IF.皇帝の幻の遠征計画と半人半バのお嬢様   作:なすび。

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【旧第3グラウンド】
 ライスシャワーさんがアニメウマ娘2期で練習していた旧校舎とは、本館校舎を挟んで真反対の放置されているエリアと設定。


ルドルフ視点です――どうぞ、お待たせしました。




『望月』月と芝と嘘つきと【前編】

"――毎日よく頑張るな……――"

 

 昼食を食べ終えたこの時間帯。

 生徒会室の大窓から見える中庭では、ウマ娘やトレーナーたちが楽しそうに談笑している。

 

 そしてその輪の中心には、楽しそうに談笑するトレーナー君がいた。

 

 私は生徒会室の大窓から少し離れた位置に立ち、その歓言愉色(かんげんゆしょく)の宴を眺めている――。

 

 2月の初回ミーティングから約2ヶ月――。

 話しやすく"解語之花(かいごのはな)"のような、愛らしい姿のトレーナー君は、瞬く間に人間関係の範囲を広げていった。

 

"――それは彼女の美点ではあるが……――"

 

 私もトレーナー君と出会ってから人間関係は広がった。

 

 彼女からの紹介で"タイキシャトル"や、"ビワハヤヒデ"と知り合った。特に英会話の実践をかね、紹介されたタイキシャトルの影響で大幅に交遊関係は広がった。このふたりは私にとって、気心知れた大切な友人達になりつつある。

 

 知り合って驚いたのは、タイキシャトルとトレーナー君はかなり親しい間柄であったということだ。

 

 アメリカでトレーナー君が"元"担当していたのは"全米の英雄"と呼ばれたウマ娘。そのウマ娘に憧れたタイキシャトルは、ルイビル校のオープンキャンパスに来ていた。それがきっかけで、幼馴染みになったそうだ。

 

 中庭の景色にまた変化があらわれた。

 またひとりトレーナー君へ質問をする為に人影が増えてゆく。

 

 皆が彼女に求めるものは技術や知識だろう。"聞き耳"を立てていればわかる。

 大半は海外の情報や勝利につながるヒントを得ようとする、向上心溢れるトレーナーやウマ娘、そして熱心な教官ばかり。

 その全員が、彼女はまだ未成年だという事をきちんと理解して接している。

 

 下心などありえない。節度を以て接する事が出来る大人ばかりだ。

 

 それを解っているトレーナー君も、悩みや相談の1つ1つに丁寧に乗っている。

 私のトレーナーであるという自負があるのだろう。

 人間関係を広めるのは私のためという事もわかる。この業界で横の繋がりは大切だ――そして、何より……彼女の人間関係が広がることは喜ばしい。

 

 しかし、我々の取り巻く状況を考えると、どうなのだろう? 目立ちすぎるのはよくはないのではないか? 

 いまのトレーナー君は、理事長が目指す変化の象徴そのもの。それが強い影響力を持ち始めるという事が、最悪の事態になる可能性もありえなくもない。

 

"――いくら身体能力が人より我々に近い半人半バ(セントウル)とはいえ、やはり心配だ。それに――"

 

 彼女が他の者と話しているのを見ていると、何故だかもやもやとした気分になる。

 

 こんな気持ちになった経験はあるにはある。

 それは幼い頃、仲の良い友人が他の子と話していると、嫌な気分になった時だった。

 

 これは嫉妬だ。彼女へ自由に話しかけられる周りの者が羨ましい。私だってもっと色々な事を話したい。聞きたい。

 

 こんなことを思っているなんて、周りにばれるのは意地でも避けたい。絶対に知られたくない。この歳にもなって焼きもちを焼いている自分を恥じた。

 

"――ん? 焼きもち……――"

 

 私は腕を組み考え込む――。

 

"――確かトレーナー君のミドルネームは望月(もちづき)だから……――"

 

 大きく耳をパタンと動かし、拳を胸の前で打つ!

