乳を求めて三千里   作:イチゴ侍

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なんだかんだと第十話まで来ました。
第十話、よろしくお願いします!


第十話 夏は暑くて胸も熱くなる!無い胸は涼しい!?

前回のあらすじ!

前回は完全に乳を求めずタイトル詐欺を行ったおっぱいトレーナー君。

 

 それはそれとして、日本ダービーに挑戦したスズカ。誰もが大逃げで勝利を手にすると疑わなかったが、9着と惨敗。しかしその裏にはスズカの悩みと葛藤があった。

自分が怪我をしてしまえばトレーナー君がまた罵声を浴びることになる。自分のせいでトレーナー君が傷付くのは見たくない。でも自分が走らなければ、救ってくれたトレーナー君の夢を叶えるという恩返しができなくなる。

しかしトレーナー君は、そんなのはサイレンススズカではないと否定する。スズカはただ何も考えずただ好きなように走っていればいいと、言いたい奴らには言わせておいて最後にはギャフンと言わせてやろうとスズカを鼓舞するのだった。

 

そして季節は夏!誰にとっても熱い夏が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

《第十話 夏は暑くて胸も熱くなる!無い胸は涼しい!?》

 

 

 

 

 

目が覚めると、目の前にはそれはそれは立派なそびえ立つ壁があった。いったい誰がこんな壁を建設したのだろうか……しかしその壁、妙にいい香りがした。この世のどこにそんないい香りの壁があるのだというのか、壁評論家にでも来てもらいたいくらいだ。

 

 

「あ、トレーナーさん起きましたか?」

「……ん?スズカ?」

 

なんと壁はスズカだった。そして状況から察するに俺は膝枕をしてもらっていたらしい。景色はあれだが、スズカの膝枕は程よく柔らかくて、さり気なく頭を撫でてくれているのが、気持ちよくてとても落ち着く。遥か昔にお母ちゃんにしてもらっていたことと被り、俺はスズカに母性を感じてしまっていた。おっぱいが無くても母性は感じられる。世界の真理にまた一歩近づいた気がした。

それでもやっぱり目が覚めたら目の前に大きなおっぱいあった方がいいよなぁ……。

 

それはそれとして……なんでスズカに膝枕されてんだろ俺。

 

 

「私が来たときにはトレーナーさんもうソファーで眠ってて、首を痛めたら大変なので膝枕してみたんです。気持ちよくありませんか……?」

「いやいや、良くはあったぞ?」

「……よかったぁ」

 

そうだ、思いだした。

そういえば俺、専用のトレーナー室貰えたし、せっかくだから泊まり込みでもしようってなって一夜ここで過ごしてたんだった。

ちゃんと枕も持って来ていたはずだが、既に俺の元を離れて下で転がっていた。寝返りかなんかで落としたんだろう。

 

それにしてもスズカやけに手馴れてる気がするけど、よく誰かにしてあげてるのだろうか?いや、その誰かは知らないけどさ。

それとなく聞いてみると「今日トレーナーさんにしてあげたのが初めてですよ」なんて返ってきた。なんだかものすっごいくすぐったかった。

 

 

「トレーナーさんの髪ぼさぼさですね」

「生まれつきくせ毛なんだよ」

「そうだったんですか。いつもは纏まっているからてっきり寝ぐせかと……」

「大人になってからはそれなりに気を使ってるけど、昔はよくそうやって間違われてたな」

 

一時期はいっそのこと坊主にでもしてやろうとか思ってたし、くせ毛防止について調べまくったこともあった。今でこそ毎日のケアで少しのくせ毛で収まっているが、昨日のように何もしないと髪が跳ねまくるのだ。

 

 

「触り心地悪いだろ?」

「そうですか?なんだか……いえ」

「あ、お前今“芝みたいで”って言おうとしただろ!誰の頭が芝じゃい」

 

結局なんだかんだと目覚めてからずっと膝枕されっぱなしだった。

多少の名残惜しさはあるが、いつまでもスズカの顔を見上げながら頭を撫でられるのは恥ずか死んじゃうため、“ありがとう”と一声かけて立ち上がる。

 

そこでふと思い出す。

 

 

「ところでスズカ、今日は休みにしてたはずだけど、なんか用でもあったか?」

「え?トレーナーさん……もしかして忘れてる?」

「ゑ?」

 

俺は壁にかけているカレンダーから今日の日付を見つけ出し、書き込みがあるのを確認した。そこには赤ペンでデカデカと、

 

『今日から夏合宿だ!!』

 

「おーまいがぁー」

「思い出しましたか?」

「今何時?」

「出発まで後一時間ないくらいです」

「膝枕してる暇無かったんじゃ……」

「……あっ」

「……あっ──じゃねぇよ!この天然栗毛ウマ娘!!!」

 

『全身全霊』

『迅速果断』

『昇り龍』

『差し切り体勢』

『掛かり』

 

