドルフ"としての笑顔を向けた。それに応えるようニコリと微笑み合う彼女。
2枚目の写真はその時の写真だ。私もトレーナー君も表情が生き生きしているいい写真だと思う。
そして明日はシニア級最初のレース。今年も彼女と共に目標へ向かって頑張ろう。
写真立てを置いて私は部屋の照明を消してベッドに入り瞳を閉じた。
理想への果てに向かう旅路へ踏み出すために――。
◆ ◇ ◇
――20××年+2 3月31日 15時30分頃――
――中山レース場 スタンド――
今日は折角だからルドルフから貰ったシュシュでポニーテール。そしていつものスーツ。で、見慣れないのは――。
ルドルフが体操服だってこと。
GⅠレースの勝負服と同じ緑の体操服とゼッケン。久しぶりにトレーニング以外に体操服を着用してるのを見て何だか新鮮だなぁなんて思った。
そして今日はトウカイテイオーは都合が合わずスタンドには居ない。副会長ふたりもトレーナーが東条先輩へ決まったし、今日は私ひとりで観戦かなぁ?
なんて思っていたら、トレーナーが決まったはずのブライアンが何故か私と一緒にここに居る。疑問に思ったので聞いてみることにした。
「そういえばブライアン。東条先輩達と見ないでいいの?」
「――お前がまた倒れないか心配だからと、ルドルフとトレーナーに頼まれた」
「すいません……ご迷惑おかけしてました」
「――気にするな。レースならどこでも見られる」
どうやら私の所為だったようだ。申し訳ない。しかも先輩にまで心配されてた。
私は思わず頭を抱える。
「ここ空いてる~?」
その声に振り返ると、そこに立っていたのは――。
「ちゃおーお嬢様とブライアン先輩~」
「こんにちは…お見かけしたので……レース観戦ご一緒してもよろしいですか?」
セイウンスカイとメイショウドトウだった。
「こんにちはおふたりとも。いいですよ」
「――構わん」
「わぁーありがとうございます!」
「ほら。話しかけたらおっけーしてくれたでしょ~?」
「はい~」
嬉しそうにピコピコと耳を動かして喜んでいるメイショウドトウ。どうやらセイウンスカイは、私達に声をかけられなかったドトウを見かね行動したのだろう。道理で珍しい組み合わせだと思った。
「流石の会長さん相手だと出走回避が多いねぇ~」
「そうですね。開催出来て良かったというレベルです」
本日の中山第11レース『GⅡ日経賞』の出走者数は8人。ルドルフの出走が決まる前は沢山登録者が居たのだが、登録した後から回避者が続出したためこの人数になってしまった。
「あまりこんな状態だと、実戦の意味が無くなってしまいます。困りものです」
「むむ……そうなんですか?」
「ええ。経験は大成功のための貯金箱ですからね。人数が違うだけでレースの作戦は大きく変わります。大きなレース程人数が多くなる傾向があるので、人数が多いレースを実際に走ってちゃんと実戦を積み重ねるのが大事になるんです。ドトウも練習したらちょっとずつ作戦が増えたり、自信がつくでしょ?」
「なるほど! 確かに実際のレースで頑張った事はよく身についている気がします」
「ふーん? するとするとぉー……お嬢様と会長は今年も大物狙いというわけで~?」
ドトウの疑問に丁寧に答えていると、セイウンスカイが声をかけた。彼女は名探偵が推理するような感じに、指をあごの下に当てニヤリと笑いおどけた。
「そう言う事です。今年もルドルフの年度代表ウマ娘の座を狙わせて頂きますよ?」
「ふふっビンゴ~。どんな大物を仕留めてくるか楽しみだねぇ~」
今はまだ発表しないが、秋のレースプランは大物狙いと決めている。前年みたいなドタバタではなく、今年は慎重にいくつもりだ。
「大物といえば~お嬢さまは釣りが大好きだと聞きました~。セイちゃんも釣りが大好きなのでお供にいかがですか~?」
「保護者の方が許可をすれば。そして都合が合えばいいですよ」
「やったぁー!」
これくらいは別にお安い御用だし、特に断る理由も無いのでオッケーをした。するとセイウンスカイは大喜びで私にLEADを交換するための小さなメモを渡してきた。最初からこれが狙いなのかもしれない。
