疾きこと風の如く   作:白華虚

17 / 44
第十七話 命を背負う者として

「……成る程なァ」

 

 鋭い目付きでモニターと睨めっこをしつつ、実弥が呟く。

 

 初めてのヒーロー基礎学で行われる、屋内対人戦闘訓練。その第一試合は凄惨と言うべき結果に終わった。結論から言ってしまえば、試合はヒーロー側であるAチームの方が勝利した。だが、素直にその勝利を喜べる状況ではないと断言出来る。

 

 試合開始後、緑谷は麗日を核兵器の捜索に専念させる為に先行させ、爆豪をタイマンで迎え撃った。彼の動きを見切って背負い投げをかましたり、攻撃を避けたりと感心せざるを得ない一面を見せたものの……最終的には、入試の時と同じように右腕を破壊してしまう。そして、爆豪の爆破を何度も喰らったことによるダメージも影響して気絶。上鳴が、モニターを見ながら「勝った方が倒れてて、負けた方がぴんぴんしてら……」などと呟いていたが、全くもってその通りだ。

 

 自分の階から核兵器のある階までの天井全てを、超パワーに物を言わせたアッパーカットで放った風圧でブチ抜くという奇策を思いついたことで出久のチームは勝利を手にすることが出来たが、"個性"の制御が出来ていないことには変わりない。結果、代償として彼は自身の右腕を破壊したという訳だ。残った左腕の方で爆破を防ぎつつも腫れ上がった右腕を晒し、白目を剥いて地面に倒れ込むその姿は何とも痛々しく、見ていた実弥は心を痛めた。

 

 対する爆豪も、怪我こそなけれど褒められたものじゃない。緑谷を捻り潰す為に私怨丸出しで、飯田との連携を一切取らずに独断専行。更に、自身を突き動かすそれに任せてビルの壁に巨大な風穴をぶち開ける程の大爆発を起こすという(もっ)ての外な行動をしてしまった。訓練に()ける状況設定が全く頭に入っていないらしい。

 

 その爆破が原因で核兵器が爆発したら、一体どうする気なのか。命の重さや尊さを理解していないのではないか。多くの人に批判され、馬鹿だと罵られても仕方がない。

 

 大方予想通りの結末に、実弥は腕を組みながらため息を()いた。

 

(さて、なんて言やぁいいのかねェ)

 

 1試合目を終えた生徒達を迎えに行ったオールマイトを見送りつつ、茫然自失としてビルの床の一点を見つめる爆豪をじっと睨み付けるように見つめて、この後の講評で何を言うべきかを頭の中で丁寧に言語化していく実弥であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、第一試合の講評をやっていこう!この試合のMVPは……飯田少年だ!」

 

「お、俺ですか!?」

 

 大怪我を負って保健室に運ばれた緑谷を除き、試合を終えた者達が戻ってきたところで講評の時間になる。

 

 笑顔のオールマイトが放った一言に、飯田は自分達は負けたはずなのにと言わんばかりに驚きながら反応した。

 

「ケロ……勝った緑谷ちゃんやお茶子ちゃんではないの?」

 

 蛙吹が口元に人差し指を添えながら、首を傾げて尋ねる。未だ歩み始めたばかりでヒーローとしてどのように動くべきかを理解し切れていない卵達には当然の疑問。だが、実戦となれば、単に勝てば良い訳ではない。ヒーローに相応しい動きをしていたということを鑑みれば、オールマイトの言う通り飯田がMVPとなる。

 

「さてさて、何でだろうな〜?何でだと思う〜?分かる人!」

 

「はい、オールマイト先生」

 

 勿体ぶるように尋ねたオールマイトの問いに答え、八百万が挙手をする。

 

 飯田がMVPに値するのは、彼が一番状況設定に準じていたからだと断言し、彼女は他の面々の悪い点を指摘し始めた。

 

