疾きこと風の如く   作:白華虚

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2021年9月16日(am8:02時点)
皆様のご愛読のおかげでランキング8位入りしておりました!ありがとうございます!

それと、今更ではありますが……「疾きこと風の如く」が私の執筆する作品の中で初めてのお気に入りが1000を超えた作品となりました。皆様、ありがとうございます!これからも皆様に楽しんでいただけるように頑張って参りますのでよろしくお願いします。


第十四話 お話しようよ、不死川君

「た、助かったんだ……」

 

 未だバクバクとなり続ける心臓の鼓動を感じつつ、緑谷が冷や汗を流しながら呟く。

 

 先程、個性把握テストは終わりを告げたばかりだ。当然のことながら、実弥は他を凌駕する記録を叩き出した。

 上体起こしでは、純粋な身体能力によって驚異的な回数を叩き出し、長座体前屈では身体能力を発揮出来なかったとは言えど、獣のような荒々しい動きを可能とする柔軟性を発揮。生身で平均以上の記録を叩き出した。そして、最終種目の持久走では周りに迷惑がかからないようにある程度加減していたとは言えど、決して速度が衰えぬ驚異的なスタミナと、ギアを最大まで引き上げた飯田、創造したバイクに乗っていた八百万ですら追いつけない速度を披露し、1位でゴールした。

 

 状況に応じて様々な道具を創り出せる八百万も、度々常人では決して出せない記録を叩き出すことでインパクトを残していたものの……純粋な身体能力を発揮する競技では、どうしても実弥に劣る。その影響でテストの順位は実弥が1位を勝ち取り、2位の八百万に続いて3位に轟、4位に爆豪……。と言った具合の結果となった。

 

 肝心の緑谷の順位は最下位。それも仕方のないことだった。オールマイトから引き継いだ"ワン・フォー・オール"を一度使えば、腕や足が簡単に骨折してしまう。痛みは人間の集中を削いでしまうものだし、何よりエリとの約束があった。だから、生身の身体能力で勝負する他なかった。

 ……だが、彼はいかんせん歩み始めるのが遅すぎた。入試までの10ヶ月の間で以前の彼の面影が無くなるくらいに体を鍛えたり、体力をつけることが出来たが、幼い頃からヒーローを志して努力を積み重ねてきた者達には劣ってしまう。驚異的な記録を叩き出せたのもソフトボール投げたった一つだけ。予感はしていたが、最下位を抜け出すことは出来なかった。

 

 ここで除籍になってしまうのかと師や母への申し訳なさでいっぱいになった緑谷だったが、彼が除籍されることはなかった。相澤が、除籍宣告を生徒達の全力を引き出す為の合理的虚偽として撤回したからだ。

 

 あまりにも心臓に悪すぎる。緑谷と既に仲良さげな麗日は口をあんぐりと開けたし、同じく仲良さげな飯田は叫ぶと同時に眼鏡のグラスを粉々に割っていた。そして、当の本人はどこぞの名画のような作風の顔付きで叫びを上げていた。

 

 八百万ただ1人が、「あんなの嘘に決まっているじゃない」と呆れていたが……それは断じて否。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 決め手は、ソフトボール投げ。土壇場で人差し指一点に力を集中させ、犠牲を最小限にした緑谷の行動が彼の気を変化させた。除籍宣告が本気のものであったことを知っていた、及び察していたのは相澤自身と実弥に、エリのたった3人だけ。実弥は、相澤消太という人物をよく知っている故に。エリは、その純粋さ故に真実を察していた。

 

 無論、そのことを他のクラスメート達が知る由はない。

 

 こうして、緑谷は辛くも除籍を免れたこれからも雄英で学べるんだという安心感と、どん底からのスタート故にまだまだ頑張らなければいけないという強い使命感で拳を握りしめていた。

 

「緑谷、ちょっとこっち来い」

 

 そんな緑谷に相澤が手招きする。最終的には怪我をしてテストを乗り越えたことに注意を受けるのだろうかなどと考えながら、側に歩み寄る。

 

 相澤はしゃがみ、緑谷と目線を合わせて話し始めた。

 

「緑谷。エリちゃんはな、お前もあのたった一回の行動で分かったろうが……とても優しい子だ。あの子は、お前の怪我を見て心を痛めた。自分の心を痛めようとも、お前を救けたいと心の底から願って"個性"を使った」

