グラスワンダー、差して逃げる   作:こーたろ

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祝!セイウンスカイ実装!やったね!




セイウンスカイ、これはもう一人旅 

 

 わたしのトレーナーは頭が固い。

 

 

 『スカイ!どこ行ってたんだ!探したぞ!完璧なトレーニングプランを考えてきたからな。これを行えば君の勝利は固い!』

 

 

 

 本当に頭が良くって、最初はちょっと苦手かもな~って思ってたんだよね~。ほら、セイちゃん難しいこと考えるのあんまり好きじゃないし。

 

 

 『スカイ!見てくれよ!俺の研究の賜物だ!これを飲めば疲労回復力が格段に上がる!……何い?!美味しくなさそう……だと!バカを言うな!これは僕の最高傑作なんだぞ!』

 

 

 トレーナーはよくわたしに得体のしれない飲み物を作ってくる。ドーピングじゃないの?って聞いたけどレース前に飲むヤツじゃなくて普段の疲労回復に過ぎないから大丈夫なんだって。……あんまり美味しくないんだけどね~。

 

 

 『ううむ……スカイはあの連中に勝る才能がある……それがわかっているのに、何故勝てない……?まだ、まだなにかやれることがあるはずだ……!』

 

 

 毎晩毎晩、トレーナー室でうんうん唸ってるわたしのトレーナー。

 

 本当に頭でっかちで、周りが見えてないんじゃないかって思うけど。

 

 わたしはそんなトレーナーのこと、実は結構好きだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナーは基本立ち入りを許されていない、トレセン学園内の研究室。

 理事長に頼み込んで僕だけが私的に利用することを許されたこの場所が、僕の根城だ。

 トレーナーなんていう職業についてしまった以上、本来ならば外に出て様々な指導を施さなければならないのだが……僕は基本外が嫌いだ。

 室内で快適な気温を保つことができるのに、何故人は外に出たがる?理解ができん。

 

 それに僕には外で熱血指導を行うよりも、こうして室内でウマ娘の成長に最適なスポーツ飲料を研究したり、最適なトレーニングメニューを考える方が性に合っている。

 

 今日は普段から担当ウマ娘に与えているスポーツ飲料の改善を試みた。

 既にかなりのレベルに仕上がっている自負はあるが、まだ改良の余地があるかもしれない。科学の可能性は無限大。僕はそう信じているからこそ、こうして日々素晴らしい研究を続けられる!

 

 よし、あとはこれをこのバランスで抽出して……よし!

 

 

 「できた!!!できたぞ!!!」

 

 

 完成だ!僕の考えた最強のアミノドリンク(ウマ娘用)Ver6!

 これなら彼女のトレーニングの支えになること間違いなし!……ふふふ。自分の才能が怖い……。自分の担当ウマ娘を須らく最強にしてしまうかもしれない自分の手腕が怖い!

 

 「はっはっはっは!!!スカイ最強計画!完成の日は近い!!」

 

 「やっほ~……って昼間っからセイちゃんの名前大声で叫ばないでよ……」

 

 「おおスカイ!もう授業が終わるような時間か!」

 

 つけていたお気に入りの腕時計で時間を確認する。

 

 研究をしていると、つい時間を忘れてしまうのは良くないな。

 僕の研究室に姿を現すウマ娘は何人かいるが……その中でもこのウマ娘は特別。なにせこの僕の担当ウマ娘なのだからな。

 

 「今日のトレーニングメニューもらいに来たんだけど~」

 

 「おお!まだ渡していなかったか……これはすまない。今印刷するから少し待ってくれるか」

 

 「はいは~い」

 

 「お、そうだ!そのついでに今しがた出来上がったこの、アミノドリンクVer6を是非飲んでくれたまえ!疲労回復に加え、より効果的に身体に足りなくなったミネラルを補給できるようになったのだ!」

 

 「あ、あ~……そうだね、今はまだ疲れていないから、後でもらうよ、ほら、トレーニング後とかに?」

 

 「ん?そうか……それならば、そうしてくれ」

 

 できれば今味の感想だけでも欲しかったが、致し方あるまい。

 いつも通り専用のボトルに入れて、スカイに渡そう。

 

 僕は先ほどできあがったばかりの透明色の液体を、一部を残してボトルに詰める。

 トレーニングメニューは先ほど印刷したから、そろそろ出てくるだろう。

 

 あと、スカイに伝えることは……。

 

 「そうだ、スカイ。ちょっとそこに体操用のマットがあるから、柔軟をしてくれるか?柔軟性のデータがとりたい」

 

 「ん?いいけど?……あれ?でもセイちゃんが身体は柔らかいの知ってるよね?」

 

