疾きこと風の如く   作:白華虚

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皆様、活動報告欄にて騎馬戦のメンバーの提案をしていただき、ありがとうございました。

実際にどんなメンバーになったのか……。それは、本編をその目でご覧ください。

そして、皆様……遅ればせながら、あけましておめでとうございます。今年も、「疾きこと風の如く」をよろしくお願いします!


第三十六話 メンバー選抜

「デク君!2位凄いね!''個性''も上手く扱えるようになっとったし……!悔しいよちくしょ〜!」

 

「いやいや……!まだまだだよ!''個性''だって、出力を抑えて使ってるし……。全部を引き出すにはまだまだ遠いしさ……」

 

「そんなことないよ!立派で大きな成長やん!」

 

「そう……かな?」

 

「そうだよ、自信持って!」

 

 そう言いつつ、笑顔で緑谷に詰め寄るのは、障害物競走で17位の成績を収めた麗日。

 緑谷が2位でゴールした後、続々と他の生徒達もゴールしてきたのだ。

 

「凄いじゃん、2位でゴールなんて。おめでとう、緑谷」

 

 そう笑顔で話しかけるのは拳藤。彼女は、22位でとある少女と同着でゴールした。

 

「ありがとう、拳藤さん。……と、耳郎……さん?」

 

 その声に礼を言いながら振り返ってみると……耳郎を横抱きにして抱えた彼女の姿があった。――無論、耳郎も拳藤と同着の22位である――

 

「……耳郎さん?どないしたん?」

 

 「も、もうゴールしたんだから下ろしてよ、恥ずかしいから……」と顔を赤くして呟く耳郎を見て疑問に思ってか、麗日が尋ねた。

 すると、拳藤は耳郎を下ろしてやりながら苦笑気味に答えた。

 

「ほら……緑谷が大爆発起こしたでしょ?あの時の音にびっくりして、腰抜かしちゃったってさ」

 

「あ……!」

 

 緑谷はやらかした、と言わんばかりに声を上げた。

 

 耳郎の''個性''は''イヤホンジャック''。耳たぶから垂れたプラグを壁や地面に挿せば、些細な音でも探知が出来るのだ。それだけの聴力があるのは素晴らしいが、聴力が良すぎるが故に大音量を聞かされれば、常人以上のダメージになるのは間違いない。

 今回の場合、地雷の爆音がダメージになったということになる。

 

「ご、ごめんなさい!耳郎さん!」

 

 自分のせいで思った成績が残せなかったであろう耳郎のことを思うと、謝らずにはいられない。緑谷は、場を顧みずにそれはもう頭を下げた。

 何度かの瞬きの後、耳郎は笑みを浮かべながら、頭を下げる緑谷の動きを止めるようにプラグを突き付けて答える。

 

「謝らなくていいよ。……轟に宣戦布告された時に緑谷自身が言ってたじゃん。『皆、本気でトップを狙ってるんだ』って。あんたもそうなんでしょ?あんたは、その為に出来ることを全力でやっただけ。だから、気にしなくていいの。ウチは気にしてないから。……分かった?」

 

「う、うん……」

 

 圧倒されながらも頷いた緑谷を見ると、耳郎は突き付けていたプラグを納め、満足そうに笑った。

 

「分かったならよし。……凄かったよ。緑色の稲妻をバチバチ放って、爆豪とか不死川みたいにぴょんぴょん飛び跳ねて」

 

「あ、分かっちゃった……?うん、2人を参考にしてるんだ」

 

 そんな風に耳郎と会話を交わす緑谷をじっと見つめる者達がいた。

 

(得意種目で……7位……)

 

 1人は、どんよりと沈み込んだ様子で拳を握りしめる飯田。自慢であるスピード。それを発揮出来るはずの、得意とするはずの種目で、7位という残念な記録になってしまった。

 無論、そのことも悔しい。だが、何より……友であり、ライバルでもある緑谷に大きく出し抜かれた。そのことが純粋に悔しかった。

 

「この2週間であれ程まで成長するなんてな……。やはり、君は凄いよ。緑谷君……!」

 

 それでも、やはり緑谷を尊敬した。入試の時から、緑谷は常に自分のいる場所の一歩先を行く。だからこそ、彼に大きく置いていかれたことが悔しいのだ。

 

(まただ……!傷顔にも、デクにも負けた……!クソがっ……!!)