 

「……!」

 

 言葉が出なかった。結果的にエリの優しさに甘えることになってしまった。笑顔で人々を救けて人々を安心させるオールマイトに反して、自分は怪我をして幼い女の子を心配させてしまった。そんな自分が情けなくて仕方がない。

 

 緑谷は、俯き気味になりながら唇を噛み締めた。そんな彼の肩にポンと手を乗せながら相澤は続ける。

 

「ヒーローってのは、常に他人に安心を与えられなきゃ話にならん。自分1人を救ける為に大怪我されたらな、見てる方は辛いだけなんだよ。……オールマイトさんが、どうしてあれだけ沢山の人を笑顔に出来ると思う?理由は単純(シンプル)だ。強いからだよ。負け知らずで守るべき人達に傷一つすら見せない程にな」

 

「酷だが考えてみろ、オールマイトさんが負ける時や怪我をした時のことを」

 

 緑谷の脳裏に、オールマイトと初めて生で出会った時の話が(よぎ)る。

 

 骸骨のように痩せ細った体。白いTシャツの下から露わになった、無数の縫ったような跡の残る腹部。半壊した呼吸器官に、少し興奮しただけで血を吐いてしまう脆さ。

 

 ……初めて知った途端、不安になった。当たり前だ。あれだけ神のように全知全能で無敵だと思っていたオールマイトがただの人間でしかなく、脆く儚いのだと知ってしまったのだから。

 

 曇る彼の表情から、もしもを思い浮かべてそういう気持ちになったのだと察して、相澤は更に続けた。

 

「お前がそうなったようにな、見てる方は不安で辛くて仕方ないんだよ。俺だってそうだ。これまで、尊き自己犠牲とただの無謀や蛮勇を履き違えた者を見てきた。……俺やエリちゃんだけじゃないぞ、お前のご両親もそうなるはずだ」

 

 そして、肩に乗せていた手で軽く握り拳を作り、それを緑谷の胸部に軽くトンと当てた。

 

「だからこそ、お前は一刻も早く"個性"の制御が出来るようにならなくてはいけない。……もう二度と、お前の救けたいと思う人達にあんな顔をさせるんじゃないぞ」

 

「ッ、はい……!」

 

 力強く頷きながら返事を返す緑谷を見ると、相澤は満足そうに立ち上がり、スッとその場から立ち去っていく。

 

 その背中を見送りながら、緑谷は再び拳を握り、どん底から這い上がっていく覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周りを見れば、人、人、人……。A組の教室にて、実弥はクラスメイト全員の手によってあっという間に囲まれてしまっていた。――爆豪や轟を除く全員ではあるが――

 

 そして、現在は素朴なものから"個性"に至るまで質問責めにされているところである。

 

 とうとう痺れを切らした実弥は、半ばヤケクソの状態で手を叩いてから切り出した。

 

「あー、分かった分かったァ!聖徳太子じゃねェんだからよォ、同時に質問されても一つ一つ聞き分けるなんて器用なこたァ出来っこねェだろうがァ。順番に一つずつ聞いてこい」

 

 実弥の言葉にクラスメイト達は納得した様子を見せる。最初に挙手したのは、"透明化"によって透明人間と化している影響で空中に浮かんだ状態の衣服がなんとも特徴的な葉隠透。

 

「最初は……葉隠か。まァ、気軽に来いよォ。特に差し支えのねェ質問にならはっきり答えるぜェ。場合によっちゃ濁すか答えねェから、そこは分かってくれェ」

 

 実弥に指名されると、まさしく元気いっぱいで天真爛漫だと言わんばかりの声色で話し始める。

 

「オッケー!それじゃあ……不死川君の自己紹介をしてほしいな!名前と"個性"。それと、無難に誕生日と、趣味とか好きな物!最後は……やっぱりヒーロー科だし、好きとか尊敬してるヒーロー!」

 

「成る程なァ、了解したぜェ」

 

 質問の内容にお見合いかとツッコミを入れたくなった実弥だったが、ぐっと堪えてエリを膝に乗せた状態のまま答える。

 

「不死川実弥だァ。初日から爆豪(クソガキ)の対処で何度も迷惑かけたが……よろしくなァ。こっちが妹のエリだ」

 

「エリです。お兄ちゃん共々よろしくお願いします」

 

