惣流アスカの更迭&式波アスカの左遷 ~見つけたアタシの居場所~   作:朝陽晴空

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第四話 愛を確かめ合う二人、そして......

僕とアスカのデートスポットとして、フランツさんの青いフォルクスワーゲンの車でミサトさんが送ってくれた場所は、ヴィルヘルムスハーフェンという港だった。

 

「それじゃしばらくしたら迎えに来るから」

「ありがとうございます、ミサトさん」

 

 

 

ミサトさんの車が走り去ると、手を繋いだ僕とアスカだけが静かな港の埠頭に取り残された。

目の前には双子の鉄の山のように連なる鉄橋、その奥に見える光るドイツの街並み。

鉄橋は綺麗にライトアップされている。

デートスポットとして申し分のない場所だ。

 

 

 

「懐かしいわね、あの橋はグルッと回転して大きな軍艦でも通れるようになってるのよ」

「へえ、そうなんだ。アスカ、よく知ってるね」

「アタシと弐号機はこの港から日本に向けて出航したのよ」

 

そう呟いたアスカの表情が曇った気がした。

アスカは弐号機を動かせなくなって、ドイツへ帰されたんだっけ……。

 

 

 

何とアスカに声を掛けて良いか困っていると、アスカは取り繕うように笑顔を作った。

 

「でも、弐号機には悪い思い出ばかりじゃないわ。シンジと一緒に乗って使徒を倒した事もあったし」

 

僕はアスカと会った時の事を思い出した。

あの時のアスカは自信満々で、僕にエースパイロットの実力を見せてやると言って、僕は強引に弐号機に乗せられたんだっけ。

 

 

 

「こうして力を合わせて、あの使徒の口を開いたわね」

 

アスカはそう言って僕の手をギュッと握って身体を近づけて来た。

これは……告白のチャンスじゃないか?

いやミサトさんが言っていた、ガッついているように見せるなって。

まだ来たばかり、もうちょっと話をしないと……。

 

 

 

「そう言えば、弐号機はどうしているの?」

「えっと、弐号機は……使徒を倒したヒーローみたいなものだから、本部に大切にしまってあるよ!」

「そう、それは良かったわ」

 

弐号機はセントラルドグマに侵入しようとするカヲル君を止めるために、僕が初号機で壊してしまった。

でもアスカを傷付けたくない為に僕はウソを付いた。

 

 

 

「ドイツに帰る前の日、アタシが心を閉ざしていたせいで、シンジのリボンを受け取ることができなくて悪かったわね。お弁当のお礼も言えなかったわ」

「自分のことしか考えられなかったのはアスカだけじゃないよ。あの後、僕も家出したんだ」

「そっか、アンタも辛い思いをしてエヴァに乗ってたもんね」

 

 

 

僕とアスカの間にしんみりとした空気が流れる。

せっかくのデートなのに暗い雰囲気になってしまった。

その後もアスカの独白は続いた。

 

「加持さんが死んだってアンタから聞かされた時、噓つきだって罵ったのもいけなかったと後悔している」

 

 

 

僕が加持さんが死んだことを知ったのは、ミサトさんの独り言を聞いてしまったからだ。

ミサトさんの苦しみをアスカにも知って欲しいと、僕は彼女の気持ちを考えずに話してしまった。

アスカが家出して委員長の家に泊まるようになったのはそれからだと僕は思い返した。

 

 

 

「素直にシンジにアタシも悲しいから慰めてって言えなかったのも良くなかったわ」

 

そう言ってアスカは自分の頭に付けている、僕がプレゼントした赤いリボンを撫でた。

 

「このリボン、シンジが自分で考えてプレゼントしてくれたの?」

 

 

 

「実は……アスカが赤いリボンを着けている夢を見たんだ」

 

尋ねられた僕は、不思議な夢の話をした。

僕とアスカは幼馴染で、博物館でデートをしている夢だった。

夢の中でアスカは今着ているお店の制服みたいな可愛らしい服を着て、頭に赤いリボンをしていた。

 

 

 

だからアスカに赤いリボンをプレゼントしようと思ってしまったんだ……。

 

