チャラ男が失恋中の女の子にどしたん?話聞こうか? と優しく声をかける話   作:松風呂

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今回長め


9話 達郎の高校生活と神ゲー

「達郎早く起きなさい! 入学式から遅刻するつもり?」

「あー、夏樹おはよう……」

 

 俺の名前は黒野達郎、どこにでもいる普通の少年だ。今日は長谷田高校の入学式の日、幼馴染の夏樹が起こしにきてくれたらしい。

 

「お兄ちゃん遅いよ! 夏樹お姉ちゃん待っててくれてるんだから早く!」

「わーってるよ!」

 

 妹の凛に急かされ、すぐに支度をして、呆れ顔の夏樹と学校へ向かう。電車とか歩きとか全部含めて30分くらいで着くことができた。流石に初日から遅刻は恥ずかしい。

 

 正門から入って直ぐに人だかりがあった。どうやらクラス分けが貼ってあるみたいだ。

 

「あ、私と達郎のクラス違うみたいね……」

「8クラスもあるからしょうがないだろ。ま、お互い頑張ってこーな」

「う、うん……」

 

 その日から。俺の高校生活はスタートした。何日か経って順調に友達も作れて、部活は野球部に入部した。

 

 高校生活も早一カ月、俺は平和な毎日を過ごしていた。

 

「よう達郎っ、委員会は何入るか決めたか?」

 

 彼の名は花村友新(ゆうしん)。高校からの友達で、明るくて良い奴だ。

 

「生徒会に入ろうと思うんだ」

「あ、お前さては生徒会長とお近づきになりたいんだろ~? 全く、夏樹ちゃんという美少女に彼女みたいに甲斐甲斐しく世話されてるのに! 羨ましいんだよこのこのっ!」

「ばっか、そんなんじゃねーよ。そりゃ紅葉院先輩は綺麗だけど、単純に内申点上げて好きな学部に行きたいんだよ! あと夏樹とは只の腐れ縁!」

 

 友新は少し頭がお花畑で女好きだから、すぐに恋愛だなんだって方向に会話を持って行きたがる。やれやれ悪い奴じゃないんだけどなぁ……、それに、確かに夏樹は見た目だけなら可愛いけど、中身は乱暴者のお節介焼きで結構めんどくさい奴だぞ。

 

「達郎君、委員会はもう決めた?」

「あ、涼ヶ丘さん。まぁ……、一応」

 

 俺に話しかけてくれたのは涼ヶ丘雪子さん。大人しくて可憐で優しいクラスメイトの女の子だ。夏樹と同じバスケ部に所属していて、性格は真逆だけど二人は仲良しだ。女の子は不思議である。

 

「おう雪子ちゃん、こいつ生徒会に入るんだってよ」

「そっか……残念、達郎君と一緒に図書委員したかったな……」

「え? 涼ヶ丘さん……、それって……」

「はゎっ……? あれ、私何言ってんだろ、わ、忘れて~~っ」

 

 そう言って、涼ヶ丘さんは顔を赤くしながら席に戻って行った。すっごく可愛い……。

 

「なっ! なんだよ雪子ちゃんの今の感じ!? 達郎お前いつの間に雪子ちゃんも惚れさせてたのか!?」

「え? いや、そりゃ結構会話はするけど、え……今のって、そうなのかな……」

「うおぉ~~! 結局男は顔か~~!? 顔なのか~~!!」

 

 その日がきっかけだったのかもしれない。俺は気がつけばいつも、涼ヶ丘さんを目で追ってしまうようになった。

 

 その後、めでたく俺は書記として生徒会に入ることが出来た。学校行事以外の雑務も結構生徒会に回されて、思っていたより俺の仕事は多かった。ただ、俺はまだマシだと思う。紅葉院生徒会長は凄く忙しそうだった。

 

「ありがとうございます黒野君。重くないですか?」

「全然平気です。こういう仕事は俺に任せて下さい、いつでも力になりますよ」

「本当に助かります……」

 

 生徒会は俺と紅葉院先輩以外はまともに仕事をしない人達だったということもあり、真面目に雑用ばっかしてたら先輩とは少し仲良くなった。というか、女の子にこんな重い機材運ばせるなんて、酷い教師達だよ。