 

 もう1人は、爆豪。障害物競走で激しく動いて吹き出た汗だけでなく、焦りによって生じた汗が、徐々に増幅していく彼の中の焦りの如くじわりとその頬を伝う。

 ずっと格下だと見下していた緑谷に出し抜かれた。2位だけは譲れないと思っていたのに、轟にも上を行かれて、4位に蹴落とされた。しかも、肝心の緑谷は知らぬ間に"個性"を上手く使えるようになっているときた。

 緑谷が確実に成長を遂げている。自分との格差を着実に縮め始めている。そのことが彼を激しく苛立たせた。強く食いしばった歯と血走った目が、彼の苛立ち具合を物語っていた。

 

 完膚なきまでの1位を勝ち取る。自分が1位になる。爆豪の夢が、早々に崩れ去りつつあった。

 

(不死川だけじゃねえ……。緑谷にも……抜かれた……)

 

 更にもう1人は、轟。茫然自失と言った様子で緑谷を見つめていた。父を見返す。それだけの為に右側の力で1位を目指した……はずなのに。

 いざ終わってみれば、その結果は3位。格下だと見くびっていた緑谷にまで追い抜かれ、無様と言う他ない。

 悔しい。情けない。そんな感情が轟の中に雪のようにしんしんと降り積もっていく。

 仮にもNo.2である父親に鍛えられた影響か、自分は他の有象無象には絶対に負けないという驕りがあったのかもしれない。

 

「っ……」

 

 世界の広さを知った轟は、ありったけの悔しさを胸に唇を噛み締めるのが精一杯だった。

 

 自分に視線を送る者達の感情など露知らず。緑谷は、2位でゴール出来た嬉しさと実弥の居場所の遠さを己の内に強く刻みつける。

 見事に成長を遂げた彼を微笑ましく思いつつ、緑谷の肩に手を置きながら、拳藤は笑顔で話しかけた。

 

「活きたな、特訓の成果」

 

「う、うん!……ここまで変わるなんて、思ってもみなかったよ……」

 

 右手を握りしめつつ、成長を実感して微笑みながら、緑谷はこれまでの特訓の日々を思い出す。

 

 基礎を徹底的に積み重ねながらも、ビッグ3や実弥、拳藤の手を借りながら、何度も組手を繰り返した。彼らのおかげで、初めての必殺技であるフルカウルも習得出来たのだ。

 

 休み時間には、0.1%という発動しているかいないかのギリギリな出力でフルカウルを常時発動し、出力制御の練習を行った。

 因みに、クラスメイト達の中に、緑谷の体が淡く発光していたような記憶や緑色の稲妻のようなオーラが迸っていた記憶があるのはこの特訓の影響だったりする。

 勿論、相澤や雄英側から許可はもらっている。雄英の敷地内且つ、授業時間やプライベートに関わる場所を除くという制限付きではあったが、十分な成果を得られたと緑谷は思っている。

 実際に、そのおかげである行動を行う瞬間――例えば、地面を蹴る、相手に打撃を加える瞬間など――に、瞬間的に出力を引き上げるという芸当が可能になった。

 

 肉体面だけではなく、精神面も鍛えた。実弥と一緒になって、念仏を唱えながら滝に打たれたり、瞑想したり……。何とも古風な特訓を繰り返した。

 体育祭を迎え、緑谷が必要以上にビクつく様子がなくなったのは、この特訓のおかげだと言える。以前のように謙虚さを持ちつつも、いくらか心に余裕が出来たのだ。

 

 ここまで自分を成長させる特訓を施した実弥や先輩達は凄いんだな、と改めて実感する日々だった。

 少しでも爪痕を残し、自分を知らしめられる。そんな可能性が増えた。そのことに緑谷はひたすらに感謝した。

 そんな彼がいつの間にか拳藤との距離感を近くしていることに、麗日が何だか面白くなさそうな顔をしていたのは誰も知らない。

 

 そして、緑谷をここまで育て上げた当の本人はと言うと……。

 

「おい、そこのゲス葡萄。少し話をしようぜェ……!」

 

「や、やめろ!不死川!全国に中継されてんだぞ!酷え状態になったオイラを世間に晒す気か!?」

 

