突然だが、私の親友について話そう。我が紅魔館の地下に存在する大図書館に住み、滅多に外に出ないことから「動かない大図書館」と呼ばれている優秀な魔女、名はパチュリー・ノーレッジ。喘息持ちで根暗な本の虫と思われている彼女だが、本当は実に愛らしい少女であることを今日を機に皆に知ってもらいたい。
彼女の紫色の頭髪は、砂浜の白砂のようにきめ細やかでサラサラとしており、ウールのように柔らかい。彼女の周りを漂う香りは花のように甘く、平原に吹くそよ風のように透き通っている。
これは、私が咲夜と小悪魔に命じた賜物だ。
ベッドは人間の里の職人に特注で作らせた最高級のものを使わせている。
体の弱い彼女に対しての当然の気遣いだ。
本を読んでいて、そのままテーブルで眠ってしまわないように小悪魔に注意させておき、万が一眠ってしまった場合はすぐに咲夜にベッドへ運ばせる。
風邪をひいてしまったら大変だからね。
食事は最高級の素材を彼女の好みに合わせて調理させる。百年近い付き合いだ。味の好みも好物も知り尽くしている。食事中は、滅多に笑わない彼女が純粋に微笑んでくれる貴重な時間でもある。特に好物(これは君たちにも秘密だ)を食べた時の笑顔は、まるで蕾が花を咲かせるように美しく愛らしい。
ぺろりと食べてしまいたいくらい。
美鈴には魔理沙はすぐに通すように言いつけてある。え?あの居眠り門番にはわざわざ言わなくても勝手に通すだろうって?それは誤解というものだ。彼女は本当に通してはいけない存在は絶対に通さない。その点で私は彼女を信頼し、門番を任せているのだ。
少し話が逸れた。して、親友の本を盗みに来るあの人間を通す理由だが、奴の本意はどうあれ、パチェに会いに来る人間は貴重だ。親友の人生に彩りが加わるなら多少の侵入者程度は我慢しよう。
ここまでの話で私がどれほど彼女の事を想っているか分かってくれただろう。だからこそ許し難いことが最近起こっているのだ。
パチェは最近よく笑うようになった。そこまではいい。彼女が幸せなら私も幸せだ。しかし、その時に彼女の口から出るのがあの金髪の人間の話ばかりなのだ。
こんな事あってはならない。
私があの人間の侵入を許していたのは、どんな事があってもパチェの心が私の方を向いているという確信があったからだ。しかし、今のパチェは私の許容範囲を超えるほど、あの忌々しい人間に心を開いている。百年近い付き合いの私を差し置いて、何処の馬の骨ともわからない小娘に夢中だなんて許せない。パチェの心は私のもので、私の心はパチェのもののはずなのに。
だから、少し仕返しをしてやることにした。
「まっ、待ってよ」
パチェが目の前から立ち去ろうとする私の手を掴み、縋るような目で見つめてくる。こんな目を向けられたのはいつぶりだろうか。
「何?私はこれから出かけるの。あまり引き留めないで」
「今日は私とお茶会をする日でしょ?この前約束して……」
「あぁ、そんなこと言ったっけ。でも今日の約束の方が大切なの。長い付き合いでしょ?少しくらい許してよ」
「ダメッ……そんなの」
泣きそうになりながら彼女は必死に引き留めている。あぁ、ごめんよ。謝ってすぐにでも抱きしめてあげたい。しかし、それでは意味がない。私も同じくらい辛い目に遭ったのだから、君も同じくらい辛い目に遭わないと。
「この前からずっとそればっかり。私との約束を反故にして、霊夢やさとりのとこばっかり行ってる!ねぇ何でなの?気に入らない事があるなら直すから、私を嫌いならならいで……」
泣きながら懇願する姿が私の加虐心をくすぐる。もう十分反省していそうだが、自分がダメなところをわかっていないならもう少し続けるしかない。
「はぁ……まだわからないのか」
