ワイワイと騒がしいトレセン学園内の食堂。
厨房にいるスタッフは目を血走らせて次々と料理を作り、ウマ娘達はトレーに乗った料理を嬉しそうにテーブルへと運ぶ。
食堂は広いので、いかにウマ娘達が多いといっても、満席で席に困る……ということは少ない。
昼時は混み合うのは事実だが、座れる場所が無い、となることはなかった。
そんな一番忙しい時間帯の食堂に、3人でテーブルを囲んで食事を共にするウマ娘の姿。
「ああ……カツカレーを頼んでしまった……カロリーオーバーかもしれない……でもでも、このサクサクとふわふわにはさからえないよねえ~……」
「わーい!ターボが一番食べ終わるのも速いんだから!」
「はいはい、喉詰まらせるんじゃないわよ……?」
マチカネタンホイザ、ツインターボ、ナイスネイチャの3人。
この3人は同じチームカノープスに所属し、日々、トレーニングを共にしている。
G1レースこそなかなか勝ち切れないが、数々の重賞レースで印象に残るレース展開を演出したり、G1レースにも入賞したりと、どのウマ娘も実力派揃いだ。
「このあとのトレーニング頑張れば、大丈夫だよね……うん。今日は頑張るぞ~!」
「………うぐっ……!!」
「ほら言わんこっちゃない……背中叩いたげるから、水飲みな」
それはそれとして、個性が強いため、カノープスは個性派チームと呼ばれていたりもする。
カノープスメンバーは、これで全員ではない。
もう1人メンバーがいるのだが、生憎今日はこの場にはいなかった。
そのことを不思議に思ったのか、喉に詰まった食べ物を無事水で流し込んだターボが、キョロキョロと辺りを見回す。
「……あれ?今日イクノは?」
イクノ。
そう呼ばれたウマ娘の名は、イクノディクタス。
彼女たちと同じカノープスのメンバーだ。
いつもならこの昼食のタイミングで既に合流し、彼女もこのツインターボの暴走を止めてくれる立場だというのに。
ツインターボ自身が、自分の相手をしてくれるはずの存在がいないことに気付いたようだ。
「あ~、ほら、イクノは今日月1であそこ行く日だから」
「あ~!そっかそっか!イクノちゃんも、律儀だよねえ~」
ナイスネイチャの言葉に、マチカネタンホイザはどうやら合点がいったようで、両手をポン、と合わせる。
その姿がまた彼女らしいということはさておき。
一人会話についていけないターボは、必死に両隣の2人に説明を求めた。
「なになに!ターボ知らないよ!イクノどこ行ったの!」
「ターボには言ったことなかったのか、イクノ」
「ん~、私達から説明していいのかな……どうしよっか、ネイチャ」
プライベートなことであるが故に、勝手にターボに伝えてしまって良いものだろうかと、タンホイザが判断に困る。
まあとはいえ、ターボが他ならないカノープスの仲間であること。イクノ自身が、ターボのことをとてもよく面倒を見ていることを考えれば、特に隠す必要もないのかな、と思ってしまう。
ネイチャは少しだけ顎に人差し指を当てて考えた後、ターボに向き直った。
「ま、あれだよ、イクノにとっての大事な人に、会いに行ってるんだ」
「大事な人……?」
ターボの頭に、はてなマークが浮かんだ。
『鉄の女と鉄の男』
♢♦♢
カーン、カーン、カーン。
甲高い音が、響いています。
外気よりも圧倒的に高い室温が、この場所の特徴。
チームメイトである青髪ツインテールの彼女がこの場所に来たら、きっと「熱いよ~!」と行って外に逃げ出していくだろうな、と私は柄にもなくそんなことを考えました。
大き目の紙袋を持って、私は音の発生源へと歩きます。
次第に音は大きくなり、私が彼の元へ近づいているということを教えてくれる。
誰もいない薄暗い道を歩いていけば、その人の背中が見えました。
いつもと変わらない、大きな背中。
今は椅子に座って、ハンマーを何かに打ち付けています。
私はしばらく、そのままその音を聞いていました。
この人は作業を中断させられるのを嫌います。その気持ちは、私もわからなくはありません。非効率的ですからね。
