疾きこと風の如く   作:白華虚

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2022/11/3
タイトルを変更しました。


第十五話 穏やかな学校生活

 雄英高校ヒーロー科。日本国内屈指のヒーロー養成校及び学科だが、ヒーローに関する勉強だけをしていればそれで良しな訳ではない。午前中は現代文や英語を始めとした、他の生徒達と同じような座学を行う。

 

 そもそもの偏差値がとても高く、屈指の最難関校とも言い換えられる雄英は普段の授業も難易度が高いと共に進行スピードが早い。授業の初日は中学校の時の復習程度のものではあったが、既に四苦八苦している者もいた。授業の内容自体は他の高校と特に変わりなく普通だが、強いて違いがあるとすれば……担当する教師が全員プロヒーローだという点だ。一部の者にとってはそれだけでも光栄なことらしく、やる気に満ちている者もいるようだ。

 

 勿論、実弥は真面目に授業を受けた。その頭の良さ故に初日から四苦八苦していた上鳴や芦戸に頼られたのは言うまでもないだろう。

 

 そして、午前中の授業を受け終え、昼休みを迎えた。雄英には大食堂があり、そこでクックヒーロー・ランチラッシュの調理した絶品の料理を安価でいただき、大人数で集まっての食事ができる。実弥とエリは雄英に度々足を運んでいたが故にもう馴染みの味だ。

 

 今回、エリを連れた実弥は蛙吹、峰田、上鳴。3人のクラスメイトに加え、鉄哲と拳藤を交えて食堂を訪れていた。

 

 こんこんと出汁の浮く汁の旨味が染み込んだ鮭大根を味わう実弥に、蛙吹が話しかける。

 

「不死川ちゃん。初日から色々あったから忘れちゃって、今更になってしまうのだけれど……入試の時は救けてくれて本当にありがとう。誰よりもヒーローらしかった貴方のおかげで私もやる気を貰えたわ」

 

「おう、いいってことよォ。当然のことやっただけだからなァ。大したことはやってねェぞォ」

 

「いいえ、人救けは立派なことよ。何より、入試って他人同士が蹴落とし合う場所なんだもの。そんな場で不死川ちゃんは私と峰田ちゃんを救けてくれた。これ以上ないくらいに素晴らしい話だと思うわ」

 

「立派なのは蛙吹もだろォ。情けねェ悲鳴上げて喚いてた峰田を守ってやってたんだから。あの場にいた奴らは、大抵が峰田を見捨てただろうよォ」

 

 入試の時に初めて会った相手の姿を思い出しつつ、互いが語る。互いが互いを認め合った上で成り立つ会話。2人が友人として良い関係を築いていけそうなのは誰から見ても明らかだった。

 

 そんな彼らを見つつ、峰田も弁明せんと声を上げ、説教から逃れんとする子供のように畳みかける。

 

「情けねえ悲鳴とか言うなよ!オイラ達、この前まで中学生だったんだぞ!?ロボとは言え、あんなに大量のロボに囲まれたら怖いに決まってんだろうが!お前と蛙吹の肝が据わりすぎてんだ!……とにかく不死川はオイラの命の恩人だよ、ありがとな!これできっとモテるに違いない……!希望に満ちたハーレム生活がオイラを待っている!」

 

「動機が不純なんだよ、テメェはァ。だから、ロボ相手にああなるんだァ。まァ……峰田の場合は泣き喚きながらもロボ共に立ち向かったし、幾分かマシかねェ」

 

「グサッときたけど、落として上げるのが上手いなお前ぇ……!オイラ頑張るぞ!けど……動機が不純だって言ったのは許さねえ!不死川、モテる奴には分からねえだろ!?モテたくて仕方ない奴の気持ちがよぉ!」

 

「はァ……。そうですかそうですかァ」

 

 「おいコラ、こっち向け!このイケメン畜生が!」と血走った目で爆豪並の怒りっぷりを見せる峰田を(ことごと)くスルーし、実弥は彼に呆れた視線を送る。このまま放っておくと鉄哲や拳藤達にも飛び火しかねないので、適当に聞き流した後に血走った目で睨みつけて黙らせておいた。

 

 実弥の中で、早くも峰田がエリの教育に悪い要注意人物として認定されてしまった瞬間だった。

 

「にしても、木刀振った余波で鎌鼬発生させるとか……まるでオールマイトだよなあ」

 

 冷や汗を流しながら縮こまった峰田に「ご愁傷様」と手を合わせながら、上鳴がコップいっぱいに注がれたコーラを口にしつつ呟く。

 

 彼の呟きを聞いた実弥は、目を見開きつつ意外そうに言った。

 

「アホ面の時もちゃんと意識あんのかァ。驚いたぜェ」

 

「ぐふっ!?酷くね!?俺のことをなんだと思ってるの、不死川ぁ!」

 

「チャラいアホ」

 

「酷え!?ちょっと!いくらなんでも悪印象すぎるだろ!?何が原因!?」

 

