チャラ男が失恋中の女の子にどしたん?話聞こうか? と優しく声をかける話   作:松風呂

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8話 俺の幼馴染があんなチャラ男と遊園地にいる訳が無い

 

 夏樹ちゃんとのデートは早くも明日に迫ったので俺は自宅にて準備をしていた。座禅、瞑想、同調開始。

 

 準備とは、服装どうしようとかランド内はどこを回ろうとか、計画という意味合いでの事では無く、精神的な部分、つまりは心構えと呼べるものだ。

 

 デートにおいて最も大事な事。それは、パートナーとどこまで進展させるのかをきちんと定めた上で臨むことである。キスまでか、それとも本番まで目指すか、目標を決めると言った方が分かりやすいかもしれない。

 

 これを最初に決めずにその場のノリで行動に移す男は悉く失敗する。臨機応変と言えば聞こえはいいが、ようは計画性も抑えも効かないだけの奴だ。

 

 言い方は悪いが、デートと言う行為自体は目的の前の通過点、漫画で言う修行パートみたいなもので、自制をしつつ仲良くなるというステップの一つ。俺にとってはそういう位置付けだ。

 

 まずは自己分析、ハッキリさせておくと現状夏樹ちゃんの心は完全に俺に向いていると言っていい。異性と二人っきりでの遊園地デートがOKってレベルは、もし俺が告白してもOKを貰える可能性は極めて高い。

 

 それは俺がそう思いたいだけでは決して無い。遊園地は、水族館や映画館に行くのとはハードルの高さが全く違うのだ。

 

 彼女に電話で誘いをかけた際、俺は直前に"友達からDUSLのチケット二枚貰ったから夏樹ちゃん一緒に行こう!"とチケット二枚の写真画像付きで送った。

 

 夏樹ちゃんにとって俺がとるに足りない男なら断れば良い。しかし彼女は俺と行くことを了承した。

 

 チケットが既にある以上、夏樹ちゃんが断ったら俺は他の女と行くことになる。彼女もそうはなってほしく無い筈だ。つまり彼女にとって俺は多少なりとも嫉妬心が生まれる程度には親しい存在になれているということだ。

 

 それらを踏まえた上で、どこまでいくか。

 

 うーん、手を繋ぐまで、といったところかな。

 

 いやいやチャラ男さんヘタレてませんかがっかりですもうファン辞めます、等とどこからか天の声が聞こえる様な気がするが、俺には為すべきことがあり、そしてこの夏休みのプランは既にもう決まっている。来たる8月10日、花火大会の日、そここそがエックスデーだ。

 

 俺がその気になれば遊園地デートで夏樹ちゃんといくとこまでいきつくことはおそらく可能である。しかしそれはしない。成功確率とか、そういう低い次元の話では無くて、そもそも俺が設定したゴールに沿わない結果に落ち着いてしまうからだ。

 

 よし、目標は決まった。グダグダ御託を並べたがあとは明日のDUSLデートを目いっぱい楽しむだけだ。

 

 おやすみなさーい。Zzz。

 

 

◇◇◇

 

 

 翌日、待ち合わせ場所の駅の改札に着いた俺は前日の決意が一瞬で吹きとびそうになった。

 

 夏樹ちゃんの私服は白のオフショルダーに膝上まで見える水色のドット柄のミニスカだった。結構肌の露出激しいし、だいぶ勇気出したんじゃなかろうかと思う。兎にも角にも可愛い。恥ずかしそうに照れているのも可愛い。抱きしめたくなるくらい可愛い。

 

「ご、ごめん夏樹ちゃん待たせちゃった? 不徳の致す限り!」

「ううん、電車もまだだし、私が早く来ちゃっただけだから、ちょ、ちょっと楽しみ過ぎて……お恥ずかしい」

 

 人が感動したり、面白いと思ったりする事の根幹には新鮮さが大きなベクトルを占めてると思うんだよね。漫画やドラマでも、今までに無いような斬新な展開とかが胸に刺さるじゃん。

 

 夏樹ちゃんは今まで俺の前では女の子であることを前面に出してくるような服装をしてこなかったこともあって(会う時ほとんど制服だし)そのギャップが俺にクリティカルヒットだ。

 

「今日は誘ってくれてありがとう。DUSLなんて、実は小さい時家族と行って以来だから凄い楽しみ」

「あ、うん。俺も久し振りで楽しみ」

「……? どしたの」 

「私服、凄い可愛い。ちょっと見惚れてた」

「はいはい、ありがとうね」

「いや、誰にでも言って無いって、本心だからね?」

「心読まないでよ……」

 

 そんなやりとりもあったがともあれ合流した俺達は電車に乗って、都道府県の境を越えていく。

 

