乳を求めて三千里   作:イチゴ侍

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またまたお久しぶりです。
第十四話よろしくお願いします。


第十四話 成り上がりの狼煙

『さぁやってまいりました。GⅡ、神戸新聞杯。今回は11人のウマ娘が出走します』

 

神戸新聞杯。芝2000m、良バ場。この距離はスズカにとって敵なしと言っても過言ではない。そして問題のメンタル面も合宿で強化されているため、まさに完全無欠だ。

 

 

「スズカさん、いい顔してますわ」

 

『やはり注目は一番人気、8番サイレンススズカですね』

『ダービーで見られなかったあの大逃げを期待したいです』

 

ターフに降り立ったスズカは、曇りの無い表情で、ただ一点、ゲートを見つめていた。

 

 

「これなら今回はスズカさんの圧勝ですわね」

「レースは最後まで何があるかわからないが、確かに今のスズカなら大丈夫だ」

 

サイレンススズカの復活、盛大に祝ってやろうじゃないか! 

 

 

⋯⋯。

 

 

⋯⋯⋯。

 

 

⋯⋯⋯⋯。

 

 

 

『──さぁ、最後の直線勝負。サイレンススズカ逃げる! このまま逃げ切れるか⋯⋯おおっと! 内からマチカネフクキタル! 最後方からマチカネフクキタルが来た! 福だ福だ! 内から福が来た! サイレンススズカとの一騎打ち! 差すか、逃げるか! 僅かに先頭マチカネフクキタル! 先頭に立ったのはマチカネフクキタルだぁ! 神戸に福が来たー! マチカネフクキタル──異次元の逃亡者を差し切ってゴール!』

 

 

 

「ええぇ⋯⋯」

 

 

 

 

 

《第十四話 成り上がりの狼煙》

 

 

 

 

 

夏合宿が終わり、気温も秋に向けて少し肌寒くなった頃。マックイーンの菊花賞に向けた2連戦が行われた。

 

結果は言わずもがな、マックイーンの2連勝。GIII、GIIと危なげなく勝利を収めたマックイーン。これでマックイーンの評価ももう少しは上がってくるかと思いきや、それほど甘くはなかった。

菊花賞でのマックイーンは四番人気。そこそこ上ではあるが、優勝候補に名前が挙げられることは無かった。その要因には出走間隔の狭さによるコンディションへの心配が多かった。

 

夏合宿が終わって、9月後半、10月前半と立て続けにレースに出走しそこからのGⅠだ。傍から見ればそれはマックイーンを俺が酷使していると見えてもおかしくはない。相変わらず俺の評価は駄々下がり。

 

そのことに関してマックイーンはというと、

 

『当然の評価でしょう。私にとって初のGⅠですもの。むしろ眼中に無いとまで言われてしまった方が私としても、トレーナーさんとしても嬉しいんではありませんの?』

 

とまぁ、こんな感じで強気だった。やっぱり段々俺に似てきたんじゃないかと思うんだが、どうだろうか。

菊花賞には同じメジロの名を持つメジロライアンも出てくる。一番人気の彼女は、マックイーンにとって出走するうえで必ず超えなければならない壁となるだろう。

 

菊花賞まで残り数週間に迫った今、マックイーンは最後の調整に入っていた。

 

 

「マックイーン、お前ならまだまだ行けるはずだ。あと半周全力で行け!」

「はい!」

「俺とお前で評価をひっくり返してやるんだろ! ライアンに勝つんだろ! お前の目標への踏み台に過ぎないこんなところで負けることは許さんからな!」

「⋯⋯ッ! いわれなくとも──!」

 

ここ最近はあいつに付きっきりだったのもあってか、こうしてマックイーンとトレーニングを通じて向き合うのは久しぶりな気がするな。

んで、そのあいつなんだが⋯⋯、

 

 

「⋯⋯おーいスズカさんや、いつまでも落ち込んでられないぞ」

「⋯⋯」

 

スズカとは思えないほど落ち込んでいた。その原因は神戸新聞杯での二着という結果だろう。スズカの復活レースと決めていた神戸新聞杯。ダービーでの結果が乏しくなかったにも関わらず、スズカは一番人気を獲得していた。

芝2000mというスズカにとってこれ以上ない得意中の得意である距離で、ラスト誰しもが勝てると踏んでいた。しかし、ゴール間近というところで最後方に位置していた二番人気マチカネフクキタルに差されてタイム0.2秒差で負けてしまったのだ。

