第五話、よろしくお願いします!
前回のあらすじ!
三度の飯よりおっぱいなトレーナー君。
スズカと二人で決めた休日なため、トレーニングはお休み。トレーナー君は日々の疲れを癒すため、行きつけだった喫茶店へ行き、大好物のスイーツを堪能していた。
そんな中、一人のウマ娘が来店してくる。彼女の名はメジロマックイーン。名家であるメジロ家のお嬢様でスイーツ大好きのパクパクお嬢様。なにやら無理な食事制限を行っていたようでトレーナー君はやりすぎだと忠告をする。果たしてトレーナー君の言葉はマックイーンに届いているのか。
《第五話 それ以上ぺったんこになってなんになる!》
「──トレーナーさん、今のタイムどうでしたか?」
「うん。前回よりもさらに速くなってる。いい調子だな」
「はいっ」
今日も今日とてトレーニングだ。スズカの次のレースが迫っているためここからは細かな調整と無理のないトレーニングが肝心だ。
「よし、今日はこれくらいにし──」
「相変わらず早いなスズカ」
トレーニングを切り上げようとしたところで声が聞こえた。
「エアグルーヴ。見ていてくれたの?」
「ふっ、あんなにも速く走られては、見るなと言われるほうが無理な話だろ」
エアグルーヴ、バスト90。このトレセン学園の副会長を務めていて、先日専属トレーナーとの契約を解除したらしくトレーナーは無し。ティアラ路線を走る中で、トレーナーとの方向性の違いからか契約解除をしたようで、気難しいウマ娘なのは言わずもがな。よく後輩の相談に乗ったり、トレーニングを見てあげたりと後輩思いなウマ娘だ。
そんな彼女もまたスズカの友達……かどうかは定かではないが良きライバルって雰囲気はひしひしと伝わってくる。
「デビュー戦前の模擬レースの時とは段違いなほどいい走りをするようになったな」
「ええ、これも全部トレーナーさんのおかげなの」
「……照れるからやめいって」
急に俺を話に出すもんだから驚いた。すると、エアグルーヴの目が俺に向けられた。なんかにらみつけられてないか?まさかまたタイキの時と同じ流れ……なわけはないと期待するぞ。二番煎じは飽きられるからな。
「そうか。ところでスズカ、少しお前のトレーナーを借りるぞ」
「ふぁっ」
「う、うん。いいけど……」
「悪いな」
ちょっとスズカさん!?俺を簡単に渡さないでよー!
そしてツラを貸せとエアグルーヴに連れられて、体育館裏にやってきた俺。今からリンチに遭うのか、はたまた何かをさせられるのか……目の前の彼女は何を思っているのか、鋭い目だけは俺を掴んで離さないでいる。
相手は女帝だ。きっと鞭打ちに遭うんだろうな『誰が胸を凝視していいといった。このたわけが!』ってパシンッとけつを叩かれるんだ。
……それもそれで、
「お前には本当に感謝している。それとすまなかった」
「へっ?」
突然エアグルーヴは頭を下げて感謝を述べてきた。想像もしていなかった事態に俺はまともに声が出せず、変な声を上げてしまった。いきなり頭を下げられて感謝されても何が何のことやら分からないため、ひとまず顔を上げてくれと懇願するように言った。
「俺、感謝されることなんてしたか?覚えがないんだが……」
「スズカの元トレーナーの件についてだ」
「あ……」
なんか久しぶりに聞いた気がする。あれからもうだいぶ経ったような気がするから俺自身思いっきり忘れていた。
「奴を野放しにしていたのは私にとって一番の汚点と言っていい。もしも奴がまだいたなら私の手で裁いてやりたいくらいだ」
「それくらいあいつの化けの皮がぶ厚かったってことだろ?」
「……元々私はあいつをよく思ってなどいなかった。だが、周りからは印象良く見えていたようでそこで私が何をしようとも却って私が不利になるだけだった」
そりゃあ俺が悪者になるくらいだからな。そもそもここに来る前にあいつが問題を起こしてるって誰も知らないのが気味悪いところで、まるでそんなの無かったかのように平然とここであいつはトレーナーをしていた。ほんとなんかが変なんだよな……この学園。
「せめてもっとスズカと話をしていれば……すぐにでもあいつを消せたというのに」
「しかたないさ。あんまり自分のこと話す奴でもないから。けど相当溜め込んでたよ、あいつ」
「そんなスズカを好きなように走らせることで吐き出させてくれたのはお前だろ?」
「まぁな。俺はあいつの走り好きだから」
「本当にスズカは良いトレーナーを持てたな」
もう何度も言われて慣れた気でいたが、存外そんなこともなかったようでやっぱり照れ臭かった。
「お前のおかげで今のスズカがいる。私が言いたかったのはそれだけだ」
「そっか、ずっと気にかけてくれてて俺からもありがとう。ほんとスズカも良い友人に恵まれてるな」
「なっ……」
