チャラ男が失恋中の女の子にどしたん?話聞こうか? と優しく声をかける話   作:松風呂

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最終話 まるで成長していない

 史上最低最悪の絶望的な日から早くも約一年経った。正確には十カ月くらいか……。

 

 それは高一の文化祭の日、俺がずっと好きだった夏樹と宮本の交際が発覚した日だ。

 

 つまり、大学生の彼氏なんて全て嘘だったということだ。あの夏樹が俺に嘘をついたんだ。ずっと俺は騙されていたんだ。裏で笑われていたんだ。まるで道化師のように慌てる俺はさぞ愉快だったことだろう。

 

 この一年、俺は何度か女の子から告白され、中には付き合った子もいたが、全て上手くいかなくて別れてしまった。

 

 どんな女の子と一緒に居ても、俺はいつも夏樹と比較してしまっていた。夏樹ならそんなこと言わない。夏樹ならもっとこうしてくれたのに。そんな風に考えてしまう自分が最低過ぎて、俺から何度も別れを告げた。

 

 それでもふと、一人でいることに淋しさを感じてしまって、また誰かと交際を始めてみるも、俺の心は成長せずに、また自己嫌悪感を抱いて別れてしまう。それの繰り返しだ。

 

 最早これは呪いだ。夏樹と過ごした10年間を完全に忘れるのは、おそらく10年の時間が必要なのだろう。

 

「夏樹……夏樹……」

 

 高校生活自体は二年生になっても順調だった。新しい友人も出来て、勉強も、部活も、生徒会も、上手くやっていけてると思う。だがどんなに優等生を演じても、俺の心は満たされない。

 

 今の季節は夏、学校は夏休みに入り、暇な日はつい部屋にこもってしまう。

 

 今日も俺は、自室で一人涙を出す為にスマホを取り出して、いつも見ているページを開く。

 

 ネット社会のこの時代、SNSでは相手の個人情報を知ることが出来てしまう。

 

 去年の文化祭の日から、夏樹は宮本と二人でいる写真をイン○タに上げるようになった。カップルがよくやる、デートや近況報告の、なんてことない写真だ。

 

 9月の写真、文化祭で二人で校内をいちゃついている写真が映っている。どうして夏樹の隣にいるのは俺じゃないんだ。

 

 10月の写真、ハロウィンで魔女のコスプレをした夏樹の首筋に、吸血鬼コスの宮本が噛みついていた。恥ずかしがる夏樹はちっとも嫌そうにしていない。

 

 1月の写真、二人で旅行に行ったらしい、湯上がりで浴衣を着た夏樹は色っぽい。男女で二人っきりで旅行に行くなんて不健全だ。

 

 4月の写真、宮本と同じ2年4組のクラスになって、夏樹は満面の笑顔だった。夏樹……、俺も一緒の2年4組なんだよ。

 

 8月の写真、最新の写真が公開されている。こ、これは……。

 

 水着姿の夏樹が、宮本や友人達と楽しそうにしていた。海に行ってるのか、あんなに仲良かったのに、俺のことは勿論誘ってはくれないんだな夏樹……。

 

「くそっ、夏樹っ……! 夏樹っ……! うっ!」

 

 彼女のダイナマイトボディは俺にとって目の毒だった。可愛らしい黒ビキニ姿の夏樹を見て、今日も俺は一人涙を出す。飛び散る涙をティッシュで拭いて、ゴミ箱へ捨てる。

 

 この呪いが解けるのはいつになるか分からない。だが、俺は誰も恨んでいない。夏樹は俺を裏切った訳じゃない。雪ちゃんはまた俺に優しくしてくれるようになった。宮本も、彼女を泣かせるようなことはしていないみたいだ。

 

 これは、俺の弱さが招いた事なんだ。俺に勇気がなくて、夏樹ときちんと向き合ってこなかったから。

 

 俺が全部悪いんだ。

 

 だが、どうしても思わずにはいられない。どうして、夏樹は俺を選んでくれなかったのかと……。

 

 そんな時、コンコンとノックの音が響く。俺は慌てて身支度を整え、来訪者を出迎える。

 

「ごめんお兄ちゃん、辞書かしてー、宿題で使うの」

「あ、そこの本棚にあるから持ってっていいぞ」

 

 妹の凛だ。彼女は俺と違って、今でも夏樹と仲が良い。彼女のことを本当の姉のように慕っている。

 

 本棚へと向かう凛を見ながら、俺は焦った。マズい、そこにはっ……! 