 

最後で油断した。と後に語ったスズカは、その負けを今もなお引きずっているようだ。

 

 

「あれは完全にマチカネフクキタルの末脚を無礼ていた俺の落ち度でもある。あんなバカみたいに追い上げてくるなんて思ってもみなかったわ⋯⋯」

「⋯⋯はい」

「次は秋の天皇賞だ。エアグルーヴと競うんだろ? こんな腑抜けた姿をあいつに見せるのか?」

「⋯⋯ッ」

「違うだろ?」

 

合宿でエアグルーヴと誓った約束を思い出したのか、スズカはようやく顔を上げた。そして俺に早く走りたいと目で訴えかけてくる。

 

 

「よし、走ってこいスズカ!」

「はいっ!」

 

そうだ。スズカはそうでなくちゃな。

 

 

──マックイーン、先に行かせてもらうわね! 

 

──なっ! スズカさん──いいでしょう、負けませんわ! たぁぁぁ! 

 

 

「トレーナーさん、こんにちは!」

 

競い合う二人を遠めに眺めていると、後ろからB87の圧力を感じた。一度感じたことのあるプレッシャーだ。これは間違いない。

 

 

「よ、ライアン」

 

メジロライアンだ。

 

 

「マックイーン、調子良さそうですね」

「なんだ、敵情視察か?」

「そんなんじゃないですよ。ただ、ライバルの調子が戻ってきてくれてるのが嬉しいんです。ほんとトレーナーさんに任せて正解でした」

 

任せたってのはあの時の保健室でのあれか。

 

 

「もしかしてマックイーンのトレーナーになることも任されてたのか?」

「はい! そのつもりでした」

「うそでしょ⋯⋯」

 

めっちゃ軽く「いいよぉ」とか言ってなかったか? 俺⋯⋯。下手すれば嘘つきになってたじゃねぇか。

 

 

「よしっ、マックイーンに負けてられないな。あたしも頑張らないと! それではレース楽しみにしてますね!」

 

──勝つのはあたしですけど! 

そう言い残してライアンは去っていった。

 

 

「トレーナーさん、今ライアンが来ていませんでしたか?」

「ああ、丁度今行ったところだ」

「何か言ってましたか?」

「ん? ああ「マックイーンは敵じゃないっすから、軽く捻りつぶしてあげるっす!」って言ってたわ」

「⋯⋯へーこれはますます潰し甲斐があるってものですわ。トレーナーさんもう一周走ってきます」

 

 

先ほどまで全力でスズカと走っていたにも関わらず、淡々とそう述べてマックイーンはまた走り始めた。

 

 

「しっかし……ライアンの奴、とんでもなく仕上げてるじゃねぇか⋯⋯」

 

もしかしなくてもマックイーンは勝てないかもしれない。トレーニング効果の差か、指導の差か、どちらにしてもこのままでは危うい。そう考えた俺は二人が走る様を眺めながら思考の海に潜るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数週間後。

ついにマックイーン初のGⅠレースである『菊花賞』当日を迎えた。京都レース場には例年通りたくさんのお客が、歴史の一ページに残るであろうクラシック三冠の最後を誰が取るのかを見守りにやってきていた。

 

──やっぱり勝つのはメジロライアンだろ。

 

──いやいや、フクキタルの末脚お前も知ってるだろ。京都では負けちまったが、今回こそは勝てると思ってるぜ。

 

──そういやもう一人メジロの名前の娘いたよな? 

 

──最近連勝してる娘だろ? ただレース間のスパンが異常なくらい短いんだよな。どう考えてもコンディション悪いだろ。入着すら怪しいんじゃね? 

 

言いたい放題言いやがって⋯⋯今に見てろよ。

ただ、言いたいことも分かる。俺が赤の他人でメジロマックイーンが勝てるかと問われれば即答はできないだろう。それほど短期間で多くレースに出走させているというのは、ウマ娘のコンディションに関わる行為であり懸念材料になりうる項目だ。

例えケアをしっかり行っていると明言していても、その分トレーニングが疎かになっているのでは? と捉えられてしまうため、言うだけ無駄だ。

 

俺は気持ちをグッとこらえ、京都レース場に入って行く。

 

 

到着してすぐ、スズカには先に観客席に向かってもらい、俺は待機室にいるマックイーンの下へとやってきていた。

 