彼女は彼女なりにずっとスズカを気にかけていた。俺の運が無ければスズカを助けてやれたのはきっと彼女なんだろう。
ところで、それはともかくとして気になっていることがあった。
「そういえばさっき”すまなかった”って言ってたよな。なんのことだ?」
「あぁ、それは貴様についてだ」
「もしかしなくても噂についてか?」
エアグルーヴはそっと頷いた。
「あれだろ?俺がセクハラばっかしてるとか、トレーナーとその担当ウマ娘の仲を引き裂いて回ってるとか、暴力未遂起こしたとか、善良なトレーナーを嵌めて学園から追放したどころか、ライセンス剝奪まで促したとか、そんなんだろ」
「ま、まて……そんなにあるのか?」
「さぁ?探せばもっとあるんじゃないかな」
見るからにエアグルーヴはドン引きしていた。どうやらエアグルーヴの中ではそういった噂が頻繁に立つトレーナーとして警戒してたらしい。元々トレーナーに良い顔をしない彼女だからなおさら、後輩や他のウマ娘に危害を加える可能性のある俺は一層嫌悪する対象だったのだろう。
「私もまだまだ未熟者だ。あのような噂だけで貴様を見定めた気になっていた。本当にすまない」
「いいよいいよ。第一こんだけ噂が付きまくる奴なんざ警戒して当然だし、別にエアグルーヴに何か言われたわけでもない。だからわざわざ謝ることなんてないよ」
そう言ってもエアグルーヴが納得の顔をすることはなかった。プライドが高い彼女だからこそ、けじめはしっかりと付けたいんだろう。
「ならさ、時々でいいから俺の話し相手になってくれ」
「……は?」
「俺、ただでさえウマ娘に避けられてるからさ、話し相手になってくれるウマ娘って少ないんだわ。だからエアグルーヴがなってくれたらなーって」
思いもしなかった提案に呆気にとられていたエアグルーヴだったが、渋々といった感じで了承してくれた。彼女の中で俺の評価が改まったからこそ、吞んでくれたんだと思う。
「よし、ってことでこれからスズカ共々よろしく。エアグルーヴ」
「全く……不思議な奴だな」
なんて言いながら握手を交わしてくれた。
「ところで貴様、噂は払拭する気は無いのか?どうしてか貴様を見てるとまるで今の状況を
「楽しんでいる……か。今はそうかもな」
「今は、だと?」
昔はそれこそトレーナーだってのに担当は持てないし、噂のせいでウマ娘は寄ってこないしで焦ってばっかだった。それでもおっぱいへの執念だけは捨てなかったけど。
もちろん噂が鬱陶しく感じていたし、楽しいなんて思うわけがない。だが、
「スズカのトレーナーになった時からか、スズカがデビュー戦を圧勝した時かは分からないけど、どっかでこう思ったんだ”実力をこれでもかと見せつけたら噂に揺さぶられている周りのやつらはどんな顔するのかな”って」
いわゆる成り上がり。見返したいっていう子どもみたいな発想だが、こんだけ不名誉な噂を付けられたからには見返してやりたいと思うのは人として当たり前だろう。
「だから俺は『言いたいように言っておけ、ただし後で吠え面かくなよ?』のスタンスで今を生きてる。今さら噂をどうこうする気はないんだ」
「良く言えばポジティブ、悪く言えばただの性格が悪い奴だな」
「性格が悪い……確かにその通りだ。ってなるとあながち噂も間違ってないな」
「ふっ、そうだな」
あ、ちょっと笑った。なんだよ可愛いところあるじゃん。おっぱい大きいし。
「……っと、すまない。トレーニングの邪魔をしたな。時間を取ってしまった」
「いや、スズカのレースも近いしもう引き上げる所だったから構わないよ」
少し話し込んじゃったけど、スズカのやつ暇してないかな。
話も終わり体育館裏を後にした俺たちは再びグラウンドに戻ってきた。
「スズカ、ごめん待たせた」
「トレーナーさん!ごめんなさい、少し走っちゃいました……」
俺が戻ってくると、少し汗をかいたスズカが走り寄ってきた。ちゃんと俺が見れば分かるの知ってるからこそ、走っていた事を先に伝えてくれるスズカ。トレーニングメニュー後は俺が見てから追加で走っていいかを判断しているため、無断で走ったから叱られると思っているのだろうか、耳がしゅんと下を向いていた。
「今回はしょうがない。無茶はしてないよな?」
「は、はい!軽いジョギングで済ませましたから」
「うん。なら良いよ。なんだ、怒られるとか思ったのか?」
「……」
こくんと小さく頷くスズカ。あの時の叱りが相当効いてるのは分かるが、なんか距離が遠くなったような気がして嫌だな。
「自分を大事にしてくれればそれでいいよ」
「あっ……」
あんまりにも落ち込んでるから、どうにか元気づけてあげようとそっとスズカの頭を撫でてみた。やった後で『嫌がられるかな』とか思ったけど、要らない考えだったようで、スズカは素直に撫でさせてくれた。
