疾きこと風の如く   作:白華虚

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2023/6/14
隊服の説明にちょっと間違いがあったので修正入れました。


第十六話 懐かしき戦闘服(コスチューム)

「……要望通りだなァ。着心地も昔と殆ど変わらねェ」

 

 相澤にエリを預け、更衣室にやってきた実弥は早速自身の戦闘服(コスチューム)に身を包んでいた。

 

 一番下以外のボタンを全て開け放った状態の微かに緑がかった黒い襟詰。草履に襟詰と同じ色の足袋。そして、「今よりも疾く、誰かの元に風の如く駆けつける」という意味を込めて「颯」の一文字が背中一杯に刺繍された白い羽織。

 

 前世の鬼殺隊の隊服と全く同じ格好だった。そもそもの話、実弥にとってはこれが戦闘するに()いて最も相応しい格好だ。特別な繊維で出来ているが故に通気性が良く、濡れにくい上に燃えにくい。しかも、雑魚鬼の爪や牙如きでは隊服を裂くことさえ出来ない。耐久性の面でも十分過ぎる。だからこそ、これを選んだ。何より、この服装になることで安心してしまう自分がいる。

 

 その隊服に加えて、サポート会社の方に様々な要望を出しておいた。

 

 まずは、ヒーローであるが故に殺傷を行うことが出来ない為に用意した鉄刀。

 本来の刀で言えば刀身に当たるであろう部分を緑色に染め、波打ち渦を巻く風のような模様を刻みつけている。鍔は、八つの菱形を円形に組み込んだ風車の形状。鞘は、黒地に荒傷が入ったようなもの。前世で扱っていた日輪刀と大差ない見た目に仕上がっていた。

 かつて「惡鬼滅殺」と刻まれていた部分には、「悪者撃滅」の四文字が刻まれている。人々の未来を脅かす(ヴィラン)を二度と悪さをする気が起きない程に打ち滅ぼす。そして、未来を生きる者達に幸せを(もたら)す。そんな願いを込めて。

 因みに、風の呼吸の特徴である苛烈な連撃を十分に発揮する為に、硬い上に軽いアルミニウム合金を素材としている。

 

 加え、鉄刀だけでは心許ない為に全長が自身の背丈程もある、持ち手の部分に緑色の紐を巻きつけた巨大な十手も要請しておいた。こちらも実弥の動きの妨げにならないようにアルミニウム合金を素材にして作られている。

 

 次に、足に取り付けた革製のホルスターに収納された黒い拳銃。回転式のもので日本の警察が多数運用している種類である。腰のベルトの右側に取り付けたショットシェルポーチには弾丸がいくつも用意されているが、殺傷を避けた方がベターな故に実弾はない。ゴム弾や赤色のペイント弾のようなハッタリに用いる物や、催涙弾などの相手の戦意を奪える物ばかりだ。

 

 最後に、懐に仕込んだ不意打ちに使用する隠し武器や道具達。前世から愛用している、瓶一杯に注がれた油とマッチ。それと、閃光弾とまきびし。他にも強烈な高周波を発する玉――以降は音響弾と呼称する――や、相手の視界を塞ぐ為の発煙弾などがある。

 

 使える物は何でも使うスタイルである為、剣術に頼り切りにならないように様々な工夫を施していた。

 

 戦闘服を着用した実弥に、水色を基調にしたノースリーブの戦闘服(コスチューム)と、いつも通りに口元を覆い隠すマスクを身につけた障子が話しかける。

 

「それが不死川の戦闘服(コスチューム)か。……ふむ、制服?いや、見方によっては軍服にも見えるな。日本の伝統に(のっとっ)たという訳か。いずれにせよ、様になっている」

 

 着慣れた隊服を褒められたも同然の状態に、実弥は鬼殺隊が他人に認められたかのような気がして少し嬉しくなり、微笑んだ。

 

「そうかァ?ありがとうなァ。障子も忍って感じで様になってるぞォ」

 

「忍か……。言われたこともなかったな。素直に褒め言葉として受け取っておこう」

 

 他愛もない会話をしながら、集合場所として指定されたグラウンドβに向かう。そうしている内にクラスメイト達が着替えを終えて続々と集まってくる。

 

 鬼の牙のような刺々しいデザインのヘッドギアを取り付け、赤いキャタピラのようなショルダーを取り付けたのみでそれ以外は上半身に何も身につけていない切島。

 テープカッターのような形のフルフェイスマスクを身につけた瀬呂。

 イヤホン型の通信機器を取り付け、白い稲妻のようなラインが走った黒いジャケットを身につける上鳴。

 