 

「え……、お兄ちゃん……何これ?」

「ち、違うんだ。それは、友達の姉が書いた小説で! みほん本いっぱいあるからってタダでくれただけで、別に変な意味はないんだ!」

 

 俺は慌てた。本棚にいわゆるえっちな小説が一つ置いてあるが、それは本当に貰っただけなんだ。妹に見られるなんて恥ずかしい! 

 

「ふぅ~ん……、お兄ちゃん、こういうのが好きなんだぁ……」

「だから違うって! い、いいから早く辞書持って出てけよ!」

「ふふっ、してあげよっか?」

「……え? 凛、何言って……?」

「この小説みたいなこと、最近元気がないお兄ちゃんに、私がしてあげるよ……あ、でも恥ずかしいから夏樹お姉ちゃんには内緒にしてね?」

 

 そんな風に、舌なめずりをする妹はとても2つ年下とは思えない程、妖艶な雰囲気を醸し出していた。

 

「な、何言って……ふ、ふざけたこといってんじゃ……止めろ凛っっ」

「大丈夫、昔お兄ちゃんくらいのイケメンにいっぱい仕込まれたから、ちゃんと優しくしてあげる」

「や、やめ……凛っ」

 

 俺は迫りくる非日常の足音に、恐怖より先に、何故か期待をしていた。彼女の持っている小説の表紙が視界の端に映る。

 

 その本のタイトルは『禁断の果実、義妹とのドスケベな日常~お姉ちゃんには内緒にしてね~』だった──。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 夏だー! 夏と言えば海! 白い砂浜に映える色とりどりの水着! いつもならナンパにあけくれたいところだが、なんせ俺は彼女持ちなもんで浮気なんてしないぜ! 

 

 てな訳でおっすオラ宮園四季、17歳の高校二年生、女4人男3人のバランスのとれたパーティーで夏休みに海に来ました。テンション高めです。

 

 誰と来たかって? よしイカれたメンバーを紹介するぜ! 

 

 まずは、夏樹ちゃんだ。言わずもがな俺の彼女、破局の危機もなくは無かったが交際も早いもんで一年続いている。もうすぐやって来る一周年記念に何をプレゼントするか悩むところである。

 

 俺達は冷たい海に浸かりながら向き合っていた。一緒に水着売り場で選んだ黒ビキニ姿がとってもセクシーだ。

 

「四季君、一緒に泳がない? 勝負しよ勝負!」

「よーし沖まで競争だー」

「負けた方ジュース奢りだからね!」

 

 夏樹ちゃんは、付き合った当初は依存型彼女に真っ直ぐ突き進んでいたが、愛とは熱しやすく冷めやすいのか、この一年間でだいぶお互い気安くなった。でも絆は以前より強固になったと思う。

 

「チャラ男兄ちゃん速ぇー!」

「本当宮本君は無駄に身体能力が高いですね……」

 

 俺と夏樹ちゃんの水泳勝負の審判役を引き受けてくれているのは、秋葉さんとその婚約者の翔太君だ。

 

 いやいやちょっと待てと海の底から声が聞こえる。怖いね。

 

 秋葉さんとは約一年前の文化祭で壮絶な別れ(ドロップキック)を味わった筈なのに何で仲良くしてるねんって、波の音が聞こえる。

 

 簡単な経緯として、俺はあれ以来完璧に無視されていたのだが、彼女と俺の関係を勘繰っていた夏樹ちゃんが女同士の話し合いを行った結果、なんか元々性格の良い二人だからか、気付いたらめっちゃ仲良くなってた。勿論俺と秋葉さんの関係は完全に隠し通せた。

 

 てな訳で夏樹ちゃん経由で秋葉さんとはそこそこ話せるようになり、あと色々あって彼女の婚約者である翔太君とはウマが合ってめっちゃ仲良くなった。小学生と高校生なのに最早マブダチだ。その辺についてはまたいずれどこかで語られる日も来るであろう。

 

「雪子ちゃん、冬優奈先輩、日焼け止め塗ってさしあげましょうか!」

「あ、大丈夫だよ。ありがとうね軽男君……」

「うむ、さっき姉妹で仲良く塗り合ったからな。まるでオイルマッサージ系AVのごとくぬっちゃぬっちゃと」

 

 冬優奈元部長は応募した小説が某出版社の編集の目に止まったらしく、めでたく官能小説家デビューを果たした。ペンネームは退魔触手ぬめぬめ先生だ。

 

 今は長谷田大学の文学部教育学科でのぼっち大学生活と執筆作業をそこそこ楽しく過ごしているらしい。

 

 運転免許を取ってハイエースを購入した彼女に乗せて貰って湘南の海まで来れたわけだ。

 

 雪子は特に語ること無し、変わりなし、二年になっても演技派高校生活を送っている。こうやって仲良く海に来るくらいには夏樹ちゃんとの仲も良好だ。

 

 軽男は元クラスメートのギャルである春香と付き合いだしたのに、俺がほぼハーレム状態で海に遊びに行くことを知ってついてきた。このメンツじゃほとんど絡みないだろうがコミュ力は高いので案外すぐ打ち解けられている。しかし彼女に内緒でこんなとこ来て浮気じゃねーの? 大丈夫? 