 

"――もちづき、焼きもち、望月。望月に焼きもち! なかなか良いな!――"

 

 誰も居ない生徒会室の窓辺で、うんうんと、ひとり大きく頷きこの素晴らしいジョークを思いついた自身を讃える。

 このまま気分良く生徒会の仕事に取りかかろう。窓辺を離れようとしたその時だった。

 

――うまぴょい♪

 

 スマートフォンの通信アプリ、LEAD(リード)の通知音が室内に響いた。アプリを開いて内容を確認すると

 

"――『ゴールドシップ』の捕獲救援要請か――"

 

 LEAD(リード)に送られてきた内容は、エアグルーヴとナリタブライアンからの救援要請だった。どうやら過ぎたイタズラをしていた、ゴールドシップを追いかけているらしい。しかし、思いのほか上手く逃げ回っており、中々追い付けないようだ。

 

 ゴールドシップ。

 自身をエンターティナーと称し、一風変わった行動をとる生徒だ。

 しかし、やる気を出した彼女の実力は本物で、ただ強い訳ではない。出走経験は模擬戦のみであるが、心理戦やブラフも仕掛けてくる中々の策士であった――。

 

"――彼女達だけでは荷が重いか――"

 

 アプリを閉じ深くひと呼吸置く――。

 不意に中庭を見下ろすとトレーナー君と視線があった。トレーナー君は私を中庭から見上げ、破顔一笑(はがんいっしょう)を浮かべながら手をこちらに振っていた。その姿に心が和み私も軽く手を振り返す。

 

"――さて――"

 

 生徒会長(皇帝)としての責任を果たすため、私は窓辺を離れた。

 

   ◆  ◇  ◇

 

"――少しやり過ぎたか。門限は……いかん、ギリギリになりそうだ――"

 

 生徒会のメンバーは業務で学園に泊まることがある。そのため寮の鍵を渡されており、各寮長に連絡を入れれば門限を超える事も出来る。

 

 私はアプリを使い、ヒシアマゾンにその(むね)を連絡する。

 

 辺りを見回せば、すっかり濃紺(のうこん)の景色。見上げれば満天の星空が広がっている。

 

 茜色(あかねいろ)の時間帯から空へ登っていた満月は、夜空の中央の玉座へ収まるように、堂々と浮かび一帯を照らしていた。

 

 何故トレーニングなのにひとりでいるかというと、私がそれを望んだから。

 

 

 ……あの後トレーナー君と顔を合わせずらかった。

 

 昼間生徒会総出でゴールドシップを捕らえた後、"ひとりでトレーニングをしたい"旨を、通信アプリでトレーナー君に連絡をいれた。

 彼女は心配そうにしていたが、"気分転換"と誤魔化し押し切ろうとしたところ、それ以上は触れないでくれた。

 

 そういった繊細(せんさい)な気配りが出来るのも、彼女の特筆すべき美徳だった。

 

 夜の青に染まるグランドの外周を見回すと、それに沿って桜が植えられている。月明かりに照らされ、満開に咲き誇り、心安らぐその香りも相まって、桃源郷のような幻想を(かも)し出していた――。

 

 そして私は、今宵(こよい)の夜空を支配するものを見上げる。

 

"――満月か……――"

 

 そして、星々を背景に最も輝くそれの名を、中央に(ミドルネーム)冠するトレーナー君の顔を思い浮かべた。

 

 彼女は孤児だった。

 

 産まれて間もないころ、真冬の森に捨てられていたらしい。

 拾われた孤児の苗字は、地名や自治体の長の苗字から贈られるそうだ。

 彼女は満月の日に、望月という土地に産声をあげたので、望月。

 

 ――そう名付けられた。

 

 それらは『ジャパンカップ勝利! 噂の天才の素顔の特集』、月刊トゥインクル12月号でそのように紹介されていた。

 

 幸運な彼女にはすぐに新しい出来た。新しい家族によって、新たな名___と、家名___を与えられる。

 

 その手続きの際に全てまっ更に一度消えた"望月"。

 

 しかし、彼女は物心ついた頃『初めて貰ったお誕生日プレゼント』だからと、感謝を込め『ミドルネーム』に戻したのだという。

 

"――私が()()なら、君は()()()()()か――"

 


【セレーネー】

 獅子座の獅子を育み、

 ウマ娘を侍らせた全能にして豊穣を司る女神。

 絶世の美女であり、花盛りの女性と『現在』を司る。

 『満月』を象徴している。


 

"――全能のセレーネー。まるで私の大切なトレーナー君みたいだな……本当に――"

 

 本当に良くできた偶然だろう? まるで出会うべくして出会ったような。

 私と彼女にはそんな共通点が存在ししていた。

 

"――それは運命か宿命か、必然か。さて明日は……――"

 

 私の両耳が何者かの足音を捉え、思考を中断させた。

 何故なら、何者かが"工事中"の『旧第3グラウンド』に向かって、"ひとり"歩いている足音がしたからだ。

 

"――全く! 困った生徒がいたものだ!――"

 

 月見を中断し、私はその影を追った――。

 

   ◇  ◆  ◇

 

"――いない!? ――"

 

 旧第3グラウンドに繋がる森を、月明りを頼りに走ってきた。しかし、追っていたその影と足音は一向に見当たらない。

 

"――おかしい。そろそろ追いついていそうなものだが……――"

 

 疑問符を頭にうかべながら仄暗い森を抜け旧第3グラウンドに出た!

