惣流アスカの更迭&式波アスカの左遷 ~見つけたアタシの居場所~   作:朝陽晴空

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第三話 アスカとシンジの一夜デートを賭けたゲーム

アタシがドイツに帰ってきてから半年が経った。

この家に来た当初は家事もボードゲームカフェでの接客の方も全然ダメだったけど、ナディアさんやビアンカが教えてくれたお陰でなんとか様になって来た。

 

 

 

「アスカ、もうリボンを変えてみたらどうですか?」

「もう身体の一部みたいに馴染んじゃった」

 

すっかり色あせてしまったリボンを見て、ビアンカは心配でそう言ったんだろうけど、アタシはこのリボンを外すことなど考えられなかった。

鏡を見てリボンを付ける度にアイツのことを思い返してしまうのは未練がましいと自覚している。

でも元気の素の一つなんだから仕方がない。

 

 

 

「さあ、頭を切り替えて仕事よ、仕事!」

 

邪念を振り払うために営業スマイルにも力を入れて接客をする。

ボードゲームは人と人との心も繋ぐ。

ドイツでは大人も子供も家族でボードゲームを楽しむことも一般的らしいけど、アタシの家ではボードゲームなんて一回もしたことなんてなかった。

アタシにボードゲームの楽しさを教えてくれたのは、フランツさん達だった。

 

 

 

日が沈んだ頃になって仕事を終えた人たちがお店にやって来る。

このカフェではお酒も提供しているから、夜時間はボードゲームバーになるのよ。

 

 

 

「いらっしゃいませ、シュピーエルにようこ……そ」

 

型通りの営業スマイルでお客さんを迎えようとしたアタシは顔の筋肉がひきつってしまった。

なんと店に入って来たのは、ミサトと……シンジの二人だったのだ。

 

 

 

「どうしたんですかアスカ? お客さんを席にご案内しないといけませんよ?」

「そ、そうね」

 

ナディアに背中を押される形で、来店したばかりの日本人の客二人の前にでる。

他人の空似であって欲しいと願ったけどそれはあり得ない。

ミサトとシンジが二人そろうなんて偶然はないからだ。

 

 

 

「お、お客様、この店は初めてござりぃますか?」

 

なるべく平静を装って対応をしようとしたけど、声が震えて言葉もかんでしまった。

そんなアタシの様子を見てミサトは口角を上げた。

きっと腹の中で大笑いしているに違いない。

 

 

 

「ええ、初めてだからよろしく頼むわね」

 

ドイツ語で二人に話しかけたから、答えたのはドイツ語が話せるミサトだった。

愉快でたまらないのか、鼻をヒクヒクしながらアタシの反応を見ている。

 

「お客様は相席を希望なさいますか?」

 

ここはカフェだけど、主にボードゲームをする目的で来店する人がほとんどだ。

ナディアさんやフランツさんが作る料理も美味しいけど、棚に並べられた圧倒的な数のボードゲームの箱がそれを物語っている。

だから大人数のボードゲームを楽しみたい人は積極的に相席になるのだ。

 

 

 

「シンジ君はどうしたい?」

「あの、僕は知らない人とゲームをするのは……」

 

モジモジと下を向いて答えるシンジ。

人見知りする性格はちっとも変わってないのね。

 

 

 

「じゃあ二人でゆっくり落ち着ける席をお願いするわ」

 

ボードゲームをするつもりはないとミサトに言われ、二人をカウンター席へ案内する。

必然的に給仕のためにカウンターを通って厨房とホールを出入りするシンジ達とアタシの距離は近くなる。

 

 

 

「アスカってば、シンジ君がプレゼントした赤いリボンを着けている。脈がありそうじゃない♪」

 

からかうようなミサトの言葉を聞いて、ハッと気が付いた。

リボンを付けている所をシンジに見られてしまった!

このアタシとしたことが何と言う不覚!

顔から火が出るほど恥ずかしい!