しっかりとプランを組んで制作に取り組んでいる彼のことを思えば、邪魔をする気はおきません。
まあ、私自身、こうしてこの音を聞いているのも嫌いではない、というのが一因ではありますが。
と。
「何の用だ」
……気付かれていましたか。
こちらに振り返らないまま、彼は私に問いかけました。
「こんにちは」
「……」
彼は作業する手を止めません。
ただ、鉄を打ち付け、大きなペンチのようなもので形を変え、また、鉄を叩く。
その繰り返し。何度もこの作業を見る内に、私はこの工程を覚えてしまいました。
彼は決して、私に何も教えてくれはしませんでしたが。
「今度、G1に出走します」
「……」
ピタリ、と彼の動作が止まります。
工具を、をその場に置きました。
「レースに出すぎだ。やめとけ」
「いえ……私は、大丈夫です。レース計画も、チームのトレーナーと話し合いました」
「それが明らかにオーバーワークだと言ってる」
ようやく、彼がこちらに向きました。
頭には白いタオルを巻きつけ、まさに職人といった出で立ち。
半袖の黒いシャツを着ていますが、そのシャツ越しでもわかるほど、彼の肉体は鍛え上げられています。
「お前今月3レース目だろ。丈夫なわけじゃないんだ。やめとけ」
「私のレース、見てくださっているんですね」
「……」
不愛想に思われがちな彼ですが、そんなことは無いことを、私は良く知っています。
私のことを気にかけてくれていることも、理解しているつもりです。
「次のレースに勝ったら、G1に出走できます。その際の勝負服の靴を、本日持ってきました」
「次のレースお前が落としたら、俺のこの作業は無駄になる……と?」
「そうなります」
私がG1に出走するためには、ここからあと何戦か勝利をおさめなければなりません。
今の所、私の計算によればそれは無理な話ではない。ですが、心に甘えを残さないために、私は今日この場所にきました。
「ですが、私が今までこの誓いを立てて、あなたの作業が無駄になったことはありません」
「……」
「私の覚悟につながります。どうか、よろしくお願いします」
深々と頭を下げる。
私がウマ娘としてこの中央でデビューして以来……というよりも中央に来て以来、彼以外にこの作業を頼んだことはありません。
「まったく……見せてみろ」
「ありがとうございます。トレーナーさん」
「……俺はもうトレーナーじゃない」
紙袋を渡すと、彼がその中に入っていた勝負服の靴を取り出します。
銀色に輝くその靴を受け取ると、彼はそれを忌々しそうに眺めました。
「……あいつ……デザイン重視とか言いやがって……時間かかるぞ」
「構いません。ここで、待っています」
「……トレーニングはいいのか」
「今日は、オフをもらっています」
彼はゆっくりと立ち上がると、奥にある工具箱から鉄製のやすりのようなものを持ってきました。
私の勝負服用の靴をひっくり返し、裏側の部分を丁寧に削ります。
何分経ったでしょうか。
私はこの作業を見ていて飽きることはないので、退屈もしません。
彼が私のために作業をしてくれているのだと思うと、感謝しかありませんので。
削る工程を終えたらしい彼が、今度はこの室内の熱さの原因でもある窯のような場所から、何かを持ってきました。
既に熱せられていた……蹄鉄です。
左手に持った大き目のペンチのようなもので蹄鉄を掴み、右手に持ったハンマーで蹄鉄を叩いています。
また、この場所に入ってきたときに鳴っていた音と同じ、甲高い音がこの空間に響き渡ります。
「蹄鉄、準備してくれていたんですね」
「……そんなわけないだろ」
「いえ。その蹄鉄にはトレーナーさんが入れてくださった文字が入っています。ということはそれは私用の蹄鉄に他なりません。それを窯で熱してあったということは、私がいつここに来て頼みにきてもいいようにしてくれていたということです」
「……」
思わず、笑みがこぼれてしまいました。
ダメですね、こんなの私らしくありませんから。
何度もハンマーで蹄鉄を叩き、その角度を微調整していきます。
時に私の靴を眺め、あてがって。
