チャラ男が失恋中の女の子にどしたん?話聞こうか? と優しく声をかける話   作:松風呂

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幕間 苦悩する人々と秋の空

 夏休みが明けてから幾日が過ぎた。

 

 長谷田高校に通う学生たちは休みボケをようやく解消しつつ、次なる大型イベントである文化祭に向けて心を切り替え始めていた。

 

 穏やかなる学生生活。ほとんどの生徒達もそうではない人達も、平和で他愛もない、いつも通りの日常を送っていた。

 

 

◇◇◇

 

 

『お調子者の場合』

 

 俺の名前は花村友新、クラスに一人くらいはいるタイプの、根は悪い奴ではないがお調子者な性格をした野球部所属の男子高校生だぜ。

 

 もっとも、俺の所属する1-4組には俺以上に陽気な男子生徒が二人もいる為、微妙に影は薄いのだが。がっくし。

 

「まぁよ、そろそろ元気出せって達郎、何があったかは聞かねぇけど、しけた顔してたら幸せも寄ってこねーぞ」

 

 俺は夏休み明けから、また達郎と共に学食で昼食を食べるようになった。理由は単純明快で、こいつと雪子ちゃんが別れたからだ。

 

 二人の口から直接聞いたわけではないが、朝の挨拶をした俺達に対して「花村君、黒野君、おはよう……」なんて達郎を名字で呼んで返してる雪子ちゃんを見れば流石に察することが出来る。二人の間で何があったかは知らないが、深くは聞かないようにした。

 

 クラスの皆も、急によそよそしい二人を見て気付いている奴も多いだろうけど、空気を読まずにずかずか聞くような図太い人間はいないみたいだ。

 

「そうだ夏樹ちゃんと付き合うのはどうだ? あんなに仲良かったじゃねーかお前ら」

「夏樹は、年上の彼氏が出来たらしい……、夏休みの最後の方に連絡が来てさ、だから俺とあいつはただの幼馴染だよ」

「えっ、ま、マジかよ」

 

 あんな分かりやすいくらい達郎の事が好きそうだったのに、女の子ってのは分からねぇもんだ。女心は秋の空だぜ。

 

「でもほら、あの宮本とは何もなかったってことだろ! まだ良かったじゃねーか」

「それもどうだろうな」

 

 そう呟くように言いながら素うどんを啜る達郎は、なんつーか悲壮感が凄い。勿論友人として慰めてはやるけど、でもこいつなんだかんだモテるし、そのうちまた彼女でも出来るだろうと思う。

 

 実は俺も人の心配が出来る程の余裕はないんだよなぁ。バイト先で仲良くなった茂武ちゃんと今度デートの約束を出来たまではいいが、女の子との初めてのデートだ。今から緊張するぜ。

 

「恋愛だけが学生生活ってわけじゃねーさ! 部活もあるし、こうやって友情を深めあうことも出来る。だから元気出せよな」

「ああ、ありがとうな友新……。本当に、ありがとう」

「へへっなんだよ別にいいって」

 

 着てく服ってやっぱ高い方が良いのかなぁ……、オシャレってよく分からないんだよなぁ、恥ずいけど今度雑誌とか買ってみるか……。

 

 万が一もあるし色んな想定は今からしておかねーとな。くぅードキドキするぜっ。

 

 

『ギャルの場合』

 

 私の名前は曾根田春香、思い切って高校から金髪に染めた系の今時ギャルっす。

 

 今日は来たる9月末の文化祭に向けて、クラスの皆で話し合いの真っ最中ってわけ! お化け屋敷や巨大迷路、タピオカ喫茶やメイド喫茶なんか色々案はでているけど正式に決まるのは先になりそうな感じ。

 

 ま、ぶっちゃけ何でもいいんだけどね。あ、でもメイド喫茶は嫌かな、一言で言えば恥ずぃ。

 

「ねぇ軽男はなんかやりたいのある~?」

 

 右隣の席の軽部軽男に聞いてみる。比較的仲の良い男友達への只の雑談だ。

 

「決して下心はないけどメイド喫茶は素晴らしいと思う!」

「キッも……、欲望ダダ漏れじゃん」

「いやいや、うちのクラスの女子は春香や雪子ちゃんを筆頭に顔面偏差値が良い意味でヤバい。ならば長所を前面に出していく判断は決して間違いじゃないっしょ」

「ふーん、そーですか」

 