 「もちろんだが、変化がみたい。スカイの身体は日々変化している。その変化を知っておくのも、トレーナーの僕の役目だろう」

 

 スカイの柔軟性には目を見張るものがある。おそらく彼女の速さも、そこに由来するものもあるだろう。

 だが、その柔軟性を信頼しすぎて、無理なトレーニングで体を痛めては欲しくない。怪我は一番怖いものだ。ウマ娘にとっては命にかかわるのだから。

 

 スカイの柔軟運動を手伝って、身体に異常がないことを確認する。

 筋肉痛の類もないようだし、体調は万全と言っても差し支えないだろう。

 

 よし。やはりスカイは完璧だ。

 

 印刷し終えたトレーニングメニューが書かれたプリントを、スカイに手渡す。

 

 

 「今日も、600mのタイムだけは計測してくれ。他のタイムに関しては任意で構わない。と、自主練はほどほどにしておいてくれたまえよ。君が努力家なのは承知だが、いくら僕のスポーツドリンクがあるとはいえ、疲労は日々蓄積していくものだからね」

 

 「は~い。じゃあ今日もゆるっと、練習するフリでもして釣りにでも行ってきちゃおっかな〜」

 

 「それでもかまわないさ。どんなトレーニングをしているかは、練習後の君を見ればだいたいわかる」

 

 彼女は「つれないね~」と言いつつ、笑顔で研究室を出ていった。

 

 いつも通りの軽口。スカイは飄々としてとらえどころがないが、その実、彼女の根幹にある性質は理解しているつもりだ。

 そもそも、彼女を担当したいと思ったのは、そのうちに秘める闘志にこの身を焼かれたから。

 

 彼女のためにと思うから、僕は研究を続けられる。

 

 

 「ふむ……では次は練習前に飲めるプロテインタイプのものも開発するとするか!」

 

 

 僕には他のトレーナーほどの情熱は無い。

 最強のウマ娘のトレーナーであるとかいう肩書きとか、名トレーナーの肩書きなんぞに興味はない。

 

 僕を突き動かす原動力は、ただ一つ。

 

 

 

 

 

 

 『やった……!!!このどよめき……!この歓声……!たまんないよ!ねえ!トレーナー!』

 

 

 

 

 

 セイウンスカイという、雲のように自由きままで、とらえどころのない彼女。

 

 そんな彼女が、唯一、猛者達が集ったレースに勝った時だけに見せる、あの最高の笑顔が見たい。

 

 それだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スポーツドリンクの研究はそこそこに、僕はスカイが出走するレースを決めるために、ノートパソコンと向き合っていた。

 しかし僕は残念なことに、レース知識が十分ではない。そもそも、トレーナーになりたい、というより研究者になりたかったのだが致し方ないのだが。

 

 しかし案ずることなかれ。そんな僕には、強い味方がいるのだ。

 

 「ふむふむ……次はダービーに焦点を当てるべき、ということか。皐月賞を制したスカイはより注目を集めるはず……と。そしてそこに、三強と噂される、君のところのキングと、スペシャルウィークが出てくる……と、なるほどなるほど。これは良いことを聞いた。ではダービーに勝つために僕はトレーニングをさせればいいわけだな」

 

 『いやそうだけど……あのな?俺誰の担当してるか知ってる???いや、ね?お前が常識知らずなのはもちろん知ってるよ?けどね?俺の担当してるウマ娘も、クラシック路線……ダービーに出るわけよ。そのライバルトレーナーに、普通聞くか?!つーかだいぶ前にクラシック三冠の話したんだから次がダービーなことくらいわかってたろ!?』

 

 電話先で呆れたような物言いをしている男……福田は、僕と同じくトレーナー。つまり同僚だ。

 

 「ふむ。おかしなことを聞くね。僕たちは同僚であるのだから、お互い協力していくべきだろう?君のダービーに対する思い入れは知っている。だからこそ、そのダービーに詳しい君から情報を欲したんじゃないか。対価として、どうやら君のところのウマ娘にも、スカイが僕特製のスポーツドリンクを飲ませてあげているそうではないか」

 

 『いや、あれはなんか飲ませてあげるとかじゃなくて毒見役的なあれだろ……まあそれは置いておいて!俺の他にも、頼れる人増やしといた方がいいと思うぜ?もしかしたら俺が担当ウマ娘を勝たせたい一心でお前に嘘ついてもおかしくないんだぞ?それくらい、俺にはダービーにこだわる理由がある』

 

 「はっはっは。おかしなことを言う。結局こうして僕の問いに答えてくれている時点で、君の人の良さが出ているじゃないか。そんなことをいちいち疑ったりはしないよ」

 

