疾きこと風の如く   作:白華虚

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申し訳ありません。騎馬戦は滅茶苦茶長くなりそうなので、前、中、後編の三つに分けます。
正直、三つに分けてるので進みは遅くなると思います。早く最終種目見たいという方には申し訳ないのですが……お付き合いいただけると嬉しいです。

2022/1/19
風壁・仇の風の呼称を無刀流から無手(むて)へと修正しました。
(提案に従って調べてみたところ、無手で「何も持たない手。何も着けない手。素手」と言った意味があるようです)
風圧で吹き飛んだ爆豪君に対しての相澤先生の言葉にあった「怒りで周りが見えていない」の部分をカットしました。読者様の指摘曰く、「怒ってはいなく、寧ろ平常運転」だそうです。
抗議する鉄哲君と拳藤さんに対する実弥さんの謝罪の後に、サポートアイテムについて考えている発目さんのセリフを追加しました。

2022/01/21
「爆豪相手の時に初使用にすべきだった」との指摘をいただき、風壁・仇の風の初使用時点を爆豪君相手に変更しました。葉隠チーム相手に使った技を参ノ型、晴嵐風樹に変更してます。
それに伴い、ねじれちゃんからのアドバイスの回想等々をそこに後回ししました。


第三十七話 騎馬戦(前編)

「この騎馬戦……実質、1000万の奪い合いだ!!」

 

「頂いちゃうよ、不死川君!!!」

 

 無数の騎馬が実弥の保有する1000万Pの鉢巻を奪い取らんとして、猪も驚きな勢いで迷いなく一直線に突き進んでくる。

 ……流石に騎馬戦という名が冠されただけはある。下剋上を果たさんとして、敵将の首を全身全霊で狙う何十人もの武将達が詰め寄る状況を彷彿とさせる光景が、目の前に広がっていた。

 いや、彼に最も馴染みのある例えをするなら……。自身に流れる極上の稀血に釣られ、飢えを露わに襲いくる鬼の群れ、だ。

 今まさに、単なる雄英体育祭の会場であったはずのスタジアムが戦場へと変貌した。

 

 迫り来る騎馬の先陣を切るのは……歯がそのまま剥き出しになった、骸骨のような強面な顔付きの少年、骨抜柔造。蔓のような髪の毛が特徴的な少女、塩崎茨。更に、逆立てた黒髪に格子模様のヘアバンドを巻きつけている少年、泡瀬洋雪。B組の3人で構成されたチーム。

 それと、砂藤と口田というA組の中でも体格の良い男子2人を引き連れた葉隠チーム。

 

 彼らに独り占めはさせまいと続々と迫り来るチームを見て、鉄哲はいよいよ始まったか、とやる気満々に笑う。そして、騎手の実弥に指示を仰いだ。

 

「群がってきてるぞ!どうする!?不死川!!」

 

 実弥は、拳と掌を打ち合わせながら獰猛に笑って、迷いも見せずに決断を下した。

 

「わざわざ、こっちから()()()()()になる必要はねェ!迎撃しつつ逃げるぞ!隙がありゃあ、容赦なく奪う!!!」

 

「おう、分かった!!!」

 

 確かに、自分から不利な状況に飛び込む必然性はない。実弥の指示に納得し、逃げの姿勢を取る一同だったが……実弥の目は逃さない。

 

 ――その目が、泡瀬チームの骨抜の奇妙な動きを捉えた。

 騎馬を組む為に後方を支える塩崎と組んでいたはずの手を、あろうことか離しているではないか。――騎手の泡瀬はというと、塩崎がその胴体に茨の髪の毛を巻き付けて持ち上げることで体が浮き、空中に留まっている状態である――

 その手の向かう先は……地面。その手で地面に触れようとしているのだろうか?

 

(地面に触れる……。それが''個性''発動のトリガーか!!!)

 

 彼の行動から、手で地面に触れることで''個性''を発動するのだと予測した実弥は、先手を打つ。獰猛な笑みを浮かべながら、手にする木刀を振り上げて叫んだ。

 

「鉄哲ゥ!!!踏ん張ってろォ!!!!!」

 

「ブレねェ足場は任せろぉぉぉ!!!!!」

 

 実弥に負けない声量で、鉄哲も熱さ全開に答え……その肉体を金属に変えた。

 

 

 

シィアアアアアアアア……!!!