「知ったこっちゃねェよ、テメェのような女の敵がどうなろうとなァ……!!」

 

「わ、悪かったって!お願いだから、オイラの側に近寄るな!!!何でもするから見逃してくれよぉ!何だったら、オイラの秘蔵コレクションを――」

 

「話を逸らすなァ!!待ちやがれ、峰田ァァァ!!!!!」

 

「く、来るなぁぁぁぁぁ!!!野郎に追いかけられるのは、望んでねえんだよぉぉぉ!!!!!」

 

 体育服の上着のチャックを大胆にも全て開けた状態の八百万に欲丸出しでくっついてゴールした峰田を、憤怒の表情で追いかけ回しているのだった。

 この後、女子からの実弥の好感度が上がり、峰田の好感度が地の底まで急転直下したのは言うまでもないだろう。勿論、峰田が実弥から逃れられるはずもなく……修羅と化した彼の鉄拳による、渾身の拳骨を見事に喰らった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「予選通過は上位43名!残念ながら落ちちゃった人も安心なさい。まだ見せ場は用意されているわ!」

 

 ミッドナイトの言葉に従い、巨大なスクリーンに上位43名の名前がズラリと表示される。

 実弥もまた、それに従って一人一人の名前にザッと目を通してみた。

 そうして分かったのは……43名の大半がヒーロー科の面々であること。クラスメイトの全員が予選を突破したことを、実弥は一先ず嬉しく思った。

 その中に唯一、普通科の生徒とサポート科の生徒が1人ずつ食い込んでいる。どちらも中々の執念だと思うと同時に……。

 

(心操人使……。宣戦布告してきた奴か。要注意だな)

 

 普通科の生徒である心操の方にターゲットを絞り、警戒心を高めた。

 

「さあ、次からはいよいよ本選よ!第二種目は……これ!!」

 

 鞭を振るって音を立てながら、ミッドナイトが後方のスクリーンを示す。そこに表示された三文字は――騎馬戦。

 なんと、個人戦で蹴落としあった次は、チーム戦ときた。

 

「……成る程なァ」

 

 収入を得て、食って生きていく為に他人を蹴落としてでも活躍を見せつける。

 だが、一方で自分の出来ることには限りがある。だからこそ、他人の手を借りて、競争しながらも協力しあって苦難を乗り越える。

 そんなヒーロー飽和社会の現状を体現しているかのような種目の選び方に、実弥は腕を組みながら思わず興味深そうに呟いていた。

 

 そして、ミッドナイトによって競技内容が説明される。

 まず、参加者は2人から4人のチームを自由に組んで、騎馬を作らなければならない。競技時間は15分間だ。

 基本は普通の騎馬戦と同じルール。しかし、少し違うのは、各生徒達に障害物競走の順位に従ってポイントが振り当てられる点。騎馬を組んだ生徒達がそれぞれ保有しているポイント数を合計したものが、騎馬のポイント数ということになる。所謂(いわゆる)、入試の時と同じようなポイント稼ぎ形式だ。

 因みに、騎手は各生徒達のポイント数が表示された鉢巻を首から上に装着するらしい。ポイントに対する欲だけに囚われれば、管理が大変になる。そこも計算に入れなくてはならなそうだ。

 そして、最も重要な点として、鉢巻を全て取られても、騎馬が崩れてもアウトになることはなく、最後まで競技を続けられるという点がある。悪質な崩し目的の攻撃などをした時は、一発退場になるとのこと。

 

 さて、肝心の与えられるポイント数は、下から5Pずつ増えていくのだが……実弥は、何となく嫌な予感がしていた。というのも、雄英は校訓のPlus Ultra(更に向こうへ)に従い、常識に囚われないようなことをやりがちだ。入学初日に個性把握テストを行った相澤然り、何でもありなガチンコ競走であった第一種目然り。

 

(さァて……どんな受難を課すんだろうな、ミッドナイト先生)

 

 密かに心の準備を決めた実弥。それほど時間も経たない内に、その時が訪れた。

 

「――そして、1位の不死川君に与えられるポイントは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――1()0()0()0()()!!!