 お互い肩を並べながら座席にて二人で座る男女。軽い会話程度ならするが、俺達はマナーを重視するのでぺっちゃくっちゃ喋ることは無い。

 

 スマホを弄る。当たり前だが、いかがわしいサイトなんて開かないしスマホゲームをやったりもしない。ワクワクが抑えきれないんですって様子を夏樹ちゃんにそれとなくアピールする為、DUSLの乗り物やキャラクターの画面を開き、彼女の視界に入る位置で操作する。

 

 勿論ランド内のおおよその情報は前日までにある程度頭に入っているので今見る必要はどこにもない。あくまでも、はー俺マジ楽しみーワクワクーって想いが少しでも彼女に伝わればそれでいい。

 

 好きな子と過ごす時間はやたら早く感じるもので、特にこれといった事件も無いまま俺達はあっという間に目的地に到着した。

 

 店員さんとの受付を済ませ、チケットを渡した後は手のひらに特殊な判子を押してもらい、パンフレットと一日フリーパス用のチケットを受け取る。これを提示すれば基本的なアトラクションは入り放題乗り放題だ。飲食は自腹だけど。

 

「うっしゃーー!!! 10年ぶりくらいのDUSLだー! どこから行く!?」

「慌てるな!! まずは耳を買ってからだ!!」

「よし来た!」

 

 夏樹ちゃんはノリノリハイテンションになった。ちなみに、俺もハイテンションになった。実は俺もDUSLにはそんな来たこと無い。俺の家はかなり裕福だけど、中学生のお小遣いで簡単に来れる様な場所じゃ無いんだここは。最後は中2くらいの頃一回来たかなぁ……。

 

 よって、ここからの俺は、もう脳内でごちゃごちゃ考えるのは無理! 楽しむぜきゃっほう! 副音声さん後は宜しく!

 

「どう? うさ耳、可愛い?」

「夏樹ちゃんはあざとい! そんな可愛いの付けたら犯罪級!」

「ふっふーん、じゃこれつけよっかなー」

 

 夏樹ちゃんはランド以外では二度と付けないであろうウサギ耳付きカチューシャをつけながら言った。ウサキーはここのマスコット的存在の兎のキャラクターであり、ここではこの耳を付ける人がそこそこいる。勿論俺もつける。帽子タイプの派手な色の奴だ。

 

「どう? いつも以上にイケ面?」

「あははっ、全然似合わない!」

「ええっ!? そりゃねーぜってばよ!」

 

 買い物屋で装備を整え、耳が四つになった俺達ははしゃぎながらいざ鎌倉! っと各種アトラクションへと歩みを進めるのだった……!

 

「取りあえずハラーポッターのエリア行くのどう!?」

「よし、行こう直ぐ行こう。なんか乗ろう! 覚えて無いけどなんか乗れた気がする!」

「やった! じゃあ早歩き! 走るのはマナー違反だしね」

「待ってろよ例のあの人、父さんと母さんの仇は俺がこの手でエクスペクツパトローナムだ!」

 

 そして俺達はそこそこの待ち時間を経て、圧倒的体感ライドに乗って魔法使いの世界へと旅立った。

 

 開始の時、作品のヒロインであるハー子ちゃんの音声が耳元でめっちゃ聞こえて凄いぞわぞわした。

 

 滅茶苦茶ハイテンションだった俺達は無茶苦茶楽しんだ。しかし。

 

「うぅ……めっちゃ酔ったわ」

「うん、目がぐるぐるする……」

「でも楽しかった……」

「うん、凄い楽しかった……」

 

「「よし! 次だっっ!!」」

 

 その後も襲い来るアトラクション達は俺達から語彙力を奪っていく。ブーたんのハニーハンツ、スパイーマンのアドベンチャー、ガジェッタのゴーコースター、etc……。

 

「はぁはぁ……、叫び過ぎたわ……」

「休憩しよっか」

「えっ!? ちょ、駄目、そんなの!」

「いや、あの……お昼だしね? ご飯を食べましょう」

「……あ、うん。そうよね。ん、んんっ、じゃあレストラン行きましょっか」

 

 遊園地デートの何がハードル高いかって、マジで一日中二人っきりだし、並ぶ時間も結構あるから会話が弾まない相手だと結構キツいのが原因なのだけど、現時点で俺達のデートは大成功していると言えた。

 

 夏樹ちゃんと俺は、知り合った期間の短さを考えると非常に良好な仲を築けているが、まともに友人となってからまだ一カ月未満なこともあってお互いの事をあまり知らないのだ。よって話す会話ネタは山のようにある。部活の事、友人のこと、好きな物や嫌いな物、趣味や特技……って、なんか履歴書に書く様な事ばっか列挙しちゃったけど、ともかくおしゃべりには困らないので、待ち時間も苦じゃないのである。

