グラスワンダー、差して逃げる   作:こーたろ

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英国の淑女と落ちこぼれ Ⅳ

 『晴天に恵まれました京都レース場!さあ、今日のメインレース、G1秋華賞は、間もなくゲート入りです!解説の細江さん!いやあ、やはり注目を集めるのは、ここまで4戦4勝のファインモーションですね!』

 

 『ええ。彼女の末脚には光るモノを感じますね。残念ながらクラシックは登録の関係で出走は叶いませんでしたが、おそらくこの調子でいけば、エリザベス女王杯にも期待が持てますね。まずはG1一戦目、本当に楽しみです』

 

 『もちろん1番人気ですファインモーション!3番のゲートに入ります、白と緑の勝負服が、ファインモーションです!』

 

 

 京都競バ場は、たくさんの観客で溢れかえっている。

 ここまで4戦4勝。それもどのレースも危なげない勝利をしており、そしてなんといっても可憐なその見た目。

 

 ウイニングライブでもファンを魅了し、早くもファインモーションはトゥインクルシリーズのアイドル的存在になっていた。

 

 そしてそんなにも可愛らしい彼女が、レース前はしっかりと集中力を高めている。

 そのギャップがまた、彼女の人気を押し上げるのだろう。

 

 

 「……」

 

 その様子を、俺は……観客席の、後方から眺めていた。

 

 スランプは脱した。

 調子を取り戻したファインモーションは、スパートにも前のキレが戻ってきた。

 他を寄せ付けない、圧倒的末脚。

 

 まさに風になる、という表現がぴったり似合うかのような加速力を取り戻したファインモーションは、前戦のローズSを圧倒的な差で勝ち切ったのだ。

 あの日の勝利は、2人で手を取り合って喜んだ。

 俺も、自分の役目を全うできたことに安堵し……そして自分のことかのようにはしゃいだ。

 それだけ、嬉しかったんだ。

 

 

 結局この秋華賞も、ローズSも、レースのレースプランは言い渡してあるが、技術的な指導はしていない。

 

 むしろ必要なかったと言った方がいいだろう。

 へんなことを言って悩ませるよりも、好きに走らせる方が強い。

 

 それが俺の見解だった。

 

 そして、見事彼女は掴み取った。

 G1レースへのチケットを。

 

 そして念願のG1レースが今日、行われるのだ。

 ファインモーションの、初の勝負服お披露目。晴れ舞台。

 

 気品の高さを思わせる、純白のジャケット。

 彼女のイメージカラーである青と赤が、袖とソックスにラインで入っていて。

 ジャケットの中からは、緑色のベストが飾り過ぎない程度に華やかさを演出している。

 

 一目見て思った、この勝負服は、ファインモーションに本当にぴったりだ、と。

 

 

 

 

 

 『さあ!16人がゲートに入ります!間もなく、ファンファーレです!』

 

 

 

 

 

 歓声が上がる。

 いつもなら俺のせいで負けてしまったら……といらぬ心配で緊張するのを抑えるのに必死だったが、今は、何故か落ち着いていた。

 

 周りの興奮も気にならない。

 

 今まさにゲートに入ろうとしている、勝負服姿のファインを、俺はじっと見つめる。

 

 

 その瞬間、俺とファインだけが、この大歓声の中意思疎通ができているかのような、不思議な感覚が俺の脳内を駆け巡る。

 今はそんなこと、とても言えないが、俺はファインのトレーナーだったのだ、と身体が訴えかけてくる。

 

 そんな衝動を抑え込みながら、俺は心の中でファインを応援した。

 

 (頑張れよ……!)

 

 ……すると、ファインモーションが一瞬くるり、とこちらを振り返って……笑った。

 

 

 「……!」

 

 俺に気付いたのだろうか。

 いや、ここからゲートまではかなりの距離がある、思い違い、かもしれない。

 

 

 

 すぐにその表情は引き締まり、深呼吸を行っている。

 

 その様子が、本当に愛らしい。

 

 

 

 

 「……なあ、ファイン」

 

 

 

 

 

 なあ、俺が、初めて愛したウマ娘。

 

 

 

 

 

 

 

 「俺の答えは、合っていたのかな」

 

 

 

 

 

 

 目を閉じて、あの日のことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 パァン!と乾いた甲高いピストルの音。

 

 秋華賞。

 俺たちが3ヶ月かけて掴み取った、ファインモーションにとって初めてのG1。

 

 