 

 

 

 風が吹き荒び、砂塵や木の葉を巻き上げる音が会場にいる全員の耳に届く。

 観衆は、何が起こるのだろうかと興味津々に実弥に注目しているが、すぐ目の前で対峙する骨抜達はそれどころではない。

 

「……ッ!」

 

 木刀を構える実弥の威圧感に、何かがヤバいと本能的に感じ取った。地面に触れようとしていた骨抜も、周りの騎馬も風神さながらの威圧感を放つ実弥を見るや、動きを止めてしまう。

 刹那――

 

 

 

(かぜ)呼吸(こきゅう)()(かた)――木枯(こが)らし(おろし)

 

 

 

 実弥が木刀を振り下ろした。同時に、強く冷たい風が騎馬と騎馬の間を激しく吹き抜ける。風は、山から吹きおろしたが如く強く吹き荒れ、津波を彷彿とさせる勢いで迫り来る騎馬を一斉に襲った。

 

「っ!?」

 

「な、なんつー勢いの風だ!?」

 

「くぅっ……!!」

 

 たかが木刀を一振りしただけだというのに、襲いくる風はオールマイトの放つ、凄まじい風圧を彷彿とさせる勢いだった。

 "柔化"――触れたものを柔らかくする"個性"。再び触れると、解除されて元の固さに戻る――を発動させかけていた骨抜だったが、即座に中断。踏ん張りをきかせた上で腕を交差させ、身を固めることでなんとか体勢が崩れるのを防いだ。塩崎も、髪を巻きつけた泡瀬を決して離すまいとして踏ん張った。

 実弥の放った一撃は、周りに対して十分牽制の一撃となり得た。

 

(不死川の奴……!俺が地面に触れようとしているのを見て、"個性"を予測した……?)

 

 B組の推薦入学者の1人なだけはあって、骨抜は実弥がこの行動に至った経緯を看破する。再び騎馬を組み、決断を下した。

 

「下手に攻めると、こっちが逆に体勢を崩される。時間はまだあるしな……ここは一旦退こう。獲りたきゃ、虚を突くしかない」

 

「流石は骨抜。自棄になって突っ込みたくなるであろうところを……!そうだな、ここは退こう」

 

 クラスメイトの中でも実績故に信頼されているのだろう。骨抜の提案に従い、泡瀬チームは大人しく撤退していく。

 だが、先頭に立った彼らが撤退したのを見て、周りも一斉に撤退……なんて都合の良いことがある訳もない。

 

「ふっふっふ……ちょっとだけ本気出しちゃったぞ!これなら、流石の不死川君も防ぎようないでしょ!さあ、()っちゃうぞー!!!」

 

 今もなお、泡瀬チームと共に先陣を切っていた葉隠チームが突っ込んできている。

 そして、騎手である肝心の葉隠は、上の衣服を全て脱ぎ捨てている程の本気の出しっぷりだ。

 なんとなく、彼女が意気込んでドヤ顔でシャドーボクシングをしているであろうことが実弥には想像出来た。

 彼女の"個性"は、"透明化"。文字通りに姿が透明人間である。当然ながら、彼女の肉体を視認することは出来ない。腕のリーチを見切れない。確かに防ぎようがないだろう。

 近づかれれば獲られる。それなら――

 

「近寄らせなきゃ良い話だァ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(かぜ)呼吸(こきゅう)(さん)(かた)――晴嵐風樹(せいらんふうじゅ)

 

 

 

「きゃあっ!?」

 

「うおっ!?竜巻!?」

 

 旋風の渦が逆巻いた。渦は、実弥達を守るようにその周囲に巻き起こる。勢いのままに特攻せんとしていた葉隠達であったが、騎馬である砂藤と口田が咄嗟に踏み留まったことで事なきを得た。

 

「……葉隠の肌に傷をつける訳にはいかねェもんなァ。……賢明な判断だ」

 

 笑みを浮かべて挑発するように言い残すと、大量の騎馬に囲まれる現状から抜け出す為に実弥達は逃走を図る。

 彼らの背中を悔しげに見つめながら、葉隠は先頭である砂藤の頭をポカポカと叩いた。

 

「ぐぬぬぬ……!ズルいぞ、不死川君!……ねえねえ、砂藤君!あの竜巻なんとかしてよっ!」

 

「いてててて!無茶言うなって……!竜巻を何とか出来る程の力、俺にはねえよ……」

 

「うぐっ……。こ、口田君!何とか出来ない!?」

 

「……首を横に振ってんな。無理だとよ」

 

「く、悔しいぃぃぃ!」

 

 なんとかして実弥達に近づく方法はないかと騎馬の砂藤と口田に尋ねる葉隠だが……いくら体格が良い2人とは言えど、皮膚をやすやすと斬りつけるような威力のある竜巻の中を突っ切る方法がある訳もなく。握り拳を作った腕をぶんぶんと振りながら、悔しがるしかない。

 

