チャラ男が失恋中の女の子にどしたん?話聞こうか? と優しく声をかける話   作:松風呂

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駄弁り回 


7話 夏休みなのに雪三昧

 

 夏休み初日、俺は教師から大量に出された宿題の一つに手をつけながら唸っていた。その理由としては復習問題が難しいこともそうだが、さっきからバリッバリッとソファーの上から耳障りな音が聞こえるからだ。

 

 不快な音の出所は部屋にいる雪子である。彼女はバスケ部での午前錬を終えた後、俺の家のソファーで寝っ転がって幽白読みながらせんべいを噛み砕いていた。

 

「雪子さん、くつろぎ過ぎではないですかねぇ……」

「ここちょっと快適過ぎてマズイな。冷房も漫画もお菓子も液晶テレビもあるし、一人うるさい屑いるのが余計だけど」

「それ家主のこと? てか人の家の漫画読みながらせんべいを食うな」

「うるせーなぁどうせ中古本だろ。少し汚れたくらいでごちゃごちゃ言うな」

「漫画もそうだけどソファーの下カーペットだろ。食べカスがこぼれる」

「あとでコロコロしとけ」

 

 あれは正確には粘着カーペットクリーナーと呼ぶのだ。物を知らねえ小娘が。

 

 二週間くらい前に俺の家で勉強会をしてからというもの、この傍若無人のクソ女は度々俺の家に来ては、まるで我が物顔でソファーを不当占拠してくつろぎやがる。せめて外面用の謙虚な姿を見せてくれればまだ可愛げがあるが、こいつは俺の前では素の状態で接してくるので単純に迷惑千万な女だった。

 

 あ、勉強会といえばそうだ思い出した。

 

「そういえば3人で勉強会したこと達郎君に漏らしただろ。あのせいで夏樹ちゃんパピーに俺のことが悪く伝わったんだけど」

「……あ、言った様な気もする。……そ、それは置いといて、この部屋ほんと広くて素敵な3LDK、さぞ家賃もお高いのでしょうね~」

 

 露骨に話題変えやがった。ムカつくから少しビビらせたろ。

 

「ここ事故物件で10人くらい死んでるからそんなでも無いよ」

「あ、だからお前の背中に……、そういうことか……」

「……エ?」

「いやーたまに変なの憑いてるから疑問だったけどそういうことだったのか」

「……冗談ですよね雪子さん」

「冗談だよ」

 

 こ、このアマァ……、一瞬俺の中の乙女な心がビビっちまったじゃねーか。いや、幽霊とか信じてませんけど? 別に平気ですけど?

 

「日本って前入居者が死んでると家賃下がるの不思議だよな。外国じゃそうでもないらしいぜ」

「へーそうなんだ。……って誤魔化されるか!」

「悪かったよ。ちょっと口が滑ったんだよ。ほれパンツ見せてやるから」

 

 雪子はそう言いながら制服のスカートをぴらっとめくった。相も変わらずせんべいと漫画は手から離していないので色気もへったくれも無い。黒か、性格と同じだな。

 

「凝視すんなよ恥ずかしいだろ」

「こっ、こら雪子。女の子でしょ、はしたない!」

「そこに~私は~いません~♪」

 

 俺は白い太腿の上で堂々たる存在感を主張する黒パンツ様に向かって注意を促した。付属品のクソ女の歌声が聞こえた。

 

 元々そんなに怒ってた訳では無いけど、女子の下着一つ見ただけで万物全ての事象を許す気になれるんだから、ほんと男って単純よね。ただの布だぜっ!?

 

 しかしなんだな、初めて会った時より親しくはなったんだろうけど、かつて中学時代に見た大人しくも愛らしい清楚で男慣れして無さそうな雪子は本当に期間限定の蜃気楼の様なものだったのだと思うと哀しい。ただ哀しい。

 

 思わせぶりな事を脳内で匂わせてから詳細は後日語るような漫画の主人公はどう思う? それは漫画における引きの技法だししょうがない部分はあるけど大多数の読者は、いや今教えてくれよっ! って思うんじゃないだろうか。俺は思う。

 

 という訳で、過去回想一丁入りまーす! うーい、過去回想一丁! シリアス薄め性描写薄めで! うーいシリ薄セイ薄一丁!

 

 

◇◇◇

 

 

 これを語ると大勢の男達から嫉妬と怨嗟の炎を浴びることになるので周りに吹聴したりは決してしないが、中学3年の頃、当時の俺は生まれ持った顔の良さと、持ち前のコミュ力を駆使して女の子を毎日侍らせてはいちゃこらしていた。

 

 そんなある日、友達の友達くらいの関係の奴の紹介で他校の生徒である雪子と出会った。

 

 彼女の見た目は今まで会った女の子の中でも極めて愛らしく、おまけに「私、男の子は苦手だけど宮本君は優しくてカッコいいです……」みたいな事を照れながら言うという中々男のツボを抑えている甘え上手な媚び上手ガールだったこともあって、出会って初日で俺は彼女に心臓を撃ち抜かれた。

 