 

「先輩は、こんな風に学校の面倒事ばっか押し付けられて、腹が立ったりはしないんですか?」

「そうですね。正直、たまに逃げたいと思うことはありますけど、こういったことは誰かがやらなくてはいけないことですし、あまり考えないようにしています」

「良い人過ぎますよ先輩は」

「どうですかね……、実際は悪い人かもしれませんよ?」

「あはは……」

 

 紅葉院先輩が悪い人だったら、多分この学校の他の人は極悪人だと思いますよ……。

 

 

 やがて季節は変わり、夏になった。入学から二カ月が過ぎるとクラスでは囲いがあるみたいにそれぞれ仲良しグループがいくつか形成されていた。

 

 俺はあれから親しくなって名前呼びになった雪ちゃんや友新と一緒によく3人で昼食を食べる。たまに夏樹も混じったりするが、彼女は友達も多いので、たまにだ。

 

「達郎、今度から俺一緒に飯食わない方がいいか?」

「え? なんで?」

 

 ある日、友新からそんなことを言われる。

 

「だって、お前、雪子ちゃんのことが好きだろ? 相思相愛っぽいし、俺って邪魔者じゃん」

「う、いつから気付いてたんだよ……」

 

 そう、実は俺は雪ちゃんに想いを寄せていた。雪ちゃんはクラスでも一番可愛いし、一番良い子で、しかも分かりやすいくらい俺にアプローチしてくれていた。そんなの健全な男子高校生なら惚れてしまうのも当然だ。

 

「お前ら分かりやすいからな、ちょっと前には気付いたよ。ま、早く告白でもなんでもしろよな。あと夏樹ちゃんにはちゃんと筋を通せよ」

「は? 何でそこで夏樹が出てくるんだよ」

「……駄目だこりゃ。俺にはお手上げ」

 

 その日から、俺は雪ちゃんと二人だけで昼食をとる機会が増えた。夏樹と違って彼女は口うるさくも無いし、俺の事を弟扱いしないで一人の男として見てくれる。欠点らしい欠点は勉強が出来ないことぐらいだけどそこも可愛い。雪ちゃん繋がりで知り合った彼女のお姉さんとは廊下で会ったら少し会話する程度だが仲良くなれた。雪ちゃんと違って成績はトップクラスらしく、見た目も理知的でいかにも頭が良さそうだ。

 

「達郎君、今度の土曜日映画一緒に観に行かない? 嫌だったらいいんだけど……」

 

 ある日雪ちゃんからそんな誘いを受ける。これは俗に言うデートってやつなのでは? 

 

「いっ、嫌なわけ無いよ!」

「良かった……、男の子を遊びに誘うの初めてだから、ふー……緊張したぁ……」

「雪ちゃん……」

 

 きっと凄い勇気出して誘ってくれたんだろうな……、彼女との初デートは絶対に成功させようと心に誓い、やがてすぐにその日は来た。

 

 映画を観て、ショッピングを楽しんで、街を回ったあとは俺達は公園でクレープを食べていた。

 

「達郎君……」

「雪ちゃん……」

 

 公園のベンチで雑談していた俺達は良い雰囲気になった。雪ちゃんが目を閉じる。とても綺麗だ。俺は彼女の唇に吸い寄せられるようにそれを重ねた。ファーストキスは甘いクリームの味がした。こうして俺には初めての彼女が出来た。

 

 その後天気が悪くなり、俺達は大慌てで駅へと向かい、恥ずかしそうに笑う彼女を見送って俺は家に帰った。

 

 休み明けの朝、夏樹が起こしに来てくれなかったせいで危なく部活を遅刻しそうになった。恨む気持ちもあるが、そもそも俺が朝弱いのが悪いから文句も言い辛い。もやもやしていると、友新から話しかけられる。

 

「達郎、夏樹ちゃんに何か変わったこととかないか?」

「朝俺を起こしに来てくれなかった」

 

 半分冗談のようなものだったのだが、それを聞いた友新は真面目そうな、深刻そうな顔をした。

 