「可愛らしいメモですね」
「うんうん! フラワーと遊びに行った時に一緒に買ったんだよね~! いいでしょぉ~?」
デイジーとヒナギクが印刷された明るい図柄のメモをそっと名刺入れに仕舞うと同時に――。
『曇り空が続きがちだった空にも久しぶりに晴れ間がのぞきました! 中山11レースGⅡ日経賞の始まりだ! 芝2500m右回りバ場は稍重。春の天皇賞の前哨戦を制するのは一体どのウマ娘か?』
ひょうきんなしゃべり方が特徴的な男性アナウンサーの語り口にノッタ観衆は、大きな拍手や歓声をあげる。そして私たちもバ場の方へと意識を向けた。
「入場……始まりましたね!」
「さて、どんなレースになるか楽しみだなぁ~」
本バ場入場紹介が始まった。6番目に紹介されたルドルフは、返しを行いゲートの前まで走る。
今回のスタート位置は向正面側だ。三角型の外回りコースの途中からスタートし、3コーナーで内回りと合流し内回りを1周半。そんな感じの有馬記念と同じコース取りだ。
そしてゲート前に来たルドルフは、ウォーミングアップのストレッチを行いはじめた。
「ところでところで~? 今回の作戦は?」
「それは見てのお楽しみです」
「まあ、わかっちゃうとネタバレだもんね~」
セイウンスカイと軽くやり取りを交わしている内に、ゲート入りは続々と終わり人気紹介へと移る。出走者数が少ない分段取りは早い。そしてアナウンスと共に、3番人気の子と2番人気の子達が次々にゲート入りし。
『1番人気。凱旋門ウマ娘王者シンボリルドルフ! シニアシーズン初の出走! 今日もこの子が勝ってしまうのか!』
ルドルフが堂々とした態度でゲート入り。そして――。
『各ウマ娘態勢整って――スタートです! 全員綺麗なスタートを決め、まず飛び出したのは内側の5番クガネアスカ! 1バ身さがって6番シンボリルドルフ2番手、前目の位置取り! その外まわって7番クガネクロシオ3番手!』
バ群はルドルフを意識しており前に行きたがらない様子。そして先頭が向正面の延長部分を抜け3コーナーがある位置にまっすぐ入っていくか行かないかの時だった。
『おっとシンボリルドルフがハナを取った! これは珍しい展開だ!』
今回は過去のレースを見る限りルドルフ以外先行が3人。他は後方からのレース展開が中心――。なら好位置にずっと待機していても仕方がないので、今回の作戦は100m通過時点で逃げが不在なら先頭いきましょうという事で合意していた。私は双眼鏡から目を離し肉眼での確認に切り替える。
『バ群はシンボリルドルフ先頭で4コーナーへ! 内側2番手ピタリとルドルフの後ろに張り付きクガネアスカ! その外並んでクガネクロシオ3番手! 内を通り1番キタノユニコーン4番手!』
ルドルフは得意のコーナリングを決め
大歓声の波を浴びながら、ルドルフ達は4コーナーを抜け最初のスタンド前に入ってきた。
蹄鉄が叩きつけられる音が鈍く響き近づいてくる。ターフはまだ春の気配すらない。その茶色く染まった野芝は剥がれた個所も目立ちコンディションもあまり良くない。彼女たちが近づいてくると共に、土埃臭い匂いが鼻先を
よって今回のシューズチョイスもダート用と芝用の両パーツを組み合わせた、ハイブリットモデル。これで少しは走りやすいはずだ。そしてルドルフ先頭でスローペースのまま、私たちの前をバ群が通過してゆき1コーナーへと向かっていく。
「ふむふむ。誰も逃げないから先頭を取ってスローで場を支配すると」
「そう言う事です。今回はバ場が少し重いし長距離ともなると読み合いは難しくなります」
「それってものすっごくやられる側は嫌だねぇ……」
「ええ。今のところ上手くはまっているようだし、このレースに貴方がいなくて本当に良かったと思います」
「おっと? セイちゃんの評価たっか~い!」
「ふふ。勘が良い子はなんとやら~ですよ」
「ヤダ怖い」
セイウンスカイと軽いやり取りをしながらも、バ群を私は目で追っていく。