 まずは爆豪。他の2人と比べても話にならない程の愚かな行為を繰り返した。私怨丸出しの独断専行に、ヒーローとしても(ヴィラン)としても愚かとしか言いようのない大規模な爆破。ヒーローとしては出さなくても良いはずの被害を出しかねないという意味で、(ヴィラン)としては守るべき牙城の損壊を招きかねないという意味で、彼の行動は愚策という他なかった。

 

 緑谷の場合も、彼と同様の理由で勝利の決め手となったビルの天井までをブチ抜く程の凄絶な風圧が愚策だと判断出来る。これに加え、彼自身の受けたダメージから鑑みて作戦自体が無謀過ぎるとの評価だった。目の前の相手を死なば諸共と言わんばかりの勢いで倒し、自身はダメージによって倒れる。ヒーローという仕事は(ヴィラン)を倒せば良しではないのだから、それでは話にならない。

 

 次に麗日。真面目に(ヴィラン)になりきろうとしていた飯田を見て失笑してしまい、気の緩みが生まれたこと。加え、緑谷が風穴を開けたことで生じた瓦礫を野球のように打ち放つ最後の攻撃が乱暴すぎた点で咎められた。ハリボテを核として扱うのなら、そんな危険な行動は出来ない。言うなれば、訓練を訓練だとしか思えないが故の甘えから生まれた行動。そういう評価が下された。

 

 対し、飯田は相手への対策を最大限にこなし、核の争奪を想定していたからこそ、麗日の突拍子もない行動への対応に遅れてしまった。そういう意味でも彼がMVPとして選ばれるに相応しい。

 

 今回のヒーローチームの勝利は訓練という甘えから生じた反則のようなものという総評を述べ、八百万は話を締めくくった。

 

(ぜ、全部言われた……)

 

 オールマイトは辛うじて笑顔を保っているものの、顔を引き()らせていた。ここまで言われてしまっては、教師の自分が出る幕がない。10代の少女の分析力に脱帽する他なかった。

 

「ま、まあ!飯田少年にも固すぎる節はあった訳だが……正解だよ!くぅ〜!」

 

 笑顔のままサムズアップをしているが、何とも悔しげな雰囲気のオールマイト。この一言は、教師として何か言わなければならないという意地によるものだろうか。

 

(塚内さんの仰った通り、向いてねェな。オールマイトさん)

 

 名選手、必ずしも名監督にあらずとはこのことかと思いつつ、実弥はスッと右手を上げて挙手する。

 

「むむ、不死川少年。君も意見があるのかな?」

 

「ええ、色々と物申したいことが」

 

 雄英初の特別枠を勝ち取った入学者。ヴィジランテとして、本物の(ヴィラン)と対峙した経験がある故に八百万とはまた違った視点からの講評が聞けるかもしれない。そう思いつつ、講評を述べるように促すオールマイトだったが……ほんの少し不安だった。

 

 彼の本質が優しい人間であるのは知っているが、言動が苛烈で何でもかんでも包み隠さずズバズバと言ってしまう節がある。一度思い立ったらすぐに行動に起こし、自分が言うべき、やるべきだと思ったことは他人からの評価を気にすることなく実行する。ヒーローを目指して歩み始めた子供達の心を過剰に傷つけてはしまうのではないか。そう危惧していた。

 

「取り敢えず、俺も八百万の講評には納得だァ。その上で、別の視点から講評を述べさせてもらうぜェ」

 

 誰から聞いても、八百万の講評はほぼほぼ完璧。その上で違う視点から講評を述べると宣言した実弥の口からどんな言葉が飛び出すのだろう。クラスメイト達は一斉に彼の方へ視線を向けた。

 

「まずは緑谷。はっきり言うが……あの死に急ぐようなやり方続けてりゃ、すぐに死ぬ。自分が玉砕してでも何かをやり遂げる。そんな考え方を正してやらなきゃならねェ。"個性"の制御は言わずもがな必須。それ一つ達成すりゃあ、心に余裕が出来る。状況を常に頭に置いて、訓練を訓練と思わずに実戦を想定して動けるようになるはずだァ」

 

「まとめると、緑谷の課題は主に二つ。"個性"の制御、それと過剰な自己犠牲の精神の矯正ってところかァ」

 

