やはり俺の社会人生活は間違っている   作:kuronekoteru

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やはり俺の社会人生活は間違っている #7

 気が付けば月曜日の朝である。これは社会人あるあるだと思われるが、日曜日の朝から就寝時間までの体感時間は秒である。

 昨日なんてニチアサを見た記憶ぐらいしか主に残ってないんだが…。

 

 終わってしまった休日を恨んでも仕方が無いので、心を無にして出社の準備を行おう。社会人の朝に心なんて必要ないのだ。むしろ出社するのに足を引っ張るだけである。

 

 相も変わらず満員の電車に身体を捩じ込み、何とか予定の時刻に乗車する。否が応でも密着するので、他者の体温を感じるのが不快であった。

 

 時刻はお昼時、午後も働くためにカロリーを摂取する時間だ。俺は社食を食べようと食堂へ移動する。今日の気分は揚げ物かな、と気分さんの揚げ物率の高さから目を背けつつ、メニュー覧を上から見ていく。

 

「おいおい比企谷、昼飯奢ってくれる約束忘れたのか?」

 

 突如後ろから声を掛けてくるのは、イケメン同期こと吉田であった。

 ……ああ、昼飯奢る約束しちゃってましたね、完全に忘れてましたわ。ごめんね、てへぺろ。

 

「すまん、完全に忘れてたわ。ってか社食でいいのか?」

「構わないよ。じゃあ生姜焼き定食で頼むよ」

 

 相も変わらずイケメンである。自分用の唐揚げ定食も合わせて購入し、吉田に券を手渡す。

 

「ありがとう、じゃあ向こうで食べようか」

 

 彼は窓側のテーブル席を指差す。了解の意を伝え、お盆を持って俺の唐揚げを迎えに行った。

 

 

「で、あの後は雪ノ下さんとは上手くいったのか?」

 

 席に座り、お待ちかねの唐揚げを口に放り込むと同時に前に座るイケメンが口を開く。

 

「……まぁ、悪くはなかったと思うが」

「なるほどね、じゃあ逆に何か問題でもあったのかい?」

 

 問題ならあった。それも重大な問題だ。吉田は経験豊富だろうし、ちょっと相談してみようかと考え、質問をすることにした。

 

「お前は、誘う口実って何時もどうしてるんだ?」

「口実ね、基本的には相手に合わせているよ。相手の趣味とかが多いかな?」

 

 当然かのように即答される。やっぱりイケメンは凄いなと改めて感心する。

 

 しかし、雪ノ下の趣味というか、好みを考慮して誘うとしよう。場所は猫カフェかディスティニーになるだろう。そこまでは何度も考えたが、そこに自然に誘える自信は全くないのだ。

 

 雪ノ下も急に自分の趣味の場所に行こうと誘われたら疑問を持つのではないだろうか。ゾンビ同伴だとお店に迷惑がかかるから嫌なのだけど、とか言われてしまいそうだし。

 

「自然に誘える自信が無いんだよ、俺には……」

 

「……自然に誘いたいのかい?」

 

 何を当たり前のことを聞いてくるんだ。不自然よりは自然の方が良いに決まっている。それが大事な相手なら尚更だろう。

 

「別に不自然でも良いんじゃないか?」

「は?」

 

 吉田は俺に諭すようにゆっくりと語りかける。

 

「逆の立場になって考えてみればいいんだよ。君は雪ノ下さんが誘って来たらどうするんだい?」

「いや、それは絶対行くけど…」

 

 さも当然のように俺は答える。それが可笑しいのか吉田は少し吹き出しながらも言葉を続ける。

 

「じゃあ、雪ノ下さんがちょっと張り切って、遠出になるけどUSJに行こうと提案して来たらどう思う?」

「そりゃ嬉しいし、行くに決まってる」

 

 雪ノ下が張り切って計画してくれて、誘ってくれたら小躍りしちゃうかもしれん。想像だけで身悶えしそうになるレベル。

 

「だろう?君がそう思えるのなら、雪ノ下さんだって似たように思ってくれるよ」

 

「そうか?」

「そうだよ」

 

 目の前のイケメンは即答すると、合掌してから食事を始めてしまった。アドバイスはこれで終わりらしい。まじかよ。

 

 雪ノ下がどう思うか……か、それは正直分からないというのが本音だ。

 けれど、もう一度ちゃんと考えてみようと思った。

 俺の誘い方というプライドの為にではなく、彼女に喜んで貰えるように。

 

「サンキューな」

 

 感謝の意として唐揚げを1つ進呈する。少しぶっきら棒な礼になってしまったが、吉田は満足そうに唐揚げを食べていた。

 

 

 

 

「そう言えば金曜日はあの後上手くいったの?」

「それ私も結構気になってた」

「……急に何かしら」

 

「とぼけないでよ、折角セッティングしたんだから教えてくれてもいいんじゃない?」

 

 目の前で問い詰めてくる二人組は私の同期の加藤さんと橋本さんである。彼女達はあの金曜日の夜に協力してくれた恩人だ。まぁ、セッティングしてくれた加藤さんは兎も角、橋本さんは普通に合コンに参加してくれただけなのだけれど。

 

「まぁ、そこそこ上手くいったのかしらね。翌日の土曜日も遊びに行けたのだし」

 

「「おおーーー!!」」

 

 二人はニヤニヤしながら私を揶揄ってくる。少し鬱陶しいけれど、この二人のお陰で私はこの会社でも上手くやれていると思う。

 

