惣流アスカの更迭&式波アスカの左遷 ~見つけたアタシの居場所~   作:朝陽晴空

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※題名は『式波・アスカ・ラングレーの左遷』です。
 『式波アスカの更迭』を書いて頂ける方はまだお待ちしております。


式波アスカの左遷
異伝 第一話 手紙に込めたアタシの気持ち


 アタシは式波・アスカ・ラングレー。

 日本のネルフ本部所属のヱヴァンゲリヲン弐号機専属パイロット、だった。

 さっきまでは。

 

 

 

                  辞令

 

 真希波・マリ・イラストリアス及びヱヴァンゲリヲン参号機をネルフ本部所属とする。

 

 式波・アスカ・ラングレー及びヱヴァンゲリヲン弐号機をユーロ支部所属とする。

 

 

 

 さっき、ネルフ本部で聞いた辞令だ。

 これで、アタシはネルフ本部に居る事が許されなくなった。

 『バチカン条約』……国同士で結ばれたエヴァの運用に関する条約。

 第13条1項により、1つの国が保有するエヴァは3体までと制限されている。

 日本は零号機と初号機、そしてアタシの乗る弐号機で3体。

 アタシはこの先、ずっと本部のある日本に居られると思っていたのに……。

 

「アスカ、本当にごめんなさい」

 

 ミサトがそう言ってバツの悪そうな顔をしてアタシに頭を下げた。

 謝ってもらったって、アタシの怒りはちっとも収まらない。

 アタシのプライドはズタズタだ。

 同じユーロ支部から来たマリにアタシの居場所を奪われるなんて!

 ユーロ支部でアイツとは同僚でありライバルでもあった。

 アタシと弐号機の実力は、マリと仮設伍号機を凌駕していた。

 だからアタシは他の国の並居るライバルたちを抑えて本部に呼ばれたと誇りに思っていた。

 

「それでアスカ、分かっているとは思うけど……」

「帰って荷造りをしろって事ね」

 

 ユーロ支部に戻されるって事は、アタシがミサトの家を出て行くと言う事。

 ずっと孤高を気取っていたアタシが、他の人に心を開いて笑えるんだと感じられた場所。

 いつも世話になっているシンジに、料理を作って素直なお礼の気持ちを伝えよう……と思っていた矢先にこの辞令だ。

 もっとシンジと一緒に居たかった、アイツの料理をもっとたくさん食べたかった。

 いや、アタシは実力でまた本部所属に返り咲いて見せる。

 

「アスカ、おかえり! ……どうしたの?」

 

 アタシが家に帰ると、シンジは笑顔でアタシを出迎えてくれた。

 心がホッとする、アタシの好きな笑顔。

 でもアタシの苦虫を嚙み潰したような顔を見て、心配そうにアタシに尋ねた。

 

「……アタシ、ここを出る事になったのよ」

 

 アタシはシンジから顔を反らしてそう答えた。

 

「何で!?」

「ユーロ支部に戻る事になったのよ。荷造りの用意があるから、邪魔しないで」

 

 そう言ってアタシは部屋へと駆け込んでドアを閉めた。

 こんな情けない顔をシンジに見せる訳にはいかない。

 鏡に映ったアタシは今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 

「どうしてアスカがユーロ支部に戻らなくちゃいけなくなったんだよ!」

「新しいパイロットとエヴァが来る事になったからよ」

 

 ドア越しに叫ぶシンジに、アタシは努めて冷静に答えた。

 シンジはバチカン条約の事などミサトから説明を受けていたとしても忘れてしまっているだろう。

 だからアタシが改めてシンジにバチカン条約について話してやった。

 

「じゃあ、僕がエヴァのパイロットを辞めるよ。そうすれば、アスカがここに居られるよ」

「バカね、それじゃあアンタが出て行くことになるじゃない」

 

 ミサトとシンジとアタシの三人が一緒じゃないと意味が無いのよ、とアタシは心の中で呟いた。

 

「アンタ、アイツと仲良くするんじゃないわよ」

「どうして?」

「アタシ、すぐ戻って来るから。こんな辞令、何かの間違いよ!」

 

 実力を示せば、また本部に戻れる自信がアタシにはあった。

 

「そうだよね、アスカはエースパイロットなんだから、きっとそうだよ」

 

