それはそうと、この作品のヒロインが決定しました!ヒロインは……アンケートでも投票数の最も多かったエリちゃんに決定いたしました!皆様、アンケートのご協力ありがとうございました。
ただし、一つ注意点がございます。作者の判断の結果、エリちゃんがヒロインであることに変わりはないんですが、エリちゃんは恋愛的な意味でのヒロインではなく、「血の繋がったそれ以上に、固く強い絆で結ばれた妹」としてのヒロインになります。(言わば、鬼滅の刃の禰豆子ちゃんと同じく強い絆で結ばれた妹ポジのヒロインです)実弥さんとエリちゃんの間には恋愛感情はありません。持つにしても、エリちゃんがもっと大きくなってからになるかなと思います。(それでも恋愛感情は持たない確率が高いです)
理由としては、やはり実弥さんがロリコン扱いされるのは作者としても嫌だからです。それに、そういう扱いをされると不死川実弥というキャラ自体に傷をつけることにもなりかねません。それを鑑みて、こういう選択肢を取りました。
実弥さんとエリちゃんの恋愛を期待していた方々、申し訳ありません。妹ポジでも大丈夫。これからも読みます!という方々は、これからも応援よろしくお願いします。
長くなりましたが、第四話をどうぞ!
その日、実弥は食材や先生達に頼まれた道具の買い出しに出かけていた。様々な店を回り、必要なものを探し求めた結果……辺りは、すっかり夕日に照らされて橙色に染まってしまっていた。
ふと腕時計に目を落としてみれば、針は既に夜の7時を回っている。
夏であるが故に日の入の時間が遅くなっている。それもあってか、時間の感覚が鈍っているようだった。
「もう7時かァ……。時間が過ぎるのは早ェな。鬼を狩ってた時程じゃねェが」
そんなことを呟きつつ、そよ風園で待ってくれているであろう弟妹や先生達の元に早いところ帰ってやろうと思い、足を踏みだそうとした瞬間――冷たい風が実弥の白髪と頬を撫でた。
「おいおい、これから雨かァ……?」
いつだったか定かではない。だが、実弥は本か何かで何の前振りも無しに冷たい風が吹き始めたら、これから雨が降り出す証拠だと見たことがあった。
大量の荷物がある中で雨に降られてはたまったものじゃない。ため息を
帰路を辿って走る中。夕焼けの空に向かって、鴉の群れが鳴き声を上げながら飛び立っているのを目にした。
「……何なんだ、この胸騒ぎは」
それを目にした実弥は、眉間に皺を寄せて呟く。
鴉が不吉の象徴だというのは言われがちな雑学だが、実弥は知っている。それは、あくまで根拠のない雑学の域を出ないものでしかないことを。
事実、日本では勝利の象徴である八咫烏が崇められているし、外国でも神の遣いだったり、太陽の象徴だとされている。
それに加えて、実弥自身も前世で鴉に手助けをしてもらった経験がある。鬼殺隊における連絡手段の要であった
分かっている。分かってはいるのだが……どうにも胸騒ぎが止まず、何かが実弥の中で警鐘を鳴らし続けていた。
「……っ、くそっ……!何でこんな胸騒ぎがしやがるんだァ……!鴉が不吉の象徴なんて証拠はねェってのに!」
(頼むから……何も起こらないでくれよ……!)