 『……ったく……まあ、たまには外に出て来いよ。お互いの担当ウマ娘、それなりに仲良いみたいだし、たまにゃ併走トレーニングしても良いかもしれねーしな』

 

 「考えておくよ。なにはともあれ助かった。また連絡させてもらうよ」

 

 ゆっくりとスマートフォンを耳から離し、通話を切る。

 彼は同期のトレーナーでありながら、年長者のトレーナーからも一目置かれる存在。

 父が有名なトレーナーだったらしいが、僕はそんなことはどうでもいい。彼の性格と、その知識が素晴らしいものだったから、連絡を取り合う仲になっているに過ぎないのだから。

 

 「しかし福田には世話になりすぎているな……いつか何かの形でお礼をさせてもらわねば……ん?」

 

 福田から聞いた情報を元に、もう一度スカイの出走するレースのプランを考え始めたタイミングで、外でなにやら声が聞こえる。

 

 「……スカイか?」

 

 どうやら片方はスカイの声らしい。

 なにを話しているかまでは聞き取れないが、なにやらあまり良い雰囲気ではなさそうだ。

 

 様子を見に行こうかと席を立ったタイミングで、研究室の扉が開く。

 

 「やっほ~、トレーナー」

 

 「スカイ。お疲れ様。なにやら声がした気がするが、何かあったのか?」

 

 「ん~?……え、嫌だな、もしかしてお化け?!……なんてね。いや、なんでもないよ~」

 

 「……?……それならいいが……そうだ!あのアミノドリンクVer6はどうだった?味の感想と、身体の調子を教えてくれ!」

 

 「あ、ああ~!スポーツドリンクね、そうだな~ちょっと薄かったけど、飲めないことはないし~身体の調子もいつも通りだよ~?」

 

 む、味が薄かったか……身体に影響する甘味はなるべく入れたくないのだが、飲みにくかったら意味が無い。

 今度は味が出るようにもう一度調整するか……。

 

 先ほど残して置いたアミノドリンクVer6の液体を冷蔵庫から取り出すべく、僕は研究室の角の方へと向かう。

 

 

 「―――よ?」

 

 ん?今何かスカイが呟いたような……。

 

 

 「スカイ、何か言ったか?」

 

 「ん~ん!なんにも~?」

 

 「そうか」

 

 いつも通りの飄々とした表情。

 空耳かと結論づけて、僕はもう一度冷蔵庫へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♦♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナーの研究室を出て、わたしはレース場へと向かう。

 あ~あ。面倒だし、本当に釣りにいっちゃおうかな~、なんて。

 

 「それにしても……どうしようかね、コレ」

 

 右手に握っているボトルには、トレーナーから渡されたスポーツドリンク。

 トレーナーが作るスポーツドリンクは、確かにトレーニング中に飲むと次の日に疲れが残らない気がするんだけど、如何せん味がね~……。いつも渡されるたびに味が違うから、毎回びくびくしながら飲まなきゃいけないのがちょっとね……。

 

 トレーナーのことは信頼してる。

 それは最初に会った時から変わらない。ちょっと変な人だけど。

 周りからは、「自分のウマ娘の面倒も見ないトレーナー」「トレーニングの手伝いもしないトレーナー」とかいろいろ言われてるみたいだけど、わたしは別に気にしない。

 トレーナーは見なくてもわたしの状態がだいたいわかるし、トレーニング前と後は必ず会って話してて、事細かに色んなことを聞いてくれる。それだけで、十分なんだよね。

 わたし、あんまり強要されてトレーニングするの、好きじゃないし。

 

 レース前後はものすごい力を入れてサポートしてくれるし?普段はゆる~い感じが、このセイちゃんには似合ってるんだよね。

 周りを出し抜くの、大好きだって言ってたし。

 

 本当、わたしのトレーナーって感じだよあの人は。

 

 

 ジャージに着替えて、わたしはレース場へと向かう。

 柔軟もう一回して、準備運動したら軽く走ろうかね~。

 

 皐月賞はトレーナーさんの策が上手くハマって勝てたけど、ダービーはなにやらスぺちゃんも相当気合入ってるみたいだし……それに~。

 

 「セイウンスカイさん!」

 

 「おろ?」

 

 後ろから声をかけてきたのは、わたしの同級生、キングヘイロー。

 キングもダービーかなりやる気なんだよね~。なんかちょっと空回りしてないか心配になるくらい。

 

 相当お気に入りのトレーナーに担当してもらってるみたいで、いつもご機嫌なんだけどね〜。いや~それ自体はとても良いことなんだけどさ。

 