自分の頬が紅潮するのを感じた。

 

 

 

「お客様、せっかくボードゲームカフェに来たのだから、何もゲームしないのはもったいないですよ?」

 

ソフトドリンクを注文しただけでアタシの方を見てコソコソ話しているミサトとシンジに、ビアンカが声をかけている。

さっさと帰って欲しいのに、余計な事をして……!

 

 

 

「そうね、何か二人で出来るゲームでもしましょうか」

「分かりました」

「じゃあ、『バトルライン』をお願いできるかしら?」

「『バトルライン』ですね、直ぐに用意します!」

 

ビアンカは弾むような足取りで、『バトルライン』のカードケースを取りに行く。

 

ミサトと加持さんがネルフのドイツ支部に居た頃、毎日のようにカードゲームで勝負してどちらが酒代を奢るか決めていた話を思い出した。

 

アタシはエヴァのパイロットとして気を張っていたからカードゲームなんかに目もくれなかかったけど、あれが『バトルライン』だったのか。

 

 

 

「『バトルライン』はカウンターではプレイしにくいですね、こちらの席へ御案内します」

 

『バトルライン』はお互いに向かい合って遊ぶゲームだ。

テーブル席に移った二人を見て、ホッと安堵の息を漏らす。

カウンターを通る度にシンジの熱い視線を間近で感じて落ち着かなかったからだ。

 

 

 

「ミサトさん、やっぱり僕には勝てませんよ!」

「シンジ君、手の内は早くから相手に見せちゃダメよ。『バトルライン』は息が続かなくなって音を上げた方が負けなんだから」

 

やり慣れているミサトは、素人のシンジに圧勝していた。

でも何度もゲームを繰り返しているうちに、シンジの表情が引き締まっていくのを見た。

 

 

 

まるでエヴァに乗って使徒と戦っているかのようだ。

どうやらシンジもゲームの魅力に惹かれ始めたみたい。

『バトルライン』に熱中しているミサトとシンジは帰ろうとする気配がない。

 

 

 

我慢比べで先に音を上げたのはアタシの方だった。

アタシは営業スマイルを崩してミサトをにらみつけ、日本語で話しかけた。

 

「何をしに日本からはるばるドイツまで来たの? シンジまで連れて来ちゃってさ!」

「あら、元保護者としての家庭訪問よ。シンジ君が、アスカが元気にしているか気になるからって頼まれてね」

 

なんだ、シンジは単に安っぽい同情心からここに来たわけか。

リボンをプレゼントしてくれたんだから、ひょっとしたら……なんて考えていた自分の心の温度が冷え込むのを感じた。

 

 

 

「アタシはこの通り、ピンピンしているわよ。それで満足!?」

 

腰に手を当てて、二人にそう言い放った。

余計な事でアタシの心をかき乱しておいて、単なる安否確認だったとはね!

それなら直接来なくても、ネルフの諜報員に調べさせれば済む話じゃないの!

 

 

 

「オー! この人達はアスカのお友達だったのですか?」

「まあ、そんなところね」

 

適当にはぐらかしてその場をごまかそうとしたんだけど、目敏いビアンカは気付いてしまった。

 

「ワオ! アナタがアスカにリボンをプレゼントしたボーイフレンドですね?」

「えっ!?」

 

キラキラと輝く瞳でビアンカに見つめられた意味が分からず、シンジはオロオロしている。

視線をこちらに向けたままのニヤケ顔のミサトが、シンジに顔を近づけて言う。

 

 

 

「シンジ君がアスカの彼氏じゃないかって聞いてるのよ」

「そ、そんな彼氏だなんて……!」

 

彼女独特のペースに懐かしさを感じるが、もうあの頃には戻れない。

だから敢えて二人を突き放す言葉を叫んだ。

 

「もう用事が済んだなら、さっさと出て行って!」

「アスカ、せっかくお友達が来てくれたのにどうしたんですか?」

「待って、僕はまだアスカに話したいことが……」

「はいストップ、シンジ君」

 

激昂するアタシを見て不思議そうに首をかしげるビアンカ。

大声に騒然とする店内。

そんな気まずい空気の中でもミサトを余裕たっぷりにアタシとシンジの間に介入して来た。

 

