惣流アスカの更迭&式波アスカの左遷 ~見つけたアタシの居場所~   作:朝陽晴空

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どうしてもアスカの手紙に関する反響が知りたかったので、前後編に分けました。
次回こそはシンジが勇気ある行動に出て、話は完結します。


異伝 第二話 僕が選んだハッピーエンド(前編)

 僕は碇シンジ。

 日本のネルフ本部所属のヱヴァンゲリヲン初号機専属パイロット、だった。

 14年前の事だ。

 

          辞令

 

 碇 シンジ 殿

 

 令和12年4月1日より、営業部係長を命じる。

 

        株式会社 ネルフ・ハウジング

        

 

 

 

「やったね、ワンコ君! 28歳で係長だなんて、スピード出世だよ!」

 

 社内に張り出された辞令を見たマリさんは、人目を憚らずに背中から抱き付いて来た。

 同期の同僚達の刺すような視線が少し痛い。

 『ネルフ・ハウジング』……日本の中でも指折りの不動産会社。

 世界で活動するネルフグループの関連子会社の一つだ。

 碇ユイ、母さんが残した碇家の財産と土地は膨大なものだった。

 ヱヴァンゲリヲンを僕が消し去った後、父さんは冬月さんと組んで不動産業を始めた。

 そして僕は大学を出た後、マリさんと一緒に父さんの会社へと入った。

 

「たまたま営業成績が良かっただけだよ」

「たった3ヵ月で26棟も家を販売したんだよ。胸を張って良いと思うけど?」

 

 マリさんにそう言われても、僕の心は晴れなかった。

 僕が父さんから任される区画は駅から近い、などの好立地ばかりで、黙っていても売れるような場所ばかりだった。

 計画では1年をかけて販売する区画がたった3ヵ月で完売してしまったのもそれを示している。

 

「僕は父さんの威を借りて仕事をしているだけなんだよ……」

「……そんな事無いわ、碇君の思いやりのある優しさは、お客様に伝わっている」

 

 そう言って僕に励ましの声を掛けてくれたのは、同じ会社に勤める綾波だった。

 ヱヴァと母さんの存在は消えたけど、綾波が残って欲しいと言う僕の願いは通じたんだ。

 不動産会社は家を建てて売ったらそれでお客さんとの関係が終わるわけじゃない。

 出窓のカーテンが邪魔だからブラインドに変えたいとか、和室をフローリングの床に変えたいと言った相談を受ける事もある。

 時には下請けの施工業者のミスを自分が謝らないといけない、土日出勤が基本で休みは水曜日だけと言う忙しい仕事だ。

 

「ワンコ君が係長になったら、仕事終わりに三人で飲む事も出来なくなるね」

「そんな、気軽に誘ってよ」

「でもレイちゃんなら、ワンコ君の家でしっぽり飲む事が出来るんじゃない? 羨ましいにゃぁ」

 

 マリさんがそう言うと、綾波は顔を赤くして黙り込んでしまった。

 綾波はこう言うのに慣れていないんだから、からかうのは止めて欲しいよ。

 僕が一人暮らしを始めてから、綾波は僕の部屋に来て世話を焼いてくれるようになった。

 仕事で疲れて帰って来た時には料理を作って置いてくれたり、掃除や洗濯もしてくれる。

 口の悪い同僚には通い妻だと言われるほど、綾波には感謝してもしきれない。

 係長になるまで忙しい仕事に耐えられたのも、綾波の内助の功のおかげだ。

 父さんもそろそろ身を固めるべきだと言っていた。

 この係長昇進の辞令も、綾波と結婚しろと言う父さんのサインなのかもしれない。

 ずっとあやふやな関係を続けているわけにもいかない、近いうちに綾波にプロポーズをしようと僕は考えた。

 

 

 

 そんなある日、突然ミサトさんから連絡があった。

 教員免許を取ったミサトさんは第三新東京市の中学校の先生になった。

 今度の転任先では副校長先生になると年賀状に書いてあった。

 日々の雑務に追われてミサトさんとも会っていない。

 ミサトさんが直接僕に渡したいものがあるって言っていたけど、何だろう?

 今日は火曜日だ。

 仕事の帰りに僕はミサトさんの家に寄る事にした。

 

「いらっしゃい、シンちゃん、久しぶり」

「ミサトさん、僕はもういい大人何ですから、シンちゃんは止めてくださいよ」

 

 懐かしいミサトさんの家。

 ミサトさんにそう呼ばれると14年前のあの頃の事が思い出される。

 ほとんどの人々の記憶からはヱヴァや使徒の事は消えているだろう。

 覚えていても、悪夢を見ていたと思うかもしれない。

 僕はミサトさんとアスカと一緒に食事をしたテーブルに座った。

 

「このテーブルでミサトさんとアスカと、晩御飯を食べましたね」

「そのアスカから、シンジ君宛に手紙が来たのよ」

「えっ!?」

 

 ミサトさんの言葉に、僕は驚いた。

 アスカは遠いドイツの病院で入院していると聞いていたけど、今まで忘れていた。

 

「シンジ君にはショックを受けて欲しくないから黙っていたけど……アスカは14年近くもの間、病院のベッドで眠っていたのよ」

「そんな大事な事を教えてくれなかったなんて、優しさじゃないですよ」

「ごめんなさい。でも、こんな手紙を出したんだから、元気にやってるんじゃない?」

 

 ミサトさんの持っていた便箋は、封が切られていた。

 

「……僕宛の手紙を勝手に読んだんですか?」

 

 僕は責めるような目でミサトさんを睨みつけた。

 

「ごめん、どうしても気になって。だけど、手紙の内容は大したものじゃなかったからシンジ君に連絡したのよ」

 