「実は、土曜日に宮本と二人でいるとこ誰かが目撃したって噂を聞いてな、彼女とは一緒に昼飯食っただけの仲だけど、不幸になったら寝覚めが悪い」

「宮本と夏樹が? なんかの間違いだろ」

「……それならいいけどな」

 

 俺のクラスには宮本武蔵と呼ばれているモデル顔負けのイケ面男子が居る。チャラチャラと軽薄そうな奴で周りに居るのも似たような奴ばっかり。俺とは住む世界が違う人種だからあまり関わったことは無い。

 

 あいつは普段から悪い噂の絶えない奴だ。中学の時女子を売春させてたとか、セフレが日別で30人いるとか、女絡みの黒い噂が多い。勿論俺とて全部の噂を信じている訳では無い、紅葉院先輩と男女の仲とか、文芸部で真面目に小説執筆してるとか、中にはありえないような噂も混じっているからだ。

 

 いくらなんでもそんな男とあの夏樹が休みの日に遊びに行くなんてありえない、そもそも接点が何もない。

 

 俺はそう思ったが、どうしてか不安な気持ちになった。そして昼休み、夏樹は俺では無く、宮本に会いにクラスにやって来て、二人で何処かへと行ってしまった。

 

「達郎君……、どうしたの? 何か怖い顔してる……」

「雪ちゃん、ちょっとごめん。行ってくる!」

「あ、うん……」

 

 あの馬鹿! 俺に心配かけさせやがって! 

 

 俺はクラスを飛び出して、二人を探した。中庭や屋上や食堂なら人が大勢いるから良い、探すなら人気のないところだ。杞憂ならそれでいい。それが一番いい! 

 

 嫌な予感というのは当たるものなのか、校舎裏に二人はいた。

 

「夏樹! ここに居たのか!」

 

 つい声を荒げてしまう。俺は夏樹を懸命に諭した。しかし、彼女は俺の言うことは信じず、宮本を庇った。宮本は我関せずとばかりに傍観している。訳の分からぬ状況だった。何で、ずっと一緒に居た俺では無く、今も知らんぷりしている最低男を庇うのか。

 

 その日から、俺と夏樹に生まれた溝は決定的になった。

 

 だけど、今までも喧嘩したことはいっぱいある。そのうち時間が経てばお互い頭も冷えて、すぐに前の様な関係に戻れると俺は信じていた。

 

 そんな俺の想いとは裏腹に、夏樹と俺は何日経っても疎遠状態だった。俺は、彼女の親友である雪ちゃんに夏樹の事を聞いた。

 

「雪ちゃんあのさ……夏樹、最近どうしてる?」

「夏樹ちゃん? 普通に元気だし、昨日も一緒に勉強したよ? 私頭悪いから……、てへへ……」

 

 普通に元気、その言葉にショックを受ける。あいつにとって、俺なんてどうでもいいってことが分かったからだ。

 

「そっか、それなら良かった。スタバかどっか?」

「ううん、宮本君の家で三人で勉強したの、…………ぁャベ」

「み、宮本の家で!? な、何で雪ちゃんがそんなとこに!?」

「えっとね……、わ、私も宮本君は怖くて嫌だったけど、夏樹ちゃんがどうしてもって言うし、断り切れなかったの。ごめんね? でも勉強しただけだよ?」

 

 夏樹自身が宮本と関わるのは良い。理解は出来ないけど、それは自己責任だと俺は納得は出来た。でも雪ちゃんを危険な目に合わせるなら、俺はそれを許容できない。だから今日、あいつの家に行こうと思った。俺は逃げないで夏樹ともう一度ちゃんと話すべきだ。もし宮本に何か弱みでも握られているのなら、俺が何としても助ける。あいつの幼馴染として。

 

 図書室で勉強して夕方、俺が帰ると家の前に夏樹のお父さんである圭吾さんがいた。

 

「こんにちは、夏樹帰ってますか?」

「ああこんにちは達郎君、夏樹はまだ帰ってないよ」

「そうですか」

 

 逆にちょうどいいかもしれない。俺は圭吾さんに、最近の夏樹について話した。俺からじゃなくて、圭吾さんの方から言って貰った方が、彼女も聞くと思ったからだ。

 