 俺はその舞台を、観客席から眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の商店街。

 

 ファインモーションから発された言葉は、俺の心拍数を急激に上昇させるには十分すぎる言葉だった。

 

 「今……なんて」

 

 自分の耳を疑った。

 ファインモーションは、滝トレーナーに少なからずポジティブな感情を持っていると思っていたから。

 ファインモーションは、俺なんかじゃ立場が合わないほど、由緒ある家の生まれだから。

 ファインモーションは、他と比べるまでもない、世代を代表するウマ娘になれる逸材だから。

 

 だから。

 

 俺なんかと、『本当の担当契約をしてくれ』と言われたことが、しばらく信じられなかった。

 

 

 「そのまんまの意味です。私の担当に、なってくれませんか?」

 

 

 闇夜に照らされるファインモーションの姿は、映画のワンシーンのような、幻想的で、美しくて……そしてどこか蠱惑的な笑顔。

 

 ぐるぐると思考がめぐる。

 願ってもない言葉。俺はこの1年半、その言葉をウマ娘から言ってほしい一心で、トレーナー業をやってきた。

 初めてファインモーションに会った時、初めてファインモーションが走る姿を見た時、その姿に憧れた。

 

 これが本物のスターになるウマ娘なんだと、心が躍った。

 そして同時に、『何故俺はこの娘の担当じゃないんだ』と、激しく自分に怒りを覚えた。

 

 輝かせたい存在がいるのに、そこに手が届かない自分を、激しく卑下した。

 

 そんな俺を、必要としてくれている。

 今目の前にいる、俺が初めて“恋焦がれたウマ娘”が、必要としてくれている。

 

 だったら、俺は。

 

 俺の下すべき、判断は……。

 

 

 

 

 

 

 

 「ごめん、それは、できない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絞り出したかのような声。情けない声しか出ない自分が恥ずかしい。

 

 手のひらから血が出るほど自分の拳を握りしめて……ゆっくりとファインモーションを見つめる。

 

 本音を言えば、担当したいに決まっている。

 けどここで俺が自分のワガママで彼女の担当になったら、実家やトレセン学園や世間から、批判を受けるのは彼女自身だ。

 

 どれだけ俺がここから努力して優秀なトレーナーになったとしても。伝説級のトレーナーとの契約を切って、無名の落ちこぼれトレーナーに担当してもらう、という事実が、これからの彼女のためにはならない。

 

 

 なによりも彼女の成功を願う俺が、彼女の道の邪魔をしてはいけない。

 

 俺の判断は、拒否、だった。

 

 ファインモーションはそれに一瞬驚いたような顔をして……そして、次第に、笑顔になった。

 

 「うん。きっとキミなら、そう言ってくれると思ってたの」

 

 「……え」

 

 

 俺の判断を聞いて、ファインモーションは笑顔を見せてくれている。

 かと思えば、くすりと笑って両手を目元に持っていき、涙を拭くような仕草。

 

 

 「あ~あ……こんなに勇気を振り絞って告白したのに……フラれちゃいました」

 

 「お、お前なあ……」

 

 いちいちこんなことを言うものだから、俺の心臓が持たない。

 慣れてないんだ、こういう事に。

 

 するとその仕草をやめて、彼女が上目遣いで俺の顔を覗き込む。

 

 

 「じゃあ……ワガママを一つ、聞いてくださいますか?」

 

 「……ああ」

 

 どんなワガママでも、聞こう。

 それが、実力不足で彼女の願いを受け入れられなかった自分の、せめてもの罪滅ぼし。

 

 そう思っていると、ファインモーションがゆっくりとこっちに歩いてきて。

 その笑顔は、いつもとなんら変わらないように見える。

 

 だから、少し油断してしまっていたのかもしれない。

 

 

 そのままファインモーションは……俺の方にストン、と体重を預けた。

 

 

 「お、おいおいバカなにやってんだ……!」

 

 「ふふふ♪暗くて誰も見えませんよ」

 

 突然俺の胸におさまった彼女を、この状況はまずいと思いつつ、かといって引きはがすこともできない。

 俺の心臓が飛び出るほど高鳴ってしまっていることをバレるのが恥ずかしく思いながら、俺は必至でファインモーションから目をそらした。

 

 「名前」

 

 「え……?」

 

 「いつまでファインモーションって呼ぶんですか?私のことは、ファイン、でいいんですよ」

 

 「あ、ああ。分かった。ファイン……」

 

