そして、今日までどうしようかな……と何度も考えたのですが、結論が出ました。
今の展開が気に入っているという方には申し訳ないのですが、省いて徐々に明かしていく方が味が出るのかな、と思いましたので、30話における発表会のようなノリになってしまった実弥さんの過去明かしは省かせていただきます。申し訳ありません。また、あのようなノリが好きではないという方に不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。
省くことになったので、実弥さんの過去を知らないメンバー・知ってるメンバーを後書きの方に記しておきます。ご確認いただきますと幸いです。また、30話、31話にセリフが変化している部分があります。こちらを投稿する前までに修正を施しておきましたので、そちらをご覧になってから最新話をご覧いただけると嬉しいです。
「なっ、な、殴る!?通形先輩を!?"個性"を使用してですか!?」
「そういうこと!」
慌てた様子で今から行うことを確認する緑谷。通形が状況の呑み込みが早いね、と言わんばかりに笑いながら即答するのを見ると、心の底から焦った。
(待て待て待て!ろくに"個性"の制御が出来ないんじゃ、通形先輩に怪我をさせてしまう……!それに、僕だって……!)
ただでさえ、貴重な時間を割いてまで付き合ってもらっている。3年生にとっては、最後の体育祭。何としてもベストな結果を残したいはず。
勿論、通形とてその中の1人。そんな彼に怪我を負わせてしまうことなど、絶対にあってはならない。緑谷も緑谷で、体育祭が差し迫るこの時期に怪我をする訳にはいかない。オールマイトの期待に応え、特訓に付き合ってくれる友に報いる為にも。
何としても"個性"を制御しなくては。緑谷にプレッシャーが押し寄せる。
(どうする!?どうする……!?)
必死で頭を回す。大きなプレッシャーによる緊張で額から汗が伝い、自然と息が乱れる。思考が空回りして、何も方法が思いつかない。
「緑谷君」
そんな彼を見兼ね、通形は白い歯を見せつけるように笑いながら言った。
「大丈夫!ビッグ3は伊達じゃない!それに、俺も君も怪我をすることはないさ!」
その笑顔にどこか安心を覚える。自分が少しずつ冷静さを取り戻しているのを感じ取りつつ、緑谷は尋ねた。
「……どうして、そう言い切れるんですか?」
すると、通形は笑みを浮かべたままで当然のように答える。
「君が真っ当にヒーローを目指してるってことが分かるからだよ」
その言葉を聞いた瞬間、緑谷の表情がやる気に満ちた。
ここまで言われて引き下がる理由はない。ともかくやってみよう、と覚悟を決める。
「……分かりました、信じます……!」
腰を落とし、地面を蹴って、通形に向かって駆け出す。
(レンジの中の卵が爆発しないイメージ……!)
自分なりに掴んだイメージを頭に思い浮かべながら、力を高める。
緑谷の腕に血管のような赤い光の筋が浮かび上がる。熱を持ったように、眩く淡い光を纏う。溢れ出した力は、周りの空気感すらも変える。
側から見ていた波動と天喰は、その瞬間に彼の"個性"の全力と肉体とが釣り合っていないことを見抜いた。
「――SMASHッ!!」
通形の目前まで距離を詰めた緑谷は、踏み込みを加え、全身を最大限に活用しながら右腕を振るう。振るった腕は――通形の肉体をすり抜けた。
「す、すり抜けた!?っていうか――」
通形に怪我をさせずに済んだことに安心しつつも、その事実に驚く。そして、驚くべきことはもう一つ。
「――折れてない!?」
なんと、緑谷自身の腕も折れてなどいなかったのだ。偶然かもしれない。それでも、"個性"を制御出来たことを嬉しく思いながら、右手を握ったり、開いたりを繰り返した。
"透過"の発動で自分をすり抜け、落ちてしまった衣服――どうせ脱げるからという考えからなのか、着直したのは下だけだったが――を着直してから、通形が言った。
「ほら、大丈夫だったろう?俺には"透過"がある!だから、君の攻撃で怪我する心配はないさ」
サムズアップして、笑顔で彼は続ける。