 

「思ったより値段高くないのね。味も普通に美味しいし」

 

 夏樹ちゃんはステーキのご飯大盛りを食べながらそう言った。ナイフの扱いには品の良さが見えた。

 

「確かに、これがチュロス3本分っていうのは安く感じる。ってかチュロスが高いのかな」

「でも後で買うでしょ?」

「そりゃ買うともさ。味別五種類全部買うとも」

「お金大丈夫? チケット代出して貰ってるし、飲食代くらいは私が出していい?」

「俺が夏樹ちゃんに奢りたいから駄目」

 

 堂々巡りになりそうなのでこの会話については直ぐに打ち切った。バイトもしてない夏樹ちゃんはお金に対する価値観が俺より高い。一般高校生にとっては千円奢られるだけで罪悪感が出るのも分からなくはない、けど俺は好きで金出してるからマジで気にせんでええで。

 

「「御馳走様でした」」

 

 食事も終わり、俺達は再び動き出す。アトラクションはまだまだあるのだ。

 

「お化け屋敷だって、あんた怖いの大丈夫?」

「あんま得意じゃないなぁ、映画もホラー物は避けるタイプ」

「だらしないわね。私入ったことないから行くわよっ!」

「ああ、小っちゃい時は入れないもんねお化け屋敷って」

 

 夏樹ちゃんが最後に来たの5歳くらいの時って言ってたから初めてなのか、DUSLのホラー系アトラクション普通に怖いから結構苦手なんだけど、しゃーない。男として情けないところだけは見せないようにしなくては……。

 

 そんな風に人知れず俺が覚悟を決めていたのだが。

 

「ぎゃぁぁー!! 今出たぁーー、もうやだぁ帰る帰るぅ……!」

「あ、あの夏樹ちゃん? 落ち着いて」

「もうやぁ……! 怖いぃ……無理ぃ……、出よう?」

 

 歩いて進む迷路タイプのお化け屋敷だったこともあって、個人的には暗いだけで怖さはそこまででも無かったのだが。夏樹ちゃんは口だけの女だった模様で、俺の腕に縋りつきながら本気で泣き叫んでいた。あ、なんかゾクゾクする。

 

「そこ行こう? 出よう? 早く出よう?」

 

 夏樹ちゃんがそう言って指差す先は非常出口だった。勿論俺はそんな甘えは許さない。

 

「ほら、夏樹ちゃん行こう、後ろの人達来ちゃうから立ち止まっちゃ駄目だよ」

「無理、怖い、本当に無理ごめん許して……」

 

 そう言って、夏樹ちゃんは膝を抱えて座りこんでしまった。ここまで来ると暗所恐怖症とかそういうレベルでマズいような気がしてきた。非常出口を使う案も一瞬チラつくが、でも入り始めの頃は強気な発言をぽんぽん飛ばしてたし、うーんと悩んだ末、俺は取りあえず彼女を抱き抱えた。予期せぬ抱っこ。

 

「夏樹ちゃん、俺にしがみついて目瞑ってて良いよ。出口まで行くから」

「わ、分かった。ごめん、本当ごめんっ」

 

 幼児退行気味な彼女を抱えながら俺はすたすたとうす暗い道を歩いていく。俺達ははたから見ると倫理的によろしく無い駅弁スタイルでゴールを目指した。

 

 驚かしギミックの音や叫び声が鳴る度に、俺に両手両足で全力でしがみつく夏樹ちゃんの身体がビクッと跳ねる。彼女の女性らしい起伏のある身体は俺の理性をごりごりと削っていく。出口ー! 出口はまだかー!

 

「あ、明かりだ! 夏樹ちゃん、終わった終わった」

「はぁはぁ……ほんと? ほんとに終わった?」

 

 息も絶え絶えの夏樹ちゃん。彼女が目を開けるとそこにはカメラを持った係員の方が。

 

「お疲れ様ですー、カップルさん、写真行きますよーはーい!」

 

 パシャリと撮られる。後で800円出して買おう。多分泣き顔の彼女とやれやれ顔のスカし男が写ってると思う。

 

 

 お化け屋敷を出た俺達はベンチで休憩していた。夏樹ちゃんは両手で自らの顔を覆い、羞恥心と戦っていた。

 

「えーと、夏樹ちゃん元気出して? あー、チュロス買ってきます」

「ごめんなさい私は口だけの女でした……ぅぅ」

 

 一応夏野夏樹というと、学年では姉御肌の頼られガールとして呼び声高いのに、俺もう3回も弱々しく泣いてるとこ見てるんだけど、凄くない?

