疾きこと風の如く   作:白華虚

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本当はこの次のお話で体育祭本番に突入するつもりでしたが、もう一話使うことになりました……。本番突入までもう少しお待ちください。

アンケートの伸びもそろそろ無くなるかなといったタイミングまで来たと思うので、本日でアンケートを締め切ろうと思います。皆様、ご協力ありがとうございました。作者の方で少し吟味をさせてください。
判断が決まりましたら、またお知らせいたします。

追記(PM22:53)
優柔不断ですみません。アンケートがまだ伸びてる状況なので、もう少し待つことにしました。

2021/12/18
アンケートを締め切りました。ご協力ありがとうございました。結果は、過去明かしを省くことに決定致しました。そのままが良かったという方、修正前の展開で不快に思った方、申し訳ございませんでした。


第三十二話 ビッグ3

 体育祭のことが知らされた翌日の放課後。実弥、緑谷、拳藤の3人は、体育館γ(ガンマ)を訪れていた。

 体育館γ――通称、トレーニングの台所ランド。略して、TDL。――USJと並び、またも著作権的に危険な名前なのは置いておく――

 雄英の教師の1人であるセメントスが監修している施設で、床部分は全て彼が''個性''で操ることが出来るセメントだ。故に、各生徒に合わせて地形を変形させたり、物を用意したりすることが出来る。セメントス1人いれば、何もかもが変幻自在という訳だ。器具を用意する手間も資金も省けて、お金にも優しい。セメントスに労力がかかるが、ありがたい話である。

 

 閑話休題。人を呼んでくると言って体育館を出た実弥を、他の2人は軽い準備運動や筋トレをしつつ待っていた。指定された回数とセット数の腕立て伏せに小言一つなく取り組む緑谷を見て微笑ましく思いながら、拳藤が尋ねる。

 

「そういえば……尾白はどうしたの?」

 

「尾白君も誘ったんだけど……っ!今回ばかりは、自力で鍛えたい……って」

 

 緑谷は続ける。曰く、体育祭では全員がライバル同士になるだろうから、他人に頼らずに自分で頑張ってみたい。他人に頼って強くなるのは悪くないことだと理解してはいるが、今回ばかりは自分のプライドが許さないとのこと。

 

「……自分のプライド、か」

 

 自分自身のプライドがあり、それを貫く。立派なことだし、かっこいいとは思うが、時にはそれを捨てることも必要だと拳藤は思っている。

 例えば、自分が強くなりたい時や、目の前に1人ではどうしようもない困難が立ち塞がった時。

 もしも、強くなりたいという願いを叶えてくれる者が、困難を突破する為の切り札となる者が、自分の嫌いな相手だとしたら……諦めることを選ぶか、それでも自身の願いを叶えることを選ぶか。

 

 彼女が選ぶのは、後者だ。人にはよるかもしれないが、少なくとも本当に叶えたいと心の底から強く望むのならば、その為に多少辛い目に遭おうとも耐えられるし、自分から折れて素直に頼める。拳藤の場合、そういうケースに当てはまる。

 

「男って好きだよなあ、そういうの」

 

 彼女は頬杖をつき、苦笑しながら呟く。腕立て伏せを終えて立ち上がる緑谷に「あれ、何か言った?」と首を傾げつつ尋ねられるが、「なんでもない」と首を振りながら笑い返した。

 続け様に拳藤が尋ねる。

 

「もう体育祭も近いし……特訓もレベルアップする感じ?」

 

「うん、そうみたい」

 

 緑谷曰く、これまでの体づくりや体力づくり、サンドバッグ相手のスパーリングに加え、極め付けは経験値を蓄積する。つまりは、実戦あるのみだとして、模擬戦を行うのだそうだ。

 自分ばかり相手をしていては変な癖がつくからとのことで、実弥は、今日から新たに特訓に関わることになる人を呼びにいったらしい。

 

「経験値……確かに大事だもんな。格闘技も、結局は基礎練と試合、研究の積み重ねだし」

 