 軽男はそう言うけど、上手いこと女子をおだててメイド服姿見たいだけだなこりゃ……。

 

 男ってどうしようもないわ。周りを見ると彼の言うことに賛同してそうな男子生徒は多そうだし、反対に女子は嫌そう。

 

「宮本は何かやりたいのある?」

 

 私は左隣の席の宮本に声をかける。彼は多分同クラ男子内では一番仲が良くて、そしてなんだかんだ頼りになる。おまけに私に惚れてるっぽいから困った時には助けて貰うようにしている。

 

「うーん、俺的にはお化け屋敷が魅力的」

「お、いいじゃん。じゃメイド喫茶推しの奴等静かにさせてよ。ね?」

 

 そう言って、軽く肩にボディタッチをする。こうすれば喜んで私に協力的になってくれる。ほんと男ってチョロいわー。

 

「仕方ないのう春香ちんは、任せんしゃい」

「おっ、流石宮本~頼りになるぅ!」

「もっと、もっと褒めてくれ……」

 

 ギャルになって最初の頃はチャラい男の子に対して緊張してたけど、最近は赤子の手を捻るより簡単に手玉に取れる。校内一のチャラ男って噂の彼でこれだもん。

 

 夏休み前に軽くジャブいれてみた時も、目に見えて動揺しちゃってさ……。あの時に私を彼女にしなかったことずっと後悔してたりして……ぷぷっウケる、、、。

 

「メイド喫茶推しの男子諸君! 貴公等に言いたいことがあるジャーノン!」

 

 宮本は偉そうに席を立ちながら叫ぶ。一体何を言うのやら。

 

「文化祭で飲食店をやる場合は全員検便の必要があるぞ! そこまでしてやりたいんか?」

 

 頬杖してた肘がズルっとこけそうになる。

 

 だが、その言葉はクラスに動揺を波紋のように広げることには成功したみたい。ざわざわと皆が雑談しはじめる。

 

「それは、ちょっと嫌だなぁ……」

 

 声量は小さくても透き通る声が、ざわついたクラスに浸透する。それは涼ヶ丘雪子の声だった。私とはグループが違うからあんま話したこと無いけど宮本と仲良さそうな感じに見えるのが気に食わない女だ。あとぶりっ子っぽい感じが癪に障る。総じてキモい女って感じ。

 

 検便効果は乗り気だった男子の一部も沈静化させることには成功したみたいで、その後話し合いの結果、私達のクラスはお化け屋敷をすることになった。浮かれ気分の男子を一発で現実に戻すなんてやるじゃん。

 

「チャラ男、上出来。褒めてつかわす」

「いえいえ姫様のお心のままに」

「なにそれウケる笑」

 

 やっぱこいつとはこういうふざけた関係が一番心地いいわ。まぁ向こうが告ってきたら、受けてやってもいいけどね。

 

 私のポイント稼ぐのもいいけど、早くしないともっと優良物件の男子見っけちゃうかもよ? 女心は秋の空なんだから。

 

 

『パパの場合』

 

 私は夏野圭吾、警察庁に勤めている。妻には早くから先立たれてしまい、今は高校生の娘と二人で暮らしている。

 

 そんな私には最近悩みがある。

 

「夏野警視、どうしたんです休憩中なのに難しい顔して」

「娘のことで少しな……」

「あ、もしかして彼氏が出来たかもしれないとかそういうやつですか?」

「……」

 

 部下の安田に図星を突かれる。そうなのだ、最近愛娘の夏樹に男の影がちらつくのだ。

 

 それは祝福すべきことなのだろう。いつかウエディングドレス姿の夏樹を連れてヴァージンロードを歩くのは今の俺の一番の夢と言っても良い。

 

「でも! まだ高一だぞ!? 彼氏は早すぎないか!」

「うわっどうしたんですか警視!?」

 

 ドンッと机を叩く。ついカッとなってやった。後悔はしている。驚かせて済まなかった安田。

 

 小さい時は「私大きくなったらお父さんと結婚するのー」なんて言っていた夏樹が「私いつか達郎と結婚するのー」に変わった時は正直嫉妬で泣きそうになったこともあった。だが、それも娘の成長だとなんとか受け入れることは出来た。

 