 

 俺は近くの屋台にチュロスを買いに行った。やっぱランドに来たらこれよね。夏樹ちゃんから離れたのはほんの2、3分程度だったのだが、ベンチの所に戻ると彼女は男の子3人組に言い寄られていた。

 

 お姉さん今暇~良かったら遊ばな~い? みたいなテンプレのようなナンパ文句を言われている。先ほどのショックが残っている夏樹ちゃんは拒否の言葉が弱々しく覇気がなかった。

 

 や、や……やめろよっ、その子嫌がってるじゃないかよぉ!(電車男)

 

「すいませーん、俺の連れなんで、いいですか?」

 

 待たせて悪かったな夏樹ちゃん、ヒーローの登場だ。(イキり)

 

 男達は「あ、失礼しましたー」と謝りながら去って行った。漫画のように何だテメー? みたいな展開は現実にはまず無い。実際パートナーが来たらアッサリ引くもんである。

 

 彼らはランドに男だけで遊びに来て、ナンパしよーぜ! みたいなノリになっただけの人達だろう。学生にありがち、後で思い出の一つとして笑い話にしてくれ。

 

 けっ、ナンパレベル1の雑魚共め。俺の女に手を出しやがってよぉ、弱ってる子に声かけてナンパするなんて最低だぞ。

 

「遅い。ナンパされた。許さない」

「夏樹ちゃんあーんして」

「あー……あむ」

 

 彼女の開いた口にチュロスを差しこむ。わっはっは、俺の棒を咥えなぁ、美味いかぁ?

 

「許してくれる?」

「あむあむ……許してあげる。甘くて美味しい」

「それは良かったよ」

「先ほどは、情けないところをお見せしまして、大変失礼を致しました……」

「可愛かったからいいよ」

 

 人の波を見ながら暫くベンチでゆっくりと咀嚼する。甘ーい。

 

 大人も子供もカップルも学生も老人も様々な人が皆笑顔で歩みを進めている。あ、ウサキーがいる。

 

「そろそろ行こうか」

 

 チュロスを食べ終わった頃、俺はそう言って夏樹ちゃんの手をとる。恋人繋ぎはまだいいかな。

 

「う、うん」

 

 拒否するでもなく、照れながらも受け入れてくれた彼女の手を引いて俺達は次のアトラクションへと進んでいく。次はターミネーチャンのとこ行くか。

 

 

◇◇◇

 

 

 空も暗くなった頃、俺達はランドの出口へと向かっていた。今日は楽しかった。今更ながら俺夏樹ちゃん好きだわ。堕とそうとしてるのに堕とされてる気がする。完全にミイラ取りがミイラになってるわ。

 

 売店でお土産やお揃いのストラップを買った後は、完全に帰路だ。俺達は少し混雑している電車に乗りながら目が合うたびに笑い合う。

 

 乗客は少しずつ減っていき、やがて俺の最寄り駅に到着する。

 

「あれ? 降りないの?」

「夏樹ちゃんを家まで送りたくてね。もう夜だし」

「そっ、そんなの悪いわよ。大丈夫だって、明るいとこ歩くから」

「正直言うと、少しでも長く一緒にいたいから……駄目?」

「はわっ!? 全然、駄目じゃ……ないです」

「良かった」

 

 くさい台詞吐こうともね。拙僧は顔が良いのできちんと絵になるんですよ。

 

 

 彼女の最寄り駅に着いた後も、他愛も無い雑談をしながら二人で手を繋ぎながら歩く。時刻は夜の8時半、そこそこ遅い時間である。

 

「あ、そこの家うちなの」

「へー良い家住んでるね。じゃあ俺はこの辺で失礼しましょうかね」

「……あっ」

 

 俺から手を離すと、夏樹ちゃんは名残惜しそうな声を漏らした。

 

「じゃ夏樹ちゃんおやすみー」

「あのっ、今日は本当楽しかった。だから、また今度二人で遊びたい!」

「もちろん。また誘うね。ほな、部活頑張って!」

「うん! じゃ、ありがとうおやすみ!」

 

 彼女は花が咲くような満面の笑みで俺に手を振っていた。

 

 やたらとドラマとか少女漫画みたいな状況に陥りがちな星の元に生まれてきた感が強い夏樹ちゃんとのデートだったので、まーたありがちなすれ違いとか勘違いっぽい事件が起きるのかと恐怖半分期待半分だったのだが、結果的には平和的かつ滅茶苦茶楽しかった大成功デートであった。完。

 

 

 帰りの電車内も、俺はさっき別れた夏樹ちゃんとのLINEのやりとりを笑顔で行っていた。今日二人で撮った写真とか、感想とか、ま、色々。

 

 そんな中、誰からかメッセージ、相手を見ると雪子。

 

 "急に悪い、このあと、泊まりに行っても良いか?"

 

 あれ? なんかつい最近似たようなことがあったような気がするぞ。

 

 

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