第四話、よろしくお願いします!
前回のあらすじ!
おっぱいを愛すが、おっぱいに愛されないトレーナー君。
彼と彼の担当ウマ娘であるサイレンススズカの初めての壁であるメイクデビュー戦が行われた。
スズカは、自分を信じてくれるトレーナーの夢になるための第一歩としてデビュー戦を大差で制してしまうのだった!
《第四話 嫌われトレーナーと腹ペコお嬢様》
スズカのデビュー戦も無事に終わり、とりあえず一安心。だが、デビューしました!はい終わり……なんてことは無く、俺とスズカはその後も順調に出走レースを勝ち続けていた。
俺とスズカの雰囲気も初めて会った時と比べるとだいぶというか、かなり砕けた仲になってきたと思う。
少し前まではトレーニング以外で話すことは無かったが、用事がない時でもトレーナー室にやってきて世間話をしたり、一緒に一人神経衰弱やったり⋯⋯一緒に一人神経衰弱ってなんだ?
ま、まぁ⋯⋯担当とはいい関係を築けてると思いたい。
そんな俺とスズカだが、今日はお互いお休みの日だ。俺がスズカの担当になるにあたって二人で決めた約束事として休む日を週に二度作るというのがある。
けどスズカの場合は休みの日でも走ってるっぽい。その分、トレーニングメニューを調整しなければならないが、それくらいやってのけなければ"異次元の逃亡者"のトレーナーなんてのは務まるわけが無い。
スズカもスズカで自分の限界は見極めてくれてるようで、決して無理な運動はしないでくれてる。もちろん最初からそうしてくれていたわけじゃない。
一度、自分の限界も見極めずに夜な夜な倒れるまで走っていたことがあった。
たまたま俺が巡回していたからすぐ見つけられたが、あのまま見つからなかったらどうなっていたか……。その後、保健室にスズカを連れていき、スズカが目を覚ましてすぐに俺は初めてスズカを怒鳴った。
『トレーナーさん……あの』
『──どうして無茶をした!!』
『っ……ごめんなさい』
『俺がどうしてトレーニング終わりにお前の脚を見てるか分かるか?』
『怪我がないか確認するため……ですか』
『それだけじゃない。お前がちゃんと脚を休ませてるか、無茶をさせてないか、お前らにとって命にも等しいその脚が壊れないように俺が見てるんだ』
『……』
『お前が命をあっさり捨てるっていうなら俺は止めない。存分に脚を痛めつけてろ。でもなスズカ。お前は俺の担当ウマ娘で、俺はお前のトレーナーだ。俺のメニューが物足りないって思ってるなら言ってくれ、そうじゃないなら頼む……自分を傷つけるのは、やめてくれ』
『……ごめん、なさい……ごめんなさい……!ごめんなさい!』
観察眼が優れてると言ったって、俺にできるのは所詮、ただ見ることだけだ。既に手遅れなものは俺にはどうすることも出来ない。そういうどうしようもない場面を俺はいくつも見てきて、その度にウマ娘の涙を見てきた。
"諦めるしかない"そう口にするのがどんなに辛くて苦しいか。
スズカにはそうなってほしくないからこそ、俺はスズカに自分がした事を改めて欲しかった。
それからスズカは、無茶をすることは無くなったし、走り足りない時も必ず俺に話してくれるようになり、その度にスズカの脚に支障が出ない範囲で許可するようにしていた。
"これもダメ"、"あれもダメ"と禁止してしまうとそれがストレスになってトレーニングのやる気も下がってしまうため、適度にやりたいことは尊重するようにした。
だからこそ、休みの日にスズカが走るのを俺は許容している。今頃どこを走ってどんな景色を見てるのか分からないが、これからもスズカがずっと楽しく走ってくれる事を俺は願ってる。
「お待たせしましたー! ハチミツパンケーキ、ハチミツ多め生クリームマシマシでーす」
「ありがとうございますっ」
さて、俺は俺で休日を満喫するか。