 「ふふふ♪じゃあ私も、ミッキートレーナーって呼びますね」

 

 「いや、それは恥ずかしいわ……」

 

 俺の名字ではなく、名前の方をもじった呼び方で、彼女は俺を呼ぼうとしている。

 恥ずかしいからそれはやめてほしい。

 

 すっ、と俺の元を離れた彼女が、もう一度前を向いて歩き出した。

 その歩みは少しづつ早くなり、次第にスキップへと変わる。

 

 「ちょ、待てよファイン!」

 

 「ふふふ♪ねぇ、トレーナーさん!」

 

 「なんだ!」

 

 「キミは私に追い付いてくれますか?」

 

 「……!」

 

 

 緩やかな上り坂を、軽々とスキップしていくファイン。

 

 その後ろ姿を、俺は必至で追いかける。

 追い付かなきゃ、いけないから。

 

 

 「必ず!!追い付いてみせるさ!!絶対に!!!」

 

 「楽しみにしてますね♪」

 

 

 ファインが、くるりと振り返って最高の笑顔を見せる。

 

 ああ、絶対に、いつか本当に。

 

 君の隣に立つのに、相応しいトレーナーに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♦♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何度も夢見た舞台。

 

 彼が何度も褒めてくれた勝負服に身を包んで、私は今ここに立っています。

 ここも良い、ここも良いって何度も言うものだから、途中から私が恥ずかしくなっちゃいました。

 

 

 ぐ~っと息を吸い込む。

 うん!気持ち良い空気♪

 

 

 集中力は、十分。

 どうしてだろう。初めてのG1のはずなのに……全然緊張していません。

 

 それどころか、どこか身体が軽いくらいで……ふふふ、不思議ですね♪

 

 ファンファーレが鳴り響きます。

 観客席で、それに合わせて大きな手拍子。

 

 すごい……これが、G1なんですね。

 

 実家にいる頃から話は聞いていましたが……百聞は一見に如かず、ですね。

 

 

 そうだ、観客席……。

 とそこまで思い至って、私は視線を感じてぐるりと観客席を見渡しました。

 

 (あ、み~つけた!)

 

 一瞬驚いたような表情を見せた彼を、私は見逃さない。

 ふふふ、ウマ娘は目も良いんだから。

 

 ゲートに入る直前に、私はもう一度大きく息を吸い込む。

 大丈夫。レースプランは、しっかり頭に入ってる。

 

 滝トレーナーが帰ってきて、最初に彼にかけた言葉を、今も覚えてる。

 

 『本当にありがとう。なんの心配もなく、ファインモーションをG1の舞台に送り出せるのは、本当に君のおかげだ』

 

 確かに、私は絶好調でした。

 最初から、最後まで。

 

 彼が、私の願いを断ることは、想定内だったから。

 何よりも私を思ってくれる彼だから、きっと断るんだろうなって。

 

 でも、だからこそ、これからが、楽しみ。

 いつ彼が、私を迎えに来てくれるのか、本当に楽しみ。

 

 未来に、希望を持てる。

 

 こんなに晴れやかな気分は、生まれて初めてかも!

 

 

 

 

 だから今の私は、誰にも負けませんよ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♢♦♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『スタートしました!さあ、秋華賞。各ウマ娘ポジションの探り合い!おおっと外からファインモーションが伸びてきてすうっと好位につけてきました!現在2番手の位置でレースを進めていきます! 』

 

 『とても良い位置ですね。おそらくここから少し下げて、レース展開を伺うのではないでしょうか』

 

 『そうですね!さあ細江さんの言葉通り、1コーナーを回ったところでファインモーションは現在6番手の位置で、ゆっくりと前を見据えているようにみえます!』

 

 

 最高の位置取りだ。

 いつものレース展開。逃げるウマ娘の位置からもせいぜい6~7バ身程度。

 この程度の差なら、余裕でファインモーションの射程圏内だ。

 

 「……いけ、ファイン」

 

 思わず俺は呟いていた。

 

 観客席に設置された柵を握る両手に、思わず力が入る。

 

 美しすぎる姿勢で走っていくファインの姿に、俺とファインの、この3ヶ月の記憶が、俺の脳裏を通り過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ど、どろぼーーーーー?!!?!??!?!』

 

 『ち、ちが……!』

 

 

 

 

 

 『世界って……思い通りにいかないことばかりですね』

 

 『……!……そうだな』

 

 

 

 

 

 『キミはさ、私の、本当のトレーナーに、なる気はない?』

 