 各々の"個性"が表に出たような特徴的な戦闘服(コスチューム)が多く、個性的で十人十色。鬼殺隊における黒に統一した襟詰の隊服を見慣れている実弥からすれば、見ているだけで楽しくなれた。

 

 集合場所のグラウンドには女子も含めて何人かが既に集まっていて、口々に互いの戦闘服(コスチューム)を褒め合っていた。

 

 実弥もまた、「軍人みたい」とか「風来坊みたい」だとか評価を貰っていたのだが……。

 

「……八百万ゥ、その格好はどうしたァ……?」

 

「え?どこか変でしょうか……?」

 

「……うん、不死川。言いたいことはすっごく分かるよ、ウチも分かる」

 

 実弥は、八百万の戦闘服(コスチューム)にとても困惑した。赤を基調にした、胸元からへそにかけてぱっくりと開かれたレオタードに、腰の辺りを覆う厚めのベルト。正直言って、同じく鬼殺隊の"柱"だった、凡ゆる物に胸をときめかせ、実弥が最も仲の良かった"蛇柱"の男に恋をしていた少女よりも露出度が高い。

 

 首を傾げて不安気な彼女を前にした実弥は、羞恥心のないらしい彼女の無防備さがとても心配になった。

 

(ミッドナイトさんもそうだが、今の女性ってのは……過度な肌の露出に抵抗ないのかねェ)

 

 目のやりどころに困り、下手な場所に視線がいかないようにしつつ、黒いジャケットやヘッドホン、頬の赤い三角形のメイクと言ったロッキンガールをイメージした戦闘服(コスチューム)の耳郎響香に話を聞く限り、あれでも初期案からだいぶ手直しされたのだそうだ。最初の要望では、最悪法に触れてしまう程の露出度だったのだろうと想像するのは難くなかった。

 

「……まァ、なんだ。"個性"のこと考慮した上でそうなってんなら仕方ねェけどよォ……体は大事にしろよォ。変なことされたらすぐに言え」

 

「……?は、はい」

 

 実弥が髪をガシガシと掻き乱しながら言った言葉の意図も把握しきれていないという感じだ。同年代の少年達に比べて古い価値観を持つ男として、守ってやらなきゃ駄目だという使命感が働いた。

 

「不死川、見た目に反してめっちゃ優しいよね!」

 

「ねー!絶対モテるよ、不死川君!」

 

「女性には優しくするようにって散々言われてきたしなァ」

 

 芦戸と葉隠から飛んできた黄色い声に答えながら振り向いた実弥は、()()()()()()()()()()()()()を見て再び絶句した。

 

「し、視線が凄いよ!?どうしたの、不死川君!?」

 

「おーい?どしたのー?」

 

 目の前で芦戸に手を振られたことで硬直した状態から立ち直り、聞きにくいと思いつつも実弥は尋ねた。ともかく、空中に浮かぶ手袋の主は葉隠で間違いはなさそうだ。

 

「なァ、葉隠。流石に……戦闘服(コスチューム)に透明化のギミックつけてんだよなァ?」

 

「へ?」

 

 実弥の質問に対し、葉隠は呆けた声を上げる。宙に浮かぶ手袋と、ポツンと姿を露わにしている靴。とても嫌な予感がしていた。

 

 そして数秒後……。葉隠が悪びれもなく答えた。

 

「ううん。今の私、何も着てないの!身につけてるのは手袋と靴だけ!」

 

(((((な、何も着てない!?)))))

 

 ごく普通な思春期の少年達に、葉隠の何も着てないというワードに反応するなという方が難しい話。八百万の件でドギマギとしていた感情を友達との会話で紛らわそうとしていた彼らであったが、その感情が復活し、葉隠の方に釘付けになってしまった。

 

「お前ェ……マジかァ……。マジかよォ……」

 

 八百万どころの話ではなく、嫌な予感通りに何も着ていないと来た。姿が周りには見えないからとかそういう次元の話ではない。実弥はため息混じりに天を仰いだ。

 

「……不死川君がめっちゃため息()いとる」

 

「ケロ、本当ね。なんだか新鮮に思えちゃうわ」

 

 実弥の想像もつかない姿に麗日と蛙吹は興味津々とばかりに彼の様子を(うかが)っている。

 

 そんな興味津々な視線を他所に、実弥は自身の白い羽織を葉隠に羽織らせてやりながら困惑の拭い切れない顔で口を開く。

 