GⅠを走るウマ娘には勝負服が渡される。黒を基調とした胸元にデカい緑のリボンをぶら下げたフリフリのドレスにも見えるマックイーンの勝負服は、とてもよく似合っている。お人形さんみたいって言葉はこのためにあるのかってくらいだ。

 

 

「⋯⋯ふぅ」

「⋯⋯」

 

俺が待機室に入ってきて数分経ったが、その間で全くと言っていいほど会話が無かった。いつもなら軽口を交わし合うが、今日はいつにも増してマックイーンは緊張していた。それも無理もないことで、それだけ初のGⅠレースというのはプレッシャーが大きいのだ。

 

 

「勝ったら何食いたい?」

「え? 突然なんですの⋯⋯」

「いいからいいから、何食いたい?」

「ええっと⋯⋯京都ですし、せっかくなら京料理とか⋯⋯」

「なるほど。じゃあスイーツは?」

「ス、スイーツですか? えーっと」

「やっぱ京都なら抹茶系だよなぁ。抹茶スイーツの盛り合わせがあるっていうカフェがあるみたいだし、そこでもいいな」

「も、盛り合わせ⋯⋯!」

 

一気にマックイーンの目がキラキラと輝きだした。俺もマックイーンもスイーツ大好きだからな。想像したらそんな顔になるの分かるよ。

 

 

「ま──全部はもし勝ったらだけどな!」

「──っ! ええ、もちろん勝ちますわ。スズカさんを破った方だろうと、ライアンだろうと、誰が相手でも私は勝ちます」

 

まるで先ほどまで緊張で固まっていた自分に言い聞かせているかのようだった。

 

 

「トレーナーさん、ありがとうございます」

「なんのことだ」

「いえ、何でもありませんわ──トレーナーさん、見ていてください。メジロ家の名に⋯⋯そしてトレーナーさんの担当ウマ娘の名に恥じぬ走りをしてきますわ」

 

力強く、俺の目をまっすぐ見つめるマックイーンに、俺は「楽しみにしてる」とだけ声をかけて待機室を後にする。

 

 

マックイーンの待機室を後にした俺は観客席へと戻ってきた。

 

 

「トレーナーさん、マックイーンどうでしたか?」

「ああ、めっちゃ緊張してたわ。もうガッチガチよ」

 

そんなこと言っていると、早速パドックでマックイーンの出番がやってきた。

 

 

『続いてはこのウマ娘。二枠二番、メジロマックイーン。四番人気です』

『短期間でのGⅢ、GⅡレースと連勝を重ねていますからね。四番人気といえど思わぬ番狂わせもありますよ』

 

 

姿を現したマックイーンは、緊張のきの字も感じさせない立ち振る舞いで観客に一礼して戻っていった。

 

 

「良かった。マックイーンいつも通りですね」

「スイーツは強しってか」

「?」

 

『次に姿を現したのはこのウマ娘。三番人気、マチカネフクキタル』

『神戸新聞杯でサイレンススズカを破った脅威の末脚は見事でしたからね』

 

そう言えばフクキタルとスズカは仲がいいというのを最近聞いていて、なんでも神戸新聞杯での腹いせにスズカが再戦を無理やり迫って勝ったらしい。それを話してる時のスズカがちょっとドヤってしたの可愛かったな。

フクキタルの占いはよく当たるようで、俺も一度占ってもらおうかななんて思ったり。

いつおっぱいとのご縁ができますか。

 

 

『続いては今回一番人気、8枠18番、メジロライアンです』

 

「ライアン⋯⋯」

 

思い出せば皐月賞、ダービーと3着2着で通過してきているライアン。前走の京都新聞杯ではフクキタルを破っての一着。最終直線での追い上げはかなり脅威だ。

マックイーンにとっての敵となるのはやはりこの二人だろうか。どちらも差しを得意としたウマ娘だ。ただ、長距離ともなれば最後までスタミナに余裕がある方が勝つ。春の天皇賞を目指してひたすら体力作りを行ってきたマックイーンが、もしスタミナ切れなんかで負けるなら、それは俺がマックイーンの素質を伸ばしてやれなかったということだ。

 

『以上、18人での出走になります』

 

ウマ娘達のパドックが終わり、いよいよレースの開始目前となった。ゲート前に次々と集まる出走者たちを眺めていると、マックイーンの姿が見えた。

 

 

「マックイーン! 緊張すんなよー! リラックス、リラックスー」

「うおっ、ビックリした」

「オラ、おめえらもでっけえ声援送れよ」

 

