西暦2201年のある夏の日。

ようやく復興が一段落した地球は、静かな平和を享受していた。
だが、キリシマには何処か晴れない心があった。
親友であり、地球の救星主である英雄ヤマトとの久方振りの2人の時間。
2人は互いの心を理解しようとしながら、どこか心の距離を取っていた。
今だ晴れない心の何かを無意識に求める。
そんな、誰にも分からない青春を歩んでいたのがキリシマであり、ヤマトだった。

英雄と言えども、その正体は単なる人間であることを理解する者はそう多くない。

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ヤマメダ(ヤマキリ)第一弾です。
序章ということにはなりますが、ちゃんと続くかは未定です。

さて、本編開始前のまだキリシマだったころのアンドロメダとヤマトのお話。
少々短いですが、どうかお楽しみくださいまし。

※擬人化注意です


押花の英雄

清々しいある昼下がりのこと。

 

いつもと変わらぬ仕事を終えた彼女は、少し遅めの昼食をとっていた。

ふと窓から見える景色は今でも夢を見ているような気分にさせる。

今までの偽物の映像ではなく、本物の自然。雄大で、生まれたままの姿の自然。

それは小さな人間が享受するにはあまりに尊く、大きなものだった。

彼女だけでなく、人類全てにおいてもはや見ることは叶わなかったはずの景色。

彼女は今日も実感する。

 

「生きてるんだな、私」

 

後に、地球防衛軍総旗艦として、ガトランティス戦役を戦い抜くことになるその英雄の名はキリシマ。

今はまだ、自身に待ち受ける運命を知れずにいた。

 

 

昼食のメニューは、戦時中に比べれば百倍マシなものだった。少なくともあの頃は気楽に食べられなかった肉や、新鮮な野菜を気兼ね無く食べられるのはある種特権のようなものを感じ、地球の自然の尊さに改めて気付かされる。

おかわり自由のサラダバーが、こんなにも有り難く感じる日が来るとは、あの頃の自分なら全く思わなかっただろう。

ふと、横を見ると見知った顔があった。

「隣、いいですか?」

にこやかに言う彼女はもう1人の英雄、ヤマト。

滅亡の危機に瀕していた地球を救った、まさしく救星主。今や地球でその名を知らぬものはいないと言われるほどで、この世のものとは思えないほどに美しい金色の髪を携えた彼女は、今や地球全土から引っ張りだこだった。

「あぁ、いいよ。しかし珍しいね、キミがここで食事をするのは」

いつものヤマトなら、テロを懸念してか数十人のSPが必ず張り付いて仰々しい雰囲気で、その間も取材がひっきりなしに来るという、ハリウッドスター並みの厚待遇を受けていた。