『その外まわって4番マロンバレー5番手! その外を回り8番ケルストライアンフ6番手! 後方2名は少し離れて内に3番ローベルトポート7番手! 最後方2番ウルトラサバンナ8番手! バ群は詰まった状態のまま第1コーナーへ突入します』
スローペースかつルドルフを全員マークしているせいで、バ群はぎゅっと押し固まったままだ。後方へ位置取りする程バ群の中で身動きが取れず、スタミナをかなり削られてしまうだろう。そう思いながら再び双眼鏡を構え直す。
『先頭はシンボリルドルフ! 悠然と通り過ぎていく! 外をまわって1バ身半はなれてクガネクロシオ2番手! 1バ身離れてクガネアスカ3番手! そして1バ身離れてケルストライアンフ4番手!』
1コーナーの出口辺り。前半1000mの通過タイムは65秒台だった。
恐ろしく遅い。超ドスローなのに誰も前に立ちたがらないまま、1コーナーから連続する2コーナーを抜け、バ群は向正面へ入っていった。
『先頭から最後方まで8バ身! 全員1列の縦長の展開ながらそんなに間は開いてはいません! そしてバ群は向正面中央を通過し先頭はシンボリルドルフ1バ身リード、その後ろにクガネクロシオ2番手、同じ間隔が続き3番手クガネアスカ、4番手マロンバレー! 以下固まりの超団子状態! 視界は悪い、狭い! 抜け出しにくい! 後方の子達にこれはツライ!』
「最後までああなっちゃうと抜けられないですねぇ……外を回らないといけないから大変そうですぅ……」
「ええ。こうなってしまった時はもうどうしようもないですね。ドスローで行けると思ったら前を取った方が良いという実例です。この後さらに後ろから展開した子ほど面倒なことになりますよ」
向正面に出るまでは13秒後半刻みでわざとカーブを曲がっていたルドルフは、残り1000m地点での1ハロン間の通過で12秒刻みのペースを選択したのだろう。ハロン間のタイムはほぼ12秒。脚に十分余裕はあるので、ここから加速して突き放しにかかる計画だ。
ルドルフが少し早く駆けたことで一瞬縦長になったが、そのバ群を待ち構えるのは――。
『そして3コーナーへ突入だ!』
3コーナーと4コーナーの連続したカーブだ。中山の連続した狭いコーナーを考えたら、ペースを上げ過ぎたら曲がり切れずに自爆する。だが短い直線を考えれば上げざるを得ない。ルドルフの後ろから、レースを展開してきた子達は厳しい選択を迫られるだろう。
そしてそんな後続の苦労などどこ吹く風といったルドルフは、お得意のコーナリングテクニックでさらにペースを上げていく。私はタイムを数えるのをやめて双眼鏡から再び目を離す。
『先頭からシンガリまで7バ身くらいでしょうか? 後方との距離は詰まってきましたが先頭は依然1バ身リードのシンボリルドルフまだまだ余裕の表情! 2番手にはクガネクロシオがピタリと追走! 3番手にケルストライアンフがここで外から上がってくる! バ群は4コーナーへ入り4番手にはマロンバレーこの子も位置を上げてきた!』
「あわわ……! スパートが早いです! でもこんなにスピードを上げたら曲がれない!」
「こんな風に良い位置を取られ、今更位置取り争いをしようとしても手遅れになります。メイクデビューでは焦った子が外を回ってコーナーで抜こうとして、そして膨らんで失敗してしまう」
「うんうん。逃げの楽しい所は好きに走れるのと場を支配できること。そして作戦に相手がハマると面白いよね~。それもレースの醍醐味って感じがするわ~」
開花の気配が少し遠い、枝先が朱い桜の木々を背景にバ群はこちら側へと戻ってくる。残り400mを切り4コーナーで後続が追いすがる。ルドルフの外から斜めにふたり並ぶも、ルドルフは引きつけさせず鋭く内側に切り込んで正面を捉えた。
最終直線の入り口から50mもしない内に
(↑GOAL) |内ラチ
ルドルフ |
|
|
クロシオ |
|
マロンバレー|
2番手のクガネクロシオへ3バ身つけどんどん突き放していく!