特大の皿に乗せられた六段パンケーキ。そのてっぺんからハチミツを大量にぶっかけ、パンケーキの周りにこれでもかと生クリームが添えられた胸焼け不可避の化け物スイーツ。
目の前にやってきたそれを今から食う。そんなものを成人した男が一人で食うのかって?もちろんさ。なんてたって大の甘党だからな。
「お!期待の新人くん、来てくれてありがとねぇ」
「マスター……その呼び方もう古いってば、俺もう新人じゃないし」
「あはは、こりゃ失敬。ずいぶん久しぶりだったからつい……ね」
二週間に一度だけ俺は、この喫茶店のパンケーキを食べに来ていた。しかし、ここ二ヶ月は担当探しをしていたため来ることができないでいた。そのため、今日が久しぶりの来店だった。
「ところで、見たよー君の担当ウマ娘のデビュー戦。いやぁ、とんでもない娘を見つけてきたもんだよ」
「あはは、ほんと運が良かったですよ……」
見つけたというか、奪い取ったが正解なんだけどそれは言わなくていいか。
「僕もうすっかり彼女のファンになっちゃってね。あの清々しいほどの大逃げ、あれは君の指示だったのかい?」
「いえ、スズカがやりたい走り方を俺が信じてやらせただけですから」
「"指示"ではなく"信じる"か」
「あいつ、ずっと大逃げなんて出来っこないって否定され続けてたんです。あのままじゃいずれ走ることが苦痛になっていました。俺はそうなってほしくなかったから、スズカに楽しんで走ってもらうために、やりたいことを聞いて、それを可能にするためのトレーニングをやってきたんです。それでまさか大差でデビューするとは思ってなかったっすけどね」
「なるほど、君はとんでもないウマ娘を見つけて来たが、スズカちゃんの方も良いトレーナーに出会えたんだな」
"良いトレーナー"なんて言われて少し照れくさくなって、無我夢中でパンケーキを頬張った。うん、変わらず美味い。あー口の中あっっっま。
「それでその後のレースも全部大逃げ戦法だろ?いやはや凄いコンビだよ」
「スズカが俺を信じてくれてるからこそ、勝てていますから。俺はただあいつを信じることしかできないんで」
「だがスズカちゃんから信用を勝ち取れているのは、紛れもなく君の実力だ」
「……そうですかね」
「ははは、謙遜もほどほどにしておくんだぞ、若者。君がそんなんじゃ担当の娘までもが低くみられる。男ならもっとこれでもかってくらい胸張って堂々としてるもんだ」
そしてマスターは”これからも応援してるぞ”と俺に言い残してカウンターに戻っていった。
思えばよく先輩にも”謙遜はほどほどにしろ”って言われてたっけ。昔は俺の評価だけが関わっていたけど、今はスズカがいるんだもんな。スズカのトレーナーはすごい奴だって周りに言わせられるようになって、スズカには胸を張っ……張って自慢のトレーナーですって言わせてやりたいもんな。
そのためにもまずはこれ食って英気を養わなきゃな。
「あぁ~うめぇ」
でけぇ独り言だと思うじゃん?出ちゃうんだよこれが。なんといってもふわっふわのパンケーキ。そこら辺の貧乳なただ丸い奴じゃなくて、巨乳のように柔らかく口に含んだ瞬間パフっとワンクッション入る感触。そして一嚙みすれば、じんわりと口内に充満するはちみつの甘い香りがたまらない。
すこーしはちみつがくどいと感じ始めた時こそ、生クリームの出番だ。生クリームの中には後味が悪い奴があったりする。それが苦手って人もいるだろうが、ここのクリームは別格だ。後を引く甘さはなく、かと言って薄いわけでもない。濃厚さを一瞬だけ感じさせて、あとは爽やかな青雲の空のごとく喉奥に流れ去っていく。こいつらが同時に味わえたその時こそ至高の時間がやってくるのだ。
ところでスズカは甘いものとか好きだろうか。好きなら今度は二人で来たいが、果たして一緒に出かけてくれるか。ううむ……。
「いらっしゃいませー!」
新しいお客が来たようだ。トレセンの制服を着たウマ娘だった。