「怪我をしなかったのは、君の体が無意識のうちに俺が怪我をしなくて済むように出力を調整したからだと思うんだよね。つまり、今のが現段階の君が怪我をせずに、かつ相手も怪我させずに済む出力って訳だ」
「そういうことか……」
納得しつつ、緑谷は呟いた。ここまで来れば、後は自力でいつでも制御が出来るように感覚を体に叩き込むのみ。
「偶然にも引き出せた制御可能な出力。それを自分で引き出せるようになる!そこが次に目指す段階だよね。それじゃあ……次の3分間は、俺を相手に模擬戦やってみようか!」
「お願いします……!」
こうして、一段階成長を遂げた緑谷は、次の段階へと進んだ。10分間の休憩を終えると、善は急げと言わんばかりに通形との模擬戦に挑む。
「……うん。いつどっから来ても良いよね。遠慮はいらないよ、緑谷君!」
「はいっ!」
いつでもどうぞ、と言った様子で堂々と佇む通形。隙だらけのように見えるが、決してそうではない。全くもって隙がない。そもそも、通形の雰囲気が明らかに変わった。今の彼の雰囲気は、いくつもの経験を積み重ね、現場を駆け抜けてきたプロのそれに変化していた。
思わず息を呑む。肩に無意識のうちに力が入る。
(隙が無さすぎる……!けど――)
先手必勝。やられる前にやる。実弥に教わった戦闘の極意に則り、緑谷は通形の懐めがけて距離を詰め、''ワン・フォー・オール''を発動した状態で拳を振り抜く。
無論、出力は先程通形に対して放ったものを意識して。出力の制御には一旦成功するも――緑谷の拳は空を切った。拳を振り抜いた余波で多少風が吹き荒れたのみで終わった。
「ッ、いない……!?」
理解不可能な現実に動きが止まる。とにかく思考を巡らせる。
(どういうことだ……?通形先輩の"個性"は、"透過"。文字通り……凡ゆるものをすり抜ける。どうすれば、僕の視界から姿を消すことが出来る!?)
経験の中で磨き上げた途方もない技術か。はたまた、"個性"の応用か。何も分からないながらも必死で考察し、辺りを警戒する。
「……"個性"の、応用……!?」
考察を続ける中で一つの可能性を思い付いた、その時だった。
「――相手の位置が分からないなら、めいいっぱい動くべきだと思うんだよね!特に……俺が相手の場合ならッ!!!」
「ッ!?」
背後から声がした。攻撃を防ぐ構えを取りながら、慌てて振り返る。背後には、渾身のストレートパンチを振り抜きかけた通形の姿があった。
緑谷が咄嗟に攻撃を防ぐ構えを取ったことに感心するように「やるね」と一声だけ漏らす通形。直後に振り抜かれた拳は……緑谷の腕をすり抜けた。
「フェイントッ――」
初手の攻撃がフェイントであったことに気がつくが、時既に遅し。既に通形は空中で体勢を変え、がら空きになった緑谷の顎めがけて、アッパーカットを放っていた。
「がはっ!?」
速度と威力の乗った拳が彼の顎を打ち抜く。加えられた力の方向に従い、緑谷の体が空中に打ち上げられる。
視界が揺らぎ、意識が飛びかける。だが、すぐに持ち直して気絶することのないように気を強く持った。
雄英トップの実力者なら、空中にいる相手を追撃することくらい容易いはず。そう考え、緑谷は迅速に受け身を取って地面に着地。視線を上げた瞬間に、確かに目撃した。
――地面から飛び出し、自分の目の前に現れた通形の姿を。
(地面から飛び出した!?)
驚愕しつつも、振り下ろされる通形の拳をバックステップで
(やっぱり、''透過''の応用だ!それで地面に落ちた!そして……何らかの性質を利用して、僕の目の前にワープしたんだ!!)
思考を巡らせる間にも、通形は動きを止めない。すかさず地面に潜み、姿をくらませた。
再びワープするつもりなのかと思い、緑谷はこの場から離れることを決意する。''透過''を発動し、地面の中へと落ちていく通形は何もかもがすり抜けていく状態だ。肺は酸素を取り込めないし、網膜は光を透過し、鼓膜は振動を捉えられない。つまり、呼吸が出来ない上に何も見えず、音も聞こえない。足音を捉えるよりも前に移動してしまえば、一杯食わせることも出来るはず。
そう予想した。確かに彼の予想は間違った話ではない。だが、甘かった。
「逃がさないぜ、緑谷君!」
(また後ろッ!?)