 

 

「これからアスカとシンジ君で『バトルライン』で勝負をしなさい。アスカが勝ったらあたし達はこのまま帰る、シンジ君が勝ったら、アスカはシンジ君と一夜限りのデートをする。これで良いわね?」

「分かったわよ」

 

ミサトの提案をアタシは飲んだ。

シンジが勝てるわけないし、二人があっさりと帰ってくれるならそれでいい。

アタシとシンジは向かい合わせに座った。

デートを賭けた勝負が行われるとあって、ギャラリーがテーブルに群がる。

 

 

 

<『バトルライン』解説>

 

『バトルライン』は二人対戦専用のカードゲームで、9個の駒(フラッグ)と1~10の数字が書かれた赤・橙・青・緑・黄・紫の6色の計60枚のカードを使う。

 

向かい合った2人の前に9個の駒を並べて、それぞれ7枚ずつ手札を持ってゲーム開始。

 

駒を挟んで3枚のカードを置いて並べて陣形を作り、強い陣形を作った方が駒を取れる。

 

陣形の強さは、

最強が『ウェッジ』(同色で連続した番号3枚)

2番目に強い『ファランクス』(色違いの同じ数字3枚)

3番目に強い『バタリオン』(同じ色3枚)

4番目に強い『スカーミッシャー』(色違いの連続番号3枚)

一番弱い『ホスト』(陣形未成立)となる。

 

勝利条件は2つ。

9個の駒のうち過半数の5個の駒を取る。

または連続して隣り合った3つの駒を取る。

 

置いたカードの代わりに山札からカードを引くが、望み通りのカードが出るとは限らない。

自分の番がきたら必ずカードを駒の前に置かなければいけないし、既に置かれているカードは絶対に手に入らない、と頭を非常に使うゲームである。

 

<解説終わり>

 

 

 

9個の駒をアタシとシンジの間に横一列に並べて、7枚カードを手札に持ったらゲームの準備は完了。

 

 

 

「シンジ、後攻はアンタに譲ってやるわ」

「ふーん、不利な先攻を選ぶなんて、アスカは余裕ね」

 

ミサトに教わった付け焼き刃の作戦が通用するはずがない。

後攻のシンジは先攻のアタシの置いたカードよりも数字の大きいカードを被せるように置いていく。

その様子を見てアタシは相手の作戦が読めた。

2番目に強い陣形、ファランクスを多く作って勝ちを狙う作戦だ。

1番に強い陣形ウェッジは、作るのがとても難しい。

経験の浅いシンジにミサトが授けた勝率の高い堅実な作戦だ。

 

 

 

「4番と6番の駒はシンジ君がとっているから、この5番の駒を取ったらシンジ君の勝ちが確定よ」

 

自分が授けた作戦が上手く行っていると思い込んでいるミサトは上機嫌だった。

5番の駒の前に置かれているアタシの側のカードは赤5、青6。

駒を挟んで反対側のシンジのカードは緑7、黄7。

後一枚シンジが何色でも良いので7のカードを置けばシンジのファランクスの陣形が成立する。

アタシがスカーミッシャーの陣形を成立させても、5番の駒はシンジに取られてシンジの勝ち。

テーブルを囲んで勝負を見守るギャラリーもあっけない幕切れを予想して、アタシが手加減をしたのではないかと囁き合っていた。

 

 

 

「フン、アタシも甘く見られたものね!」

 

 アタシは赤の7のカードを置いて、スカーミッシャーを成立させた。

 

「ゲッ、最後の7のカード、あんたが持ってたの!」

 

テーブルの上には他の5色の7のカードが置かれていた。

これではファランクスの陣形を組むことは不可能だ。

どのカードを置いてもホストになってしまう。

一気に勝利を掴めるチャンスを潰されたシンジはガックリと肩を落とした。

本当はテーブルに突っ伏してしまいたいほどのショックだったに違いない。

 

 

 