 実弥の考えに共感する拳藤に、今度は緑谷が尋ねた。

 

「拳藤さんこそ、いいの?自分の特訓もあるんじゃ……」

 

 すると、拳藤は数秒間瞬きをして硬直。直後、微笑みながら答えた。

 

「私のことは気にしないでいいの。決めたんだよ、特訓が始まったあの日に。不死川と一緒に、とことんお前に付き合ってやるんだってさ。それがエリちゃんの笑顔にも繋がると思うし」

 

 「何より、学年一の実力者に鍛えてもらえる貴重な機会を逃せる訳ないしな」と付け加える拳藤に、返しても返しきれないほどの貸しを作ってしまっているなと緑谷は思いつつも、未熟な自分に付き合ってくれる彼女に深い感謝を覚えた。

 

「……ありがとう。僕の為に使ってもらった時間は、僕が拳藤さんの特訓にも付き合うことで返すよ」

 

「全く、気にしないでいいって言ってるだろ?律儀だなあ」

 

 弟に対するそれと似たような可愛げを覚えた拳藤は、宛ら実の姉のような優しい笑みを浮かべて緑谷の頭を撫でてやる。

 女子慣れしていない上に距離が近いのが原因で、顔を真っ赤にしている彼に余計に可愛げを覚えていると……。

 

「緑谷が沸騰しちまうから、そこまでにしてやれェ」

 

 苦笑気味の実弥が声をかけてきた。

 

「あ、お帰り」

 

 拳藤が振り返ると、彼以外に3人の人物の姿が目に入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早速体育館を借りて特訓とは……元気があって良いね、1年生!

 

 そう言いつつ、笑みを浮かべて感心した様子なのは、筋肉質な金髪の青年だった。

 高い身長に、身につけた体育服の上からでも分かる程に鍛え上げられた逞しい肉体の両方を持ち合わせている。その立ち居振る舞いや雰囲気は明るく陽気で、どこかオールマイトに似通うものがある。

 

 新たな人物の訪れに、羞恥やら何やらで顔を赤く染めていた緑谷も正気に戻り、実弥の引き連れた3人をじっと見る。そのうちの1人である、金髪の青年の風貌に既視感を覚えていると……。

 

(……!思い出したぞ!)

 

 彼は、既視感の理由をふと思い出した。遡ること1年前。当時の体育祭で、成績こそ振るわなかったが、その金髪の青年は妙なインパクトを残していたのだ。

 しかも、そのインパクトの残し方が黒歴史に等しかったのをよく覚えている。急に青年が身につけていた体育服が脱げて、彼はお茶の間に全裸を晒してしまったのが原因だった。

 

(でも、そんな人がどうしてここに……?)

 

 偶然とは言えど、体育祭で黒歴史を晒してしまったような人物を実弥が連れてきた理由とは何なのか。緑谷は疑問に思っていた。

 

「不死川君……。どうして、俺までここに連れてこられているんだ……?後輩にアドバイスや特訓だなんて、荷が重すぎる……!辛い……帰らせてくれ……!!!もっと他に相応しい人がいるはずなのに……」

 

 実弥の背中に隠れるようにしながら呟くのは、尖った耳と黒髪が特徴的な鋭い目付きの青年。見た目こそ威圧的なものだが、それと反対に小心者らしい様子だった。

 「アドバイスするだけの技量があるから呼んでるんですよ。自信持ってください」と年下であるはずの実弥が、人見知りの弟を励ますかのような優しい口調でフォローを入れているのを見るなり、緑谷と拳藤は困惑を露わにして顔を見合わせてしまった。

 

 次の瞬間――

 

「ねえねえねえ!モサモサ頭の君が緑谷君だよね!さっきは顔を真っ赤にしてたよね!?どうして?」

 

「へっ!?あっ、いやっ、そのっ、それは……!」

 

「あれれ?また顔真っ赤にしてる!ねえねえ、どうして?不思議!」

 