『残り200mを通過し坂を登っていく! 先頭は依然シンボリルドルフ! これは強い! 5バ身つけてなおさらに突き放す! 中山の短い直線が東京の直線にすら見える鮮やかな走り! そして坂すらものともしない!! 』
そして荒れたうえに少し重いターフの坂を上がり切ると、ルドルフは大きなストライドを生かし飛ぶように駆け抜け――。
『これが世界を制した豪脚一閃! シンボリルドルフゴールイン! 2着クガネクロシオ! 3着マロンバレー!』
豪雪を齎した冬将軍の余韻が残る荒海のようなターフ。激しく上がる水しぶきのような砂の海を突き抜けてルドルフはシニア級シーズンの初陣で初勝利を上げた。
◇ ◆ ◇
――20××年+2 4月6日 15時頃――
――生徒会長室――
レース後の疲労を抜くために今週はトレーニングはお休み。生徒会長室の自分の執務机で、トレーナー君から貰った銀の万年筆で眼を通し終えた書類に記入し終えた。これで今週の分の8割方は終わりだ。内容は新入生関連のもので、ファン感謝祭の準備も重なりこの時期は書類がどうしても積み重なってしまう。
しかも日経賞の翌日に入学式ときた。そんなドタバタスケジュールで迎えたその式典の新入生代表答辞。テイオーが新入生代表としてまさか壇上に上がってくるとは思いもよらなかった。この日の為にかなり頑張ったんだとか。なんとも微笑ましい限りだ。
硬くなった背を伸ばしてからチラリと後ろの大窓を見ると、その目下には1か月前よりも若葉が樹木に茂りはじめ、春の気配が色濃くなっていた。
"――今朝登校したときに見上げた桜の枝に花が咲いていたし、花見もいいなぁ――"
去年のようにこじんまりとトレーナー君とお弁当を作り合って、花見をするのもいいかもしれない。
すると通信アプリが鳴り画面を確認するとトレーナー君から。内容はまず画像から始まっていた。
映っていたのは美味しそうなサンドイッチが三種類、重箱サイズのランチボックスに入っていた。メッセージから察するに具材は、サンドイッチの内容は分厚いたまごサンド、サラダ用に細切りにしたニンジンとエビ&アボカド&スモークサーモンのシーフードサンド、カツサンドのようだ。そして何故かカレーパンが添えられている。
傍に置かれた別の透明プラスチック容器には巨峰やイチゴ、マスカットなどが満載されており、いちごには可愛らしいウサギとライオンのピンが刺さっていた。全てが茶色くなる自身のお弁当と違って、トレーナー君が作ってくれる差し入れやお弁当はいつも色鮮やかだ。
そしてそれは懐かしい思い出を思い出させてくる。
まだ姉や兄に甘え、妹と遊び、幼馴染とも仲が良かったあの日々を――。
『乙カレーパン! という事で差し入れいる?』とメッセージが表示され、親指を立てたウサギのスタンプが押される。私は『"望月"製のお弁当は"もち"ろん受け取る』返事を返しひとりほほ笑んだ。
「どうかなされましたか?」
私の手が止まっていることに気付いたエアグルーヴが自分の机から声をかけてきた。
「トレーナー君が差し入れを作ってくれたそうだ」
「――肉はあるのか?」
興味がある事以外全く話しかけてこないブライアンがこちらを向いた。きっと小腹が空いているのだろう。
「カレーパンとカツサンドがあるようだ」
「――なら貰おう」
「お前が言うな! 会長が決めることだぞ!」
「――コイツがお嬢サマの弁当や差し入れを断るわけないだろ。それに私や女帝の分も毎回きちんと作ってくれている。なら私の分でもあり決定権も当然あるはずだ」
「なっ!? 会長のトレーナーが優しいからといって甘えすぎだぞ!」
ブライアンはどこ吹く風といった態度でエアグルーヴの説教をかわした。
「ふふっ。そう怒らないでくれエアグルーヴ。トレーナー君のお弁当や差し入れは美味しいからね。きっとブライアンも楽しみにしてるんだろう」
「――――」
「無言は"肯定"と取るよ? "皇帝"なだけにね?」
その瞬間何故だかふたりの空気が固まった気がした。が、特に表情が引き攣っていない。きっと感動するくらい私のダジャレの出来が良かったのだろう!