知らぬ間にこめかみから頬へと伝っていく冷や汗。それを拭うことさえ忘れ、そよ風園を目指して全速力で駆けた。
――今になって、実弥は思うことがある。この時の冷風や飛び立つ鴉の群れに、何の根拠もない胸騒ぎ。これらは全て、虫の知らせだったのではないか……と。
「先、生……?」
そよ風園に辿り着いた実弥は、絶句した。
いざ辿り着いてみれば、玄関のドアがものの見事に薙ぎ倒されてしまっていて、その側には……そよ風園の先生達が大量の血を流して項垂れているではないか。
2人いる先生のうち、女性の方は巨大な獣の爪で引き裂かれたかのような傷跡があり、脇腹辺りを大きく抉り取られてしまっていた。そして、男性の方は……四肢が凄惨に引きちぎられ、そこから流れる血で地面は真っ赤に染まっている。目は、既に死んだ魚のように虚ろで光も灯っていなかった。
女性の方は息も絶え絶えだが、肩が上下している。辛うじて生きているようだ。しかし……そう長くないだろう。実弥の体中から血の気が引き、力が抜けていく。
「先生ッ!くそっ、どうなってやがるんだァ!」
こんなことをしている場合ではない、とかぶりを振った実弥は、買い出しで買った物を詰め込んだ袋をその場にほっぽり出して先生の元へと駆け寄った。
そして、咄嗟に2人の体に触れてみる。大方察しはついていたが、男性の方は完全に体が冷え切っており、辛うじて生きている女性の方もみるみるうちに体温が下がりつつあった。
「さ、ねみ……君……?お、お帰り……。ごめんね……こんな、血だらけ、で……」
「気にしてねェ……!気にしてねェから、喋んな!先生が死んじまう!今、止血すっから……!」
前世、わざわざ自分の体に傷をつけて稀血を利用しながら、血を流して戦い抜いてきたのだ。だから、実弥には他の隊士以上に応急処置の心得があった。それがあるのは今世も同じこと。咄嗟に来ていた白いTシャツを脱ぎ捨てて引きちぎり、包帯代わりにして圧迫止血を行おうとしたが――
「私のことは、いいの……。それよりも、他の……子供……達を……。私は、もう長くない……から……」
そよ風園の先生は、かぶりを振って実弥の行動を制した。自分はもう駄目だと察した表情の彼女を見た実弥は、声を荒げる。
「いい訳ねェだろ!あんたまで死なせたくねェ!
「諦めるな」と先生に対して強く語りかけているようで、自分自身に戒めているようでもあった。そんな叫びを聞いた先生は微笑みを浮かべ、実弥の無造作な白髪を撫でた。
「実弥、君……。いいの、私のことは……。私1人の命を手に包み込める実弥君なら……ここの子供達、全員の命を……包み込めるわ……。お願い、実弥君……。子供達を、お願い……」
彼女の頬を涙が伝う。神に救いを求めるかのような、涙で潤んだ瞳を向けられた実弥は……何も言えなかった。
「…………分かった」
ただ先生の頼みを引き受けるしかない自分に対する怒りでこめかみに青筋を浮かべつつ、実弥は渋々とばかりに頷いた。
「……ありがとう……」
頼みを受け入れてくれた実弥を見た先生は、安心したように頷きつつ、状況を伝えた。
曰く、突如4人の強盗団がそよ風園を襲ってきたのだそうだ。彼らの目的は不明。
彼らは、''熊''に''ライオン''、''破裂''に''クラーケン''と言った''個性''の持ち主だった。男性の先生は、''クラーケン''の''個性''を持った
また、他の2人は、一足先に孤児院の中に足を踏み入れたようだった。
「……分かった。分かったぜ、先生……。俺に任せとけェ……。先生の代わりに、俺達の家族は守るからなァ」
涙を流しながら、かつての弟に母親似の笑顔だと言われていた穏やかで優しい笑みを浮かべ、既に息絶えた先生をそっと抱きしめる。自分が血だらけになろうが関係ない。今世の母親同然の彼女をただひたすらに抱きしめた。
(……もう先生達に孝行することすらも、出来ねェんだなァ)
息絶えたことで冷え切ってしまった肌に触れていると、そんなことが頭を
「……畜生ッ……!どうして、俺はいつもこうなんだ……!」
先生の亡骸をそっと寝かせてやった後、実弥は血が滲む程に拳を握りしめつつ、そう吐き捨ててそよ風園の中へと足を踏み入れる。
玄関前から孤児院の中へと走り去る彼の目から溢れた涙が零れ落ち、厚くドス黒い雲に覆われた空の中にそっと舞い散った……。
★
「俺の弟達に……妹達に……!何をしてやがんだァァァァァ!!!!!」
「ぐはあっ!?」
「な、何だ!?誰か――うがっ!?」