緑谷が動くよりも前に、通形がその背後に回り込んだのだ。自分の考えを看破して、手を打たれるよりも前に回り込んだその姿が、水面から姿を現した巨大な鯨のようにも思えて、緑谷は思わずたじろいだ。
「わざわざ、こっちから対策を教えてあげたんだ!なら……それに乗ってきて当然だって、誰しもが考えるよね!!」
声を発しながら振り抜かれるフックを防ぐも……それは、交差された緑谷の両腕をすり抜ける。フェイントで放たれた一撃だ。
ならば、次に本命の一撃を放ってくるはず。どこから攻撃が来てもいいようにと目を凝らすが――
「予測に予測を重ねて相手に何もさせない……!戦闘の肝の一つだ!!!」
「かは……っ!?」
全く捉えきれなかった。瞬きした一瞬で、通形のボディーブローが緑谷の鳩尾を打ち抜いていた。
一瞬、横隔膜の機能が停止して呼吸が困難になる。肺に溜め込んだ空気を全て吐き出させられた緑谷は、空気の抜けた風船同然の状態になって、通形が拳を振り抜いたことに従って地面を転がった。
(速すぎる……!あれが、生身の人間が引き出せる攻撃速度だって言うのか!?)
やっとのことで受け身を取り、必死に酸素を取り込みながらよろよろと立ち上がる。先程の一撃は、視認不可能に近い速度のものだった。瞬きの一瞬で攻撃され、認識することもないままに撃破される敵キャラの気分を味わえた……などと感動している場合じゃない。
どう考えても、生半可な鍛え方で引き出せる速度ではない。それだけ、通形は修羅場を潜り抜け、己を鍛え上げてきたのだ。ここまで鍛えなければ、プロの道は厳しいのだ。
(これが雄英ビッグ3……!プロに最も近い場所に立つ人……!!)
素直に畏敬の念を抱く。ここまでのレベルになること……いや、恐らくはこれ以上に自分はならなくてはならない。そう思うと、途端に不安で仕方がなくなる。だが……何故だろうか。緑谷の口角は、無意識のうちに上がっていた。緊張による汗をかいているに加え、歪だが、確かにそれは獰猛な笑みだった。
(まずは、まずは……通形先輩に一矢報いろ!そうじゃなきゃ始まらない!)
立ち上がった緑谷を見て、よくぞ立ち上がったと言わんばかりに笑みを浮かべつつも、通形が地面の中へと落ちていく。それを目にした瞬間、緑谷は、カッと目を見開きながら拳を握った。
(予測しろ……。少ない情報から、答えを見つけ出すんだ!)
辺りをくまなく警戒しつつ、力を高める。緑谷の腕に赤い光の筋が迸り、淡い光を帯びていく。
''透過''を応用したワープ。繰り出される近接攻撃。その攻撃が狙い打つ位置。初手で出現した位置。その全てから導き出した緑谷の答えは――
(自分の、背後ッ!!!)
「ッ!?」
振り向きざまに、力を集めた右腕を振り抜く。たかが5%の出力。しかし、元の蓄積した力が力なだけあって、引き出された攻撃速度は並みの人間では反応不可能なものだった。
ましてや、予想だにしない形で繰り出されたカウンター。
(咄嗟の反応じゃない!俺がここに現れるのを……予測した!?)