 圭吾さんは、真面目な夏樹が変な男に騙されているかもしれないことに半信半疑だったが、最終的には夏樹と話してみると言っていて、俺は少し安心した。

 

 

 試験期間に入っても、俺と夏樹の仲は戻らないままで、おまけに最近は校内でも宮本と仲良くしている姿が目撃されているらしい。

 

 俺は宮本を屋上へ呼び出した。相変わらず軽薄そうな笑みを浮かべ、どこか余裕を持って接してくる。

 

「夏樹のことだ。単刀直入に言うけど、あいつを弄ぶつもりなら今すぐ手を引け」

 

 返答によっては殴り合いも覚悟していた。だが、宮本は真剣な眼差しで俺に心情を吐露してくれた。全てを信じることは出来ないが、夏樹に相応しい男かどうか俺にはこいつを見定める義務があると思った。

 

 頭を下げて懇願する。夏樹が傷つきさえしなければそれで良い。彼女が幸せなら誰と仲良くなっても良い。筈なのだが、何故かこの時の俺は、胸がチクチクと痛んだ。

 

 

 夏休みが始まる。俺はまだ夏樹に会えないでいた。彼女の事を考える時間は次第に多くなり、幾度となくスマホを手にとって、結局連絡する勇気が出ずに放り投げる。

 

 ……夏樹に会いたい。

 

 彼女との思い出がいくつも頭をよぎる。勉強も運動も出来た夏樹は皆のヒーローで、小さい頃の俺は彼女の幼馴染として恥ずかしくないように努力しようとした。弟扱いじゃなく、いつか夏樹に認められたくて、そう思っていたはずなのに。

 

 いつの間にか、近すぎる彼女が煩わしくなって、幼馴染というぬるま湯の関係が心地よくて、自分の本当の気持ちを見て見ぬふりしていたんだ。

 

「夏樹っ夏樹っ……うっ」

 

 本当の俺は、夏樹を幼馴染とも、姉として見てたわけじゃなくて、一人の女の子として見ていて、そう想うこと自体が醜いものだと思っていたんだ。

 

 最低だ。そんなことに失ってから気付くなんて。いや、まだ本当に失ったわけじゃない。まだ、間に会う。自分の本当の気持ちに気付けた今ならっ……! 

 

 そんな中、雪ちゃんから遊園地デートの誘いが来た。俺は了承し、その時に彼女に本当の俺の気持ちを伝えようと思った。今まで中途半端な想いで雪ちゃんと付き合っていて本当に申し訳ないと思う。俺は最低の屑野郎だ。

 

 

 デートの日、雪ちゃんは暗い表情になっている俺を元気づけようとしながら、笑顔で接してくれていた。

 

 ここに来て、俺は未だに迷っていた。こんな可愛い彼女を捨てるのか? こんな良い子を泣かせるのか? 自分の中に居る弱く醜い俺が、妥協という選択肢を示してくる。俺が雪ちゃんに惹かれたのは事実、ならもういいのではないか。夏樹の事は忘れて、彼女に俺の人生の全てを注いでも良いのではないか? 

 

 俺が弱い自分に流されそうな時だった。俺は偶然にも、夏樹と宮本が笑顔で手を取り合ってデートしているのを見てしまった。

 

 その時、俺の中にどろどろとした黒い感情が生まれた。嫉妬心だ。何であいつなんだ。10年以上一緒に居た俺では無く、あんな会って半年も経って無い様なチャラついた男にっ……、夏樹! 

 

「達郎君……遊園地嫌いだった? ごめんね……私」

「違うんだ、雪ちゃんは悪くない、悪いのは俺なんだ。全部俺が最低だから……」

 

 雪ちゃんは心配そうに俺を見てくれている。本当に良い子だ。中途半端な気持ちで彼女を受けいれてこれ以上不幸せにするわけにはいかないと、俺は覚悟を決めた。

 

「雪ちゃん……ごめん、俺達別れよう……」

「ぴょっ……!? そ、そんな……どうして? 達郎君……」

「俺は、夏樹が好きなんだ。今更何言ってんだって思うかもしれないけど、さっき宮本と二人でいる夏樹を見てそう確信できた」

「そ、そんな……、酷いよ……、私、今日のデート楽しみにしてきたんだよ? いっぱいおめかしして、そ……それにキスだって初めてだったのに……、も、もしあれだったら、私の家今日誰もいないから……来ても良いよ?」

