チャラ男が失恋中の女の子にどしたん?話聞こうか? と優しく声をかける話 作:松風呂
スマホのアラーム音で目を覚まし、身体を起こして欠伸と伸びを一つ。ベッドを見ると俺が貸したスウェットとトレーナー着た雪子が寝息をたてていた。
すっぴんな女の子の寝顔というのは基本的には見るとがっかりするマーライオンのようなものなのだが、雪子の顔立ちは年齢より幼く見える上にかなり整っていることもあって、普段の邪智暴虐さは微塵も感じられぬ天使のような愛くるしさを醸し出していた。可愛いやん。
いつもの俺の朝食はコンビニで買った適当なパンを食べるだけなのだが、女の子が泊まった時はそうもいかないのでキッチンに出向いてウインナーと目玉焼きとコーヒーとサラダくらいは作り始める。
料理とは呼べないような簡単な作業を行っているとやがて雪子も起きだしてきた。おそらくコーヒーメーカーのミル挽きの音がうるさかったのであろう。
「おはよう、枕が違えどよく寝れたかい?」
「男の布団に初めて寝たけどすげームラムラして中々寝付けなかった……」
「正直は美徳だけど我が家の朝は下ネタ禁止してるから勘弁して」
彼女が洗面所に行って最低限の朝の身だしなみを整えてる中、こちらも最低限の朝食を完成させ、テーブルの上に並べる。
「おあがりよ!」
「ぱくむしゃごっくん。御馳走様でした」
「お粗末!」
朝食を終え、一息つく。取りあえず、雪子を軽く観察した程度だと、昨日のショックが目に見えて心を蝕んでいる様子では無い。勿論失恋ダメージはあるだろうが、自傷行為に走ったり、メンタルクリニックで処方箋が必要な鬱状態という訳でもなさそうなので、これ以上俺に何か出来ることは無いなと感じる。
「今日午後から部活あるっしょ? 一旦家帰るなら送ってこーか?」
「いや、大丈夫。電車で帰るよ、ありがとな」
「分かった。あと何度もしつこく言いますけど今回の件は夏樹ちゃんには秘密にしてね」
「信用ねーなぁ……、はー……部活で夏樹と会うのか……この複雑な感情をなんて名付ければいいんだ……」
「酸いも甘いも噛みしめて大人の女になりな」
などの他愛も無いやりとりを経て、チャラ男くん、一晩泊めてくれてありがと! ちゅ! みたいなドラマチックな展開は一切なく、朝寄りの昼くらいの時間に雪子は言葉少なめに帰って行った。バイバイラスカル……。
◇◇◇
次の日、俺は久し振りに実家に帰省した。久々だと圧を感じる立派な門を通り、玄関の扉を開けると奥からダッダッダッと駆けてくる獣、まず最初に出迎えしてくれるのは愛犬兼番犬のセントバーナードのイヌタロー。うおぉ! おまっチャラ男久しぶりやんけっ! よっしゃわいの舐めテクみせたるわ! っと三回くらいその場を回った後俺に飛びついてべろんちょべろんちょしてくる。
全力の愛を注いでくれているイヌタローとは違い、三毛猫のタマの方は、どちらさまでしょニャン? っといった顔をしてくる。中学卒業以来だから約3カ月以上会ってないからってそのつれない態度はあんまりじゃない?
「ふむ、四季、帰って来たか」
「父さん久しぶりです」
実は俺は中学の頃の女遊びが祟って実家から気持ち2割くらいは勘当状態となっている。その為、久々の親子対面だというのにちょっとよそよそしい。
え? てか四季って何? 誰? 新キャラ? っとタマも疑問視してくるので答えると、俺の本名は宮園四季と書いて、しき君と呼ぶのだ。ちょっと変わってるでしょ。
しき、って名前が微妙に言い辛いのと、かの有名な宮本武蔵のあだ名が先行して、いつしか会う人皆からは宮本宮本呼ばれているけど、まぁ本名はそういう訳なんです。
「気にせずいつも通りにチャラ男って呼んでねタマ」
「ニャー」
居間に通された俺は父さんと母さんが見守る中、他愛も無い近況報告を並べたてる。前期の通知表を渡すと一瞬渋い顔をされたが、まぁ想定の範囲内だった模様で「もう少し勉学に精を出すようにしなさい」とお小言を言われる。「代わりにうちの生徒会長には精を出しました」などとふざけたことが言えたらどんなに楽か。そんなこと言ったら怒られるから言わないけどね。
俺が実家から遠い高校で一人暮らしする事に決まった時は嬉々とした雰囲気だった両親も、久しぶりに駄目な息子と会ったのはそこそこ喜ばしいのか「高校生活は楽しいか?」とか「何か必要な物があったら気兼ねせずに連絡するんだぞ?」とか優しい言葉をかけてくる。ダディ……マミィ……あったけぇ……。
俺は膝の上で丸まるタマを撫でながら両親の温かみを一身に味わった。
その後、晩飯は久々に家族水入らずでこのクソ暑い中皆で焼き肉を囲んだ。温和な性格である大学生の兄さんと、ちょっと生意気に育った妹とも雑談を楽しみつつ、やっぱ夏休みはたまんねぇなぁと俺は御満悦だった。
◇◇◇
最近特に人生が楽しい。未知との遭遇を楽しむ先の見えない大海原の様な高校生活。軽薄クソ男メリー号は順風の中いくつもの島を巡り、特に嵐も化け物にも逢わずに秘宝や財宝だけはしっかり頂いていた。
愛すべき者との逢瀬の日々、頼れる仲間達との他愛も無い日常、すれ違っていた家族との感動の再会。なんかもー俺って神様に愛されてね? 等と浮かれてしまうくらいには笑顔の毎日である。俺を産んでくれた両親には感謝の念が堪えませんなうははーっ!
