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2021/11/11
前半部分に、バス内での会話を追加しました。本来の前半部分であった、バスに乗るまでのお話はこの一話前に二十四話として挿入しております。話の流れ自体は変化しておりませんので、最新話に目を通していただいても大丈夫です。
会話の内容が見たいという方は、改めてこちらをご覧ください。
救助訓練を行う施設に移動するバスの中で、生徒達が和気藹々と会話を交わしている。
到着する直前くらいまでは自由にさせてやっても良いかと相澤も考えたのか、賑やかな割には彼も口出しせず、仮眠を取っていた。隙間時間すらも合理的に扱おうとするのは、何とも彼らしいやり方だ。学級委員長決めを行う時にも、寝袋に入って眠っていただけのことはある。
そんな中、蛙吹がふと尋ねた。
「ねえ、緑谷ちゃん。私、思ったことは何でも言っちゃうの」
「は、はいっ、蛙吹さん」
無個性として蔑まれ続けたが故に異性との関わりが少ないのか、尋ねられた緑谷は顔を少し赤くしながら答える。
そんな彼に「梅雨ちゃんと呼んで」と微笑みながらお願いしつつ、彼女は続けた。
「緑谷ちゃんの"個性"……オールマイトに凄く似てるわね」
核心を突く質問に、緑谷は思わずギョッとした。まずい、と思いつつも、頭の中が真っ白になっていくのが分かった。
「そ、そうかな!?いや、でも、僕はえっと、そのっ……」
どう否定しようかと考えても、特に何も思いつかず。結局、緑谷は動揺を露わにしつつしどろもどろに答える他ない。
爆豪の隣に座りつつ、密かに聞き耳を立てていた実弥もヒヤヒヤしていた。彼は緑谷が物事を誤魔化すのが下手なこと、何かに必死になると思わず話してしまうことがあるのを知っている。事実、仄めかしつつも爆豪に対して、己の"個性"のことを話してしまった。
チラリと視線を向けてみると、爆豪もそんな風に動揺する彼を獲物に狙いを定めるかのようにじっと見つめている。
(バレるのは時間の問題だな、こりゃ。この爆発頭は頭がキレるしよ)
そんなことを思いつつ、精神面の鍛錬も施した方が良さそうかと頬杖を付いた実弥であった。
将来No.1になる人材である以上、堅牢な城の柱のように簡単に揺さぶられることなくドンと構えていてほしいものである。勿論、それは肉体的な面だけではなく、主に精神的な面で。
もはや、何を考えているのかも分からないくらいに顔色を変えなかった、隊士時代の冨岡ほどのレベルは逆に困るが、最低限の水面のような静かな心は身につけてほしいと実弥は思った。
これも、全て"ワン・フォー・オール"の秘密を共有した相手を危険に曝さない為。
とは言え――
(秘密を知ろうが、A組の奴らなら……一緒に背負ってやるくらい言いそうな気はするけどな)
雄英に入学してきただけあって、常人に比べてA組の生徒達は精神的にタフな節がある。そんな彼らなら、喜んで緑谷の力になってくれるだろうと思えた。
最終的に、緑谷の"個性"の秘密がバレることはなかった。切島が「オールマイトは怪我しねえから、似て非なるアレだぜ」と否定してくれたからだ。実弥は、彼のフォローに感謝しつつ、蛙吹の勘の良さに肝を冷やしていた。
そんな切島は、緑谷の方を見ながら羨ましそうに言う。
「しっかし、増強系のシンプルな"個性"は良いよな。派手で出来ることが多い!」
切島は、腕をガチガチに硬めながら、言葉を続ける。曰く、彼の"硬化"は対人で強くとも、いかんせん地味らしい。
「僕は凄いかっこいいと思うよ。プロにも十分通用する"個性"だよ!」
そんな彼に、緑谷が目を輝かせながらフォローを入れる。
彼のフォローを嬉しく思いつつも、切島は苦笑して答えた。
「プロなー。しかしやっぱヒーローも人気商売みてえなとこあるぜ?」
彼の一言がきっかけで、一同の話題が互いの"個性"のことになる。自分の"個性"の強さと派手さをアピールするも、「お腹壊しちゃうのは良くないね」と芦戸に指摘されて撃沈した青山を他所に、切島がまたも話を切り出した。