 刹那、悔しがる葉隠の視界の端を黒い何かが通り過ぎた。

 

「っ!?」

 

「我らだけの持ち点だけで挑める程、不死川は甘くはないだろう。済まんが……貰っていくぞ」

 

「イタダキダゼ!」

 

「とっ、常闇君の黒影(ダークシャドウ)!?どうしよう、悔しがってる間に()られちゃったぁ!」

 

「おいおい、マジかよ!?取り返さねえと、俺ら脱落だ!」

 

「か、返してぇぇぇ!!!」

 

 黒い何か……。それは、常闇が付き従える影の使者、黒影(ダークシャドウ)。その爪が、葉隠が頭に巻き付けている鉢巻を掠め取った。そして、影故に伸縮自在である肉体で常闇の元へと舞い戻り、彼の手に葉隠チームの鉢巻を確実に手渡す。

 手にした鉢巻を首元に巻き付けつつ、主である常闇は声を発する。

 

「形成逆転の切り札……。必ずや手中に収める!進撃だ、緑谷!」

 

「うんっ!……麗日さん、耳郎さん!行くよ!」

 

「おっしゃあ!」

 

「こっちはいつでも準備万端!」

 

 周囲が硬直している状況を破り、実弥の元へと突き進んでくるのは緑谷のチーム。彼自身が前騎馬を務め、それに加えて麗日と耳郎で騎馬を組み、常闇が騎手を務めているようだった。

 

「常闇君、耳郎さん!」

 

「行け、黒影(ダークシャドウ)!」

 

「アイヨッ!」

 

「任せといて!」

 

 緑谷の声に応え、常闇が黒影(ダークシャドウ)を放ち、耳郎がコードをしなる鞭のように振るい抜く。

 

「黒い鴉みたいなやつと……鞭みてえなのがきてる!?あれ、耳の一部かよ!?」

 

「これが常闇と耳郎の''個性''……!」

 

(常闇……。中距離戦の攻撃速度は随一。しかも、黒影(ダークシャドウ)自体には特にダメージは入らねェ。んで、耳郎……。心音の衝撃波もさることながら、コードを操る速度と正確さは侮れねェ。中々厄介なチームを組みやがったな)

 

 迫る黒影(ダークシャドウ)とプラグを見て、目を見開いて驚く鉄哲。拳藤が巨大化した手をうちわのように振り払って風を起こし、迫る二つの脅威を牽制する中で、実弥は冷静に分析する。

 

 常闇の化身と言っても過言ではない黒影(ダークシャドウ)。攻撃、移動、防御のいずれにも優れており、それ自身には実弥の分析通りにダメージが入らない。とある弱点があるが、それさえ突かれなければ、殆どの物理攻撃を防ぐことが可能であり、影であるが故にその他の攻撃も基本的に防ぎ切れる。攻撃面でも射程距離が長い上に、攻撃速度が速く、簡単には捉えられない。

 

 常闇こそが中距離戦闘のプロだと言え、事実としてその分野では無類の強さを誇っている。攻撃面、防御面の両方を鑑みても、接近戦で無類の強さを誇る実弥相手には適した人材に違いないだろう。

 

 更に、耳郎の''イヤホンジャック''。基本的にプラグになった耳たぶを対象に挿すことで、自身の心音を爆音の衝撃波として放つ''個性''だ。

 

 実弥がその衝撃波を警戒する理由は一つ。彼女のプラグは人体にも突き挿すことが可能だからだ。いくら体の丈夫さに自信がある実弥とて、人間である以上は体の内部を鍛えることは出来ない。つまり、体の内部に浸透する攻撃の一つとして実弥に通用し得る数少ない手札になる。

 

 加え、彼女の耳たぶは左右それぞれで6mまで伸びるし、コード状の耳たぶをかなりの速度と精度で操れる。因みに、速度としては下心丸出しの行動をした峰田と上鳴が彼女の振るったコードを全く見切れずにプラグに挿され、一瞬で撃沈するという光景が日常茶飯事になるくらいのもの。

 常人が簡単に見切れないとなると、十分に厄介だ。強みを端的な言葉で表せば、正確さと不意打ち。距離を取りながら1000万を狙うには、適した人材だと見て間違いない。

 

(どっちも速い……!追い払う為に手を大きくするんじゃ駄目だ、いつか隙を突かれる!何しろ、あっちは緑谷いるし……!)

