疾きこと風の如く   作:白華虚

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2022/1/1
実弥さんがゴールした際の他キャラのリアクションを追加しました。


第三十五話 障害物競走

 遂に開幕した雄英体育祭、その第一種目……障害物競走。開始早々に仕掛けられた轟の策を看破し、易々と乗り越えた実弥が先頭に立った。

 悔しさに拳を握りしめながらも、凍った地面を滑走して実弥の背中を追う轟だが、彼の策を乗り越えたのは実弥だけではなかった。

 

「甘いですわ……轟さんっ!」

 

「待てや!半分野郎ォ!!傷顔ォォ!!!」

 

 八百万や爆豪を筆頭としたA組の生徒達も、轟の繰り出した初手の妨害を乗り越えたのだ。

 自分達もより上を狙わんとし、彼らも轟に続いて実弥の背中を懸命に追っていく。

 

『さぁて、実況していくぞ!Are you ready?ミイラマン!!』

 

『無理矢理呼びやがって』

 

 観衆の予想を覆す一手を見せつけられて最高潮に達したテンションのまま、マイク越しに言うプレゼントマイク。

 その隣に解説役として無理矢理立たされていることを愚痴る包帯だらけの姿をした相澤であったが、それも程々にして発言した。

 

『ほら、俺に構ってないで早く実況したらどうだ。不死川はとっくに第一関門に辿り着いてるどころか……突破しかけてるぞ』

 

『What!?いやいや、流石に――』

 

 相澤の言葉に驚愕しつつ、『そいつァ言い過ぎだろう』と続けようとして競技の状況に目を向けたプレゼントマイクの視界に入ったのは――

 

 

 

(かぜ)呼吸(こきゅう)()(かた)――韋駄天台風(いだてんたいふう)

 

 

 

 巨大な金属兵器を粉々に叩き斬る巨大な台風だった。

 バラバラになって地面に崩れ落ちていく金属兵器――0Pの仮装(ヴィラン)。プレゼントマイクも、観衆もその光景を見て唖然とする。だが、台風の中から、事前に持ち込みの申請をしておいた木刀を手にした実弥が姿を現したのと、解説席の相澤に肘で強めに小突かれたのをきっかけにして慌てて実況を再開した。

 

『おいおいおい!!!第一関門、ロボ・インフェルノが呆気なく陥落したじゃねえか!流石は不死川!!ハンデを課されようが、この程度じゃ俺を止められねえってか!?さりげなく、幾つもの部品に斬り刻んで妨害までしてやがる!ズリぃぜ!!!』

 

 第一関門、ロボ・インフェルノ。文字通りに入試で用いられた仮想(ヴィラン)が溢れ返る戦場さながらの地獄。0Pも複数体用意されているという気合の入りっぷりだ。

 普通ならば、その怪獣さながらの巨大さと獣の瞳のように赤く獰猛に輝く光に思わず足を止めるだろう。しかし、実弥は全く止まらない。機械程度では、元"風柱"は止められない。

 

 0Pが土煙を上げながら完全に崩れ落ちるのを背中にし、地面に着地。巨大な0Pが崩れ落ちて生じた地鳴りによって、大量の1〜3Pの仮想(ヴィラン)が実弥の元に集まってくるが――

 

 

 

(かぜ)呼吸(こきゅう)(いち)(かた)――塵旋風(じんせんぷう)()ぎ!!!

 

 

 

 地面を抉り抜く程の凄烈な旋風を巻き起こしながら駆け、それらを(ことごと)く塵に変えると、風の如く……ひたすらに疾く駆けていく。

 

『着地後の隙を突かんとして集まってきた仮想(ヴィラン)もまとめて塵にしやがった!!まさに、飛んで火に入る夏の虫状態!!A組不死川、勢いを衰えさせることなく一抜けだ!!!!!』

 

 迫る障害を物ともせずに第一関門を乗り越えた実弥の姿に、会場中からは歓声が巻き起こる。他を圧倒的に出し抜くその姿に、観衆は例外なく熱狂した。

 

 一方で、ようやく轟を始めとした先頭集団が第一関門に辿り着いた。目の前に立ち塞がる巨大な壁を見上げ、誰もが足を止める。そんな状況をプレゼントマイクが騒がしく実況する横で、相澤は寡黙に見守っていた。

 

(不死川……。ハンデを背負ってもなお、この実力とは……やはり、他の奴らとの実力差は大きいな。これを目の前にして萎縮するか、それでも上を諦めずに食らいつくか……。さあ、お前らはどっちだ?)