これには、流石の通形も驚いた。普通なら、対応しかねる一撃。だが、ビッグ3は伊達じゃない。彼は、既にそこの対策を十全に行っていた。
「だが……!必殺ッ!!」
ブラインドタッチ
透過した状態で繰り出す目潰し。通形の剛腕が、緑谷の右腕をすり抜けて彼の右目目掛けて一直線に迫った。
「うっ!?」
人体の急所である、目に向かって繰り出された一撃。失明を防ぐ為に、無意識のうちに緑谷は目を閉じる。
それによって、彼の視界を奪うのが通形の狙い。目で捉えられなければ、攻撃を防ぐ手立てなどない。それが人間というもの。通形の策にまんまと嵌まって無防備になってしまった緑谷の鳩尾に凄まじい威力のアッパーカットが繰り出される。
しかし――緑谷は、それを間一髪で防いだ。
「まさか防がれるとは思っていなかったよね。やるじゃないか!」
''透過''ですり抜け、落ちてしまった下半身の衣服を着直しながら、構えを取った通形が感心した様子で言う。
「へえー……通形の動きを予測するなんて。緑谷君、思った以上だね!」
「……そうだね。ミリオの動きを読んで、完全に攻撃を防いだのは……下級生なら、不死川君を含めて2人目だ。緑谷君は学習能力が高いらしい。それでも、まだまだなところはあるけれど……」
緑谷の動きに感心していたのは、模擬戦を見守っていた波動と天喰も同じらしかった。
緑谷は、息を整えながら構えを取って、言葉を返す。
「いえ……正直、一か八かでした。通形先輩が、人体の急所を狙って確実に意識を刈り取る攻撃を繰り出してたので、そこから予測して選び抜いた選択が偶然当たったってだけです……!」
「人体の急所と言っても、何箇所かありますし」と付け加えつつ、自分の未熟さを痛感する。
今回の場合は、本当に運が良かっただけなのだ。本来なら、もう視界を奪われた時点で負けは確定している。実弥からは、「急所に対する攻撃は無意識に防ぐんじゃなく、確実に避けろ」と教えられてきた。そのはずなのに出来なかった。つまりは、まだまだ特訓が足りないのだ。
それ以前に、最初のボディーブローで気絶しても何もおかしくなかった。あの一撃を耐えられたのは、きっとそれ以前に実弥の威力の高い一撃を何発も受けて、幾らか耐性がついたからだろう。
本当に、何もかも運が良かった。
「うん……!良いね、熱くなってきた!まだまだ時間は使える!めいいっぱい打ってきなよ、緑谷君!!!」
「はいっ!」
気合を入れて返事をすると共に、緑谷は駆け出す。通形との模擬戦は、まだまだ始まったばかりだ。
★
そして、3分後。
「うぐぐ……さ、流石は通形先輩……。お強い……」
想像以上の奮闘っぷりを見せた緑谷に後輩を導く者としての魂を刺激されたのか、加減を忘れてしまった通形によって、緑谷は一方的に打ちのめされた。腹パンを何度も喰らって生じた痛みに悶え、
「ねえねえ、通形。気持ちは分かるけど加減してあげなきゃ駄目だよ?緑谷君が怪我しちゃったら大変なんだから」
「ごめんごめん……。緑谷君も折れずに熱心に立ち向かってくれるもんだから、ついつい力が篭っちゃったよね」
「ついついじゃないよ!知ってる?体育祭前なんだし、緑谷君が怪我で出られなくなったら私達にも責任あるんだからね?」
そんな緑谷を叩きのめした張本人は、ムスッとした顔の波動に説教を喰らっていたようだった。
この腹部に刻まれた痛みは、二度と忘れることがないだろう。そんなことを思いつつ、緑谷はゆっくりと体を起こす。
「……ごめん、緑谷君。ミリオは加減を知らないんだ。昔から」
彼が体を起こすのを手伝ってやりながら、罪悪感を露わに天喰が言う。対し、緑谷は全く気にしない様子で言葉を返した。
「いえ……。通形先輩の強さが存分に知れましたから。……本当に凄い技術でした。''透過''を応用したワープ。目にも止まらぬ一撃。ワープもワープで、滅茶苦茶速かったし……。フェイントの数々にもまんまと引っ掛けられた。僕も鍛え続けたら、あんな風に強い