そうするともう一度ハンマーで叩きに行く。
その繰り返しを、何度行ったでしょうか。
この繰り返しが、私の足を支えてくれる大事なモノになっていくのです。
一つの蹄鉄を私の靴にあてがった後、彼はゆっくりと水の入ったバケツに蹄鉄を沈めました。
どうやら、右足の方は完成したようです。
「……左足の方」
「はい」
差し出された右手に、私は左足の靴を渡します。
無骨で、ところどころを小さな傷が埋め尽くしている、そんな手のひら。
そんな手のひらに何故か私は……高揚感を覚えてしまうのです。
態度とは裏腹に、そこに彼の温かさがあるような、そんな気がするからでしょうか。
しばらくして、彼が両足に蹄鉄を打ち込み終えてくれました。
かなりの時間が経っていたようですが、私にしてみればそれほどでもありませんね。
「ほら、そこ座れ」
「はい」
彼が等身大の鏡の前に置いてある、簡易的な椅子の前に私を促します。
私はそこに座り、履いていたローファーを脱ぎました。
「……右足」
「はい」
彼の指示通りに、私は右足を上げます。
銀色に輝く私の勝負服靴を、彼が、私の足にそっと嵌める。
いつもこの瞬間だけは、私から平常心を奪っていきます。
大切な人に靴を用意してもらい、そして靴を履かせてもらう。
いつも不愛想だと言われ、女らしくないと言われ、観客からも、カッコ良いとは言われたことがあるものの、可愛いとは言われたことのない私。
別にそれ自体はなんとも思いません。正直、カノープスのメンバーでもマチカネタンホイザさんやナイスネイチャさんの方が可憐ですし、ターボは愛されています。だから私は、可愛いと言われなくてもいい。
しかし、この瞬間だけは、少しばかり年頃の女の子として喜んでもいいのではないか、と私の中の邪な感情が暴れるのです。
勝負服のデザインを担当した方には、ワガママを言って靴のデザインを銀製のモノにしてもらいました。
もちろん目の前の彼には、そんなことは伝えていませんが。
高鳴る胸を必死に抑えながら、私はこの一瞬にも永遠にも思える時間を過ごします。
この時間があるから、私は頑張れる。
絶対にこの靴を履くんだ、と覚悟を決められる。
「……よし、立ってみ」
「……」
「おい、どうした、立ってみろ」
「あ、はい、すみません」
しまった。
私としたことが、少し放心していたようです。いつの間にやら左足にも靴を履いており、立てる状態になっていました。
ゆっくりと立ち上がり、その感触を確かめます。
「底に違和感はないか」
「ありません。いつも通りの走りができる、完璧な状態です」
「結論にはまだ早い。次、そっち行きな」
「はい」
彼に促されたのは、少し奥まった場所にある人工芝の場所。
私達が走るのは芝です。ここで違和感があっては、話になりません。
私はその丁寧に手入れされた人工芝の上に立ち、軽く歩行します。
そして、軽くその場でジョギングのような動作もしてみました。
「どうだ」
「全く問題ありません。いつものことながら、本当にありがとうございます」
「よし。そしたらとっとと帰れよ」
彼は不愛想にそう言い残すと、また最初に作業していた場所に戻っていきます。
その背を追いかけて、私は彼に話しかけました。
「もし私がG1に出走できたなら、見に来てくれませんか」
「……なんでだ」
「G1に出走したことこそあれ……私はG1でまだ結果を残せていません。しかし、あなたが関係者席にいてくだされば、結果を残せそうな気がするのです」
自分でも言っていることが非論理的であることは百も承知です。
しかし、彼が見に来てくれれば、彼に恥ずかしい所は見せられない、とまた覚悟が決まるのではないかと、そうも思うのです。
「……んなこと言ってる暇があったら、トレーニングとストレッチしてな」
「……そうですね」
彼がまた、作業台の前に座りました。
どうやら、最初に行っていた作業の続きをやるようです。
私も、お暇しなければなりませんね。
「ありがとうございました。また、来ます」
そう言い残して、私は出口に向かって歩き出しました。