 『……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目頭に熱い感情が煮えたぎる。

 

 けど、今はダメだ。

 目を離しちゃ、ダメだ。

 

 見るんだ。

 

 

 

 

 

 ファインが第3コーナーを曲がるその瞬間。

 

 

 

 

 

 ファインモーションは、風になった。

 

 

 

 

 

 『4コーナー手前に差し掛かるところ!さあ動いていきましたファインモーション!ファインモーションが現在5番手から3番手、3番手から2番手!2番手から先頭に接近する構えだ!!』

 

 実況の声に呼応するかのように、会場の熱気が最高潮になる。

 大歓声が、京都競バ場にこだまする。

 

 

 「いけ~!!ファインモーション~!!!」

 

 「差しきれ~!!!」

 

 「ファインモーションや!!やっぱりファインモーションやったんや!!!」

 

 

 

 心臓が、張り裂けそうだ。

 あの加速。あの走り。

 

 

 

 

 『外からファインモーション!!ファインモーションが抜け出した!!残り200を通過して!!1バ身!2バ身とリードをとった!圧倒的!!圧倒的です!!』

 

 

 

 

 

 

 昨日のことのように思いだせる。

 

 

 初めて彼女の走りを見た、あの瞬間を。

 

 

 

 完璧に抜け出して先頭に立った彼女を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笑顔が、見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ご~~~るっ!ファインモーション選手今ゴールです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの瞬間。

 世界に、俺とファインしかいなかった、あの瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時見えた煌びやかな装飾がなされたG1のゴール板の前。

 

 

 

 

 

 彼女は今、確かにそこを駆け抜けようとしている。

 

 

 

 

 

 俺の胸に、どうしようもないほど襲い掛かってくる、感情の波。

 

 目の前がぼやけてくる。

 視界が歪む。

 

 心臓が、鷲掴みされたかのように、苦しい……!

 

 荒ぶる感情を抑えきれずに……俺は鉄製の柵を、思い切り殴りつけた。

 

 

 

 「なんで……ッ!クソッ……!なんで、なんでなんで!!俺はこんなところにいるんだよ……!!!」

 

 とめどなく溢れる涙を、止められない。

 

 何故俺は今ここにいるのか。

 最前列の関係者席で、彼女を出迎えるのが何故俺じゃないのか。

 

 

 わかっていても……許せなかった。

 

 

 

 

 

 

 『ファインモーションだゴールイン!!!圧勝楽勝!!!ファインモーションです!!同世代のウマ娘達では力が違い過ぎました!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大歓声の京都競バ場。

 

 圧倒的な力でファインモーションはG1初制覇を成し遂げた。

 

 

 

 

 

 「ああああああああああ!!!!クッソオオオオオオ!!!」

 

 

 泣いた。

 人目を憚らずに泣いた。

 

 

 

 気が済んだら、彼女に祝福をするんだ。

 

 

 だから今だけは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『勝利ウマ娘インタビューです!ファインモーションさん!おめでとうございます!』

 

 「はい!ありがとうございます!本当に楽しかったです♪」

 

 

 泣き腫らした顔を見られるわけにはいかなかったので、俺はレース場内のトイレで顔を何回も洗ってから、ファインのインタビューを聞いていた。

 と、いっても、俺がいるのはまだ観客席。

 

 ここからレース場にいるファインモーションまでは、あまりに遠い。

 

 けど、これでいい。

 

 これが今の、ファインと俺の差だから。

 いつか俺が、その隣に立ってみせるから。

 

 

 『最後は2着に3バ身と2分の1差ということで、秋華賞の記録になりました!レースタイムもレコードタイですよ!』

 

 「えっ!そうなんですか!嬉しいです♪」

 

 

 ファインの走りは圧倒的だった。

 残り200m地点から飛び出したファインを止められるウマ娘などおらず、終わってみれば圧倒的大差の勝利。

 貫禄すら感じさせる走りだった。

 

 ファインはこれからもきっと伸びるだろう。

 

 観客席からも、多くの声がかけられる。

 

 

 「ファインすごかったぞーーっ!強かった!」

 

 「キレイな走りだったぞ~!!」

 

 

 『会場の皆さんも、ファインモーション選手の走りに感動していたようですよ!』

 

 「わわっ!あ、ありがとう!皆さんすっごい喜んでくれてるね♪」

 

 『今日のレース、最後の瞬間も笑顔が見えましたね。ファインモーション選手の走りは、1枚の絵のようだ、とファンからも大人気ですよ!今日のレース中はどのような気分でしたか?』