 鋭い目付きのままで話を進める実弥だが、緑谷の話を終えた瞬間……こめかみに青筋を浮かべ、目を血走らせた。

 

「んで……爆豪。テメェは本当に話にならねェなァ、おい。テメェは、ヒーローが何なのか頭で全く理解してねェ」

 

 モニタールームの壁に1人背中を預けていた状態から、消えるように爆豪の目の前に移動し、修羅の如き憤怒の表情で彼を見下ろす。

 

 緑谷に敗北してプライドがズタボロなせいだろう。意気消沈した彼の瞳には、怒気を発した実弥に対する恐怖が宿っていた。

 

 だが、実弥には関係ない。額と額が合わさる程に顔を近づけた状態で続ける。

 

「あのなァ……ヒーローってのは、他人(ひと)を救ける仕事だァ。誰彼構わず手を差し伸べて救けちまう。だから、そう呼ばれるんだよォ。分かるか、クソガキ。俺達は、これから常に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」

 

「テメェにはその自覚が全くねェ!自分(テメェ)のくだらねェ癇癪で他人を死なせるなんざ、以ての外だァ!さては、これまでも癇癪優先して他人の命を軽く扱うような馬鹿なことを繰り返してきたんじゃねェだろうなァ!?」

 

 昔からそうだ。鬼に(おびや)かされる人々の命は、全て己の判断や行動一つにかかっていた。実弥は、常に何十、何百人どころではない沢山の人々の命を背負って戦ってきた。今世だって同じだ。未来を生きる子供達や、今を生きる人々の命。その重みを背負ってここまで戦い抜いてきた。

 

 だからこそ、己の私情を優先して愚行を繰り返し、他人の命を軽く見るような爆豪の行動が許せない。

 

 実弥は彼の胸倉を掴んで、更に言葉で畳みかける。

 

「いいかァ、ヒーローの本質ってのは……()()()()()()(ヴィラン)を倒したその先にある、救けることを常に見据えてなきゃ話にならねェ!誰よりも強いことに満足していたいんなら、ヴィジランテでもやってろォ!!!」

 

 そこまで言うと、荒っぽくも胸倉から手を離して爆豪を解放してやる。壁に背中を打ちつけた彼は、呆然とした表情のままでズルズルと膝から崩れ落ちた。まさにもぬけの殻のように、床の一点をじっと見つめている。

 

「まずは、精神的に大人になりやがれェ。自分の気に入らねェことがある度に癇癪起こすな。自分のプライドを少しでも汚されりゃ、すぐに周りが見えなくなりやがる。そこはテメェの弱い部分だァ。……自分を律しろ。くだらねェプライドは捨て去って、さっさと本当のプライドってもんを持てるようになれェ」

 

 そう吐き捨てた実弥は一旦怒気を収め、話をまとめて結論を出す。

 

「結局のところ、まとめりゃ……こいつらの行動は、これから他人の命を背負うことになるって自覚が薄いから起こったものだと俺は思う。他の奴らも覚えておけェ。俺達の後ろには、常に守るべき人がいるってことをなァ」

 

 拳を握り締めながら、実弥は話を終えた。

 

 生徒達が実弥の言葉を脳内で反復し、各々なりの解釈で受け止めている中――実弥が、再び怒気を発する。その矛先は……オールマイトだった。

 

「講評とは関係ないですが……オールマイト先生、俺は貴方にも物申したい」

 

 明らかに15歳の子供では発せない、死線をいくつも掻い潜ってきた者故の怒気を感じ、オールマイトの額から反射的に冷や汗が流れる。

 

 どうして彼がこうなっているのかは分からない。だが、教師に口出しするのだけは駄目だと誰もが思う。

 

「ちょっ、不死川!落ち着けって……!どうしてオールマイトにまで怒る必要があるんだよ!?お前の気持ちは分かんないけどさ、とにかく落ち着こうぜ……?」

 

