チャラ男が失恋中の女の子にどしたん?話聞こうか? と優しく声をかける話   作:松風呂

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14話 成長も退化も捉え方次第 

 

 最近、夏樹ちゃんの愛が重い、想いが重い。

 

 うーん……、自室で俺は、彼女のことについて悩んでいた。

 

 俺の悩みを赤裸々に相談できそうな知り合い(正確には密度の濃い人生経験を持ってて、説教臭くなくて、仲のいい大人)は一人もいないので、なにか問題に直面した際は、なんとか一人で解決しなくてはならないのが孤高タイプのチャラ男の辛いところである。

 

 高校とバイト先くらいしかコミュないしね……。俺ってクラブ通いもSNSもそこまで重点を置いてないし……。

 

 さて、これより先は惚気が入りそうなのだが、俯瞰的視点から彼女のことを考えていかなくてはならないので自己分析も含めて想いを馳せていこうと思う。

 

 いくつかのエピソードを思い出して、はたしてこれは重いかそうでないかを冷静にジャッジしていこう。

 

 まず、俺の家のカレンダーにハートマークがついていたので理由を尋ねると付き合って一カ月記念日だったらしい。

 

 次に、俺が仮病で学校をサボったら、看病したいと言って2限で早退して家にやって来た。

 

 最後に、部屋でゼク○ィ読みながら、やたら新婚旅行はどこに行きたいかやら、子供は何人欲しいかやら聞いてくる。

 

 審議中。ぽくぽくぽく、ちーん!

 

 可愛いからいっか! これにて閉廷!

 

 どうも夏樹ちゃんは、幼少期に親に構って貰えなかった反動なのか、思いの外俺に甘えまくってくる。家庭環境的に誰かに寄りかかることが出来なかったから仕方ないのだろうけど、依存心が強めだ。

 

 俺がもしクズだったら「何回か(数十回)シただけで彼女面するんじゃねぇよ!」などと言ったり、逆にズブズブにして自分に都合のいい女にしちゃうんだろうけど、俺クズじゃないからなー。生まれ変わったらわたしはクズになりたい……。

 

「何か悩み事でもあるの? なんでも言って? 私、四季君の為ならなんでも出来るよ?」

 

 俺が頭を抱えているのを見て、キッチンで晩御飯を作ってくれていた夏樹ちゃんから心配のお声がかかる。

 

「えっ、なんでも? じゃあ今日もいちゃいちゃしていい?」

「うんっ」

 

 満面の笑みで返事をする夏樹ちゃんは変わってしまった……。以前のように俺に敵意を向けることもなければ、鉄壁だった心の防波堤は、子ブタが作った藁の家より脆弱だ。耐震強度偽装問題だ。

 

 これは多分よくない、少女漫画の神に愛されている彼女は今、間違いなくおかしな道へと進みつつある。

 

 でも、可愛いからいっか!

 

 実際、俺にはどうしようもない。

 

 チャラ男が女の子の性格を自由にしようなどとおこがましいとは思わんかね。(本間先生)

 

「夏樹……いちゃいちゃ……」

「四季君……いちゃいちゃ……」

 

 かの有名なスタンフォード実験でもあるように、どうも状況や関係が心理に与える影響力というものは馬鹿にならないらしい。

 

 言ってしまえば俺は、彼氏っぽいナニカであり、夏樹ちゃんは彼女っぽいナニカだった筈なのに(というかぶっちゃけセ○レ)こう毎日顔を合わせながら彼氏彼女の事情をしていると、探し物を探すより俺達二人は踊ってしまう。

 

 つまり、俺はここにきて夏樹ちゃんに心を奪われつつある。とっつぁーん!

 

 というかハッキリ言えばもう陥落した。特に激甘エピソードとかなく、ドラマティックな展開もなく、宮本武蔵は流れ弾に当たって死亡した。

 

 だって、夏樹ちゃん可愛いんだもの……こんなん惚れてまう。

 

 付き合って一カ月記念日は二人でケーキを買って食べて。

 

 体温計擦りまくって、看病されてるフリしながらも結局いちゃついて。

 

 新婚旅行はハワイが良いかなぁとか考えた後、彼女との輝かしい結婚生活を想像し、「あなたーお弁当忘れてるわよー」とか言う夏樹「ごめんごめーん」とか言う元チャラ男、あー凄い微笑ましいかも……。などと幻視する。