 

 「……!……絵だなんて、大げさです♪……私はただ、楽しく走ろうって、そう決めてました!でも……そっか。私の走りが、みんなの素敵な思い出になったんだったら、とても嬉しいです」

 

 

 1枚の絵……俺も、ファインにそう伝えたことがあった。

 それが、一番ファインの走りを表現するのに向いていたから。上品で、気高く。それでいて、力強く。

 

 

 『さて、ではG1初勝利ということになりましたが、この喜びは、誰に伝えたいですか?』

 

 「そうですね……」

 

 一瞬、ファインが迷ったように、トレーナー席の方は目を向けた。

 そして、なんらかのアクションを受け取って……もう一度前を見る。

 

 「これは、滝トレーナーさんにも、許可をとっているので、この場をお借りして、言わせていただきますね♪」

 

 なんだ……?

 ファインが、目を閉じて……ゆっくりと開いた。

 

 その瞳が……俺のことを見つめている気がして。

 その表情は、こんな遠くにいるのに、俺のことが見えているかのような、いつも俺に向けてくれていた、笑顔。

 

 

 

 「私のことを、3ヶ月間だけという条件でトレーニングを見てくださったトレーナーがいました。不器用で、嘘が付けなくて、真面目なトレーナー。……その方が、今日、私をこの舞台に立たせてくれた。誰になんといわれても、これは間違いない事実なんです。……だから。だから私は、この1着は、その方に捧げたいんです♪」

 

 

 

 わずかに会場がどよめいた。

 

 

 

 

 

 ……やっぱり、あいつ、本物のアホだ……。

 なんでこんな最高の舞台で、俺なんかの話出すかね……。

 

 いいんだよ俺なんかのことは……。

 

 

 本当に、アホで、天然で……。

 

 

 

 

 

 「本当に、ありがとうございましたっ!♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ッ!」

 

 

 

 

 

 バカファインめ……。

 

 まったく……。

 

 

 あ~あ。

 

 本当に……。

 あいつの……前では……泣かないって……決めてたんだけどなあ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ありがとうございました!!以上!ファインモーション選手でした!ウイニングライブにも、期待しましょう!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再度、大歓声が会場を包み込む。

 

 これからのトゥインクルシリーズを担う、新たなスターの誕生。

 それを祝福するかのような大歓声は、いつまでも、いつまでも続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数ヶ月後。

 

 トレセン学園内。

 

 

 

 「じゃあ、行ってきま~す♪」

 

 「ええ?!ファインさん、どこに行くんですか~!?」

 

 スキップでトレーナールームを出ていったファインモーションを、驚いたようにスペシャルウィークが見つめている。

 

 

 「いいのいいの。ファインモーションは大丈夫だから」

 

 「え?でも明日って大事なG1レースの日ですよね……?本当に大丈夫なんですか?」

 

 明日はファインモーションにとって大事なレースの日だ。

 それなのに、彼女は最終調整を早めに済ませて、何故か私服に着替えてから、トレーナー室を後にする。

 

 そのことに、スペシャルウィークは若干心配になったようだ。

 

 「ファインモーションはね、大事なレースの前の日は、必ず、ラーメンを食べに行くんだよ」

 

 「え~?!?!ず、ずるいです!私もラーメン食べたい!今から追いかけたら間に合いますかね?!」

 

 ファインモーションがラーメンを食べに行ったという事実に、トレセン学園1,2を争う食いしん坊娘ことスペシャルウィークがついていきたがる。

 

 「ダメダメ。やめときなー。スぺは今から俺とミーティングでしょ」

 

 「え~!そんなあ~!」

 

 

 残念そうにファインモーションが言った先を見送りながら、スペシャルウィークはしぶしぶとホワイトボードの前のパイプ椅子に腰かけた。

 

 

 

 

 しかしスペシャルウィークは気付かなった。

 

 

 ファインモーションが、間違ってもラーメン屋に行くような恰好ではなく。

 

 精一杯のオシャレをして、自分が一番可愛いと思っている服装で、出かけたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人の少女が、スキップで歩いている。

 

 育ちの良さを感じさせる気品のある服装。

 しかしどこか、その表情は幼い少女のように無邪気で。

 

 夕方の商店街に入っていく彼女は、とても嬉しそう。

 

 

 

 

 

 

 夕暮れの空には、2羽の鳥が、気持ちよさそうに飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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