そう言いつつ、顔をあげる緑谷。彼の瞳は……キラキラと輝いていた。憧れ、羨望、向上心。そんなものが彼の緑色の瞳に集まり、エメラルドのような眩い輝きを放っていた。より一層増した輝きがあまりにも眩しく、天喰は思わず目を細めた。そして、微笑みながら言う。
「……その向上心がある限り、きっと大丈夫さ」
「!頑張ります!」
天喰の答えに、緑谷が安心したような様子で満面の笑みを浮かべる。向上心に溢れ、純粋な彼がとても微笑ましく、天喰の頬も釣られて緩んでいた。
「やー……本当にごめん、緑谷君。思わず力いっぱいやっちゃったよね」
手を合わせて頭を下げる通形。気に留めない様子で、緑谷は立ち上がった。
「いえ、ご指導ありがとうございました……!」
天喰の肩を借りながら立ち上がり、緑谷は礼を言う。実弥に続いて、通形に一方的に打ちのめされたというのに、その目からは未だに輝きが失われていない。通形はそのことにホッとし、波動は不思議そう且つ、興味深そうに緑谷をじっと見つめていた。
「緑谷君!私ね、気付いたことがあるの。ねえねえ、言っていい?」
「はっ、はいっ!」
波動が言いたくて言いたくてたまらないと言った様子で緑谷に詰め寄る。何かアドバイスでもされるのだろうと思い、緑谷は、気を付けの姿勢を取った。
そこまで固くならなくてもいいのに、と不思議に思いつつ、波動が続ける。
「あのね。緑谷君の動き、すっごく固いなあって思ったの」
「動きが……固い……?」
「そう!」
尋ね返した緑谷に対し、波動は満面の笑みで肯定を示した。発言の意味を汲み取れず、考え込む緑谷を見兼ね、天喰が続ける。
「深く考え込む必要はないよ。波動さんが言っていることは、そのままの意味だから。俺が思うに、君と俺達とでは"個性"に対する考え方が違うんじゃないかな」
「"個性"に対する考え方、ですか……」
言葉をそのまま繰り返すように呟く緑谷。天喰は、頷きながら、先程までの小心者っぷりはどこに行ったのかと誰かが疑問に思っても仕方がない様子で、凛然と言葉を発する。
「緑谷君。君……"個性"を必殺技と同じようなものだと考えていないかい?ゲームで言うなら、通常攻撃でゲージを溜めて、必殺技を放つ。君の考え方だと……"個性"は、このプロセスの中の必殺技に当たる」
天喰の言葉に、緑谷はどこか納得がいった。確かに、今の自分は力を溜めて出力を引き上げ、攻撃に乗せて"個性"を発動し、発動が終わればいちいち"個性"を解いている。
天喰は続けた。
「思い出して、緑谷君。"個性"は、身体機能の一つ。常にあって当然なんだ。さっきの例えを出すなら……"個性"は、本来なら通常攻撃の方に当たる」
「身体機能の一つ……。常にあって当然……」
緑谷は呟く。自分の中に新たな点と点が出来たような感覚を覚えながら。考え込む彼を見つつ、天喰は自分の片腕をタコの足に変化させながら言った。
「"個性"を用いて必殺技を放つなら、確かに溜めは要る場合もある。けど、基本的には発動すること自体に溜めは必要ない。腕を思うままに動かせる、思うままに喋れる。思うままに攻撃を放てる。それと同じだよ」
「!つまり……動きに合わせて、"個性"のオンオフを切り替えるのが動きが固くなる原因ってことですか?」
「うん……そうなるね」
天喰の話で彼と波動が言いたかったことを完全に理解した緑谷。完全に理解出来た様子の彼に、天喰はゆっくりと頷く。
"個性"のオンとオフを切り替える。その無駄を省き、常にある状態にして、いつでも思うままに発動出来る。このプロセスをスムーズに行う為にはどうするべきなのだろう?
その時。必死で頭を回して考える緑谷の中に、点と点を繋ぐ為の線になり得る一本のか細い線が与えられた。
「それなら!