 

「…………一番下の5Pの200万倍たァ、ぶっ飛んでんなァ……」

 

 想像の斜め上を行く数値に、流石の実弥も苦笑しながら呟く他なかった。

 ミッドナイトは、この程度じゃ終わらないわよと言いたげに笑みを浮かべながら続ける。

 

「そして!不死川君には、重りを外して競技に挑んでもらう代わりに……強制的に4人騎馬を組んでもらいます!」

 

 チーム戦にすることで、実弥の動きに制限をかける気らしい。確かに……合理的な判断だ。

 

「上位の奴ほど狙われちゃう、下剋上のサバイバル!上を行く者には更なる受難を。雄英に在籍する以上、何度も聞かされるよ!これぞPlus Ultra(更に向こうへ)!乗り越えてみせなさい、不死川実弥君!!!」

 

(……ええ、やってやりますよ)

 

 今、実弥は狩られる側となった。だが、一匹の兎に集う何十匹もの獣を思わせる周囲の獰猛な瞳にも怯まない。彼ら以上に獰猛な白い狼となって、拳を鳴らしながら、口の端を吊り上げて不敵に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(メンバー……どうすっかな)

 

 ルール説明後、15分間のチーム決めの交渉を行う時間が設けられた。

 実力は、ヒーロー科最強として定評のある実弥だが……周りにめちゃくちゃ避けられている。避けられているというより、敢えて組みたくないと言ったところだろう。

 友でライバルだからこそ、高い壁である実弥に挑む。彼の手を借りずに上を行きたい。彼から1000万を奪い取って、下剋上を果たしたい……。

 理由はいくらでもある。前者二つがA組の大半の意見で、後半がB組やその他の意見と言ったところだろうか。

 

「不死川君!」

 

 そんな実弥に声をかける者がいた。

 

「「組もう!」」

 

 振り返ると、グッと拳を握る緑谷と麗日の姿があった。この様子だと、彼はもうメンバーを1人見つけているらしい。

 実弥は思う。

 

 この2週間で、緑谷は確実に大きな成長を果たした。些細なことでは動じず、かつての同僚程ではないが、水面のような静かな心を手に入れた。きっと、自分すらも感心するような素晴らしい策を持ち込んでくるのだろう……と。

 それが予想出来る。彼が成長するまでを知っている。だからこそ、思うのだ。

 

 その策を、成長を……敵として見てみたい、と。

 

「……気持ちは嬉しいが、断る」

 

 目を微かに見開いて固まった2人に、実弥は続ける。

 

「緑谷。お前は……確実にこの2週間で成長したなァ。俺はそこまでの道のりを知っている。だからこそ、見てェんだ。その成長ってもんをなァ。味方同士じゃなく、敵同士として」

 

 そして、不敵に笑みを浮かべながら、人差し指で招くような仕草をして挑発した。

 

「挑んでこい、全身全霊を賭けて。お前の策を見せてみろォ」

 

 実弥の仕草に、緑谷と麗日は個性把握テストが始まる直前の相澤を思い出していた。

 そのまま、2人で顔を見合わせ……頷き合う。

 

「……分かったよ、不死川君。君に挑みに行く。そうだよね、これが本気でトップを目指すってことなんだ!」

 

「よーし……!デク君、不死川君にも負けへんような自慢のチームを作ろう!そして、獲りに行こう!1000万!!」

 

「うんっ!!」

 

 やる気いっぱいの笑みを浮かべ、次の人物の元へと交渉に向かう2人を見送りながら、実弥も笑う。

 

「……根性のある奴らだァ」

 

 ああいう人材は、いつしか必ず伸びる。そんな予感を胸に、実弥もメンバー決めに動き出した。

 取り敢えず、避けに避けられている状況だ。なるべく早くメンツを決めなければ、他に取られる。そうなると、動く他ない。

 

 A組の実力者達は、全員自分に挑んでくるような根性の持ち主なので、候補から全員除外。そうなると、数は絞られる。

 

(普通科の心操……。根性はあるだろうが、"個性"の全貌が見えねェ。……却下だ。サポート科の奴は……状況次第、になるか)

 

 実弥としても、信頼のある相手と組んだ方が都合が良い。

 ……それはそうだ。何もかも未知な相手と組むのは、あまりにもリスクが大きい。コミュニケーションや"個性"などの相性という面でも。

 