 

 しょうがない、男ってのは常に休める港を求めるものなんだ。

 

 どんなヤンキーだっていつかは大人になって、悪ぶった過去を忘れて所帯をもつように、女遊びの激しかったチャラ男もいずれは一人の女の子を選ぶ。それが俺の場合は彼女だったということだ……。

 

 

◇◇◇

 

 

 文化祭が明後日に迫る中、俺の部屋ではなんだかんだで2週間に一度くらい会っている秋葉さんがゲームをしていた。

 

 最初はスライム一匹倒すのにも苦労していた勇者アキハは怒涛のラスボス戦に突入していた。

 

「翔太君から教えて頂きました。邪神に勇者のつるぎをかざすことで弱体化するらしいのです」

「あ、そうなんだ」

 

 ちなみに翔太君とは秋葉さんの婚約者である。話に聞く感じだと、普通に良い子っぽい。

 

 手に汗握るバトルを経て、見事アキハは仲間と共に邪神を打ち倒し、世界に平和をもたらした。

 

 感動のエンディングである。

 

「最初は右も左も分からぬ中での冒険でした。状況に流され、運命に導かれ、それでもアキハが折れずに成長出来たから、ここまでこれたんですよね」

「そうですね。まさに艱難辛苦って感じの旅でしたけど、ちゃんと乗り越えてましたね」

 

 人生初めてのゲームクリアだからか、秋葉さんは少しセンチ入っていた。気持ちは分からんでもない。

 

「この数カ月、本当に楽しかったです。初めてのことだらけで、どんなに自分の視野が狭かったかたくさん痛感しました……」

 

 あ、マズい、と思った。この流れはマズいぞ。

 

「秋葉さん……」

「宮本君は、私の恩人です。最初はこんな酷い男の子がいるんだと驚きましたけど、今では貴方で良かったと心から思います」

「そ、そうですか……、なんか照れくさいですけど……」

「だからこそ、このままの関係は続けることは出来ません」

 

 グエー死んだンゴ!

 

 完全に別れ話が再度やってきた……。嫌じゃ嫌じゃ! 

 

「も、もしかしてやっぱりもう会ってくれないんですか……? 多分裏ボスもまだいますよ……?」

 

 俺は震える声でそう問いかけた。場の空気がしっとりしているので、俺も邪神のように彼女に襲いかかれる雰囲気では無い。

 

「もうやめた方がいいでしょうね。家のこともそうですけど、ここは居心地が良過ぎて、寄り掛かっちゃいそうです」

「俺なんかでよければ、いくらでも! 人という字は……」

「駄目ですよ。そうなると私自身、成長出来ませんから。私もアキハみたく、もう逃げたくないんです」

 

 ひーんっ、ゲームと人生をごっちゃに考えちゃ駄目だよぉ……、とも思ったが、今回の秋葉さんは決心が固そうだ。

 

 最初に会った時は、なんかもう何もかもめんどくさそうな感じで、おっさんの横で腐ってた彼女だったが、良い目をするようになったもんだぜ!(少年漫画風)

 

 そういえばあの後おっさんの家はどうなったんだろう。少し気になるけど、多分俺の人生の中では一生迷宮入りなんだろうな。袖振り合うも多生の縁とは言うけど、あのおっさんとももしかしたら前世では関係の深い間柄だったかもしれないと考えると面白い。

 

 何でこの瞬間、援交おっさんのことばかり考えているかというと、完全に現実逃避である。

 

「秋葉さんは成長出来ないって思ってるかもしれませんけど、俺からしたらそんなこと無いと思いますよ。実際、最初の頃に比べると性格図太くなった気がします」

「ふふっそうですね。どうしようもない男の子のおかげで、抜き方も覚えた気がします」

 

 一応注釈すると、秋葉さんの発言は変な意味ではなく、力とか仕事とかの意味である。身の丈に合わないことを全力で取り組み過ぎるからストレスは溜まるんだよ。つまりは以前の秋葉さんは真面目過ぎた。

 

 半年近く俺と過ごすうちに、彼女も少しは器用に生きれるようになった。俺ほど適当に生きちゃ駄目だろうけどね。

 

「最後に宮本君に頼みがあるんです……聞いて下さいませんか?」

 

 さ い ご 

 

 その言葉は未練がましいクソ男の俺にドッスンと圧し掛かる。嫌じゃ嫌じゃ……!