 知的好奇心旺盛と言った様子で、ねじれた水色のロングヘアーをした少女が緑谷に詰め寄った。

 とんでもない美少女に詰め寄られてあたふたし、言葉がまとまらない緑谷を他所に、少女は彼を次々と質問攻めにしている。

 彼が答え切るよりも前に、少女は拳藤に話しかけた。

 

「それで、そっちの貴女はB組の拳藤さん!不死川君も緑谷君もA組で違うクラスなのに、どうして一緒に特訓してるの?」

 

「そ、それは……不死川と一緒になって、緑谷にとことん付き合ってやろうって決めたからでして……」

 

「そうなんだ!どうして、そう思ったの?」

 

「私も緑谷には他の誰かに心配かけないくらい立派なヒーローになってほしいと思うし、エリちゃんの笑顔の為にもなるかな、って」

 

 圧倒されながらも律儀に質問に答えていく拳藤がその少女に対して抱いた印象は……人懐っこく、好奇心旺盛な幼稚園児だった。

 3人揃って、実弥の発するような底知れぬ気迫や気配のようなものが感じられない。彼女も彼女で実弥がどういった理由でこの3人を連れてきたのか、疑問に思い始めていた。

 

「……波動先輩、そこまでです。お気持ちは分かりますが、時間が限られてるので」

 

 延々とマシンガントークを繰り広げそうな勢いの彼女を(なだ)めたのは、やはり実弥だった。

 

「えー?なんでなんで?そんな意地悪なこと言わないでよ、不死川君」

 

 口を尖らせ、少女が拗ねたように言うも、実弥は慣れた様子で続ける。

 

「お話なら今度付き合いますから。……ジャスミンティー付きで」

 

「!分かった!」

 

 実弥がそう言うと、少女は拗ねた様子から一転して満面の笑みを浮かべた。

 幼い子供と同じような反応に困惑が深まる緑谷と拳藤。少女が引き下がったところで、拳藤が尋ねた。

 

「えっと、不死川……。この方達は……?先輩だってのはお前の話し方とかで分かったんだけど……」

 

 実弥は、髪を掻き乱しつつ答える。

 

(わり)ィ、紹介が遅れたなァ。初っ端から困惑させて悪かった」

 

 そして、実弥に促されて自己紹介が行われた。

 

 金髪の青年は、通形ミリオ。

 鋭い目つきをした黒髪の青年は、天喰環。

 水色のねじれたロングヘアーの少女は、波動ねじれと名乗った。3人とも、ヒーロー科の3年生だとのこと。

 

 3人の軽い自己紹介が終わると、実弥が続ける。

 

「通形先輩、天喰先輩、波動先輩。彼らは、現雄英生の中でもトップの実力者。通称――ビッグ3なんて呼ばれてる」

 

「「ビッグ3……!?」」

 

 一応、拳藤や緑谷もそんな風に呼ばれる実力者達がいるという話は噂程度で聞いていた。とは言え、そんな彼らが実際に目の前にいると言われると驚く他ない。彼らの想像とは違って、気迫や風格が感じられないのもあって、無理もない話かもしれない。

 「本当にこの3人が……?」と言いたげな様子の2人に、実弥は薄く笑みを浮かべつつ言った。

 

「見た目や雰囲気で判断すんなっつー良い例だァ。……ともかく、上を目指すなら上に立つ人達から、実際にご指導いただくのが一番効率が良い。今日から、先輩方にも特訓を見守っていただく」

 

 実弥と天喰を除いた2人の瞳が緑谷を射抜く。学年一と、学校トップクラス。

 彼らから同時に指導してもらえるなんてことが、あって良いのだろうか?