 

 2人の''個性''を操る精密さと速度は、''個性''を発動して手を巨大化させるまでに多少の時間を要する拳藤にとって厄介極まりないようで、彼女は既にその性能を理解し、悔しげに唇を噛み締めていた。何より、彼らの厄介さに加えて、学習能力と観察力が群を抜くほどに高い緑谷もいる。単純に付け入る隙のある同じ手を繰り出していては、いずれ出し抜かれる。そう考えるのは難くない。

 そんな彼女を見兼ね、周囲の警戒を怠らない様子でいながらも実弥が言う。

 

「拳藤、無理に遠ざける必要はねェ。俺の姿を隠すだけで良い。何なら、相手が射出してくるのに合わせて、手ェデカくするだけでも良い。それだけでも手を退かす為に1段階工程を踏まなきゃならねェからな。相手に考えさせることを増やすのを意識しろォ」

 

「っ、分かった!」

 

 励ますような実弥の一言を受け、仕切り直しだ、と拳藤は笑みを浮かべる。常闇と耳郎の動きによく注目し、攻撃の初動に対して手を巨大化させ、いつでも迎え撃てるぞと牽制したり、巨大化した手による障壁で実弥の姿を覆い隠したりと牽制の仕方を変えた。

 そんな様子を見て、緑谷一行は一度攻撃を中止。包囲網から抜ける為に移動を続ける実弥達をぴったりとマークするような形で追跡する。そうしつつ、常闇が眉間に皺を寄せながら口を開いた。

 

「俺達を退けるのではなく、守りに徹するか」

 

「さっきみたいに扇いでくれてたら、ワンチャン付け入る隙があるんだけど……」

 

「拳藤さんが手を大きくするまでの時間を突ける……ってことだよね」

 

「うん」

 

 耳郎が困ったように呟く。緑谷が確認の意味を込めて尋ねると、彼女は頷いた。

 

 先程説明した通り、緑谷が数あるメンツの中から引き抜いた耳郎と常闇の2人は、距離を保ちながらも速い速度で攻撃を繰り出せる。その精密さと攻撃の速さで、実際に彼らの攻撃を遠ざけようとしていた拳藤を一時は手間取らせていた。それに、ダメージを喰らわない常闇の黒影(ダークシャドウ)で実弥の攻撃を凌ぎ、耳郎の正確さと不意打ちで知らぬ間に鉢巻を奪い取ることも不可能ではない。

 牽制を退けつつ、どうしても隙の出来る拳藤がいる右翼から実弥の猛攻を凌いで攻める。そんな作戦を立てていたのだが……。

 

(常闇君と耳郎さんの"個性"の利点を不死川君も大方把握してる。しかも……僕が観察を続けてることも警戒してるんだろうな。それは、拳藤さんも然りで……。だから、不死川君の助言に従ったんだろうし)

 

 流石、学級委員長として周りを見ているだけのことはあるし、特訓の中で緑谷出久という少年を知っているだけはある。

 思い通りにはいっていないけれど、それでこそ不死川君だ。

 緑谷は、そう思いながら微かに笑った。

 

「不死川君なら、あのおっきな手で姿を隠してる間に攻撃体勢を整えることも十分に可能だよね……」

 

「……確かに。それにさ、この体育祭に挑むに当たって、緑谷が急成長してるじゃん?何となく不死川も手札を隠し持ってるような気がするんだよね……」

 

「そうだな、麗日と耳郎の意見に賛同だ。……左翼に回り込むか?」

 

 3人の会話を耳にしながら、再び試合に意識を向けて緑谷が答える。

 

「……いや、そのまま拳藤さんのサイドから攻め続けよう。正直、サポート科の人がどんなサポートアイテムを持ってるか読めない。手の内が分からない方より、確実に分かる方を攻めた方がリスクは少ないと思う」

 

「……成る程、流石は我らの頭脳だ。ならば、右翼への攻撃を維持。このまま行くぞ」

 

 緑谷の意見を加味して下された方針に頷く一同。その時、緑谷チームの耳に断続的な爆発音が猛烈な勢いで届くと同時に、彼らの頭上を一つの影が通り過ぎた。

 

(爆発音……?)

 

「ま、まさか――」

 

 懸念を胸に顔を上げる。言うまでもなく、その懸念は当たっていた。

 

「傷顔ォォォォォ!!!!!待ちやがれェェェ!!!!!」

 

『おいおいおい!?爆豪、騎馬を離れて空中を突き進んでやがるぞ!独断専行か!?』

 

『……まあ、彼奴ならやりそうなことだな。ありかなしかの判断は主審に任せよう』

 

 爆発音の正体は、爆豪。こめかみに青筋を浮かべ、目を血走らせ、鋭く吊り上げる。己の中に溜まりに溜まった苛立ちを爆発させて突っ込んでくるその姿は、理性を失った獣のようだった。

 

「彼奴、騎馬戦やってねえぞ!?単騎で突っ込んできてやがる!チーム戦のはずなのにありなのか!?」

 