 軽く頭を下げて挨拶をしたエリをよく出来ましたとばかりに、優しく撫でてやりながら続けた。

 

「んで、"個性"は"全集中の呼吸"。詳細は後から改めて聞けェ。長くなるからそっちで答えてやる。誕生日は11月29日。趣味はカブトムシを育てること。好きな物はおはぎ。特にこの人だって限定はしねェが、ともかく真っ当にヒーローやって、見知らぬ他人の為に命を賭けられるヒーローってのは全員好きだなァ。強いて限定するんなら、オールマイトになんのかねェ」

 

 「あの人のように、未来を生きる子供達の人生を守れる男になりてェんだ」と語りながら話を締め括ると、「おお……!」という感嘆の声と共に拍手が沸き起こった。

 

 激怒してばかりの一面を見せられたクラスメイト達ではあったが、実弥の印象を「不良のような怖い人」から、既に「見た目にそぐわず、真面目で(主に身内や子供には)優しい人」に変えつつある。

 

 未来の子供達の人生を守る。何があってこういう考えに至ったのかは全く検討がつかないが、ともかくヒーローらしい理由なのは確か。

 目の前の男は、いつか必ず素晴らしいトップヒーローになる。早くもそんな予感がした。

 

 葉隠に続き、チャラそうな雰囲気と金髪が特徴的な上鳴電気が挙手をして尋ねた。

 

「じゃあさ、"個性"のこと教えてくれよ!その……"全集中の呼吸"ってやつのこと」

 

「おう、任せとけェ」

 

 "全集中の呼吸"は、実のことを言えば"個性"ではないのだが……改めて言っておくと、別世界の技術を技術だと説明したところで無駄だろうと感じた実弥は遅れて"個性"の発現が判明したということにして、詳細を色々とでっち上げているのだ。つまり、公的な書類上では、実弥は無個性ではないということになる。

 

「俺の"個性"は、ざっくり言ってしまえば常人より遥かに鍛えまくった心肺で行う特殊な呼吸法って奴だなァ。それで大量の酸素を取り込んで、血管や筋肉を強化・熱化させんのさァ」

 

「個性把握テストで見てた通り身体能力を大幅に上昇させたり、血管や筋肉を収縮させて傷口閉じて止血したり、心臓を一時的に強引に止めたり……万能じゃねェが、ある程度やれることはある。んで、俺の場合はこの呼吸を四六時中やってる。寝る時も含めてなァ。その技術のことは"常中"って呼んでるぜ」

 

 正直、心臓を止めることの利点がよく分からなかったクラスメイト達だったが、身体能力増加に飽き足らず、自分の傷を一時的に塞ぐことまで出来るとは、中々に応用性のある"個性"だと誰もが思った。

 

 ひょろひょろの体つきとセロハンテープのロールにそっくりな肘が特徴の瀬呂範太が考えるように腕を組みながら発言した。

 

「なんか説明聞く限り……"全集中の呼吸"ってのを四六時中やってる以上、それが不死川にとっての呼吸って感じだな」

 

「え、どゆこと?」

 

 このクラス内では比較的アホの部類になってしまう上鳴がポカンとしながら尋ねる。瀬呂はめんどくさがることなく説明した。

 

「要するに……俺ら生き物がさ、生きる為に普通の呼吸してんじゃん?その普通の呼吸が不死川にとっては"全集中の呼吸"になるってこと」

 

 掌にポンと拳を打ちつけて納得する素振りを見せた上鳴。その時、彼らの耳にブツブツと呟く声が届いた。

 

「成る程、身体能力を増加させる呼吸……!シンプルに強い!不死川君の無尽蔵と言ってもいいスタミナからしても、ぴったりの"個性"だ。しかも、身体能力の上がり幅は単なる増強系より遥かに上だし、オールマイト並みの圧倒的なもの……。不死川君の実力はどうなってるんだ?いや、そもそも"個性"の内容や瀬呂君の発言からしても、どちらかと言うとその本質は強靭な心肺の方が近い気が――」

 

 声の主は緑谷。幼い頃から繰り返してきたヒーロー分析によって身についた、頭の中でまとめきれないことを口に出す癖を発揮して実弥の"個性"の分析をしていたのだった。周りのクラスメイト達の多くは圧倒され、一部は引いている。後者は、彼から一歩距離を取っていた。

 