「うおおおおおおお!いそげぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏合宿。大抵は7月の上旬から8月の終わりまで行うものだ。ただ、これは義務ってわけでもないため、担当ウマ娘の気晴らしに遊びまくったり、レースに出たりとか比較的自由な期間だったりする。

まぁ、合宿を実施するってトレーナーの方が割合は高いと思うけどな。

 

 

んでもって、俺ももちろん夏合宿を行う派だ。なのに当日まで忘れてたのはどこのどいつだーいって俺なんだけどね。

結果から言うと余裕で出発時間に間に合った。夏合宿やるぞって決めた後にどうやら俺は既に荷物を用意していたらしく、まさに前の俺グッジョブって感じだ。

 

合宿を行う場所ってのが、トレセン学園とは長い付き合いになる海辺のホテルで、送迎バス付きだ。もちろん他のトレーナー達も来るため、必然とバスもホテルも同じものを利用することになる。

その中にはあねさんや後輩の姿もあった。

 

ホテルに向かう道中、めちゃくちゃ担当ウマ娘を俺から遠ざけるトレーナーがちらほら見えてた。俺のNTR野郎って噂のせいだろうけど、早く消えてほしいと切に願う。あれは不可抗力やったんやよ。

 

それで肩身が狭くなるかというとそうでもなかった。バス座席は基本トレーナー組が前、ウマ娘達が後ろって感じだが、俺がその境目に座ることになり余計トレーナー達に警戒されるだろと思っていたところ、俺を窓側にして隣にスズカが座ってきてくれた。

後ろにはマックイーンもいてくれて、おかげで快適な移動時間になった。そのマックイーンの隣に黄金船の白い悪魔がいたような気もするが、それは記憶から消しておこう。

 

バスに揺られて一時間ほどで目的地に着いた。

 

 

「はぁー着いた。さてと、取る必要もないだろうけど点呼取るぞ。スズカ」

「はい」

「よし、次マックイーン」

「はぁーぁいん!」

「よしマックイーンもいるな。そんじゃ部屋にいこ──」

「──ゴールドシップッ!!!」

「あれ、マックイーン──じゃない!」

 

なんと!マックイーンだと思っていたらゴルシだった件。でもなんでバスから降りるの遅かったんだろうか。まぁ凄い血相で向かって来てるし、ゴルシになんかされたんだろうな。

 

 

「おおーよくゴルシちゃんのシートベルトロックを抜けてこれたな」

「ゴールドシップ……あなたよくもあんなにガチガチに締めましたわねぇ!」

「寝てる方が悪いだろ」

「マックイーンあの短時間で寝てたんだ」

「そ、それは!」

 

けして今日が楽しみで昨日眠れなかったとかそういうわけじゃありませんから!と主張するマックイーンだが、嘘だってすぐわかるし何ならそういう理由だって語っちゃってるし。

ツンデレ乙乙とはこのことだ。

 

 

「おーいゴルシー!」

 

激おこぷんぷん丸のマックイーンをゴルシが抱きかかえて高い高いしているところに、トレーナーらしき男がやってきた。ゴルシのトレーナーだろうか。

 

 

「お?トレーナーじゃねぇか、なんでいんだ?」

「……トレーナーだからだよ」

「苦労してそうっすね」

「あはは……でも普段はあんなでもレースになるとすごい奴なんですよ?」

 

俺にとっては、ゴルシのトレーナーやってるあんたの方がすごいと思うけどな。いや冗談抜きでね。

 

 

「ところであなたがサイレンススズカの新しいトレーナー……ですよね?」

「そうですが……」

 

“新しい”なんてわざわざ付けてくる辺り、俺の噂を知ってる奴なんだろうと感付く。大方あいつを慕ってたとかそういうのだろう……と思っていたが、彼の目を見るとそんな感じは全くしなかった。むしろ俺を見定めるかのような目をしていた。

 

 

「……やっぱり噂なんてものは当てになりませんね」

「というと?」

「悪い人ではないってことですよ。特に担当ウマ娘を見ればそれが分かります」

 

彼は俺の隣にいるスズカや、ゴルシに担がれているマックイーンを見てそういった。俺がちゃんと眼で見ても、彼は嘘偽りのない本心で話していた。

 

 

「そこまで素直に言われると流石に照れるだろ……それで?俺を煽てて何が目的で?」

「……分かっちゃいますか」

「まぁ、眼は良い方なんでね」

「その、実は相談がありまして……」

 

ゴルシの調子でも見てやればいいのだろうか?それくらいだったら普通にしてやるが……ただマックイーンにヘッドロックかけられてもピンピンしてるあいつが不調なわけがないんだよなぁ。

 

 