 

 相澤の視線の先には、第一関門に辿り着いたA組の生徒達の姿がある。彼の問いに答えるかのように――轟が動いた。

 

「せっかくなら、もっと凄えもん用意して欲しいもんだな……。クソ親父が見てるんだから。何より、お前らみてえな機械相手に立ち止まる訳にはいかねえ」

 

 冷気を発する右手を地面につけると、地面が凍りつき、氷柱が彼の周囲を囲うように迸る。そして、遥か先を憎むようなその瞳で目の前の壁を射抜き――右手を振り上げる。

 刹那、氷山を思わせる巨大な氷塊が形成され、0Pの全身を呑み込んだ。その結果、不安定な体勢で凍らされた0Pは、勢いを止められずにそのまま地面に倒れて崩れ落ちた。

 流石は推薦入学者と言うべきか。0Pすらも全く寄せ付けない実力を見せつけ、先を目指して進んでいく。

 

「…………これが、ヒーロー科……」

 

 誰かが圧倒されたように呟いた。実弥に轟。連続して強者の実力を見せつけられたことで、自分達はこんな相手に張り合おうとしていたのかと絶望して完全に動きを止める者が次々と現れてしまう。

 だが、それは全員ではない。その圧倒的な実力に逆に火をつけられ……何としてもトップは譲らない、奪い取ってみせるとやる気を漲らせる者もいた。

 

「あの傷顔ォ……!腕に何か付けてやがったな……!?ナメプか!!ふざけんじゃねェェェ!!!」

 

 爆豪が怒りをたぎらせながら、0Pの振るう拳を(かわ)して、その上を乗り越える。

 

「滅茶苦茶キレてる……。怖え怖え……」

 

「まさしく、己の領域を侵されし獣」

 

 彼に便乗して、瀬呂と常闇が己の"個性"を駆使して0Pを乗り越える。

 

「……負けられない!」

 

 

 

ワン・フォー・オール、フルカウル――5(パーセント)!!

 

 

 

 彼らの熱意は緑谷に伝播し、"個性"を発動。その全身から、緑色の稲妻を迸らせた。

 続けて、彼は迫る0Pの巨拳を見据え――

 

(そして――瞬間出力、8()()!!!)

 

 地面を蹴る一瞬に出力を引き上げて跳躍。0Pの腕に跳び乗った。

 

「もう一丁ッ!!」

 

 更に、0Pの腕を蹴るその瞬間にもう一度8%出力を発揮。緑色の閃光のように駆け抜け、0Pを乗り越えた。

 見違えるようにレベルアップした様子の彼の背中を、A組の面々は思わず手足を止めて見送っていた。しかし、彼の背中があっという間に見えなくなると、すぐに行動を再開。

 

「……!デク君、"個性"を上手く使えるようになっとる……!」

 

「彼が見違えるように成長したというのは、俺達の思い違いではなかったということか!」

 

「私達も負けられませんわね……!行きますわよ、皆様!!」

 

「「「「「おおーーー!!!」」」」」

 

 ただ上を目指して突き進む。実弥の背中を追いかける。その熱意は、緑谷からA組全体へと伝播。副委員長たる八百万の声に応え、各々のやり方でロボの群れを乗り越えていく。

 

『圧倒的な実力を見せつけた、A組不死川と轟!そこにA組の奴らが続いて、続々と第一関門を突破していくぅ!!!圧倒されてる場合じゃねえぞ!やはり、この差は巨悪に対峙した経験の有無なのか!!?』

 

 続々と目の前の壁に立ち向かっていく卵達を見るや、プレゼントマイクの実況にも熱が入る。

 クラスの講じた策を振り切り、上を目指す為に先を走る拳藤と鉄哲も、実弥や轟の実力に息を呑み、足を止めていたが……2人揃って、気合を入れ直すように自分の頬を叩いた。

 