 

 浮気と言えば、俺は完全に元チャラ男と呼べるくらいには、この一年間夏樹ちゃんに対して真摯だった。ナンパとかマジでしなかったからね。本当に成長したなぁと自分でも感じる。

 

 一部怪しいのもあったが少なくとも俺は浮気では無いと思う。秋葉さんは少し慰めただけだし、冬優奈元部長は官能小説のクオリティ向上の為だし、雪子は酒の力って怖いねって話だ。

 

 つまるとこ秋葉さんを傷付けた翔太君が悪いし、リアリティのある描写が書けない元部長が悪いし、運動部なのに俺の部屋で間違えて飲酒した雪子が悪い。

 

 まぁ、そんなささいな事は脇に置いておこう、ともかくこの7人の仲良しメンバーで海に遊びに来てるんです。楽しんでこーぜ! 

 

「ぷはぁっ……! あーっ! 負けちゃった!」

「ふー……悪いね夏樹ちゃん、俺オレンジジュースよろしく」

「くっ、しゃーない買ってくる」

 

 水泳勝負は正にタッチの差で俺の勝ちとなった。水が気持ち良くてほぼいきかけました。

 

 太陽がまぶしい! 空が青いぜ! 青春の煌きがするぜ! 

 

「チャラ男兄ちゃん、次俺と潜水勝負しよー!」

「いやいや宮本君、ここは一つ私と砂で女体を作らないか?」

「宮本は俺にナンパの極意教えてくれるって言ったよな? 是非ご教授を!」

「おいクズ、一緒にバナナボート乗りに行こうぜ!」

 

 上から翔太君、冬優奈元部長、軽男、雪子から熱い誘いを受ける。嬉しいけど俺の身体は一つなんだ。ふっモテる男はつらいぜ。

 

 ということで。

 

「おし! 間をとって皆でビーチバレーしよう!」

 

 俺は移動中に膨らませたボールを持ってそう提案した。海と言えばこれよね。俺の一声は鶴の一声、よしやるか、負けないぞーっと皆が目に炎を宿し闘志を沸かせている。

 

「じゃ、やりたい人この指とーまれっ!」

 

 俺が人差し指を天にかざすと、わーっ! と皆が集まって来る。皆一様に笑顔だ。やはり母なる海は良い、開放的な気分になって、皆テンションがおかしくなる。

 

 そんな青春の一ページ。学生生活もちょうど折り返し。これから先、あらゆる困難や挫折も味わうことになるかもしれない。それでもきっと輝かしい未来が待っていると俺は信じている。だって俺には最愛の彼女とかけがえのない友達がいるのだから! 

 

 ……それにしても水着って本当に性的だよな考えた奴どうかしてると思う。だってあれ完全に下着じゃん。なんなら下着姿よりエロさを感じる時ある。というか夏樹ちゃん写真撮ってイン○タ上げてたけど間違いなく校内の男子が涙を出すよ。自分の身体が性的搾取されてることに気付いて? さっきだって夏樹ちゃんの髪が濡れて身体に張り付いているのとか見て俺ですらかなり邪な気持ちを抱いてしまったし、そう考えてしまうのも俺だけじゃないのは明白で、すれ違う男達は軒並み獣みたいな目線を彼女に浴びせている。あ~……でも優越感凄い、この娘俺の彼女なんすよ、毎日通い妻みたいな生活送ってんすよ。はっはっはどうだ羨ましいだろ凡百の男達よ。

 

 そんな感じで、爽やかで煌いてる俺の青春はまだまだ始まったばかりだ──。

 

 長い間ご愛読ありがとうございましたチャラ男先生の次回作に御期待下さい! 

 

 

 END

 

 




皆様の優しいお言葉のおかげで最後まで来れました。ありがとうございます。
なんだこれ打ち切りかよぉ!? と思った読者様、きっとチャラ男の冒険はまだ続いてくんですよ。ただ僕らには見えないだけさ。

あと次作があるならもっと頑張ります。

あとあと、一応R18版小説も下に貼りますが、色々な意味で閲覧注意。内容がひどくても怒る相手は作者ではなく、書いてって言った読者ですのであしからず。
https://syosetu.org/novel/262931/

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