 

 ――――はずだった。

 

"――これはどういうことだ……?――"

 

 森を抜け、一気に月明りに満たされた、旧グラウンドが視界一杯に広がった。

 敷き詰められたターフは月光を帯びて青緑に輝き、波の様にそよぐその表面はまるで海。

 

 立派な草原がそこに広がっていた。

 

 本能が刺激されるようなその光景。

 

  一歩、

     一歩

 

  また一歩踏み出して、その真ん中あたりで止まった――。

 

 その美しい新緑にしばし心を奪われる……。

 草木のすれる音だけが両耳に伝わり、桜の香りとターフの良い香りが私を包んでいく。

 

 余韻を十分堪能した後、私は辺りを見回した。

 

"――これは草原練習場だろうか……――"

 

 よく見ると楕円(だえん)のコースの跡地のカーブ部分から見て、その中央から分けた右半分は平坦。もう左半分は勾配(こうばい)がランダムにある丘となっているようだ。

 

 右半分の平坦部は『筋腱(きんけん)と関節の柔軟性』を高める目的だとして、左半分の方は勾配をランダムに配置しているのだろうか? 波打って見えたそれは、右側よりも負荷を高く設定し、『推進力』を高める目的なのだろう。

 

 そして何より……これは……。

 

 屈んで芝を少しめくってみる。敷かれているのは洋芝……それも()()()()()()()()()()だった……。

 


【ペレニアルライグラス】

 ホソムギの別名。洋芝

 主要用途:牧草、ゴルフ場、スタジアム等

 地下の茎は細い糸くずを大量に集め丸めたような形状

 

 足を乗せた感触の差

 日本の野芝

 粗い網目の布を踏んだ感じに近い

 

 ペレニアルライグラス

 糸をとにかく大量に集めてきて、適当に形を整える

 その上に足を乗せる感覚に近い。

 

 ヨーロッパの芝が深いと言われるのは、フカフカで走りにくいから


 

"――夏枯れを起こす寒冷地の芝を一体誰が、何のために植えたのだ――"

 

 疑問に思っていたその時だった。また誰かが駆けてゆく足音を私の両耳が捉える。

 

"――全く! 流石に夜目に強い我々でも、夜に走るのは危ないというのに! それに門限はどうした!――"

 

 音の主をさっさと捕まえて寮に戻さなければ!

 

 音を探ってゆくと、旧第3グラウンドに繋がる入り口に戻る。

 

 すると先ほどは見逃していた(わき)()れた横道を見つけた。

 

 横に立って並んで8人分くらいの幅の道は、グラウンドを囲む森の中を、ぐるりと取り巻き周回しているようだ。

 その道の上にかかりそうな木々の枝は、全て剪定されている。そして足音の主の居場所を示すかのように、青い光の道筋が通っていた。月光の反射具合からおそらく相当な高低差もある。

 

"――こんなところにコースが? いつのまに?――"

 

 疑問に感じつつも、耳をそばだてながら走って追う。

 

 しかしここも洋芝が生い茂っており足元がかなり悪い。一歩踏み込むたびに深く沈み、大変面倒な道だ。

 

"――不整地かつ勾配(こうばい)がきつい! 何なんだこのコースは!――"

 

 夏合宿所の裏山の上級コースとも、また違う難易度の高さだった。足音の主はこんな面倒な所を一定のペースで走っており、その音が全く乱れない。

 

 慣れている――。この悪路を平然と走る者正体に興味を()かれ。

 走りにくいが再加速をかけ、足音の主との距離は段々(ちぢ)まってゆく。

 

"――やっと見えて――! ――"

 

 何かを確認するかのように足元を確かめながら走る足音の主。

 服装は学校指定のジャージではなく、一般的なレディースタイプのランニングウェア。

 

 そしてポニーテイルに(まと)めたその黒髪は、月明りを受け、青いサファイアのような(きら)めきを反射していた。

 

「トレーナー君!!」

 

 私の声に振り向いた足音の主の瞳は――確かにエメラルドの緑を反射していた。

 

 間違いなくトレーナー君だ!

 

 だが彼女は大胆不敵(だいたんふてき)な笑みを浮かべ、足元を確認しながら走るのをやめ……。

 

 私に背を向け、一気に突き放しにかかった――!