 シンジも明るい声でドア越しにそう答えた。

 話しているうちに、アタシのささくれだった心も落ち着いて来た。

 アタシはドアを開いてシンジと顔を合わせた。

 シンジも希望に満ちた明るい顔をしている。

 いつもの雰囲気を取り戻せたようで嬉しい。

 アタシは荷造りを後回しにして、シンジと二人で夕食の用意を始めた。

 シンジがメインの料理を作っている間に、アタシは味噌汁を作った。

 今まで隠れるようにシンジの口に合う研究をしていたが、ついに披露する時が来たのだ。

 

「うん、美味しいよアスカ」

 

 味見をさせたシンジの笑顔に、アタシは胸が温かくなった。

 

「でも僕を満足させるにはまだまだ精進が必要だね」

「何よ、生意気言っちゃって!」

 

 シンジとアタシは顔を見合わせて笑い合った。

 帰って来たらまた味噌汁の研究を続けてやる、レイのヤツには負けない。

 

「アスカ、どうしたの?」

 

 意外に明るい表情をしているアタシとシンジを見てミサトは驚いている。

 

「アタシのユーロ支部転属なんて、一時的な物でしょ? アタシの実力からすれば、本部が放っておくはずが無いわ。まあ、里帰りだと思って我慢してやるわ」

「そう……」

 

 アタシが自信たっぷりに言い放つと、ミサトは表情が翳った。

 でもせっかく明るくなった夕食の席を暗くしたくないのか、ミサトはそれ以上何も言わなかった。

 

「シンジ、ドイツのお土産は何が良い? ミサトは聞くまでも無くビールよね」

 

 夕食が終わった後、アタシは最小限の荷物だけ整理して、その他は日本にあるトランクルームに預ける事にした。

 どうせユーロ支部に居るのは短期間だ、わざわざ大量の荷物を持って行く必要は無い。

 

「ミサト、あのマリって女にこの家の敷居を跨がせるんじゃないわよ!」

「はいはい、分かっているって」

 

 あのマリがアタシの代わりにシンジとミサトと同居するなんて、想像しただけでも腸が煮えくり返って来る。

 その日の夜、アタシは耐え切れずにシンジの部屋へと行ってしまった。

 少しの間だけと言え、シンジたちと離れ離れになるのは寂しかったのだ。

 アタシはシンジたちとは違う特別な存在だからずっと独りでも大丈夫。

 そんな孤高の存在、式波アスカはアタシの中から姿を消しつつあった。

 

「シンジ、背中を借りるわよ」

「うん……」

 

 シンジは驚きながらもアタシをベッドから追い出そうとはしなかった。

 本当は正面を向き合いたかったけど、そうなると添い寝だけでは終わらない気がして……。

 キスはまたネルフ本部に戻って来た時のお楽しみにしよう。

 そうすれば、アタシがユーロ支部で頑張れるモチベーションになる。

 ユーロ支部にも使徒は出現するのだ、挽回のチャンスは十分にあるのよ。

 

 

 しかしアタシは出発の日、とんでもない場面を目撃してしまった。

 冬月副司令とマリが親し気に話していたのだ。

 

「久しぶりだね、イスカリオテのマリア君」

「冬月先生もお変わりなく」

 

 二人の見たアタシは全てを察した。

 マリは副司令の権力でネルフ本部への転属となったのだ。

 

「この、コネメガネェッッ!」

 

 自制すべきだったのに、アタシはマリの胸倉を掴みあげてしまった。

 これだけで立派な暴行、訴えられても仕方のない行為だった。

 

「止めたまえ!」

 

 副司令に止められても、アタシはマリの身体を掴む力を緩めなかった。

 アタシは思い付く限りの悪意のある言葉をぶつけたが、マリは涼しい顔で受け流した。

 自分を相手にしていないようなマリの顔に、アタシは猛烈に腹が立っていた。

 ネルフの警備員に取り押さえられるまで、アタシは抵抗を続けた。

 

「ごめんね、姫。これは必要な事なんだよ」

 