「プレゼントマイクの言ってる経験の差は……決して覆せない差じゃねえよな!A組の奴ら、全員やる気満々だぜ!俺達も不死川のダチとして負けてらんねえぞ、拳藤!!」

 

「ああ、言われるまでもないっての!!」

 

「……張り切ってるな、鉄哲と拳藤」

 

「ええ……。私達も行きましょう。ただ全力で立ち向かうのみです」

 

 鉄哲と拳藤のやる気は、同じくして策を捨ててまで上を目指すB組の生徒達に伝わり、彼らもまたA組の背中を追わんとして走り出す。

 実弥の圧倒的な実力。それは少なくとも、本気で上を目指さんとする者達にとっての勝利への執念を燃やす燃料となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『不死川、第二関門のザ・フォールも難無く突破していくゥゥゥ!!!忍者のように崖と崖を跳び移る!!!しかも、綱の上を走りながら渡っても、バランス一つ崩れねえ!体幹どうなってんだ!?』

 

 第一関門を突破する為に生徒達が奮闘している頃。実弥は既に第二関門に突入し、突破しかけていた。

 第二関門、ザ・フォール。切り立った崖がバラバラな間隔で幾つも並び、崖と崖同士が細い綱で繋がっている。下を見下ろせば、真っ暗闇。何一つ見えず、その高さは計り知れない。ここから落ちたらどうなるのか……。それを考えるだけでも、体が縮み上がりそうな光景が広がっている。ここを渡っていくのは、高所恐怖症の者には耐え難い苦行だろう。

 

 だが、それを前にしても実弥は足を止めない。プレゼントマイクの解説通りに、重りを加味した上での身体能力で跳び移れる幅の場所は、綱を跳び越えて崖から崖へ易々と跳び移り、そうでない幅の場所は途中まで綱の上を走って渡る。そして、問題ない幅になったところで跳躍して次の崖へと辿り着く。

 

 そういった方法で、実弥は着実に第二関門の終わりへと近づいていた。

 前世では、家屋の屋根から屋根へと跳び移りながら移動するという芸当を当然のようにやっていたので、綱のような足場の不安定な場所でも容易く移動出来るのは当然と言えば当然かもしれない。

 

 そうこうしているうちに、実弥は他を大きく突き放す形で最終関門に到着した。

 目の前に広がる光景に思わず足を止め、訝しむ。

 

 不自然なくらいに広く、何もない平地。辺りの看板は、「ここは危険地帯ですよ」とあからさまに示すものばかり。そして、目を凝らして地面を見れば……明らかに人の手で加工が施された場所があった。

 何かが埋まっていることを看破した実弥の耳に、プレゼントマイクの実況が届く。

 

『やっとこさ立ち止まったな、不死川!その慎重さは正解だぜ!!これぞ、最終関門の地雷原!名付けて……怒りのアフガン!!!地雷の位置は、よく見りゃ分かるようになってる!目と脚を酷使しろ!他の奴らもトップに追いつくチャンスだ!!!』

 

 『威力は控えめだが、音と爆発は派手だから失禁必至だ!』と付け加えるプレゼントマイクに淡々と『人によるだろ』とツッコミを入れる相澤を他所に、実弥は思考していた。

 

(これだけの地雷の量だ。一度踏んだら、連鎖して爆発しやがるな……。重りもあるし、ごり押すにはリスクがデカい)

 

 なるべく地雷を踏みたくはない。だが、確実に踏むのを避ければ速度が落ちる。後続が追いつくまでに余裕があると言えばあるのだが、相手が手段を選ばないとなれば確実に追いつかれる。事実、爆豪や轟は、地雷のリスクを気にせずに駆け抜けられる手段がある。

 それに、エリが見ている以上はトップを維持したいし、自分がここにいる誰よりも疾く現場に辿り着くことが出来る存在になれるのだと証明し、未来を生きる子供達を安心させたいという思いもあった。

 なるべく地雷を踏まず、速度を落とさずに突き進む為にはどうすればいいか……。

 

 思考を続ける実弥の中に、電流が走る。それは、一筋の閃きだった。確実に踏むのを避ければ速度が落ちる。それなら……地雷を踏むにしても、()()()()()()()()()()()()()のだ。

 実弥は、そうすることが出来る技術を知っている。

 