 槍が突き刺さったかのようなズキンとした痛みが生じた胸部を押さえつつ、上鳴がどこかしょぼんとした顔で捲し立てる。「こいつもかァ」と言わんばかりの呆れた表情の実弥を見つつ、拳藤が苦笑しながら言った。

 

「ごめん。正直ね、私も不死川と同じこと思ったよ。だって……上鳴さ、私が何回も声掛けたのにまともに受け答え出来てたかすら分かんないんだもん。不死川に伝言頼んでたから言われたと思うけど、女子の前でアホ面晒すのはやめなよ。折角カッコいいことしても全部台無しになるからさ」

 

 その一言がトドメになったのだろうか。上鳴は白目を剥いて「ぐふっ」と間抜けな声を上げながら、胸部を押さえたまま大袈裟に仰け反った後に1人膝から崩れ落ちた。

 

「ただでさえ、不死川に朝から言われて女子にアホ面見られたことに傷心してたのにっ……!それ以前に、女子にお姫様抱っこされたことで傷心してたのにっ……!!!本人から言われたらもっと傷つくぜ……。俺が一番分かってるんだ、そんなこと……!」

 

「ごめんて」

 

 周りの空気が淀む程に沈み込んだ上鳴の肩を、再び苦笑している拳藤が慰めるようにポンポンと優しく叩いてやる。

 

 そうされながら、「モテたいのに黒歴史晒すなんて最悪だ」と呟く上鳴。それを聞いた蛙吹がふんわりモチモチのパンを一口サイズに千切りながらズバッと切り込んだ。

 

「上鳴ちゃん。私、思ったことは何でも言っちゃうの。モテたいってあちこちに公言してる時点でモテないと思うわよ」

 

「ごふっ!?」

 

 そして……鉄哲の一言がオーバーキルになった。

 

「俺、馬鹿だからモテたい云々(うんぬん)とかよく分かんねーけどよ……。本当に好きな人見つけて、その人と誠実に向き合う熱いもんが恋愛ってやつなんじゃねえのか?毎日を必死に頑張って生きてりゃあさ、その頑張りを認めてくれる人が現れるだろ。多分!」

 

「ぐふぁぁぁっ!?」

 

 雰囲気同様にチャラく、これまで何度もナンパをやってきた上鳴だが……その結果は言うまでもなく失敗に終わっている。心の中では正論を理解していたのかもしれない。だからこそ、鉄哲や蛙吹の言葉は心に深く突き刺さってしまった。

 

「うわあああっ!峰田ぁ、慰めてくれぇ……!モテねえ男は辛えよぉ!」

 

「おお、同志よ……!オイラも分かるぞ……!やっぱり、オイラ達はいい友達になれそうだな……!」

 

「峰田ぁ……!」

 

 友達というのはとても心強い。心が砕け散っても、理解者である彼らが側で支えてくれるのなら再び立ち直れるというもの。それは、上鳴も例外ではない。峰田と上鳴……モテたい男同士の変な友情が確立された瞬間だった。

 

「……メンタル凄いね、上鳴。そんなんだからモテないんだよ、うん」

 

「鋼のメンタルって奴か!金属の体を持つ俺も見習わねえとな!」

 

 呆れ気味に顔を引き()らせる拳藤と、拳を握りしめるどこかズレた鉄哲。

 

 一方で、峰田と変な友情を確立させた上鳴も要注意人物として認定しつつ、実弥はため息混じりに鮭大根を平らげた。蛙吹も「懲りないわね、上鳴ちゃん」と呆れた声色で呟く。

 そして、実弥がふと左隣にちょこんと座るエリに視線を向けると……微笑ましそうに笑っていた。

 

「……どうしたァ?」

 

 微笑み返しながら尋ねると、エリはクスクスと笑いながら答える。

 

「ふふ……。実弥お兄ちゃんと蛙吹さん、似てるなあって思って。上鳴さんの悪いところをはっきり指摘しちゃう所」

 

 そう言われて顔を見合わせる実弥と蛙吹。確かにその通りだと同時に納得し、笑った。

 

「不死川ちゃん、立派なお兄さんなのね」

 

「まァ、エリも含めて10人以上の弟妹達の世話をしてきたからなァ。……俺が嫌われようが構わねェ。言いたいこと、言うべきことは心を鬼にして、はっきり言っておかねェとなァ。ズルズル引き()って拗らせちまう」

 

 遠くを見るように穏やかに呟く実弥。そんな彼の表情を見て、どこか悲しさを覚えつつも蛙吹は微笑んだ。

 

「そうね。……私にも弟と妹がいるの。弟が1人と妹が1人。子供は純粋よ。だからこそ、良いことと駄目なことの区別が付かない。少しでも良い人生を生きられる人間になってほしいから、言いたいことははっきりと言っちゃうわ。勿論、クラスの皆に対しても同じよ」

 

「そうかァ、蛙吹も立派な姉ちゃんだなァ。弟と妹は大事に愛してやるんだぞォ」

 

「ケロケロ、勿論よ。……やっぱり似てるのね、私達」

 

「そうだなァ」

 

 守らなければならない幼い家族を持つ同士、見守るべき家族がいる同士、通ずるところがある。

 