 マリが笑顔でアタシに言ったのはその一言だけだった。

 そして懲罰房に連行されて時になって、アタシは自分がしでかしてしまった事の重大性に気が付いた。

 ヱヴァパイロットへの暴行。

 副司令のアタシへの心証はかなり悪くなっただろう。

 こうなったらアタシをネルフ本部へと呼び戻す話になっても反対するかもしれない。

 シンジの父親の総司令にもう少し愛想を良くしておけば良かった。

 いや、あの碇ゲンドウにコネなんてものが出来るとは思わない。

 ネルフの警備員に両脇を拘束されてアタシは歩いているのに、自分の足元が崩れていく感覚にとらわれた。

 

 

 

 アタシは懲罰房から出された後、すぐにユーロ支部に強制送還される事になった。

 シンジやミサトに別れのあいさつをする機会も与えられなかった。

 自分の軽率な行動が招いてしまった事とは言え、後悔は大きかった。

 ユーロ支部に帰るチャーター便に乗る前に、アタシは差し入れを渡された。

 それは……シンジの作ってくれたお弁当だった。

 

「アイツのお弁当……もっと食べたかったな」

 

 これが最後のシンジのお弁当。

 決して忘れる事の無いように、心に深く刻み込もうと思ったけど……。

 アタシの流した大量の涙と鼻水で、お弁当の味は分からなくなってしまった。

 

 

 

 ユーロ支部に戻ったアタシは、前と同じという訳にはいかなかった。

 どんなに努力してもネルフ本部には戻れない……。

 その失望感から、ヱヴァのエースパイロットだったアタシのシンクロ率は日に日に低下して行った。

 そしてある日突然……アタシは弐号機ともシンクロする事が出来なくなった。

 アタシは小さな子供の頃からヱヴァに乗るためだけに努力を重ねて来た。

 ヱヴァに乗る事でシンジやミサト……他の人達との絆も出来た。

 でも、ヱヴァに乗れなくなる事で全てが失われてしまった。

 役立たずになったアタシはユーロ支部から追い出される形になって、ドイツの夫婦の家に引き取られる事になった。

 表面上は温かく迎えられたけど、心を閉ざしていたアタシは差し伸べられた手を跳ね除けてしまった。

 アタシがこんな調子だから、作られた家族仲は最悪。

 だからと言って母親役の女性はアタシが部屋に引きこもっている事を許さなかった。

 仕方なくアタシは学校へと通う。

 人の印象は身だしなみで決まるものだ。

 アタシの自慢だった美しい髪も櫛を通さずにボウボウ。

 自信に満ちて輝いていた瞳も、今は死人のように怖さまで感じさせる程になっている。

 下を向いて、ゾンビのように生気の全くない顔。

 しわだらけでぐちゃぐちゃの制服をただ袖を通して着ているだけ。

 両親に注意されても、アタシは改める事をしなかった。

 こんな悪い見本のような女のアタシに、近づこうとするクラスメイトは誰も居なかった。

 こんなつまらない学校をサボってしまおうかと思ったけど、ネルフの諜報員に監視されている状況ではそれもままならない。

 ヱヴァのパイロットを辞めても、アタシはネルフの機密情報を知る要注意人物だ。

 努力する事にすっかり失望してしまったアタシは、学校の成績も下降線の一途をたどった。

 唯一アタシの心を慰めたのは、ベッドに寝てシンジの事を思い出す事。

 

「シンジに会いたいよ……」

 

 どうせシンジに会うことが出来ないなら、こんな世界滅んでしまえと、アタシは呪うようになった。

 

 

 

 そんなふざけたアタシの呪いは成就されてしまった。

 空が、大地が、ドイツの街が真っ赤に染まる。

 今まで海だけが赤かったけど、全てが赤になった。

 自分が空気の無い宇宙空間に放り出されたかのように息苦しくなる。

 意識を手放す前に、アタシの頭に浮かんだのはシンジの顔だった。

 

 

 

 アタシが次に目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。

 そして不思議な事にアタシの身体は大人へと成長していた。

 看護師に話を聞くと、アタシは28歳となっているらしい。

 あれから14年もアタシは眠り続けてしまった事になる。

 おかしなことに、長い間ベッドに寝ていたアタシは直ぐに立ち上がる事が出来た。

 直ぐに病院を退院させられたアタシは、ユーロ支部へと連れて来られた。

 

「式波・アスカ・ラングレーさんですね」

 

 ネルフの支部長室でアタシを待ち受けていたのは、アタシの知っているユーロ支部でトップに居たワイスマンだった。

 ワイスマンの口調は丁寧だが、アタシを見下すような眼鏡の奥の瞳は好きになれない。

 