 緑谷は、緊張で息を呑みながら、思わず武者震いしていた。

 

「やるからにはとことんやるぜェ。気合い入れていけよォ、緑谷ァ……!!!」

 

 そう言い放った実弥の顔には、獰猛な笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「予備動作がデケェ!出来る限り小さくしろォ!読まれるぞ!!!」

 

「っぐっ!?」

 

「フェイント入れろ、フェイントォ!一直線の攻撃ほど分かりやすいもんはねェぞォ!!!」

 

「ぐはっ!?」

 

「相手の動きを見ろォ!目を凝らせェ!!!俺の速度に少しでも慣れろ!!!予測しろォ!!!」

 

「ぐああっ!?」

 

 時間が惜しいと言わんばかりに始まったのは、3分間の模擬戦だった。まずは、通形達も緑谷の現状を目で見て把握したいとのことで、実弥が相手をすることになった。

 

(うわあ……圧倒的、だな……)

 

 拳藤は、目の前の光景に息を呑む。もう緑谷が気の毒な気さえしてきた。緑谷が一方的に叩きのめされ、地面を転がる。何度打ちのめされても、立ち上がってはやられる。その繰り返しだった。

 

 肝心の実弥は、木刀すらも持っていない。完全な我流の体術で緑谷を一蹴する。獣の如く柔軟な体躯。烈風の如く激しく荒々しい動き。全集中"常中"による驚異的な身体能力。それで()って繰り出す拳撃が、蹴撃が、並みの人間では視認不可能な速度で緑谷に襲いかかる。――恐らく、あれでも実弥は緑谷のレベルに合わせて加減をしているのだろうが――

 模擬戦を見守る中、実弥の実力の一端を改めて目にした拳藤は、ただ圧倒されるしかなかった。

 

 3分が経過すると、もう息は絶え絶え。緊張の糸が解けた緑谷は、どっと押し寄せてきた疲労で膝を突いた。

 

「よし……良く頑張ったァ。しっかり休めェ」

 

 汗だく状態の肩で息をする緑谷に水を差し出し、10分間の休憩を与えると、実弥は通形達に緑谷のことを任せ、休む間もなく拳藤の相手を引き受けている様子だった。

 あれだけ激しく動いたというのに、息一つ乱れていない。もはや無尽蔵に近いあのスタミナがあれば、どれだけ多くの人の元に駆けつけられるのだろう。

 

(もっと……体力、つけなきゃ……)

 

 ろくに動くこともままならず、水を流しこんでから地面に仰向けの状態で寝転がる。そのまま天井を見つめ、息を整えていると……。

 

「お疲れさん、緑谷君!」

 

「とっ、通形先輩……!?」

 

 視界の外から、通形がニュッと顔を覗かせてきた。先輩の前で寝転んだままなのは失礼に当たるだろうとゆっくりながらも体を起こす緑谷に対し、通形は明るい笑顔で話しかける。

 

「いやあ、見事に一方的にやられちゃったね」

 

「あはは……お恥ずかしい限りです……。本当に……自分がどれだけ未熟なのか、世界がどれだけ広いか……思い知らされます」

 

 緑谷は、苦笑しつつ、「もっと頑張らなきゃ」と言いたげな様子で拳を握りしめる。

 同年代にあれだけ一方的に叩きのめされたのだ。普通ならば、自尊心が粉々に打ち砕けそうなもの。立ち直れなくなってもおかしくない。こんな奴がいるなら、自分はもうやめてやる!と自棄になってもおかしくない。

 だが、彼の目からはもっと強くなりたいという願いが、憧れに近づきたい、理想を成したいという強い上昇志向が感じられる。

 通形、波動、天喰は、3人揃って彼の心の強さに感心していた。

 

 天喰が体育座りで座り込み、体育館の床をじっと見つめながら言った。

 

「……凄いな、君は。何度も自分の弱さに打ちのめされても……それをバネにして強くなれるタイプだ」

 

 彼の隣に座りつつ、波動も続ける。

 

「知ってる?昔さ、挫折してヒーローを諦めちゃって、問題起こした子だっているんだよ」

 

「他人の強さに心が折れて……ってこと、ですか?」

 

「そう!」

 

 遠くを見るようにしながら、彼女は続けた。

 

「あのね、問題起こしたりはしてないけど、私達もすっごく凹んだんだことがあるんだよ。()()()()()()()()()()()

 

「し、不死川君に負けちゃって!?」

 