「今日は彼らには休みをとってもらいました。いつもお世話になってるので、そのお礼も兼ねましてね」

悪戯っ子のように無邪気なウィンクを見せるヤマト。

あぁ、なるほど。どうやら今日の彼女はオフらしい。午後の予定もなかったので、折角だからとティータイムにでも誘うか。

そんなことを考えていると、ヤマトはプレートに並べられた料理を丁寧に食べ始めた。

いちいち動作が上品なもので、やはりというべきか、強者の余裕、有り余る気品を見せつけられているようだった。

付き合いがそれなりに長い私でもふとすれば気圧されそうな彼女の存在感はまさしく後光が差しているようだった。

「あの、私の顔になにか付いてますか?」

「いや、別にそういうことではないんだ」

少し被せ気味に否定するキリシマ。まさか見惚れていたなんて言えない。

色女と言われる(自称)私でも、怖じ気付くことはある。

あまりに美しく、もはや神聖領域と言うべき彼女のオーラは、何処か近寄りがたい雰囲気があったのだ。

「今日はご機嫌ですね。天気が良いからでしょうか?」

彼女のあざとさというのは全く本人には無自覚だ。

こんな何気ない会話でも、相手の心を微妙に揺さぶる。

無垢というべきか、天然というべきか。どちらにせよ、そこそこ経験豊富なキリシマでさえも、その一挙手一投足に狼狽するほどだった。

「いや……まぁ、仕事は終わったからある意味ご機嫌かな?」

冷静になるようにするが、やはり彼女には敵わない。

何度も言うが、本人が全く無自覚なのが地味に悔しかった。

「ふーん、そうですか」

そう言いながら、彼女は好物のコーヒー牛乳を啜っていた。

「食事にコーヒー牛乳ってどうなんだ。しかも砂糖マシマシのやつなんて」

「甘すぎるくらいがちょうどいいんですよ。むしろ食事と糖分を一緒にとれるし、効率的なのでは」

「キミは何を言ってるんだ」

思わずツッコンでしまったが、彼女の糖分至上主義は今に始まったことではない。

ただ単に極度の甘党であるというだけかもしれないが、それにしても行きすぎてる気がしてならない。

この前はスイカが白くなるほど砂糖をかけていたし、イチゴを食べるときにも練乳にどっぷりつけて食べていたのは流石に引いた。

とはいえ、人の趣味嗜好にケチをつける気はないのでとやかく言うでもなく、黙っておくことにした。

「ところで、ヤマト。今日の午後は暇かな?」

唐突にティータイムに誘おうと思ってたことを思い出し、聞いてみることに。

「えぇ、今日は1日お休みなので。何かご用でも?」

「それなら、私の部屋でティータイムなんてどうだろうか。久しぶりにゆっくり話がしたくてね」

さて、気丈を振る舞って誘っては見たが、緊張は悟られてはいないだろうか。

人を誘うのは慣れているはずなのに、見知った相手だと言うのになぜこんなに緊張しているのか。

まさか小娘じゃあるまいに。

そんなことを思ってる間に、ヤマトからはすぐに返事が来た。

「いいですね。是非ともご一緒させて頂きたいです」

にこやかな笑みと共に、快く承諾してくれた。

これでまずは一安心だ。

しかし、何処かで心が軋んだ音がした。無視できないほど、大きな歪みが生まれた気がした。

 

 

「このお茶、いい香りですね。さすがはキリシマ、いい腕をしてます」

紅茶の香りに舌鼓を打ちつつ、キリシマに賛辞を送るヤマト。その笑顔は、全く邪念を含まない無垢な笑顔に見えた。

とてもこの娘が、地球を救った大英雄であるようには思えなかった。

「そうだろう。戦時中の合成品なんか目じゃない正しく至高品だよ。味はもちろん、香りも色味も完璧だ」

一口飲むごとにありったけの賛辞を送るキリシマだが、決して大袈裟なわけではない。

大の紅茶党な彼女にとってガミラス戦役での環境崩壊による紅茶はもちろんのこと、全ての農作物や畜産物は一気にその数を減らし、天然モノは種の保存用として僅かに研究所等に遺されるだけとなり、一般人はおろか高級軍人や政治家でさえもありつけない代物となっていた。

地球環境が短期間で完全に崩壊することになろうとは、誰も夢に思わなかっただろうから、仕方の無いことと言えるかもしれないが。

「……とても美味しいです。こんなに美味しいお茶は初めてです」

目を輝かせて言うヤマトに、キリシマは何故か罪悪感を覚えていた。

「また、そんなに言って。キミのことだから、もっといいお茶を飲んだことはあるだろう?」

その瞬間、一瞬だけヤマトの表情が曇った。何処か遠くを見るような虚ろな瞳は、悲しさという一言ではすませられない重い感情を表現していた。

「あ……いや、すまない。忘れてくれ」

「いえ、いいんですよ。コチラこそすみません」

苦笑いするヤマトに、キリシマの胸はより一層締め付けられる。

ヤマトには、ここ3年間の記憶しかない。

自分の両親のことも、友人のことも。そして何より自分自身のことも。

イスカンダル人が地球に来訪した折、彼女は不運にも事故にあった。テロとも言われているが詳細は今でも不明で、未解決重大事件の1つとされる。

キリシマが思わず大きな地雷を踏み抜いたせいで、ティータイムの空気は一気にドンヨリとしたものになった。

まるで通夜だ。

「さ、さて。気を取り直してスコーンでもどうかな?かなりの自信作なんだ」

キリシマは話題を変えようと自慢のスコーンを薦めた。

実際、キリシマは料理が趣味の1つでもあり、その内でも菓子作りには自信があった。本場の英国人でも舌を鳴らすほどの絶品と称されるスコーンは彼女の十八番料理だった。

「いいですね。いただきます」

ヤマトが見せる笑顔は、少しぎこちなかった気がした。

しかし、楽しむことがティータイムの醍醐味で、真髄。

互いになるべく水に流してそれとなく空気を修正したことで、蟠りはすぐにほどけた。

他愛も無い話をしていると、ふとヤマトが。

「そういえば、聞きましたか。アオバさんが次期総旗艦の推薦を辞退したそうです。何でも、ある人に任せたいだとか」

「へぇ、アオバが……意外だな。あの人以外あり得ないと思ってたのに」

現状配備される改造型艦艇ではなく、波動エンジンの搭載を最初から想定された、新世代の地球艦隊、その象徴として新たに創設されることになった役職こそが地球連邦艦隊総旗艦だった。

国連という、国家集合体ではなく、地球という惑星として統一された初めての巨大連邦政府である地球政府。

拡大する艦隊規模に対応させた総司令艦としての役目だけでなく、事実上の参謀総長、軍令部総長に匹敵し艦隊の戦術運用だけでなく、軍そのものの戦略構想にも関わる一大権力を持った役職だ。