そよ風園の中に設けられた寝室の中に、激昂した獣の咆哮を彷彿とさせる実弥の叫びが轟く。
風を切りさく音を響かせ、猛然と迫る血眼の彼の狙いは、この寝室を凄惨な状態に仕立て上げた''破裂''の''個性''を持つ
人間の目では視認不可能な速度で、実弥は2人に襲いかかる。そして、片方の頬を右フックで殴り、もう片方の鳩尾を右脚で繰り出した後ろ回し蹴りで蹴りつけた。
全集中''常中''によって増した身体能力は、下手をすれば増強系の''個性''で増したそれを遥かに凌ぐ。それに、瞬間的な怪力を発揮出来る反復動作もある。
故に、彼の繰り出した打撃の威力は凄まじかった。打撃を喰らって吹き飛んだ2人が寝室の壁に激突すると同時に大砲から弾を発射した瞬間のような轟音が響き、孤児院の全体を揺らした。
壁に激突した直後、
「さね、み……お兄、ちゃん……」
「しっかりしろ、兄ちゃんが来てやったからな!兄ちゃんが何とかしてやるから……!頑張れ!」
その小さな体をそっと抱えてやり、必死に声をかけ続ける。それしか出来ない程に実弥の気は動転していた。
前世で何度も人の死を見ているだとか、そういう問題じゃない。何がどうであっても、目の前で人が命を落とす瞬間を見るのは精神をすり減らしてしまうものだ。
この短時間に、実弥は10数人もの人の死を経験してしまっている。そよ風園の先生達から始まり、約束を果たそうと寝室に辿り着いてみれば……そこにあったのは、鉄の匂いがツンと鼻を突き刺す、血だらけの地獄のような部屋だった。辿り着いた瞬間、察してしまった。
――自分は間に合わなかったのだと。
実弥がその様子に愕然としている間に、唯一生き残っていた2人の弟と妹に
その残酷な出来事が、実弥の目の前で起きた。
彼は、元より仲間や主君の死に対して涙を流せる、繊細で優しい男。この短時間の間に家族同然の人間が命の危機に瀕したり、命を落とす場面に何度も遭遇してしまえば、気を動転させるのも無理もない話だ。
「聞いて、お兄ちゃん……。私達ね、エリを……守ったよ……。お兄ちゃんが、いつも言ってた、もんね……。『弟や妹を守るのは兄ちゃんや姉ちゃんの責務だ』って……。だから、私達も、頑張ったよ……。えら、い……?」
自分の命を失うのを恐れず、一番年下のエリを守る為に立ち向かった。そんな行動を果たした弟や妹達。その行動を否定する道理などどこにもない。
「ああ……。ああ……頑張ったんだな……。兄ちゃんが一番頑張らなきゃならねェことを、代わりにやってくれたんだよな……。ごめんな……」
実弥は、ボロボロと涙を流しながら、徐々に冷えていく少女の頬にそっと手を添え、優しく頭を撫でてやる。涙を流す実弥を見た少女は微笑み、血を吐きながらも言葉を綴った。
「泣か、ないで……自分達でやったこと、なんだもん……。実弥お兄ちゃんのせいじゃ、ないよ……。エリは、きっと無事だよ……。守って、あげて……。私達が、必死で守った大切な、家族……。おね、がい……」
「…………任せとけェ。兄ちゃんに、全部任せとけェ。エリだけでも……守ってみせるからな。みんなの努力は無駄にしねェから……」
「うん、ありがと……お兄ちゃん……。大、好き……」
そこまで言うと、少女は自分の伝えたかったことを全て伝えて満足したと言わんばかりに目を閉じた。実弥の体に手を伸ばすかのように動いていた肩が、脱力してガクンと横たわった。
「……これで、いいか……?」
実弥は依然として涙を流し、微笑みながら冷え切った少女の体をそっと起こして抱きしめてやった。彼女が今よりも幼い頃から、ずっとこうしてやっていた。こうして手を伸ばしてきた時は、決まって抱きしめてほしいとねだる時だった。
聴こえるはずもないのに、その少女が「ありがとう」と泣きながらに言う声が聞こえた気がした。同時に、実弥の脳裏に彼女との出会った頃から今までの思い出が駆け巡る。
――少女の体をそっと寝かせ、隣に出来た血溜まりを見つめる。程なくして、部屋中を見渡す。
壁や床についたいくつもの血痕。転がった手足や弟妹達の亡骸。大切な彼らとの思い出が同時に実弥の脳裏を駆け巡った。
地獄のような惨状を目にし、自分が失ったものの大きさを知ってしまった。
「
少女や先生の血で染まった掌を見つめる実弥に浮かぶ表情は、嘲笑のそれ。約束一つ果たせない。大切なものは、次々と手から零れ落ちてガラス玉のように砕け散る。同じことを繰り返す自分に呆れ、笑うしかなかった。