 波動の口から放たれた一言に緑谷は稲妻に撃たれたかのような衝撃を覚え、咄嗟にその言葉を復唱してしまった。

 

「あっ!今の、鸚鵡(おうむ)返しってやつだよね!?私、知ってるよ!」

 

 無邪気な表情で緑谷に詰め寄る波動から引き継ぐように、通形が話し始めた。

 詰め寄る波動にドキッとしつつも、緑谷は彼の話に耳を傾ける。

 

「俺を初めて見た時の顔付きからして、緑谷君は去年の体育祭を見てるんだろう?俺達の結果は知っての通りさ。俺は落ちるところまで落ちたし、環や波動さんだって、目立った結果を残せちゃいなかった!」

 

 体育祭での失敗を取り返すかのようにして、2年次のインターンに必死で取り組み、自分達も経験を糧にして実力を開花し始めた頃。実弥が根津らの誘いで雄英の入試を受けることを決め、その敷地内に引っ越してきた。少しずつ、雄英の校舎内に顔を出すようになった。

 

 ある日、実弥の実力を確認する為もあってか、模擬戦を行うことに。相手は、当時の2年のヒーロー科全員。単純に考えれば、ヒーロー科の方が勝つに決まっているのだが……実弥は単純ではなかった。

 模擬戦の結果、ヒーロー科の方が敗北。単純に実力が通じない者、搦め手の"個性"が通用はしたが、それをひっくり返すような戦術で出し抜かれた者。色々といたようだが、確かに敗北した。

 年下に出し抜かれ、叩きのめされた。その事実は、彼らの自尊心を打ち砕いた。ここまで自分は何をやってきたんだと涙を流す者もいた。無論、通形達もその例外ではない。

 

 だが、心が打ち砕かれて終わりではなかった。年下にあれだけ凄いやつがいるんだから、自分達はもっとやれるはず。あんな風になって、夢を実現してやる。改めて、彼らの心が燃え上がった。

 そして……彼らと実弥は、年が違えど共に高め合うようになった。相手が年下だろうがプライドを投げ捨て、もっと強くなりたいと懇願した。実弥は、快くそれを受け入れた。

 

「――とまあ、今の俺達があるのは、間違いなく不死川君のおかげなんだよね。俺達だって、立ち上がれたけれど一回は折れかけてる。でも、緑谷君はそんな素振り全然見せない!それは、本当に凄いことだ」

 

 まさか、先輩にまで影響を(もたら)すとは。より多くの他人に影響を齎す人材が同じクラスにいることを誇りに思いつつ、とても……とても羨ましくなった。嫉妬すらしてしまう。

 僕が不死川君みたいな男なら、オールマイトの期待にもすぐに応えられるのに。

 家族や他の誰かを心配させずに済むのに。

 

 そうやって思うことは簡単だ。でも、実際にそうなるのは難しい。己を磨き続けない限り、絶対に無理だ。

 だから、がむしゃらに頑張ろう。そう思い直した。

 

 その後にも休憩時間が残っていた為、"個性"の話をした。3人の"個性"とその努力の軌跡を聞いた緑谷は、それはもう目を輝かせた。

 

「"透過"……!なんて扱いの難しい"個性"なんだ!壁を一つすり抜けるにしても、複雑なプロセスが必要だし、一度発動したら、酸素も取り込めないし、何も見えないし、何も聞こえない……。そんな状況で戦闘するなんて、どれだけ苦労するんだろう……。"波動"も一朝一夕で扱えるものじゃないぞ……!エネルギーの底が尽きたら自分が動けなくなるから、使い方は工夫しなくちゃいけないし、連携や被害のことも鑑みなくちゃいけない。"再現"も凄いし、万能だけど上手く扱えないと器用貧乏の形になるし……。こんなに扱いの難しい"個性"でトップに立つなんて凄すぎる!一体、どうやったらここまで……?ブツブツブツブツブツ……」

 

 もはや、癖の独り言で矢継ぎ早に言葉をつらつらと並べてしまっている。そのくらい、緑谷は感銘を受けたようだ。

 一息で紡がれるとんでもない量の言葉には、流石の通形達も硬直した。

 