 ただ、実弥の場合は前世で個性的すぎる面子に慣れてしまっているので「緑谷は分析が得意なんだなァ」程度にしか思わず、彼の疑問に答える。

 

「強靭な心肺そのものが"個性"って解釈は正しいぜェ。ま、特殊な異形型みてェなもんだな。"全集中の呼吸"なんて言っちゃいるが、俺からすれば普通に呼吸してるだけだしなァ。因みに、身体能力の増加値については俺が心肺を鍛える程に上がる。こういう大層な名前にしてんのは、ナメられねェようにする為だァ」

 

 体を鍛えれば鍛える程に超回復を経て筋肉が付いていくのと同じく、"個性"も使用を重ねればいずれは強力なものに成長していく。その成長する対象が実弥の場合は自身の心肺だというだけである。

 

 それを経て、クラスの中でも飛び抜けた高身長の銀髪のリーゼントに鋭い三白眼と、口元を覆い隠したマスクが特徴の障子目蔵が挙手をして尋ねた。

 

「"個性"とはあまり関係のない質問かもしれないが……テストの時の動きを見る限り、不死川には既にランキング上位入りするプロヒーロー並みの実力があるように思える。お前がここまでどれだけの研鑽を積み上げてきたのか、個人的に興味があるんだ」

 

 特に特別なことをやった訳でもない実弥は数秒考えると微笑みを浮かべつつ、穏やかに答えた。

 

「障子ィ。正直……お前の期待してるような特別なことはしてねェぞォ。俺のやったことはシンプル。死ぬ程鍛えた、それだけだぜェ。とにかく体と体力作ってェ、木刀握って素振りしまくる。その繰り返しだァ。人間に出来るのは、たったそれだけのことだからなァ」

 

 そこから、心肺も同じようにして酸素の薄い所を走りまくり、刀を振りまくり、体を鍛えまくることで鍛え抜いたのだと付け加えた。

 

「俺の"個性"は特殊でなァ。自力で心肺を鍛えねェと発現しなかったんだよ。まあ……鍛えさえすりゃあ、誰でも心肺は強くなるもんだからなァ。それを常人じゃやらねェところまでとことんやり抜いた」

 

 「今じゃ、息一つ吹き込めば子供くらいのデカさの硬ェ瓢箪も破裂させられるんだぜェ」と懐かしむように笑う実弥を見て、彼は間違いなく血反吐を吐くような努力をしたのだろうと想像し、絶句した。

 

 結果的に"個性"が発現したとは言え、逆に言えばそれまでは無個性。自分に信念があるとは言えど、そんな状況下で極限まで鍛え抜くなど出来っこない。周りに批判されて、心がぽっきりと折れてしまう。それが結果だとそう思った。

 

 実力のみならず、精神力でも格が違うとその場の全員が思う。

 

 その時、緑谷が挙手をして尋ねた。

 

「し、不死川君。その……朝聞こうと思ってたんだけど、かっちゃんの件ですっかり聞くの忘れてて。もし言えないなら言わなくてもいいんだけどさ、エリちゃんが雄英にいるのってどうしてかなって思って」

 

 緑谷の疑問は皆の疑問だったらしく、誰もが内心で良くやったと彼を褒めた。

 

 尋ねられた実弥は、エリを優しく撫でながら考える素振りを見せる。慎重に話さなければならない話題故に結論を出すまで数秒かかっていた。

 

 その後、再び実弥が口を開く。

 

「明言は出来ねェから多少濁すが……エリは諸々事情があってなァ。プロヒーローの目につく所で守ってやる他ねェのさ。だから、こうやって教室まで連れてきてやってんだァ」

 

 その事情というのは、察そうにも全く察しがつかない。ただ、実弥のエリに対する素振り一つ一つから、彼女を理不尽から守り抜くという意志を感じ取れる。

 

 将来ヒーローになる者として、自分達も少女の未来を守れるようになりたい。自分達に出来ることをやって、大切な妹を全身全霊で守ろうとする実弥に力を貸したい。誰もがそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、様子見がてら教室にやってきた相澤に「程々にしておけよ」と釘を刺され、互いの連絡先を交換してから解散になった。

 

 エリと手を繋ぎ、誰一人除籍される者が出なかったことや、初日から自分の兄に沢山の友達が出来たことを喜ぶ彼女を微笑ましく見守りながら昇降口へ向かっていると――

 