 そんな夏樹は、多分達郎君でもない別の男を彼氏にしている気がする。乙女の心はやはり秋の空なのだろうか。移り変わりやすいのだろうか。

 

 毎日ウキウキしてる夏樹を見るのは胸が締め付けられる想いだが、娘が選んだ男なら、どんな奴でも受け入れてみせる。あの子を信じることが、親としての義務と権利だ。

 

「お、警視いいっすね。娘さんの手作りですか?」

「ああ、最近たまに作ってくれるんだ……、こ……これは」

 

 弁当を取り出して中を開けた時、驚きで声が詰まる。

 

 お米の上にあるのは大きなハートマーク、これは明太子だろうか? それに海苔で小さくダイスキと書かれている。図形と文字のバランスが取れてないのがいかにもおっちょこちょいな夏樹らしくて微笑ましい。

 

「いい娘さんじゃないっすか」

「ああ、そうだな」

 

 ありがとう夏樹、お父さん。まだまだ頑張れそうだ。いつもと弁当箱が違う気がするけど、それは些細なことだよな夏樹、お父さん信じているからな……。

 

 

『クズの場合』

 

 毎日笑顔が絶えない軽薄イケ面のチャラ男です。コンチャース。

 

「四季君、最近旧校舎で女幽霊のすすり泣く声が聞こえるって怪談が噂になっているのですけれど?」

「あー……、やっぱ学校でするのはリスクがあるね。分かったごめんね夏樹ちゃん、もうやめるよ」

「まったく、だからあれだけやめようって言ったのに……!」

「ほら夏樹ちゃん空が綺麗だよ。こんな澄み渡る青空を見たら細かい事なんてどうでもよくなるね」

「あのねぇ、誤魔化されないわよ?」

「でも、夏樹ちゃんの方が綺麗だ」

「ばっ……馬鹿っ……」

 

 

『絶滅危惧種系女子の場合』

 

 夏野夏樹16歳、最近彼氏が出来た私には悩みがあった。なので、素直に彼に相談をすることにした。

 

 今日は屋上で彼と昼食をとる。お互い友達も多いから頻度は週に二回くらい、彼は料理も上手なのでたまにお弁当を交換したりもしている。彼氏彼女とバレるのはよくないので、仲の良い友人の振りをしながら食べるのはちょっと残念。

 

 談笑しながら箸を進めてく中、私は口火を切った。

 

「あのね……四季君、私ピアスとかした方が良いかな? もしそういうのが好きなら私っ……」

「うーん、親から貰った大事な身体を自分から傷つけるのは絶対良くないから俺はお勧めしない」

「……分かった。じゃあしないっ」

「その方が良いよ、けどしたくなったらいつでも穴開けてあげる」

 

 こうして私の悩みは解決した。私が道を踏み外さないように、彼はいつも優しく諭してくれる。なんだかいつも甘えて寄りかかっちゃうみたいで悪いなぁ。

 

「夏樹ちゃん今日は部活休みだよね、俺の家でボードゲームする?」

「あ、私の家お父さん泊まりだって言ってたから……大丈夫」

「そっか、じゃあお邪魔させてもらうね」

 

 毎日が幸せだ。恋愛っていいものだなぁと思う。やっぱ世界は愛が何よりも尊い。

 

 好きな人と毎日笑い合う日々がこうやってずっと続けば良いと私は空を見上げながら微笑んだ。

 

 

『演技派女子の場合』

 

 私の名前は涼ヶ丘雪子、バスケが青春でボールは恋人、そんなアスリート少女だ。学生生活で一番大事なのは部活、目指せ全国なのだ。恋愛とかマジでしょーもないわ。あんなんありがたがってるやつは頭お花畑だわ。

 

 そんな私の最近の一番の悩み、それは親友の夏樹に大学生の彼氏が出来たらしいことだ。

 

 いやそれは正確ではないな、私は彼女の言う彼氏の存在を疑っている。そして夏樹を狙っていたあのクズの存在を考えると、夏樹はクズに騙されていいように弄ばれているのではと勘繰ってしまう。

 

 つまるところ一番の悩みは、親友がクズに騙されているなら、助けるのが友情か、知らぬ振りをするのが友情か、その二択に悩まされているのである。

 

 まぁそれは私の邪推かもしれないので、最近少しずつ探りを入れている。

 