 轟いた爆豪の叫びを耳にして振り向いた実弥チームの一同。人間ミサイルさながらの速度と勢いで突っ込んでくるその姿に、鉄哲が抗議の声を上げるが……。

 

「テクニカルなのでありよ!騎手が地面に足を着きさえしなければ大丈夫!!」

 

 無情なことに、主審のミッドナイトの判断で爆豪の行動はありにされてしまった。

 

「マジかよっ!?こうなりゃ、何でもありじゃねえか!」

 

 その無情な判断に、前騎馬として足を動かしながらも鉄哲はヤケクソ気味に叫ぶ。

 

「何でもありなのは今に始まった話じゃない……だろっ!」

 

 そんな鉄哲に、諦めて迎え撃つしかないという意味を込めて声を掛けながら、空中を飛ぶ爆豪の身体を鷲掴みにするつもりで巨大化させた手を振るう拳藤だが――

 

「ンなデケェ的に当たるか!ナメんじゃねェぞ、サイドテール!」

 

(くっ……速い!)

 

 A組屈指の実力者且つ天才だと認められているのは伊達ではない。空中で爆破を起こした爆豪は、器用にもその身を翻して拳藤の振るった手を(かわ)した。

 空中で体勢を変えて攻撃を避けるなど、簡単出来る芸当ではない。強い体幹が必要になるし、爆破の威力の調整も欠かせない。そんな困難な芸当を、爆豪はいとも簡単にやってのけた。

 

(不死川と緑谷から色々と聞かされちゃいたけど、戦闘のセンスに関してはピカイチだな……)

 

「ごめん、不死川……!捕まえられなかった!」

 

「問題ねェ」

 

 爆豪の驚異的な戦闘のセンスに舌を巻きながらも、牽制を担う自分が彼を易々と鉢巻の元へ行かせてしまったことが悔しくて、歯を食いしばる。

 全く気にしていない様子で実弥は答え、迫り来る人間ミサイル……爆豪勝己を見据えた。

 

「余裕ぶってんじゃねェぞ、クソが!!」

 

 右腕を振りかぶり、右掌から火花を散らしながら爆豪が迫る。

 

「実際……テメェの退け方は幾つでもあるんだよ、爆発頭ァ」

 

 実弥は口角を上げて不敵に笑うと、懐から発射口の周囲がラッパのような形になった銃を取り出す。そして、爆豪に狙いを定めて、その引き金を引いた。

 

「ッ!?」

 

 すると、小さな弾が発射されると同時に、それが弾けて網に変化。爆豪に迫り、覆い被さらんとする。

 そして、迫る網を見た瞬間に爆豪も反応。自身の位置を横にずらすようにして爆破を放ち、網を避けた。

 自身をあの網で捕獲し、動きを封じるつもりだったのだろうと爆豪は推測する。だが、関係ない。最終的にその狙いは外れた。相手の手の内を退けたことに内心でほくそ笑んだ。

 

「……ハッ!道具を使わねェと俺1人退けられねえってか、雑魚が!!!」

 

 遂に、爆豪は実弥が頭に締めた1000万の鉢巻を間合いに捉えた。

 実弥のチームの全員が、「まずい、()られる!」と言いたげな顔をしているのを見て、勝ちを確信する。

 1000万を奪い取り、次は半分野郎――轟を。そして、クソデク――緑谷を叩き潰す。そのまま、自分が完膚なきまでの勝利を手にする。

 

 自分の野望を思い描き……爆豪は、違和感を覚えた。

 

(……ンだ、その面は……!何を笑ってやがんだ、こいつ……!)

 

 あと一歩で1000万を奪い取られる。一気に最下位へと叩き落とされる。そのはずなのに、実弥の顔からは獰猛な笑みが消えていない。焦りが全く表れていない。

 違和感を覚え、何かがヤバいと少しずつ感じつつある爆豪に対し、実弥は、体育祭に向けての特訓の中で聞いた波動の言葉を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 実弥とて体育祭に向けて、ただ単に緑谷の特訓に付き合っていた訳ではない。ビッグ3もその場にいた影響で、彼にとっても、これ以上ないくらいの特訓の場となっていたのだ。

 守りたいものを守り、救けたいものを救ける。その為に常に進化することを追い求める実弥は、とある日、波動に尋ねた。

 

「……え、衝撃波を放つときはどうしてるか?」

 

 当時、尋ねられた波動はどうしてそんなことを聞くのか不思議がった。「教えて!」と言いたげにじっと見つめてきた彼女の要望に応え、実弥は答えた。

 