 それに、実弥にとって、腹の内が全く分からない相手というのは理解し難い存在だ。だからこそ、前世で鬼殺隊として活動していた真っ最中は、冨岡と犬猿の仲だった。

 何せ、鬼が滅ぶまでの彼はとにかく言葉足らずだった。しかも、誤解を招く発言や、「俺は柱じゃない」発言から始まる無責任とも取れる不可解な行動。これらを連発する始末。事情も考えていることも何も口にしようとしない。だから、苛立ちが募った。彼が嫌いだった。

 ――無論、最終決戦後はその腹の内を知って、普通の同僚レベルの仲にはなれたのだが――

 

 結果、実弥が組みたい相手は更に絞られた。

 

「拳藤、鉄哲。俺と組んでくれ」

 

 実弥に頼まれた2人は、顔を見合わせた。拳藤が少し戸惑った様子で尋ねる。

 

「……クラスメイトじゃなくて、私達で良いの?」

 

 実弥は、続々とチームを決めつつあるクラスメイト達を示しながら答えた。

 

「俺に頼って上に行こうなんて甘い考え方してる奴、A組(ウチ)にはいねェからな。全員、必死で挑んでくるような根性ある奴らだァ」

 

 2人の目を見ながら、彼は続ける。

 

「勿論、2人が前者のような奴だって言ってる訳じゃねェ。2人を選んだのは……単純に俺が信頼しているからだ」

 

 実弥の一言が、ストンと2人の胸中に落ちていく。内側から、暖かいエネルギーが湧き上がってくるのを感じた。

 

「……良いよ、組もう。不死川の力になれるなら、万々歳だし。ありがとな、頼ってくれて」

 

 拳藤が嬉しそうに笑いながら答えた。

 

「っくぅぅぅ……!熱いなあ、おい!不死川!!分かったよ、俺……お前の熱い気持ちに答えるぜ!挑みたい気持ちもあるけど……ダチの思いを無碍には出来ねえ!!!」

 

 鉄哲が感動を噛み締めるように拳を握りながら答えた。

 

「礼を言うのはこっちの方だァ。ありがとよ」

 

 実弥も笑みを浮かべながら礼を言う。2人の心の綺麗さに感謝しかなかった。

 

「そういう訳だから……ごめんな」

 

「済まねえ!骨抜、泡瀬、塩崎!俺は不死川の思いに答える!ダチを裏切ることは出来ねえ!!」

 

 2人ともクラスメイトから騎馬に誘われていたらしく、B組の騎馬から離れることを誠心誠意謝罪していた。

 

「いいよ、気にしないで行っといで。王子様のところに」

 

「いやいやいや、そういうのじゃないから!確かに入試の時のはカッコよかったし、尊敬してるけど、そういうのじゃないってば」

 

「あれ?思った以上に余裕のある返しされた」

 

「一佳がA組の緑谷の特訓に付き合うついでで、不死川に特訓つけてもらってるのは切奈も知ってるはずノコ」

 

「いや、知ってるけどさ〜。そういうのあった方が面白いじゃん?」

 

「他のA組に引き抜かれるのは嫌だけど、不死川なら……なんか許せるよね」

 

 そんな、どこか女子らしい会話を交わす拳藤達。

 

「鉄哲がそういう奴だってのは分かってるしな。こっちはこっちでお前が抜けた分まで頑張るから、行ってこいよ」

 

「ただし、敵対しても恨みっこなしだぜ!」

 

「おうよ、泡瀬!ったりめえよ!!骨抜もサンキューな!」

 

「ああ……(はかりごと)のない、純粋な友情……。なんと素晴らしいのでしょう……!鉄哲さん、正々堂々勝負致しましょう」

 

「勿論だ!」

 

 そして、学生らしい青春な会話を交わす鉄哲達。いずれにせよ、周りが2人を快く送り出してくれていることに違いはなかった。

 

(拳藤、鉄哲。いい友達持ったじゃねェか)

 

 2人には、潔く友を送り出せる心を持った友がいる。そのことに、実弥は思わず微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 こうして、鉄哲と拳藤がメンバーに加入することが決定。これで、メンバーは計3人。残るは1人だ。

 

「強制的に4人ってのも大変だなあ……」

 

「あと1人、だね。どうする?」

 

「……残る選択肢と言ったら、一つしかねェんだよなァ」

 