「派手で強えっつったら、不死川、爆豪、轟だよな」
ニカッと笑う彼に対し、反応は三者三様。実弥は「"個性"自体は地味だけどなァ」と答え、爆豪は「ケッ」とだけ吐き捨てる。轟はそもそも周りの話に興味がないのか、眠っていた。
その時、蛙吹がじっと爆豪を見つめた。視線を感じる爆豪が、何見てやがんだとばかりに頬杖をついたまま眉間に皺を寄せると……彼女は見事にぶっちゃけた。
「爆豪ちゃんは理不尽にキレてばかりだから人気でなさそうね」
「ンだとゴラァ!?出すわ!」
「ほら」
予想通りとばかりに指を指す蛙吹。本当に思ったことは何でも言っちゃうんだな、と切島は笑顔を引き
彼女に続き、上鳴がやれやれと言った様子で口を開く。
「この付き合いの浅さで、既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されてるって凄えよ。エリちゃんのいるところで暴力振るおうとするしさ」
「テメェのボキャブラリーは何だアホ面、殺すぞ!」
爆豪は、身を乗り出し、般若の如く目を吊り上げる。このままではいつ暴れ出すとも知れないので、実弥は彼を引っ張って無理矢理に席に座らせた。
「いい加減にしとけェ、爆発頭ァ。煩ェんだよ、いちいちキレやがって。躾のなってねェ飼い犬じゃねェか」
「誰が飼い犬だ!?喧嘩売ってんのか、この傷顔!ぶっ殺すぞ!」
「煩ェ」
「っがっ!?なっ、何しやがる!?離せや!」
そして、無理矢理に座らせた彼の頭をグッと押さえつける。頭に乗せられた実弥の手を、自分の頭で押し退けようとする爆豪であったが、常人離れした怪力を発揮出来る実弥には敵うはずもなく。ただ、怒りと屈辱でプルプルと肩を震わせるしかない。
「ブフッ!爆豪の奴、不死川に押さえつけられてやんの!ありゃ完全に飼い犬だな」
「アホ面ァァァ……!調子乗んな、ブッ殺すぞ!!!」
笑いを堪えきれないとばかりに吹き出す上鳴に怒りを爆発させる爆豪ではあるが、頭を押さえられている状況故にシュールな光景にしか見えず、余計に笑いを誘ってしまう。もはや、切島や瀬呂も顔を逸らして笑いを堪えていた。
(か、かっちゃんがイジられてる……!笑われてる……!流石雄英……!)
そんな状況を目にした緑谷は、1人冷や汗を流しながら頭を抱え、震え上がっていたのだった。
「そろそろ着くぞ。いい加減にしとけよ」
爆豪イジりに和気藹々としていたバス内ではあったが、相澤の一言でピタリと会話が止む。
訓練を行うことになる施設が近づきつつあるのを目にし、各々が気を引き締めていた。
★
バスを降りた彼らの視界に入り込んできたのは、巨大な野球場を彷彿とさせるようなドームだった。その大きさに感嘆の声を漏らす一同を出迎える者がいる。
「よく来てくれましたね、皆さん。お待ちしていましたよ」
災害救助の面で大々的に活躍を繰り広げる、宇宙服のような
明るくA組を歓迎する彼女に、ヒーローオタクの緑谷や彼女のファンであるという麗日を始めとして、一同は舞い上がる。
災害救助面で活躍する以上、救助訓練を担当する教師として適任の人材だと実弥も思った。
13号の案内に従ってドームの中に足を踏み入れると……その中に広がっていたのは、テーマパークさながらの光景だった。
「うおおっ!凄え……!USJみてえだ!」
興奮気味に声を上げる切島を筆頭に、生徒達はワクワクを隠せない様子で辺りを見渡す。
燃え上がる無数の建物に、倒壊したビル群。一隻のボートが浮かぶ巨大な湖と大手のレジャー施設のそれと同等に巨大なウォータースライダー。切り立った山岳に、土砂に埋まってしまった建物と、雨雲の模様を誂えたドーム。
一つ一つのゾーンの広さがとんでもない。切島の例えにも自然と納得がいく程に広大だった。
興奮している様子の生徒達を微笑ましそうに見守りながら、13号は口を開く。
「水難事故、土砂災害、火災、暴風などなど……。あらゆる事故や災害を想定して、僕が作った演習場です。名付けて、ウソの災害や事故ルーム!略して……USJ!!!」