「あなたから見てゴルシはどうですか?」

「出来上がりって意味なら、しょっちゅうゴルシ見かけてるけど化け物みたいに体のつくりが完璧だと思ってる。それはトレーナーの腕が良いんだっていう紛れもない証拠だし、レースだって余裕の一言だろ?」

「やっぱりそう見えますか……」

 

彼から直近のレース結果を見せてもらうと、かなりの勝率を挙げているのが分かる。だが、ちらほらと下の順位が多いのが目立つな。

 

 

「0か100みたいな結果だな」

「これは全てゴルシが元々持ってる力のおかげなんですよ」

「ん?だからお前がゴルシが持ってた力をさらに引き伸ばしたんじゃないか」

「──ほとんどトレーニングしてないんです」

「ゑ?」

「トレーニングをしてくれないんです……」

 

つまりいくらメニューを作ってもそれ通りやってもらえなくて、ほとんどトレーニングもしてないのに何故か勝てちゃってるってことか?それはそれで規格外過ぎないか?

 

 

「それだっていうのに周りは僕を過大評価してきて……僕は何一つトレーナーとして役立てて無いんです」

 

『やっぱりそう見えますか』っていうのはそういうことか。俺と通じるところがあるな。まぁ、ただ一つ違うのは周りに期待されているか、期待されていないかってところか。

 

 

「それでいいんじゃないの?あんたとゴルシはそうやって勝って来たんだろ?ならそれでいいだろ。別に仲が悪いって感じでもなさそうだし」

「でもそれじゃ……」

「周りに失望されるのが怖いか?」

「……っ」

 

誰だってそうだ。期待されればそれに応えたいし、なにより嬉しい。でもその期待に応えられないと、期待は悪意へと変わる。『頑張れ、応援してる』なんて声をかけられていたのに『期待して損した、使えない』と罵ってくる。

期待は力にはなるが、同時に重りでしかなく背負わされた者を次第に潰してくる。背負えば背負うほどそれを落とした時の惨状を脳裏に浮かべてしまい結果、彼のように恐怖する。

 

勝手に期待して勝手に失望する。

期待というのは無責任な言葉の暴力だ。

 

期待を背負わなくなったからこそ、そう思えるようになったのかもしれない。けどそれで俺のように『そんな周りなんて気にするな』と言葉をかけたって彼がすぐにそうできるわけじゃない。だったら俺が彼にかけてやれる言葉は、

 

 

「大丈夫だ」

「え?」

「あんたの腕は確かだ。ゴールドシップってウマ娘の扱い方をしっかり理解している。それも無意識で」

「ど、どういうことですか?」

「自分がただゴルシに振り回されているだけだって思うだろうが、それが正解だ」

「つまり今のままでいいってことですか」

 

何度もゴルシを眼で見てきたが、あれは誰かが無理矢理抑えちゃいけない奴だ。気分屋で自由奔放なあいつは好きにやらせることこそが、一番ゴールドシップというウマ娘を輝かせるうえで大事なことだと俺は見た。

そういう点ではスズカと一緒だな……胸部以外は。

 

大体のトレーナーには自信と経験があるから『お前にはこのやり方が合う』みたいに決めつけがちになることがある。それだとスズカやゴルシみたいなタイプは活かすことができない。その点彼は、自分ではそういう気は無いんだろうけど、見事に活かせている。

 

 

「だからある程度ゴルシを傍に置いとけているって現状が既にあんたの実力だ。もし期待に応えられなくなるって時が来るとしたら、そうだなぁ……ゴルシがスタートで大出遅れでもした時かなーなんて」

「アハハ、笑えない冗談やめてくださいよー」

「そうだな!アハハ……」

 

でもほんとにありそうだなと、恐らく彼も考えてしまったのだろう。俺たち二人は乾いた笑いしか出なかった。

 

 

「でも、少し気が楽になりました。あなたに相談して良かった」

「そう言って貰えるだけで嬉しいよ」

 

少しして、息を切らしたマックイーンと満足顔のゴルシが戻ってた。いつの間にか姿が見えなくなってたけどどこ行ってたんだろ……。

 

 

「お?話し終わったか」

「ああ、今終わったところだよ」

「へっ、いい顔じゃねぇか。んじゃマックイーンのトレーナーまたなぁー」

「おーう!」

 

そう言ってゴルシはトレーナーを米俵のように担ぐと、ホテルの中へ入っていった。

あの二人は多分これからもあんな感じなんだろな。

 

 

「はぁ……はぁ……」

「マックイーン凄い汗ね……」

「何したらそうなるんだよ」

「トレーナー……さん、早く……中に……」

「お、おう」

 

真夏の中鬼ごっこでもしてたんだろうか……、もう限界ギリギリのマックイーンと共に、俺たちもホテルの中に入っていった。

 

 

 




ご覧の作品では、おっぱいを応援しています(挨拶)

水着ウマ娘とキャッキャウフフはまだなんじゃぁ……。

次回もよろしくお願いします!ではまた。

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