 思い出すのは、''水柱''の冨岡義勇が扱っていた呼吸、水の呼吸の玖ノ型……水流飛沫・乱。これは、攻撃用ではなく、主に移動に用いる型。動作中の着地時間と着地面積を最小限にして、縦横無尽に跳ね回るというもの。

 足場の悪い場所、地形が変形する場所での戦いには特に適しており、今扱うにはきっと最適だ。

 

 実弥自身に水の呼吸の適正はない為、当然技になり得る程の精度はない。だが、その技を繰り出す為の技術を盗むことなら出来る。

 使えるものは何でも使う。そのやり方は、前世も今世も変わらない。特に今世は余計なプライドなど打ち捨てて、他人の技術さえも吸収して自分のものにしなければ……成長し続けなければ、守りたいものを守れない。

 

 疾風の如く、時間をかけずに疾く駆け抜ける。かつ、着地時間と面積は最小限にして、そよ風のように優しく着地する。動作に緩急をつける。

 自分のやり方に合うようにアレンジを加え、精度を上げる。

 

(借りるぜ、冨岡……!お前の水の呼吸の技術!!)

 

 答えを見つけた実弥は、とうとう地面を蹴る。そのまま、迷いなく駆け出した。

 状況が動いたことに嬉々としながら、プレゼントマイクが実況に移る。

 

『おおっと!?不死川が動いた!速度を保ち、迷いなく駆けていく!!しかし、そのままじゃ地雷を踏んじまうんじゃねえか!?』

 

 彼の実況を耳にしながら、観衆と相澤も最終関門を突き進んでいく実弥を見守る。目を凝らしてみれば、極力地雷の埋まっていない位置を見極め、そこに着地してはいる。しかし、時々、地雷のある位置を明らかに踏んでしまっている。

 ……そのはずだが、不思議なことに地雷が作動していない。

 

『あれ?不死川、たまに地雷のある位置踏んでるはずなんだが……地雷が作動してねえぞ?まさかのハプニングか!?不具合なのかぁ!!?生中継中にアクシデントは勘弁だぜ!!!』

 

 予想外の事態に観客達は不思議そうに顔を見合わせている。プレゼントマイクもテンションが高い状態を保ちつつも困ったように言うのだが……。

 

『……成る程な』

 

 相澤が実弥の動きを見ながら、ただ1人納得した様子で呟いた。

 

『何が成る程なんだよ、イレイザー!解説Please!』

 

 何も呑みこめていないプレゼントマイクが解説を促すと、相澤は「お前……プロだろうが」と言いたげにジト目を向けつつも、渋々と言った様子で解説を始めた。

 

『不死川の動きを見た上での予想でしかないからな。違っても後から文句言うなよ。よく見てみりゃ……不死川は、着地する時間と足が地面につく面積を最小限にしてる。加えて、速さも保ってる』

 

 実弥の動きを見た相澤の推測はこうだ。

 

 全速力になれば、旋風を巻き起こすほど。そうでなくとも、常人の目ではいくら頑張っても姿を認識できない速度。そして、想定よりも短い着地時間。更に想定よりも狭い、地面に着地する足の面積。

 この三つの要素が合わさり、地雷の信管が作動するだけの圧力がかかっていない。

 もっと言えば、実弥が地雷を踏んでいる時間が想定よりも遥かに短いから、埋め込んだ地雷が作動しない。

 

『――俺に出来る範囲の予想はこんなところだな』

 

 締め括られた解説をもう一度脳内で整理する。そうして生まれた当然の疑問を、プレゼントマイクが口にした。

 

『……あれっ、不死川って複合型の"個性"持ちだっけ?』

 

『いや……本質的には、常人より遥かに丈夫な肺を持ってるってだけだ。つまり、あの歩法はただの技術だな。"個性"を用いて地雷に干渉なんて、不死川の"個性"では出来やしない』

 

『嘘だろ……?おいおい、"個性"無しでそんな芸当が出来るってのかよ!明らかに真似出来る技術じゃねえぞ!レベルが違えぜ!一体、どこで習得したってんだ!?』

 