 「おーっほっほっほ!スカイさんごきげんよう!今日は私と一緒にトレーニングする権利を差し上げますわ!」

 

 「おお~!そりゃ嬉しいね~」

 

 わたし達は同級生の友達であり、同時にライバル。そのことは皆わかっているけれど、普段のトレーニングからピリピリしたくないし、わたしはこの雰囲気推奨派。

 あと、ちょうどキングにはやってもらわなきゃいけないことがあるしね~♪

 

 「あ~でもキングにトレーニング付き合ってもらうのに、こっちからなにもしないのは少し悪いなあ~」

 

 「あら!別にそんなことお気になさらなくてもいいのよ?けどそうね、何かあるのなら、この私も興味があるわ!」

 

 よし、食いついた!これをいつも通り……。

 わたしは自分の鞄からスポーツドリンクの入ったボトルを取り出す。

 

 「あ、そうだ!じゃあキングには~……パンパカパーン!このうちのトレーナー特製スポーツドリンクを一緒に飲ませてあげよう!」

 

 「あら、前頂いたものとはまた違うの?前はその……個性的な味をしていたけれど」

 

 「まあまあ~、そこはお楽しみにってことで!ってことでこの栄えある一口目を、キングにあげちゃうよ~!」

 

 「あ、あら、そう?じゃあ遠慮なく……」

 

 疑うこともなく、トレーナーさんお手製ドリンクを飲むキング。

 キングは本当に優しいなあ……。

 

 「……どう?お味の方は?」

 

 「……そうね、前のよりは飲みやすいけれど……少し味が薄いのではなくって?」

 

 「ふむふむ……飲みやすいけど、味は薄い……じゃあ今日のやつは全然飲んで大丈夫そうかな。キング毒見……じゃなかった、飲んでくれてありがとうね~!」

 

 よし!キングが飲んでくれたなら問題ない。

 このドリンクはトレーニング中にしっかり頂こう。

 

 最初にもらった時本当においしくなくって、それから飲むのが怖いんだよね~。一応トレーナーも飲んでるらしいけど、あの人味覚おかしいみたいだし。

 だからキングに飲んでもらえるのホントありがたいや!

 

 その言葉が聞けたし、わたしは軽やかにレース場へと走りだす。

 やっぱ逃げって最高だよね!

 

 

 「あ、あなた、また私を毒見役にしたわね!!スカイさんあなたのそういうとこ、ほんっっとどうかと思いますわよ~?!?!」

 

 「あはは~!またお願いね~!」

 

 キングの恨み言が聞こえてくるけどなんのその。

 やっぱりキングは優しくてかわいいなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「結構遅くなっちゃったけど、まだトレーナーさんは研究室かな?」

 

 わたしは練習を終えて着替えた後、トレーナーの研究室へ向かっている途中。

 基本トレーナーがいるのは研究室だけど、たまにトレーナー室で事務作業していることもあるから迷うんだよね。

 

 キングとはあの後一緒にトレーニングをして、キングのトレーナーさんにも少し指導してもらった。

 本当にこれでいいのか……って悩んでるキングのトレーナーさんは、どうやらわたしのトレーナーに手を焼いてるみたいだね~。まあ自由人だからね、あの人。

 

 600mのタイムも計測したし……まあ、日向ぼっこでもしてくるって言ってその後はキングとは別の場所で筋力トレーニングしてたけど、これくらいならオーバーワークにはならないよね~。トレーナーさんからもらったドリンクのおかげかどうかはわからないけど、疲労は全然残ってないし。

 

 そんなことを考えていたら、研究室のある事務棟にたどりついた。

 ここの廊下、薄暗いしあんまり好きじゃないんだよね~……。

 

 「……ッ!……誰?」

 

 そろそろトレーナーさんの研究室に着くってタイミングで、わたしの前に、急に現れたのはスーツ姿の男の人。

 

 

 「君、セイウンスカイだね?」

 

 「……さてどうだったかな~……」

 

 「私はここでトレーナーをしている者だが、君に話があってね」

 

 サングラスをしていて、表情は見えない……けど、トレーナーの証であるバッジもしてるし、トレーナーっていうのはどうやら本当らしい。

 

 「そんなトレセン学園の優秀なトレーナーさんが、わたしなんかになんの御用?」

 

 「なんか、ではない。君はとてつもない才能を秘めた、ウマ娘だ」

 

 「……へえ」

 

 一歩近づいてきた男の人に、わたしは距離をとるために一歩後ずさる。

 

 「単刀直入に言おう。彼の担当なぞ辞めて、私の元に来い。そうすれば、必ず君はダービーウマ娘になれるだろう」

 