ゴルシがどこからともなくやってきた。

お前いつからうちのメンバーになったんだ。けどまぁ、応援してくれる奴がいるってのは心強いけどさ。

 

 

「あれ、ゴルシ今日はトレーナーと一緒じゃないんだな」

「置いてきたぜ」

「ええ⋯⋯」

「ま、今日がマックちゃんのレースだってあいつも知ってるしな。ゴルシちゃんの居場所くらい分かんだろ」

 

当然とばかりに言い切るゴルシ。お互いがお互いを理解し合っているその関係性がとても羨ましいとそう思わせる。

 

俺はスズカのバストを知っているが、スズカは俺のバストを知っているのだろうか。聞かずとも分かるが知らないだろう。

人馬一体が似合う関係にはまだまだ遠いのだと実感させられる。

 

 

「⋯⋯―さん。トレーナーさん」

 

物思いにふけっているとスズカから呼ばれる声がした。俺はハッと我に返り、スズカの声に耳を向ける。

 

 

「もうすぐ始まりますよ?」

 

観客の拍手とともにファンファーレの音がレース場に響き渡る。今からレースが始まるのだと自分の体が強張るのを感じる。

ターフの上には既に18人のウマ娘が集い、今まさに最後の一人がゲート入りを果たし各ウマ娘が体制を整える。

 

 

「マックイーン⋯⋯頑張れよ」

 

『さぁ、クラシック三冠の最後、菊花賞を制するのは誰だ!』

 

──ガタンッ

少しの静寂が訪れ、そしてゲートが開く。

 

 

『──今、スタートしました!』

 

 

 

 

距離3000mともなると、やはり序盤から状況の変化は見られなかった。脚質逃げの娘達もそれほど距離を離せているわけではなく、中段に位置する集団とは二バ身差ほど。

 

要注意のライアンとフクキタルは後方で脚を溜めている。

 

しっかし、揺れてるなぁ⋯⋯ライアン。あいつ筋肉が引き締まってるから膨らみがあると露骨に強調されるんだよな。ボンキュッキュッなのが惜しいところ。

 

既にレースも中盤だってのにライアンはまだ余裕の表情だ。

 

そしてフクキタル。あいつはあいつでどういう状態かが全く読めない。スズカを破った神戸新聞杯でもわけのわからん末脚で抜き去って行ったし、眼で見ても分からんとなるとやっぱあいつの放ってる後光のせいだろうか。

 

物静かな読み合いが続く中、集団がスタンド前を通過した。

 

 

「いけー! マックイーン!! ぶちかませぇ!」

 

マックイーンは現在9番手。先行集団の少し外側で周囲を見渡せる場所に付けている。少しでもスタミナを温存するために内を取り合う中で、外を走る余裕があるのは大きい。

下手に争奪戦に混ざってしまえば、ここぞというときにバ群に埋もれてしまうことになる。そうなってしまえば脚質先行は負けたも同然。

 

「そうだマックイーン、それでいい。長距離を走る上でのセオリーなんぞ関係ない。メジロは一人だけじゃないんだって分からせてやれ」

「何言ってんだおめぇ」

「⋯⋯だな」

 

「「いけぇー! マックイーンッ!」」

 

「二人とも息ピッタリ⋯⋯」

 

第二コーナーを回って直線、未だ誰も仕掛ける様子を見せていない。後方に位置しているライアンはジッと背後からマックイーンをマークしている。先頭で逃げ続けていた娘もスタミナ配分をミスったか、徐々に勢いが落ちてきた。それ幸いにと先行集団が前を狙おうと動き出す。続くように後ろの脚質も上がり始めてくる。

 

次第に状況が変化してきたのが見てわかる。

 

そして18人が第三コーナーから最終コーナーに差し掛かったその時だった。

 

 

『さぁ! 第三コーナー回って第四コーナー! 誰が最初に仕掛けるのか!! 最初に仕掛けたのは二番、メジロマックイーンだ!』

 

「「マックイーン!?」」

 

スズカとゴルシの声が重なる。驚く二人と同じく、レースを走る娘たちも予想していなかったことだったようで走りに乱れが生じたのが感じ取れた。

 

 

 

 

『そんなに早くスパートをかけますの?』

『ああ、できないか?』

『無理だとは言いませんが、理由を伺っても?』

『今回の菊花賞、後ろの脚質が怖いのは明白だ』

『ライアン、それとスズカさんを差したマチカネフクキタルさんですわね』

 