 慎重さと大胆さ。その二つを兼ね備えた動きが出来ることに、競技を見ているプロヒーロー達は感嘆する。また、プレゼントマイクの言葉に同意しながら、ひっそりと舌を巻く。

 物事というのは、大胆になり過ぎても良くないし、慎重になりすぎても良くない。その二つのバランスを兼ね備えていることがベターな場合が多い。それらを上手く兼ね備えた上に、誰にも真似出来ないような技術を己の芸当として披露出来る実弥は、確実にプロヒーロー達から高い評価を勝ち取りつつあった。

 一度活路を見出してしまえば簡単なもので、実弥は土壇場で実行した技術が上手くいったことに安堵しつつも、問題なく最終関門を突破した。

 

 そうなれば、後はひたすらゴールへ向けて駆けるだけ。厄介な関門に立ち塞がられた不満を発散するかのように速度を上げ、風の如く駆けた。最後まで独走を譲らない彼が韋駄天の如く駆ける姿に、会場中が熱狂する。

 そして、実弥が遂に――ゴール地点であるスタジアムにその足を踏み入れた。

 己を覆い尽くす風圧を切り裂きながら、アクロバティックにゴールを果たした彼に観衆の視線が一気に集中する。

 

『うおっ!?いつの間にゴールしてた!?速えな、おい!!!初手の妨害を乗り越え、真っ先に先頭に立ち……誰にも、その座を譲らなかった!!ハンデも物ともしなかった!!この第一種目で1位の座を勝ち取ったのは――』

 

『A組ヒーロー科、不死川実弥だぁぁぁぁぁ!!!!!誰も寄せ付けない圧倒的実力で、一際輝くものを見せてくれたぜ!!不死川の活躍っぷりに、Clap your hands!!!』

 

 テンションが最高潮の状態であるプレゼントマイクの称賛に促され、会場中で歓声と拍手が巻き起こる。実弥の勝利を讃えるように紙吹雪が舞う。

 

「とんでもない速さだったな……。羨ましい限りだよ」

 

「肺が丈夫ってだけの"個性"なら、あの身体能力や鎌鼬は何なんだろうな……?一体、どういう仕組みなんだ?」

 

「何にせよ、学生時からあれだけの速さを発揮出来るのは強いぞ。是非とも事務所に欲しい人材だ」

 

「崖と地雷原を突破する時はともかく、ロボ破壊した時は全く動きを捉えられなかったわ……」

 

 観客達がひたすらに歓声を上げる中、プロヒーロー達は早速実弥という人材を見極めているようだった。"個性"に関連性のない実弥の芸当を不思議に思ったり、彼の速さを羨望したり、様々な反応を見せている。

 

「……それにしても、風が巻き起こった後には塵になったロボット達が残ってたり、ある程度の速度になれば余波で風が起きたり……。何となく神風を思わせる立ち回りだよなあ」

 

「不死川が神風だって言いたいのか?確かに他に比べて逸脱した実力はあるが……学生だぞ?いくらなんでもそりゃないだろ」

 

「ええ……?風を突き破って、その中身が現れたことがあるらしいけど……姿がA組の不死川君の特徴と似てる気もするわ……」

 

「いやいやいや、所詮は都市伝説とか噂だろ?信じるなって」

 

「そうかしら……?」

 

 一観客の中には、一部だけ実弥と神風の関連性に触れている者もいるようであった。

 

「か、かっこよかったよ!お兄ちゃん!!!」

 

 汗を拭う実弥に、満面の笑みで必死に声を張り上げながら手を振るエリ。そんな彼女に、実弥も微笑み返して手を振り返した後、周囲の観衆にも手を振って答えた。

 

(さぁて……お前も這い上がってこい、緑谷)

 

 競技を終えた彼は、爽やかな晴れ空の下で競技を中継しているモニターを見上げる。獰猛な笑みを浮かべ、ここまで特訓を施してきた友の成長を見守ることにした。

 

 

 

 

 

 

 勿論のこと、実弥が1位を勝ち取ったことは競技中の生徒達にも伝わっていた。

 

「凄い……。他を寄せ付けずに1位になっちゃったよ、不死川君……!僕も立ち止まっていられない!」

 

 他を全く寄せ付けない実弥の実力に感嘆した緑谷は、自分もいつかはあの高みに辿り着くのだと己に言い聞かせ、ゴールを目指して強く一歩を踏み出した。

 