 自分達は良い友達になれそうだ。当の本人達が早くもそう思っていた。

 

「ところで不死川ちゃん。私のことは梅雨ちゃんと呼んで」

 

「つっ……!?」

 

「お友達にはそう呼んでほしいの」

 

「…………分かったぜェ。ただなァ……そういうのは慣れてねェから、心の準備が要るんだよなァ。ちょっと待っててくれねェかァ?」

 

「ケロケロ。自分のペースで良いのよ、不死川ちゃん。でも……心の準備なんて大袈裟なことをされちゃうと、少し恥ずかしくなっちゃうわね。好きな人に名前を呼ばれる時みたい」

 

「……すまねェ、そんなつもりはねェんだァ」

 

「良いのよ、分かってるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 腹ごしらえと一時の休息を終え、午後の授業が始まる。普通の高校なら、午前の授業に引き続いて必修科目を始めとしたごく普通の授業を行うところだが……雄英のヒーロー科は違う。

 

 午後は誰もが楽しみにしている科目……ヒーロー基礎学の時間だ。ヒーローの素地を形成し、立派なプロヒーローになる為に一歩ずつ歩みを進めていけるよう、戦闘や救助を始めとして様々な訓練を行う時間。

 

 当然、ヒーローの卵であるA組の生徒達は期待を馳せて胸を躍らせている者がほとんどだった。授業の内容としても楽しみが大きいが……彼らが一番楽しみにしているのはやはり――

 

「わーたーしーがぁ!普通にドアから来たっ!!!」

 

 平和の象徴と謳われ、讃えられるNo.1ヒーロー、オールマイトからの教えを請うことが出来る点だ。ファン達の間で銀時代(シルバーエイジ)と呼ばれる、白いラインの入った赤いスーツと裏地が赤色の青いマントが特徴的な戦闘服(コスチューム)に身を包みながら、ルンルンと教壇に足を運ぶ彼の姿に誰もが目を輝かせていた。

 

(へぇ……。塚内さんや校長先生から聞いちゃいたが、本当にオールマイトさんが教師をやってんのな)

 

 実弥もまた、興味津々に教壇に立つオールマイトをじっと見つめる。オールマイトが教師となることは機密事項であったらしく、予め他言しないという条件の元で塚内や根津から彼が今年から教師として雄英に勤めることを聞いてはいた。だが、こうして目の前でオールマイトの姿を見られたことでそれが真実だったんだなと実感出来る。

 

 お馴染みの眩しい笑顔でヒーロー基礎学の概要をザッと説明するオールマイトを見守りつつも、実弥は塚内の言葉を思い出していた。

 

「オールマイトが教師とは言うけど……私は思うんだ。彼は、絶対教師には向いてないって。不死川君も見てたら分かるよ、多分」

 

 苦笑しながら繰り返す彼を見て、No.1ヒーローに教えを請えるだけで光栄な話なのだがと常々考えていたのを覚えている。

 

(どう向いてねェか……見せてもらいましょうか)

 

 長年の付き合いである親友の言葉だし、十中八九事実なのだろうが、自分の目で実際に確かめなければ分からないというもの。教師オールマイトが如何程のものか、お手並みを拝見させてもらうことにしよう。そう思いつつ、実弥はオールマイトの話に耳を傾ける。

 

「ということで、今日の訓練は……これ!戦闘訓練だ!」

 

「戦闘ッ……!」

 

「訓練……!?」

 

 ボディービルダーのように自身の筋骨隆々な肉体を見せつけるようなポーズを取りながらオールマイトが掲げたのは……BATTLEの文字が描かれたプラカード。

 

 それを見た誰かが(ヴィラン)さながらの不敵な笑みを浮かべて闘争心を燃やし、また誰かが緊張気味に息を呑んだ。

 

「そして、そいつに伴って……こちら!各々の個性届や要望に沿って誂えた戦闘服(コスチューム)だ!」

 

 続けて、オールマイトがいつの間にか手にしていたリモコンのスイッチを押した。すると……教室の壁が隆起し、彼の腕が伸びる先に生徒達の出席番号が刻まれたスーツケースを収納している棚が現れた。

 

 ヒーローと言えば、戦闘服(コスチューム)あってこその職業。己の"個性"を最大限に活かせるそれを纏って人々を救け、悪を退けるその姿が単純にかっこいいが故にヒーローに憧れる者は少なくない。誰もがそれを身に纏って活躍する自分を夢見ている。それは、A組の生徒達も例外ではない。

 

 自分が夢見た姿になれるのだと誰もが心を躍らせる中。実弥はただ1人、気を引き締めていた。それも(ヴィラン)との戦闘漬けの日々を送り、真のそれの非道さや恐ろしさを知るが故。訓練を訓練と思っている内は、その非道な所業に対応出来やしない。気を緩めることなく、引き締めたままで挑み、己を高める為に周りから凡ゆることを学び取る。

 

 ――全ては、エリや未来を生きる子供達の為に。

 

 自身の戦闘服(コスチューム)が収納されたケースを手に、生徒達は各々の思いを抱いて更衣室へと向かっていった。

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