ここはトレセン学園のすぐ側にあるということもあり、今もチラホラとウマ娘が来ているのが見える。昔は小さかった喫茶店だが、ウマ娘達の行きつけになっているおかげか、今では大きい喫茶店だ。ここに来れば有名なウマ娘に会えるとファンもやってくるため、マスターは繁盛しているとめちゃくちゃ喜んでいた。
「ご注文が決まりましたらお呼びください!」
「ありがとうございます。では、ミルクティーをお願いしますわ」
何気なく今やってきたウマ娘を見ていると、彼女はテーブルにつくとスクールバックから教科書を取り出した。清楚で気品のある立ち振る舞いからしていいとこのお嬢様だろうか。喫茶店で勉強するあたりおしゃれだな。
「うーん71、スズカといい勝負か……あれ、確かあの娘、どっかで見たような──」
すると、ピタッと彼女と目が合った。
(やばっ、変なやつって思われたかな……ガッツリ見ちまってたから、言い訳もできんぞ)
ここで俺が目を逸らせば、怪しさがさらに増してしまう。だからといってジーッと女の子を見ているのも気が引ける……てか、あの娘目線がちょっと下だ。俺の目じゃなくて、見てるのは……、
「ジー」
「……ん?」
彼女の目線を辿って見ると、その先は俺のパンケーキだった。試しに皿をずらしてみよう。
「……サッ」
「ぁ……」
ぁ……って言ったよあの娘。間違いなく口にしてた。ちょっと反応面白いな……。
俺はパンケーキをナイフで1口サイズに切って、フォークに刺したそれを口元に持っていく。
「あー……」
「……ぁぁ」
……食べづらい。
このままだと俺が食べられなくなるため、誘いに乗ってくれるか分からないが、俺は彼女目掛けて手招きをした。
いやでも、流石にくるわけないk……、
「……ソロリソロリ」
「えぇ……」
ほんとに来ちゃったよ。え、この娘大丈夫かな……変な人にホイホイ付いていかないか心配だぞ俺。
まるで俺のパンケーキに誘われるように、彼女は俺の向かいに座った。
「えと……食べる?」
近くで見るとめちゃくちゃ可愛いなこの娘。スズカと雰囲気は似てる気がする。あと壁って所も似てる。それに加えて彼女からはプライドの高さも見て取れるところから、名だたる名家の娘だろうな。
だとするなら余計に俺みたいな男にホイホイ付いてきちゃダメだって。
招いたはいいけど、その後どうするか決めていなかった俺は、とりあえず食べようとしていたパンケーキを差し出してみる。
「い、いいんですの!?」
「うん。食べたそうだったからさ、良ければだけど……」
「なっ……!」
俺の言葉でさっきまでの自分を思い出したのか、顔を赤らめて両手で顔を覆ってしまった。
「メジロ家のものともあろう者が……恥を晒してしまいましたわ……」
「メジロ家……メジロ家……あっ!」
思い出した。この娘、入学式で登壇してた娘だ。名前は確か……、
「君、もしかしてメジロマックイーン?」
「……? え、ええ。そうですわ」
「そうかそうか、入学式で見かけて以来だったから忘れてたよ」
基本、巨乳の娘以外は直接関わってない限りは忘れる性分でね。でもこうして関わったからにはもう彼女は覚えた。B71のメジロマックイーンちゃんだな。
「……なんだか今、誰かに馬鹿にされたような気がしますわ」
「キ、キノセイジャナイカナ……ハハッ」
この娘、スズカより鋭いな……いや、別にスズカが鈍いって言ってるわけじゃないんだけど、ずば抜けて鋭い気がする。
俺はこういうタイプの娘の胸部への視線は、慎重にすると決めている。この娘のトレーナーにでもならない限り、もう視線を送ることは無いだろう。
ま、もうトレーナーなんて決まってるだろうし、なれるわけが無いだろうがな!ガハハ
「あ、そうそう。ところで食べる?食べない?」
「……頂き……いえ、でも……うぅ」
「俺は気にしないぞ?あとは君次第だ」
「いえ、せっかくですが遠慮しておきま──」
グ────。
「鳴ったね」