「出来ることを増やしておきたいんです。自分の手の届く範囲を広げる為に」

 

 進化を追い求め続ける実弥の姿勢に、波動は感心したように微笑みながら答えた。

 曰く、全身の活力をエネルギーに変換させ、腕に纏わせるようなイメージで集めているとのこと。実際にエネルギーを充填させながら、身振り手振りで説明する波動は、両手を前方に突き出しながら説明を続けた。

 

「それでね、不死川君。ここからが大事なの!さっき、衝撃波を放つ時はどうするかって聞いてきたけど……私は、()()()()()()()()()()()()()()んだよ」

 

「……?」

 

 実弥は波動の言葉に疑問符を浮かべ、微かに首を傾げた。

 

 波動の''個性''に冠された名は、彼女の苗字と全く同じで……''波動''。彼女自身の活力をエネルギーにして、衝撃波を放つというもの。高威力の衝撃波を放つ場合はエネルギーの充填が必要、エネルギーの底が尽きると彼女自身が動けなくなる、現場での使用時は仲間との連携や周辺被害の考慮が必要と言った癖の強い''個性''だ。

 そんな''個性''を空中浮遊や衝撃波の出力制御という形で、彼女は見事に使いこなしているのだが、それはさておき。

 

 勿論、実弥も既に波動の''個性''に関して理解している。衝撃波を放つという認識は実弥の中にもあるものであり、事実として、彼女にはその衝撃波を放つ必殺技もある。故に、その認識は間違ってはいないはずなのだが……。

 

 そんなことを思い、考え込む実弥を見ると、波動はクスッと笑った。そして、実弥の肩をトントンと優しく叩いて顔を上げさせると、実際に腕に纏ったエネルギーを出力を最大限に絞った状態で衝撃波として解き放ってみせた。

 衝撃波を放ち終えると、「ふうっ」と一息()き、自分の特技を自慢する幼子のように無邪気な笑みを浮かべながら言った。

 

「確かに、不死川君の『衝撃波を放つ』って認識は間違ってないよ。でも……私ね、『よし、衝撃波を放つぞ!』って思ってる訳じゃないんだ。そうじゃなくて、『纏ったエネルギーをそのまま相手に押し付ける!』ってイメージで技を出してるの!」

 

「押し付ける……ですか」

 

「うん!」

 

 確かめるように自分の一言を呟いた実弥を見ると頷き、彼女は続けた。

 

 戦闘で考え過ぎることは遅れに繋がる。確かに、分析や被害の考慮など、考えることは大切。何も考えなくていい訳ではない。

 だが、考え過ぎたことによる隙に付け入られると、そこから一気に綻びが生じる。また、生じた綻びはどんどん広がり、最後には修正のしようがなくなる。

 だから、考えるべきことを極力減らし、より早く手を打ち、短い思考で最適解を掴み取ることが大切なのだと。

 微笑みを浮かべつつも真剣な眼差しで言った後、波動はニパッと笑みを浮かべて、こう言った。

 

「『放つ』って考えると、そこまでに色々プロセス踏まなきゃいけない感じがするけど……『押し付ける』だったらさ、溜めたエネルギーを出力とか制御した後で、そっくりそのままぶつければいい!……って感じがしない?」

 

 

 

 

 

 

 今こそ、彼女のアドバイスを現実にする時だ。違和感から生じたヤバさに、やはりここは一度退くべきだと判断した爆豪を逃すまいと獲物の肉に飢えた白狼さながらに獰猛な瞳で射抜き、言い放つ。

 

「――使えるもんは何でも使う。それが俺の戦闘スタイルだァ。苛立ちが災いして逸ったな、爆発頭。普段のテメェなら……この程度のこと、気付けたはずだぜェ」

 

「ンだと――ッ」

 

 爆豪がその言葉の意味を問いただすよりも前に彼を間合いに捉え、実弥は傷だらけの右腕を弓を引き絞るように後方へと引いた。

 

 予め、肺の中に取り込んでおいた大量の酸素を瞬時に身体中に巡らせる。そして、後方へと引いた腕に空気を集めていく。

 

 ――実弥は、常々考えることがあった。

 全集中の呼吸の数ある流派の一つ、風の呼吸を扱う自分が……()()()になって、相手を全力で制圧する気で体術を扱えば、どうなるのかと。

 刀一つ振るえば、それに従って烈風が、鎌鼬のような突風が巻き起こる。前世でも体術を扱う機会が全くなかった訳ではない。だが、体術を扱う相手は、鬼殺隊の隊士が相手。毎度のことながら加減をしていた為、刀を振るう時と同じような現象は起きなかった。

 

 対して、今世は、刀が無くして戦えないのでは話にならない。だから、実弥は"個性"を重視しがちなこの社会でこそ、体術はほぼ必須の技術だと思っている。

 刀を振るって突風を巻き起こす。その身体能力を体術を放つ際に十全に発揮したとしたら……?