夏樹ちゃんとの遊園地デートは性交は無いけど大成功、軽男や春香達とは相変わらず馬鹿やって遊んで、とーちゃんかーちゃんとの溝もだいぶ埋まった。特に心配ごとも無く、ちゃっかり夏休みの宿題もほとんど終わらせてあるので残りの休みもエンジョイしてくだけなのだ。
ハッキリ言って、俺は調子に乗っていた。
そして、そんな、幸せな、日常は、唐突に、終わりを、告げるのだった……。
「宮本君……大事なお話があります……」
「秋葉さん……、なんでしょうか?」
ある日の昼、秋葉さんは俺の家に来て早々深刻そうな顔でそんなことを言うので、最近誰ともヤってなくてリビドーが溜まっている俺は、彼女を襲いたくなる衝動を抑えて話を真面目に聞こうと姿勢を正した。
「もう、ここに来るのは最後にしようと思うのです……」
ダッダッダッダーンッ!!!
俺の頭の中にいるベートーさんが交響曲第五番運命を弾き散らす。
いつか来るとは思っていた別れの言葉。覚悟はしていたが、その言葉の重みは俺の心にのしかかる。
秋葉さんにとって、俺とこの家は只の逃げ道。彼女が精神的に成長し、屑男という名のサンドバックを必要とせずにストレス解消出来るなら、それは喜ばしいことであり、本来なら祝福すべきことだ。
ぶっちゃけ秋葉さんの実家である紅葉院家はガチで名家っぽく、彼女の婿養子になる人とかも、彼女が幼いときから既に相手は決まってるらしいので、ハッキリ言って俺達のこの関係は時間制限付きだということは俺も承知していた。親バレか、秋葉さんの方でマズいと思ったら即強制終了である。
駆け落ち? 略奪愛? 現実はそんな甘くない。親に敷かれたレールとは、子供は文句を言わずに乗るモノである。俺達につきつけられる選択肢は常に一つなのだ。
でも正直大学生くらいまではなんとかこの秘密の関係を継続していけるんじゃないかと甘く見てたー、くーっ!
「どうして……ですか? 理由を教えてください」
「先日、婚約者の方と初めてお会いしてきました。今後は、これまで以上に家のしがらみも増えるでしょうし、花嫁修業もしなくてはなりませんから、自由な時間はほとんどなくなります……」
「だから俺とはもう会えないんですか……?」
「……そうです。これ以上宮本君に迷惑をかけるわけにもいきません。それに……これ以上一緒に居たら、きっと私は貴方の事を……本気で……」
その先の言葉は彼女からは出なかった。
結ばれない運命。俺にもう少し甲斐性と勇気があれば!
俺は悔しいやら情けないやら、こんなことなら雪子と関係持っても良かったんじゃないかいやそれはマズいかやら、色々と考えてしまっていた。
だが、まぁ秋葉さんが決めたのならしょうがない。
「……分かりました。秋葉さん……最後に俺に、何かして欲しいことはありませんか?」
俺は彼女を気遣ったフリをしつつ、どうにも未練がましい事を言った。最後にさ、ほら、あれしよう? ゲームじゃないよ? ほら、あれ!