ビシッと指を指しながら、施設の名前を言ってのけた13号。例えに出したものと全く同じ略称であることに生徒達は愕然とし、相変わらず、著作権的に危ない名前だと実弥は苦笑した。
それを他所に、相澤は辺りを見回してオールマイトの姿を探していたが、肝心の彼の姿が見当たらない。何かあったのだろうかと疑問に思いながら、彼は13号に歩み寄って尋ねた。
「13号、オールマイトの姿は見なかったか?ここで待ち合わせるはずなんだが……」
「せ、先輩。それが……」
尋ねられた13号は言いにくそうにしつつも、3本の指を立てながら相澤に何かを耳打ちする。その後、相澤が忌々しげな顔をして、ため息を
相澤がオールマイトの姿を探しているのを見て、実弥もそう言えば、とオールマイトを探していたが、確かに見当たらない。そして、13号の三本指と相澤の「何やってんだ、あの人……」という呟きで全てを察した。
(……さては、通勤中にギリギリまで活動したな、あの人)
教師同士がヒソヒソと話をするくらいだ。生徒に聞かせられないくらいの機密事項なのだろう。それに加え、相澤はオールマイトの所在を尋ねた。
そこから、13号が示した三本指は彼に関する数字だと分かる。そして、オールマイトに関する3の数字と言えば、選択肢は一つしかない。
胃袋全摘、呼吸器官半壊という大怪我を負った彼のヒーローとしての活動限界時間である3時間だ。
己の最大限を尽くして困っている人を救ける姿勢は尊敬すべきだが、教師としてもしっかりしてほしいものである。いつまでも新米のままでは困る。ヒーローとして、あのレベルまで成り上がれたのだから、教師としても頑張ってもらわなければ示しがつかないというもの。
「こりゃ、授業中に顔出せるかどうかも分からねェんじゃねえかァ……?」
相澤がオールマイトの不合理さに不満を示し、眉間に皺を寄せているのを見て、実弥は苦笑する他なかった。
「全く……。お前ら、オールマイトさんは人々を救ける為に奔走してるらしいから遅刻するそうだ。あの人がいないのは無念かもしれないが、時間が惜しいから先に始めていくぞ」
相澤の一言に明らかに残念そうな顔をする生徒達ではあったが、今日の授業が待ちきれないとばかりに思考を切り替えて、やる気満々の表情になる。
そんな彼らを一瞥してから、13号が話を切り出した。
「では、始める前にお小言を1つ、2つ、3つ、4つ……」
増える小言に困惑する生徒達を他所に、13号は話を続けていく。
まず、彼女は自分の"個性"のことを話した。彼女の"個性"に冠された名は……"ブラックホール"。文字通り、どんな物であろうが吸い込んでチリにしてしまう"個性"だ。皆が知っている通り、それを駆使して、どんな災害を前にしても人々を救け出す。それが13号というヒーロー。
彼女が話の中で改めて知ってほしかったのは、自分達が今や当たり前に所持している"個性"の危険性だった。自身の"ブラックホール"も簡単に人を殺せる力だとした上で、彼女は続ける。
超人社会は、"個性"の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているように見える。しかし、その実……自分達は、容易に人を殺せる"個性"を持っているのだと。
全く以ってその通りだと実弥は思った。
そもそも、実弥は"個性"が人類にとって行き過ぎた力だと思っている。
行き過ぎた力だから、その良い使い方が分からずに持て余し、犯罪に手を染める
人智を超えた力に恐れを抱き、勝手に化け物扱いする。社会の輪から徹底的に追いやる。
その内容でヒーロー向け、
彼は、既にそんな被害者達を何人も知っていた。そよ風園に引き取られた弟妹達や、これまで対峙してきた何十、何百人もの
最も大切なのは、その行き過ぎた力の扱い方だ。オールマイトの"ワン・フォー・オール"だって、使い方によっては平和の象徴にもなれるし、悪の帝王にだってなれる。その圧倒的な身体能力で人を救ける為に奔走するか、好きなように善人を蹂躙するか。それだけの違いで、力の価値はどうにでもなる。