いつも傍で見てて触り心地の良さそうだなーなんて思ってたスズカの髪は、想像以上にサラサラで触ってて気持ちいい。
「……おい、私がいるのを忘れるなよ」
「あ……すまん」
「エアグルーヴ!?こ、これは……えっと」
「仲が良いのは構わないが、場所は弁えろよ」
◇
それからスズカの足のチェックも終わり、今日のトレーニングは終了した。もう少し走ってもいいとスズカには言ったのだが、今日はやめておくらしい。
この後特に用事もなかったし、もう少し走るなら付き合おうと思ったのだが、思わぬ肩透かしをくらってしまった。
「はぁ……おっぱい。最近、おっぱいが不足してる気がする。あーでもエアグルーヴのおっぱい間近で見れたしなぁ。デカかったな……」
別にスズカが悪いって言ってるわけじゃもちろん無いし、あれはあれであの娘の個性でもあるからとやかく言うつもりは無いが、やっぱり物足りなさは感じてしまうのは仕方ないだろう。
思えばトレーナーになったきっかけだって、おっぱいデカいウマ娘の担当になってうまぴょいすれば触りたい放題だーってのがきっかけだったのに、俺スズカのトレーナーなんだよな。
ってことは、企画倒れしてないか?トレーナーってもう一人や二人くらい担当ウマ娘持ってもいいのかな……。
けど、トレーナーになる前の夢は叶えられるか分かんないけど、トレーナーになってから出来た夢はスズカとなら叶えられると思ってる。いや、叶えられると言い切っていい。それくらいスズカは俺には勿体ないくらいの凄いウマ娘だ。
おっぱいの夢は叶えられる機会は沢山あるかもしれないが、トレーナーとしての夢は今がピークかもしれないからな。俺も今はおっぱいから離れてスズカと二人三脚で頑張っていこう。
「はぁー!? 97!?ウッソだろお前!!なんじゃありゃあ!?」
双眼鏡に映ったタイキ超える山脈に、俺は思わず双眼鏡を落としてしまった。あ、ヤバい数秒前の決意が揺らぎそう。あんなの顔埋めながら揉むことできるじゃないか。あの娘、トレーナーいるのかな?もう一度見てみるか……
「……ん? 97……じゃない。あれ、7……1?さっきのおっぱいは!?」
もう一度双眼鏡を覗くと、先ほどの山は無く代わりにあったのは平原だった。
「よく見ればマックイーンじゃないか」
先日の休みの日に喫茶店で出会ったスイーツお嬢様こと、メジロマックイーンがグラウンドで走っていた。
かなり汗をかいてるあたり、そうとうな時間トレーニングに明け暮れているのが分かる。けれどあれは……、
「……あのやろう」
俺はその場から立ち上がり、全速力でマックイーンの元に走った。
「はぁ、はぁ……まだ、まだ足りない……!」
何かに焦るように、怯えるように、自分の身体に鞭を打ちがむしゃらに走り続けるマックイーン。そして徐々に足に力が入っていないのか踏み込みも弱く、重心もフラフラで今にも倒れそうだった。
「──マックイーンッ!!」
「……あ、あら? からだに……ちから、はいらな……」
そしてマックイーンはふらつきながら、地面に倒れ込んだ。幸いにもスピードは出ていなかったから足の負傷に関しては大丈夫だ。
「はぁ……はぁ、マックイーン!しっかりしろ……おい」
倒れたマックイーンの傍に駆けつけて彼女を抱き抱えると、異様なほど明らかに軽かった。
「……わた、しは……」
「ばかやろう、こんなんになるまで身体を痛めつけやがって……!」
「まだ……わたし……は、やれ──」
次第に小さくなっていくその声は最後には耳に届くことも無く、マックイーンは意識を手放した。
軽い貧血だ。命に別状はないが、ウマ娘にとっての命には限りなく関わってくる可能性はある。ある程度スピードが出ている中での貧血は、例え軽いものであっても転倒を引き起こす。スピードが出た中での転倒は、その弾みで脚を痛める可能性だってある。
貧血といえば、真夏の中での水分不足が主な発症だが、マックイーンの場合は過度の栄養不足。ただ闇雲に量を減らして、カロリーの高さ低さだけを見て判断する食事制限を行っていたからだろう。
彼女の何がそこまでの枷を自分に付けるのかは分からないが、もしルックスが関連しているのだとしたら……、
「ほんとに馬鹿だよお前……これ以上ぺったんこになってなんになるってんだよ……」
ご覧の作品では、巨乳派、貧乳派を応援しています(挨拶)
Q.お前はシリアスをしたいのかギャグをしたいのかどっちなんだ。
A.分からない。おっぱいに聞いて欲しい。
円弧のおっぱいとか、サイボーグおっぱいとかトレセンには夢があるのにどうしてトレーナー君は……くそっ!
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