「夏樹ちゃん……、彼氏ってどんな人なの? 今度会ってみたいなぁ」

「え……、ご、ごめんね? ほら雪子は可愛いから、彼がデレっとしたら私嫉妬しちゃうと思うし、それはちょっと……」

「わ、私可愛くなんてないけどっ……、じゃあ会えないのはしょうがないから、どんな人なのか教えて?」

「あぇっと、顔はかっこよくて優しくて紳士で、少しスケベだけど、私の事は大事にしてくれてるしえーっと……頭は悪いかな?」

「ふーん?」

 

 クズと特徴が当てはまりそうで違うような気もしないでもない。そもそも夏樹の目は節穴な上に乙女フィルターがかかってそうなので当てにならない。

 

 仕方ないので久々に遊びに行くついでに、クズの家にお邪魔することにした。

 

 二人が真っ当に付き合ってるなら横から口を出す気はねーけど、毎日浮かれぽんちになっている夏樹を弄ぶつもりならその時は絶対に許さん。

 

「あのねぇ雪子さん、ここは漫画喫茶じゃないんですよ?」

「お前この前の文化祭の出し物決めで何でお化け屋敷推してたの?」

 

 ソファーでくつろぐ私に対するクズの言葉は無視して雑談しよーぜという空気を作る。こいつは嘘が上手いからな、直球で聞いたら尻尾を摑ませない気がするからなるべく遠まわしに聞くつもりだ。

 

「渋谷のハロウィンなんか見て貰えれば分かるけど、お化けと言ってもコスプレ紛いな服も多いし眼福かなぁと。あと暗闇だからパンツくらいは見てもバレないかもしれないという男のロマン。流石にお触りはしないけどね、昔そういう事件実際にあったし。まぁそんな大したことない理由かな」

「呆れてものも言えん。ちなみに当日は誰と行くのとか決まってるのか?」

「うーん、決めてないけど、なんなら一緒に回る?」

「えっ!」

 

 思わぬ提案に心臓が少し高鳴る。確かに私は今フリーだけど、ま、まさか狙われてる? マズい動揺しちゃ駄目だ。

 

「お、お前夏樹のことはどうしたんだよ。あんなにぐいぐい行ってたのに、それになんか大学生の彼氏出来たらしいって聞いたぞ……」

「力及ばず良いお友達止まりだったんだよ、でも仲は良いから夏樹ちゃん誘って3人で仲良く回るか。両手に花だわ」

「嘘つくな! 私の目を誤魔化せると思うなよ、お前は夏樹と隠れていちゃついてる!」

 

 確信したので核心を突く。いや洒落を言いたい訳ではない。この男は最近ずっと幸せそうだ。自分では気付いてないだろうが、あれだけ執着していた夏樹が本当に横から掻っ攫われたならこんなヘラヘラ出来るわけがない。

 

 RPGのラスボスみたく常に変な余裕のあるこいつにもたまには一泡吹かせてやるぜ。

 

「流石、雪子の目は誤魔化せないな、お察しの通り実は俺と夏樹ちゃんは隠れて突き合っているんだ。でも変なやっかみとか来ても困るだろ? だからこれは秘密にしてね」

「付き合ってる……、本気なんだろうな?」

「以前も言ったろ? 夏樹ちゃんは、俺が幸せにしてみせるって」

 

 あっさり認めやがった。なんだろう、言葉に違和感はあるが、確かにこのクズの長所は顔の良さと女の涙は許容しないところだ。隠す理由もさもありなんという感じだし、取りあえず大岡裁きは終了か。

 

「帰る」

「え、どしたん急に」

「別に、夏樹と付き合ってんならこうやって二人で会うのも良くないだろ。じゃあな」

「そう? あ、お帰りはあちらになります」

「知っとるわい!」

 

 そして私は嘘つき野郎の部屋を後にした。

 

 胃がむかむかするし、モヤモヤする。

 

 もし本当に夏樹に別の彼氏が出来ていたら、それはあのチャラ男が失恋したってことで、前のお礼も兼ねて慰めてやろうと思ったのに、蓋を開けてみたら想像通り嘘だし、しかもなんか真剣に両想いっぽいし。

 

 なんか内心夏樹に少し嫉妬してる自分が居て本当に我ながらクズだなと感じる。

 

 あーやっぱ恋愛ってクソだわ。学生の本分は、部活!

 




ぼちぼち終わりが近づいてきました。
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