 

"――なっ! ――"

 

 その態度は『追い超せるものならばかかってこい』『"地の利"は私のほうが有利よ?』そんな風な返事が返ってきそうな走りだった。

 

"――煽られた!! ――"

 

 彼女の種族、【スマグラディ・セントウル】はアハルテケの半人半バ(セントウル)。そのアハルテケは容姿のほか、能力も特異なものだった。

 

 まず、スラリとしたメリハリのある身体は、我々より頑丈で悪路に強い。

 そして、太古に存在した『千里を同じペースで駆け抜ける』とされる、『汗血(かんけつ)バと呼ばれたウマ娘たちに近い存在』である。

 

 トップレベルの大会では、スローペースながら160kmにもなる『エンディランスレース』や、無駄のない身体付きを生かした『障害レース』が彼女たちの主戦場。

 

 『砂漠を水なしで突っ切る走る猛者(もさ)』もいるという。

 そう、休まず走り続ける事に特化した猛者たちだ。

 

"――条件が君に有利なら勝てると……? ――"

 

 悪路にあたる深い芝は、黄金のウマ娘の血を引くトレーナー君には、非常に有利だろう。

 だが、私と比べれば練習量が違うはず!! そして何よりも――!

 アハルテケの……その力を引き継いでいる"君"に勝ちたい。

 

 私の闘争心に火が付いた。

 

"――(あなど)ってくれるなよっ!! ――"

 

 本気になって追いかけようとする――しかし!!

 

 足が沈み込む上に芝の下の道が悪い。仕掛けるならばコーナリングで差を(ちぢ)め、カーブを抜けて直線か

 

 月のおかげで足元は見える。しかし肉体的消耗こそはしづらいが、タフなバ場のせいで息が上がるペースが速い。

 

 私でも苦戦するこのバ場でも、泳ぐようにトレーナー君は駆けている。フォームの差だろうかと思い、試しにトレースするとこれは上手くいった。

 脚運びのコツを得た所で、目の前で楽しそうに走っている彼女を追い抜くため、狙いを定める。

 

 ペースをカウントしながら脚を貯め、私のほうが有利になるコーナーに入った。

 

 コースの外周に生えている木々の壁が視界から遠のいた。コーナーを抜け、長い直線がすべて視野の中央に収まった――!

 

 目測でおおよそ200m1ハロン。仕掛け時を確認できたため、集中して一呼吸置き、溜めていた脚を炸裂させた!

 

"――――――っここだ!!"

 

       ――あと100!

   ――あと60!

 

 風を切る感触が気にならないくらい、思考の中だけはスローモーションに感じている。そしてトレースしたフォームをアレンジし、一気に距離を詰めていく!

 

"――(とら)えたっ!――"

 

 振り返らず、気力振り絞って逃げ切ろうとしていた彼女の横を一閃――!

 抜き去った!!

 

"――勝った!!!! ――"

 

「もうちょっと頑張れるとおもったのにいいいい!」

「私の勝ちだ!!」

 

 抜き去ったタイミングとは少し遅れ、彼女は実に悔しそうな絶叫を上げている。

 

 私は減速しながら彼女に軽く首だけ振り向いて、勝利を宣言。

 そしてクールダウンに入った彼女を横並べに迎えるため、私もゆっくりと更に速度を落としはじめた――。




◆用語まとめと解説――読み飛ばし可

【セレーネー】(お馬さんの表現は置き換え)
 獅子座の獅子を育み、ウマ娘を侍らせた全能にして豊穣を司る絶世の女神。
 ()()()()()()()()を司る。()()を象徴している。

諸説あり、セレーネ―神満月説、ルナ神三日月説を採用です。

【アハルテケ】(実在データ)
 色々な毛並みがあるが、有名なのは"黄金の毛並み"。
 血統的にはかなり古いです。
 伝承によると汗血馬の子孫らしいです。
 RPG風にたとえて覚えるなら『HPゲージが底なし』

 またバイアリーターク号は史実馬のシンボリルドルフ号などのご先祖様に当たりますが、このバイアリーターク号がトルコマン、もしくはアハルテケでは?という説があるそうです。

 ※ウマ娘の法則と合わせて設定した妄想中のギミックに繋がります。シンボリルドルフさんがお嬢様に対し、非常に強く惹かれ合う理由は実はここからです。共通先祖どころか三大祖の大元がお相手。ジャパンカップでの出会いはさぞ強烈な事件だったでしょうね。

 原産はザックリ行くとトルクメニスタン――漫画『乙嫁語り』の舞台でもあります。カスピ海沿岸ですね。

※お嬢様とその養父のご先祖様はおおよそこの辺りから、ゴールドラッシュ直前のアメリカに諸事情あって移住していると設定。
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