 残る1人を探す為に行動している実弥に、ズンズンと歩みを進めていく少女の姿がある。

 

「ふふふ……良いですね、目立ちますね……!私と組みましょう、1位の人!!!」

 

「「うわっ!?誰!?」」

 

(ちけ)ェ」

 

 突然目の前に現れ、額と額がぶつかるレベルで顔を近づけてきた、ドレッドヘアーのようにまとまったピンク色の髪とスコープのような模様が刻まれたゴーグルが特徴的な少女。

 急に現れた彼女に驚く鉄哲と拳藤とは反対に、実弥は至極冷静に一言だけ吐き捨てた。

 

「私、サポート科の発目明と申します!貴方のことは知りませんが、立場を利用させてください!」

 

 発目は、名を名乗ると再び実弥に詰め寄って、マシンガントークさながらの勢いで話し始める。

 

「貴方と組むと、必然的に注目度がNo.1になるじゃないですか?現に貴方、観客の方々に滅茶苦茶注目されてますし!それでですね、私のベイビーも目立つ訳です!!そうすれば、大企業の目にそれが入る可能性が高くなる!勿論、貴方方にもメリットはあると思うんです!」

 

 圧倒されながらも、鉄哲と拳藤はいくつも疑問符を浮かべる。そして、同時に首を傾げた。

 そんな2人を見た後に、今も話し続ける発目を見てため息を()くと、実弥は痛くない程度に軽くコツンと彼女の頭に拳を乗せる。

 

「……そこの2人にも分かるように、自分専用の用語を使わねェで話せェ」

 

「あっ、成る程。それは失礼しました!」

 

 実弥の行動で発目の勢いが止まり、謝罪をした後で彼女は改めて話をした。

 ぶっちゃけてしまえば、1位を勝ち取って滅茶苦茶目立っている実弥のチームに自作のサポートアイテムを活用してもらい、自分の発明品をサポートアイテムを開発する大企業の目に止まらせたいということらしい。

 

「あー……それで、不死川を利用したいってことね」

 

「はい!」

 

 拳藤の出した答えに、発目は悪びれもせずに答える。

 そんな彼女を見て、拳藤は肝の据わってる人だなあと思いながら、苦笑した。

 鉄哲は、男のロマン的なものを刺激されてか、発目の見せるサポートアイテムにじっと見入っているようだった。

 

「不死川君……でしたね。貴方が強制的に4人騎馬を組まなければならないことは聞いてました。今から、"個性"も性格も何もかもを知らない別の人を探すよりも、自分で言うのもなんですが……目的と貢献する為の手段がはっきりしている私と組んだ方がお得かと思います。……どうでしょうか!?」

 

 側で聞いていた拳藤は、そう言いながら実弥に詰め寄る発目の意見に納得していた。

 自分達を誘った理由として、信頼しているからだと実弥は言った。周りを見渡してみれば、その条件に当てはまるであろうA組のクラスメイト達は、ほとんどがチームを決定している。今からB組の他の生徒や普通科で唯一勝ち残った生徒を狙って交渉しにいくというのは……実弥が拳藤達を誘った理由に当てはまるには、はっきり言って厳しいだろう。

 反面、発目は自分の目的をはっきりと言った。それに、彼女の言う通り、貢献する手段も自作のサポートアイテムという確固たるものが存在している。

 

 そう考えると、発目の方が遥かに信頼に値するのは確か。

 

(……どうするんだろう、不死川)

 

 拳藤自身としては、実弥に従うのみで何も文句はない。実弥を見遣り、彼の発目に対する返事を待った。

 

 肝心の実弥は……発目を気に入っていた。強制的に4人騎馬を組まなければならないという条件や、周りに組めるメンツが少なくなりつつあることを抜きにして、彼女と組みたいと思った。

 

 その理由は二つある。

 

 一つは、やはり彼女が潔かったこと。実弥としては、下手に取り繕わられるよりも、こうして自分の目的をはっきりと言ってくれた方が嬉しかったりするし、人として付き合いやすかったりする。

 1位で滅茶苦茶目立つから利用させてください、なんて言われたら、ふざけるなと思う人間もいるかもしれない。だが、実弥はそこがはっきりと分かりさえすれば気にしなかった。結局、こっちもこっちでチームの一員として利用することになるから、満足のいくまで存分に利用してくれといった考え方をした。