現在は水面下で準備が進められているらしいが、もう推薦まで行われていたのか。

想像以上に速く進む軍の改革に、少々気がかりなことを感じながらも、何処か上の空になりながら温くなってきた紅茶を啜った。

「私としては、キリシマが推薦されるものだとばかり思ってたので、少し意外です」

ヤマトの想定外の言葉に、危うく吹き出しそうになった。

「……藪から棒に何を言い出すんだ、キミは。第一私は……私は、指揮艦なんて向いてないよ」

憂いを含んだ目でカップを見つめるキリシマ。飲みかけの紅茶を眺めながら、どこか遠くを見ているようだった。

「あ、あの……」

ヤマトがあわててフォローしようとするが、勢い余ってカップを倒してしまった。

真っ白なテーブルクロスに紅いシミが伝って行く。

一瞬の間にシミはより大きくなり、キリシマのズボンも濡らしていった。

時間の流れが遅くなったようで、ひどく不気味だった。

「す、すみません!」

ヤマトはすぐに頭を下げると、急いでハンカチでキリシマのズボンを拭き始めた。

時間の流れに遅れていたキリシマはここでようやく元の時間軸に復帰出来た。

「いや、そこまでしなくていいよ。私がやるから」

キリシマは気丈に振る舞おうとした。

というか、元より自分の言葉で勝手に自己嫌悪に陥り、ヤマトに心配させているだけなのは自覚していたので、ただ構って欲しいがために大袈裟にしているように思えたのは彼女自身がよく理解していた。

だからこそ、何より自分が気持ち悪かった。

「……キリシマ…………」

ヤマトの悲しげな顔は、いたたまれなかった。

自分も、情けなかった。

「…………何をしているんだ、私は……」

キリシマは自身の感情さえも、計り知れなくなっていた。

 

 

日が傾き始めた頃。かつての代わり映えのしない風景とは打って変わり、壮大な大地を橙色の光が照らす幻想的な風景が何処までも広がっていた。

世界の終焉のような不気味さと、雄大な自然が照らされる美しさ。

あまりに小さな生き物である人間が享受するには大きすぎた。

そんな光を静かに見届けようとしている2人の少女がいた。

地球軍のある司令艦執務室のテラスで、2人は何をするでもなく、ただ夕陽を見つめていた。

「今日はありがとう。良い時間だったよ」

夕陽を眺めることを提案した少女、キリシマはヤマトにポツリと呟いた。

実際は彼女自身幾つも思うことや反省することがあったが、ここは気丈に振る舞おうとしていた。

また軋む心を無視して。

「私の方こそ、ありがとうございます。久し振りに貴女とゆっくり話せて楽しかったです」

何の穢れもない、ただ純粋な少女の笑顔を携えるヤマト。

こんなに無垢で、純真な彼女と比べて私は……

「それは、よかったよ」

私はなんて、穢れてるんだ。

私は、私のことで精一杯だ。

なのに彼女は敵でさえも救おうとする。

慈悲の心は、まるでイスカンダルそのものだ。

優しいから皆が慕う。

優しいから皆が従う。

優しいから皆が笑う。

ヤマトにあって、私にあるものはない。

ヤマトは、私がかつぼうしていた理想の少女像そのものだ。

だからこそ、彼女の親友を名乗る資格も、彼女の隣にいる資格もない。

どうしてここまで。

「キリシマ?」

頭を抱えてうずくまり、どうせならそのまま消えたい。

だが、誰も私を消してくれない。

むしろ強く、私を生かそうとする。

本当は死にたくない。 それはエゴだよ

本当は生きたい。 私を殺したのに?

本当は愛したい。 私を愛さなかったのに

本当は………

「キリシマ!」

心配そうにするヤマトの顔が見える。

こんな私を心配してくれる。

こんな私でも……

「あぁ……どうしてキミはそんなに優しいんだよ」

 

私はヤマトを愛している。

 

「顔色が悪いですが……具合が悪かったら救護室に行きます?」

ようやく落ち着いた。

幻覚も、幻聴ももう無い。

彼女の顔を見ると安心する。

昔、マンガか何かで読んだ『顔を見るだけで安心する』という台詞。

あり得ないと思っていたが、どうやら実在するらしい。

 

今まで自覚しなかっただけで、本当は出会ったときから知っていた。

 

「私は、キミが好きなんだ」

「え?」

 

夕陽が地平線の裏へ隠れる寸前、眩いばかりの光が、2人を包み込んだ。

もう二度と味わえない苦い味を、噛み締めた。




如何でしたでしょうか?

今回も精神描写を濃いめにしましたが、些かやりすぎな気もしますw
我が家アンドロメダはこんな感じで、可哀相は可愛いで行きますので、苦手な方はご注意ください。

次回のヤマメダは初のR-18の予定です。
お楽しみください。
それでは。

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