 「なるほど、そう来ましたか~」

 

 きっとこの人はここがわたしのトレーナーの研究室であることを知っていて、わざわざ待ち伏せしてたってことか。ご苦労なこったね~。

 しかも目の前で勧誘とか……。

 

 「彼は本来トレーナーになる器の人間ではない。このままでは君の才能は腐ってしまう。それはウマ娘界の損失だ」

 

 「……」

 

 「彼は君のトレーニングも見に来ず、のうのうと室内で研究を続けている。あんなのはトレーナーではない。まったく理事長も何を考えているのだか……」

 

 

 「……」

 

 「()()はトレセン学園の膿だ。あんな根暗な男など、研究室に閉じこもってせいぜい有用な研究を我々に寄越すだけでいいのだ。理事長の方には、私から進言しよう。手続きも、こちらで早急に済ませ、君のレースには影響は出さない。悪い条件ではないだろう。それに君も、内心うんざりしていたのではないかね?」

 

 膿……膿ねえ。

 わたしは頭の後ろで両手を組んだ。

 

 「……確かに、トレーナーさんは変な人だし、トレーニングも見に来ることほとんどないし、作ってくれるドリンクはあんまり美味しくないし……」

 

 「そうだろう。ならば「けどね」……?」

 

 雰囲気が変わったのを察したのか、目の前の男の人が押し黙る。

 

 

 

 

 「わたしの才能を見出してくれた。わたしの最高の笑顔が見たいと言ってくれた。どんな時も、わたしのことを1番重要に考えてくれてる」

 

 

 

 「トレーニングを見に来ない?それがどうした。トレーニングの内容を考えてくれているのはトレーナーだし、それを行ったかどうかなんて、あのトレーナーにはすぐわかる。研究しかしていない?それがなに?トレーナーの研究は、全てわたしのためにやってる研究だけど?それを外野がどうのこうの言える立場じゃないよね?」

 

 

 流れるように言葉が出てくる。

 あ~あ。わたしこんなキャラじゃないんだけどな~。

 

 

 

 

 「わたしはあのトレーナーの元でしか走る気はないよ。あの人がトレーナーをやめるなら、わたしもレースに出るのをやめる」

 

 

 「君は何を言って……!」

 

 

 

 

 「黙ってくれない?」

 

 

 

 

 

 「……!」

 

 

 「トレーナーさんは優秀な人だよ。それこそ、人を、ウマ娘を上辺でしか判断できない人なんかよりはよっぽど。だから」

 

 

 

 あ~、やっちゃった。

 わたしの悪い癖。

 

 わたしは男の人の横をすり抜けて、トレーナーの研究室へと向かう。

 

 

 その、すれ違いざま。

 

 

 

 

 

 

 「2度とわたしのトレーナーをバカにするな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やっほ~、トレーナー」

 

 わたしは今しがたあったことをなにも気にせず、いつもの調子でトレーナーに声をかける。

 

 「スカイ。お疲れ様。なにやら声がしたが、何かあったのか?」

 

 あ、ヤバい?話してる内容まで聞かれてたらめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……。

 

 「ん~?……まさか、お化け?!な~んて、いや、なんでもないよ~」

 

 「……?……それならいいが……そうだ!あのアミノドリンクVer6はどうだった?味の感想と、身体の調子を教えてくれ!」

 

 良かった。内容までは聞こえてないみたい。

 いつもと全く変わらないトレーナーの様子に、わたしはちょっと笑いそうになる。

 

 でもダメダメ。この人に自然な笑顔を見せるのは、レースに勝った時だけってきめたんだしね~。

 

 「あ、ああ~!スポーツドリンクね、そうだな~ちょっと薄かったけど、飲めないことはないし~身体の調子もいつも通りだよ~?」

 

 キングに毒見してもらったから、なんの心配もなく飲めたしね。

 いや~ほんとキング様様だなあ~。

 

 トレーナーは「味がまだ薄いか……」とかなんとかブツブツ言いながら背を向けている。

 研究のためだとかなんだとか言ってるけど、味のこと気にしてくれてるあたり、トレーナーさんのやさしさだよねえ~。

 

 ほんと、わたしのことしか考えてない。バカな人。

 

 

 でも、だからこそわたしはこの人にトレーナーになってほしいと思った。レースに勝った喜びを、この人と一緒だったら、何倍にもその喜びを分かち合える気がしたから。

 

 

 だから。

 

 

 

 

 「絶対最後まで面倒みてくれたまえよ?」

 

 

 

 

 

 わたしの、運命のトレーナーさんっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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