「……!」

 

「クソッ……!」

 

 実弥が1位を勝ち取ったのだと理解した瞬間、轟と爆豪の中に大きな喪失感が押し寄せた。しかし、それはすぐさま己の内に抱えきれない程の大きな悔しさに変わった。

 

(背中を捉えることも出来なかった……。一矢報いることすら……)

 

 これでは、父親を否定することなど出来やしない。右の力だけでヒーロー科1年におけるNo.1を超えられないのなら、それは、左の力がなくては同年代のライバルを越えることすら出来ないと示しているも同然。轟は、自分が情けなくて仕方がなかった。

 

(全速力すら出してねえ傷顔に負けた……!クソが……!クソが!!!)

 

 どんな事情があろうと関係ない。とにかく、そこにあるのは全力を出していない実弥に自分が圧倒的な敗北を喫したという事実だけ。そのことが爆豪にとっては大きな屈辱で、1位になれなかった悔しさと共にそれが押し寄せてきた。

 

 1位は勝ち取れなかった。ならば、せめて2位は勝ち取る。自分達が他よりも優れていることを証明する。

 悔しさを振り切るように、2人も前を目指して進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よしっ、ここまで来れた……!」

 

 汗を拭いながら、そう呟くのは……太陽に照らされて鈍い輝きを放つ1Pの腕の部分の装甲を背負った緑谷。

 「使える物は何でも使え」という実弥の教えに従った彼は、もしかしたら何かに使えるかもしれないと思って1Pを拳で破壊し、その装甲をこの最終関門まで持ち込んできた。

 

 だが、その重さは緑谷を慎重にさせるには十分過ぎた。フルカウルを含めて発揮出来る身体能力や体幹を鑑みると、装甲を背負って崖から崖へ跳び移るという芸当はリスクが大きいように思えた。結果、彼はナマケモノのような姿勢になりつつも、地道に綱を渡ることを選択。

 こうして、無事に第二関門を乗り越えたが……それと引き換えに順位を落とし、轟や爆豪に距離を突き放されてしまった。

 

 肝心の爆豪と轟は、緑谷のいる位置から遥かに離れた地点で互いを妨害しながら進んでいる。追いつくチャンスは、ここが最後。

 単に走っていては追いつけないことを悟る緑谷は、もう一度「使える物は何でも使え」という実弥の教えを思い出す。

 

(この装甲を持ってきた甲斐があった……!使うなら、ここしかない!!)

 

 自分の考えに自信を持ちながら、彼は手にする装甲を――地面に突き刺した。

 そのまま、前方にいる生徒達が避けていく場所に目を凝らし、埋まっている地雷を徹底的に掘り起こすと、一箇所にかき集めていく。

 

(入口付近は、警戒心が特に高くなる。だから、地雷が沢山残ってる!威力は控えめと言っても、体勢崩すくらいの威力はあるし、連鎖して爆発したら、体力をごっそり持っていかれる……!!でも、その威力を利用出来れば、逆転出来るかもしれない!!!)

 

 周りに目を向けつつ、頭を回す。何があろうとも諦めずに策を捻り出す。

 そうして捻り出した策を実行する為に、地雷を利用することが必要不可欠だった。

 皆がゴールを目指して前へ前へと進む中で、1人黙々と地面を掘り返す緑谷の姿は、何とも不可解なもので、側を通り過ぎる生徒達は例外なく訝しげに彼を振り返った。

 

「……何してんだろうね、緑谷」

 

「……えっ?な、何だろ……?」

 

 疑問に思ったのは、拳藤も同じらしい。隣で耳たぶから垂れたプラグを地面に突き刺し、地雷の探知をしながら歩いていた耳郎は、B組の彼女がA組である自分に対して尋ねてきたのが意外だったのか、困惑気味に答えた。

 緑谷の行動を疑問に思う拳藤ではあったが、何となく彼が何か凄いことをやってのけて、状況を大きくひっくり返すのだろうなという予感はしていた。そして……程なくして、その予感は的中することになる。

 

「よし……一か八か!!!」

 