満足のゆくダジャレも出来てふたりにも楽しんでもらえた。機嫌をよくした私は一旦壁にかかる丸い時計を見やる。時刻は15時を少し過ぎたくらいで休憩するには丁度良い時刻だった。
「あと15分くらいで着くそうだから、一旦休憩しよう」
「そっそうですね……」「――ん」
エアグルーヴとナリタブライアンはそれぞれ飲み物を持っていたそうなので、私は自分のコーヒーを給湯室で淹れに向かう。そして戻ってくる間に、ふたりは応接ソファーの辺りを片付けてくれていた。
テーブルの上の私の左隣には、いまから差し入れを持ってきてくれるであろう、トレーナー君の分もいれた数の皿とカラトリーが用意されている。この光景も今ではいつもの日常となっている。
が、いつもより私の右側にセットが1つ多かった――。
「ん? これは……」
「先ほど会長のトレーナーがテイオーに張り付かれていたのが窓から見えたもので。恐らく来るかと」
「ふふっなるほど。テイオーならトレーナー君に巻き付いてでも実力行使でここまで来てしまうだろうな」
そろそろ連絡があるだろう。と思っていたら、トレーナー君からひとり連れて来てもいい?という連絡がLEADのメッセージを通して入った。
「どうやらそのようだ。許可を出しても構わないかい?」
「もちろん」「問題ない」
トレーナー君に許可を出して短いやり取りを交わし、またアプリを閉じる。
去年のジャパンカップ以降親しくなったテイオーは、構ってほしいと甘えるほど
するとテイオーはトレーナー君に構ってもらおうとする。まだまだ子供な所がテイオーにはあるので、誰かに甘えたいのだろう。トレーナー君の面倒見の良さもあって、テイオーは彼女をよく
しばらくするとノックが聞こえ、入室を促すとまずテイオーがトートバッグを片手にドアを開け、トレーナー君を中に通した。どうやらテイオーはトレーナー君が持ってきた差し入れを運ぶのを手伝っていたらしい。
「お邪魔しまーす! カイチョ―! 会えてうれしい!」
「いらっしゃいテイオー。労いありがとう。君はこちらに。飲み物はあるかい?」
「お姉さんにジュース買ってもらったから大丈夫! 新発売フレーバーのはちみー楽しみだなぁ」
テイオーはトレーナー君にジュースを買ってもらっていたようで、片手にはハチミーの缶ジュースが握られていた。そして私が与えたシュシュで髪は肩の高さの低めのサイドテールにし、スーツ姿のトレーナー君がもうふたつ差し入れが入っているトートバッグ型のお弁当入れを持っている。
「お疲れ様です。美味しい食材を食べきれないほど頂いたので、差し入れを作ってみました」
「お疲れ様。忙しい中ありがとう。とてもカラフルな差し入れの画像だったので楽しみにしていたよ。ブライアンもね」
「余計な事を言うな」
「事実じゃないか?」「そうだったじゃないか」
私とエアグルーヴの返事がかぶり、ブライアンはぷいっとそっぽを向きつつも視線はトートバッグの方をちらりと見ている。自分の
皆で手伝いながら差し入れの入った重箱を広げると、画像通り美味しそうなサンドイッチとフルーツ盛りが広がった。
「すご! この量をひとりでつくったの!? 大変じゃない!?」
「ふふっ。Grandともなればこれくらい朝飯前です」
「何それ万能職業じゃん!?」
「手際が良くて驚かされる気持ちはわかる。最初私も驚いたものだから。さて、召し上がろうか」
私に促されテイオーはどれにしようかなー! とはしゃぎすぎてエアグルーヴに落ち着けと
玉子サンドを一口含むとフワフワとした柔らかいパン生地と、優しい卵の甘みと丁度良い塩加減を感じた。
そんな穏やかで賑やかで、この玉子サンドの味のようにほっとする。心に広がる余韻を噛み締めるようにまた――ひと口玉子サンドを口に運んだ――。
受賞関係はややこしそうなのでウマ娘寄りのURA賞にしておきました。
トレーナーの賞の関係は創作です。