これでまた覚悟が決まりました。明日からまたトレーニングに励めそうです。
「まあ」
「……?」
声がしたので、振り返りました。
彼は作業台に向かっていて、こちらを見てはいません。
「気が向いたら、見に行ってやるよ」
「……!……ありがとうございます」
カーン、カーン、カーン。
またあの鉄を叩く甲高い音が響いています。
その音を強く胸に刻んで、私は次のレースを絶対に勝つということを胸に誓いました。
□■□■□
2年前。
私はあの日のことを決して忘れはしないでしょう。
「そんな!どうにかならないんですか?!」
「こちらも手を尽くしましたが……これ以上は……」
足が痛い。生まれて初めて感じる悪夢のような痛みに、私はひたすら顔を歪めることしかできませんでした。
屈腱炎。
それが私の身に降りかかった、ウマ娘にとって命にかかわる病気。
未だに確固とした治療法が確立されておらず、この病にかかったら最後、まずレースに出走することは諦めねばならない。
それは、ウマ娘としてもう生きることができないということと同義です。
私の母の悲壮に染まった表情が、とても印象的でした。
来る日も来る日も、私は痛みに耐えていました。
正直、もう私は助からないのかもしれないと思った日も、ありました。
「理事長!この娘はもうダメなんでしょうか……!」
「静粛……。まだ諦めるでない。親である君までも諦めたら、その娘は助からないぞ」
病院のベッドで体を横たえていた私を背に、トレセン学園の理事長と母が話しています。
「……!いや、待て……
「?!お願いします……お金なら払いますから……!」
理事長が何かを思い出したかのように病室を出ていったことだけは、今でも記憶にあります。
その翌日でした。
彼が私の元に現れたのは。
「……なんでもっと早く言ってくれなかったんですか」
「謝罪。トレセン学園内の医者に見せる方が先だと思ってな……」
大柄な男の人。
私の彼に対する印象はそれが一番でした。
彼は私の足に巻かれた包帯を取り外すと、私の足の状態を確認します。
次に入ってきた医者ともなにやらやりとりをし、難しそうな表情を浮かべて私のことを見つめていました。
もう死んでしまうかもしれない。
そう思っていた私は、必死で声を絞り出します。
「……たす……けて……ください」
「……!」
必死でした。
この身がもう助からないに等しいことはわかっていましたが、それでも私はすがるしかなかった。
「お母さん、この子を私に少し預けてはもらえませんか?」
「……!」
「懇願!私からもお願いする。彼の腕は私が保証しよう」
その日から、私は彼の元で治療を行うことになりました。
「この靴で、歩けるか?」
「……はい」
痛みをこらえて、私は何度も靴を履き替え、彼の手によるマッサージとストレッチを受け、日々を過ごしました。
あれほどまでに痛みを訴えてきた私の足は、次第にいう事を聞くようになり、そして痛みも和らいでいきます。
信じられませんでした。
医者があれだけ諦めていた、痛みをとることができても、2度と走ることはできない、そのうち、歩くことも難しくなるといわれていたのに、むしろ私の足はどんどんと復調し、歩けるようになっていきます。
2週間ほど経ったでしょうか。
普段の痛みは嘘のように消え去り、そして歩いていても痛くありません。
「来週……走ってみるか」
「……!」
信じられませんでした。
結局彼は、絶望的にも思えた私の不治の病をわずか1ヶ月で完治にまで持っていったのです。
「天晴!!やはり君はトレセン学園に欠かせない存在だ!私から、礼を言わせてくれ!本当にありがとう!」
「いえ。私は私にできることをしたまでですから」
私の足が完治し、母は泣きながら彼に感謝していました。
私も、彼に感謝してもしきれません。
この身にどんな魔法がかけられたのかわからず、ただただ感動していました。
「提案!君が、このイクノディクタスを、担当してはもらえないか?」
「理事長、伝えたはずです。私はもうトレーナーはやらない、と」