 確実に成功する保証はないかもしれない。それでも……きっと、何もやらずに後悔するよりは、やれることを全てやってから後悔した方がいい。

 覚悟を決め、緑谷はここまで持ち込んできた装甲を構える。一箇所にかき集めた地雷を見据え――そこに、思い切って飛び込んだ。

 かき集められた地雷が一気に押し潰されて圧力がかかり、作動する。次の瞬間、凄絶な爆発が起きた。

 

『なっ、何だ!?後方で大爆発が起きたぞ!?』

 

 勢いよく噴き上がる爆煙に気が付き、プレゼントマイクが反応する。爆発によって発生した音と光に、最終関門を突破しようと進み続ける生徒達は思わず振り返る。

 

「ッッ!?」

 

「っと!?大丈夫?」

 

「あ、ありがと……。ごめん、腰……抜けたかも……」

 

「あらま……。ほら、肩貸すから――!?」

 

 爆発音に腰を抜かして地雷を踏みかけた耳郎を支えながら、拳藤も振り返り……その目で見た。

 爆煙を突き破るようにして猛進する、鈍い輝きを放つ緑色の装甲を。

 

「……マジか、緑谷」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――前を見据え、それにしがみつく緑谷の姿を。

 

『ロボット共の装甲が突っ切ってくる!!よく見りゃ、誰かしがみついているぞ!?あれは……A組の緑谷出久だ!!!偶然か故意か、爆風で猛追してきたぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

 互いを妨害し合いながら進んでいた轟と爆豪も、思いもよらぬ事態に足を止め、目を見開きながら振り返る。思わず唖然とし、空中を突き進んでいく緑谷を見送るしかない。

 

『そして、今……A組緑谷が、先頭にいた轟と爆豪を抜いたぁ!!!2位の争奪戦の行方は、まだまだ分からなくなったぞ!』

 

 自分達の状況を端的に実況されるや否や、ハッとしながら立ち直る。

 

「デク……!俺の前を……行くんじゃねェェェ!!!」

 

「チッ、後続に道を作っちまうが……手段を選んでる場合じゃねえ!!」

 

 格下であったはずの緑谷にまたもや出し抜かれた。爆豪は、その事実に苛立ちを覚えながら、掌から爆破を放って浮かび上がり、目を血走らせて緑谷を猛追する。

 轟は、出し抜かれたことに焦りを覚えながら、手段を選んでいる場合じゃないと割り切って、地面を凍らせながら地雷を起動してしまうリスクを排除して走る。

 

『中々アツい策を見せてくれるじゃねえか、Smart boy!!これには堪らず、爆豪と轟も足の引っ張り合いをやめて緑谷を追う!だが……緑谷、徐々にスピードが落ちていく!折角掴んだチャンスが水の泡になるかもしれないぞ!!ここからどうする気だ!?』

 

 自分を猛追する轟と爆豪に目線だけをやり、プレゼントマイクの実況を耳にしながら、緑谷は頭を回し、前を見据え続ける。

 

(失速……!そこも既に考えてた!大丈夫、策はある……!タイミングが大事だ!!)

 

 爆風を利用して距離を詰められたとは言え、その勢いをずっと維持していられるなんてうまい話はない。必ずどこかで失速する。

 律儀に、地雷に気を付けながら着地を試みれば、大きなタイムロスが出る。その僅かな時間に、爆豪と轟ならば容易く距離を稼ぐことが出来るだろう。再び突き放されてしまえば、もう一度追い越すのは難しい。

 ――なんとしても抜かれる訳にはいかない。

 

(かっちゃんと轟君の前に出られたチャンス!掴んで放すな!タイミングは――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ここだぁぁぁッ!!」

 

 絶好のタイミングで、緑谷はしがみついていた装甲から体を離した。そして、体勢を変えると、手にしている装甲を地面に向けて思い切り振り下ろし、強く叩きつける。

 その結果、どうなるのか……。答えは簡単だ。

 

 地面に埋まっている地雷に圧力が加わり、起動する。次の瞬間、緑谷達の足元で大爆発が起きた。

 

「っ!?」

 

「ぐあっ!?」

 

『おおっと、緑谷!間髪入れずに後続を妨害!!地雷原をクリアし、緑色の稲妻を放ちながら駆け出す!スパートかけてきたぞ!!!』

 

 再び地雷を爆発させるなど、予想出来るはずもない。何の準備も出来ていなかった爆豪と轟は諸に爆発を喰らい、爆煙に呑み込まれながら体勢を崩してしまった。その隙に、緑谷は爆風を利用しながら前方に飛び出し、受け身をとって着地。

 フルカウルを5%出力で使用しているところを、地面を蹴る一瞬だけ8%に引き上げ、駆け出した。

 

(ッ……!?怪我一つしてねえ……!?)