「お、その白髪……!おーい!おーい!お前、入試の時の風の奴だよな!?」

 

「ちょっ、鉄哲!声大きいって!」

 

 背後から聞き覚えのある声が聞こえた。振り向いてみれば、実弥達に向けてぶんぶんと手を振る無造作な銀髪の少年とオレンジ色のサイドテールが特徴的な凛とした表情の少女の姿があった。

 

「おォ、入試の時の。2人揃って受かってたんだなァ。おめでとさん」

 

「おう、サンキュー!お前が落ちることはまずないと思ってたけどよ、いざ受かってるのが分かると嬉しいもんだな!」

 

「おかげさまでね」

 

 笑みを浮かべ、入試に挑んだ者達の中でも一層輝きを放たんとしていた彼らと握手を交わす。

 

 無造作な銀髪の金属少年は鉄哲徹鐡。そして、オレンジ色のサイドテールの凛とした少女は拳藤一佳と名乗った。

 

「鉄哲に拳藤だなァ。俺は不死川、不死川実弥だァ。クラスは別だが、よろしく頼むぜェ」

 

「おう、よろしく!」

 

「うん。……まあ、正直お前と別のクラスになっちゃったのは少し残念だけどな。色々と学びたいことあったし」

 

 苦笑しながら呟いた拳藤は、自分達をじっと見上げるエリと目線を合わせるようにしてしゃがみ、微笑みながら彼女に挨拶をする。

 

「こんにちは、お名前は?」

 

「こんにちは、拳藤さん。エリって言います。実弥お兄ちゃんがお世話になってます」

 

「あはは、まだ知り合ったばかりだし、そこまででもないけどね」

 

 ちゃんと挨拶も出来て可愛らしい子だなあと思いながらも、拳藤はふと疑問に思って尋ねる。鉄哲は、エリと実弥の顔を交互に何度も見比べていた。

 

「ところでさ……どうして、エリちゃんは雄英に?」

 

 実弥は、一瞬考えるように目線を上に移してから彼女の疑問に答えた。

 

「エリは俺の妹だァ。詳しく答える訳にもいかねェんだが……事情があってなァ。プロヒーローの目につく所で守ってやらねェといけないんだ」

 

「……そっか」

 

 事情と言うのは、敢えて聞かないことにした。妹とは言え、エリと実弥はあまりにも似ていない。恐らくは義理の妹なんだろうと拳藤は察した。そんな少女を連れ、プロヒーローに守ってもらわなければならない。余程、特別な事情があるはず。

 

 だが、馬鹿と自負しているだけあって空気を読むのは苦手らしく……鉄哲は思わず口にしてしまった。

 

「兄妹って訳か……。けど、似てねえんだな」

 

「こら、鉄哲!」

 

「いてっ!?」

 

 そこは突っ込んではいけない点だとばかりに、拳藤は軽く鉄哲を小突く。

 

「デリカシーってもんがないの……!?似てないってことはさ、ほら……!引き取ったとか、親の事情とか、明らかに特別な事情があるでしょ?」

 

「おお、それもそっか……。すまん、不死川!」

 

 ただし、その自負がある分、単純で素直らしい。拳藤の囁きに納得し、鉄哲は即座に頭を下げた。

 

「気にすんなァ、感じて当然のことだしなァ。悪気ねェのは分かるから心配ねェぞォ」

 

 実弥は、入試の時点で彼がどういった人物かを大方察していたので特に気にすることもなく、笑って彼を許した。

 

「……そうだ、不死川。俺はもう一つお前に謝らなきゃならないことがある」

 

「それを言ったら、私もだよ」

 

 顔を上げた鉄哲が突然、神妙な面持ちになる。拳藤もまた同じような表情になったかと思うと、2人同時に頭を下げた。

 

「「ごめん!」」

 

「……2人揃って急にどうしたァ?」

 

 正直、頭を下げて謝られるようなことを2人からされた覚えもなく、実弥は困惑気味に2人の顔を上げさせた。

 

 鉄哲は、己の罪を悔やむように強く拳を握り締めながら言った。

 

「いや、俺さ……不死川のこと、見た目で(ヴィラン)みてえなとんでもない性格してる奴だって決めつけてたんだ。こんな奴になんか絶対負けないってたかを括ってた。……その結果があのザマだ。0Pを怖がって腰抜かしてた奴らを見て、やっと動けた。逆に言えば、そうじゃきゃ俺は動けなかった!」