「あのなァ、見える見えねェの話じゃねェんだよなァ……。いつか怪我するぞォ」

 

「ふぇ?不死川君、急にどうしたの?羽織、着なくていいの?」

 

「いいからァ……戦闘訓練で自分の番が来るまで羽織っとけェ。年頃だし、肌は大事だろォ。取り敢えず、葉隠は改めて戦闘服(コスチューム)の要望出しとけェ」

 

 肩の辺りをぽんぽんと優しく叩きながら、実弥は雄英入学前から度々世話になっている先輩のことを思い出しながら続けた。

 

「見てる限り、髪にも"個性"は反映されてるんだろ?知り合いに"個性"を発動すると()()()()()()()()()()()()()()()()()。その人は戦闘服(コスチューム)に自分の髪を使ってるらしいぜェ。そのおかげで、"個性"を発動すんのに合わせて脱げないようになってる。葉隠も同じような要領で服に透明化を適用出来るんじゃねェかァ?」

 

 実弥の提案を聞いた葉隠は、思いもよらぬ名案を聞いたとばかりに実弥の手をぎゅっと握り、ブンブンと腕を振った。

 

「流石は不死川君、私じゃ思いつかないことを思いつくなんて!いやあ、男の子の意見も大事だねぇ。ありがとう、不死川君。帰ってから早速考えてみるね」

 

「おう。……まァ、とにかくだァ。八百万と葉隠に言っとくが、思春期の男子の想像力を甘く見ねェ方がいい」

 

 葉隠は肩を跳ねさせながら硬直するも、八百万の方は実弥の発言の意図を汲み切れずに首を傾げている。一方で、他の女子は彼の発言に同意してしみじみと頷いていた。

 

 ズカズカと歩みを進めて男子の輪の中に戻る実弥を見送る彼女達の中で、彼の評価が一段階跳ね上がった瞬間だった。

 

「……おい、お前らァ。下手なことしたら、分かってんなァ……?」

 

「「「「は、はいっ!」」」」

 

 男子の輪の中に戻った実弥が拳を鳴らしながら釘を刺す。満面の笑みであれど、そこに般若のような恐ろしさを感じ、多くの男子生徒が不死川の前で変な想像するのはやめておこうと固く誓ったのは言うまでもない。

 

 その後、A組の皆もそろそろ揃った頃かな、とオールマイトがグラウンドβを訪れたものの、彼の目の前にとんでもない光景が広がっていた。

 

 パツパツで体のラインが浮き出てしまう薄手のスーツを身につけた麗日に下心丸出しの視線を向けながら「ヒーロー科最高」と呟いていた峰田の首根っこを、実弥が鷲掴みにしていたのだ。すぐ(そば)には明らかにオールマイトを模したのであろうスーツとフルフェイスのマスクを身につけた緑谷がいて、オドオドしながら実弥をセーブしている。

 

 愛弟子の戦闘服(コスチューム)の分かりやすさに微笑ましく思いつつも、新米故にこういう状況でどうすべきか分からないオールマイトは大変困惑したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっほん!まあ色々あったみたいだけど……説明を始めていくぞ!」

 

 開始前から一悶着あったものの、何とか授業の概要を説明するところまで辿り着くことが出来た。

 

 不良さながらの見た目に反して、上の者が指示を出せば素直に言うことを聞く実弥の真面目さにホッとしつつ、オールマイトが白い歯をキラリと輝かせる眩しい笑顔でそう切り出した。

 

「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!」

 

 レースカーのようなスタイリッシュでカッコいい見た目の鎧やフルフェイスの兜を身につけた飯田がピンと挙手をしながら、ハキハキと尋ねる。

 

「いいや、もう2歩先に踏み込む!今日行うのは……屋内での対人戦闘訓練だ!」

 

 2歩を意味したピースサインと共にオールマイトが放った一言に、生徒達から一斉に質問が飛び交う。

 

 不安なことや不明なことをすぐに質問するのは勇気が要るが、とても良いこと。社交的で素直な奴らばかりだなァと思いつつも、実弥は今の状況に感動を覚えているオールマイトにチラリと視線を向ける。

 

 一先ず、詳しい概要から説明することに決めたのだろうか。オールマイトが懐からとても小さい掌サイズのメモ用紙を取り出した。……所謂(いわゆる)、カンペという奴だろう。それを取り出して説明を始めたオールマイトを見た瞬間、実弥は塚内の言葉が真実だったことを理解した。

 

 実弥の内心は一度置いておくとして、訓練の概要説明に移ろう。

 