 そして若き男女の交流は始まり、その後俺と雪子はぽつぽつとデートを重ねていった。当時の俺は出会ってすぐにいかがわしいことするのもザラにあったが、男慣れしていない雪子に関してはきちんとステップを踏んでから頂くつもりであった。

 

 俺は雪子と会う際はいつも以上に紳士的に行動し、爽やかな笑顔がチャームポイントな優しい男を演じ続けた。コロッと騙されている彼女の表情を見て、内心しめしめと思ったものだ

 

 つまり、この時点では俺達は二人ともお互いの本性に全く気付けていなかったのである。

 

 "凝"を怠るな、当時の俺。

 

 交流から二週間が経ち。俺は親の帰りが遅い時を見計らって雪子を実家へと招待した。

 

 思春期の男女がおうちで二人っきりになったらヤるこたぁ一つ。

 

 俺は恥ずかしそうにしている彼女の身体をじっくりねっとりゆっくりたっぷりと弄る。しかし、彼女の体格がちょっと小柄過ぎることもあって、初回で繋がるのは無理そうだなぁと俺は本番に関しては諦めた。苦渋の決断だった。

 

 内心残念がる俺の胸中を察したのか、献身的な雪子は俺の地撮り棒をモカフェラペチーノしてあげると健気にも言い放った。

 

 胡坐をかく俺、天を向く唐揚げ棒、雪子が頭を下げてそれを口に含んだ瞬間、俺の股間部に激痛が走る!!

 

 人間急に痛みが来ると、素に戻ってしまうものだ。俺は「いてーよ馬鹿っっ」っと叫びながらちょうどいい所にある雪子の頭をすぱこーんっ! っと叩いた。

 

 あ、やべ。っと思ったが、俺は痛みで普段の紳士的な態度をとる余裕が無くなってた。だってこいつの歯が当たって凄い痛かったんだもん!

 

「痛っ、何しやがるテメー!?」

「歯が当たったんだよ、いてーなもう……」

「だからって急に叩くか普通!? この最低のDV男、人の善意を仇で返しやがってボケカスクソ死ね!」

「え、雪子ちゃん性格変わってない?」

「あぁん? あ、ぁー……、そうだよこっちが素だよわりーかよ」

 

 とまぁこの後は割愛するが中学生らしい実に醜い言い争いが繰り広げられ、彼女とはそれっきりの関係となり、思い出の一つとして風化する筈であった。

 

 ここまでなら若いころの女性経験の一つとして、口淫してもらう際は決して歯を立てさせないように注意しようと俺が学びを得た日で終わるだけの話なのだが、運命の女神様は悪戯をするものである。

 

 そこから時間は飛び、長谷田高校の入学式。俺は彼女と再会した。

 

「「げっ」」

 

 スタンド使い同士が引かれ合うように、似たような屑も引かれ合うのだろうか。クラスまで一緒だなんて、偶然って怖いね。

 

 俺としては淫蕩に塗れた過去を払拭して、わざわざ中学の同級生のいない高校に受験進学したというのに、初日からケチがつくとは何とも縁起の悪いことだ。

 

 雪子から俺の中学時代の情報が漏れたら平和な高校生活がオジャンだ。だがまぁ幸いなことに、俺は彼女の本性も知っているので、意図せずお互いの弱みを握りあっている状態と言えた。

 

 俺と雪子は視線を交わす。(分かってるな?)(分かってる)と、直接の脳内会話が行われた。

 

 屑と屑は共存出来るのだ。互いに不可侵条約を結んでしまえば、各自のコミュニティでそれぞれ好きな自分を演じれば良い。見知った顔の高校デビューを出鼻から挫いてやろうとする程俺達は子供では無かった。

 

「あはは」

「うふふ」

 

 俺達は極めて近くにはいるが決して交わることのない平行線のように、このまま卒業まで絡むこと無く高校生活を送るのだろうと思っていた。

 

 が、何をトチ狂ったか、彼女は俺とよく会話をしたがった。しかも人知れず、二人っきりの時。

 

 会話内容は甘酸っぱい物では無い。それは呪詛の言葉だ。

 

「男バスの主将がよく私と夏樹に居残り練習一緒にしようよってちょっかいかけてくんだよ。自分の面を鏡で見た事ねーのか? なんで男って見え見えの下心を隠せてると思いながら近寄ってくんだろーな。こっちは真面目にバスケしてーだけなのにほんと死んで欲しいわ」

「夏樹ちゃんは可愛いからね。虫は寄ってくるだろうなぁ」

「おいカス、何で私を抜いて言った今?」

 

 まぁお互い取り繕わなくて良いというのは実に楽である。俺達の関係は、男女の友情なんて綺麗なものでは決して無いが、悪友としてはお互い上手く付き合えていると思う。

 

 あと夏樹ちゃんの個人情報とか、バスケ部はいつ休みだとか、その辺が分かるのは非常にありがたい。

 

 はい、過去回想終了。

 

 

◇◇◇

 

 