「ふふっ、何よそれ? アタシがエヴァのヘッドセットを着けてたら、リボンを頭に着けるワケないわ」

「そうだね」

 

大声を上げて僕達は笑った。

変な事を口走ってしまったけど、リボンは気に入ってもらっているようで良かった。

 

 

 

「……そうだ、ヒカリはどうしてる?」

「委員長なら、前のようにトウジとやりあってるよ。みんな第三新東京市に戻って来たんだ」

「……ヒカリ達にはアタシの事を伝えないで」

 

するとアスカの表情が厳しくなった。

 

 

 

彼女の言葉の意味が理解できなかった。

友達だったら、元気でいるかどうか知りたいはずだ。

僕だってトウジやケンスケが学校に戻って来てくれた時は嬉しかった。

 

「何言ってるんだよ、委員長だって、突然居なくなったアスカのことを気にしてるよ」

「アタシのワガママだって分かってる。でも、アタシの事を忘れてしまえば、アンタ達5人で前のように楽しい学校生活が送れるじゃない」

 

 

 

そう言うアスカの目には涙が浮かんでいる、強がっているのは一目瞭然だ。

ショックを受けると同時に、怒りが湧いて来た。

彼女の両肩をしっかりと強い力でつかんだ。

 

「そんなこと言うのは止めろよ!」

 

 

 

一度はアスカの事を忘れようとしていた。

もう遠い所に行って二度と会えないのだからと、自分の気持ちに蓋をした……。

 

 

 

でもまたこうして彼女の顔を見て、声を聞いて、話をしてしまったら、忘れられるわけないじゃないか!

 

(日本に帰りたくない、ずっとアスカのそばに居たい!)

 

アスカの身体を抱き締めたい衝動に駆られた。

 

 

だけど肩を強くつかんだまま、この手は、体はいっこうに動いてくれない。

 

「……どうしたのよ?」

「決してアスカの事は忘れない、って言いたかったんだよ」

 

独り立ちしてアスカとドイツで暮らすなんて、無理だって分かってる。

だから一夜のデートが終わっても離れたくないなんて言えるはずがなかった。

 

 

 

「アタシだって……シンジの事……忘れたく……ないわよ」

 

今度はアスカの方が僕の腕をつかんで、膝を折って崩れ落ちる。

たまらず同じようにしゃがんで彼女を抱き締めた。

 

「それなら一生僕に忘れる事の出来ない思い出をくれないかな?」

 

 

 

僕の言葉を聞いたアスカが目を閉じた。

彼女が受け入れてくれた。

そして僕も自分の唇がアスカの唇に無事着地したことを確認してから目を閉じた。

 

 

ファーストキスは終始彼女のペースで最悪だった、でも今度は僕が自分の意思でするんだ。

 

「月が綺麗ね……」

「うん、綺麗だ」

 

 

 

キスが終わった後、ミサトさんが迎えに来る時間まで、僕たち肩を寄せ合ってベンチに座り、ヴィルヘルムスハーフェン港の夜景を眺めて待つことにした。

今の僕たちは、あの双子橋のように繋がっている。

 

 

 

時間が経って別々の相手を見つけても、今見てる風景のように変わらないものもあると信じたい。

 

「ねえシンジ、最後にアタシと踊らない?」

「もうすぐミサトさんが迎えに来る時間だよ」

 

 

 

ベンチから立ち上がったアスカは僕に向かって手を伸ばした。

でも、座ったまま首を横に振った。

時間を止めて、ずっとこのままアスカと居たいと思っていたけど、残酷にも時間は過ぎて行くのを確認していた。

 

 

 

「アタシ達のダンスと言えばアレに決まってるでしょ?」

「分かった、62秒でケリをつける!」

 

彼女の言おうとしていることを理解した僕は、スッと立ち上がってアスカの手をつかんだ。

まぶたを閉じた僕の目の前には、真っ赤なプラグスーツを着たアスカが立っていた。

 

 

 

僕達はエヴァのエントリープラグの中にいるわけじゃない、ただ目を閉じてエヴァを動かすイメージをしながら体を動かしているだけだ。

何も知らない人が見れば、怪しげな東方の武術を二人でやっているようにしか見えないと思う。

最後のキックを決めた僕が目を開けると、僕たちはピッタリ同じポーズで立っていた。

 