 

 ナンデ? え、だって、あんなに楽しかったのに、週に何回かアソンデ、お互い両想いだッテ、絶対ソウだって、オモッテたのに……。

 

 あ、本当に嫌だ。またゴネようかな……。

 

「……あ、あはは、分かりました。なんでも言って下さい!」

 

 え? 今の俺の声? ナンデ、何で笑ってるの……分からない……。

 

 はい、切り替えー。

 

 仕方ないか。秋葉さんが自分で決めたのなら、それに従いましょう。連絡先はお互い知ってるし、しんどくなったらまた会いに来るでしょ。

 

「これに、私と一緒に参加して下さい!」

 

 彼女が見せてきたのは想定の範疇外な一枚のチラシだった。

 

「ぇぇ? 冗談ですよね?」

「さっきなんでもと言いましたよね? 宮本君?」

「言いましたねぇ……」

 

 それは長谷田高校文化祭M-1グランプリ募集のチラシだった。

 

 嫌じゃ嫌じゃ……! 

 

 こうして俺達は、文化祭で何故かコンビで漫才をすることになったらしい。ナンデ?

 

 

◇◇◇

 

 

 古書特有のバニラっぽい香りただよふ文芸部部室。明日は文化祭だというのにうちの部は特になにかすることもなし。

 

「なんか残念です。部長の小説なら案外売れそうなもんですけどね」

「私だって悔しいが、いかんせん生徒会は頭が固い、下手に睨まれたら部の存続すら危うくなってしまう」

「年齢指定本を文化祭で売るのは流石に無理でしたか……」

 

 安っぽいパイプ椅子に腰かけながら、俺は長机に積まれている一冊の本を手に取った。いやらしい小説である。

 

 この部室の本棚の中には芥川や太宰に紛れて、聞いたことないような著者の官能小説が混じっている。中々興味深いので、ここに来た際はいくつか面白そうなのは読むようにしている。

 

「君は、当日はクラスの出し物以外になにかするのか? やっぱりチャラついた男の子としてはバンドとかするのか?」

「なんかM1に参加します。あとはおたくの妹さん達と適当に回りますよ。部長のご予定は?」

「ぷっ、えっ……? 漫才するのかい? くくっ……数少ない部員の雄姿、これは是非とも見に行かなくてはいかんな!」

「ちなみに相方聞いたら多分驚きますよ」

「じゃあ本番の楽しみにしとく! いやー当日の予定が出来て少し嬉しいよ。映画研究会に行って昔の洋画の上映会で時間潰そうと思ってたからさ!」

 

 そこまで期待されると恥ずかしい。そして中々寂しい青春してんなぁと少し同情する。

 

「部長そういえばフランス書院の選考はどうでした?」

「実に残念だったが駄目だった……、正直今一つ力不足は感じていたんだ。また来年頑張るとするさ」

 

 昔と違い、選考の締め切りは8月と2月の年二回で落選は応募から一カ月程度で知らされる。

 

 落ちちゃったのか、残念だけど、それでも部長の心は折れていないし、その目の炎は消えていない。

 

 諦めなければ夢は叶うなんて軽々しく言うつもりはないけど、毎日のようにエロ小説ばかり読んでいる彼女の努力をこの半年間、ずっと見てきた俺としては是非とも賞を摑んでほしい。そしていつか呼ばせてほしい、官能小説家涼ヶ丘冬優奈先生と……。

 

「来年か……、あと半年もしたら部長も卒業ですし、もうこういう時間もなくなっちゃいますね」

「少し淋しいが今生の別れというわけでもなし、一足先に大学で君を待っているよ」

「キャンパスでは変な男に引っかからないで下さいね」

「……もう既に引っかかってるかもな」

「え……部長それって……」

「なんでもない!」

 

 絶対に今の発言は深く追求してやると躍起になるチャラ男VS失言は無かったことにするタイプのエロ部長……ファイ!

 

 こういった青春の一ページもいつか思い出へと変化して、やがて記憶からも消えてしまうのだろうか。

 

 なればこそ、この輝かしい一瞬を形として残したい。部長と俺が歩んできた軌跡、その集大成である官能小説を後世へと伝えたい……。

 

 俺は柄にもなく、そう思ってしまうのだった。

 

 そんな日常を挟みつつ、文化祭がやってくる。

 

 

 

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