「夏樹ちゃんとはどんな経緯で仲良くなったの?」

「私がバスケ部の先輩に怒られてへこんでる時に、めっちゃ親身に慰めてくれたからな。そこからはもうマブダチよ」

「へー、体育会系って上下関係厳しそうだしねぇ」

「まぁあのときは私が悪かった。覚えて来いって言われてた作戦やらフォーメーションやら、難しくてなぁ、全然駄目で……」

「それで怒られたわけね」

「皆が練習してる中、体育館の隅でずっと勉強してろって怒鳴られてさ。我ながら自分の頭の悪さに絶望したぜ」

「それを見かねた夏樹ちゃんが助け舟を出してくれて、二人に友情が生まれたわけか、良い話」

「まぁな、あんなお人よし滅多にいねーよ」

 

 俺が文化部だからだろうか、放課後のグラウンドなんかで毎日声を出しながら全力で走っている運動部の方々は尊敬する。皆好きでやってるんだろうけど、よく出来るなぁって思うよ実際。だからか知らんが、俺は雪子や夏樹ちゃんの部活トークを聞くと、素直に応援したい気分になる。

 

 雪子は、真面目な話はこの場に相応しくないと思ったのか、会話を打ち切るとにやにやと笑いながら俺を見た。猥談する気だな。

 

「話変わるけどさ、お前もしかして姉ちゃんとヤった?」

「俺と部長はそんな爛れた関係じゃない。強いていうなら同じ志を共有している戦友だ。二人で交わした桃園の誓いは今もなお記憶に新しい」

「我ら生まれた日は違えどなんちゃらってやつ? お前らのノリほんとキショいな。いやさー姉ちゃん最近元気ないからさー、お前となんかあったのかなって」

「音楽性の違いで衝突した。詳細は省くが、俺達はもう分かり合えない。永遠なんてものは無かったんだ……」

「何でもいいから謝って仲直りしろ? うちの姉ちゃんただでさえ根暗ぼっちコミュ障なんだから、お前が折れろ」

「……ほんと言葉がド直球だね君は」

 

 確かに雪子の言う通り、あのときは熱くなってしまったが、冷静に考えたらいくら部長といえど女の子を泣かせて放置するのは男の風上にも置けない気はする。

 

 ……謝りますか。確かに言い過ぎたかも。俺も部長が嫌いになった訳じゃないし、謝罪して許してもらうか。

 

「連絡しとく。ちゃんと謝るよ」

「おう」

 

 俺の言葉に満足げに頷いた雪子は、新たなお菓子を探しに台所へと向かった。茶請けに置いておいた菓子がいくつか戸棚にあったような。

 

「あむあむ……では、ここからが本題だ」

「何すか急に」

 

 チョコパイの箱を持ってきた雪子は、包みを剥がして中身を咀嚼しつつ偉そうに言った。

 

「ディスティニーユニバーサルサンシャインランド、通称DUSLの無料チケットが4枚手に入ったので、2枚お前に進呈しよう」

「え? マジ?」

「図らずとも夏樹の想い人を奪っちまったことは常々罪悪感に押し潰されそうだったんだ。私の事は一切恨まずに、それでいてどこか辛そうな親友の姿を見るのは実に心苦しかった。嗚呼、私の可愛さは罪だ」

「続けてどーぞ」

「そんな夏樹も最近は明るさを取り戻し、新たな恋に向かって勇往邁進している。相手は屑野郎なのは頂けないが、バスケ部次期エースをアシストするのはPGの仕事だ」

「雪子さん! 俺お前の事誤解してたっ! 夏樹ちゃんは俺がきっと幸せにしてみせる!」

「よし、一枚1万円で取引してやる。破格の友達割だ」

「金とんのかよ」

「嫌ならこの話は無しだ、お前にとって夏樹とのDUSLデートは2万円以下の価値しかないってことだな」

 

 雪子は、呆れたような顔で俺を見た。DUSLには普通に行きたいし、俺は素直に払うことにした。

 

「毎度ー」

 

 でも多分俺だったら4枚チケット入手したら2回違う女の子と行くだろうなぁ。そう考えたら2枚友人に渡す雪子は俺よりマシか。

 

 その後直ぐに俺は夏樹ちゃんに電話及びデートの誘いをかけた。彼女は平静を装っていたが遠足前の小学生のようにワクワクが抑えきれない様子だったのがスマホ越しでも伝わって来たので俺も嬉しくなった。

 

 了承を貰って、少し雑談し、電話を切る。俺は雪子に親指を立てた。ナイスアシスト。

 

 デートは5日後、天気予報も晴天。問題無し。

 

「5日後か、私も達郎と行くんだよなぁ、お互い会わなけりゃいいけど」

「先に教えて欲しかったんすけど、ランド内広いし大丈夫じゃね?」

「ま、大丈夫か、見かけても無視するわ」

 

 大丈夫っしょ、大丈夫かぁ? 言われてみれば迂闊だったかも、彼女ら二人は休みの日が被るわけだから必然それぞれのパートナーとのデートの日も被る。でも今から日程調整するのはうーん……。いけっしょ!

 

 





ミスって15時に一瞬投稿しちゃった
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