「……」
「食べる?」
「いただきますわ……」
◇
「はぁ……大変美味しかったですわ」
「う、うん。喜んでもらえて何よりだよ……うん」
結局全部食われた……。おっかしいな、最初はかなり遠慮して食べ始めたはずなのに、気づいたら全部行かれてた。パクパクでしたわ。
でもさぁ、しょうがないじゃん。だって一口食った瞬間に幸せそうに満面の笑みで『美味しいですわぁ!』なんて言われたら『もっと食え食え!遠慮するなー!』って言っちゃうじゃん。
「こんなに美味しいスイーツは久しぶりでしたわ……」
「へへっ」
「な、なんですの?」
「ううん。幸せそうに食べてくれるのが嬉しいんだよ」
そういえばスズカと一緒に飯食ったこと無かったかも。美味しいもの食べた時どんな顔すんのかな……あいつ。
「マックイーンはスイーツ好きなのか?」
「ええ……好きですわ」
「そりゃあそうか、あんなに俺のパンケーキ凝視してたもんな」
「あ!あれは違いますわ!!……って、あぁ!?」
「ん?どした」
テーブルに両手をついて立ち上がったと思ったら今度は一点を見つめて固まりだした。
「……あ」
「あ?」
「あなたの分がありませんわ……私、あなたのまで食べてしまいましたわ!?」
「お、やっと気づいたか」
「ご、ごめんなさいですわ!!今すぐ代わりのものを……」
「いいよいいよ。気にしなくて」
「ですが!」
って言っても納得いかないよな。今もものすごい申し訳なさそうな顔でこちらを見てる。
「なら一つ、いや、二つ俺の質問に答えてくれるか?それでチャラにしよう」
「そ、そんなことでよろしいんですの……?それでしたら構わないですが……」
とりあえず立ち上がったままなため、もう一度座るよう促し、ちょうど彼女が注文したミルクティーもテーブルにやってきた。
「……それで何が聞きたいんですの?」
「マックイーンは今、専属のトレーナーっているのか?」
「トレーナーさんですか? いえ、いませんが……」
「ほうほう。なるほど」
「これで一つ目ですか?」
「うん、これでひとつな」
別にトレーナーを狙ってる訳じゃないが、この後に質問する事柄に深く関わってきそうなため、トレーナーの有無を先に聞いておいた。
「じゃ、次の質問な」
「ええ」
「……どうして食事を抜いてる?」
「……っ!」
「もっと正確に言うなら、食べる量を減らしてるのはどうしてだ?」
動揺する目だ。本来、俺の観察眼は複数回見ている相手じゃないと正確に状態を把握出来ない。けれど、彼女の状態は一度見ただけで分かるレベルに悪い。一通り偏っていたとしても栄養を取っていれば今の彼女のみたいにお腹がぺったんこなわけが無い。
「……ど、どうして分かるんですの……」
「人一倍、眼は良いもんでね」
「……」
納得いかないって顔をしているが、バッチリ当てられているから納得せざるをえないって感じだろうな。
「まぁ、誰かに強制されてないならいい」
「そ、それはありませんわ!私が決めてやっていますから……」
「うん。ただ、抜きすぎも良くない。無理な食事制限はいずれ自分を傷つけるからな」
「……お気遣い感謝致しますわ」
それからマックイーンは、ミルクティーを飲み干して”ここは誘惑が多すぎですわ……”とボヤきながらお店を後にした。
ここに来ればそりゃあそうだろ……もしかしたら意外とポンコツな娘だったりするのかな。
「すいません。ハチミツパンケーキ、ハチミツ多め生クリームマシマシください」
そして俺はまた頼んだ。
ご覧の作品では、巨乳派、貧乳派を応援しています(挨拶)
トレーナー君が何やらフラグを立たせたような気がしますが、はてさて……。
だんだんおっぱいから離れてるような気がするトレーナー君ですが、トレーナー君におっぱいを諦めて欲しくない読者さんがいたら応援してあげてください!
感想等々、応援して頂けるようこれからも頑張ります!
ではまた。