 疑問の答えが今――明らかにならんとしていた。

 

 実弥の右腕に空気が集まりきる。溜めた空気が筋繊維一本一本、血管の一筋一筋にまで巡り、一つの空気の塊になって膨張する。それに従い、実弥の右腕の筋肉もミシィッ、という微かな音を立てながら、一回り近く膨れ上がる。

 実弥のやろうとしていることが何か。答えは、至極単純だ。

 

 膨れ上がった剛腕を、踏ん張りをきかせながら振り抜く。刀を振るう時と全く同じ要領で疾く、鋭く。そして、腕を突き出して大気を殴りつける瞬間に、腕に溜めた力を烈風の如く一息で爆発させ――

 

(溜めた力を、風圧を……そのまま、押し付けるッ!!!)

 

 

 

(かぜ)呼吸(こきゅう)無手(むて)――風壁(ふうへき)(あだ)(かぜ)ッ!!!

 

 

 

「ッ、ぐっ!?」

 

 無防備な爆豪の肉体に逆風が叩きつけられた。実弥の右腕が一回り近く膨れ上がった瞬間に後退を試みたが……間に合わなかった。逃れられなかった。

 風圧の塊が、壁が爆豪を突き飛ばす。ついでと言わんばかりに、周りにいた数々の騎馬をもその暴風に(さら)していく。

 

「ッ……クソがァァァァァ!!!」

 

 実弥の隠していた第二の手札を見抜けなかった。やはり、容易く退けられた。新たな苛立ちが胸中に湧き上がり、憤怒に満ちた叫びを轟かせながら爆豪は吹き飛んでいく。

 

「ばっ、爆豪ぉぉぉ!!!?」

 

「だから、勝手すんなって言ったのに!」

 

「言ってる場合じゃないって!ミッドナイト先生の発言、聞いてたでしょ!?爆豪が地面に落下したら、あたし達も脱落しちゃうよ!」

 

「そうだった、早く爆豪拾うぞ!瀬呂、頼む!」

 

「おっしゃ、瀬呂君に任せときな!!」

 

 騎手が地面に落下すれば、即脱落。そのルールが爆豪チームの騎馬である切島、芦戸、瀬呂の頭を(よぎ)る。

 絶対に勝ち残る。もう一度、全員で1000万を獲りに行く。そんな思いを胸に、慌てて爆豪を拾おうと彼らは動き出した。

 

「「「「「おおおおおっ!!!!!」」」」」

 

「見たか、今の!まるでオールマイトだぞ!?」

 

「ああ!ありゃ、将来有望だ!」

 

 焦る彼らと反対に、観衆や実況のプレゼントマイクはテンションが上がる。

 

『と、獲られたかと思ったじゃねえか!?ギリギリで退けて、予想を覆すとは……やるなぁ、不死川!このエンターテイナーめ!試合を滅茶苦茶盛り上げてくれるぜ!!それにしても風圧たァ、オールマイトを彷彿とさせる芸当だ!身体能力どうなってんだ!?』

 

『……爆豪が勝ちを確信して油断するまで引きつけたってだけだろう。何はともあれ、刀を振りゃ、その余波で風を起こせる不死川だ。拳で同じような芸当が出来ても不思議じゃないと俺は思う。威力こそオールマイトには及ばないが、牽制や妨害には十分過ぎる。あれなら、相手を怪我させることもない。倫理的な観点から言っても、合理的な一手だ』

 

『ナイス解説!』

 

 ピンチを覆す。それもまたヒーローに必要な素質で、それこそが民衆に希望を(もたら)す。自然と心を熱くさせる。人々をヒーローに熱狂させる。

 見守る観衆の心もそのように熱くなった。そういう意味では、プレゼントマイクの感じ方も間違ってはいないかもしれない。

 ……勿論、実弥の行動の理由の正解は相澤の推測だが。

 

「……まだ心臓バクバクしてんだけど!?驚かせんなよ、不死川!あんなオールマイトみたいなことが出来るなら、先に言っといてくれよな!!」

 

「……心臓に悪い……!獲られるかと思ったよ!!……まあ、問題ないって言ってたから、信じてたけどさ……」

 

(わり)ィ。……よく言うじゃねェか。『敵を欺くにはまず味方から』ってな」

 