「最後に宮本君と、……普通の学生のように遊んでみたいです」
「デートですね。よし、善は急げです。行きましょう」
今まで俺は、秋葉さんとデートをしたことが無かった。俺も彼女も見た目がいい為少なからず人目を引いてしまうので、多分遠目にでも誰だか分かる。もし同じ高校の奴にバレたら洒落にならん。俺は兎も角、紅葉院家の耳に入ったら多分とんでもないことになるだろう。フライデーも真っ青な特大スクープである。
年頃の女の子がそこらの一般男子学生とデートしたら大問題になるって、全く時代錯誤な家がこの令和の世にまだ残ってるものである。
だから彼女にとっての逃げ先は、軽薄男の住むマンションの3LDKのあの部屋だけだった。狭い世界である。だが、可哀相だとか哀れに思う気持ちは一切ない。俺の小さいものさしで秋葉さんの人生を語るのはおこがましい。
俺達は街を回る。取りあえず無難に水族館に行った。俗世間からだいぶ離れている秋葉さんも、水族館なら家族と行ったことがあったらしくペンギンショーやイルカショーを見たいとはしゃいでいた。
俺の前で、歳相応にあどけない笑顔を浮かべている秋葉さん。俺もそれに習って全力で楽しみながら海の生き物達を見て回って行く。ギョギョ~!
◇◇◇
水族館を出た俺は秋葉さんを横に連れながら、歓楽街の方に向かっていた。
「秋葉さん、少し休憩しませんか?」
「……はい。私も、少し疲れましたので、是非……」
……最後に思い出を下さい。小さい声で呟いた秋葉さんと一緒に、俺は大人の宿へと足を進めた。
受付にいる気だるげなお兄さんと会話を済ませた後、俺は適当な部屋を選んで歩みを進めていく。
室内に入った後は、まぁお察しのおせっせが始まる。
部屋には勿論備え付きでゴムゴムの装備品が置いてあるが、俺は自分のグローブじゃないと調子が出ないプロボーラーのような変なこだわりがあるので、しっかり自分で持参したごく薄のを装着する。
秋葉さんを求めつつ、俺は、嫌やーこれで終わりなんて嫌なんやー! っとひたすら駄々をこねた。
男のプライド? そんなしょーもない物はゴミ箱にポーイっ! 秋葉さんと別れたくない愛してるんです俺を捨てないで下さいと縋りながら行為を終える。
だって、ほら、それに秋葉さんもさ、まだ俺の家のゲームで世界救って無いじゃん? こんな消化不良嫌でしょ? クリアまで頑張れ頑張れ。
あと、ストレス解消するもの無いから根本的解決になってないよね? いつかまた同じような事起きちゃうよね? だから秋葉さん! もう少しだけでも!
俺の想いはちゃんと通じた様で、ピロートークの中、本気で呆れつつ、ちょっと満更でも無さそうな秋葉さんから声をかけられる。
「本当に貴方はしょうがないですね……、月に一回くらいなら……」
「え? 会ってくれるんですか!?」
俺の問いかけにこくんと頷く秋葉さん。ゴネ得ッ……! 圧倒的ゴネ得ッ……!
俺は心の中で狂喜乱舞の全力ガッツポーズをした。
絶望の中にも一筋の希望はきっと残されていると、俺はこの日、世界もまだまだ捨てたもんじゃないと思った。パンドラの箱の中にあるのは災厄のみでは無い。それを摑めるかどうかは、どこまでいっても人の想いということだ。
「ちなみに婚約者の方ってどんな人だったんですか?」
「良い子でしたよ。大人しくて控えめで……」
「ん??」
「あ、まだ相手小学生の男の子なんです。正式に婚姻するのは、恐らく数年後になりますね……」
おねショタかよ。婚約者がこんなに綺麗な年上お姉さんとか羨ましい奴だなぁ。やっぱ金持ちはクソ。
◇◇◇
軽薄クソ男がそんな日常を送っている同時刻、二人の男女は久し振りに正面から対峙していた。
「達郎……、急に話って……何?」
戸惑いながらも問いかける少女の名は夏樹。黒髪を束ねたポニーテールが特徴的な少女である。
「夏樹……」
彼女の名前を呼んだのは黒野達郎。夏樹の幼馴染にして、彼女の初恋の相手でもある。
「直接話したいことがあるんだ……」
達郎はなけなしの勇気を振り絞り、メッセージにて彼女を近くの公園に呼びだした。周りに人もいない、彼は、ここがまるで世界に二人だけになったかのような隔絶された空間に感じた。勿論実際そんな事は無い、人は確かに見受けられないが、視界の隅にはたまに自動車や空を飛びまわる小鳥なども飛んでいる。
覚悟を決めて、達郎は語りだす。
パンドラの箱の中にあるのは災厄だけでは無い、希望を摑めるかどうかは、あくまで人の意志である。