 

 拳藤も申し訳なさそうな顔で続ける。

 

「情けない話だけど、私も同じさ。これまで(ヴィラン)向けだって言われてきたお前の姿を見て、同じことを思ったよ。……お前に嫌味を言った輩と同じだったのが凄く悔しい。結局、不死川は私達の予想とは180度真反対の男で、あの場の誰よりもヒーローしてたよ。お前を見た目だけで疑った自分が恥ずかしくてさ」

 

 要するに、実弥の見た目を(ヴィラン)向けだと決めつけたことを謝りたかったということらしい。

 

 正直、見た目で勘違いをしたことをこうやって謝られた経験は多くない。だからこそ、余計に鉄哲と拳藤が綺麗な心の持ち主として実弥の目に映った。

 

「……そうかァ、そういうことかァ。まァ、そう思われるのは慣れてるからよォ、気にすんなァ。鉄哲も拳藤もあの試験で赤の他人の為に行動した。単に嫌味言ってきた彼奴らとは訳が(ちげ)ェのは分かってるぜェ。別に俺は気にしちゃいねェんだが、悔やんでるんならこれからの行動で取り返せばいいんじゃねェかァ?」

 

 ガシガシと頭を掻きむしった後、微笑みながら言う。そんな実弥を見た鉄哲と拳藤は、顔を見合わせながら安心したように笑った。

 

 ふと、疑問に思った実弥が尋ね返す。

 

「体育服着てるってことは……これから個性把握テストかァ?」

 

「おおっ、そうだった!これからなんだよ!グラウンドに集まるようにブラド先生に指示されてんだった!」

 

 鉄哲がハッとしながら、これからの用事を思い出す。そのまま彼はブンブンと手を振りながら実弥に別れを告げてグラウンドへと走り去っていった。

 

「わっ、鉄哲!?はあ、勢い凄すぎ……。因みにさ、A組が入学式にいなかったのは、そっちをすっぽかして個性把握テストやってた感じ……?口振りからして、既に受けたんだろうなあって思ってさ」

 

「ま、そういうことだなァ。初日から除籍宣告されてほとんどの奴らが慌ててよォ、全員が全員必死こいてたなァ」

 

「ええ……?お前の担任厳しすぎない……?」

 

 実弥が笑いながら放った一言に、拳藤は顔を引き()らせながら苦笑して呟く。

 

 ただ、「あの人なりの優しさって奴だぜェ、なあ?」とエリを撫でながら放った彼の一言を聞けば、酷いとは言えず。不死川が言うならその通りなんだろうな、と素直に思った。

 

「ま、ともかく……これからよろしくね。私もそろそろ行くよ。また明日ね、不死川。エリちゃんも」

 

「おう」

 

「またね、拳藤さん」

 

「あっと、ごめん。頼みたいことあったんだった」

 

 自分の靴箱に手をかけた拳藤がふと思い出したように振り返る。「何だァ?」と実弥が尋ねてみれば、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべた。

 

「あのさ、入試で私が抱えてた電気の奴……多分A組だろ?不死川さえよかったら、礼を言っといてくれない?救けてくれてありがとうってさ。それと……女子の前でアホ面晒したら、折角の男前が台無しだぞって」

 

「……おう、言っとくぜェ。そっくりそのままなァ」

 

 「ありがと。んじゃ、よろしく!」と言い残し、拳藤は鉄哲の背中を追って走り去る。「頑張れよォ」と激励してやりながら彼女の背中を見送った実弥は、込み上げてきた笑いを(こら)えきれずに失笑した。

 

「やれやれ、初日から黒歴史が出来たなァ。上鳴の奴はよォ」

 

 自分もあのアホ面は未だに脳裏に焼き付いているが、よりによって女子に覚えられてしまっているとは何という災難だろうか。せめて、その黒歴史を笑い話に変えてやろうかねェと実弥は内心でほくそ笑む。

 

「そんじゃあ……約束したし、林檎買いにいくか」

 

「!うん!」

 

 初日からキレまくるわ、担任から除籍宣告を下されるわとドタバタだったが、これから賑やかになりそうだと実弥は微笑み、エリと手を繋いで買い出しに出かけるのであった。

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