魔法科高校の劣等生の父親、龍郎の話。

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魔法科高校の劣等生の父

 別に自分は息子のことが嫌いなわけではない。龍郎は、そう思う。好きというわけでもないが。どうしていいのか分からない、というのが本当のところだ。

 

 龍郎は人に比べて想子の保有量だけは多かった。魔法技術の進歩していなかった頃には、その事実が大いに意味を持っていた。ゲームでいうところのMPみたいなものだ。多ければ多いほど魔法が使えるのだから、継戦能力を高めるには不可欠の要素である。

 ただ、龍郎が大学に上がる頃にはCADの開発も進み、術式効率は上り調子だった。当時はまだ想子保有量にも価値はあったけれど、今後十年も経たぬうちに意味を為さない。未来が陰る様は誰でなく、龍郎が一番よく分かっていた。

 だからこそ、意外だったのだ。あの悪名高き四葉が自分を婿として指名してきたことが。今現在は多少の価値を持っていたとしても、一世代後には無駄になる。そういう才能に、あの四葉が目をつけたことは予想外としか言いようがない。

「本当に私なんかでいいのですか?」

 と正面からたずねてみても、不気味な魔女はうっすらと微笑むばかりだ。何らかの思惑あってのことというのは目に見えていた。その悪魔の誘いは、分からぬからこそ、魅力的に映った。野心、ではない。自分という材料を使い、一体何を生み出すつもりなのか。龍郎の心に好奇心の明りが灯っていた。

 

 予想外と言えば、付き合っていた恋人の小百合が執着を露わにしたのも予想外ではあった。自主独立を好み、自由に生きていた彼女が、ここまで取りすがってくると、龍郎は思いもしなかった。

 それだけ愛してくれていたのだ、という認識が誤解だったと気付いたのは一人息子である達也が生まれて間もなくのことだった。

「だったら私も」

 恋人から愛人に鞍替えした彼女は、私の上で積極的に腰を振った。つまるところ、彼女は誰にも負けたくはない、ただの女だったのだ。そのことに龍郎は訳もなく気付いた。

 彼女が龍郎を放さなかったのも、四葉といえど見ず知らずの相手に男を渡すことが女として許せなかっただけだ。

 その発見は寂しくもあったが、龍郎の中にあった後ろめたさを打ち消してくれたことも事実だった。

 四葉では種馬であり、こちらでは戦利品みたいなものだ。だったら、自分の自由に生きて、何が悪いのか。妻でなく愛人宅にこもっていた方が、気は楽だった。

 

 気ままに生きている龍郎でも、子が気にならぬ訳ではない。ただ、それは相手が人間であったればの話だ。

 物心つけば、魔法の才があるのかどうか。すぐに分かる。一年も経てば赤ん坊でもスプーンなんかの簡単な道具を使えるようになる。

 それと同じで簡易な魔法であれば、小さな子どもでも行使はできる。その規模や程度を推し量ってやれば、才の多寡も区別がつく。

 悲しいかな、達也には尋常の才は備わっていなかった。一種異様とも言える神秘の技は授かっていたものの、事象を任意に変化させる魔法の才はからきしなのだ。

 それでも龍郎は全く構わないと思えた。自分自身が魔法師として欠陥品であるのだから、自分の息子が欠陥品であるのはごく当然のことと思えた。息子の想子保有量が巨大であったことも龍郎に親近感を抱かせた。

 妻も当然に、そう思ったはずだった。彼女が赤子を抱きかかえた時、それは慈しみ故のものだろうと思ったのだ。

 まばゆい想子光が目を焼いた時、龍郎はその思いが幻想だったと気がついた。一瞬後には、妻は息も絶え絶えに横たわり、赤子は泣き声の一つもあげぬ化け物に成り代っていた。

 次の日から、達也は消えた。四葉の施設のどこかにいるとは聞いたが、どこにいるのか教えてもくれない。心配をして眠れぬ日もあったが、それが一年も経てば磨耗してしまう。

 薄情だ、と言われれば反論の余地もない。最愛の息子がいなくなったとしても、一年で忘れてしまえる。龍郎はその程度の、普通の男だった。

 数年後に戦闘要員として息子の姿を見た龍郎は、何一つ言葉をかけなかった。言えることもなければ、言うべきこともない。無関心に見詰めるのみだ。四葉当主、妻の姉は

「龍郎さんも、四葉に染まってきましたね」

 と笑っていたが、実際その通りだった。

 

 息子がだめだと知るや否や、妻は二人目を求めた。愛のないセックスがどうこうと言うつもりはない。最初から情というものはなかったからだ。四葉は利を求め、龍郎は好奇心がうずいた。非人間的な関係だという自覚はあった。

 だからといって、人の親たる感性がなかったわけでもない。少なくとも、生まれた息子を抱いた時、龍郎には愛があった。

 それは確かなこととして、それが今でも残っているのか。達也が消え去った時、龍郎の親としての情もどこかになくなってた。

 つまるところ、やわらかに眠る娘を見ても、龍郎は愛情を感じることができなかった。それは単なる生き物に過ぎず、事実でしかない。感慨というものがない。

 小さな赤子でありながら泣き声で事象干渉を引き起こす深雪は、龍郎に強い開放感を与えた。もはや義理を果たしたという思いが強くあった。

 

 足取りも軽く愛人宅へ帰ると、ふと思いついた。深雪よりも半年ほど早く、小百合もまた赤子を生んでいた。あてつけのように生んだ子どもだった。

 ごくごく簡単な術式を仕込んだ道具を渡し、赤子に魔法を使わせる。専門家と言えないまでも、龍郎もまた並大抵の魔法師ではない。子どもの才を見抜くくらいのことはできる。

 ちょっとしたお遊びのつもりだった。不思議と、達也や深雪と違い、小百合の生んだ赤子には愛情を持つことができた。大切な我が子の将来を占う、そんなつもりだった。

 だから、だろう。我が子が類稀なる才能を有して生まれたことを知ってしまった時、龍郎は背後に迫る足音を聞いた気がした。

 このことを四葉に知られれば、どうなるか。龍郎の脳裏に失った息子の姿がよぎる。隠し通す他ない。それまでの人生で一度足りとてない、強い覚悟が芽生えていた。




つづかない

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