「…………こんなに凄い独り言、初めて見たよ。緑谷君の癖なのかな?でも、ちょっと怖いからやめた方がいいと思うな」

 

「は、波動さん!?そこはオブラートに包むところだと思うんだよね!」

 

「はうっ!?す、すみません……善処します……」

 

 数秒して硬直から立ち直った波動の歯に衣を着せぬ物言いに、緑谷は心臓に矢が突き刺さったような感覚を覚えて胸部を押さえ、顔を羞恥で真っ赤に染めながら縮こまってしまった。

 真っ赤になった彼を不思議に思いつつ、波動が続け様に尋ねる。

 

「ところでさ、緑谷君。どうして、不死川君との模擬戦で"個性"を使わなかったの?」

 

「実は……」

 

 正気に戻った緑谷は、"ワン・フォー・オール"の秘密を伏せつつ、自分の現状を話した。

 "個性"が発現したのが、1年くらい前であること。 

 一度でも全力で"個性"を使用すれば、腕や足が骨折してしまうこと。

 だからと言って、怪我しない出力に調整をすることも未だに出来ないこと。

 今は、とにかく犠牲を少なくする為に扱い方を模索していること。

 

「へー……発現がすっごく遅い"個性"もあるんだね。不思議」

 

「ぼ、僕の場合、だいぶ特殊なケースだそうで……脳が無意識のうちに"個性"の発現を止めてたらしいです」

 

「体が"個性"を扱うのに相応しいレベルになるまで成長するのを待っていた……ってことか」

 

「多分、そういうことだと思います。体が鍛えきれてない状況下で発現してたら、四肢がもげて爆散していたとか……」

 

「「!?」」

 

 実弥の作り上げたでっち上げの設定を交えながら話を続ける緑谷と、衝撃の発言に思わず目を見開きながら、彼を二度見した波動と天喰。

 目の前の後輩が自分達と同じくらいに扱いが難しく、リスキーな"個性"を扱っていることを実感していた。

 一方、通形は2人と会話を交わす緑谷をじっと見つめている。

 

「ねえねえ、通形。さっきからだんまりだけど、どうしたの?」

 

 珍しく沈黙している彼を不思議に思い、波動が尋ねる。すると、彼は緑谷に向けていた視線を波動に向け、笑みを浮かべながら答えた。

 

「……ん?ああ、ちょっと考え事をしていたんだよね」

 

 そして、再び緑谷に視線を向けてから尋ねた。

 

「因みにだけど、緑谷君。"個性"を使った時のシチュエーションは?」

 

「え?えっと……入試で0Pを破壊する時が一番最初で……その次が、個性把握テストのソフトボール投げ。それと、初めての屋内戦闘訓練で天井に穴を開ける時。一番最近だと、USJの事件で(ヴィラン)の包囲網を突破する時です」

 

「成る程。事件の時も、(ヴィラン)に向けて直接使おうとした訳じゃなかった、ってことでいいかい?」

 

「はい。あまり詳しいことは言えないんですけど……取り敢えず、彼らを一網打尽にすること優先で使用したので」

 

「……成る程ね、よく分かったよ!」

 

 緑谷から話を聞き出した通形は、準備運動で体を解しながら続ける。

 

「つまり、緑谷君は人に向けて"個性"を使用したことがない訳だ。そうなると、体育祭も近いし……対人用の出力を自分の感覚で掴めるようにならなきゃね」

 

 伸脚で足の筋肉を解す彼に、何をするつもりなのかと緑谷は疑問符を浮かべる。

 「よし!」と準備万端といった様子で声を発しながら立ち上がると……通形は、自分を親指で指し示しながら大胆にも提案した。

 

「それじゃあ、緑谷君!早速、()()()()()()()()()!!」

 

「…………へ?」

 

 突然の提案。緑谷は、状況が理解出来ないといった様子で呆けた声を発するのがやっとだった。

三十話の実弥さんが過去を明かす部分は……

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