「ごめん」

「いやあの、ごめんっていうか……」

「今の俺は、夏樹の事しか考えられない、あのチャラついた男と今何しているのかとか、何で遊園地にいるのかとか、そんな事ばかりが頭をよぎるんだ」

 

 いっそ叩いてくれれば良かった。少しでも彼女の怒りが薄くなるならそれで良かった。なのに雪ちゃんは微笑んでいた。

 

「……達郎君、夏樹ちゃんとのこと、応援するね?」

「雪ちゃん……ありがとう。本当にごめんなさいっ」

「いいの、達郎君は、いっぱい、私に思い出をくれたから……」

 

 俺は泣いた。遊園地の中、多くの人が歩く往来で、声を出して泣いた。彼女の優しさが胸に染み渡る。

 

 俺が泣きやんだ頃には、彼女はもういなかった。先に帰るねと言い残し、立ち去って行った。

 

 一つの物語が終わりを告げた。だけど、俺は後悔はしていない、本当の自分の気持ちに向き合えて、ゴールが見えた気がしたからだ。

 

 家に帰ったら、今度こそ夏樹に連絡をしよう。もう俺は迷わない。大事な物を見失わない──! 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 こんばんわん。長谷田高校一のチャラ男と名高い軽薄男です。私は今、自宅近くにある学生御用達スターバックスへと足を運んでおります。目の前には暗い顔の雪子が座っております。時刻は夜の9時、ちなみに営業時間は11時までです。

 

 俺は彼女の前にタンブラーを置く。

 

「……何だよこれ?」

「カフェラテ、俺の奢りだからありがたく飲みな」

「ショートかよ、ケチくさ……、礼は言わないからな」

「YEAR」

 

 いつもの傍若無人さは鳴りを潜め……てはいないけど、声に元気が無いし本気でへこんでそうな雪子さん。急に泊めてくれとかメッセージが来た時は少し驚いたが、恐らく達郎君と喧嘩でもしたのだろうと俺は結論付け、取りあえず話を聞こうとここで待ち合わせたのである。

 

「で、何があったの?」

「ガラスの心に傷が入りすぎて言いたくない、お前に出来ることは私を誉めたたえつつ優しく慰めることだけだ」

「いいでしょう。得意分野です」

 

 俺はチーズケーキにフォークを差しながらそう言った。正直DUSL帰りで疲れて眠いけど、夏樹ちゃんとの楽しい遊園地デートも元を辿れば雪子のおかげなので、感謝の気持ちを込めてあと2時間くらいは優しく接することにした。

 

「雪子は魅力的な女の子だよ。嘘つきだけど誰かを傷つけてる訳でもないし、演技派だけど自分を可愛く見せようと努力しているし、勉強が苦手でも投げだしてる訳でもないし、自分の好きな事には一生懸命で、本気でバスケに打ち込んでるし」

「……うっ」

「お前は自分の素を見せたら周りに嫌われると思ってるようだけど、多分そんなこと無いと思うぞ。夏樹ちゃんも達郎君も、雪子を好きになったのはそういうとこじゃ無いと思いますし」

「……二人の名前だすの禁止だ馬鹿ぁ」

 

 地雷を踏んだ模様。やっぱ原因は達郎君か、あれ? 夏樹ちゃんも? よく分からんぞ。

 

「雑談だけど、野球部の星野っているじゃん。あいつ将来の夢はAV男優だって吹聴してるし、学校にエロ本持ち込んだりしてるから女子からも男子からも距離を置かれてるけど、俺は結構好感持ってるんだよね」

「それはお前もスケベ野郎だからだろ」

「いや、自分に嘘つかない生き方ってカッコいいと思うんだ。あいつの周りにいる男子は似たような変態ばっかだからこそお互い通じ合ってるように思う。むしろ女子の目を気にして表だっては星野を批判してる癖に裏でこっそりAV借りてる奴等の方がダサいと思う」