 

 

「見事なユニゾンダンスだったわよ、二人とも」

「アタシ達の事見てたの!?」

 

拍手をしながら近づいて来たのはミサトさんだった。

僕は耳の先まで顔が真っ赤になるのを感じた。

それはアスカも同じようだった。

 

 

 

静かな港の埠頭に響くミサトさんの車の音にも気が付かないほど、ユニゾンダンスに集中していたみたいだ。

 

「今でも覚えていてくれるなんて、加持のヤツも喜んでいるはずよ」

「そっか、ユニゾンダンスの曲って、加持さんが選んだんだっけ」

 

アスカの言葉を聞いて、ミサトさんと加持さんにとっても思い出の曲なんだ、と思った。

 

 

 

ミサトさんはもう加持さんとは絶対会えない、そして今は日向さんと一緒に居る。

デートを終えて別れた僕たちも、別々に恋人を作る日が来るのかもしれない。

だけどアスカと唇を交わした事、一緒に夜景を見て踊った事を後悔はしてない。

 

 

 

「二人はもちろんチューくらいはしたわよね? そりゃあもう、ブチューっと」

「ミサトってば、最後を真面目に締めるってことができないの!?」

 

見事に感動をぶち壊してくれたミサトさんに、アスカは怒鳴り散らした。

その気持ちは良く分かる、ミサトさんはそういう人なんだ……。

 

 

 

 

 

 

「シンジ、これをアタシだと思って大切にするのよ!」

 

別れ際にアスカが渡してくれたのは《バトルライン》のカードゲームだ。

ドイツ語版だから、カードもルールブックも読めない。

 

 

 

日本に帰ってから、僕は前と変わらない生活を送っている。

大きく変わってしまったのは、僕の心の中だ。

 

 

 

アスカが赤いリボンを見る度に僕の事を思い出してくれるように、僕もドイツ語版の《バトルライン》のパッケージを見る度に思い出す。

あのヴィルヘルムスハーフェンの美しい夜景、そしてアスカの笑顔と唇の感触を。

 

 

 

 

 

 

「シンジ、なんで突然ボードゲームにハマり出したんだ?」

「ちょっとした心境の変化だよ」

 

ケンスケに尋ねられて、そうごまかした。

 

 

 

結局アスカに会いにドイツに行った事は、ミサトさんと僕の秘密のままにしておいた。

日向さんは何とか父さん達をごまかしてくれたようだ。

 

 

 

「そうだ、第三新東京市にもボードゲームカフェが出来たらしいぜ」

「なんや、シンジが好きそうな場所やんけ」

 

ケンスケの話を聞いて、ドイツでアスカのお父さんであるフランツさんの話を思い出した。

 

 

 

日本はドイツに比べてずっとボードゲーム後進国だから、ボードゲームが出来る場所がまだまだ少ないんだって。

だから僕がボードゲームを楽しんでいるのを見て、日本でもボードゲームが広がってくれれば嬉しいって言っていた。

 

 

 

トウジたちも僕の影響か、少しボードゲームに興味を持ってくれている。

 

「それでな、そのボードゲームカフェには美人のウェイトレスが居るらしいぜ」

「そりゃあ是非とも行かんとな!」

「鈴原っ!」

 

ケンスケの話を聞いたトウジが鼻の下を長くすると、委員長が怒った。

 

 

 

美人のウェイトレスには興味はなかったけど、ボードゲームカフェには関心があったから、放課後にトウジたちと一緒に行くことにした。

 

 

 

ボードゲームカフェの車庫には見覚えのある青いフォルクスワーゲンの車が泊まっていた。

お店の看板には『Spiel(シュピーエル)』の文字。

こんな偶然が重なるわけがない!

 

 

 

期待を胸に、思い切り店の中に飛び込んだ僕を迎えてくれたのは……。

 

 

 

 

 

 

「ようこそ! お客様は初めてですか?」

「! ……また会えたね、アスカ!」

 

 

 

「式波アスカの更迭」書いてくれますか?(メッセージで連絡ください)

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