どちらも差しを得意としていて、最終直線での追い上げは脅威。しかしそれらは準備フェイズがあることによって脅威となる。

例えば、巨乳は俺にとって十分脅威的な破壊力だ。しかしそこに普段はサラシを巻いていたとしよう。そんな巨乳がサラシを外すという準備フェイズを挟んだらどうだろうか。普段は無いように感じられた巨乳が突然たゆんと揺れる様は、普通に見せられるよりもその破壊力は何倍にも膨れ上がるのだ。

 

何言ってるか分からないと思うが、つまりは──

 

 

『準備の隙を狙って意表を突き、掛からせる作戦だ!』

『それは⋯⋯上手くいきますの⋯⋯?』

『他のはそこまで掛からないだろうけど、ライアンには刺さるはずだ』

『ライアンに?』

 

中段より少し前に待機して第四コーナーで先頭を取りに行く、ってのが直近のレースでのマックイーンの勝ち方だった。

そしてマックイーンをライバルと見ている節が多々見られていたライアンだからこそ、ここまでのマックイーンのレースは把握してきてるはず。

 

 

『マックイーンの走りを知り尽くすライアンにこそ刺さる戦い方。それをマックイーンにやってもらいたい』

『想定していなかった走りで動揺を誘う⋯⋯なるほど、乗りました。あなたの作戦、私がしっかりと遂行してみせますわ。それで? いったいどんな風にすればいいんですの──』

 

 

 

 

ライアンが足を溜め始めたその瞬間に、マックイーンがスパートをかける。本来ならライアンが準備を終えたタイミングがマックイーンがスパートをかけるはずだった。それを早められたことで、ライアンには準備フェイズを早めに切り上げてスパートをかけるしか無くなった。

 

 

「トレーナーさんの作戦だったんですか」

「でもあれじゃ、直線勝負でスピード落ちるんじゃねぇのか?」

「ただでさえ長距離でスタミナも使っているはずだし⋯⋯」

「そこはあれだ。根性だ」

「はぁ!?」

 

ライアンを封じる作戦しか伝えてないし、そのあとどうするかとか、フクキタルはどうするんだとか、思えばマックイーンと話してなかった。

ま、あとはなるようになれだ。

 

『第四コーナー回って最後の直線! メジロマックイーン上がってくるマックイーン上がってくる! 負けじと外からメジロライアン! 外からやってきた! ライアンを追うようにマチカネフクキタル! まさに三つ巴の戦いだぁ!』

 

不意をついても追いかけてくるかライアン⋯⋯。それでもあの一撃は重かったよな。マックイーンに追いつくので精一杯だろ! 

 

『メジロライアン追いつくか!! その差は二バ身! 後ろからフクキタル! だがこれまでか! フクキタル差が埋まらない! 差が埋まらない! ライアン、マックイーンの一騎打ちか! 逃げ切るか! マックイーン! 残り200mを切った!』

 

逃げるマックイーン、追うライアン。その差はジリジリと狭まってくる。残り50m、差は僅か。ほんの少しの油断と、あと一押しの力が出るかで勝敗が決まる刹那──、

 

 

「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! マックイーン!」

 

 

──ゴール板を二つの閃光が駆けた。

 

 

「どっちだ!? どっちが勝ったんだ!?」

「マックイーン⋯⋯」

「安心しろお前ら」

「え?」

「んあ?」

 

二人ほぼ同時にゴール板を抜けたため、場内は写真判定の結果を待つ中、それよりも早く、俺の眼は順位を決定づけていた。

 

 

『判定結果が出ました! クラシック路線最後の冠を取ったのは──』

 

 

 

 

 

「──やったな。マックイーン」

 

 

 

 

 

『メジロマックイーンだ! メジロはメジロでもマックイーンの方だぁ!!』

 

 

たくさんの祝福と歓喜に包まれる担当ウマ娘に、俺は静かなそれでいてたくさんの思いを乗せて拍手を送った。




ご覧の作品では、巨乳派、貧乳派を応援しています(挨拶)

やってみせろよ!マックイーン!
なんとでもなるはずですわ!
ガンダムだと!?

みたいなマックイーンwith菊花賞でした。

感想全て返信出来ず申し訳ございません!全て読ませていただいています。励みになっているので、これからも感想、お気に入り、評価等お待ちしてます!
更新遅くてほんとすいません!

ではまた。

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