 ミサトさんはそう言って、アスカの手紙をテーブルへと置いた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 アスカの手紙は14年前と変わらない下手な日本語で書かれていた。

 

「ほら、アスカは郵便局で元気に働いているみたいだって分かって良かったじゃない」

 

 ミサトさんは笑顔で僕の肩を叩いたけど、僕はこの手紙から言葉では言い表せないような何か別の物を感じた。

 インターフォンが鳴らされると、僕はカメラに映し出された人物に驚いた。

 ミサトさんの家の玄関ドアの前には、笑顔をたたえたマリさんが立っていたんだ。

 

「いやぁ、ワンコ君がレイちゃんに隠れてコソコソしているのを見て、浮気でもしているんじゃないかと思って」

「それで僕の後を付けて来たの?」

「悪かったわね、逢引きの相手がこんなオバさんで」

 

 ミサトさんは皮肉めいた笑いを浮かべながらそう言った。

 

「いやぁ、ミサトさんはますます美しさに磨きがかかってますよ。美魔女ってやつ?」

「失礼しちゃうわね、あたしはまだそんな歳じゃないわよ」

 

 マリはテーブルの上に置かれたアスカの手紙に気が付くと、不思議そうな顔で見つめた。

 

「ありゃりゃ、この姫からの手紙、何か変じゃないですかい?」

「マリさんもそう思う?」

「隠されたメッセージ、みたいなものがあるのかも」

 

 マリさんはそう言うと、改めて手紙の内容を忠実に書き写した。

 

 あたしのせいかくおぼえていますか?

 しんじいかりしんじさま。

 あたしはゆうびんはいたつのしごとをしています。

 まいにちはたらくのはたのしいすきです。

 げんきにけんこうにきをつけて。

 

 あすか

 

「間違ったなら、手紙を全部書き直せば良いと思うのに、わざわざ読みにくい手紙を姫が出すかな?」

「アスカはガサツな性格だったから、気にしないで出したんじゃない?」

「ガサツとズボラはミサトさんの性格でしょう」

 

 僕が指摘すると、ミサトさんはうぐっと黙り込んだ。

 

「なんか最初の一行にヒントがあるような気がするんだけどな~」

 

 マリさんは頭が良い。

 僕が思い付かないような暗号解読の手掛かりをもうつかんだようだ。

 

「アタシの性格を覚えているか? って所?」

「そうそう、それに、シンジをわざわざ碇シンジって書き直したり、楽しいを好きに直さなくても意味は通じるじゃない」

 

 三人寄れば文殊の知恵と言うが、ほとんどマリさんが解いているような気がする。

 ミサトさんが何かを思い付いたように指をパチンと鳴らした。

 

「線で消してあるところを読めばいいのよ!」

「わ、シンジ、は、み、は、たのしい、げんきに、る……ですか?」

 

 僕がそう答えると、ミサトさんは腕組みをしてドヤ顔で解説をする。

 

「シンジ君は楽しい、元気にしてる? って書きたかったのよ。だからアスカの照れ隠しみたいなものよ。うん、だからシンジ君も会社の仕事を頑張ってるって返事を出せばいいんじゃないかな?」

 

 悪いけど、ミサトさんの推理には一理も無い気がした。

 もしかしてロウソクの炎であぶり出すと、隠された文字が出て来るのかな?

 

「ワンコ君、この手紙には化学的トリックとかは使われていないと思うよ。それよりも姫と過ごした時の事を思い出した方がいいんじゃないかな。この中で誰よりも姫と長く一緒に居たのはワンコ君なんだから」

 

 マリさんに言われて、僕は14年前の事を必死に思い返した。

 そうは言っても、このリビングでしたとりとめの無い話とか、ほとんど覚えていない。

 学校ではどうだろう。

 印象に残ったのは、綾波がクラスの女子生徒たちに、鞄の中にあった教科書を盗まれて、学校の焼却炉で燃やされそうになった事件だった。

 焼却炉の前で綾波をいじめていた女子生徒たちに、アスカはこう言い放った。

 

『アンタ達みたいな間違った人間、アタシは大嫌いなのよ! アタシがその間違いを正してやる!』

 

 ネルフのシンクロテストの時も、アスカは『トップが好きで、二位以下は意味が無い』と話していた。

 

『間違いを正す』『(トップ)以外は意味が無い』

 

 この二つのヒントから、アスカの手紙に隠されたメッセージを読み解けないだろうか。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 あたしのせいかくおぼえていますか?

 しんじいかりしんじさま。

 あたしはゆうびんはいたつのしごとをしています。

 まいにちはたらくのはたのしいすきです。

 げんきにけんこうにきをつけて。

 

 僕が思い付いたヒントをマリさんに伝えれば、直ぐにマリさんは答えを出すだろう。

 でも、僕は自分の力でアスカのメッセージを解きたかった。

 

「……ミサトさん、マリさん、手紙に隠されたメッセージ、分かりましたよ」

 

 そう言って僕はアスカの手紙の文字を指差した。

 

 

 




 シンジを巡って争うのがアスカとマリだとイメージが湧かなかったので、レイを登場させました。
 次回ではシンジだけなく、マリやレイも大胆な行動をします。
 この一話で収めたかったのですが、アンケートを取りたかったので、ごめんなさい。

アスカの手紙に隠されたメッセージは読み取れましたか?

  • ヒント無しでもすぐに解った
  • ヒントを出されて分かった
  • アスカの手紙(挿絵)がスマホ等で読めない
  • 解かなくても次で答えが解るのでスルーした
  • DMを遠慮した(マシュマロありますよ)
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