 二つ目は、使える物は何でも使うという実弥の戦闘スタイルに合っていること。発目のサポートアイテムを徹底的に利用して騎馬戦に挑む。そのやり方が、実弥にとって偶然にも合致していたのだった。

 

 実弥が選んだ答えは言うまでもない。

 

「決まりだァ。来い、発目」

 

「!ありがとうございます!!」

 

 実弥の差し出した傷だらけの男らしい手を、満面の笑みで握り返す発目。

 実弥のチームが遂に集った瞬間だった。

 

「やや……!傷だらけで、硬い皮膚の手!貴方、剣とか刀の形状の物を長年使ってますね!?」

 

「……俺の手の分析はいいから、発目の自慢の発明品を見せてくれねェかァ」

 

「そうでした!まず、これがですね――」

 

 サポートアイテムの解説を一つ一つ行っていく発目と、それらを吟味していく実弥。彼らを見ながら、拳藤と鉄哲はこんなことを思った。

 

(凄えな、不死川……。発目の言う『ベイビー』ってのを最初からサポートアイテムだって見抜いてた……。俺には訳分かんなかったぞ)

 

(……発目、不死川との距離が近いなあ……)

 

 因みに、実弥が発目の言う「ベイビー」を自分の発明品だと最初から看破出来たのは、あまりにも言葉足らずな冨岡との会話に慣れて、会話の内容を読み取る力が常人以上に遥かに優れてしまっているからだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヘイ!起きろ、イレイザー!!!チーム決めが終わったみたいだぞ!』

 

『……中々面白い組が揃ったな』

 

 そう声を発する2人の眼下にあるフィールドには、計13チームもの騎馬が勢揃いした。

 

『さあ上げてけ、(とき)の声!血で血を洗う雄英の合戦が今……狼煙を上げる!準備はいいかなんて聞かねえぞ!!早速いくぜ、残虐バトルロイヤルカウントダウン!!!』

 

 この時を待っていた、と言わんばかりにテンションをぶち上げたプレゼントマイクがカウントダウンを開始する。

 その進行と同時に、実弥はメンバー一人一人に声をかけ、役割を確認していく。

 

3(スリー)!』

 

「鉄哲。お前は先頭で盾兼足場だ」

 

「おっしゃ、任せろ!」

 

 まずは、先頭の鉄哲。金属に変化させる肉体を用いての盾役とブレない足場を担う。

 鉢巻を頭に巻き、締めながらの実弥の指示に、彼はやる気満々な様子で白くギザギザした鋭い歯を見せつけるようにしてニカッと笑った。

 

2(ツー)!』

 

「拳藤は、右翼で牽制」

 

「オッケー、任せな!」

 

 次に、右翼の拳藤。"大拳"によって巨大化させた手を用いて牽制を行う。

 守りは任せといて、と頷きながら、頼もし気に笑った。

 

1(ワン)……!!』

 

「発目も、サポートアイテム利用して左翼から牽制」

 

「お任せください!」

 

 そして、左翼の発目。サポートアイテムを用いて牽制を行う。加えて、彼女のサポートアイテムを実弥自身も利用する。

 自分の発明品が目立つかつ、1位の人にガンガン使ってもらえる。そのことの喜びを全身で体現するように、彼女の装着するゴーグルがキラリと輝きを放ち、彼女自身もワクワクとして笑みを浮かべていた。

 

「スタート!!!」

 

 いよいよ、プレゼントマイクのカウントダウンを引き継ぐように、主審のミッドナイトから競技開始の合図が出された。

 

(奪えるもんなら奪ってみやがれ、1000万!!!)

 

 競技が開始されると同時に、騎手の実弥は、目を血走らせながら白い歯を見せつけて獰猛に笑った。自分から引き入れた以上はメンバーを勝ち上がらせるという責任感を胸に。

 

 第二種目、騎馬戦。下克上のサバイバルが今――1000万を奪って、トップに立つという数々の欲望の元に開幕した。




参考までに、障害物競走の順位と獲得ポイント数を載せておきます。大きな変化は、実弥さんが1位になっていることと拳藤さんと耳郎さんが同着でゴールしていることの二つですかね。他は、生徒達の順位が1つずつ下がっているくらいで大きな変化はありません。


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