個性把握テストの時に、緑谷の怪我を治したエリの"巻き戻し"だってそうだ。巻き戻し過ぎれば、その人物の存在を抹消してしまう。実際、幼い日の彼女はそうやって、実の父親をこの世から消してしまった。それに、彼女の力を良からぬことに使おうとしている輩がいなくなった訳でもない。彼女はきっと、未だに狙われるべくして狙われる身にある。
"個性"ではないが、実弥の"全集中の呼吸"だってそうだ。その増強した身体能力によって、人の肉体に損傷を与えるのは難しい話じゃない。
実際、個性把握テストで爆豪を脅した通り、実弥はやろうと思えば、人間の腕など木の枝のようにポキリとへし折れる。
更に言ってしまえば、彼の剣技は元々はと言えば鬼という化け物を殺す為に継承されてきたもの。間接的に人を護っていたとは言えど、何かを殺す為に扱われた必殺剣なのだ。人1人なんて、加減次第で簡単に殺せる。実弥の扱う"風の呼吸"の場合は、実際に鎌鼬を発生させる為、余計に殺傷力が高い。
事実、対峙してきた
そんな必殺剣を、今世は人々を救う為に振るう。己の手の届く限り、その刃で悪を撃滅する。その為に、前世以上に加減することを徹底してきた。
13号の話で、"個性"というものが如何に危険性を秘めたものであるのかを再認識させられた。
真剣に話を聞く生徒達に向け、13号は明るく語りかける。
「――この授業では心機一転!人命の為に"個性"をどう活用するのかを学んでいきましょう。君達の力は、人を傷つける為にあるのではない。救ける為にあるのだと心得て帰ってくださいな」
そこまで言い終えると、彼女は紳士的にお辞儀をして話を締めくくった。
「以上、ご清聴ありがとうございました!」
それと同時に、生徒達から一斉に歓声と拍手が巻き起こった。尊敬の意を向けた拍手と視線を向け、生徒の多くが彼女を称賛している。
実弥も例外ではなく、13号が雄英にいて、彼女に教えを請えることを光栄に思い、微笑みを浮かべつつ拍手を送っていた。
「それじゃあ、まずは――」
13号の話も終わり、授業の流れを説明しようと相澤が口を開きかけたその瞬間だった。
実弥が、その肌で嫌な気配と身の毛がよだつ感覚を敏感に感じ取った。刹那、USJの中央広場に設置された噴水の前に黒い歪みが生じた。――明らかに周囲の空気が張り詰めた。
「相澤先生、来ます」
「分かってる」
実弥が音もなく相澤の隣に立ち、言葉を発する。彼の感じ取ったものと全く同じものを感じ取った相澤も、彼の言葉に答えながら、広場の方を仰ぎ見る。
噴水の前に生じた黒い歪みは、瘴気の如く広がり、そこに黄色く鋭い悪意に満ちた目らしきものが形成される。そして、その歪みを引き裂くようにして――顔面に手を取り付けた気味の悪い男が姿を現した。
「一塊になって動くな!13号、生徒を守れ」
顔面に取り付けられた指と指の隙間から覗く、赤い瞳。体中に手を取り付けた男は、そこに悪意と社会への憎しみを宿している。その瞳から発せられる悪意で正体を察した相澤は、声を張り上げ、生徒達を守るように最前線に立った。彼の指示を聞き、13号は一言も発することなく、ただ静かに頷く。
相澤や13号、加えて実弥の空気感が突然変化したことに、生徒の多くは状況を飲み込めずに困惑していた。
手だらけ男に続き、ごく自然な人間の姿をした者から、明らかな異形の姿をした者まで何十人もの人が次々と地に足を付ける。彼らは、例外なく明確な悪意をその目に宿していた。
「なんだなんだ?入試の時みたいな、もう始まってるパターンか?」
戦場で本物の悪意を体感したことがない故に、やはり状況を察せない。黒い歪みの中から次々と姿を現す集団を見て、切島が困惑気味に彼らを見渡す。他の生徒も、まさかのそのパターンかと顔を見合わせるも――
「動くな!」
ゴーグルを掛けながら発した相澤の声が彼らを制する。
「あれは
この後に続くであろう相澤の言葉を引き継ぐように実弥が声を発する。その瞬間、ようやく事態を察した生徒達の頬をゆっくりと冷や汗が伝った。
実弥は、