 そんな彼らを代表して、切島が実弥に歩み寄りながら声をかけたが……実弥は軽く彼を跳ね除けてズカズカとオールマイトの目の前まで歩みを進めた。

 

「何故止めてやらなかったんです?」

 

「ッ!」

 

 実弥の怒気に満ちた瞳がオールマイトの強い眼差しを捉える。彼の放った一言がオールマイトの胸中に深く突き刺さる。

 痛いところを突かれた、とそう思った。

 動揺故に肩を跳ねさせたオールマイトを見つつ、実弥は続けた。

 

「貴方にはプロヒーロー以前に大人として、教師として生徒の命を守る義務があるはず。貴方の行動一つに、こいつら全員の命が懸かってる。もしものことは……考えなかったんですか?事実、緑谷は大怪我を負って倒れた。貴方が事前に止めれば、こうはならなかったはずです」

 

 思わず、愛弟子である緑谷がヒーローになること以外で初めて見せた激情。それをぶつけ、彼の追い続けてきた相手に勝利するのを優先させたくなってしまった。師として彼を思いやったつもりだったが……結果的に怪我をさせてしまったという意味では全く思いやれていないのかもしれない。そもそも、教師の行動としては愚かと言う他ない。

 

 実弥の一言でそれを強く実感させられた。

 

(私は……私は、何をやっているんだ……!教師なのだから、緑谷少年に贔屓(ひいき)している場合ではないというのに……!)

 

 歯を食いしばり、拳を握り締める他ない。図星故に、オールマイトは何も答えられなかった。

 

「失われた人間の命に対する責任というのは、取ろうにも取りきれない。仕事のミスとかそういうレベルの話じゃない。もしもが起こってからじゃ遅いんです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「不死川少年……」

 

 今の一言に気になる部分があったものの、それを気にしている場合ではない。

 

 そうだ。今の自分はプロヒーローであり、教師。私情よりも生徒の命を最優先すべき立場にある。そんな状況で己を律することが出来ないなど、愚かとしか言えない。……今は己の愚行を謝罪するべきだ。

 

「……君の言葉は、緑谷少年や爆豪少年の未来を思ってのものだね。やはり、君は優しい少年だ。私には反論の余地もない。本当にすまなかった……!」

 

「顔を上げてください。貴方に頭を下げられるなんて恐れ多すぎます」

 

 教師が生徒に頭を下げるという中々見ない構図に困惑する生徒達ではあったが、1人1人が実弥の言葉を重く受け止めていた。

 

 訓練とは言え、人が死ぬような状況に直面する場合もある。実際にそういう状況になることはあり得ないが、訓練を訓練として受け止めて甘んじるな。常に実戦を想定して気を引き締めろ。暗にそう言われている気がした。

 

 初めての訓練。言い換えれば、初めて"個性"を本格的に使用出来る場なので、少し浮かれている部分があったかもしれない。改めて、気を引き締めて今後の訓練に臨もうと誰もが決意した。

 

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあ気持ちを切り替えて……!第二試合をやっていくぞ!あ、第一試合でビルがボロボロになっちゃったから、流石に場所を移すからね」

 

 オールマイトが対戦カードを決めるくじの入った箱に手を突っ込みながら言う。先程の第一試合の反省を生かして挑もう、と誰もが最初以上のやる気に満ちていた。

 

「第二試合の対戦カードは……こいつら!ヒーロー側がBチーム、(ヴィラン)側がIチームだ!」

 

 第二試合……早々に実弥の出番がやってきた。

 

 対戦相手である轟と障子に視線をやる。そして、2人と目が合った。

 

 障子の鋭い三白眼からは熱意を感じる。全力でお前にぶつかるぞ、という宣戦布告。見ている方にまでやる気を分けてくれるような熱い眼差し。

 

 方や、轟のオッドアイからは憎しみを感じる。遥か先に向けた憎しみ。目の前の実弥ではなく、別の誰かに対する憎しみを込めた冷たい目。見ていて心地の良いものではない。

 

 それと同時に、実弥は轟の髪の色と瞳の色にどこか既視感を覚えるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。