 茶髪を肩まで伸ばしている加藤さんはコミュニケーション能力が高く、社内のどの部署にも知り合いが居るとのことで、他部署との仕事も円滑に行えることが多い。

 

 こっちのショートヘアの黒髪の橋本さんは純真無垢に見えるけれど、ずる賢いタイプだ。私が思い付かない抜け道を彼女は見付けてくれる。

 

 どちらも私には無い能力で、チームで仕事をする際には彼女達にサポートをして貰っている。

 

 お昼も基本は三人で食べるため、今日はこうして尋問されてしまっている。

 

「ねぇねぇ、土曜日はどこに行ったの?」

 

 加藤さんが目を輝かせながら尋ねてくる。とても楽しそうなのよね…。

 

「土曜日は映画に行ったのよ、映画の前にランチも食べたけれど」

 

「デートとしては良い感じじゃない?ちょっと大人し過ぎる気もするけど」

 

 橋本さんが目を細めながら静かにそう返してくる。隠れ肉食系の彼女からしたら不満があるのだろうか。

 

「じゃあ次はいつなの?どこ行く予定なの?!」

「それは……」

 

 加藤さんにそれを聞かれ、私は答えることが出来なかった。

 

 昨日もずっと比企谷君からのお誘いの連絡を待っていたけれど、結局は来なかったのだ。彼がそんなに直ぐに誘えるとは思ってはいないけれど、僅かな期待が私を苦しめている。

 

「まだ決まってないんでしょ、彼は奥手みたいだったしね…」

「……そうなのよね」

 

 彼に積極性が無いことは初見の彼女達にも見抜かれていたようだ。流石比企谷君ねと、ある種の感心をしていると橋本さんが口を開く。

 

「まぁ、そんな奥手の彼がお誘いしてくれたら嬉しさ倍増なんだろうね」

「ね、頑張ってくれてる感があると胸きゅんだよね!!」

 

 私もそれには同意だった。だからこそ、土曜日に彼から夕食に誘ってくれたことが本当に嬉しくて、気持ちが盛り上がってしまった。

 その結果、彼を自宅に誘って手料理を披露するなんて大胆な提案をしてしまったのだけれども。

 

 比企谷君のことだから、誘うための口実を小難しく考えてしまっているのだろう。けれど、私は彼からのお誘いならどんな内容でも喜んで了承してしまうだろう。

 

 彼が私のためを思って考えてくれた内容なのだから。

 

「二人はあの後はどうだったのかしら?」

 

「そうそう、聞いてよ雪ノ下さん!あのねー……」

「え、そんな面白いことあったっけ……? 」

 

 今はただ、この二人の話しを聞いていよう。今もきっと私のことで悩んでくれている比企谷君のことを信じて。

 

 

 

 午後の仕事なんてそっちのけで、雪ノ下と行く場所について考えていたが、定時になっても考えは全然纏まっていなかった。

 もういっその事、雪ノ下本人に相談するというのも考えたのだが、自分から誘うと豪語した手前、それは憚られた。

 

 雪ノ下は何処なら喜んでくれるのだろうか。選択肢が多くなるとどうしても絞込むのに時間が掛かってしまう。

 土曜日の別れ際の彼女を思い出すと、今日のうちに連絡をしておきたい気持ちが強くなる。え、どうしよう……。

 

 もう直ぐ自宅近くのスーパーに到着するので、一旦お誘いの件は置いておいて今夜のご飯を考えることにする。やはり肉、肉が食べたい。最近は焼肉とか行ってないので焼肉欲が強くなってきているのを感じる。久しぶりに金曜日にでも焼肉行こうかな?とぼんやりと考えていたところで閃く。

 

 ――雪ノ下と焼肉行きたくね?と。

 

 俺が肉を焼き、雪ノ下に焼くのが下手だと蔑まれるのも良いし、彼女に焼いてもらった肉を食べるのも最高だろう。

 

 週末の休みに出掛けることについてはもう少し時間を貰うとして、華の金曜日に食事に誘うことは悪いことじゃないだろう。

 

 というか、俺は一日でも早く彼女に、雪ノ下に会いたいのだ。先週も同じようなスケジュールだったのだ、ダメってこともあるまい。

 

 そう考え、急いでLINEを立ち上げてメッセージを送る。

 

18:35『金曜日は空いてるか?』

18:35『出来たら焼肉を食べに行きたいんだが、一緒にどうだ?』

18:36『土日もどちらか誘おうとは思ってるんだが、まだ決めてないから少し待って欲しい』

 

 あの日の誘う約束を焼肉だと思われると困るので、土日についても付け加えた。あれ、別に困りはしないのでは?とも思ったが、本当のことを伝えておきたかったのでこれで良い。

 

 連絡はしたので、とりあえずは晩御飯の調達に戻ろう。彼女からの返答を見るまではドギマギだが、こんな浮ついた気分も悪くは無い。

 

 しかし、数分後には雪ノ下からのメッセージが届いていたのだが、それに気付いたのは家に着いてからだった。

 

 

『空いているから行くわ』18:38

『お店は任せていいのかしら?』 18:38

『待たせてもらうわね、ありがとう比企谷君』 18:40

 

 

 

 




前回のデートまでで終わろうかと思っておりましたが、感想で続きを期待してくれる声があったのが嬉しくて続けてみました。
投稿ペースは落ちてしまうかもしれませんが、読んでいただけると嬉しいです。

感想もお待ちしております。
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