「むむむ、当たりませんでしたか。発射に対して上手く反応されると厳しいですね……。弾を発射する速度を上げるべきでしょうか?それとも……。いや、その前にデータを取らせてくださいっ!不死川君の身体能力をきっかけにして、何か新しいベイビーが作り出せるかもしれません!」

 

「……そういうのは体育祭の後にしろォ。ったく、ブレねェ奴だァ」

 

 自分の発明品が通じなかったことに、まだまだ改善の余地があると考えて次のアイデアを既に練り始めては、データを取らせてほしいと強請(ねだ)るマイペースな発目を他所に、心底安心しつつも抗議の声を上げる鉄哲と拳藤に実弥は苦笑しながら謝罪し、呆れ混じりに発目を諭す。

 今でこそ怒りで周りが見えなくなっている爆豪だが、ああ見えて普段はクラスで1、2を争う程に頭がキレる男だ。下手に手の内をチラつかせると、すぐにそれを看破してしまう。少なくとも、実弥はそういう面は認めている。

 だからこそ……今の爆豪の隙に付け入り、油断し切ったところを確実に刈り取る必要があった。

 

 木刀を構えず、発目のサポートアイテムだけを構える。自分には木刀を使用せずに別の道具だけで退けると錯覚させ、それを外すのを前提にした上で、風壁・仇の風を打ち込む準備をサポートアイテムを構えたタイミングで整える。

 そして、油断し切ったところに叩き込む。

 そういう策を企てた。

 

 観衆達が沸き立つ中、それを放った本人と対峙する選手達は、ただ息を呑んだ。

 目の前に立ち塞がる壁の高さに。そして、いくら貫こうとも貫けぬ厚さに。

 

 A組の面々は、進化を遂げた実弥を見て驚愕しながらも、それでこそ不死川実弥だと感心する。

 一方、B組の面々は、初めて実弥の実力を目にした者が多く、圧倒されて硬直してしまっていた。

 噂程度に聞いてはいたが、ここまでなのか。そう考える彼らの頬を、冷や汗が伝った。

 

「と、取り敢えず、爆豪は退けたし、緑谷達は慎重に機会を(うかが)ってるし。そんでもって、よく分かんねえけどウチのクラスの奴らは硬直しちまってるし……。一安心ってところだな!」

 

 鉄哲がニカッと笑いながら言う。対し、実弥は、眉を(ひそ)め、真剣な面持ちで返す。

 

「いや、まだだ」

 

 その瞬間、実弥達の肌を凍てつく冷気が撫でた。冷たい空気を肌で敏感に感じ取りながら一同が振り返る。

 視線の先にあったのは、無数の氷柱。それが、大質量で地を這う大蛇の如く襲いくる。

 

「氷!?……轟か!」

 

「もう一丁踏ん張れェ、鉄哲!俺が叩っ斬る!!!」

 

「了解だぁっ!」

 

 

 

(かぜ)呼吸(こきゅう)()(かた)''(かい)''――爪々(そうそう)科戸風(しなとかぜ)''裂断(れつだん)''!!!

 

 

 

 実弥が放ったのは、爪々・科戸風の改式となる型。やることはシンプル。鋭利な獣の爪を思わせる四つの斬撃を縦に打ち下ろす弐ノ型を、更に速く乱れ打ちするだけ。

 氷の大蛇に何十匹もの風の獣が襲いかかり、その体を鋭利な爪であっという間に切り裂いた。氷が粉々に砕け散り、太陽の光を受けてキラキラと光を放ちながら舞う。

 

「……そう上手くいかねえか」

 

 木刀を扱って氷を叩き斬った。そのはずなのに、木刀には一切の傷が見られない。

 こいつは……とんでもない刀の使い手だ。

 改めてそう思いつつ、轟が実弥を睨みつける。

 

「ま……あの爆発頭が来りゃあ、お前も間違いなく来るよなァ。轟ィ」

 

「不死川……。始まって早々に悪いが……容赦なく()りにいくぞ」

 

 1000万に対する欲望に満ちているギラついた瞳。実弥を出し抜いて1000万を奪い取るというやる気に満ち溢れた瞳。それらが実弥チームの騎馬に集中する。

 それらを受けてなお……実弥は笑った。

 

「全員いい面構えだァ。……面白くなってきやがった。やれるもんならやってみろォ!!!」

 

 騎馬戦は、まだまだ始まったばかりだ。




騎馬戦のメンツ、及び合計ポイント数をご紹介しておきます。


【挿絵表示】


因みに、波動さんの衝撃波を放つ時のイメージの持ちようは完全に独自設定です。ガバガバかもしれませんが、ご容赦ください。

それと、お知らせです。今年、筆者は就活の年となりますので確実に更新ペースが落ちます。気長に待っていただけますと幸いです。
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