「はは、それは確かにダサい」

「まぁさ、雪子も自分を抑えて生きてるんだから、それで親しい人と歯車が噛みあわなくなるのもしょうがないだろ。本音をぶつけてみろなんて熱血教師みたいな事言わないけどさ、そもそもお前が思ってるより素のお前も十分可愛いぞ」

「……適当な事言いやがって、お前だって私の本性見て距離置いた癖に」

「あれはお前が俺の愛刀無名兼重を噛んだからやろがいっ!」

 

 未だにトラウマになってんだよ。おかげで最中にふと思い出して縮む時あるんだからな。

 

 しんみりムードの場に少し明るさが出た気がする。暗い顔で俯いてた雪子も空元気だろうが多少は精神的に回復したようだ。結局ね下ネタなんすよ会話は! 

 

「実は達郎に振られた……」

「えぇっ……? もしかしてまた……」

「そこまでいってねーよ、キスまでだけど、はぁ~~……」

 

 長い溜息を吐く雪子、喧嘩かと思いきや破局していた。けど、案外一時的なものだったりするんじゃない? 1日だけ喧嘩別れして次の日何事も無かったかのように付き合いだすカップルを俺は数多く見てきたのだ。

 

 その後、30分程度雪子の愚痴は続く、何がいけなかったのだろうとか自問自答している中優しく慰める。話を纏めると、どうやら達郎君は夏樹ちゃんが好きだと気付き雪子を振った模様。贅沢だなぁ……。

 

「このままだと夏樹とられるかもな。どうすんだ?」

「別に何も、決めるのは夏樹ちゃんだし、俺は常に全力を尽くすだけだ」

「お前、女絡みだと潔いというかなんというか変な奴だよなほんと」

 

 そう言って雪子は呆れたように笑った。取りあえず泣きそうだった顔は笑顔に出来たので、俺のミッションもコンプリートしたということでいいかな。

 

「じゃ、そろそろ帰るか、バイクで家まで送ってやるよ」

「何言ってんだ、今日泊まるって言っただろ?」

「え?」

「いや、え? じゃなくて、いいだろ別に失恋で傷心中なんだから慰めろ」

「身体で?」

「……いや、それは流石に夏樹に悪いし……、え? 冗談だよな?」

「冗談だよ」

「……くそ馬鹿」

 

 しかし雪子は俺の家に泊まりに来るという方針は変えない模様、別にいいっちゃ良いんだけどさ、マジで夏樹ちゃんには言うなよ? デート後に彼女の親友を家に泊めたなんて事がバレたら大ごとだぞ? まぁ万が一バレたら雪子がフラれて傷心中だったって最低限の言いわけはするけどさ。

 

 実際一人暮らししてると、誰であっても家に来るのは嬉しいもんだ。なまじうちの家は広いから余計ね。

 

 そんなわけで自室に失恋中の同級生の美少女を連れ込んだ俺であった。エロい事はしません。

 

「失恋した後はこれに限る」

 

 そう言って俺はゲーム機の電源をつける。

 

「何すんの?」

「マリオカート、辛い時はバイクに乗るのが一番だけど、雪子免許持ってないだろ? これで疑似体験しろ」

「お前、やっぱ馬鹿だろ」

 

 俺は小さい時に田舎の従兄の家ではしゃぎながらゲームした時のように童心に帰りながら、その晩は雪子とゲームをして遊んだ。

 

 お菓子を食べながら、炭酸飲料を飲みながら、画面を注視して、眠い目を擦りながら俺達は騒いだ。

 

 ふと横を見ると、雪子は泣いていた。俺は見ないふりをしつつ、彼女のキャラが運転するバイクに赤甲羅を当てるのは勘弁してやった。

 

 その後格闘ゲームなんかもやりつつ深夜になって宴もたけなわとなったので、ベッドを彼女にとられた俺はキャンプ用の寝袋を敷いてカーペットの上で寝た。

 

 

 

 はー……良かった、実は俺の中の悪魔が暴走しそうで危なかったけどきちんと理性が働いてくれた。そして遊園地デートのおかげで身体に疲れが溜まっていたことも幸いして、俺はなんとか雪子に手を出さずに就寝することが出来たのだった。

 

 とっても密度の濃い1日でしたけど、楽しかったです。まる。

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