 今回の戦闘訓練で行われるのは、2人1組のヒーローチームと(ヴィラン)チームに分かれての屋内における戦闘。

 核兵器が隠された(ヴィラン)のアジトにヒーローが潜入するというアメリカンな状況設定が設けられており、ヒーローの勝利条件は、制限時間内に核を見つけ出して確保するか、相手チームを両方とも捕獲して無効化することのいずれか一つ。(ヴィラン)の勝利条件は制限時間いっぱいで核を守り切るか、相手チームを両方とも捕獲して無効化することのいずれか一つ。

 

 やること自体は比較的シンプルなものに収まっているようだが、ミソなのは入試の時のようにロボをただ単に破壊するのとは訳が違って、相手は同じ人間であることだろう。勿論加減が必要だし、状況設定を常に頭に置いた立ち回りを心がけなければならない。下手な攻撃で核に刺激を与えて爆発させでもしたら、それこそ取り返しのつかないことになる。常に訓練を訓練だと思わず、実戦だと想定して動けということなのだろう。

 

 因みにコンビと対戦相手はくじで決める為、完全にランダムだ。その際、適当に決めるのかと声を上げた飯田に緑谷が「プロは他の事務所と急遽チームアップすることが多いし、それを見据えてじゃないのかな」と補足を加えるという光景が繰り広げられた。

 

(……とにかく真面目なんだな、飯田の奴は)

 

 その時、入試の時も真面目過ぎるが故に価値観が凝り固まってしまっていたのだろうと実弥は再認識した。

 

 そして、くじを引いた結果。

 

「し、不死川と一緒か。心強いけど、逆にプレッシャーかかるな……」

 

「まあまあ、尾白君。緊張しすぎは良くないよ!私達は私達に出来ることをやれば良いんだ!という訳でよろしくね、不死川君!」

 

「おう、よろしくなァ。尾白、葉隠」

 

 実弥のチームはIチームに決まり、葉隠と、空手家のような白い道着を身につけた丸太のように太く強靭な尻尾が特徴的な尾白猿夫と同じチームになった。"柱"は鬼殺隊の最高戦力であったが故に単独行動が多く、戦闘漬けの日々を送っていたことも他人に言えるはずもない故に孤独に戦っていた為、こうしてチーム戦を行うのは実弥にとってとても新鮮なことだ。

 

 2人と握手を交わし、全員チームを組んだことに満足そうなオールマイトの方を見る。引き続き、最初の対戦カードを決める為のくじ引きが行われた。

 

「最初の対戦カードは……こいつだ!ヒーロー側がAチーム、(ヴィラン)側がDチームだ!」

 

 Aチームの面子は、緑谷と麗日。対するDチームは……爆豪と飯田。

 

 実弥が敏感に反応せざるを得ない対戦カードだった。緑谷が爆豪のことをあだ名で呼んでいることから、昔からの仲なのは察しがつく。爆豪が緑谷に対して並々ならぬ感情を抱えているのも、個性把握テストの時の彼に対する突っ掛かり方からして察することが出来た。

 

(爆豪の奴は、自尊心が肥大化し過ぎた精神年齢の(おさね)ェクソガキ。緑谷相手だと本当に何するか分からねェな)

 

 個性把握テストの時はエリもいたというのに、緑谷に対して暴力を振るわんとする始末。プライドが傷つけられることに直面すると、本当に何をするか分からない。そういうことに限って、己を律することが出来ないらしい。まさに感情のままに駄々をこねて癇癪を起こす子供だ。――実弥に対する苛立ちが彼のそんな一面に拍車をかけていた可能性もある為、本来なら多少なりとも自制心があるのかもしれないが――

 

 そういう面を初日から見ているからこそ、実弥は凡ゆることを危惧していた。

 

(対する緑谷は……何かの為なら自分が玉砕してもいい覚悟がある。あいつも爆豪に対して、並じゃねェ気持ち抱えてんのは確かだ。そんな相手に勝つ為なら、きっとあいつは玉砕覚悟で突っ込みやがる)

 

 緑谷も緑谷で、実弥が玄弥と重ねてしまって常々気にかける存在。この短期間で既に彼の本質を理解しつつある実弥は、腕を破壊してでも彼が爆豪に勝とうとするであろうことを見抜いている。

 

(どうなるか……きっちり見せてもらうぜ)

 

 何にせよ、この一戦が彼ら自身の未来の為にも大事なものになることには変わりない。一時たりとも見逃さず、結末を見届けることを固く決意しつつ、モニタールームへと足を運んだ。

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