 

(クソデクが……!!いつの間に''個性''を制御していやがった!?ふざけんじゃねえ!!!)

 

 緑谷が怪我することなく''個性''を使用して地雷原を突破し、どんどん自分達との距離を突き放していくのを見ると、2人揃って悔しさに歯を食いしばりながらも体勢を整えた。そして、がむしゃらに走って緑谷の背中を追っていく。

 だが、実弥に容易く1位をもぎ取られた時点で彼らの心は乱れていた。そこに、自分達を出し抜いた緑谷の策とその成長が更なる揺さぶりをかけてしまった。

 乱れに乱れた心理状態では、最高のコンディションを引き出せるはずもなく……。2位だけは絶対に譲る訳にはいかないという思考とは反対にスピードに乗り切れず、みるみる緑谷との距離が開いてしまう。

 

 対する緑谷。2位だけは絶対に譲らないという考えは彼らと同じであったが、コンディションは最高の状態に至っている。後続に出し抜かれまいとして、ラストスパートに突入していた。

 

(不死川君やオールマイトが見てるんだ!2位だけは、絶対に譲れない!見てくれてる人達に……僕の為に時間を割いてくれた人達に応えるんだ!!!)

 

 ゴールであるスタジアムのゲートに緑谷が近づくにつれ、観衆の盛り上がりもより一層高まる。2位が決定する瞬間を絶対に見逃すまいとして目を凝らし、カメラを向けた。

 そして――

 

『遂に今、第一種目の2位が決定したぁっ!!最終関門までの状況を見て、誰が予想出来た!?この結果を!!!2位で辿り着くと思われていた轟と爆豪を出し抜き、その座を奪取したのは――』

 

『A組ヒーロー科、緑谷出久ぅぅぅぅぅっ!!!!!』

 

 緑谷は、とうとう轟と爆豪を大きく突き放して、スタジアムに帰還した。1位こそ取れなかったが、2位を勝ち取ったという形で。

 

「2位……。僕、が……?」

 

 歓声に包まれている中でも信じられない。自分が2位を勝ち取ったことが。思わず、観戦席にいるオールマイトを見上げる。彼が自分の方を見て、「良くやったな」と言いたげに白い歯を露わにしながら笑っているのを見ると、ようやく2位を勝ち取れたという実感が湧いてきた。

 

「お疲れ。最終関門の、イカしてたぜェ」

 

「!不死川君……!」

 

 穏やかな声に振り返ってみれば、笑顔で手を差し出す実弥の姿がある。

 

「……ありがとう。2位になれたのも、君のおかげだよ」

 

 汗を拭いながら、緑谷も笑顔で手を握り返す。緑谷の手を握りつつ、実弥は言った。

 

「俺はきっかけを与えただけだァ。やるかやらないかは、最終的にお前が決めた。……頑張ったのは緑谷自身の意思だろォ」

 

 そして、緑谷の頭を軽く撫でた後、その肩に手を置きながら続ける。

 

「ほら、観客達の声に応えてやれェ。オールマイトみたいな、皆を笑顔で救けるヒーローになるんだろ?」

 

「……うん!」

 

(本当にありがとう……。不死川君……!)

 

 改めて内心で実弥に礼を述べると、照れ笑いを浮かべながらも、歓声を上げる観客達やカメラを向けるマスコミなどに手を振って答える緑谷であった。




この後の騎馬戦、実弥さんのメンバーはどうしようかなあ……と悩んでおります。組んでほしい人がいれば、活動報告欄にそれ用の項目を設けておきますので提案していただけると嬉しいです。

また、こちらが今年最後の投稿になります。ありがとうございました。

まだまだお見苦しい点もありますし、読者様の指摘に頼りながらこちらの作品が成り立っていますが……よろしければ、来年も拙作をよろしくお願いします!

では……皆様、良いお年を。
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