私が完治したのが微妙な時期なこともあり、今トレセン学園内で手が空いているトレーナーが少なく、理事長は彼に私の担当を任せたいと提案したようです。
その提案は、私にとっても願ってもないことで。
私は彼の前に立って、深々と頭を下げました。
「どうか、お願いします。1年間だけでもいいです。私を担当してはもらえないでしょうか」
「……!」
図々しいのは百も承知です。
しかし、私は彼に恩がある。
トレーナーという職業は、基本的に担当ウマ娘が活躍すればするほど、給料も上がるし知名度も上がる、と聞いたことがあった私は、私が活躍することで彼に恩を返せるなら、という一心で願い出ていました。
私がなかなか下げた頭を上げないのを見て、彼は困ったようです。
雰囲気で、それが伝わってきました。
「……1年間、リハビリしながらだぞ。絶対に無理はさせないからな」
「……!ありがとう……ありがとうございます……!」
とても嬉しかった。
彼に、まだ見てもらえるという事実が、私の胸を高鳴らせました。
結局、彼は1年間私のトレーナーとして面倒をみてくれました。
優秀な成績も残せたのは良いのですが、結局彼の指導が上手かった所が大きな要因だったので、結局恩返しができたか、と言われると疑問が残ります。
彼は、まだ見ぬ病に苦しむウマ娘達を救うため、またトレーナーをやめました。
今はトレセン学園内に併設されている工房が、彼の住む場所です。
□■□■□
「……というのが私と彼の話ですが……面白い話ではなかったでしょう、ターボ」
「す、すごーーー!!すごいじゃんその人!ターボ会いにいってもいいかな!!」
「いやダメでしょ……」
私から彼に対する想いはボカしつつ、ツインターボさんに彼のことを話しました。
ここはチームカノープスの部室。
彼の工房から戻った私はツインターボさんに突撃され、事情を話される流れとなりました。
チームトレーナーが「と、トレーニングを……」と言ってた気もしますが、まあ、大丈夫でしょう。
話したのは、難病から私を救ってくれたこと。
1年間トレーナーとして面倒を見てくれたこと。
今でも自分用の蹄鉄を作ってくれていること。
マチカネタンホイザさんとナイスネイチャさんにも伝えてなかったことがあったので、いい機会でしたね。
「すっごい人なんだね!今度私も頼んでみようかな~」
「不愛想な方なので、許可してくださるかどうかはわかりませんが……タンホイザさんが望むなら、私から聞いてみましょう」
タンホイザさんも興味を持ってくださったようで、なによりです。
彼の知名度が上がるのは、私にとっても嬉しいことですからね。
何故か心に少しだけ黒い気持ちが湧き上がったような気がしましたが、気のせいでしょう。
と、なにやらネイチャさんが、先ほど私が置いた紙袋の中身である、勝負服の靴を、取り出そうとしていました。
「ネイチャさん?どうしたのですか?」
「いやーイクノのこの靴、良いよねえ……しかもこんな銀色の靴を履かせてもらうって……もうそれシンデレ」
「違います。そんなつもりは1ミリもありません本当です。私は彼に蹄鉄を打ってもらったほうが足が安定するから作ってもらっているだけであって、そして会いに行くのも自分からお願いしないのは失礼にあたるだろうと思って直々に行っているだけであってそれ以上でも以下でもなく」
「わかったわかったごめんてば!」
ふう。ネイチャさんは一体何を言いだすのかと思えば……全く。
すると、ネイチャさんが私の靴を裏返して、蹄鉄の嵌められている場所を凝視していました。
「イクノ、これどういう意味なの?」
「ああ、それはですね」
蹄鉄に入っている、彼の入れてくれた文字。
彼に治療してもらっている時、何度も言われた言葉。
その言葉が、私のウマ娘としての人生を支えてくれています。
「怪我をしないことが、何よりも大事、ということです」
「へえ~」
タンホイザさんもターボさんも、ネイチャさんの後ろから覗き込んでいます。
私は、少しだけ微笑んで、その文字を見つめました。
『無事之名ウマ娘』