「ファランクスの弱点は、2枚目を出した後に他の陣形への変化ができないことよ。最初にウェッジを狙っていれば、途中でバタリオンやスカーミッシャーに変えられるのよ」

 

必勝法を破られてしまったシンジの動揺はかなりのものだった。

慌ててファランクス以外の陣形を成立させようと頑張ってはいるようだけど、ホストになってしまうこともあり、アタシは弱い陣形でも駒を連続で奪取していった。

 

 

 

「シンジ君! ここで諦めたらドイツまで来た意味がなくなるでしょ! アスカと何としてでもデートがしたいんじゃないの!」

「はい!」

 

ミサトの一喝で、勝負を捨てようとしていたシンジの目に精気が戻った。

そうか、シンジがドイツまで来てくれたのは安っぽい同情心だけじゃなくて、アタシとデートしたい気持ちは本気なのか。

 

 

 

それならアタシは……。

 

 

 

ゲームは駒数4対4の接戦となった。

どちらも3連続して並んだ駒がとれなかったから、最後に残った1番の駒を取った方がこのゲームの勝者となる。

1番の駒の場所は、白熱していた。

アタシは赤1と赤2のカードを置いていた。

対するシンジは、青4、緑4のカードを置いている。

先攻のアタシが赤3のカードを置けば、最強の陣形ウェッジが成立してシンジの負けが確定する。

2番目に強いファランクスをシンジが成立させても、シンジはアタシに勝てないからだ。

 

 

 

「……まったくツイてないわね」

 

アタシは大きく溜息を吐き出して黄3のカードを置いた。

スカーミッシャーの陣形は成立した。

これで勝負が決まったわけではない。

シンジは4のカードを置いてファランクスの陣形を成立させなければ、勝てないのだ。

 

ギャラリーの皆も息を飲んでシンジの置くカードを見守る。

シンジは硬直した動きで紫4のカードをテーブルに置いた。

 

 

 

「よっしゃあああ! ファランクス成立! きっと初号機がシンジ君に力を貸してくれたのよ! 奇跡が起きたんだわ!」

 

ミサトってば奇跡って言葉が本当に好きね。

でも今回ばかりはアタシも好きになりそう……。

 

「こうなったらデートでも何でも付き合ってやるわよ!」

 

ギャラリーのうるさい歓声の上がる中。

腕組みをして不機嫌そうな顔を装って、シンジに吐き捨てるように言った。

 

 

 

「それじゃあ二人とも、デートにピッタリな、綺麗な夜景が見られる場所に案内するわよ!」

「その前に着替えなくちゃ、今着ているのってお店の制服だし」

「かわいい服だからそのままで良いと思うよ。それに……僕があげたリボンと似合っているし……」

 

アタシとシンジはお店の皆に見送られて、ミサトの運転するフランツさんの青いフォルクスワーゲンの車でデートスポットへと向かうことになった。

車の後部座席に乗る事になったアタシとシンジ。

 

 

 

……今頃お店ではアタシの手札に赤3のカードがあった事が知れ渡ってしまっているだろう。

つまりわざと負けようとしたことがビアンカたちにバレたわけだ。

その細工を隠す時間は欲しかったのに、いきなり店の外に送り出されたのだから、恥ずかしいったらありゃしない。

 

 

 

並んで座ったシンジの腕に、アタシの腕を絡ませ、シンジの肩に頭を寄りかからせる。

 

「ア、ア……ス……カ」

「デートをする恋人同士なんだから、これくらい当然よ」

 

甘えるようなアタシの行動に、シンジは緊張で身体を固くして一言もしゃべれない様子だった。

 

「あらあらシンジ君、目的地に着く前に気絶しちゃダメよ♪」

 

冷やかすミサトの運転する車はドイツの夜の街並みを走る。

ミサトはドイツで加持さんとデートを何回もしてたんだっけ。

 

 

 

心拍数の上がったシンジの鼓動を感じながら、アタシも心拍数を上げて目的地に着くのを心待ちにしていた……。

「式波アスカの更迭」書いてくれますか?(メッセージで連絡ください)

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