パチェを抱き上げ、彼女の寝室へ向かった。私の力なら瞬きする間に移動できる。一瞬で景色が変わったことに戸惑う彼女を勢いよくベッドに押し倒す。驚きの連続で頭が追いついていないところにさらに畳み掛ける。
「ねぇ、本当にわからない?」
その問いに対して、彼女は体を縮こまらせて首を横に振った。ここまでしてわからないなら仕方ない。私が体の隅々まで刻み込んでわからせてあげないと。
「君がいけないんだよ?この私を差し置いて、あんな人間風情にうつつを抜かすなんて」
「ま、魔理沙のこと……?あれは別に、そんなのじゃ」
「いいや違う。君は間違いなく奴に好意を抱いている。例えそれがほんの少しだけだとしても、私は許す事ができない。君の身も心も全て私のものじゃないと気が済まない」
抑えようのない気持ちが溢れ出してくる。自然と語気が強くなり、表情も怖くなる。あぁ、そんなに怯えないでくれ。それじゃあまるで私が悪いみたいじゃないか。本当は君が悪いのに。
「わ、私はそんなつもりじゃ、んっ」
力を入れて抑え込み、無理矢理キスをする。最初は弱々しい力で抵抗していたが、すぐに私を受け入れるように力が抜けていった。マシュマロのように柔らかい唇が触れ、彼女の砂糖水のように甘い唾液を味わう。絡み合う舌がこのまま溶けてしまいそうなほどの多幸感。永遠とも思える時間が経ち、一度唇を離す。
日に当たっていないせいで極限まで白くなっている彼女の肌が、薔薇のように赤く燃えている。乱れた呼吸音は、どんなオーケストラの音楽よりも聞き心地が良い。
「もう私しか見えないようにしてあげる」
私のその言葉に彼女は返事をしなかった。だが、その欲しがりな目を見れば、彼女はそれを望んでいるというのはすぐに分かった。
優しく上着を脱がせると、触れたら壊れてしまいそうなほど華奢な身体が露わになった。我慢できず覆い被さると、赤く火照った身体からドクンドクンと心臓の鼓動がこっちまで伝わってきた。きっと、私の鼓動も彼女に伝わっている。命の音が彼女が我が手中にあるという確信を与えて、密かに優越感に浸る。
手を握ると、彼女もすぐに握り返してくれた。体の弱い彼女が離したくないと必死に強く握る姿は愛らしく、お互いが求め合っているというのを伝えていた。
彼女の言葉にしないオーケーサインを受け取った私は、とうとう行動に出ることにした。鋭い牙を立てて、彼女の首筋に噛み付く。
「んっ……」
甘い声が漏れる。私の牙は吸血する際に痛みではなく快楽を与える。本来は食事に使う牙は、今の私にとっては、愛しい彼女を依存させるための媚薬のようなものだ。耳元から彼女の可愛らしい喘ぎ声が聞こえてくる。苦しそうにも幸せそうにも聞こえるその声が、私の支配欲を満たしていく。
彼女の血はどんな年代物のワインよりも深い味わいがあり、どんな甘味よりも甘い。体の弱い彼女から多くは吸血できないことは分かっているのだが、もっと欲しくなってしまう。それを何とか抑えて牙を抜く。
力無く倒れる彼女はビクビク痙攣しており、数度絶頂に達した事が見て取れた。乱れた呼吸を必死に元に戻そうと、懸命に息を吸っている姿が愛おしく、そっと頬に手を添えてその様を眺める。
「パチェ、大好きよ」
私の全ての想いをその一言に乗せる。すると、彼女は頬に添えられた私の手を握った。
「私も……大好きよ、レミィ」
今の彼女にはもう私しかいない。今の私にも彼女しかいない。二人だけの世界で、同じ想いを共有する。大好きだという、昔から変わらない想いを。
再びキスをする。まだ口に残っているパチェの血がお互いの口内を駆け巡る。パチェの香り、味、感触、声、心、その全てを感じ取る。
今日は、暑い夜になりそうね。