そう発言したのは、いい案が浮かんだと言わんばかりに目を輝かせている波動。その発言によって、緑谷が新たな進化を遂げようとしていた。
「全身に、発動……」
少しずつ点と点が結びついていく感覚を覚えながら、呟く。そして、天喰が波動に続いて言った。
「そう。"個性"を纏うイメージだよ、君の全身に。纏って、常に体の一部として扱うんだ」
「全身に纏う……。体の一部として扱う……」
与えられた新たなる線が、波動の与えたそれと絡まり合い、一本の明確な線になりかけている。だが、まだ何かが足りない。緑谷の中でも、あと少しでピンとくるのに……という、もどかしさが募っていた。
「……緑谷ァ。おはぎの材料を知ってるか?」
「おはぎの……?えっと、餅米……だよね」
そんな風に声を掛けてきたのは、模擬戦で疲弊しきった様子の拳藤を背負った実弥だった。
「は、恥ずかしいから下ろして……」と顔を少し赤くしながら呟く拳藤の声に耳を傾け、姫抱きよかマシだろと内心で思いつつ、彼女を下ろしてやってから緑谷の返答に肯定を示した。
「そうだァ。おはぎを作る為に、餅米を時間をかけてゆっくり炊くんだ。
そして、緑谷の肩に手を置き、こう言った。
「お前は餅米だァ、緑谷」
「へ……?も、餅米じゃ――」
実弥の言ったことがすぐには理解出来ず、当たり前な返答を返そうとした……その時だった。波動、天喰、実弥の与えた3本の線が絡まり合い、明確で強靭な一本の線になって、点と点を繋いだ。
「……ッ!」
刹那、緑谷の脳裏を一筋の閃光が貫いた。閃きが彼の中に募っていた靄を晴らす。太陽の光のように降り注いできた閃きを、緑谷は早速実行に移した。
「僕は餅米……!そういうことか……!分かったよ、不死川君!!」
最適な解答を見つけたことで目を輝かせながら、全身に力を込める。
("ワン・フォー・オール"の出力を……0から、じわじわと時間をかけて引き上げる!餅米をじっくり炊くイメージで!!慌てるな……!オールマイトのことは一旦忘れろ、自分のペースだ!!)
緑谷の体の底から、じわじわと力が湧き上がる。今はゆっくりでも構わない。慣れてから、引き上げる速度を上げれば良い。0から、1……2……3……4……5。一気に引き上げるのではなく、段階を踏んで徐々に出力を引き上げる。
そして、彼自身が感覚で掴んだ現段階の最大出力に辿り着いた。
(ここだ……!今の安定して使える出力!そして、餅米の全体を加熱……。つまり、僕の体の隅々まで"ワン・フォー・オール"を行き渡らせて、纏う!!)
最大出力まで引き上げられれば、次の段階へ移行する。"ワン・フォー・オール"で全身を強化して、いつでも使える状態にする段階だ。
イメージ通りに、緑谷の体全体に悪を
血管のような赤い筋が緑谷の体中に迸り、その肉体が淡い光を放つ。
そして、その力が彼の体全体に行き渡った瞬間……緑色に輝く稲妻のようなオーラが、彼の周囲を激しく迸った。
「「「おお……!」」」
その光景に、波動、天喰、通形の3人は同時に感嘆の声を上げた。実弥も、緑谷の進化を喜ぶように獰猛な笑みを浮かべている。
「……ようやく辿り着いたらしいなァ、自分の答えに」
緑谷が、力の感触を確かめるように右手を開いたり握ったりを繰り返す。そして、その場で軽く突きや蹴りを繰り出して、動いてみる。
――体が不思議と軽かった。今まで以上によく動く。
「……まるで自分が自分じゃないみたいだ……!」
手応えを感じつつ、緑谷はそんな感想を抱いた。
「うん、お見事!見違えたよ。立派な成長だね、緑谷君!」
「……!ありがとうございます!」
よくやったと言いたげに手を差し出してきた通形と笑みを浮かべあって握手を交わす。そんな光景を微笑ましく見守りながら、波動が言った。
「緑谷君、緑谷君。技の名前、どうするの?」
「え?技の……名前?」
ポカンとしながら尋ねた緑谷に、波動は何度も頷きながら詰め寄った。
「そう!必殺技の名前だよ!知ってる?必殺技って言うのは、必勝の技や型のことなんだって!」
「体の一部で扱っていたものを全身レベルに昇華させる……。立派な必殺技だと思うよ。必殺技というのは、攻撃技だけに限らない」
「その通りだよね!技は己の象徴にもなる。オールマイトの『