「あなたにはネルフグループの子会社である郵便会社で勤務して頂きます」

「ちょっと、何を勝手に決めているのよ!」

 

 突然宣告されたアタシは怒りを隠さずにワイスマンへ言い返した。

 

「あなたは身体は大人だが、中身は14歳の子供だ。そんな方に大きな仕事を任さられませんよ」

 

 アタシは悔しそうにワイスマンをにらみ返す事しか出来なかった。

 

「良いんですよ、我々ネルフの申し出を断っても。でも28歳の未経験者を雇ってくれる会社を探すのは大変ですよ。何しろあなたはドイツに戻ってからも、努力もせずに自堕落な生活を続けた。甘えて逃げ続けたツケが来たんですよ」

 

 ワイスマンの言う事は正論だ。

 アタシがドイツ支部に戻った後も努力を重ねていれば、ワイスマンの言葉を跳ね除けるだけの自信が持てたかもしれない。

 

「安心してください。斡旋する会社はブラック企業ではありません。あなたの仕事は会社に届いた私宛の郵便物をこの支部長室に届けるだけです。バカでも出来ます」

 

 優し気に話すワイスマンのバカと言う言葉に、アタシのプライドはズタズタになった。

 悔し涙を抑えながら支部長室を出ようとするアタシの背中にワイスマンの声が掛けられた。

 今までの紳士的な言い方と違う、陰湿な響きを持つ暗い声だった。

 

「自分だけが特別だと思って周りを見下して居た頃に比べて、今はどんな気持ちだ? 今度聞かせてくれよ、なぁ?」

 

 アタシは逃げるようにユーロ支部を飛び出した。

 もう28歳になったアタシは両親に甘える事も出来ない。

 両親の方も養育義務はないとばかりにアタシを冷たく突き放した。

 アタシが14歳の時、もっと心を開いていれば関係は違っていたかもしれない。

 全てはあのコネメガネのせいにして、アタシが自身の努力を怠っていたせいだ。

 行き場を失ったアタシは郵便会社の社員寮に住む事になった。

 

「こら式波、初日から遅刻とはなめてんじゃねーぞ」

 

 朝礼の時間に遅れたアタシは他の従業員の見ている目の前で、上司に罵倒された。

 この上司のアサヒと言う男は日本人で、アタシにだけ分かるように日本語で嫌味を言って来る酷い男だ。

 アタシは自分に与えられた席に着いて疑問に思った。

 机の上も引出しも空っぽなのだ、これでは仕事のしようがない。

 

「式波、お前はそこで何もせずに座っていろ。何もするな」

 

 上司のアサヒはそう言い放つ。

 他の従業員が忙しく働いている中で何も出来ない自分が腹立たしい。

 周りから刺すような視線が注がれて痛い。

 何もしないで給料をもらえるようなヤツに親し気に話し掛けて来るような同僚は居ない。

 

「今日は支部長宛ての郵便物は無かったな。残念だったな」

 

 アサヒの嫌味に反応する気力も無くなったアタシは肩を落として社員寮へと帰る。

 次の日も、その次の日も、アタシは時々会社に届く支部長宛ての郵便物をワイスマンに直接渡す日々が続いた。

 毎日アサヒに嫌味を言われ、同僚からは避けられ、たまに顔を合わせるワイスマンにはプライドを打ち砕かれる。

 耐え切れなくなったアタシは、シンジに手紙を出す事にした。

 

「お前、仕事中に何を書いているんだ?」

 

 アタシの書いている日本語の手紙を覗き見たアサヒは大声で笑い飛ばした。

 

「まともに手紙も書けないのか、ハハハ!」

 

 グッとこらえてアタシはシンジへの手紙を書き続けた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 これはアタシの大きな賭けだ。

 アタシからシンジに出す手紙は、ユーロ支部の検閲を受ける事になると思う。

 手紙の宛先はミサトの家の住所しか知らないから届くかどうかすら怪しい。

 シンジがアタシの手紙を読まない可能性もある。

 でもミサトの言った通り、この世界に奇跡と言うものがあるのならば。

 

「手紙に込めたアタシの気持ちに気が付いて、シンジ」

 

 アタシは生まれて初めて、神様に祈りを捧げるのだった。

 

 

 

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