実弥の中で何かが崩れ去っていく。ここまで築き上げてきた幸せが。心の平穏が。
そして、その壁が崩れ去った先に広がっていたのは――
「絶対に許さねェ……ッ!」
守るべきものを奪い尽くした
「てめえぇぇぇ……!さっき、俺達を殴りやがったのはてめえだな!?」
「大人の邪魔をしたことを後悔させてやる!」
自分達が実弥に抱えさせた憎しみの膨大さ。それを知る由もない
どうせこいつもただのガキだ。適当にキレて脅してりゃ、他の奴らと同じようにすぐに終わる、とたかを括って。
だが……実弥は訳が違った。
「後悔させてやるゥ?そいつァ――」
「――俺の台詞なんだよ、クソ
命を落とした少女の頭を一撫でし、立ち上がった実弥の血走った目が背後に立つ
「「ひいっ!?」」
子供のしていい表情じゃない。突如、自分達の独壇場と化しつつあった場に修羅が現れた。
獲物を屠る白銀の狼と化した実弥は、無様な虫のように這って逃げようとする2人の
「あがっ!?」
激情に駆られた実弥の怪力は、孤児院の床に巨大な亀裂を入れた。激しく脳を揺らす衝撃が
「立てやァ!!!!!」
目の前に寝そべる2人の髪を鷲掴みにし、無理矢理立たせる。怯えて子犬のように震えながら、「許してください」と何度も謝る彼らを見て、実弥の中に苛立ちが募った。
青筋を浮かべて目を見開き、涙を流しながら、実弥は次々と拳を叩き込んでいく。
「おい、ふざけてんじゃねェぞ!
「なのに……!なのに、テメェらは!そんな声に耳一つ貸さずに弟や妹を殺した!他人の痛みすら理解せずに、ヘラヘラと笑ってやがったァ!幼いこいつらの手足を引きちぎって、体を破裂させて……楽しかったかァ!?ああッ!?」
振るう拳全てに怒りを込める。弟や妹達、それに先生達が味わった苦痛を
「ゆっ、ゆるじでぐだざい……!」
もはや、
そんな彼らに対する実弥の選択肢は……たった一つ。
「許す訳あるかよォ。テメェら
憎しみによって濁り切った紫色の瞳を向け、風の呼吸独特の呼吸音を発する。烈風で木の葉が揺れ、砂が激しく巻き上げられるような音。床を蹴る為に腰を落とし、脚に空気を溜める彼の背後に佇むのは……憤怒を抱いた風神の幻影。
「い……嫌だ!嫌だぁぁぁぁ!!!」
殺気さえ発するその姿を見た
――実弥は、確かに優しい男だ。だが、彼は一度憎しみを向けた相手を最後まで憎む男。どんなことが起ころうと、どんな事情があろうと人々の幸せを奪う諸悪を許さず、殲滅せんとする男。前世の鬼に対してだってそうだった。竈門禰豆子という例外を除き、彼は鬼を絶対に許さなかった。
故に。実弥は、彼らに対する慈悲の心を全く持ち合わせていない。
「百万回死んで償え」
その姿を前に実弥が下した判決は――まさしく死の宣告だった。
実弥が地面を蹴り抜き、跳躍する。体を何度も回転させながら、竜巻そのものと化す。そして――目にも止まらぬ速さで繰り出した旋風脚で、
彼の蹴りに乗せて鎌鼬状の鋭い風が巻き起こり、
纏った風を引き裂くように現れた実弥が、衝撃を和らげながら軽やかに着地する。
そして。
多くの大切なものを失って生じた心の痛みと、親同然の先生達に孝行しようにもどうしようもない虚しさを乗せて、型の名を紡いだ。
風樹とは――風樹の嘆という言葉の略称。親孝行をしようと思った時には既に両親が死んでしまっていてどうしようもないという嘆きのこと。皮肉にも、今の実弥の現状にぴったりの言葉だ。
(虚しいなぁ、おい……)
「俺は……幸せに、普通に生きちゃいけねェのかよ……?なァ、教えてくれよ。神様……」
暫しの間、実弥は立ち尽くした。大切な妹と先生の血と、
実弥さんのヒロインは誰がいい?
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拳藤一佳
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八百万百
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蛙吹梅雨
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リューキュウ
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ミッドナイト
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壊理