(必殺技……かあ)
詰め寄る波動と続け様に言い寄ってくる天喰や通形に圧倒されながら、緑谷は思ってもみなかったという様子で考えた。
オールマイトをリスペクトしている以上、大抵子供の頃のお遊びで考えた名前は彼の必殺技をそのまま持ってきたものだし、今でもいくつかはそのまま使うつもりでいる。名付け方も彼のやり方と同じ。だが……これは、緑谷だけの必殺技。特訓に付き合ってくれた先輩や友達と共に作り上げた、彼だけの必殺技。
思い入れがある以上、独自の名前をつけたい。そう思った。
アイデアに思い悩む中、一石を投じたのは拳藤だった。
「……フルカウル……とか、どうかな?」
「フル、カウル……?」
疑問符を浮かべる一同に、拳藤は「女子っぽくないかもだけど」と一言置いてから続けた。
曰く、彼女はバイクが好きらしく、休憩している間、緑谷と天喰の話に耳を傾けていたのだそうだ。そして、今。ふと、彼らの話にもあった「全身に"個性"を纏う」というワードと自分のバイク好きがリンクしたらしい。
――因みに「カウル」は、バイクなどの外装のこと。空気抵抗を考えた流線型のボディカバーで鎧のように車体を纏ったものを指す――
「へェ……車体全部覆ったやつがフルカウル、って訳かァ」
実弥が興味深そうに呟き、笑みを浮かべた。
「いいんじゃねェかァ?洒落てるし、イカしてる」
「うんうん、カッコいい名前!文句なし!」
「良いネーミングセンスだ。俺達も見習わないと……」
「満場一致って感じだよね。まあ……どうするかは、君次第だ。緑谷君」
実弥、波動、通形、天喰の4人は一切の文句無しで賛成の意思を見せる。
ならば、肝心の緑谷はどうするのか?勿論、この提案を却下する理由などどこにもない。とことん付き合うことを約束してくれた拳藤の為にも、彼女のおかげで成長したという証を残したかった。
それが必殺技の名前になるとは、素晴らしいことこの上ないのではないか。
「……採用するに決まってるよ、拳藤さん……!僕、強くなるよ。拳藤さんの名付けてくれた技で!」
「……!う、うん」
満面の笑みで緑谷が答える。流石にここまで喜ばれるのは予想外だったのか、拳藤は圧倒された様子で返事を返していた。
「さァて……感覚忘れねェうちに使い慣らすぞォ。来い、緑谷」
「!うん!すぐ行く!」
実弥に促され、もっともっと強くならなくては、と言わんばかりにやる気を漲らせて、後に続く緑谷。彼の背中を見守り、通形達は彼が間違いなく立派なヒーローになるだろうと予感していた。
「…………いやー、あそこまで喜ばれるとは思わなかったな……」
そして、晴れて技の名付け親となった拳藤は……すんなりと自分の提案が採用されたことで4割の嬉しさと6割の気恥ずかしさを覚えて小さく縮こまってしまった。
しかし、その代わりに緑谷の特訓に付き合う理由が増え、より一層親身になって彼と共に励み、強くなろうと強く誓った。
――実弥が弱みを見せられる程に頼れる友になる為に。
こちらに、実弥さんの過去を知ってるメンバー、知らないメンバーを記入しておきます。整理しておきたい方はご覧ください。
実弥さんの口から直接聞いて改めて知ったメンバー
切島君、八百万さん、爆豪君(盗み聞きに近い)、轟君(爆豪君と同じく)
USJ事件でのAFOの音声を通して間接的に知っているメンバー
緑谷君、麗日さん、梅雨ちゃん、峰田君、瀬呂君、砂藤君、障子君、芦戸さん、耳郎さん、上鳴君
何も知らないメンバー
飯田君、常闇君、口田君、尾白君、葉隠さん、青山君
前回、初登場したビッグ3の3人は、実弥さんの口から直接聞いて事件前から既に知ってます。拳藤さんと鉄哲君も過去明かしの省略が入ったので何も知りません。(ただし、拳藤さんは修正前と同じくエリちゃんを抱きしめて涙を流す実弥さんを目撃してるし、鉄哲君は彼にどうしようもなく辛いことがあったとなんとなく察してます)
三十話の実弥さんが過去を明かす部分は……
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省いてほしい
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そのままでいい